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W-DESTINY_第18話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:59:52

大気圏を抜け、雲の霧をも抜けると、下には青い海と大地が広がっていた。デュオは、それを見ると自然に笑みがこぼれてきた。

「地球は好きかね?」

隣に座るデュランダルが問いかけてくる。

「ああ、好きだね。ずっと住みたいとは思わねえけど、やっぱり人間の故郷なんだって思うぜ」
「そうだね。私もだよ。コーディネーターとは言え、やはり人間という事なのだろうね」
「そんなの当たり前だろ……って、そうは思ってねえ連中がいるんだったよな」
「ああ、その通りだ。それにしても君の様に思えるのは、その能力のためかな?」

デュランダルは興味深げにデュオを見る。彼の様にナチュラルでありながら、コーディネーターをも上回る能力があれば、コーディネーターを必要以上に恐れる事は無くなるだろう。

「俺達の能力ねぇ……俺はヒイロみてえな化け物じゃ無えけど」
「君だって充分な脅威だよ」

デュランダルは苦笑しながら、彼等の人生を思う。それは過酷と言うには生易しいほどだ。
デュオの子供の頃の生活など、大昔のスラムが遊園地と思えるほど殺伐としている。
そんな環境で生きていれば頼もしくもなるだろう。それに比べ、自分たちの世界は、どこか甘えが見える気がする。それでいながら自分を不幸だと悲しんでいる者が多い。

「お!あれが基地だな。アスランは元気にやってかなぁ?」

そんな事を考えているとデュオのはしゃぐ声が現実に呼び戻す。
デュランダルもまた、養子のレイや、その友人たち、そして弟子とも言えるアスランとの再会を楽しみに思っていた。

シンはアスランの後方に立ち、デュランダルを出迎える。シャトルを降りたデュランダルは、シンの姿を確認すると一瞬だけ意外そうな表情を見せるが、すぐに笑顔で出迎えの基地司令とアスランに対して挨拶を交わす。

「わざわざの出迎え、すまなく思う」
「いえ、道中の御無事、何よりです」

そして、デュランダルを基地に案内をする。そこでデュランダルが連れている随分と小柄な護衛と眼が合ったが、すぐに逸らしてアスランに付く。

(なんなんだ……アイツ)

シンはデュオを見て驚いていた。あんなに若く、小柄な人間が軍人だというのも驚きだが、そんな人物が議長の護衛を任されるのは、信じられなかった。
本来はデュランダルの護衛と言えば、ハイネのはずだ。
そんな事を考えていると、やがて基地司令は業務に戻り、アスランとデュランダル、そして護衛のシン、ゼクス、デュオだけで別室へと入った。

「さてと……シン、君がここにいるのを意外に思うのだが?」

室内に入ると、デュランダルは聞きたくて仕方が無かったという態度で、シンに質問してきた。
その表情と声には、からかうような響きがある。デュランダルの知る限り、シンは護衛任務を喜んでやる人間とは思えない。大方、罰でも受けていると思っている表情だ。

「え〜と」

シンがどう説明しようか考えていると、ゼクスが代わりに答える。

「私が命じました。議長にハイネ・ヴェステンフルスがいる様に、大使にとっては彼がそれに当たります」
「ほぉ……驚いたな。シンの腕は知っているが、性格は護衛任務には向いていないと思っていたが、なるほど、君も成長したようだね」
「そ、そんな大げさな!」

シンは慌てて否定する。ハイネと言えばデュランダルの腹心として、シンも知っているエースだ。
そんな人物に比肩するとすれば、それはゼクスの方だろうと思う。
事実、ゼクスとアスランには自分が割り込めない何かがあると感じていた。

「シンは俺が1番信頼出来る人間です」

だが、アスランが肯定の発言をして息が詰まる。自分は絶対にそんな立派な人間では無いと思いながら、それでも嬉しく思えた。

しばらくの談笑の後、本題のスエズ攻略を含めた現状の説明をアスランは始める。
そして、デュランダルは一通りの報告を聞くと、真剣な表情でアスランに問う。

「で、この先はスエズの弱体を待つのは賢明では無いと言うのだね?」
「その通りです。残念ながら、ガルナハンを攻められるよりは、無理をしてでもスエズに侵攻すべきです」
「だが、戦う前に勝ちを決められないのは痛いな」
「ええ、そんな戦いは愚かだとは思いますが」

