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W-DESTINY_第07話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:54:33

バルトフェルドは後ろポケットに突っ込んだ拳銃の感触を確かめながら、ドアに向かって声を掛ける。

「どちらさんですかぁ?」
「こんばんわぁ〜♪殺しきた者ですが、開けてもらえますぅ?」
「は?」

警戒はしていたが、言ってる内容と小さい女の子の声に戸惑った。躊躇っていると、金属の曲がる音と共にドアが開き、大きな箱を背負った顔に無残な傷跡のある少女が立っていた。
少女の顔にも驚いたが、それより何故ドアが開いたのだろう?いや違う。どうやって開けたかは分かってる。ドアノブを掴んで開けただけだ。しかし、鍵は閉まっていたはず。

「え?何で固まってるの?」
「あぁ〜、その……どうやって開けたんだい?鍵が掛かってたろ?」
「ああ、コレ?……鍵で動かないから力づくで」

バルトフェルドは自分でもおかしな質問をしてると思うが、頭が上手く回らない。だが少女の方は気にした様子も無く、平然と答えると、右手を前に出す。それは手と言うには、あまりにも不自然な気がする。形は人間の掌に似てるが、野球のグローブのように大きく、先端は爪というよりナイフ…いや杭だ。
バルトフェルドは昔見た、火を吐く怪獣の手に似ていると思った。

「どうせだから、デモンストレーション♪」

そう言いながら、床に奇怪な手を添えると、指先がゆっくりと埋まって行く、そして終には手を握り拳を作っていた。少女が立ち上がると、手を添えていた部分がゴッソリと削れている。まるで、砂を掴むように石造りの床を削り取っていたのだ。
コイツは危険だ。このおかしな行動や言動を気にしてはいけない。速やかに排除しなければ……
戦士の頃の自分を呼び覚まし、拳銃を放つ。警告などはしない、襲った理由も聞かない、そうしなければ、こちらが殺られる。

「……拳銃だけ?アサルトライフルとかマシンガンは?」
「―な!」

信じられない光景に驚愕の声を上げる。彼女は拳銃の弾を奇怪な右手の掌で受け止めたのだった。

マユはバルトフェルドの射撃の腕前をトップクラスと評価する。狙いを定めて引き金を引いた時に、ほとんどズレが無い。だが、それゆえに銃口の位置から当たる位置を把握し、引き金を引くと同時に掌を動
かせば弾丸を受け止められるのだ。
無論、普通の人間は出来ないがマユは普通では無い、彼女を知る者全てに化け物と呼ばれる存在だった。

「だから、拳銃の弾じゃ無理だって」
「くっ!逃げ…―!」

バルトフェルドは全弾撃ちつくすと、奥にいるマリュー等に逃げるよう叫ぼうとしたが、鳩尾を殴られ息が詰まる。続いてローキック、パンチ、肘、膝蹴り……全ての攻撃が速くて上手い、何かの格闘技を習っていた者の攻撃だ。反撃は勿論、避けることも出来ない。すぐに膝を付き動けなくなった。
マユは左手で髪を掴むと、とてつもない力で頭を持ち上げ、無理矢理に立たせる。

「もう終わり?」
「………甘いな、お譲ちゃん」

そう呟くと、義手を外し仕込み銃を放とうとするが……

「―!」
「誰が甘いって?」

仕込み銃は弾丸を放つ前に異形の右手に掴まれ、粘土の様に握りつぶされていた。
あまりにも速い動き、そして異常な力だ。

「オジサン面白く無いよ、仕込み銃?そんな物でマユを殺せる訳無いじゃない。中途半端なんだよ。
 そんな不意打ちにしか使えない物……もう期待するだけ無駄みたい…」

つまらなそうに呟きながら異形の右手でバルトフェルドの首を掴む。床を削り取り、仕込み銃を握りつぶした手で……

「………ラ………ろ…………」
「……OK♪伝えとく、叶えないけどね♪」

バルトフェルド最後の声に残忍な笑いを返すと、首を握りつぶし、骨の砕ける音と肉の千切れる音をたてながら引きちぎると、支えを失った体が倒れ、左手に首から上だけが残った。

「おやすみ♪」

左手に持ったバルトフェルドの首に笑いかけると床に転がす。そして、背負っていた箱を降ろし、蓋を開けた。
鼻歌を歌いながら、異形の右手を外し箱の中に入れると、代わりに巨大な銃を取り出す。20世涼憧櫃鮖気散らす、回転式の重機関銃だ。
銃を取り付けながら、床に転がる首に話しかける。

