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W-DESTINY_第18話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:00:15

「へぇ〜そうなんだ。隊長の将来の弟さんの友人だったんだ」
「まあ、そういうこった。よろしくなシン」
「ああ、こちらこそデュオ」

食堂で自己紹介をし合ったシンとデュオは意気投合していた。デュオは誰とでも親しくなれるし、シンもゼクスの知り合いと聞いて親しみを感じた。
ちなみにデュオは、自分の素性を、ゼクスの妹の恋人の友人と明かしていた。しかもゼクスの妹と彼の友人とはラブラブで、ゼクスの妹はストーカー顔負けの熱の上げ方で、デュオの友人は彼女のためなら死も厭わないほどのカップルだと暴露した。嘘を付く場合のコツ“適度な真実を混ぜろ”を実行したのだが、ゼクスが引き攣っているのをアスランは見逃さなかった。

「デュオ、あまり人に話すことでは無いと思うが?」
「良いだろ別に……なんだったら、オメェが妹の前に顔を出せずに仮面を被っていた話の方が…」
「ホントか「止めろ!」

シンの興味を打ち消すためにゼクスは大声で遮る。ゼクスは溜息を付きながら、デュオが異世界の話の核心に触れる事無く、これだけ喋れるのに感心していた。それはアスランも同様で、デュオの話術に尊敬の念すら抱いた。

「その……リリーナとヒイロの話だったら構わんから、私の事は言うなよ」
「ノインの「言うな!」……OK」
「ノインって誰?」
「ああ、ゼクスの「だから言うなと言っている!」

ゼクスはシンが興味を持ってしまっているので、何とかして話題を変えることにする。
そこで普段だったら聞かないことに触れる事にした。

「そう言えばシン、今度は何時会うのだ?……たしかステラといったな」
「え!そ、それは〜」

デュオはゼクスの意図を察していたが、これ以上ゼクスの過去に触れるのも良くないので、あえてゼクスが変えた話題に食い付く。

「お! 何だよ。恋人がいんのか?」
「べ、別に恋人ってわけじゃ」
「良いじゃねえか。教えろよ」

シンはステラの事を少しずつ話はじめた。すでに何回か会っているが恋人と呼べるほど深い仲ではないらしい。

「へぇ〜、微笑ましい関係だな。で、今度は何時会うんだって?」
「よ、6日後にまた」

シンの答えにゼクスは、それがスエズ攻略前の最後となるだろうと予測していた。
明るい雰囲気に包まれながらも、スエズ攻略は目前まで迫ってきているのだった。

それから6日後、デュランダルとデュオは再び宇宙に戻り、シンには最後の休暇が訪れた。

「……遅い」

ステラは、シンとの待ち合わせ場所に到着して、30分過ぎてから悲しそうに呟いた。

「早く来すぎたんだって」

ステラの呟きにアウルが呆れたように反論する。実は約束の時間の1時間も前から待っているのだ。
ステラがシンに会いたがる気持ちは分かってやれるが、付き合わされるアウルは堪ったものではない。
だからと言って、1人で行かせると、それこそ前の日から待ち続けかねないのだ。

「でも、早く会いたい」
「だからって、早く来たってシンが来なけ…」
「シン♪」

アウルの話の途中で、ステラは嬉しそうな声を上げ立ち去ってしまった。シンも早めに来たのだ。
ステラはシンに抱き付くと、頬擦りを始める。その姿は動物みたいで微笑ましくはあるが、同時に公共の場を弁えないバカップルにしか見えなかった。

「その辺にしとけよ」
「ゴメンなアウル。何時も付き添ってくれて」

シンはステラを引き離しながらアウルに礼を言う。ステラは不服そうだが、流石にシンも恥ずかしかった。

「良いって、それよりステラ、ジュース買ってきて」

アウルは、ステラに小銭を渡しながら飲み物の種類を伝える。元々、付き添った代わりに言う事を聞く約束なので、ステラは少し離れた場所に置いてある自販機へと向かった。
ステラならジュースを買うだけでも時間が掛かるから、アウルはその間に目的を果たそうとする。

「さてと、持ってきてくれた?」
「ああ、これなんだけど」

シンはポケットからピンク色の携帯電話を出すと、アウルの前で開いてみせた。

「……この子がシンの妹か」

アウルは、2度目に会ったときに、シンがインパルスのパイロットだという事の確認を取っていた。
そして、前に会ったときに妹の写真を見たいと伝えたのだ。シンは快く引き受け、マユの形見の携帯を持ってきた。

