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W-DESTINY_第14話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:57:47

「それにしても、良くやったな」
「え? ああレイが訓練に付き合ってくれたからな。それに……あ!」

今回の作戦成功の事をレイが言ってきたので、シンが自分の力になってくれたレイと見守る事で勇気付けてくれたコニールの事を思い出した。

「そうだ。コニールのお父さんは、どうなったんだ?それに街の人も」
「そうだな」

今回の作戦では、捕えられた人の救出はガルナハンのレジスタンスが請け負っていた。
その事が気になり、シンはMSのカメラを街に向け様子を見ようと設定する。

「―っ!」
「なによ……これ?」
「酷いな……」

街の中ではレジスタンスが、降伏した連合兵をリンチにかけていた。
あらゆる所で、射殺したり棒で殴ったりと、そこは地獄絵図と化していた。

「私の予想が甘かったか!」

ゼクスは苛立ちを隠せずにいた。
アスランの目的であるナチュラルとコーディネーターの共存のためにも、降伏してくる兵や捕虜の扱いには、細心の注意を払っていた。
だが、今回、共同作戦をとったヨアヒム・ラドルはゼクスから見ても立派な軍人で、心情的にアスランの賛同者でもある。
それゆえラドル隊は軍規が行き届いており、ゼクスは安心していたのだが、思わぬところから、火の手が上がってしまった。

「止めなくて良いんですか?」
「相手は軍人では無いのだ!」

ルナマリアの質問に、ゼクスは吐き捨てるように言った。
軍人では無い以上、軍規に照らし合わせて処罰する事は不可能だった。そもそも国際法を知っているかも怪しい存在だ。
それに下手に止めたら、興奮した暴徒に連合に味方するのかと敵意を向けられる可能性がある。
そうなったら、今度は後先考えずに、こちらに牙をむきかねない。
場が暗い雰囲気に包まれる。やがて、思案していたゼクスが呟く。

「そうだな……見捨てるか」
「え?どういう事です?」

シンはその呟きに暗いものを感じ、恐れながら聞き返す。

「この街の人間を見捨てるようザラ大使に進言する。今後、この様な事が起きぬためにな」
「見捨てるって?」
「フン!虐殺を理由に、このまま我々が街を守る部隊を置かずに引けば、連合は引き返してくるだろう。
 そうなれば、街は目出度く連合に再占領される。後は彼等の手で処罰させれば良い」
「そんな!」
「冗談だ。といっても、やりたくとも出来んというのが本音だがな」

シンは、その言葉に怒りを覚える。やっと開放された住民をまた苦しみの中に突き落とすなど許せる事では無かった。

「冗談でも言って良い事じゃ無いでしょう!今まで苦しんできたのに…」
「今まで苦しんできたから、今度は苦しめても良いと言うのか!」
「―うっ!」
「あれを良く見ろ!あれが貴様の、そしてザラ大使の望みか!?」

シンは再び報復という名の蛮行を見る。もし、この光景をアスランが見たら不快に思うのは分かってる。

「この後始末をするのは、あそこで騒ぎを起こしているバカどもでは無い! ザフトが、アスラン・ザラがやるのだぞ! そして虐殺の汚名を受けるのもな!」
「それは……」
「2人とも、落ち着いて下さい」

レイの冷静な声が聞こえ、熱くなっていたシンとゼクスは我に返る。

「スマン。私も冷静では無くなっている」
「いえ……俺も先の事まで考えてませんでした」
「ねえ、コニールに頼んだら?彼女のお父さんてレジスタンスの上の人らしいし」

2人が落ち着いたところで、ルナマリアが提案する。ザフト軍の自分たちでは、反発を受ける可能性があるが、コニールや、その父親なら言う事を聞かせられるかもしれないのだ。

「なるほどな、エレガントな意見だ」
「でしょ」
「……もう勘弁してくれんか」
「俺が呼んできます!構いませんよね?」

ゼクスは数秒だけ悩むと、許可を出す。コニールでも無理な可能性はあるが、やってマイナスに働くことは無い。

「そうだな。頼めるか?」
「了解です!」

シンはフォースインパルスを起動させ、ミネルバに状況の説明をしながら、急いで戻った。
ミネルバは今、追撃に参加せず、後方待機の状態で停船している。
到着した時は、すでにコニールが出られる状態だった。

「コニール、話は聞いたか?」
「うん、でも止めろって言っても、街の皆は今まで連合の奴等に酷い目に合わされていたんだ!だから…」
「分かった!だったら俺達は撤退する。その後、連合がまた来ようが俺たちには無関係だ」
「え!?」