「オジサンさぁ〜、万能は無能って言葉知ってる?普通の腕に仕込み銃なんか付けるから、腕としても銃としても、中途半端な物にしかならないのよ。その点マユは賢いからホラ♪」

巨大な銃を取り付け振り回す。

「これで〜♪ハンバ〜グ〜♪」

歌いながら再び箱を背負い、バルトフェルドの首を左手に持つと、家の奥に進む。
耳を澄まし、人の心臓音と息遣いを探る……この部屋の中から聞こえる。残念だが他に伏兵はいない。
ドアに向かい、左足を軸に回転し右の後ろ蹴りを放つ、相手にダメージを与える蹴り方でなく、吹き飛ばし、距離を取るための蹴り方でドアが吹き飛ぶ、そして、ドアが倒れる前に蹴った右足を戻さずに、そのまま前に踏み込む。

――この後が大事なんだよ――

この技を練習していた人が言っていた。体勢を崩した相手の距離に応じて攻撃の種類を選択する。近ければ左の突き、中ぐらいなら左の蹴り、遠ければ追い突き、瞬時に選択しなければならない。
だが、今回のマユは選択する必要は無い、最初から決めている。腰を捻り左手に持った物を投げる準備を整える。
ドアが倒れ向うにいる人影……マリュー・ラミアスだ。彼女は殺しても良い……に首を投げつけた。

同じ頃、連合のカーペンタリア基地攻略軍を迎撃に出たミネルバはMSを展開させ、連合のMS部隊と対峙していた。

「落ちろ!」

ルナマリアが気合と共にM1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を放ち、連合のMSウィンダムを落とす。
ミネルバのMS隊はシンのフォースインパルスを突出させた楔形陣形をとり、インパルスで撹乱した敵をガナーウィザードを装備したレイとルナマリアのザクが後方から、狙撃する態勢だ。
ただ、楔形陣形といっても3機のフォーメーションだから、インパルスが一機で敵の真っ只中に入り、少し離れた後方にザクファントムとザクウォーリアが横に並んでいるだけだ。
これは、飛行能力の無いザクはグゥルを使っていたが、連合の新型のウィンダムに比べ機動が遅く、ドッグファイトで不利を否めないためレイが考案した陣形だった。ウィンダムを遥かに上回る機動とそれを充分に生かせる技量を持つシンを信頼しての形だが、やはりシンの負担は大きく、最初に一機落としてからは、回避に専念せざるを得なかった。

「クソッ!」

シンは悪態を付きながら敵の攻撃を避け、シールドで受け止める。そのうち3機のウィンダム小隊がシンを諦め、ザクの方へ向かうのを目にすると、そいつらに向かってビームライフルを放ち、1機撃墜する。

「しまっ…!」

しかし、攻撃に気を取られた隙に後方を取られていた。一瞬焦るが、その敵をオルトロスのビーム光が焼き払う、レイの攻撃だ。そして、ザクに向かおうとして、シンに落とされた小隊の残りをルナが落とす。

『シン!無理をするな!』
「悪ィ、助かったよレイ!」

返事と同時に自分に気合を入れる。そして自分は無理して落とす必要は無いことに改めて気付く。
さっきのも狙わずに、ただ撃てば良かったのだ。そうすればシンに気を取られた隙にレイとルナが落としてくれる。自分たちはチームなのだ。現に敵に囲まれていても背中はレイが守ってくれている。

「ほら、また一機!…楽勝!」
「油断するなルナ!仮にもカーペンタリアを落としに来た艦隊だぞ!」

レイはルナに注意を促しながら、自分の言葉に違和感を覚えた。今、戦っているのは、自分で言った様にザフトの最大の地上基地であるカーペンタリア基地を攻略しにきた艦隊なのだ。
それにしては、脆すぎないかと思う。確かにこっちの作戦は上手く行ってるし、シンの動きも予想以上だ。そして、周りを見てみると、ミネルバ以外のMS部隊も圧倒的に優勢だった。

「ルナ…敵が弱すぎないか?」
「そうね、この分ならすぐに終わるわ」

ルナに質問するが、無警戒な返事が返ってくる。ルナはナチュラルを馬鹿にしたりはしないし、友達にもなれるだろう。しかし、今は戦闘中でナチュラルと戦っているのだ。すると、やはりコーディネーターらしく、自然に見下し警戒心に乏しくなる。これは彼女に限った事でなく、全てのコーディネーターが持つ習性だった。おそらく、この戦場で違和感を感じてるのは自分だけだろうと思う。唯一シンだけが普段なら同意してくれるだろうが、今のシンに全体を見回す余裕など無いだろう。
もう一度、敵軍を見渡す。やはり最初から、この戦力でカーペンタリアを落とせるとは到底思えない。
それに、敵の数もそうだが、何より動きが変だ。ザフト軍を落とそうとするより、まるで何かを待ってるような……

(まさか核を?)

