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W-DESTINY_第10話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:55:59

アイリーン・カナーバは起床すると、すぐに現在の非公式の部下、ハイネ・ヴェステンフルスの連絡を受けるのが日課になっていた。

「……そう、やっぱりダメか」
『申し訳ありません……何と言っても、使える人員が限られてますから……』
「それは分かってるわ……でも、何としてでも探さなくてはいけないの」
『それは承知しています。俺だって、あんな化け物を野放しにする気はありませんよ』
「ごめんなさいね……貴方だって頑張ってるのに」
『いえ、それでは引き続きビルゴの探索任務に戻ります』
「よろしくね」

カナーバは通信を切ると大きく溜息をついてから愚痴を口にする。

「何で、受けちゃったんだろ……こんな依頼」

評議会を辞任したカナーバは、現評議長ギルバート・デュランダルから非公認の依頼が来たときにイヤな予感はしていたが、実際に聞いてみると耳を疑う様な内容だった。
1つが異世界から来た無人MSの探索の指揮、しかも、それをラクス・クラインが入手したらしいとの情報を添えてだ。
異世界からの強力な兵器ということで公には出来ない上に、相手がクライン派という事で使える人員まで限られてくる。現在の部下はデュランダルの信任厚いハイネの他に十数名のみだった。
しかし聞いた以上は後戻りは出来ない、最初にそう言われたし、この任務がどれだけ重要か判っているつもりだ。

「まったく、あの娘ってば、なんて事やってくれるのよ!……まあ、あの娘が悪いって事でも無いんだろうけど」

だが、愚痴ぐらい言わなければやってられなかった。そしてカナーバはラクスを知っていたし、彼女を取り巻く状況も察していた。

「だからって、少しは先の事を考えなさいよ。ああ〜前の事、思い出してきた」

カナーバは胃を抑えて蹲る。以前もラクスは戦争を止めた後、行方をくらまし、後始末をする事になったカナーバは何とかユニウス条約まで漕ぎ着けたが、条約はプラント不利だと言われ市民に散々叩かれる事になった。

その結果カナーバは評議会を辞職し、現在にいたるが、自分としては、あれが限界だったと思ってるし後任のデュランダルも認めている。そもそもプラントの最初の目的は、理事国からの独立と言える。それが停戦条約を結んだのだから、相手に国家と認めさせたも同様なのだ。事実上の勝利である。
だが現実問題として、世間ではカナーバは失敗したがラクスだったら上手くやっていたと思われているのだ。

「私が悪いんじゃ無いわよ……多分」

そして、その思いが現在のクライン派、デュランダルの言うラクス教へと繋がっているのだった。最近独り言が増えてるが、愚痴を言いたくなるのも無理は無いと自分では思っていた。

「やってくれると言えば、あの子も良くやるわね」

そう言って庭を見下ろす。そこには石畳の上で、変わった舞を踊る1人の少年がいた。武術の稽古らしいが、あまり合理的な訓練には見えない。

「……これに関しては……役得かな」

デュランダルのもう1つの依頼、それが彼等4人の保護兼監視役である。
異世界から来たという少年達は、クライン派が手に入れたビルゴの破壊を目的としており、現在は同盟関係とも言える。
そして、女性として嬉しい事に異世界から来た4人の少年は頭に美を付けても異論の無い顔立ちだった。
そんな少年たちとの共同生活は、議員を辞職して以来、1人で暮らしてきた彼女にとっては、ささやかな楽しみになっていた。
そうして、庭にいる少年を見ているとドアがノックされる音がした。

