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W-DESTINY_第11話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:56:31

キラは両手両足を失ったフリーダムの中で涙を流していた。信じられない戦いだった。こちらは何発も攻撃を当ててるのに、相手には傷1つ付かないのだ。
ビルゴは機械のような動きで……事実機械なのだが……フリーダムの両手両足を破壊すると、興味を無くしたかのように、淡々と通り過ぎていった。キラはそれを黙って見ているしか無かった。

(……嫌な夢を見たな……)

キラは夜中に目を覚ますと夢の内容を思い出す。ラクスが手に入れたMSビルゴと自分が戦っている夢。
あんな夢を見た理由は分かっている。今日の実験でビルゴの特殊防御システム、プラネイトディフェンサーが起動したのだ。ただでさえ頑丈な装甲の上にPDを展開すると、あらゆる攻撃が効かなくなった。
それを見て狂喜する研究員を尻目に、キラは暗然たる気分になっていた。

(あれは戦いでは無い……単なる処刑だ)

キラは情事の後、一糸も纏わぬ姿で眠ったラクスを見つめる。彼女の意思1つで、あの処刑道具が戦場へ出ることになる。

(でも、ラクスも怯えていたな……)

PDを展開したビルゴが、あらゆる攻撃を防いでいる姿を見て、ラクスは確かに怯える表情をしていた。
それは先程までの情事の激しさからも、その事が伺える。恐怖しているのだ。

(……怖い思いをさせてゴメン……)

ヤキン・ドゥーエの戦いの後、プラントで手に入るはずの物を全て捨てて、彼女はキラの元へ来た。
精神の安定を欠いてた当事のキラは、そんな彼女に縋るようになり、半ば無理矢理に純潔を奪った。
それでもラクスはキラに尽くし、キラはラクスの肌に安らぎを感じながら精神の安定を取り戻した。
だから基本的に2人の情事は、キラの求めをラクスが受け止めるのが普通だった。
しかし、ここに来てからはラクスの方から求めてくる様になっていた。おそらく、あの時の恐怖が消えないのだろう。
ただ羞恥心が強いため、はっきりとは言わない。キラは腕が使えないため体をラクスに拭いてもらっているが、その時にキラの性感を刺激してくる。
そして、キラの反応を慰めるためと自分に言い訳してから、行為に移るのだ。おそらく義手の手配が遅れているのは、ラクスが急がせないからだろう。もしラクスが急がせれば、ここの連中は、すぐにでも用意してしまうはずだった。

(……そう考えると、可愛いんだけど、ちょっと怖い話だな……)

キラは尿意を催しトイレに向かった。トイレは部屋に付いてるし、今は全裸だから手が利かなくても、大丈夫だった。
排泄を終え、トイレの水を流した後、そのまま再び現状を考える。
キラはビルゴに嫌悪感を持っていた。そもそもビルゴ……乙女座というネーミングが信じられない。
あの姿と性能の何処をどう取ったら乙女になるのだろうかと思う。
そしてビルゴに自分の戦闘プログラムが組み込まれるという事がより一層気に入らない。

(……何でだろう?……)

その嫌悪感の理由を探る。ある意味クライン派の皆が言うとおり、理想的な兵器と言える。
人が死ぬのが嫌で、キラは戦場では相手を殺さない様に心掛けていた。しかし現実はキラが幾ら手加減しても、回りのパイロットは殺し合っているし、自分が戦闘不能にした敵が別の相手に討たれるのを見たこともある。
だがビルゴを使えば、それが防げるのだ。自分と同様に相手の戦闘能力だけを奪い、決して殺さない。
自分のしたい事を忠実に守ってくれる兵器。これの何処が不満なのか分からなかった。

「嫉妬してるのかな?」

思わず声に出して呟く。動けない自分に代わり、より忠実に戦える機械。そして同時にラクスにとって自分はどんな価値があるのか考える。
おそらく望めば何でも手に入る女性、それがラクスだ。そんな彼女にとって自分は何か?
恋人?……確かにそうだが、今の問題はラクスが何故自分を選んだかだ。そして思い浮かぶのは、あの男の言葉……

――知れば誰もが望むだろう、君のようになりたいと

(……結局、僕にはそれしか無いのか?)

最高のコーディネーター、それが自分の価値なのかと思うと気分が重くなる。そして、その能力が最も発揮できるのが戦場だった。
実際、その力を使ってラクスの元で戦った。ラクスにとってキラ・ヤマトとは彼女を守る兵器としての価値しか無いのではないか?
だから自分以上にラクスを確実に守れるであろうビルゴに嫉妬しているのか?