「これが、初めてクッキーを焼いたときの写真で……」

シンは自慢の妹を紹介するように1つ1つ写真の思い出を語るが、アウルは聞き流していた。
そしてタイミングを見計らって、シンに頼み込む。

「なあ、頼むから、絶対に写真はステラに見せないでくれよ」
「え?……なんで?」
「可愛いから、ステラ妬いちゃうだろ。お前が妹さんの話ばっかりするから」

冗談めかしながら、シンが妹のことを話すとステラが嫉妬すると伝えた。
シンは、言われてみればステラの前で、マユの話をよくしていると自覚あったため了承する。

「わかった。そうだよな。ステラには、あんまりマユの事話さないでおく」
「ゴメンな。僕達の休暇も、そろそろ終わりだからさ」
「え?そうなの?」

シンは驚いて聞き返すが、考えてみれば当たり前だと思い直す。そろそろ1月が経とうとしているのだ。

「じゃあ、連絡先を教えてくれないかな。こっちも戦争が一段落したら、また会いたいし」
「ああ良いぜ。これな」

そう言いながらアウルはカードを差し出す。そこにはアウル達がやっている会社の名前と連絡先が書いてあった。

「言っとくけど、今電話したって誰も出ないから。なんせ社員は全員ここにいるから」
「分かってるよ」

アウルの冗談に笑いながら、携帯電話と一緒にカードをポケットにしまう。
そして、シンがポケットに収めたと同時にステラがジュースを片手に戻ってきた。

「はい、アウル」
「サンキュ、じゃあ、ゆっくりと遊んでこいよ。7時になったら此処に迎えに来るけど、もし別の場所に泊まりたいなら、そん時言ってくれ。止めないから」
「と、泊まらないって!……もう、じゃあまたな」
「行ってくるね♪」

アウルはシンとステラが去って行くのを見送ると、ベンチに腰を下ろし、ステラが買ってきたジュースに口を付ける。
そして一口飲んで溜息を付くと、そっと呟いた。

「なんだよ……あのガキ、すっげぇ幸せそうに笑ってるじゃねえか」

アウルの頭の中では、携帯の画面の中で幸せそうに微笑んでいるマユが消えなかった。

ステラはシンの腕にしがみ付いて、幸せそうな笑みで歩いていた。
だが、無邪気なステラに比べ、シンは肘に当たる胸の感触が気になり、落ち着かなかった。

「そ、その……ステラ、あまり引っ付くと」

通行人の視線を気にしながらシンは伝える。さっきから擦れ違う人、全員に、ジロジロと見られている気がするのだ。

「ん?……ステラが近付くとイヤ?」
「そ、そうじゃなくて!その、少し歩きにくいかなって……」
「じゃあ、もっと、ゆっくり歩く」

ステラは、さらに歩くスピードを落としたため、後ろを歩いていた人まで、追い抜き様に視線を浴びせる。
その表情は、前をゆっくりと歩いているバカップルの顔を確認している雰囲気だった。
シンが恥ずかしがっていると、ステラが飾り物の露店を見つけ興味を示した。

「シン、あれ、なに?」
「ん?……何かの御守りっぽいけど」

シンはステラに腕を掴まれたまま露店に向かい、品物を見る。テーブルに広げられているのは、目玉の様な模様の石をペンダントやブレスレットにした物だった。看板に災い避けの御守りと書かれていた。

「やっぱり、御守りだよ」
「おまもり?」
「うん、これを付けていると悪い事から守ってくれるんだって」

それを聞いたステラの表情が、さらに明るくなる。

「守るの? これ欲しい」
「そうだね……じゃあ、どれが良い?」

アクセサリーの種類を示しながら、ステラに尋ねる。
ステラは、しばらく悩んだ後ペンダントを選び、シンは同じものを2つ購入した。

「はい、ステラ」

シンはステラに手渡すが、ステラは付け方が分からないらしく、頭に載せるとそのまま押さえつけ始めた。

「ちょっと! 違うって!」
「ん?」

シンは笑いながら、ステラのペンダントを手に取ると鎖の止具を外す。

「ジッとしてて」

正面からステラの首に付けようと、鎖を首に掛けた時、ステラの顔が目の前にあるのに気付く。
シンは、今の状況が周りにどう見られているかが気になり、そっと周りを見るとニヤニヤにている店員と眼が合った。