シンの言葉にコニールの顔が青ざめた。シンはそれを確認すると沈痛な表情で優しく説明する。

「俺達はアスラン・ザラを、虐殺の片棒を担いだ人間にするわけにはいかないんだよ。
 だから、お前等があんな事を続ければ、本当にそれが検討される事になるんだ。
 それにアスランさんは、あんな事を許す人じゃ無い。これを知ったらあの人は間違いなくガルナハンの民を嫌うはずだ」

コニールも理解する。自分たちの勝利はザフトの後ろ盾があって初めて可能な事なのだ。
もし、撤退にでもなれば、どんな目に合うか分かりきっている。そうでなくてもアスラン・ザラに嫌悪されるというのは、絶対にガルナハンのためにならない。

「……わかった」
「ゴメンな……乗ってくれ!」

シンは膝の上にコニールを座らせると、インパルスを街に向けて発進させた。

シンがインパルスを発進させた時、ミネルバのブリッジではメイリンが輸送機の接近を捉えていた。

「艦長! こちらに連合所属の輸送機が接近してきます」
「輸送機?……武装は?」
「武装のある機体ではありません。機種は………」

メイリンが読み上げる機体の種類は、小型の輸送機で、武装も無く収容出来るのも、MS2機が限界のサイズのタイプだ。
タリアは最初、増援のMSの事を警戒するが、今更MSが2機程度増えても影響は出ないと判断する。

「おそらく、撤退する兵の収容が目的だと思うけど、パイロットには通達しておいて。ただ迎撃の必要は無いわ。それより街の暴動の方を優先させて」
「了解しました。デズモンドには連絡しなくても良いのですか?」
「向うでも発見してるでしょうけど、一応は入れておいてちょうだい」

タリアはそれだけ言うと、輸送機の存在より、街で起きてる暴行の方に頭がいっていた。
彼女にとっては、すでに終わりを迎えた戦闘より、これからの事に意識が行くのも仕方が無かった。

シンはメイリンの通信を聞くと、警戒しながら詳細を尋ねる。その結果、街の事を優先させるためカメラを操作し、コニールの父を探し始めた。今、現場に急ぐより、ここでコニールの父を探してから向かった方が言いと判断したためだ。

「いるか?」
「う……今探してる」

コニールはシンの膝の上に座っているのを恥ずかしく思っていたが、今は父親を探す事に集中する。

「どうだ?」
「……いない……」

コニールが寂しげな声を上げる。父がいない事と、街の人が起こしている惨劇に身を竦めながら。

「そうか、ちょっと待ってろ」

シンはカメラのポイントを切り替えて、別の暴動の場所を探し出す。
その時、上空で輸送機のハッチが開き、その中から、滑り落ちる様に災厄が降って来た。

「艦長!輸送機からMSが降下しました!」
「何ですって!?機種は!?」

タリアとしては、今更増援を出すとは思えなかった。撤退の援護でも1機増えたところで影響が出るとは思えない。それが彼女の判断を鈍らせた。
メイリンが照合を開始している時、そのMS、カラミティのパイロット、マユ・アスカは自由落下に身を任せながら、戦場の状態を…否、獲物を確認していた。

「戦艦は2隻。白いのがミネルバね、でも追撃してるのはレセップス級の方……あっちを優先させるか。
 でも、挨拶くらいは……ん?」

その時、マユの視界に街での虐殺の光景が入った。
それと同時にコニールが父親の姿を見つけていた。

「居た! 父さんだ! 父さんが……無事だったんだ」
「良かったな。コニール」

シンはコニールの頭を撫でながら微笑んだ。コニールの父は連合兵を銃で処刑している場所で、座り込んでいた。おそらく、牢屋に入れられていたのだろうか、やつれて見える。
そして処刑されているのが、看守達だろうと判断する。

「コニール、悪いけど……」
「うん!分かってる」

コニールは力強く頷く、街のためにも虐殺を止めなくてはいけないと理解していた。

「……あ〜あ、変なのに捕まっちゃって、このままじゃ皆、死んじゃうよね……で、マユのお仕事は撤退の援護♪」

マユは、そう呟きながら左手に持った6連装ガトリングガンを地上に向けた。

メイリンの照合が終わり、そのMSの名を告げる。

「カラミティです!」

マユは街の暴徒目掛けて76世僚特討留を降らすべく引き金を引く。

「今、助けてあげるから、頑張って逃げろぉ〜! ……生きてたら♪」

コニールはずっと待ち望んでいた父の姿を、じっと見ていた。もうすぐ会えると思いながら……その瞬間も。

「―っ!…あぁぁ!」
「なっ!」

シンとコニールが見ている中、コニールの父と住民の頭上に死の弾丸が降り注いできた。
死の饗宴が阿鼻叫喚に打って変る。笑い声が悲鳴に、加害者が被害者に。
敵味方関係なく降り注いだ死の雨は、両者に多数の死者を出したが、それでも降伏したら殺されると分かってしまった連合兵の方が行動が早かった。混乱するレジスタンスから銃を取り上げると、彼等を撃ちながら逃走を図りだした。散発的な反撃はあるが、死に兵と化した連合兵は鬼神の強さを発揮し、逆に勝利に浮かれていたレジスタンスを完膚無きまでに叩きのめしながら撤退して行く。
そしてコニールの悲鳴がインパルスのコクピットに響いた。