「………でも、何か違う気がする……」

ラクスはキラが起きた拍子に目が覚めてしまった。寝起きの頭でキラの温もりを求めて手を動かすがそこには愛しい人の感触が無かったため、慌てて身を起こす。

「―!……キラ?」

辺りを見渡すとトイレの電気がついているのに気が付き安堵の溜息を付く。
そして脳裏に浮かび上がるのは、ビルゴの力の片鱗。まだ完全に起動していないとは言え、あのMSが尋常では無い能力を持っているのは、充分に分かっている。
その力が自分を守ってくれるのだ。だが、それなのにあのMSを好きになれない自分がいる。
最初に見た時は頼もしいと思った。それに『乙女』というネーミングと無人機という設定から、作った人間は争いを好む好戦的な人間では無く、人の死を厭う者だと想像している。
だが、実際はビルゴの名の由来も作った人間の事も知らないのだ。

(一体あれは、誰がどのような気持で作ったのでしょうか……)

そこまで考えて別の疑問が湧く、何故自分はそんな事を気にしているのだろうと、以前はその様なことを考えなかったはずだ。
その時、何故かバルトフェルドの姿を思い起こした。そして同時に無残な最期が浮かび上がる。

「―!……キラ?……」

急に体が震えてくる。早くキラに戻ってきて欲しい。そこで気付く、キラは何時までトイレに入っているのかと、目が覚めてから結構な時間が経っている。トイレを流す音も聞こえた。それなのに戻ってこないのは何故か……

「え?……まさか……」

脳裏に浮かぶのは、あの惨劇、紅い瞳の少女、もし彼女がここに来ているとしたら……起動前のビルゴなど何の役にも立たない。ここにいる人間は全員彼女の手に掛かるだろう。
そして想像してしまった。あのトイレの中にキラはいるのか?もしかしたら1人では無く、あの少女が中にいて、すでにキラは……バルトフェルドのような…マリューのような姿になっているのでは?

――アンタが最後の1人だよ……ラクス・クライン

そしてドアを開けると、あの少女が笑っているかもしれない……

不安に駆られたラクスは一糸も纏っていない事も気にせず、ベッドから立ち上がるとキラの居るはずのトイレのドアを叩いた。

「キラ!返事をしてください!」
「ラクス?…どうしたの?」

ドアが開くとキラが驚いたような顔で立っている。その姿に安堵すると温もりを求めて抱きつく。

「良かった……」
「え?……ラクス……」

裸のまま抱き合う。ラクスにとってキラは、歌姫でも無く、議長の娘でも無い、本当の自分を見つめてくれる唯一の人間だった。もし彼がいなかったら自分は生きていけないだろう。
そして今、彼の胸の中で抱きしめられている。それは至福の時間だった。

「キラの匂いがします」
「……うん」

キラは片腕でそっと抱きしめる。内心トイレで自分の匂いがすると言われるのは微妙だったが、それでも腕の中の少女の魅力には逆らえない。
ラクスの肌の柔らかさと温もりを感じながら、改めて彼女を手放せないまでに虜になっている自分に気付く。

「ラクス……君を両手で抱きしめたい」
「え?……分かりました。わたくしも、そうしてほしいです……急ぐようにお願いしてみますわ」
「うん、ありがとう」

半分本音で半分は嘘。キラは1人で思考していたのを途中で中断したため、別の答えを得る前にビルゴへの対抗心だけが残っていた。そのため戦う力を欲したのだ。ラクスを他のものには渡さない。
雄の本能が力を求めた。そして違う雄の本能が、抱き合っている内に反応してラクスの腹部に当たっていた。

「キ、キラ……その……慰めましょうか?……」
「…う、うん、お願い」

互いを想い合うがゆえに、真実に届きそうで届かない、彼等のいる闇は未だに深かった。

ルナマリアは目覚めると、隣で眠るシンの温もりを求めて、手を伸ばし……

「って、どうせ最初っから、いないわよ!毎晩毎晩、寂しい夜を過してますよ!!!」
「ほにゃぁ!……ふえ?お姉ちゃん…何、朝から大声出してんのよ?」

朝一番にルナマリアが起床と同時に大声を出し、隣のベッドで熟睡していたメイリンは巻き添えをくらって快適とは言いがたい目覚めを迎えた。

「あ、ゴメン……何となく桃色空間が憎らしくって……」
「何、訳の分かんない事を……って、中途半端な時間に目が覚めたなぁ、起床時間までは結構あるし、2度寝するには足らないし……」
「うわっ…ホントだ」
「まったく……そんなに欲求不満なら、私がブリッジに入っている間にシンを誘えば良いじゃない」
「え?だって……赤ちゃん出来たら困るし///」
「……何かむかつくけど……でも、ぐずぐずしてたら他に恋人が出来るわよ」
「は?大丈夫よ。シンを狙っている子なんて他にいないし」
「……レイとか♪」
「イヤァァァァァァァ!嫌な思い出がぁぁぁぁぁぁ!!!」

ルナ達がザフトのアカデミーにいた頃、トップ争いをするシンとレイは女性にとって憧れの対象だった。
だが2人とも元々愛想が良くないし、恋愛には興味が薄いため女性のアプローチを拒絶していた。
そんな時、2人は仲が悪かったのが急に親しくなり始めたのだ。実際はルナが仲を取り持ったのだが、それを知らない人間は2人の関係を邪推しだした。特に一部の女性の間では希望が混じり、男色との噂が流れたのだ。
さらに、この手の女性は性質が悪く、2人と仲が良いルナマリアに近付くなと、陰湿な嫌がらせを始めたのだった。