「ば、場所を変えよう」

シンはステラの手を握ると、店員の生暖かい視線を浴びながら、慌ててその場を立ち去った。

シンは我を忘れて走り続け、気付いた時には街から離れた海岸線に辿り着いていた。走り続けたため乱れた息を整えるながら、無理矢理に引っ張ってきたステラを見る。

「わあ……」

怒ってないか心配だったが、ステラは水平線に落ちる夕日を見詰めながら、うっとりとした声を上げ、ご機嫌だった。
シンは夕日に染まったステラの表情に見惚れて、彼女がコーディネーターの軍人の自分の全力疾走に付いて行き、息も乱していない事を見落としてしまっていた。

「きれい」
「え〜と、ステラ、ペンダント付けようか?」
「うん♪」

シンは高鳴る動悸を抑えながら、ステラにペンダントを付ける事を促すと、ステラは嬉しそうにシンを正面から見詰めた。

「じゃ、じゃあ、ジッとしてて」

ステラは頷くと大人しくしている。その姿は犬が信頼する飼い主に首輪を付けてもらっている姿を連想させ微笑ましくはあるが、シンは逆に無垢な少女に首輪を付けるみたいで背徳感に襲われた。
しかし、今更止めるわけにも行かず、シンは高鳴る動悸を気にしながら、なんとかステラにペンダントを付ける事に成功する。

「うん、似合うよ」
「ありがとう」

ステラは、シンに褒められると、頬を赤く染めて喜ぶ。精神の幼い彼女は自分の気持を理解しかねたが、シンに褒められるのは何よりも嬉しかった。

「そうだ、シンも付ける」

ステラはそう言うと、もう1つ勝ったペンダントをシンに付けるように急かした。

「うん、わかったよ。ちょっと待ってて」

シンがもう1つのペンダントの鎖を外したとき、ステラから静止の声がかかる。

「シン待って、ステラがする」

ステラはシンからペンダントを受け取り、シンの首の後ろに手を回す。
だがステラは鎖の止具を上手く掛けられずに苦労していた。

「ん?……うっ……」
「え?……」

シンはステラの息が当たるのを感じ、さらに動悸が高まった。ステラがペンダントを付ける事に成功する間、2人は互いの息遣いを感じる程に顔を近づけたままであった。

「出来た♪……うぇっ?」

ステラがペンダントを付ける事が出来て喜んだ瞬間、シンは彼女を力強く抱きしめていた。

「空き缶はゴミ箱にって習わなかったのか、テメエは?」

アウルは、ボーっと夕焼けに染まる空を眺めていると良く知る声が耳に入った。声の主スティングはアウルの足元に転がっている空き缶を拾って、近くのゴミ箱に投げ入れる。

「スティングか……お前こそ、どこの若奥さんだよ?」

スティングが抱えた紙袋から、フランスパンが見えているのを見て毒づく。

「なあ、その紙袋の中って……」
「残念だが、オレンジやリンゴじゃ無えぞ」
「本気で残念だ。坂道で転ばしてやろうと思ったのに」

アウルは、古いテレビドラマで、ちょうど今のスティングの様な紙袋を抱えた女性が、坂道で荷物を落として中から溢れてきたオレンジやリンゴを追っかけるシーンを何故か気に入っていた。

「ほらよ」
「サンキュ」

スティングが紙袋から缶コーヒーを差し出すと、2人はしばらくの間、黙ってコーヒーを飲んだ。

「で、何があった?」
「別にぃ〜、なんも無えよ」
「ステラの事か?」

スティングの質問にアウルは沈黙する。ステラも無関係とは言えない。だがスティングは、その沈黙を肯定と受け取った。

「そうか、まさかとは思っていたが」
「薄々は気付いていたんだろ?」
「まあな」

アウルは、シンがインパルスのパイロットと気付いてから、気が重くなっていた。
アウルにとって、シンは“良い奴”だった。以前インパルスのパイロットに対し予感した通り、友人になれる人間だ。ステラがシンを独占するため長い間は一緒にいれないが、もっと話していたいと思える人物だった。

「あんまり気を落とすなよ」
「わかってる」

アウルは気分を変えるためにもコーヒーに口を付ける。

「そうさ、潔くステラは諦めろ。ステラの他にも良い女はいるって」

アウルは盛大にコーヒーを吹き出していた。

「何だ! 汚ねえな!」
「馬鹿かお前は!なに勘違いしてんだよ!」
「ん?テメエがステラに惚れてて、シンに取られたから」
「違うって!んなわけ無いじゃん!」
「それなら、何を悩んでたんだよ?」
「そんなに聞きたいのかよ?」
「聞きたいね。このままじゃ気になってしょうがねえ」

