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W-DESTINY_第13話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:57:27

シンはコアスプレンダーの操縦桿を握り、闇の中を進んでいた。
緊張に汗が滲む。場所は狭い坑道で、地形のデーターと正面を照らす僅かなライトの明かりだけが頼り。
やがて、ゴールの岩盤が見える。そのゴールに向かって、ミサイルを放つと……

「今度は5秒の遅れだな」

レイからシュミレーションの結果を聞くと、シンがコアスプレンダーはハッチを開いた。

「ダメだったか……さっきは早すぎたから、今回は遅めに進んだんだけどな」
「シン、少しは休憩しなよ」
「サンキュ」

すると、ヴィーノがジュースを差し出した。シンは礼を言って受け取ると一口飲んで息を付く。

「それにしても隊長も無茶な事を考えるよな」
「それだけ、お前の腕を信じてるのだろ」
「まあ、出来ない事をやれって言う人じゃないだろうけどさ」
「それにしても、この坑道の地図、本当に信用出来るの?」
「それに関しては、ザフト…マハムール基地の人間が潜入して確認を取っている。間違いない」

ガルナハンを支配下に置く連合軍の基地を攻略するのに、ザフトはガルナハンのレジスタンスと協力して進む事になっていた。
だが、協力と言っても、レジスタンスの戦力では情報の収集ぐらいしか役に立たなかった。
だが、その情報の中に今は使われていない、地元の人間しか知らない坑道があり、その坑道を使う事で、ガルナハン基地の最大の難点であり、その基地名の通称、ローエングリンゲートの由来にもなっている陽電子砲の目の前に現れて奇襲を掛ける事が出来るのだ。
そこで、シンは作戦のために、ここマハムール基地でシュミレーションを使用した訓練を行っていた。

「シン!いる?」
「ん?ルナ…それに……」

一息付いてると、ルナがレジスタンスの少女、コニールを連れて近付いてきた。コニールは不安そうな表情でシンに語りかけて来た。

「あの……」
「心配で見に来たか?」
「……ゴメン」
「気持は分かるよ。俺の訓練を見て、気が紛れるなら見てて良いからさ」

シンはコニールが不安に思うのも無理は無いと思っていた。
そもそもシン自身が不安に思ったし、ブリーフィングでは、コニールの目の前で困難さを訴えてしまった。
そのブリーフィングは、昨日の昼過ぎに、ゼクスを中心に艦内の主要メンバーと行われていた。

「彼女が今回の協力者、コニールだ」

マハムール基地に到着して、休む間も無く始められたブリーフィングに、シン達は戸惑いを隠せなかった。
ようやく、これまでの激戦の疲れを癒せると思っていたところ、基地指令に挨拶に行ったアスラン等が戻ってくると、すぐにブリーフィングを始めると言われたのだ。
さらに、紹介されたレジスタンスの一員は、まだ年端もいかぬ少女だったのだ。

「その……話が見えないんですが?」

何も聞かされてなかったシンは、開口一番に説明を求めた。
その内容は要約すると以下の様なものになる。

現在、ザフトの最大の攻略目標はスエズ基地である。スエズ基地はザフトのジブラルタル基地と、ここマハムール基地の中間に在り、両基地の連絡や交通を遮断していた。
そこで、双方から挟撃する作戦が立案されているが、スエズの守りは堅いと予想され、迂闊な攻撃はザフト側に大きな損害を受けると予想される。
何故なら、インド洋とジブラルタルがほぼザフトの勢力圏である現在、この大陸からスエズまで地域の安定は連合軍にとっては絶対必要であるのだ。
ゆえに、ガルナハンの火力プラントを中心にかなり強引に一大橋頭堡を築き、ユーラシアの抵抗運動にも睨みを利かせながら、スエズまでのラインの確保を図っていた。

「では、そのガルナハンを落とせば、スエズの補給は困難になり、我々は有利になるんですね」
「さらに、抵抗勢力軍の支援にもなるな」
「じゃあ、このブリーフィングはガルナハンの火力プラントを落とすための…」
「その通りだ。だが、簡単にはいかないぞ」
「え?」
「まずは、これを見てもらおう」