先のプラント攻撃を思い出して、自分の想像に慌てて首を振る。ブルーコスモスは元々は自然環境保護団体だったのだ。地球を汚染する行動をするとは思えなかった。

(だったら何故?……ん?)
「何よ?悪趣味!」

連合の空母から合計5機の異形のMAが発進して来た。ルナの意見には激しく同意だが、黙って見過ごすつもりは無い。オルトロスの照準を合わせ、MAに放つ。

「ビームを跳ね返した?」
「これが答えか!」

ザフト軍の攻撃を嘲笑うかの様に連合のMAはビームを跳ね返しながら前進してきた。

「何だよ?コイツ!」

射撃武器の通じない連合の新型MAの登場にシンは動揺する。それまで、シンを囲んでいたウィンダムは後方に下がり、MAを盾にする形で攻撃してきた。
その様子を見ていたタリア・グラディスは陽電子砲の使用を決断し、命令を下す。

「タンホイザー機動!」
「ですが!」
「あのMAには並の攻撃は通用しないわ!」
「……わかりました!」

ミネルバはタンホイザーを放つため、艦首をMA部隊に向ける。

「タンホイザー撃てぇぇ!」

シンは陽電子砲の発射体勢を確認すると巻き込まれないように、間合いを空けて見守っていたが、信じられないことに、連合のMAは陽電子砲まで弾きながら、なお突進してきた。

「……なぁ!!!」
「そんな……陽電子砲も効かないなんて……」

タリアは目の前の光景を疑った。ミネルバ最強の武器陽電子砲まで弾く敵に、どのような攻撃が通用するのか、絶望的な予感に沈みそうになる。そんな彼女の面前で更なる衝撃が襲ってきた。

「は、速い!」

鈍重そうな外見からは想像も出来ない機動を発揮し、前足の爪の様な部分でインパルスの足を捕まえていた。インパルスのコクピットに敵MAのパイロットの通信が入る。勝ち誇るような、そして嘲笑うかのような声。

『このザムザザーがあればザフトのMSなど、ムシケラも同然!』
「くそっ!」
『このまま足をへし折ってやる!』

『このぉぉぉ!!!』
『無茶だルナマリア!』

敵に掴まれ、激しいスピードで振り回されながら、朦朧としかけるシンの耳にルナの怒りの声とレイの狼狽の声が届く、気を取り直し見てみると、ルナのザクウォーリアがビームトマホークを構え突進してきた。ザムザザーは、それを嘲笑うかのように脚部に付いたエネルギー砲の銃口を向ける。
このままではルナが死ぬ。シンはそれを確信した。

――また、失うのか?前の時の家族のように――

(嫌だ!失いたくない!ルナは俺を孤独から救ってくれた大切な人だ!)

シンの頭の中で何かが弾ける。

(マユ!)

その瞬間、激しい頭痛と共に体中が熱くなり、泣いている最愛の妹が脳裏に映る。何故そんなに泣いているのか気になる。だが今は他に成すべきことがあった。

「止めろぉぉぉ!!!」

自分以外の時間の流れが遅く感じる中、シンは落ち着いてシールドを外し、ルナのザク前に投げた。

「え!」

ルナが驚愕の声が上げる。ビームを撃たれ逃げれないと悟った時、シールドが飛んできてビームを防いでいたのだ。
シンはビームサーベルを抜きザムザザーに斬りつけるが弾かれる。ビームはダメだと悟ると迷わずインパルスの足を切断し、敵の拘束から逃れた。

「だったら!」

気合を入れると、左手のサーベルを捨て、代わりにフォールディングレイザーを抜きザムザザーに突き刺した。

ザムザザーの装甲にナイフが突き刺さっていく。

「弾くのはビームだけみたいだな……」
『何ぃ!…だが、その程度では!』
「誰が、これで終わらせると言った」

シンはナイフを引き抜き、その裂け目にビームライフルの銃身の先端を差し込む。

「中までバリアーが付いているのか?」
『まっ!』
「死ねよ」

ザムザザーが爆炎に包まれる。しかし、インパルスも敵は倒したがライフルを失っていた。
あまり、効率の良い攻撃では無いと悟る。だったら、効率の良い攻撃をするまでとミネルバに通信を送った。