「何で……こんな事に……」

シンは呆然とその光景を見守っていた。

「……次は、ミネルバ! 上手く行けば一撃で!」

マユはカラミティの姿勢を制御しながら、ミネルバの正面を向けると、船体の中央が弱冠細身なところに目を付け、そこ目掛けて背部の長距離ビーム砲シュラークと胸部の大出力ビーム砲スキュラ、そして右手に所持した500瀬丱此璽ーを同時に発射する。

「砕けろぉ!」

マユが気合と共に放った攻撃は寸分違わずミネルバの胴体部分に命中した。

「―っく!あんな状態から正確に撃ってくるなんて…艦内、被害を報告!」

タリアは、あの距離から、しかも落下しながら正確に狙ってきた敵の腕に驚くが、当てたマユも別の意味で驚いていた。

「何で、あれで壊れないのよ!頑丈すぎ!こうなったら、もう一発!…は無理か」

降下中のカラミティを狙って、ザフト軍のMS部隊が攻撃を仕掛けてきた。
回避と落下スピードを減速するための、制御を行わなければならなかった。ミネルバへの追い討ちは諦めて、デズモンドとMS部隊に集中する。
ザフト軍のMSの数は多く、あの群れに突っ込めば、すぐにエネルギー切れになるのは間違いない。

「だったら、まとめて吹き飛ばす! 今度こそ!」

姿勢を制御し、今度はデズモンドに向けて、一斉放射を放つ。直撃を受けたデズモンドは、その巨体を光と炎に変え、回りのMSを巻き込みながら爆発した。

「やったぁ〜♪ 普通はこうなるよね♪」

笑いながら、爆煙の中心に飛び込み、ザフトMSの大群をやり過ごすと、撤退する部隊と合流を完了させた。
そのまま殿を請け負いながら、追撃するザフト軍を叩き続ける。ザフトは隊長を失ったため、統制を欠いており、良い様にマユの餌食を増やしているが、追撃の中止を指示する人間もいないため混乱に拍車をかけていた。
その時上空から1機のMSがビームライフルを放ちながら、接近してくる。

「よくも!よくも、やってくれたなぁぁぁぁ!」

シンはコニールを降ろすと、インパルスで駆けつけ、彼女の父親の敵を討とうと、カラミティにビームを連射する。

「鬱陶しい!コイツ、死んじゃえっ!」

マユも所持する武器の全てを駆使してインパルスの迎撃を開始した。
シンは上空の利点を生かし、射撃で攻撃を仕掛けると、マユはあえてザフトのMS群に突っ込んだ。

「何!? 敵の真ん中に突っ込むなんてバカか!」
「何、躊躇ってんのよ!このバカは!」

マユは味方に当たるのを恐れて攻撃を控えたインパルスを罵倒しながら、背部のビーム砲をインパルスに放つ。そして同時に左手のガトリングガンと右手のバズーカーを、周囲のバクゥやゲイツに向け、回転
しながら、弾切れまで撃ちつくす。
シンも周りのザフト軍も味方に当たるのを恐れて、手が出せなくなり、逆に銃を捨て対艦刀に持ち替えたカラミティは当たるのを幸いに暴れまわる。

「好き勝手、しやがって!コイツはぁ!」

シンはビームライフルからビームサーベルに持ち替え、接近戦を挑んだ。これなら味方に当たらずに敵を討てる。そう思って……

「やっぱりバカだね! このヘボパイロットは!」

マユは手近なバクゥを対艦刀で突き刺すと、そのまま持ち上げ、インパルスに投げつけた。
シンはカラミティの凶行に怒りを覚えるが、味方機を弾き飛ばす訳にもいかず、サーベルの刃を収めて受け止めると、カラミティはバクゥごと両断すべく、対艦刀を振りかざしてきた。

「甘ちゃんだねぇ! お仲間と一緒に、あの世へ逝きな!」
「クソッ!」

シンは何とか横に逃げるが、左腕を斬られた上に、バクゥが腕の中で爆発したため体勢を崩す。

「これで終わりだよ!」

続いて、背部ビーム砲を胸部目掛けて放つ。シンは寸での所で、体を沈めるが、インパルスの頭部と胸の上部を吹き飛ばされ、地に倒れ付した。

「……避けるのだけは上手いね、コイツ……でも!」

倒れたインパルスに止めの斬撃を振ろうとするが、上空から殺気を感じ、身を引かせる。
ゼクスはシンを助けると同時に、この危険な敵を葬るための必殺の一撃を真上の死角から放ったが、カラミティは見てもいないのにかわしていた。