モニターにガルナハンの地形が映し出された。

「うわ!…思いっ切り渓谷じゃん」
「攻め難いな……」
「それだけでは無い」

モニターの風景が渓谷の奥へと進んで行くと、巨大な砲台が見えた。

「これって、まさか?」
「ああ、陽電子砲だ。ちなみにここはローエングリンゲートと呼ばれている」
「あの……ここを通らなくちゃダメなんですか?」
「残念ながら、他に大きな道は無い」
「大きな?……って事は小さい道があるんですか?」
「ああ、この坑道だ」

次にモニターに映されたのは、坑道の見取り図だった。

「この坑道は現在は使われていないが、先の岩盤さえ砕けば敵の陽電子砲の前に辿り着く」
「……あ、あの…その坑道って、どのくらいの広さがあるんです?」
「MSは通れないな」
「意味無いじゃないで…」
「だが、コアスプレンダーなら通れる計算だ」
「え?」
「ちょっと待ってください!まさかMSが通れない細さの坑道をコアスプレンダーで通れと!?」

ルナマリアが慌てたように質問する。だが、ゼクスは動じた風もなく説明を続けた。

「その通りだ。この部分、1番狭い場所は直線ルートだから真っ直ぐ飛べば、問題無い」
「でも、少しでもずれたら……」
「飛行速度で、壁に当たったらコアスプレンダーはスクラップになるな……中のパイロットごと」
「ゲッ!」
「無茶です!他の作戦は無いんですか!?」
「無いな」
「う……」
「よろしいですか?」

ルナマリアが詰まるとレイが手を挙げ、作戦を進言する。

「要は敵の陽電子砲を沈黙させたいのですから、こちらもミネルバのを使えば良いのではないですか?
 幸い、敵の陽電子砲は岩山の壁を繰り抜いた場所に設置してあります。
 ですから、こちらは無理に陽電子砲自体を撃たずに高高度から陽電子砲の上部の岩山を砕き、埋めてしまえば良いのでは?それなら敵の死角から攻撃出来ます」

レイの説明にシンとルナマリアは喜色を浮かべる。それなら安全に敵を討てるのだ。
だが、ゼクスは頭を横に振る。

「残念ながら、それは不可能だ。これを見ろ」

再びモニターが切り替わると、そこにはシン達に見覚えのあるMAが映っていた。

「あ!コイツは!」
「あの時の!」
「陽電子砲を弾く奴か」

そこには連合のMA、ザムザザーが映っていた。

「貴様等はこのMAを知っていると思うが、戦闘時はコイツが3機上空に待機する」
「うわ〜コイツってビーム効かないんだよな……」
「さらに、地上には、コレと同じくビームを弾くMA、ゲルズゲーと言うらしいが、2機」
「うわ!またまた悪趣味」

ルナマリアがゲルズゲーの姿を見て、悪態を付く。

「この通り、随分と防御に気を使っていてな。迂闊なマネは出来ん。
 更に補足するなら、陽電子砲以外、例えばバビの大部隊を投入すれば勝ち目もあるかもしれんが、現在の我々に、それほどの大部隊を回す余裕は無い」
「仕方無いのか……」
「それでは、作戦の説明を続ける。すでに説明した通り、この坑道にはコアスプレンダーが通るだけで、ギリギリの狭さだ。よって、抜けた後はシンはコアスプレンダーの武装だけで、敵の陽電子砲を破壊してもらう。だが、このままでは敵の真ん中にシンがコアスプレンダーだけで取り残されてしまう事になる」
「あの……チェストフライヤーとレッグフライヤーを一緒に飛ばせば…」
「それが通る広さが有れば、MSも通れると思わんのか?」
「ですよね」
「そこでだ。ミネルバはまず陽電子砲の死角に待機しておいて、コアスプレンダーが坑道を抜ける直前に前進を開始し、インパルスのパーツを射出。同時に私がセイバーで出撃して、パーツの護衛と共にザムザザーの撃破をする」
「ちょっと待ってください!」

思わずシンが大声で遮る。他のメンバーも驚きを隠せないでいた。

「何か質問か?」
「あの!それって、俺が坑道を抜ける時間が少しでも狂えば…」
「早すぎれば敵の真ん中で孤立。遅ければミネルバは陽電子砲の餌食だ」
「その…坑道に入ってからシンの位置の特定って出来るんですか?」
「無理に決まっているだろう。そこでだシン」
「……はい」
「今から、作戦開始まで貴様には訓練をしてもらう。シュミレーターを用い、この坑道を抜けるのに常に同じ時間で行ける様になれ。1秒の狂いも無くだ」
「……通れる様になれ、ってレベルじゃないんですね」
「当たり前だ。貴様なら通り抜けるくらい練習なしでも出来るだろ」
「え〜と、信頼されてると思っていて良いんですか?」
「少し違うな。貴様の腕は確かで、この作戦も可能な実力だ。それを正当に評価しているにすぎん」
「どうも」

