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W-DESTINY_第08話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:55:19

「本当にお世話になりました」
「かまわんよ、そんな事より君たちとは常識というものについて、一度話をしたいのだが?」

デュランダルはアスランとゼクスを伴い、カトルの病室を見舞った。訪れた時は麻酔が覚め、付き添ってるデュオと話をしていた。
結局カトルは内臓を傷付けており手術が必要だったのだ。それまで痛みを我慢していたカトルにデュランダルは、呆れた様な口調で話しかける。

「議長、彼らを基準に我々の世界の人間を計るのは止めて頂きたいのですが」
「アンタに言えた義理じゃあ無えよな」
「少なくとも貴様等よりはマシだと思ってる」
「私から見れば、あまり変わらんがね……それよりもこれを」

談笑を交わすと、デュランダルは彼等4人分の市民カードと現金等、プラントで生活するのに必要な物を差し出す。

「重ね重ねありがとうございます」
「……意味は分かってるね?」
「ああ、俺は最初、分からなかったけどな」
「約束します。僕達は、あくまで異世界の住人です。決してこの世界に深くは関りません」
「―!」

ようやくアスランは彼等への好条件の意味を理解した。彼等も生きる為には食事だけでなく他にも必要な物が出てくるだろう。それは結果的にこの世界との関りを広げる事に繋がりかねない。
さらに、それを手にするためには、最悪人を襲う可能性も出てくるのだ。それは彼等が望まなくても、生きるために仕方が無いと判断する事もあるだろう。
デュランダルとの差を痛感する。これは何も異世界から来た人間に限った事では無いのだ。移民問題等でも通用する事だ。最悪を予想して未然に防ぐ、それは政治の基本だった。

「ところで、課題の答えは出たのかい?」

考え込むアスランにデュオが問うと、周りが一斉にアスランを見る。アスランは小さく頷くと自分の答えを語りだした。

「これは当たり前の事ですが、リリーナ・ピースクラフトは決して神ではありません。
 ですから、彼女が彼等と共にこの世界へ来ても完全平和主義を成し遂げるのは不可能だと思います。
 何故なら、彼女はこの世界ではカリスマが皆無だからです」

デュオが驚いた顔をする。少なくとも彼の知る限り、リリーナほど人を引き付けた存在はいないはずだ。
アスランはデュオの様子に気付いて、少し補足を入れる。

「ここで言うカリスマとは魅力と少し違います。魅力のある人物は周囲の人間には慕われても、見知らぬ他人を動かすことは出来ません。歴史上の英雄が持つカリスマは個人的な魅力とは別のものだと考えます」

デュランダルもデュオの様子に気付いたのか、別の角度から話を振ってきた。

「なるほど、ではトレーズ・クシュリナーダはどうだね?」
「彼の方は、この世界でも通用するでしょう。何故なら彼の持つカリスマは『究極の軍人』とも言える能力にあるのですから。類まれな容姿と名門の出自に加え、軍人として必要な能力の全てが、当代最高の能力。それは彼の様になりたい者、彼の元で戦えば勝てると思う者などを引き付けます。
 もし、彼がザフトにいれば、俺は彼の下で働ける事に喜びを見出していたでしょう。武に生きる者にとっては強とさは最大の価値感です。そしてトレーズの強さは単純な戦闘能力に留まらない」
「そうだね、彼に比べ、リリーナ・ピースクラフトは、そういった能力を持っていない」
「はい、ですが人々は彼女を選んだ。それは彼女が歴史を動かす上で最も必要なカリスマの持ち主だったからです」
「ちょっとタンマ!お前さん、さっきは「カリスマが皆無」って言ったよな?」
「その前に、「この世界では」って付けただろ、トレーズのカリスマが人の『理想』だとすれば彼女のカリスマは人の『願望』なんだ。君たちの世界は戦乱が続き、多くの人々が平和を欲していた。そして、その望みを叶えてくれる存在がリリーナ・ピースクラフトだった。
 逆に言えば、あれほど圧倒的な能力で人を引き付ける『理想』のカリスマ、トレーズ・クシュリナーダより、明らかに能力の劣るリリーナ・ピースクラフトが持つ『願望』のカリスマ性の方が人々に支持されるんだ」
「……願望ね……」