「今のを避けるだと!? どんなパイロットなのだ?」
「コイツ、マユを殺しかけた?」

マユがかつて、はっきりと見たフリーダムに撃たれた時の死が迫る感覚。この忘れられない感覚こそマユの戦士としての最大の武器だった。自分に迫る死を察知するのだ。
だが普段の敵では、彼女を死に近付ける事さえ不可能で、マユ自身久しぶりの感覚に驚きの声を漏らした。
その間、ゼクスは混乱するザフト軍を纏めるための指示を出す。

「こちらはフェイスのゼクス・マーキスだ!戦死されたラドル隊長に代わり、私が指揮を取る!
 総員は一旦後方に下がり、体勢を立て直せ!」
「追撃軍が引いていく…ん?」

マユがザフトの動きを察した時、コクピットに警告音が鳴り響く、バッテリーの残量が少なくなった事を示すものだ。

「大技を使いすぎちゃったか……燃費悪いなぁ、この子」

マユが機体の燃費に文句を言っている間も、ゼクスの攻撃は続いていた。ゼクスは味方に当たらないよう真上から砲撃していく。腕が利かない上に味方を巻き込めないため、背部パーツに内臓された小型ビーム
のスーパーフォルティスしか使えないが、当たれば充分に撃破できる。だが……

「こうまで完全にかわすとは……」
「コイツ、混戦慣れしている……潮時か」

マユはカラミティを引かせ、撤退する自軍と合流を図った。
ゼクスは黙って、それを見送ると撃破されたインパルスに向かいながら通信を入れる。

「シン、無事か?」
「……はい」
「シン、インパルスは自力での行動は無理だ。私の元へ来い。出られるか?」
「……すぐに出ます……」

ゼクスはインパルスの横にセイバーを着陸させると、セイバーを降りインパルスのコクピットに取り付く。
シンがコクピットから自力で出てきたことに、ゼクスは安堵の溜息を付く。

「無事で良かった。怪我は…―!」

無いか。と続けようとしたゼクスは言葉に詰まる。シンは涙を流していたのだ。
これまでの付き合いから痛みなどで涙する人間では無いと知っている。そして、彼の泣く理由も検討が付いていた。
敵を取ってやれなかった事、完膚無きまでに叩きのめされた事、その悔しさは痛いほど理解出来る。

「……ミネルバに戻るぞ」

優しく声を掛けるゼクスに、シンはゆっくりと横に首をふる。

「その前に……コニールのところへ……行きます」
「彼女には私から報告を…」
「俺が!……俺が自分の口で言わなくちゃいけないんです」
「……わかった」

シンは放心しているコニールを見つけると、側に近付き、俯きながら声を掛ける。

「……ゴメン、敵……取ってやれなかった」
「……見つからないんだ」
「え?」

シンは、コニールの返答が、こちらの懺悔の言葉と噛み合ってない事に、違和感を感じた。やがて、コニールは放心状態だったのが急に泣き叫びながらシンに縋り付いてきた。

「父さんが!……分からないんだ! どれが父さんなのか! どれが街の人なのか!」

シンは、その言葉の意味を理解した。あの銃弾の雨が、どのような状態を作り出したかは、その目で見たシンには充分予測出来きた。
だが、今のシンにはコニールを抱きしめて、謝る事しか出来る事は無かった。

ザフトの追撃を振り切った連合軍は、スエズ基地へ撤退を開始していた。
マユもカラミティを最初に乗ってきた輸送機に収容するとコクピットで息を付く。来た時と違って、今は撤退してきた連合兵を収容しているので、周りに負傷兵が大勢いる。すでに来るときに睡眠に使用していた
シートにも先客が居ると判断し、このままコクピットで眠ろうとすると、傷を負った兵士がこちらに向かい何やら叫んでいるのに気付いた。

「オイ! お前は何考えてんだ! 味方ごと撃ちやがって! 降りてきやがれ!」

マユはカラミティのコクピットを開けると、その男の前に飛び降りた。
直立した状態のMSのコクピットから飛び降りてきた事と、パイロットが傷だらけの顔の幼い少女である事に一瞬だけ動揺するが、なおも怒りをぶつけて来る。
その男の発言から、街で処刑されそうになっていた所に、マユが銃弾を打ち込んできたらしい。
周りの兵が止めようとするが、それを無視し男はマユの髪の毛を掴み上げる。