シンは複雑そうな表情で黙り込んだ。実力を評価してもらってるのは嬉しいが、それでも自分がミスするとミネルバのクルー全員が死ぬと思うと気が重かった。
そして、シンが不安そうに黙り込んでいると、レジスタンスの少女が沈黙に耐え切れなくなって大声でシンに詰問してきた。

「ほ、本当に大丈夫なのか!?」
「へ?」
「隊長はアンタなんだろ?じゃあ、アンタがやった方がいいんじゃないのか?失敗したら街の皆だって今度こそマジ終わりなんだから!」
「いや、ちょっと待て!」

コニールは縋るようにゼクスに話を振るが、ゼクスは表情を変えずに突き放す。

「生憎だが、隊長だからMSの操縦が上手い訳では無くてな。彼の方が私より上だ」
「え?」
「そ、そうなんだ……」

シンは自分がゼクスより上だと言われて呆然としてると、アスランがコニールの肩に手を置き、優しく声を掛ける。

「ミス・コニール、彼は何も、出来ないから黙り込んでる訳ではありません。彼は事の重大性を考え、真剣に対処しようと思っているからこそ、黙っただけなのです」
「あ……その、ゴメン…気が付かなかった」
「え?…いや、気にしなくても」

シンは本気で不安だから黙ったので、その様に言われると戸惑ってしまった。
だからと言って、ここで正直に不安と言えば、この少女の不安を駆り立てるだけと分かっているので、黙り込んでしまった。
すると、アスランがコニールの事を説明しだした。

「シン、彼女の父親は連合に反乱分子として捕えられているんだ」
「え!」
「だからこそ、彼女は不安に思ったんだ。許してやってくれよ」
「そ、そんな……」

シンはコニールを見つめた。彼女は震えながら、街の現状を説明しだした。

「元々、連合は強引に占領してきたんだ、火力プラントの確保のためとか言ってた……だから前にザフトが砲台を攻めた時、同時に街でも抵抗運動が起きたんだけど、ザフトが失敗しちゃったから」
「あ…」
「連合軍に逆らった人達は滅茶苦茶酷い目に遭わされた。殺された人だって沢山いる。今度だって失敗すればどんな事になるか判らない。だから、絶対やっつけて欲しいんだ!あの砲台!今度こそ!」
「……ああ、俺に任せろ!」
「うん!頼んだぞ!…う…」

コニールは父や捕えられている人の事を思い出したのか泣き出してしまった。
アスランは後の事をタリアとゼクスに託すと、彼女を連れブリーフィングルームを後にした。
それを見送るとゼクスがシンに語りかける。

「シン、不安なのは分かるが、これだけは言っておく」
「はい」
「この任務、貴様で無くては不可能だ。私にも出来ん」

ゼクスは本心で言っていた。この世界のMSでは、不慣れな部分も大きく、何より今回の様に細かい操作を要求する任務には自分よりシンの方が向いていると思っている。

「何しろ私はヨウランに壊し屋扱いされてる身だからな」
「え〜と……それは隊長が悪いかと」
「フッ、自覚はしている。それで、やれそうか?」
「やれます!」

シンの力強い返事にゼクスは頷くとタリアに話を振る。

「艦長からは何か?」
「そうね。特には無いけど……この際だから、はっきりと言っておきましょう。皆も分かってるとは思うけど、私たちはミネルバ隊なの。マーキス隊でもグラディス隊でも無くね。何故かは分かる?」

ザフトの部隊は本来なら、隊長のセカンドネームが部隊名に使われるのが通例である。
ミネルバならタリアがそれに当たる。ゼクスの場合は、任務が部隊よりアスラン個人の件を優先されるので適用外だった。

「ミネルバは一隻のみのため、ミネルバ隊で通しているだけじゃ無いんですか?」
「正直、それもあるんだけどね。でも本当の理由は、この艦に搭乗している人物の中で最も地位が高い人物が軍人では無いからよ」
「あ……アスランさん」
「そうよ。だから、これだけは憶えておいて。私達はアスラン・ザラ親善大使の直轄部隊なの。彼の顔に泥を塗る行為は絶対に許されない。良いわね!」
「「「了解!」」」