「さてと…無理矢理起こされた仕返しは終わりっと」
「ゴメン……それよりアンタはどうなのよ?」
「ふえ?……私?」
「この人は良いっての、いないの?……例えば隊長とか?」
「う〜ん、格好良いとは思うけど、近寄りがたい」
「それは確かに……変な威圧感あるしね…」
「聞くところによると、良い人らしいけど……」
「へ?誰が言ってるの?」

ルナは思わず聞き返してしまった。ルナは未だにゼクスの威圧感に馴染む事が出来ずにいるのだ。
レイは随分と尊敬している様子だが、ルナとシンは実力は凄いがお近づきにはなりたく無いというのが共通の意見だ。

「ヴィーノが言ってたよ。ついでにレイだけでなくヨウランも落ちたって」
「は?……何があったの?」
「それがね、ゼクスさんってMSの操縦が荒っぽいでしょ、だからこの前の出撃だけで、セイバーが 結構、痛んでたんだって」
「ふんふん」
「それでね、セイバーの整備担当のヨウランがゼクスさんの悪口を言いながら整備してたら……」
「ま、まさか……」
「後ろにいたのよ」
「怖っ!それ凄く怖っ!」

ルナマリアは自分がヨウランの立場になって想像する。悪口を言っていたら、後ろで威圧感を振りまくゼクスが立っているのだ。

「……え?それで何で尊敬するのよ」
「うん、その後ね、ヨウランは謝ろうとしたんだけど、逆に喜ばれちゃって……」
「は?」
「何か『私の機体を整備する人間が、MSを真剣に扱う者で良かったよ。迷惑を掛けるが、これからもよろしく頼む』とか言って、差し入れのジュースをくれたって」
「…なるほど、確かにいい加減に整備する人間だったら、機体のダメージが大きくっても気にしないし……それにしても差し入れとは……やるわねロン毛」
「まあ私にとっては未だに怖い人だけど……」
「そうね……じゃあ他に好みの相手は?」
「う〜ん、最初はアスランさんが良かったけど」
「あえ!メイリンって禿が好きなの!?」
「禿げてないでしょ!……まだ」
「何気に言うわねアンタも……」
「それは置いといて、ただ最近は偉くなりすぎちゃって……」
「は?アンタってエリート嫌いだっけ?」
「……あのね、アスランさんってザフトのNo.2よ。単なるエリートで済む人間じゃ無いのよ」
「おお!そう言えば!」

最近シンと一緒にいる事が多いので、必然的にルナマリアも話すようになったが、アスランは事実上ザフトではデュランダルに次ぐ影響を持つ人間なのだ。

「その人を相手に軽口叩いてるお姉ちゃんって、とんでもないんだけど……」
「う〜ん、でも、それを言うなら議長とだって話すじゃない。アンタだって」
「私はビックリしたわよ!レイの家に行ったら議長がいるんだもん!」

メイリンはアカデミー時代、休暇の間にレイに基礎戦術を習うため、何度か自宅に行ったが、プラントの最高評議会議長が寛いでいる姿を見た時は本気で逃げ出したくなった思い出がある。

「レイの保護者が議長だってメイリンも知ってるでしょ?」
「それでも本人がいるなんて……まあ話してみたら良い人だったけど…」
「それを考えたらアスランさんだって……」
「でもさ、議長の事だから本音はアスランさんに全部任せて自分は研究者に戻りたいんだろうね」
「あ〜…それは有りそう……てことは今はアスランさんの修行期間?」
「だと思う。アスランさんは影響力大きいし、経験を積めば凄い指導者になれるよ……だから、今は議長がバックアップしてるけど、その内全部任せるつもりだと思う」
「……メイリン?」
「だからアスランさんは凄すぎるんだよ……」

メイリンが寂しそうに呟く。この時、ルナマリアはメイリンが本気でアスランに憧れを抱いている事に気付いた。

「でもさ、議長が研究に戻るって決まったわけじゃ無いし、第一何の研究するの?」
「え?………え〜と…デスティニープラン2とか?」

メイリンの冗談交じりの答えにルナマリアは笑い出した。つられてメイリンも笑い出す。

「あの時の議長には参ったわ……延々と愚痴を聞かせるんだもの」
「でも、あれが有ったから議長に会っても緊張しなくなったんだよね」

2人がレイの家に行って、珍しくシンが居なかった日、2人が聞いたデスティニープランという名の計画の詳細と、その挫折の理由。溜息混じりに話すデュランダルが滑稽で、2人は笑いを堪えるのに多大な努力を要した。

「シンが知ったら、どんな顔をするかな」
「私も見たいけど、内緒にしろって言われてるからね」

ルナマリアとメイリンは話している内に、いい時間になっているのに気付き、朝食を済ませるため着替えをして部屋を後にした。