「お前の攻撃で、俺の友人が死んだんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「じゃあ、そのお友達と仲良く過ごせば?」

マユは、その男の首に廻し蹴りを叩き込む。頚椎を折られた男は、そのまま倒れこみ絶命した。

「……あの世でね」

周りの人間がマユの凶行に青ざめる。いや、仲間を殺された怒りよりも、マユの放った蹴りのスピードと当たった時の音…衝撃音と骨の砕ける音に恐怖したのだ。
マユは、ゆっくりと周りを見渡すと、再びカラミティのコクピットへ向かう。その際も昇降機を使わず、脚や腰のパーツに手足を掛けながら、猫の様に身軽にコクピットまで辿り着き、シートに座った。
そして、ハッチを閉めると眠るために眼を閉じる。
ジブリールにも、最近よく眠ると不思議がられたが、マユにとっては眠りは何よりも重要だった。
何故なら夢の中でしか『あの人』とは会えないのだから……

(今日は、どんな戦い方をするのかな……)

ジブリールは、ガルナハンでの顛末を聞くと大きく溜息をついた。
ガルナハンでの暴動はアスラン・ザラに汚名を着せる絶好の機会だったが、マユの行動で帳消しになってしまったと言える。

「アスラン・ザラに暴動の責任を追及するチャンスだったのだが……」

ガルナハンでのレジスタンスによる連合兵への暴挙をアスランの指示との風評を立てれば、アスランの信用は失墜したであろう。
こう言った風評は事実は関係無い。虐殺の事実さえあれば、名も無いレジスタンスより、アスランに矛先は向くものだ。
現在、連合内部にもアスランに同調する者もいるが、それを聞けば一時は信用しかけた事も相まって、アスランへの嫌悪感が吹き出していたはずだ。
その影響を考えれば、ガルナハンの兵士が全員殺された事による戦力低下よりも、価値があると言える。
しかし、マユがレジスタンスごと連合兵を殺したので、レジスタンスの報復を大っぴらにすれば、マユの行動まで知れ渡ってしまう。
そうなれば、カラミティのパイロットに注目が行く。こちらとしても、それは避けたかった。

「結局、この戦闘で得たものは無しか……いや、そうでも無いな」

確かに、この戦闘では基地を取られた上に多くの戦死者を出した連合は、良いとこ無しだが、ジブリールにとっては、最大の懸念事項のマユが兄と接触した事による変化が見られなかった事に安心していた。
彼女は兄の乗るインパルスを撃破しながら、インパルスを他の大勢のMSと同等に扱っていたのだ。

「マユの事は良しとするか……しかし」

ジブリールは地図を見つめる。ガルナハンがザフトの手に落ちた事で、スエズのラインは絶たれてしまった。
ザフトは今後、腰を落ち着け、ユーラシア西部の独立を支援しながら、スエズが弱体化するのを待つだろう。
ジブリールとしても、それは避けたかった。

「マユが折角、ラドルを仕留めてくれたのだ。それを無駄にする手は無いな」

ジブリールの視線は、ザフトの名将、ヨアヒム・ラドルの手で固められていたマハムール基地を見つめていた。

戦闘から1週間が経過していた。その間、アスランは街の代表と何度か会合し、警備や今後の関係の取り決めを行った。
それが一段落した頃、カラミティの攻撃で損傷したミネルバの応急修理が終了したとの報告をメイリンがもたらす。

「ザラ大使、ミネルバの出港は可能です。大使のご命令があり次第、ディオキアへと向かいます」
「分かった。明後日、ガルナハンの臨時政府と会合した後、出港すると伝えてくれ」
「了解しました。それでは失礼します」
「メイリン」
「え?」

部屋を退室しようとしたところ、アスランに声を掛けられ振り向く。

「ここには今、俺とゼクスしかいない。そんな時は普通に話してくれて構わない……いや、むしろ普通に接して欲しいな」
「え?……あのスイマセンでした」
「謝らなくていいよ。ただ、今回は結構疲れたからね……シンもあんな調子だし」
「あ……」

メイリンは察した。アスランは今回の件では、危うく虐殺者の汚名を着るところだったのだ。
そして、皮肉にも連合のMSの行動のおかげで、その汚名を免れている。
だがアスランは、自分に汚名を着せようとした人間を守るために、今もガルナハンで仕事をしている。
普段なら、シンがアスランに話しかけて、それを切欠にレイやルナマリア、さらにメイリン達が寄ってきて、談笑が始るのだが、今のシンは先の敗北が堪えたのか、戦闘シュミレーションに入りっぱなしだった。
今回は、そうやってストレスを解消する事も無く、気分の乗らない仕事を続けなくてはならない。
その精神的負担は、アスランを随分と疲れさせているのだ。