全員が気を引き締め返事する中、シンがおずおずと手をあげて質問する。

「あの……それは、どういった事に気を付ければ……」
「え?」

シンは前回のミスが有るから慎重になったつもりなのだが、タリアとしてはそんな子供じみた質問がくるとは思わず、戸惑ってしまった。
だが、実際に言葉で説明するのも難しい。長く具体的な例を挙げれば可能だが、ここでそんな時間を取るのも面倒だから、思わず横にいるゼクスに振る事にした。

「そ、そうね、貴方から説明して頂戴」
「わ、私がですか?」

ゼクスとしてもタリアと似た様なもので、こんな事を簡潔に説明するのは無理だった。
その時、ゼクスの頭に閃く言葉が出てきた。かつて友と呼んだ男。そして超えられぬ壁だった男の言葉、それは天啓なのか……

「事はエレガントに運べ!」
「「「エレガント!?」」」
「あ?……」

言った後に気付く。天啓では無く、悪魔の悪戯だとゼクスは思った。

(……トレーズ、そんなに私に付きまとうな……)
「ゼ、ゼクス?」

自分の言葉に落ち込むゼクスをタリアは呆然と見ていると、場の混乱はすでに起こっていた。

「エレガントねぇ〜」
「……良い響きだ」
「ちょっ!レイ?」

シンは真剣に悩んでいるし、レイに至っては気に入ってしまった様で、隣で驚くルナマリアの様子に気付きもしないでいた。
それ以外のメンバーも笑いを堪えたり、真剣に考える者など様々だった。

「ゼクス……どうするの、これ?」
「……申し訳ありません」

こうして、ブリーフィングはゼクスの爆弾発言で混乱の内に終了し、クルーは作戦に向け、それぞれに出来る事をやりはじめた。
特に大変なのがシンである。この作戦は彼に掛かっているのだ。そのためレイのサポートを受けながら、特訓を続けていた。
そこに不安に怯えるコニールが来たのである。シンは気合を入れなおして、シュミレーションに集中しだした。
シンの意識は自分のミスが艦の皆を危険に遭わせる事から、自分の成功がこの少女を救えるという前向きなものへと変化していた。
そして、それはすぐに結果に現れだし、横で見ているコニールの表情が不安から期待へと変わっていくことでも分かった。
それを見たルナマリアが笑いながら語りかける。

「言ったでしょ。大丈夫だって」
「うん!アイツ、凄いな!」

シンの坑道の通過時間は、常に同じ時間で突破していったのである。

そして作戦が始り、ミネルバはガルナハンの渓谷に船体を進めていた。その後方にラドルの指揮するレセップス級のデズモンドが付いてきている。

『目標地点まで、残り500!コアスプレンダー発進準備をお願いします』
「了解!」
「シン、後でな」
「はい、敵の陽電子砲の側で」

シンはゼクスに声を掛けられると、力強く返事をした。

『コアスプレンダー発進、どうぞ』
「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!」

シンの出発を見届けると、ゼクスはセイバーのシールドに取り付けられた対艦刀に眼を移す。
対ザムザザーに用意した物で、インパルスから借り、ヨウランが即席でシールド表面に取り付け場所を付けた物だ。そのため1度外すと、再び付ける事は出来ない。

「さてと、そろそろ私も出るが……すまないがヨウラン、前に言ったとおり…」
『気にしなくても構いませんよ。この作戦が終わったら、ディオキアで思う存分オーバーホールが出来ますから』
「そう言ってくれると助かる」

ゼクスは今回の作戦では、ザムザザーを3機、それもインパルスの合体を邪魔されないためにも一気に片付けなければならなかった。
そのためには、機体を庇いながら戦うなど不可能と判断し、セイバーの担当整備士のヨウランに事前に通告していたのだ。
無茶な稼動をさせるから機体に大ダメージを与えて戻ってくると。

『その代わりシンの事、よろしく頼みますよ』
「分かっている。奴の事は任せてもらおう」

ゼクスは改めてシンが友人に恵まれている事を羨ましく思う。
それに比べ自分は……再びトレーズを思い出し、頭を抱えた。

ミネルバのブリッジではメイリンが計器を見ながら、額に汗を浮かべていた。
別に、ブリッジが暑いわけでは無い。緊張しているのだ。
この作戦でシンが失敗すれば、自分は死んでしまうと思うと恐怖に震えるのを止められなかった。
現にアスランは、同行すると言っていたのだが、危険だと言う理由でマハムール基地に取り残されている。