「メイリン、聞こえるか?予備のレッグフライヤーとソードシルエットを出せ、出来るだろ?」
『え?出来るけど……』
「聞こえてるのなら速くしろ!!」
『は、はい!』

未だに頭痛と熱が続いている。その苦しみで、自分を制御出来ずに苛立ちをメイリンにぶつける。だが同時に、敵を倒すための手段を冷酷に計算する。
ビームが効かないなら、対艦刀で叩き切れば良いだけだ。残りの4機を見据えながら、高度を上げ、レッグフライヤーの交換とソードシルエットへの換装を終える。
重力に従い落下しながら目標を定め、対艦刀を振りかざす。

「貴様らぁぁ!!!消えろぉぉぉぉ!!!」

叫びながら、敵を切り伏せていく。しかし、その間もマユの幻影は脳裏に映ったままだ。

(マユ……何で、そんなに泣いているんだよ?)

「ん?……何なの?」

マユは誰かに見られている感じがし、辺りを見渡す。自分を見ている者は……

「貴女……いったい…」

怒りと恐怖に顔を歪ませ、こちらに銃を向けている女性がいた。持ってるのは拳銃だけ、他のメンバーは戦う気すらあるとは思えない様子だ。

「何よ、コレェェ!武器はそれだけ!?…殺し合う気あるの!?ツマンナァァイ!!!」

マユは面白くない仕事だとガッカリしていた。皆自分より弱いのだと一目で判った。だったら、早く済ませてしまおうと判断する。

「え〜と……マリュー・ラミアスさんだよね?」
「それが、どうしたのよ!」
「そのオジサンからの伝言♪…マリュー、ラクスを連れて逃げろ。彼女は今の時代に必要な人間だ」
「え?」
「マユに首を絞められながら、そう言ってたよ♪」
「…………」
「まあ、伝えはしたけど叶えてはあげない。だってマユが連れて行くから♪」
「貴女、何の目的で!?」
「ん?ただの仕事だよ。議長の命令でね♪」
「議長?……何故プラントが……」
「さあね……と言うわけで、ラクス・クライン出てきてよ」

横にしたテーブルの奥にいるラクスに声を掛ける。彼女は子供たちを庇うように盾になっていた。
それを見たマユは残忍な笑みを浮かべ、子供に声を掛ける。

「ねぇ〜みんなぁ〜ハンバーグは好きかなぁ〜?」
「…………」
「でぇ〜ハンバーグは、どうやって作るかと言うとぉ〜♪」
「ラクスさん!逃げなさい!」

マリューが拳銃を放ち、ラクスに脱出を促すが、マユは笑いながら銃弾をかわし、銃の右手をマリューに向けた。

「まずは、挽肉を用意しま〜す♪」

自分に浴びせられる殺気にマリューは身を竦ませ声も出せなくなった。避けられない死が迫る。

「マリューさん!」
「アンタは別の料理法があるから待ってて♪キラ・ヤマト」

マリューを守ろうとキラが拳銃を構えるが、マユはそれを見もせずに左手で腰のホルスターから拳銃を抜き弾丸を放つ。

「―っ!」
「キラ!」

弾丸は正確に銃を持つキラの指を撃ち、左手の2本の指と一緒に銃を落としていた。うずくまるキラにラクスが駆け寄ろうとするが、あまりにも大きな火薬音に足を竦ませる。

「クッキングタ〜イム♪」

狭い部屋に激しい銃音が鳴り響く、毎分1700発を撃ち出すガトリングガンで、弾切れまで……この日マユが用意した弾丸の数は2000……全てを1人の人間に向けて打ち尽くした。

「マ、マリューさん……」

呆然とラクスが呟く、マリューの姿は消えていた。彼女が先程までいた場所には、顔も手も足も無くなっていた。そこにあるのは……

「挽肉完成♪…ちょっと目が粗いけどね♪」

途端に子供たちの悲鳴が上がる。そしてアンモニア臭、誰かが漏らしたのだろうとラクスは呆然とする頭で考えていた。

「さてと、次の料理は……」

マユの声にラクスが振り向くと彼女は巨大な銃を外して、箱の中に容れると、代わりにチェーンソーが付いた腕を取り付けていた。

「キラ・ヤマト君でぇ〜す♪」

指を押さえ蹲るキラに、ゆっくりと近づく……

「ラクス!逃げるんだ!」
「自分が殺されそうなのに、彼女を優先するなんて、かぁ〜っこいい〜♪」
「キラ!」

マユはキラの前にしゃがみ込むと、左手でキラの左手を掴む……中指で手首の内側、親指で手の甲の人差し指と中指の間……すでに指を失っている上にツボを抑えられ、簡単に捻りあげられる。激痛と痺れが同時に襲い、悲鳴をあげると共に動けなくなる。