賭けの様な戦いはデュランダルの、いや真っ当な政治家の嫌うものであったが、この場合は仕方が無いと諦める。少なくとも戦争に関しては、デュランダルは自分の判断よりアスランの判断を信用していた。

「開戦まで一ヶ月弱……間に合わんな」
「何がでしょうか?」
「現在、急ピッチで2機の新型のMSを建造しているのだよ。何しろゼクスは」

そう言いながらゼクスを見る。彼のセイバーが既に限界だという連絡は受けている。

「では、ゼクス用の?」

新型の機体はアスランにしても欲しいところだった。ゼクスだけではない。残りの3人も現在搭乗している機体では、その能力を発揮しきれないのだ。
しかも2機あれば、ゼクスとシンに新型を渡して、レイとルナにインパルスとセイバーをまわせる。

「彼用というわけでも無いがね。元々はセカンドシリーズの後継として設計は進んでいたものだ。
 プロヴィデンスの後継機とインパルスの発展型だよ」
「それの完成は何時ごろに?」
「早くても2ヶ月後」

アスランは溜息を付いて首を振る。魅力的な話だが、その新型を待って、ガルナハンを戦場にする訳にはいかなかった。

「残念ですが、今回は諦めましょう……もっとも次は無しにしたいですが」

アスランの本音は、今度のスエズ戦で決着をつけたい気持が強い。出来るなら、その2機の新型が戦場に出ない事を祈っていた。

「では、今後の事も君に任せるとしよう。明日は基地の兵士の激励をするとして、今日はレイに会わせてもらうとするか」
「はい、シン、レイを呼んできてくれるか?」
「了解です」

シンは敬礼を返すと、部屋を出る。それを見送るとデュランダルは溜息を付く。

「どうも、人払いをしてるようで気が重いな」
「仕方が無いでしょう。シンに知られて良い話ではありませんから」

アスランはデュランダルの意図、異世界の話をするのだと察し、シンを外に出したのだ。
何よりもアスランが気になって仕方が無いことだった。

「それで、そちらの状況は?」
「ビルゴを所持しているのはクライン派だということは明白になった。そして、おそらくだが」

デュランダルは、一旦間を置いてから付け加える。

「キラ・ヤマトもいる。しかもフリーダムの改良型に搭乗している」
「なっ!キラが!?」
「それに関しては、その眼で見たデュオに話を聞いたほうが良いだろう」

そう言うと、デュランダルはデュオに目配せをし、デュオが先日の戦闘の事を伝える。
アスランはデュオの話を聞きながら、それがキラだと確信していた。その圧倒的な戦闘力もコクピットを避ける攻撃方法もキラ意外には考えられない。

「いやぁ〜マジで凄かったぜ」

デュオが、そう締めくくるとアスランはデュオに頭を下げた。

「すまなかった。それとありがとう……キラを見逃してくれて」
「いや……そのぉ〜」

アスランは、今の話だけで、デュオがキラを仕留める事が出来たが、それをしなかった事に感謝していた。
デュオにとってはハイネの部隊は仲間だ。それが一方的に目の前でやられていながら我慢するのは、辛かったろうと、戦士だったアスランは理解していた。
そして、重い気分になる。先の戦いで精神を壊しながらも再び戦いに身を投じた友を思いながら。
しかし、デュオも困っていた。頭を下げられたが、デュオはデュランダルに諭されるまではキラを殺す気満々だったのだ。

「でも、正直に言うと辛くなってきたぜ」

デュオが誤魔化すように話を変える。そしてアスランも、それだけで「辛い」の意味が分かった。

「ああ、キラがいるとすればビルゴが無くてもザフト軍を大量投入しなくては勝ち目が薄い」
「実際に彼の戦闘力は、どれほどだね?何とかハイネ達だけで始末を付けたいのだが」

デュランダルは質問してくる。デュランダルはキラを過小評価するともりは無いが、それでもデュオ達の力は使いたくは無かった。

「正直、難しいでしょう。キラを倒すにはシンでもまだ……」

アスランはシンの成長を驚きの目で見ていたが、それでもキラにはまだ届かないと判断する。

「それにフリーダムの強化型の性能は不明ですが、デュオの話を聞く限り、かなりの性能です。元のフリーダムでさえ、セカンドシリーズ以上の性能なのです。それの強化型となればザクやグフで戦うのは無謀でしょう」
「ふむ……困ったな」
「それに気になったのですが、その強化型のエンジン、もしかすると核融合ではないでしょうか?」
「まさか!?……いや、ある意味当然か」