「よ、予定時間まで残り120秒」

タリアは、メイリンの声が震えているのに気付き苦笑する。
その気持は理解出来るし、自身が危険だと言う理由でアスランを乗艦させなかったのだ。本来なら民間人のコニールも乗せたくなかったのだが、彼女はこの作戦が失敗に終わったら、自分自身も終わりだと言って譲らなかったし、その気持は分かるので乗艦を許可していた。
しかし、今は艦長として、オペレーターの緊張を和らげなくてはならないと判断する。彼女が緊張からミスすれば作戦に支障をきたすのだ。
幸い、ゼクスが面白い言葉を残してくれているので、早速使う事にする。

「メイリン、緊張しないで……事はエレガントに運びましょう」
「え?」

メイリンがタリアの方を振り向くと、タリアは艦長席で脚を組み、肘掛に乗せた方の手で軽く顎を支えるという、如何にも優雅なポーズを取っていた。普段のタリアらしくは無いが良く似合っており、同時にエレガントという言葉を放った後の呆然としたゼクスの表情を思い出し、メイリンは思わず吹き出してしまった。

「……はい!」

メイリンは肩の力を抜くと、再度計器を見ながら、カウントを開始する。

「予定時間まで、後10秒…」

タリアはメイリンのカウントを聞きながら呼吸を整える。今後の指示は一瞬の遅れが命取りになるのだ。

「3、2、1、0!」
「ミネルバ、機関最大!全速で前へ出よ!」

ミネルバの動きはガルナハン基地でも察知していた。ガルナハンの基地指令は、その無謀とも言える突撃を鼻で笑う。

「フン!こちらに対抗して陽電子砲を搭載した戦艦を持ってくるまでは良かったが、無闇に突っ込んでくるとは……MA隊を展開!続いてローエングリン起動!」

タリアは射程に入った事を確認するとセイバーの発進を指示する。

「セイバーを発進させて!続けてインパルスのパーツを射出!」
「右舷ハッチ開放。進路クリアー。セイバー発進、どうぞ!」
『ゼクス・マーキス、セイバー、出るぞ!』
「カタパルトエンゲージ。チェストフライヤー射出、どうぞ!レッグフライヤー射出、どうぞ!
 シルエットフライヤー射出、どうぞ!」

ミネルバから発進したセイバーがMAに変形すると、その後を随伴する様にインパルスのパーツが続く。
その隊列はセイバーを先頭に、インパルスのパーツ、そしてミネルバが直線で結ばれ、それを見ていた基地指令は一撃で敵を落とせるという誘惑に駆られた。

「ミネルバからMSが発進しました!その後ろにも何か…」
「構わん!まとめて撃ち落してくれる!ローエング…」

基地指令が陽電子砲の発射を命じようとした時、砲台のすぐ下の岩盤が砕けてコアスプレンダーが飛び出してくると、瞬く間に機首の向きを変え、陽電子砲目掛けてミサイルを放った。

「シン!シンが来ました!」
「見れば分かるわよ」

その姿を見たミネルバで歓声が沸く。本当はタリアも嬉しかったが、ここは自戒して気を引き締め直す。

「レイとルナマリアを発進させて!地上にいるゲルズゲーとMS部隊の排除を!」
「了解です!」

そして、発進指示に従いレイとルナマリアのザクが巨大な斧を翳しながら、地上へと降り立っていった。

「落ちろよ!」

シンが掛け声と共に撃ったミサイルは、発射体勢にあった陽電子砲に直撃し、陽電子砲は破壊され、その誘爆で、基地に大ダメージを与えた。
混乱に陥る司令室では、基地指令が事態の把握を急いでいた。

「何事だ!?」
「陽電子砲が敵の直撃を受けました!その影響で各所に誘爆が起き、防衛システムがマヒしてます!」
「な!ええぃ!ザムザザーは何を…」

基地指令がそこまで言ったときは、すでに2機目のザムザザーがゼクスの餌食になっていた。

「これが、最後!」

ゼクスはセイバーを最後のザムザザーに向ける。1機目を最大加速のままMSに変形して対艦刀で切り裂いたため、腕の関節から嫌な音が聞こえてくる。
その音を無視して、最後のザムザザー目掛けて対艦刀を振り下ろした。