リリーナに限らず、歴史を動かす者は人の願望を聞き届け、それを実現する能力さえあれば良いのだ。
逆に見れば歴史的英雄とは、その時代の人々の思いの代弁者と言える。
デュオは頷く、彼自身は貧困のどん底を経験しながら成長した人間だ。生きていく為には奇麗事を言ってられない。そんな彼にとって完全平和主義とは甘い理想論だった。
彼はリリーナを信じていたかと問われると首を傾げざるを得ない。
だからこそデュオはアスランの話に興味があった。

「ですから、何故リリーナ・ピースクラフトが完全平和主義という途方も無い、俺から言わせれば絵空事を出来たかは、結局人々がそれを望んだからだと思います。他にも彼女の両親が作った土台とか細かいことは幾つもありますが……」
「そうだね、私も同意見だよ」
「議長の言われた俺の気が楽になるという意味……もし俺の意見を人々が望んでるのなら、それは自然と成し遂げられるって事ですね」
「その通りだ。少しは楽になったかね?」
「はい、確かに緊張は残っていますが、やっていけそうです」

アスランは確かに気が楽になっていた。自分の考えは人々が望んでくれると信じていたし、もし失敗しても、それはそれで諦めも付く。そう思っているとデュオが手を上げて、もう一つの問題点クライン派の事をぶり返した。

「でも、ラクス本人は兎も角、その信者はアンタ等を信じてないよな」
「その通りさ、アスラン、その答えも見付けたかね?」
「はい、ラクスとリリーナ・ピースクラフトには決定的な違いがあります。この前、議長が言われたラクス教と言う表現、あれは、そのままの意味なんですね?」
「そうだ」
「は?」
「ラクス・クラインの存在は神に等しいものに成ってしまった」
「はあ!ちょっと待て!そんな大層な代物か?」
「大層な代物じゃ無いさ、ただ神は人間に何も伝えない、だから人間が勝手に想像するんだよ。神の考えとやらを」
「ああ!」
「そして、ラクスは人に問いかけはした。共に考えようと提案もした。だが、何一つ自分から答えを出してはいないんだ」

それは、教会で育てられた事のある不信神者のデュオにとって、分かりやすい例えだった。

「つまり、この世界のクライン派改めラクス教の連中ってのは、現状に不満を持った人間が「ラクスだったらこうしたのに」って、自分勝手な想像をしてる連中の集まりって事かよ?」
「そうなんだ。誰もラクスの本心を知らないのにな」

だが、デュオには彼等の気持ちが分かる気がした。彼の周りにもそういった人物はいた。それに自分自身もそれに近い感覚で戦った気がする。

「それだったら、俺も似たようなものかも知れねえな」
「え?…デュオ?」
「現状への不満って奴さ、最後の戦い…俺達はゼクスとトレーズさえ消えてくれれば、後はリリーナが上手くやってくれる。それが暗黙の了解だったけどさ、俺はリリーナの事はゼクスやトレーズよりかマシって程度にしか思ってなかった」
「そうだったんですか……」

カトルが驚いたように呟く、デュオはリリーナに好意的だったはずだ。少なくともヒイロは別として、4人の中で一番彼女に親しみを持っている気がしていたのだ。

「だが、君の場合はリリーナに自分の理想を押し付けてはいないのだろう?」
「そりゃあ、そうだけど……」
「こちらが、厄介なところは俺達の提案に不満を持つ者は、不満の内容が違ってもラクス・クラインを信じれば何とかなる。そう思っているところなんだよ」
「実はあの後、更に厄介な情報が入ってきてね」

そこで、デュランダルが告げた出来事はアスランにとって、いや、ここにいる全員にも衝撃的な出来事だった。ラクスとキラが行方不明の上にバルトフェルドとマリューの死、さらに犯人の確認は取れていないが黒幕としてデュランダルに容疑がかかっているという。

「いったい、誰が?」
「まさか、クライン派がラクスを動かすためとか?」
「それは無いだろう、彼等にとってラクスは神に等しいのだから、もし彼女が動かなければ、それが神の意思なのだからね」
「ここで、実は本当にデュランダル議長が黒幕でした。って事は?」