核融合エンジンは、この世界でも実用化まで、後一歩のところまで開発が進んでいる。
そこに完成された核融合エンジンのMSを入手したら、当然完成する可能性が高まるだろう。

「議長はエピオンを見て、その危険性ゆえにエンジンの解析をしませんでした」
「そうだ。何故なら核融合は時期に完成すると思っている。無理をしてパンドラの箱を開けるつもりは無い」
「ですが、クライン派はすでに開いているのです。もっとも彼等が自力で核融合を完成させた可能性もありますが」
「そうだとしても、馬鹿げた話だがね」

アスランの軍人としての眼が、フリーダムの強化型を核分裂以上の出力を持つエンジンだと見た以上、その正体は核融合の可能性は充分にある。
その上で、デュランダルは、その技術を異世界のMSから抜き取ったのなら兎も角、自力で開発した場合は、一国の科学技術よりも、秘密結社の方が高い技術力を持っている事になると苦笑した。
だが、次の瞬間眉を顰め、苦々しげな声を出す。

「どうも私自身が大変な見落としをしていたようだ」
「え?」

アスランはデュランダルの見落としについて聞きたかったが、デュランダルは違う質問をしてきた。

「私は、ラクスがビルゴを使おうとする気持は理解できるつもりだが、君はどうだね?」
「はい、強力な無人機……非常に魅力的な兵器です」
「え?ちょっと待ってくれよ」

隣でデュオは意外そうな顔をする。最初に自分達がビルゴの事を伝えたときは2人とも嫌悪感を滲ませていた。デュオが、その事を指摘するとアスランは自嘲めいた笑みを浮かべる。

「軍人としては今でも気に入らないさ。だけど今俺がいる場所は、人に死ねと命令する場所なんだ」

デュオは、その表情を見て言葉に詰まった。先日気付いたアスランの逃れられない血塗られた過去と部下に危険な戦地へ行けと命令する苦しみ。
だがMDならば部下に死ねと命令せずに済むのだ。デュランダルが補足するように続ける。

「無論、戦場で命を懸ける者の苦しみを否定する気は無いが、我々の立場は、人の命を数字として考えねばならんのだよ。だが実際は、その数字の中に親しい者が混ざっている事は決して少なくは無い。だからこそ我々は考えねばならんのだ。如何に人の死ぬ数字を少なくするかを」
「それだけでは無い。実際に私はアレを使ったのだぞ」

それまで沈黙していたゼクスも自嘲の笑みを浮かべながら言う。

「クライン派のように正規の軍隊を持たぬ組織にとって、MDほど魅力的なものは無い。さらに人に言いにくい命令を下すときには特にな……例えば人類を虐殺しろなど……」

デュオは沈黙した。MDに対する嫌悪感から単純にクライン派を嫌っていたが、それぞれの立場に立つとやはりMDは簡単には拒否しづらい。あっさりと否定したデュランダルとアスランが稀有なのだ。

「私が異世界の力を否定できたのは、最初に遭遇したのがエピオンだったというのが大きい。
 あれは、ごく一部の例外を除き、人に使えるものでは無いからね。もし最初に見つけたのがビルゴでその後、君たちと出会わなかったら、私は解析を続けていただろう」

デュランダルの自嘲めいた声に、ゼクスは真剣に答える。

「当然の責務ではあります。その条件で解析をしなかったら逆に無責任でしょう」

正体不明のMSを発見すれば全力で解析するのは当然だろうとデュオも思うし、その事でデュランダルを攻める気はなかった。だが、デュランダルは否定するように頭を振る。

「違うのだよゼクス。確かに私はビルゴを解析しても使わないと思う。何故なら現状では使う必要性が無いからなのだよ。これはアスランの功績が大きい」

まずゼクスが気付いた。続いてアスランとデュオも。
デュランダルの言う見落としの部分。全員がビルゴの性能に眼を奪われていた。おそらく手に入れたクライン派も同様だろう。
だが、ビルゴの真の恐ろしさは、その性能では無く、正に『パンドラの箱』だという事なのだ。

「ガンダニュウム合金は無理でも、核融合エンジン……そしてモビルドールシステム」
「そうだ。我々は今は優勢だから使わないなど立派な事が言えるが、これで戦況が不利になったら、どうするね?」
「使わないと言える自信はありません。それは他の勢力も同様でしょう」
「その通りだ。クライン派は無論……連合もね」
「最悪、ラクスが使ったビルゴが連合の手に渡る可能性もあるという事ですね」