「っつあ!………」
「キラ!お願いです!止めて!わたくしが狙いなんでしょう!」
「そうなのよねぇ〜……最初はラクスを連れて帰れば、後は殺しても良いって話だったのに……キラも連れて来いって命令が変わっちゃって、一番、殺したかった人間なのに……」
「…それなら、これ以上キズ付けるのは…」
「でもぉ〜♪『殺すな』とは言われてるけどぉ〜『無傷で連れて来い』とは言われてなぁ〜い♪」
「え!」
「ぐあぁ!――!!!」

モーター音と共にチェーンソーが回転し、肩と肘の間、ちょうどマユの右腕が失われた位置と同じ場所を斬り始める。
キラは最初に悲鳴を上げるが、後は痛みが強すぎて声も出せずに痙攣していた。

「キラァ!!!」

ゆっくりと時間を掛けて腕を切ると、左手に持ったキラの腕でラクスを指し、恍惚とした笑顔を見せる。

「さてと、血止めしないと死んじゃうよ?」
「―!」

ラクスは慌てて立ち上がり、震える手でキラの腕を押さえる。だが血が止まらない、泣きそうになると何かが自分の顔に投げつけられた。

「そのベルトで縛りな」

マユに言われた通り、投げつけられたベルトで腕を縛る。だが、手が震えているため上手く行かない。

「不器用だねぇ〜」

何かで頭を軽く殴られた。それを見て再び涙が出そうになる。キラの腕だ。自分を優しく抱きしめてくれる腕……それで殴られた。

「後は、この痛み止めの薬を飲ませといて」

ラクスは涙を堪えて、マユに従う。今はそれしか出来なかった。

「さてと……後は残った子供たちを始末して…」
「―!や、止めて下さい!!!」
「…と、思ってたけど、面白く無いから止めた♪……どうしたの?大声出して♪」

からかうような笑み、残酷で無慈悲な少女……これからの自分とキラの運命に恐れがはしる。

「これから、わたくし達をどうするのですか?」

呼吸の落ち着いてきたキラを見守りながら尋ねる。

「マユに聞かれてもなぁ〜……『デュランダル議長』に会ってから聞けば?」
「……わかりました」

ラクスの中に暗い怨念が湧き上がる……バルトフェルドはプラントを信用してた様だが、やはり間違いだった。自分の方が正しいのだ……

(デュランダル議長……貴方は……)

マユの冷笑に気付かず、ラクスは憎しみの感情に囚われていた。

「それじゃあ、付いてきて♪」

マユは笑顔でキラを肩に担ぎ、家を出る。ラクスは子供たちに何も言えずに黙って付いて行くしか道は無かった。

ザムザザーを壊滅させたシンはシルエットをブラストに換装し、艦船に攻撃を切り替えていた。
ホバーで海面を疾走し、M2000Fケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲を放つ。

「化け物が!ミサイル全弾発射ぁ!」

ミサイルが雨の様に降り注ぐが、今のシンはそれがゆっくりと見えていた。タイミングを計りホバーを切ると機体が海中に沈む。そして、海中から海面で爆発するミサイルを眺めながら、MMI-M16XE2デリュージー超高初速レール砲を展開させ船底に向けて放っていく。

「シン……」
「凄い……」

レイとルナマリアはシンの戦いぶりに呆然としていた。異様なまでの強さ、信じられない思いだった。
やがて、インパルスが再び海面に現れ疾走するとインパルスの後を追うように水柱が立つ。海中にいる時に魚雷が放たれたのだ。
しかし海面に出ると、ケルベロスを撃ちながら、まるでダンスを踊ってる様な動きで回避する。魚雷の爆発が起こす水柱はインパルスの動きを彩ってるように見えた。
その動きはミネルバでも捉えられ、インパルスの動きにタリアを始め全員が見とれていた。

「何なの……あの子は……」
「艦長、敵が撤退して行きます!」

タリアはメイリンの声に我に返ると、艦隊指揮官に通信を開く。

「指令!ミネルバのタリア・グラディスです」
『おう!君の所のパイロットのおかげで大勝利だ!』
「ありがとうございます。ところで追撃はなさいますか?」
『あまり乗り気はせんが……君はどうかね?』
「私も同感です。無駄な戦闘は避けるべきかと」
『そうだな、こちらも引き上げの合図だ!』

指令の声と共に信号弾が放たれる。シンは合図を見ると攻撃を止め、息を付いた。

視界が、そして時間の感覚が元に戻ってくると同時に頭痛を熱が引いていく。

(何だったんだろう…あれは?)