「その大変でしょうが……頑張ってくださいね。アスランさん」
「ああ、心配かけて悪いね」
「いいえ、本当はシンが早く元気になってくれると良いんですが……今は艦の空気が重いですから。
 前みたいに、皆でお喋りしたいです……」
「それなら大丈夫さ」
「え?」
「そろそろ良いだろ?」

アスランがゼクスに話を振ると、ゼクスは不敵な笑みを浮かべる。

「そうですな。シンにこの1週間が無駄だったと、理解させてきます」
「……そこまで言わなくても……」

メイリンは不敵な笑みのゼクスと苦笑するアスランを見ながら、良くは分からないが、何故か大丈夫だと思えた。

シンは、先の敗北以来、MSのコクピットで、シュミレーションを続けていた。
時折、食事に出る以外は、ずっとコクピットの中にいる。ルナマリアは心配してシンに声を掛けるが、シンはそれを無視していた。
ルナマリアはゼクスに相談したが、ゼクスの返答はしばらくは好きにさせろ、であった。
レイに相談しても隊長の判断に従うの一点張りだ。

「もう!みんなして冷たいんだから!」

ルナマリアが癇癪を起こしていると、ゼクスがMSデッキに来て、インパルスのシュミレーションを強制終了させると、シンに通信を入れる。

「シン、腕は上がったか?」
「……隊長?」

シンはシュミレーションを強制的に終了させられた事に怒りを感じたが、ゼクスの次の言葉に息を呑む。

「では、私が試してやろう」
「え?」
「シン、シュミレーションだが、私と勝負だ」
「は、はい!」

シンは、予想外の事態に戸惑ったが、それ以上に喜びが勝った。
シュミレーションでも、コンピューターより腕の良いパイロットとの方が、遣り甲斐がある。ましてやゼクスが相手なら申し分無い。
シンは、この1週間、寝食を惜しんで鍛えた腕をゼクスに試してみたいと思っていた。

「……どうなると思う?」
「レイ?どうって2人が戦う結果?」

ルナマリアがMSに乗り込むシンとゼクスを見ていると、レイがやってきて、ルナに声を掛ける。

「ああ、そうだ」
「そうね……シンも、この1週間頑張ってたし……結構やると思うけど、レイは?」
「シンは隊長に手も足も出ない」
「は?いくらなんでも以前だって……」

ルナマリアから見ても、ゼクスがシンより強いのは分かるが、それでも手も足も出ないは言いすぎだと思う。
現に、今まで何度かシュミレーションをやっているが、稀にシンが勝つ事もあるのだ。最初に3対1で良い様に振り回された頃とは違う。あれから実戦も訓練も随分と繰り返してきた。

「レイ、隊長を尊敬してるのは分かるけど……」
「では、シンが隊長に少しでもダメージを与える事が出来たら、後でジュースを奢る」
「OK、もし本当にシンが隊長に手も足も出なかったら私が奢ってあげる」

ルナマリアは自信たっぷりに答える。自分はずっとシンが頑張っていたのを、横で見ていたのだ。
そのシンが、簡単に負けるはずが無いと信じ、2人の戦いをモニターで見守った。

「……嘘でしょ……何でこんなに動きが単純なのよ、前より弱くなってるじゃない!」

ルナマリアがモニターを見ながら憤慨する。シンの動きは空回りしており、ゼクスに良い様に翻弄されていた。
正直、今のシンなら自分でも勝てるだろうとルナマリアは思う。

「自分を見失った結果だ」
「どういう事よ?」
「ガルナハン攻めの訓練で、お前が何をしたか忘れたのか?」
「何って……あ!」

ルナマリアは、ガルナハン攻略の訓練をしているシンのところに、コニールを連れて来たのを思い出す。
彼女を連れてくる前は失敗を恐れて、上手く行かなかったのに、連れて来た後は彼女を助けるために、急に上手く行きだしたのだ。

「じゃあ!?」
「この1週間のシンは、失敗を恐れて萎縮していたシンと同じだ。アイツの本質は誰かを守り救う事だ。
 それは誰かを失い守れないのを恐れる事と同じでは無い」
「だったら、最初から教えてあげれば良いじゃない!」
「ダメだ。今回の件は事故で済ませていい問題では無い。今後も同じような事が起きる可能性は充分にある。だからこそ自分を見失わないために、今の内に体で教えておく必要があったんだろう」
「……だから隊長は」
「アスランさんもな。あの人が、今のシンを黙って見ている方が不自然だろ?」
「……私は気付けなかった」
「お前も見失ったんだろ……お前はシンの事になると我を失う」
「ちょっ!」
「それよりもだ……ジュース、ご馳走になる」
「……わかったわよ」