スティングはアウルと違い、今は記憶の消去を行っていなかった。だからこそアウルとしては彼には聞かせたくなかったのだが、本音では誰かに聞いて欲しかった。それにステラの事を誤解されたままでは気分が悪い。

「そうかよ……だったら教えてやる。お前の料理の師匠はシンの妹だ。生きてたんだよ!」

だが、アウルの言葉にスティングは表情も変えなかった。

「その事かよ。だったら検討は付いてたさ。マユとめし作ってる時に、アイツの兄貴の特徴聞いたしな」
「そうか……今日シンに写真見せてもらった」
「……で、感想は?」
「凄く可愛かったよ。今とは大違い」
「劇的ビフォーアフター?」
「ほとんど別人。笑っても怖く無えもん」
「そりゃあ、大違いだ」

アウルは話を打ち切ろうとするが、スティングはアウルが落ち込む理由が、まだあると感じていた。

「で、他には?」
「他って何だよ?」
「アウルは俺がマユの事を気付いてるの知っても驚かなかったろ?」
「…………」
「テメエだって、俺が感付いてると思ってたんだ。それだけなら俺に言うのを躊躇ったりしねえ。だから他にもあるんだろ?」
「……言うぞ」
「来い」
「シンはインパルスのパイロットだ」

アウルは、それだけ言うと、残りの缶コーヒーを喉に運んだ。

「……そいつはキツイな」

スティングも、それだけしか返す言葉が無かった。

ルナマリアは訓練後にシャワーを浴び、食堂でコーヒーを飲みながら休息を取っていた。
その姿には何時もの元気が無かった。
すでにグフにも随分と慣れたと言える。宇宙空間と違い、大気圏内は上昇と下降のスピードが段違いだが最初のポジション取りさえ上手くやれば、圧倒的に優位に立てる。逆に言えば敵に優位な場所を奪われない様に気を付ければ良いのだ。長距離戦が出来ないのは難点だがグフはウィンダムよりスピードが上だから、慣れさえすればザクより遥かに使い勝手が良かった。

「あ〜あ……何だかなぁ」

だからルナマリアの元気の無さは、訓練のことでは無い。プライベートの事だった。

「元気が無いようだな」
「え?……なんだレイか」
「俺で悪かったな」

レイは苦笑しながら、ルナマリアの向かいに腰を下ろす。

「シンの事か?」

レイの直球な質問にルナマリアは咽そうになるが、年頃の女として見っとも無いマネは出来ずに我慢する。

「な、なんでよ!?」
「ステラと一緒だから落ち着かないのだろ?」
「……私がシンを好きだって知ってたんだ」

ルナマリアは観念して首を縦にふる。

「気付いてない人間の方が少ないな」
「そっか、メイリンにしか言ってないから気付かれていないと思ってた。シンがあの調子だし」
「アイツが特別に鈍いだけだ」
「でもステラは一度会っただけでシンの心を奪った。なんかさ、シンってステラと会うたびに明るくなるって言うか……幸せそうなんだよね」
「そうだな、だがルナマリアといると落ち着きが出る」
「それって、私の事を女として見てないって事じゃない」
「そうか?……ステラの方こそ妹を重ねてる様に見えるが……それにアイツの不安定さは知っているだろう。
 お前の前で落ち着くのは、それだけお前に気を許している証拠だ」
「それもアスランさんと隊長に負けちゃった」

以前のシンは精神的に未熟さが目立ち、ルナマリアはフォローをする事が少なくはなかった。
しかし、今のシンは足が地に付いている感じがする。そうなったのはルナマリアの力よりアスランとゼクスの影響の方が強い。
それは誰が見ても分かる事実なだけにレイも次の言葉が出なかった。

「何でシンの方を好きになったんだろ。一緒にレイもいたのに」
「さあな」
「私がレイを好きになっていたら、レイはどうする?」

レイは顔をしかめる。想像以上にルナマリアは参っているようだ。普通は告白でもない限りこんな質問はしない。
そしてルナマリアが、こんなに簡単にシンから自分に心変わりをするはずが無いと知っている。

「俺の事は知っているだろ?」
「あ?……」

ルナマリアはシンと自分にだけ打ち明けられたレイの秘密を思い出す。そんな事も忘れていた自分が情けなく思えた。

「俺に、自分が死んだ後、残された女の気持を無視する人間になれと言うつもりか?」
「ゴ、ゴメン……」
「気にするな」

レイは言葉遣いがきつかったと自省する。それにルナマリアに冗談で告白まがいの言葉を言われて胸が痛んだ。
だから言いたい事を言って立ち去ろうと決意する。

「まあ、シンとステラ、それにお前がこの先どうなるかは知らん。だが俺はシンにはステラよりルナマリアの方が似合うと思っている。それだけだ」
「え!」

ルナマリアは席を立ち上がるレイを見詰めながら、少しだけ勇気が湧いてくるのを感じた。
ずっと一緒だったレイが、そう言ってくれるのは他の誰が言うよりも心強い。立ち去るレイの背中に向け礼の言葉をを伝える。