頭の中で、ずっと泣いていたマユが今は見えない、マユが泣いているのを見るのは辛いが、見えなくなると、少し寂しい気がする。

『シン』
『凄いじゃないシン!』

友の声に現実に戻る。危うく失うと思った大切な仲間。その声が再び聞けることが嬉しかった。

「二人とも怪我は無いか?」
『お前に心配されるほど無茶はしてない』
『そうそう』

笑いながら答える二人に胸が熱くなる。

『シン、助けてくれて有難う、正直死ぬかと思ったわ』

そうだ、今回は失わずに済んだのだ。顔を見たくても、声を聞きたくても叶わない、あんな思いをしなくて良いのだ。

「ルナ……ありがとう……」
『へ?』
「生きててくれて……俺を1人にしないでくれて……本当に……」
『あぇ!……なななあにを!わわわわたしの方こそ』
『落ち着けルナマリア……シン、大丈夫だ。俺たちはお前と一緒にいる』
「うん……そうだな……」

高度を下げたレイのグゥルに一緒に乗せてもらう。そうすると何故か友人の温もりが感じられた。

(見られている感じが消えた……)

船上でマユは空を見上げる。先程から、ずっとあった感じが消えていた。何か懐かしくて暖かい感じ、それが兄のシンが覚醒している時間と全く同じだということにマユは、いや、誰も気付かない。
その感覚を振り払うように頭を振り、船内にいるラクスに声を掛ける。

「カーペンタリアに付いたら、ちゃんと治療してもらえると思うよ♪」

ラクスは黙って、それを聞き流す。そして、舳先に立った少女の目を見つめる。

(……間違い無い…あれはSEED……)

SEED、自分やキラが持つ力、発動すると感覚がシャープになり、普段以上の能力が発揮できる。
しかし、アレはそれほど長い時間は発動しないはずだった。しかし、この少女はずっと、この状態だ。
マルキオ導師の教えで、ある程度は知っているが、この少女の存在は、それに当て嵌まらなかった。

『そこの、船舶止まれ!今、この海上は封鎖されている!』

無線の声にラクスに喜色が浮かぶ。このままカーペンタリアへ行くのは避けたかった。

「ちっ!」

少女は無視して、自動操縦で突き進む。すると大きな衝撃が奔り、船が止まった。

『止まれって言ってるのが聞こえないのぉ?』

船を止めたのはMSの腕だった。海中から現れたMSはアンテナ上部から機銃を放ちマユを攻撃する。
それを間一髪で避け、マユは海中に飛び込んでいた。

「畜生!避けやがった。あの化け物娘!」

アウルはコクピット内でぼやく、出来るなら殺してしまいたい相手だった。だが気を取り直し、再び外部スピーカーで呼びかける。

『この船は連合軍が捕獲しまぁす』

ラクスは自分を救ってくれた相手が連合だというのに驚いたが、ザフトよりはマシだと思っていた。
連合の空母に連れてこられると、丁寧にキラを医務室へ運んでもらい、治療をして貰っている。キラは幸い命を取り留め、今は薬で眠っていた。
そしてラクスは、そのまま医務室でキラを見守っていた。すると医務室のドアがノックされ、ここの指揮官だという男が現れた。

「失礼する」
「?」
「いやぁ…まさか、あの高名なラクス・クライン殿とお会いできるとは……」
「フ、フラガ少佐!」

現れた男は仮面を被っていたが、その声と雰囲気は、かつて共に戦ったムウ・ラ・フラガのものだった。

「ん?フラガって……ああ!エンデュミオンの鷹か……そう言えば、貴女方と共に戦い戦死されたんでしたっけ?」
「え?」
「失礼しました。自分は地球連合軍第81独立機動群所属のネオ・ロアノーク大佐です」
「……………」
「あれ?……どうかしました?」
「……マリューさんが……」

ラクスはフラガの面影がある人物に出会い、気が緩んだ。そして、同時にマリューの最後を思い出す。
銃声で聞こえなかったが、最後に自分に向け何かを言った。きっと自分よりラクスの身を案じたのだろう。優しい人だった。彼女との生活が思い出となって蘇る。

(盟主殿……上手く行ったようですよ……)