部屋の中が重苦しい沈黙に覆われた。数に劣るザフトはMDがあればパイロット不足が補われ、質に劣る連合はMDならば、優秀なパイロットのデーターを入れればコーディネータにも対抗出来るのだ。
何もビルゴで無くても構わない。ウィンダムでも普通のパイロットが乗るより、例えばガンダム強奪犯や入手可能ならキラ・ヤマトのデーターで動くMDの方が脅威になる。
つまりは手に入れた側は、圧倒的な力を手にし、簡単に現在の戦力バランスが崩れるのだ。
アスランの言う、支持者を集めた方が勝つという考えはあっさりと壊れる。

「デュオ、聞きたいことがある」

その沈黙を打ち破るような力強い声でアスランはデュオに問いかける。

「ん?何だよ?」
「君は……デスサイズだったよな、君のMSならキラのフリーダムに勝てるんだな?」
「ああ、悪いが、奴の攻撃を多少喰らっても相棒ならビクともしねえ。スピードもこちらが上だ」

そうすれば、逃がす事無くフリーダムの目前へと行ける。そうなったらデスサイズに勝てる筈が無い。

「だったら、キラを殺さずにMSだけを破壊する事は?」
「……楽勝♪」

デュオはアスランの意を察していた。キラを殺せばラクスの更生は不可能だ。だったら殺さなければ良いだけの話だ。

「一応は他のメンバーにも伝えとく。でもよぉ、キラがもう一度、俺達の前に出てくるかはわかんねえぞ」
「それこそ、こちらの探索部隊の仕事だ。君たちはハイネの探索部隊が、キラに攻撃を受けた時にキラを確保してくれれば良い」
「わかった。そう言や聞きたいことがあったんだけどよ」
「なんだ?」
「キラは何で敵を殺さねえんだ? そりゃあ、今回アスランが言ったように敵を確保するとかなら分かるんだけどよぉ、聞けば2年前の三つ巴でも同じ事やってたんだろ?」

デュオの質問にアスランは沈痛な表情を見せる。

「殺したく無かった。でも……いや、だからこそ戦争は止めたかった。はっきりと言ってしまえば、戦場で“殺されなかった者”の気持なんか考えてはいなかった。ただ殺したく無いという自分の気持ちに従っていただけさ」
「それって毎度恒例の、先の事なんて、なぁんも考えて無いってやつ?」
「耳が痛いが、その通りだ」

アスランは苦笑しながら、ある意味デュオのようにはっきりと言ってくれる方が気が楽だと思った。

「まあ、その辺も含めてキラとは一度じっくり話したいんだ。さっきの件、頼むぞ」
「お〜け〜、お〜け〜♪任せときなって」
「すまな……あっ!」

アスランはそこまで話して、自分がデュランダルの意見を聞かずに勝手に話を進めている事に気が付く。

「議長!勝手に決めて申し訳ありません! その反対でしたら…」
「いや、構わんよ。私もアスランの意見に賛成だ」

デュランダルは先程から黙っていたが、実はアスランに驚いていた。
確かにビルゴの真の危険性に先に気付いたのはデュランダル自身だが、核融合の可能性も、その対処も自分よりアスランの方が先に気付いていたのだ。
デュランダルは、アスランとデュオの会話を聞きながら、アスランが自分を超えるのも遠くは無いと確信していた。
ならば、今は予定通りスエズを落とし、その後はアスランが主導権を握り停戦を進める。
そこまで行けばアスランに議長職を譲れるだろう。その時は自分より優れた政治指導者になっていると期待していた。
そんな未来の青写真を描いていると、シンがレイを伴い戻ってきた。デュランダルが議長職に就いて以来、レイは同時にザフトのアカデミーに入ったため、2人はゆっくりと話せる時間も取れなかった。
最愛の恋人との間に子供が出来ないと分かってから、その恋人とは別れた。だが、その辛さを養子にしたレイのおかげで癒す事が出来た。
デュランダルは、レイを笑顔で向かえながら戦後に思いを馳せていた。

アスラン達はデュランダルとレイを残し部屋を出た。折角の家族の団欒を邪魔するほど野暮では無い。
護衛のデュオもレイが一緒なら大丈夫だと言われ同行する。

「さてと、少し喉が渇いたな」

アスランが基地内の食堂に行く事を提案して、そこへ向かっていると、ミネルバの艦長タリアが近付いてきた。基地に用事があったのだろう。彼女はアスランに気付き、声を掛けるが、見知らぬ人間もいるので、何時もと違い敬語を使う。