デュオが冗談めかして言うと、デュランダルは笑いながらアスランに向けて質問した。

「実はそうだと言ったらどうする?」
「え?」
「君だって知っているだろう?私は最初、ラクス・クラインにプラントへ戻るように要請した。だが君の登場で彼女は不要になったんだ。さらに私の言うことを聞かないクライン派の存在……充分に動機があると思うがね」
「……さらに付け加えれば、議長はラクスを快く思っていないですね?」
「その通りだ。彼女には失望させられたからね」
「やはり議長の仕業ではありません」
「……何故そう思う?」
「議長はラクスに期待しているからです」
「―!」
「議長がラクスを快く思わないのは、彼女に期待しているからです。もし本当に失望したのなら歯牙にも掛けません」
「……その通りだよアスラン、良く分かったね。私は今でも、彼女に君と共に立って欲しいと願ってる」
「最近はずっと一緒にいましたから、議長はラクスに対して本気で怒ってらっしゃる。そして、失望した人間に構うほど暇では無い人です」
「良く人を観察するようになった。随分と成長したね」
「議長のおかげですよ……それで、お願いがあります」
「何だね?」
「ラクスを叱ってやってくれませんか、彼女には慰めてくれる人間はいますが、叱ってやれる人間は、いません。俺はこれから地上へ向かいます。それに未熟ですから、自分の事で頭が一杯になるでしょう……だから」
「分かった…約束しよう」
「ありがとうございます」
「もっとも、彼女が宇宙に上がる保障は無いのだが?」
「いえ、彼女が無事でいるなら、必ず宇宙へ上がります」
「君がそういうのなら……カトル君、改めて頼むよ、彼女が無茶をする前にビルゴを破壊して欲しい。無論、こちらも例の残骸のありかを急いで調べよう」
「わかりました。僕たちも全力を尽くします」

「なあ、盛り上がってるとこ悪ィんだけど、そもそも何でラクス・クラインは隠遁なんかしたんだ?
 アイツが最初から責任取ってりゃ、これまでのゴタゴタは無かったろ?」
「それは……」

アスランは最初は口篭ったが全てを伝えた。キラ・ヤマトの存在、そして彼が傷付いたのを見捨てる事が出来なかった事

「なるほどね……」
「でも、たしかに同情はしますが、自分の責任を自覚しておりませんね。そこがリリーナさんとの違いでしょうか…」
「は?……ちょっと待てカトル!リリーナだってヒイロが同じ状態になったら、全部捨てないか?」
「何言ってるんですか?そんな事ありませんよ。現にサンクキングダムにいた頃も公務を優先して、ヒイロとは殆ど会っていませんでしたよ」
「マジかよ!……なあ、俺ずっと疑問に思ってたんだけどさ、俺とお前らのリリーナのイメージが随分と違う気がしねえか?……」
「それは僕も思っていました。デュオはリリーナさんに馴れ馴れしいというか……」
「私も興味あるな」
「俺も」
「私も是非聞きたいものだが、君はリリーナ・ピースクラフトをあまり認めていない様だが?」
「認めていない訳じゃ無えけど……」
「そう言えばデュオは僕より先にリリーナさんに会っているんですよね?」
「あ!……それだ」

デュオはポンと手を叩くとリリーナと最初に会った出来事を話だした。その内容はアスランの想像していた、完全平和主義という偉業を成し遂げた聖女のイメージを粉砕するものだった。

「……それ、本当ですか?」
「本当だって!俺、助けたはずなのに銃向けられたんだぜ」
「……意外だったな……ゼクス?」
「おまけに潜入を誤魔化すため、学生に扮していた時はストーカー並のしつこさでヒイロ追っかけてたな、突然現れた時はビックリしたぜ……考えてみれば、どうやって調べたんだろうな」

デュオが納得し、沈んでるゼクスをデュランダルが慰めているとアスランがポツリと呟いた。

「俺は分かる気がする」
「ん?」
「そもそも、アレだけの偉業を成す人物だ。情が深い人間なのは当然だろ」
「まあ、そうだな」
「ラクスとリリーナ・ピースクラフトの最大の差は、好きになった男の違いかも知れない……たしかにカトルの言う様にリリーナ・ピースクラフトは責任感が強いし公務を優先する。でもそれは、そうする事をヒイロ・ユイが望んでるからじゃないか?」
「言われてみれば、そうですね。少なくともヒイロは公務を放棄して、自分に会いに来る様な女性が好みとは思えません」
「でもキラはあの時、誰かが隣にいなければ本当に壊れていたかもしれない。そんな状態だったんだ」