「開いてるわよ」
「失礼します」

ドアを開けて入ってきたのは、異世界から来た少年のカトルとトロワだった。

「おはよう、体の方は大丈夫なの?」
「気を使って頂いて申し訳ありません。ですが平気です」
「見た目からは想像出来ないほど頑丈ね」

カナーバはカトルの体力に驚嘆していた。彼は先日まで重傷で入院していたのだ。

「そんな事より、今日の成果は?」
「トロワ!」

早速用件を聞き出すトロワをカトルが注意するが、カナーバは気にせずに結論を言う。

「残念ながら……」
「そうか、データーを見せてもらえるか」
「ええ、これよ」

そう言うと、先程ハイネから送られてきたデーターを見せる。その中にはクライン派の潜伏先として、怪しいと思われる場所と、そこを調べた記録が記載されていた。

「見つからないわ、情けないとは思うけど……」
「お前達の事情は理解している。ある意味クーデター軍が立てた臨時政権みたいな物だとな」
「……相変わらずキツイわね……」
「そんな!僕は凄いと思いますよ。僕達の常識から言わせれば、後2,3回は権力争いの内戦が起きても不思議じゃ無い状態なのに、これだけ安定してるんですから」

トロワの発言は的を獲ている。プラントが正式に独立したのは、先の大戦の後の事だし、ザフトが出来てからでも、大して年月が経過していないのだ。
そんな国家にマトモな治安維持が出来てる事の方がカトルに言わせれば奇跡に近いのだ。

「……カトル、わざと言ってる?…それが起こりそうで苦労してるんだけど?」
「いえ、そんな意味じゃ……」
「いいわよ別に、怒ってるわけじゃ無いわ」
「そんな事……本当は僕等が始末しなければならない問題なのにアイリーンさんに苦労をかけて…」
「違うわよカトル、現にアレを手に入れて隠蔽しているのは私達の世界の人間なのだから、それに貴方達が派手に動いたら、問題が大きくなるのは間違い無いわ。
 だから、今の関係…私達が捜索して、貴方たちが破壊する。これしか無いの」
「それは分かってますが…」
「カトル、あまりアイリーンを困らせるな。こちらが罪悪感を持てば彼女まで持ってしまう。俺達の敵はビルゴを隠蔽している奴らだ。そして互いに出来る事をする。それで良いだろう?」
「そう言ってくれる方が助かるわ。トロワ」
「気にするな。それより俺が気付いた点がある」

トロワは、自分たちのMSが作られた経緯を話し、それに照らし合わせてクライン派の隠蔽先を絞る事を提案し、情報を出し合う。

「なるほどね……だったらジャンク屋のルートから割り出してみるか……」
「その辺は任せる。今のところ俺たちに言える事は、他になさそうだ」
「デュオだったら、ジャンク屋に詳しいですから、戻ってきたら聞いてみましょう。この世界とは違うところもあるでしょうが…」
「そうね……明日はトロワが留守するのね?」
「ああ」
「その……」
「気にしないで、貴方たちの判断は妥当よ」

カナーバの家に4人が揃うことは無かった。何故なら偵察と称して必ず誰か1人はMSで外に出ているのだ。
だが、実際は彼等が拘束される事を警戒しての行動だった。もし残ってる3人をどうにかしようとしても残った1人が攻撃を加えてくる。そうなれば機体性能の差からザフトは大打撃を受けるのは間違い無かった。
彼等との関係は、あくまで同盟である。その巨大な力を自分の物にしようと欲すれば、必ずその力で反撃を喰らう。決して部下でもなければ同士でも無い。

「気を許して貰えないのは残念だけど、同時に安心でもあるわ」
「そう言って頂けると助かります」

それはカナーバの紛れも無い本心だった。これだけ警戒心が強ければ、迂闊に他の勢力と手を組む心配は無いと言うものだ。こちらはルールさえ守っていれば、共通の目的にその力を利用させて貰えるのだから。

「……でも、全てが終わったら一度で良いから、皆で食事を取りたいわね」
「そうですね。僕もそう思います」
「そう言ってもらえて光栄だわ。ところで、ゼクスからの連絡は?」
「残念ながら……どうやら最悪の予想が当たったみたいです」

アスランのカーペンタリア基地到着は世界中に放映されている。そして最初に降り立った時の映像には、アスランのすぐ後ろに控えるゼクスの姿が映っているのだ。もしヒイロが見ていたら黙っているはずが無かった。カトルは彼を思い心配そうに呟く。

「いったい、何処で何をしてるんですか……ヒイロ」