「デュランダル議長との会見は終わったのですか?」
「ええ、今はレイと話しています」
「……そう。それは何よりね。それでは失礼します」

アスランは、そう呟く彼女が、どこか嬉しげであり、同時に寂しそうだと思えた。

「何か艦長、様子が変でしたね」

シンも気付いたらしく、アスランに聞いてくるが、アスランは触れてはならない事だと感じていたので、シンには気にしないように注意して、目的の食堂へと向かった。

一方、宇宙では、デュオが聞けば、この前落とさなかったのを後悔し、アスランの場合は自分が後手に回った事を後悔する会話がなされていた。
クライン派のビルゴ輸送が決定したのだ。同時に目前に迫ったビルゴの起動前に余計な動きでザフトに見つからないように慎重に動くようにも徹底させていた。先のハイネとの会話により、デュランダルもビルゴを手に入れている可能性を検討したためだ。
実際はビルゴでは無いのだが、クライン派にはガンダムの情報は無いため、当然の思考として同じものを手に入れたと考えたのだ。
そのため、ザフトより先に起動させるのは勿論、入力しているキラのデータを最大限に生かすために飛行ユニットを付ける事になった。それには、いくつかある工場に分散させる必要があり、結果的には万が一見つかっても全滅は防げると考えていた。
ラクスは、説明を受けながら、飛行ユニットについての質問を技師にする。

「ところで飛行ユニットとはストライクのエールパックの様なものと考えれば良いのでしょうか?」
「基本的には同じですが、出力は弱めです。ビルゴはストライクより小型ですし、ショルダーが大きいため、巨大なパーツはつけられません。もし付けたらアームの可動が制限されますので」
「それで飛べるのですか?」
「ご安心を。ビルゴの重量なら簡単に飛ばせます。運動性もフリーダム以上になりますよ」

ラクスはキラのフリーダム以上の動きをするMSが大量に暴れる姿を想像し、頼もしさよりも恐怖を感じた。キラのフリーダムは1機で戦局を変えれる力を持っているのだ。

「そこまでする必要があるのでしょうか?」
「ザフトが手に入れた可能性が高い以上は必要だと思われます。向うは我々以上の数を持っている可能性だってあるのですから」
「確かにその通りですね」

ラクスは沈痛な表情で自分に言い聞かせるように呟いた。
だが、技師はラクスの沈んだ表情の原因を自分達が飛行ユニットを付ける決心をした理由と同じく、ザフトへの恐怖と勘違いしていた。

「大丈夫ですよラクス様。我々のビルゴにはキラ様のデータを入力するのです。ザフトが何機保持していたとしても恐れる事はありません」
「……そうですね」

ラクスは、ビルゴを見上げる。この機体にはキラのデータが入力されるのだ。だったら今感じる恐怖も消えるかもしれない。
あの優しいキラが、人殺しを嫌う彼の意思が乗り移れば、この機体はキラと同じく頼もしくて優しく感じるだろうと自分に言い聞かせていた。

「それでは、移動の件はお願いします」
「了解です。ところで“悪魔の左腕”は如何しますか?」

それを聞いてラクスの顔が曇る。その名を付けられるに足る禍々しい血の色をしたMSの左腕が発見されたのだ。その報を受けて以来、ビルゴに対する恐怖が余計に大きくなっていた。

「どうとは?あれは使えないのでは?」

ビルゴや“悪魔の左腕”を構成する材質は、一種のオーパーツで作成は勿論、加工も不可能だった。

「そうなんですが、ぜひジャスティスの強化型に移植したいと言う者がいまして」

ラクスは頭を抱えた。そんな子供じみた強化を考える技師に心当たりがあった。ストライクフリーダムを作った人物だろう。何の目的も無しに、やたらと強力な武器を付けたがる子供じみた発想の持ち主だった。
キラが口には出さないが随分と嫌っていた。

「出来るのですか? 第一サイズが違うのでは?」
「私は無理だと思うのですがね。この金属は加工しようが無いですから、分解されたのなら兎も角、例の左腕は明らかに斬られています」
「判断は任せます。あの腕はあっても仕方がありませんから」

ラクスは心の中で、パイロットのいないジャスティスもと付け加えた。