シンがシュミレーションを終えMSから出ると、ゼクスが飲み物を差し出した。
シンは礼を言って、それを受け取ると、ゼクスの隣に座った。すでに自分の過ちは指摘され気付いている。

「目が覚めたか?」
「……はい」
「貴様の気持も分からんでは無いが、今回の件は頭を切り替えろ。反省すべき点は反省しても良いが、最初から届かん物を追いかけても無意味だ」
「でも、俺が強ければカラミティを討てたんです! そうすれば…」
「だから、あの時カラミティを討ったからと言って、どうなるという?死んだ街の人が生き返る訳ではあるまい」
「そうですけど……」
「確かに、奴は危険だ。奴を倒すために強くなろうとする貴様の判断は間違いでは無い。
 だがな、何のために強くなりたいのかを忘れるな」
「何のためにって、それは仲間や…」
「その仲間は今どうしている?」

シンは黙り込んだ。ここ1週間は訓練と称して、周りとの交流を絶っていたのだ。
周りが見えなくなっている事に改めて気付く。

「俺、また見失っていたんですね」
「そうだな……良くある事だ」
「でも、強くなりたいです」
「貴様なら、今よりもっと強くなれる。私よりな」
「本当ですか?」
「ああ、だから強くなるための理由を忘れるなよ」

ゼクスは、そこまで言うと立ち上がり、別の方向を見る。

「それと貴様が、ここまで強くなれた理由も思い出せ」

それだけ言うとゼクスは立ち去っていった。シンは先程のゼクスの視線の先を見ると、そこにはこちらを見つめるレイとルナの姿があった。
シンは苦笑しながら、彼等の元へ向かうと開き直って話しかける。

「完敗でした」
「無様だったぞ」
「お蔭様でレイに奢る羽目になりました」

シンはレイに賭けの経緯を聞くと、ルナマリアの分の飲み物を奢り、3人で今回の件の話を始めた。

「今回は、予定されていた作戦が上手く行ったから浮かれてしまったな」
「そうね。警戒が甘かったわ。たしかにMS1機だけだと油断しちゃうけど、アイツ等みたいなのが他にいる可能性を考慮してなかった」

ルナマリアは例の強奪犯の事を思い出しながら話していた。今回は彼等の姿が無かったのも油断の原因の1つだと分かっていた。

「カラミティのパイロットは、多分アイツ等より強いよ。最近はカオスと戦り合った事は無いけど、少なくともアビスとガイアよりは上だ」
「連合も中々懐が深いわね」

3人で同時に溜息を付く。だが敵の強さを嘆いていても始らない。シンは気を取り直し、レイに頼みこむ。

「なあ、俺はやっぱり強くなりたい。また手伝ってくれないか?」
「わかった。俺に出来る事があれば手伝う。だが今日はもう遅いから諦めろ」
「うん、それは分かってるって」
「それだけじゃ無くて、最近みんなと話してないでしょ」
「う……もしかして怒ってるかな?」
「それは無いけど、空気が重くなってる。それにアスランさんが……」
「え?アスランさんがどうかしたのか?」
「結構、気疲れしてるわよ」
「あ……そうか、そうだよな」

シンは今になってアスランの置かれている状況を理解する。今回の件では、いろんな意味で心労があるのだろう。
シンが黙り込んでると、ルナマリアが沈痛な表情で呟く。

「何か疲れてるアスランさんを見てるとさ……」
「ん?」
「絶対に進行してるんだろうって思うのよね……髪の毛」
「ちょっ!ルナ…」
「お前、絶対に本人の前で言うなよ」
「分かってるけど、つい言いたくなるのよね……あのオデコ見てると」

本気で言い出しそうなルナマリアを見て、シンとレイは、どうやって止めるかを悩み始めていた。

JPジョーンズがスエズ基地に入港すると、すぐにファントムペインの補充要因、マユ・アスカが案内された。
ネオは、スティング達3人を呼ぶと、改めて彼女を紹介する。

「え〜…今度から、仲間になるマユちゃんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
「マユでぇ〜す。よろしくね♪」
「「帰れ!」」
「こらこら、苛めは良くないぞ。新入生には優しくしろよ」
「学校かよ」
「ふん、何でこんな奴と仲良くしなきゃいけないのさ」
「いや、これから背中を預けあって戦う戦友だし……それに見ろ。以前と違って素直じゃないか」

スティングとアウルは以前に会った時を思い出す。確かに以前はもっと挑発的だった気がする。

「そう言えば、そうだな」
「そうだろ。きっとマユだって、仲良くしようと考えてるんだよ。な?」
「え?……何で?」
「何でって……違うの?」
「うん。前はさ、コイツ等に期待…って言うか、マユとどっちが強いかなぁ〜とか、思って来たんだ。
 でも今回は、もう知ってるから」
「……テメェ、何が言いたい」