たしかにカトルはリリーナが公務を放棄したり無責任な行動をとるイメージが湧かないが、それはリリーナがキラを好きになるイメージが湧かないのと同質の問題だろう。
もしキラがヒイロ同様、自分より公務を優先する人物が好きで、無責任な行動をするラクスを突き放す男だったら、ラクスの行動は随分と変わっている気がする。
そして、デュオがリリーナを大きく見ていないのは、リリーナの根の部分を知っているからで、前のアスランがラクスを見る目と同じなのだ。
リリーナもラクスも強い情を持った女性で、ただ二人は、その情が向かう方向が違ったのだ。

「……これはラクスよりキラ・ヤマトを叱った方が良いのかな?」
「そうですね……そして、もう一つ」
「ん?」
「ヒイロ・ユイは絶対に元の世界へ返すべきです」

そうでなければ、リリーナ・ピースクラフトがあまりにも憐れな気がする。彼女が何のために完全平和主義という途方も無い事をやってのけたか、アスランは分かった気がした。そして、それはゼクスが決意する際に出した答えと同じものでもあった。
アスランはゼクスに向き直り、その意思を告げる。

「貴方の望み、是非とも叶えるべきです。俺は貴方に随分と教えを請いました。そしてプラントを核の攻撃から守ってもいただきました。今度はこちらがお返ししたい。是非協力させて下さい」
「ザラ大使……」
「なあ、俺も手を貸そうか?」
「デュオ?」
「何かさ、手伝いてぇって思ったんだ。アンタのこと」
「……悪いが、それは出来ない」
「何でだよ?言っておくが、俺がいればかなりの戦力アップになるぜ」
「だからさ、君たちは強い。そして、その力はこの世界のものじゃ無いんだ。君たちの力は、この世界のバランスを壊しかねないんだ」
「それは……」
「ラクスは過去に、こう言ってる。何かを成すには、想いだけでも、力だけでもダメだ。両方が必要なんだと、確かにそれは正しいのかも知れない、逆に力で押さえつけた結果、より良い未来が手に入る場合もある。
 でも俺がやろうとしているのはリリーナ・ピースクラフトと同じなんだ。想いが受け入れられれば、それが力になる。君たちが彼女に力を貸したように……俺に必要な力は、この世界の未来を生きる人達が、自らの意思で貸してくれる力なんだ。
 もし、俺と同じ未来を望む人が、少なければ俺は負ける。だがそれで良いんだ。それが、この世界の人たちが望んだ未来なのだから……この戦いは人々に未来を選ばせる戦いなんだ。デュオ、君はこの世界の未来を共に生きるつもりなのか?」
「……悪かった。俺にも待ってる奴がいる」
「気持ちだけは貰っておく……ありがとう」

デュオに礼を言うとゼクスに向き直る。

「デュオにあんな事を言っておいて矛盾してるのは充分承知でお願いします。今後とも、貴方の考えたアフターコロニーの物語という御伽噺を俺に聞かせて下さい。貴方の話は俺に足りない物を教えてくれる」
「…………喜んでお聞かせしましょう。私の考えた拙い物語を」
「ありがとうございます」

それはアスランの決断だった。異世界の力を拒絶し、自分たちの力で未来を切り開くという。
そのアスランをデュランダルは笑顔で見つめていた。弟子の成長を喜ぶ師のような笑顔で、そして自分の役目を宣言する。

「では宇宙の事は、私が引き受けよう、ラクスの事もね。その代わり地上は君に任せるからね」
「議長……ありがとうございます。未熟者なりに努力しますので」
「ああ、期待しているよ」

デュランダルはアスランが、これほどの短期間で成長するとは思っていなかった。そして、その切欠を与えた人物に一度会いたいと願った。

「まったく……ヒイロ・ユイには感謝せんとな。君にこれだけの力を与えたのだから」
「そう言われると照れますが、俺も会いたいと思ってます。俺に切欠をくれたのは間違い無く、オーブで会った、ブレイク・ザ・ワールド事件で家を失った少年なんですから……それにしても偶然ですね。
 俺がオーブで会った少年と彼等の仲間が同じ名前なんですから」
「「「「え!!!!」」」」
「え?……どうかしました?」
「す…少し、待っててくれたまえ!」

(ちょっと待て!アスランが会ったヒイロって俺達の知ってるヒイロじゃ無かったのか?)
(僕もそう聞いてましたが?)
(いや、話の流れから私は確かにヒイロ・ユイだと確信したが?)
(その場に私もいたが……しかし言われてみれば確信はしていたが、確認はしていなかったはずだ)
(じゃあ、アスランだけが気付いていないって事か?)
(……そうなるな)
(だが、普通は気付くはずですが?)
(思うに例の事件の少年はアスランに大きな希望を与えた。それが嘘だとは認めたく無いのだろう)
(……本能的に真実に気付くのを拒絶していると?)
(おそらくそうだろう……ここは黙っておいた方が良かろう、今の彼にはショックが大きすぎる)
(議長がそう言われるなら僕は構いませんが……)
(でも、大丈夫なのかよ!アイツ……不安になってきた!)
(落ち着きたまえ、ゼクス、彼の事を頼んだぞ)
(わ、私がですか?)