ネオは涙ぐむラクスを見ながら、今回の作戦が上手く行ったことを確信していた。そして、同時に気分が悪くなるのを止められなかった。

深度300辰鮴行する連合所属の潜水艦は異様な来客に戸惑いを隠せなかった。
上層部から位置だけを指定され、工作員が乗り込んでくるから待機しろと命令されていたのだが……

「まさか、深度300辰泙如∩農りで来るとは……」
「おまけに、女の子ですよ……」

その来客がいる部屋をドアの向うから伺う。乗組員たちは、まるで怪物を閉じ込めているような気分だった。

マユはアビスの攻撃を受けた後、そのまま深度300辰鮴行する潜水艦に取り付き、休養を取っていた。シャワーは勿論、着替えもしていない。海水が固まって髪の毛と服がゴワゴワするが、そんなものは不快とも思わない。常に襲う頭痛と体の熱さ、それに比べれば不快なものなど、存在しなかった。

――マユ

優しい声がする。何だろう?……わかった。これは夢だ。

マユは夢を見ていた。優しい家族と過していた幸福な時間。大好きだった兄との思い出。
だが、その幸せな時間が突然引き裂かれる。蒼い翼を持ったMSの攻撃で……

痛い、痛いよ……お兄ちゃん、助けて……置いて行かないで……

朦朧とする意識の中で、兄を呼ぶ。体中が痛み、動けない。そして、泣いてる兄が連れて行かれる光景が見える。

――コイツ、まだ息がある!

軍人さん、助けて……痛いよ…

マユを発見した連合の軍人は気持ち悪そうに瀕死の少女を銃で突付くと、トラックに積み込んだ。
運ばれた病院で治療を受けるが、すぐに別の施設へ移される。

――随分としぶといコーディネータのガキだな……実験には持って来いだ

何?その注射?……注射は嫌い……―!

移された施設は連合の強化人間の研究施設だった。
マユはブーステッドマンの欠点を改修するエクステンデットを作り上げるためのモルモットになっていた。筋力強化、骨格の強化、神経の強化・・・毎日受ける投薬は激痛を伴い、思考を狂わせて行く。

――おい、別のサンプルは、コイツの半分の量で死んだらしいぜ

頭が痛い……体が熱いよ……注射はイヤ……助けて、お兄ちゃん…お兄ちゃん?お兄ちゃんって何?

すでに、致死量を遥かに上回る投薬を受けていた。それでもマユは死ななかった。それは奇跡か?それとも悪夢か?…確実に言えるのはマユの精神状態は壊れかけていた。

――なあ、コイツの戦闘力を調べてみないか?

……戦うの?何で?……え!注射しなくていいの?

ある日、戦闘実験と言われ、別の場所へ連れて行かれた。戦うのは嫌だったが、投薬をしなくて済むと言われ、それだけでも嬉しかった。
相手はマユより少し年上の少年、お互いナイフを持たされていた。少年はエクステンデットの実験体で普通の大人を遥かに上回る戦闘力を持っていたが、マユに比べ少年の動きは遅く、力も貧弱だった。
少年からナイフを奪い、当身で気を失わせる。しかし、殺すように命令される。殺さなければ、また投薬を受けると脅されると、泣きながら気を失った少年の胸をナイフで刺した。この日、マユは初めて人
を殺した。

――これが、その少女か

誰?…このオジサン

マユの目の前に1人の男が現れた。ロード・ジブリール、ブルーコスモスの盟主だった。

――君に選択肢を授けよう、このまま投薬の実験体でいるか、それとも……

注射はイヤ!…それだったら

マユは兵士…否、兵器になる運命を選んだ。繰り返される戦闘訓練、投薬は無くなっていたが、それでも、相変わらず頭痛と体の熱は苦しかった。だが、戦っている最中だけは、その苦しみを紛らわす事が
出来た。

――何だ?こんなガキを殺すだけで良いのか?

この人が今日の相手、今日殺す人…

マユは、ある日戦闘訓練で、狂気に満ちた男と戦う事になった。人を殺す事に快楽を覚えた男、マユは自分より、非力なその男に恐怖した。
だが、負ければ再び投薬の実験体に戻されると聞いていたマユは、その恐怖に打ち勝つための方法を模索し、一つの結論に辿り着く……自分がこの男以上の恐怖の存在に成れば良いと。

――助けてくれ!