「ホント、無茶な動きしますね」
「シン」

シンに声を掛けられ振り向くと、フォースインパルスが近付いてきた。

「良くやったな」
「俺なら出来るって言ったの隊長ですよ。ところで、この後、俺達は基地の攻撃だったんですけど……」

ガルナハン基地は、すでに防衛機能がマヒしており、攻撃の優先順位は下がったと見てよかった。

「まったく、主砲が壊れたら他の武器まで使えなくなるとは、呆れた構造だな」
「どうします?」
「MS部隊の方へ向かうぞ」
「了解」

「基地が落とされる?どういう事だ!?」

ガルナハン基地に向かう輸送機の機長は、ガルナハンの目の前に来たところで、基地から救助要請を受けて混乱していた。

『どうもこうも、現在、ガルナハン基地はザフトの攻撃により、防衛システムはマヒ、今MS部隊が防戦していますが、それも何時まで持つか……兎に角、我々の撤退を手助けをお願いします』
「ふざけるな!さっき通信した時は、こちらが攻撃を受けてるなら別の方向へ向かうと言ったのに、ガルナハンは難攻不落だから心配いらないと断言したではないか!」
『そ、それは……』
「それとも、最初からこのつもりだったのか!?」

機長は怒鳴りながら、自分でも八つ当たりだと理解していた。ローエングリンゲートの難攻不落は、連合内部で固く信じられており、機長も落ちるはずが無いと信じたからこそ、そのまま進んだのだ。
だが、いくら怒鳴ったところで事態は変わらない。そもそも正当な理由無しに友軍の危機を見捨てたら処罰を受ける事になる。

「もういい!今から撤退する兵を収容すべく、そちらへ向かう」
『よろしく頼みます』

機長は通信を切ると舌打をし、機体を進めた。すると後ろの座席から声を掛けられる。

「手伝おうか?撤退」
「え?」
「だからさ、負けちゃったから逃げてるんでしょ?その援護してくるよ」

先程まで、ずっと寝ていると思っていた少女は何時の間にか起きていたらしく、状況を理解していた。

「カラミティで待機しとくから、敵の真上に落としてくれれば良いよ。後はこっちでする」
「そ、その……頼む」
「いいって。だって勝ちに奢った連中に地獄見せるのも楽しそうだし♪」

マユは嬉しそうに笑うと自らのMSの元へと向かった。
その後姿を見送る機長は、今頃勝利に浮かれているであろうザフト軍に同情していた。

「うおぉぉぉぉぉりゃぁ!」

ルナマリアが気合と共に巨大な斧をを一閃させる。斧はビームアックスを改造した物で、対ゲルズゲー用にマハムール基地で開発されたものだった。
その刃がゲルズゲーの肩口から腰部まで一気に切り裂き、ゲルズゲーは爆炎を上げる。
すると先にゲルズゲーを落としたレイが声を掛ける。

「ルナマリア……」
「ん、何?」
「その気合はエレガントでは無い」
「うっさい!」

レイとルナマリアは残りのMSはラドル隊に任せ、シンとゼクスに合流を図った。
そして、街の付近で合流を果たすとレイがゼクスに現状を報告する。

「隊長、ゲルズゲーは撃破しました。現在、連合のMS部隊は撤退を開始。ラドル隊が追撃を行っています。我々は如何しますか?」
「必要あるまい。もっとも追撃したくても私の機体は限界だがな」
「了解」
「ねえシン、隊長またやったの?」

シンはルナマリアの質問に興奮気味に答えた。今までもレイとルナからゼクスの操縦の荒っぽさを聞いていたがこれまで直接眼にする機会が無かったのだ。

「ああ、マジで凄かったぞ。最大加速のままMSに変形してザムザザーをバッサリ!
 あのデカイのを斬激で真っ二つだからな。俺、今まで海の中だったから初めて見れたよ」
「うわっ!今までも酷いとは思ってたけど……」
「……エレガントとは思えんが」
「貴様等!そういう話は私のいないところでやれ!」
「「「りょーかい!」」」

シン達は困難な作戦を成し遂げ安心していた。それが、ほんの僅かの憩いとも知らずに。
今の彼等は、街で繰り広げられている報復という名の地獄絵図も、すぐ側まで近付いてきている『災厄』を積んだ輸送機の事も知らずにいた。