密談を済ませるとゼクスは、キョトンとした顔でこちらを見ているアスランの前に進み出た。

「今後は貴方のご指導もする事になりました。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」

握手を交わしながら、この未来の大器の教育も悪くないと思い始めていた。

アスランの予想通り、ラクスは宇宙へ上がり、前大戦後、エターナルを始め、彼女等の使用した兵器を隠し、また新たな兵器を開発している。ファクトリーに到着していた。
出迎えたダコスタに挨拶すると、バルトフェルドの死を伝えた。

「……連絡は受けています……」
「申し訳ありません……わたくしは何の役にも立てずに……」
「いえ!ラクス様が責任を感じる必要はありません!悪いのは…」
「落ち着いて下さい……憎しみに囚われてはなりません」
「はい……それよりラクス様に見て頂きたいものが」
「急ぎでしょうか?」

そういうと横に付き添ったキラを見る。キラは傷が完治しておらず、痛みの為か汗を滲ませていた。

「僕のことは気にしないで」
「そんなわけには…」
「大丈夫です。時間がある時で構いませんから…ただ、少しでも早く見てください……とても凄いものですから」
「……わかりました」

そう答えるとラクスは、用意された私室へ移動するとキラをベッドに寝かせ、服を脱がせるとタオルで汗を拭きはじめた。

「痛みは…大丈夫ですか?」
「うん…ありがとう」
「……ごめんなさい……」
「ラクス?」
「デュランダル議長の狙いは、わたくしのはずなのに……キラにまで」
「そんなこと無いよ。僕の方こそラクスを守ってやれずに」
「違います。キラはわたくしを守ろうと……」
「でも、守れなかった……おまけに、こんな怪我をして、ラクスに迷惑を」
「わたくしは迷惑だなんて、思っていませんわ」
「……以前も苦労かけたし…―!」

話しかけるキラの口をラクスの唇がふさいでいた。

「わたくしは、キラが好きなんです……キラのためなら、どんな事でも出来ますわ」
「……ラクス」

キラはラクスの温もりを感じながら、バルトフェルドの言葉を言うべきか迷っていた。
ここに来て、改めて思ったラクスの力の大きさ、これならばデュランダルが危険視するのも、当然な気もするのだ。
だが、それもバルトフェルドに言わせれば、ラクスが何の努力もせずに手に入れた物なのだろう。

(ラクスは利用されている)

キラは、その言葉が正しいと思い始めていた。実際は努力せずに、これだけの力が手に入るはずが無いのだ。
だが現実に、これだけの力を持っているでは無いか、それが何故かと考えれば、ここに集まっている者は何らかの理由でラクスを利用しようとしていると思えば筋が通る。
だが、もしそれをラクスに言えば…

「何かお悩みですの?」
「え?……いや、さっきダコスタさんが言ってた凄いものって何かな…って」
「それでしたら、わたくしが確認してきましょうか?」
「……うん、お願い」
「では、行ってまいりますわ」
「……楽しみに待ってる」
「はい♪…少しだけ、お待ちくださいね」
「…………………………ラクス……」

ラクスが部屋から出て行くと、言いようのない不安が込み上げてきた。
もし、ラクスにバルトフェルドの言葉を言って、前のバルトフェルドの時の様に否定してきたら?
もし、それで怒ってラクスに嫌われたら?