嫌だよぉ〜♪アハ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハ♪

その男がするように、怯える相手を殺す。恐れられる事がマユの存在意義になっていく。
そうすると、恐怖に打ち勝てる以外に、頭痛と体の熱がマシになる気がしていた。マユの中で戦えば、注射を打たれなくて済む事実と一緒になって、加速度的に狂戦士への道へ進んでいった。

戦っていれば…殺しあっていれば…イヤな思いをしなくて済むんだ♪

戦いを楽しむ事で、苦しみから救われる。そう学習した。だが、完全には頭痛は消えない、体の熱も消えない……そんな時、あの少年に出会った。

「……ん?…夢か……」

マユは目を覚ますと、ゆっくりと体を起こす。

「……今日は来なかったな……あの人……」

マユは、ここ最近は毎日同じような夢を見ていた。
それはオーブで擦れ違っただけの少年、自分を恐れない者、自分より強い者…マユは彼の名前を知らないが少年の名はヒイロ・ユイといった、異世界から来た者。
夢の中でマユはヒイロと戦う、銃で、ナイフで、MSで、ありとあらゆる方法で戦い、何時もヒイロがマユを殺した所で目が覚める。それはマユが投薬を受け始めて以来、最も心地の良い目覚めだった。
そして、マユは自分より上の領域があることを知った。マユは笑いながら殺す人間が一番強いと思っていたが、それは違った。本当に強くて怖い人間は、表情を全く変えずに殺すのだと思った。

「……でも、どうすれば良いの?」

憧れの対象…彼の様になれば、この苦しみから逃れられるとマユは思っていた。だが、何をすれば彼のように成れるか分からなかった。今回の任務で自分の家族と腕を奪ったキラを殺せばと思っていたが、任務の内容が誘拐に変わってしまった。それに傷つけて分かったが、キラを殺しても同じことだろうと何と無く感じていた。

「……そう言えば、今日の夢……」

久しぶりに見る家族の夢、それを懐かしいとか取り戻したいとは思わない、そんな普通の思考は、もうとっくに失っていた。そして壊れた思考で考える。苦しみからの逃避、憧れ、家族、大好きだった兄…

「……そうか…お兄ちゃんだ!……マユの大好きなお兄ちゃんだ!」

そして思い出す。兄のシンが生きている事を、どこにいるかは分からない、だが確実に最愛の兄は生きているのだ。

「そうだよ!お兄ちゃんは生きてるんだ!……だったら、お兄ちゃんを殺せば良いんだ♪」

深海を進む潜水艦の中で、壊れた少女の哄笑が響き渡っていた。

ゼクスは、アスランとの会話を終え、自室に戻っていた。デュランダルの魂胆はアスランの教育だろうと確信していた。
デュランダルはアスラン・ザラを指導者として成長させるために、異世界の話を聞かせ、視野を広く持てる様にしたいのだ。そのため、自分に側近として仕えるように依頼してきたのだ。
最初は気乗りしなかったが、収穫があった。アスランがオーブで会ったというヒイロ・ユイ、間違い無く、自分の知ってる男だと確信する。

「オーブに潜伏していたか……」

やはり、ゼクスの予想通り、地上で情報を収集しているのだろう。問題は何時こちらの存在に気付くかだ。ヒイロに早く気付かせるには派手に目立つことだが、異世界の人間の自分が、あまり派手に動くのは賢明と思えない、さじ加減が難しいところだ。

「どうするかな……ん!」

ゼクスが悩んでいると警報が鳴り出す。侵入者の知らせだ。急いで部屋を飛び出し、警護対象であるアスランの元へ向かう。
そして、廊下の角を曲がったところで、軍服を着た男にぶつかり、体勢を崩す。

「スマン、急いでいる!」

一言だけ声を掛け、先に進もうとすると銃を突きつけられている事に気付いた。そして、男の顔を確認して、息を呑む。

「何故、貴様が……では今の警報は……」
「カトルに感謝するんだな。俺達が殺そうと言った中で、アイツだけが先に話を聞こうと言った」
「カトル?……では貴様以外も?」
「ああ、ヒイロ以外は4人揃っている。では、こちらから質問だ。何故、異世界に来てまで戦争に参加している?……この世界では俺たちの力は強すぎる。それが分からん男では無いだろう」
「……少し長くなるし、こちらからも聞きたいことがある。場所を変えようかトロワ・バートン」
「わかった……顔色が優れんな。一つだけ先に言っておこう、安心しろ、俺達4人以外は来ていない。もちろんリリーナ・ピースクラフトもな」

ゼクスは自分とヒイロ以外が、この世界に来ていることを知って、激しく動揺したが、最悪の予想が消えた事にホッと息を付いていた。