マユはスティングに見下したような視線を送ると、薄笑いを浮かべる。

「アンタ等が弱い雑魚だって、もう知ってるって言いたいの。だから平気だよ。アンタ等にはなぁんにも期待してないから、少しぐらいなら足を引っ張っても許してあげる」
「テメェ!」

激怒するスティングをネオが慌てて取り押さえる。

「落ち着けスティング! マユも挑発するんじゃ無い!」
「挑発したつもりは無いよ。事実を言っただけ」
「何だと!」
「2人とも止めろ!全く作戦の説明が進まんだろ!」
「「「作戦?」」」

ステラ以外の目が輝きを見せる。3人とも作戦という言葉に戦士としての本能が刺激されたのだ。
ネオは息を付くと、説明を開始する。

「知っての通り、ガルナハンが落ちた事で、このスエズ基地は補給能力が弱まっている。そこでだ、その仕返しとしてマハムール基地を落とす事になった」
「仕返しって子供かよ」
「そう言うな、大事な事だぞ」
「待てよ、マハムール基地を取ったって、補給線は変わらねえだろ?あそこはザフトの支配地域のど真ん中だ」

スティングが地図を思い浮かべながら質問する。

「そうだ。だがなザフトにとっては笑い事では無い。おそらく奴等はスエズ基地の補給を断ち、弱ったところで攻撃したいだろうが、悠長に待っている間に他の基地が落とされるとしたらどうだ?」
「……なるほどね、向うはスエズ攻略を早める。こっちは迎撃してザフトに損害を与え、その後に反撃に移る腹か」
「そういうこと。ついでに言うなら南からの圧力がマハムール基地が在ると無いとでは、全然違う。
 おまけに、今までの指令官ラドルは、先の戦いで戦死した」

ネオが、そのラドルを殺害した人物、マユに視線を移す。

「そういう事で、今は好機だ。着いて早々に悪いが、今すぐ出るぞ!」

ネオの真剣な声に、全員が黙り込み、やがてスティングが口を開く。

「分かった。それにしても……指揮官が戦死したから、今すぐ攻めるってダセェ!」
「カッコ悪ぃ……」
「相手が弱いとツマンナイ!」
「ネオ……卑怯者?」
「何で、こんな事だけ意見が合うんだよ! 兎に角出発するぞ!」

ネオの号令で、部屋を出る。その途中で、マユはステラと視線が合った。

「……はじめまして」
「う、うん……よろしく……」

ステラは同姓の仲間が増える事を、最初は嬉しく思っていたが、この少女に恐怖感を持っている事に戸惑っていた。初めて会う筈なのに知っている気がする。
そんなステラを不機嫌そうにスティングとアウルは見守っていた。

ミネルバでは、ディオキアへの出港を翌日に控え、各自が準備に追われていた。
そんな中、外出していたシンが戻り、ゼクスに声を掛けられる。

「会って来たか?」
「はい、父親の事は今でもショックが大きい様ですが、普通に生活は出来るみたいです」

シンが別れの挨拶に行ったとき、コニールは笑顔で送り出してくれた。彼女は、シンに文句を言ったり、敵討ちを頼んだりはして来なかった。ただ一言、戦争が終わったら、元気なお前ともう1度会いたいと言ってくれたのだ。

「そうか、強い少女だな」
「はい……俺なんかより、よほど立派です」
「否定はせん」
「少しはしてください!それより、お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「時間がある時で構いませんからシュミレーションの相手を、これからもしてくれませんか?
 隊長は自分みたいになるなって言いましたけど、隊長みたいに強くなるのは構いませんよね?」

ゼクスはシンの表情を観察する。この前までの悲痛な決意では無い。前向きな決意と判断すると了承した。

「いいだろう。たっぷりと鍛えてやる。何なら今夜からでも構わんぞ」
「え?……う〜ん、嬉しいですけど、今夜は……」
「何だ。いきなり逃げ腰か?」
「違いますよ! ただ先約って言うか……アスランさんの愚痴大会が今夜あるんです」

ゼクスは吹き出すのを、なんとか我慢する。シンが元気になった事で、何時ものミネルバの空気が戻ってきた事を実感した。

「そうか、それは重要な任務だな」
「ちなみに隊長も強制参加ですから」
「拒否権は?」
「無いです」

ゼクスは笑って頷くと、シンと別れた。そして今の自分を観察する。自分が、この艦の人間を気に入り、深入りしている事を改めて確認する。本当なら、それは避けなくてはならないのに……

「ヒイロ・ユイ、何をしている? 私は今、自分の目的を見失っているぞ。早く私を殺しに来い」

ゼクスは小さく、誰にも届かない呟きを漏らした。