「ごめんなさい……バルトフェルドさん……僕は……」

右腕を失い左手の指まで無くした、自分の身の回りの事さえ出来ない。そんな今の傷付いたキラはラクスがいない事など考えられなかった。

ラクスはダコスタに案内され、MSの大群を目にしていた。漆黒のボディに巨大な肩、頭部の特徴といい、今までのMSとは大きく異なるデザインのMSだった。

「実は、これ拾った物なんです」
「落ちていたのですか?」
「そうなんですが……我々は神の贈り物と言っています」
「?」
「このMS、凄い材質で出来てまして、硬度も凄い上に重量は10分の1くらいなんです」
「本当なのですか?」
「ええ、しかもこれ、無人機なんですよ」
「無人機…とは?」
「人が中に乗らずに動かせるらしいんです。まだ、稼動まで至っていませんが近いうちに」
「では、このMSなら人が死なずに済むんですか?」
「その通りです。今はプログラムを入力してる最中でが、キラさんの戦闘データを入れる予定ですので味方は勿論、敵の方も…ラクス様の望まれる戦いになるでしょう」
「まあ……」

ラクスは、そのMSを見上げる。無骨な外見に似合わず、作った者は心の優しい人間だろうと思った。

「ところで、このMSの名は?」
「『ビルゴ』と言うようです……乙女座の意味です」
「美しい名前ですわ」

ジッとビルゴを見上げる。このMSがあればキラが傷付かずに済む。そう考えるだけで嬉しく思える。
人が死なずに済む戦争。まさに理想では無いか?

――本気で言っているのか?――

ふと、誰かに声を掛けられた気がして、辺りを見渡す……だが誰もいなかった。
そして、もう一度ビルゴを見上げると、何とも言えない恐怖感が体を包み込む。

「それでは、後はお願いしますね」

恐怖を振り払うようにダコスタに声を掛けると、キラの元へ急いだ。今は一秒でも早くキラの肌で暖めてほしいと願っていた。

北欧の一都市……そこはヒイロ・ユイにとって、懐かしい場所。
地名も建物も重なるものは、全く無かったが、そこは確かにサンクキングダムが在った場所だった。
彼は、今その地に辿り着いていた。そこの安宿に腰を落ち着け、何をするでも無く彷徨っていた。
部屋から窓の外を眺める。懐かしい風景など何処にも無いが、何故かそうしていた。
今の彼を、ゼクスが見たら最悪の予想が実現した事に気付くだろう。ヒイロ・ユイは諦めたのだと。

「俺にはお似合いの末路だな」

自嘲気味に呟く、すでに情報の収集も行っていない、彼は自分の罪が許されないものだと自覚し続けていた。よって今回の事は自分にとって、最も重い罰、彼のいた世界とリリーナを心配しながら確かめる事も叶わない、不安に苦しむ毎日を送れという罰だと認識していた。

「お兄さん、ちょっと良いかい?」
「……何だ?」

部屋をノックして、宿屋の女主人が入ってくる。

「お兄さん、暇なんだろ?良かったら手伝ってくれないか?給金出すからさ」
「………宿代は毎日払ってる」
「そう怒らないでおくれよ。ほら、こないだのザラ親善大使の演説以来、この辺りも戦争の空気が漂ってきてね……この宿も男手が足りないんだよ」
「戦争が?」
「ああ、この辺はユーラシア連邦から独立したがる気風が強いからね。あの演説聞いて血の気の多い男共が、独立運動の準備始めてるんだ」
「……余所者の俺に言って良い話では無いな」
「そうなんだろうけどさ……アンタ信用出来そうだ。私はこんな商売やってるからね。これでも人見る目はあるんだよ」
「……手伝いの内容は?」
「やってくれるかい、簡単な力仕事だよ。野菜とかを運んで欲しいんだ」
「わかった」
「助かるよ。じゃあ、来ておくれ」

ヒイロは、このまま無為な日々を過すのだろうと思い定めた。自分に相応しい罰だと思いながらリリーナの顔を思い浮かべる。だが彼女は笑顔を見せてはくれなかった。

「かっこいいねぇ〜凄く恐そう」
「気に入ってくれたか?」
「うん♪ありがとう、ジブ♪」

ロード・ジブリールはマユを伴い、先日のMS工場へ来ていた。そこには、まだ完成していないカラミティが立っていた。

「ところで、聞きたい事があるのだが、先日の任務では、何故子供を1人も殺さなかった?」
「え?あれはツマラナそうだったから」
「何故そう思った?」
「ん〜〜……あれ?何でだろ?……弱そうだったから……でも、それなら何時もだし……あれぇ〜?」
「普段の君なら、ラクス・クラインの目の前で殺しているはずだ」
「そうなんだけど……惜しいことしたな……何でだろうね?」
「何時もと違った事はあったか?」
「ん〜…そう言えば誰かに見られている様な気がして、何だか温かかった」
「……時間は?」
「え?……えっとねぇ〜…気付いたのがラクスのいる部屋に入った時で、アビスが来る少し前に消えた」
「……そうか」