「ありがと。少しは元気が出てきた」

嬉しそうな声が背中から聞こえた。だがレイは、そのまま振り向きもせずに食堂を立ち去った。
諦めたはずの自分の身体の宿命を呪いながら、今はルナマリアの顔を見ることが出来なかった。

シンは衝動的に抱きしめた後、自分で取った行動にパニックを起こしていた。

(な、何やってんだよ!俺!?)

腕の中にステラの温もりを感じる。彼女が少しでも抵抗してくれれば、それを切欠に手を放すことが出来るのだが、ステラは大人しく抱きしめられたままだった。

「なんか、どきどきする……でも、落ち着く」

さらに抵抗どころか、そのまま身体を密着させてきた。

「えぇ〜と……」
「ん?」

シンが胸に顔を埋めるステラを見ながら、戸惑っているとステラが顔を上げシンの眼を見詰める。
最初に見たときは、あれほど怖かった真紅の瞳が、ステラにとって今は何よりも好きなものだった。
シンは、その純粋な好意に満ちた目を見ると、どうしてもマユを思い出してしまう。
かつて、何よりも大切で守りたいと願いながら失ってしまったもの。
だからこそ、シンは全てを守りたいと願った。決して何か特別なものでは無い。

(そうなのか?……俺は隊長に言われるより、ずっと前に気付いていたのか?)

シンがインド洋の基地で暴走した後、ゼクスに全てを守るのは不可能だと言われ、それに納得していた。
それは逃げだった気がしてきた。あの苦しみを再び経験したくないため“特別な誰か”では無く“全て”を守りたいという不可能な事に挑戦したのでは無いか?
最初から不可能だったら、失敗してもショックが少ない。現にガルナハンではショックは受けたが、2年前に家族を失った痛みに比べれば遥かにマシだった。
そしてミネルバの仲間は、助け合う存在で一方的に守りたいだけの存在では無いから比べようも無かった。
だが、今その“特別な誰か”が出来てしまった。もう自分の気持を否定する事は出来そうに無かった。
ステラを失うような事があれば、耐えられないと知りつつ決意を口にした。

「ステラ」
「ん?……なに?」
「守るから。俺、何があっても絶対にステラの事を守るから」
「うん♪」

間近で見詰めるステラは本当に綺麗だと思いながら、目の前にあるステラの唇に目が行く。口紅は無論、リップクリームも塗っていないが、とても美しく、それに引き寄せられそうになっていた。

「シン?……ん?」

シンは再びステラを抱きしめていた。それは危うく口付けをしそうになったのを避けるためだった。
シンは口付けをしようとした瞬間、何故か出かける際に自分を見送ったルナマリアの寂しげな顔が浮かんでいた。

「さてと、そろそろ帰るか」

スティングは空き缶をゴミ箱に放り投げる
とベンチから立ち上がった。

「行くの?」
「ああ、そろそろメシの支度しねえとな。あんまりマユを待たせられねえだろ。あんなんでも俺の料理の師匠だし」
「美味いの期待してる」
「わかったよ……だが今まで失敗はなかったろ」
「そうだな」

アウルは笑いながら頷く。こと料理に関しては優秀な師弟だった。

「お前も、ステラが戻ってきたら……って、外泊って可能性もあるか?」
「それは無いね。シンにそんな度胸は無い。頑張ってキス止まり」

アウルは確信に満ちた声で言う。それだけシンの事を理解している。

「そうか、じゃあな」
「スティング」
「ん?」

スティングは歩き出した瞬間に呼び止められ、再び振り返る。

「頼みがある」
「何だよ?改まって」
「僕は帰ったら記憶、消されちゃうだろ。だから、その後言って欲しいんだ」
「……何を?」
「インパルスは、お前が殺れって」
「…………」
「ステラとマユには殺らせたらダメだ……だからシンは…インパルスは僕が殺る」
「……わかった」

アウルは去って行くスティングを見送りながら、もうすぐステラを連れて戻ってくるであろうシンを普段どおり迎えようと、気分を落ち着かせるのに集中し始めた。