ジブリールは、その時間がインパルスのパイロット、つまりマユの兄が驚異的な力を発揮している時間と、ほぼ同じだということに気付いた。やはり、この兄妹は何らかの条件で精神的な繋がりにパスが通るらしいと仮説を立てる。

「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
「ねえねえ♪それより、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
「マユのお兄ちゃんを探して♪」
「―!……お兄ちゃん?」
「あのね、この前ラクスを誘拐した後、夢を見たんだ。それでマユのお兄ちゃんが生きている事を思い出したの」

マユを見ながら、どうやら自分の仮説は間違い無いらしいと実感した。

「……そうか、会いたいのかね?」
「うん♪」
「……だが、今の君を見れば悲しむかもしれんぞ?」
「え?…そんなの関係ないよ」
「何故だ?」
「だってね、お兄ちゃんが、どう思っていようと殺すのに関係ないでしょ?」
「兄を殺したいのかね?」
「うん♪……だから、お願い…」
「何故、兄を殺したいのだ?恨んでいるのか?」
「恨み?……何それ?……マユはただ、お兄ちゃんを殺したら、頭痛いのも体が熱いのも消えて、楽になれると思うんだ♪」
「何故、そう思うのだね?」
「夢のお告げ♪……ダメなの?」
「……分かった。探してみよう」
「やったぁ♪ ありがとうねジブ♪」

無邪気に、そして不気味に喜ぶマユを見ながら、前からの疑問を聞こうと決意する。

「マユ、君は私を殺したいとは思わんのか?」

前から感じていた疑問。マユは強化人間としては致命的な欠陥のある失敗作だ。その強靭な肉体を作るために与えられた薬物と、戦闘力を高める催眠学習の影響で、あらゆる洗脳やコントロールを受け付けない体になっているのだ。言わば何時こちらに牙を剥くか分からないモンスター、ジブリールはあえてその怪物を放し飼いで飼っているのだ。この危険を肌で感じてこそコーディネーターへ立ち向かえるのだと自分を戒めていた。

「へ?…だって面白く無いに決まってる」
「私は面白く無いか?」
「うん、だってジブって、弱いくせに図太いから、戦ってもすぐ死ぬだろうし、脅したって怯えも命乞いもしないに決まってる。マユが今まで見てきた人間の中で、殺しても面白く無い人間コンテストのダントツ一位だもん」
「……それは光栄だな」
「貶してるの!」

隣で怒るマユを無視して、再び思い悩む。おそらくインパルスのパイロットはファントムペインの3人でも手に負えないだろう、そうするとマユを使うしか手は無いが、彼女を兄と接触させるのは危険だと予感していた。ジブリールにしては、珍しく決断を躊躇っていた。

「シン、ここにいたか」
「ん?レイか……何だ?」

シンがカーペンタリア基地の兵舎の屋上に1人佇んでいるとレイが声を掛けてきた。

「ルナが探していたぞ」
「何か用かな?」
「……別に用事があるわけでは無いだろうが…」
「なら、後でいいや」

シンはそう呟くと空を見上げる。レイはその様子にルナマリアに同情して苦笑した。
そして、シンの考えている事が分かっているので、その事を話しかける。

「到着は明日か」
「……ああ」
「気になるか?」
「……この前、最後に会った時、俺あの人をぶん殴ったんだ」
「そんな事を気にする人では、あるまい」
「そうだろうけど……たださ…でかくなったよな」

シンにとって、アスラン・ザラは何時の間にか巨大な存在になっていた。以前は年上だから敬語は使っていたが、決して尊敬や崇拝の対象では無かったはずだ。
しかし、今や基地の誰もが到着を心待ちにし、明日は基地の人間が総出で出迎える事になっている。

「もう、俺なんかと話が出来る人じゃ無くなったんだよな」
「そんなことは無いさ、あの人はミネルバに乗るんだぞ」
「……でもさ…」
「お前はギルとも話せるだろ?」
「議長はレイの親父さんみたいな存在だろ?でもアスラン・ザラは…」
「そんなに構えると悲しむかもしれんぞ、案外ああいった存在の人は、心を許せる人間が少なくて寂しがり屋が多い」

レイの言葉を聞きながら、もしアスランと合ったらどんな顔で話しかければ良いか、それすら分からない自分が酷く矮小に感じ、自己嫌悪に陥りそうだった。