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W-DESTINY_第20話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:01:17

「くぅっ!」

アウルが悲鳴に似た呻き声を上げる。アビスの右腕をビームランスごと斬り飛ばされていた。

「まだだ」

シンは冷笑を浮かべながら蹴りを放つと、アビスは吹き飛ばされ艦橋を背に尻餅を付く。
その状況は奇しくもインド洋の基地での状況に似ていた。あの時はカリドゥスのビームで左腕を盾ごと吹き飛ばされたインパルスが、基地のフェンスに今のアビスの様にもたれ掛かっていた。
シンは倒れたアビスを見て嘲笑う。今まで散々目の前で暴れてきた、非常に目障りな相手だった。

「さて……そろそろ死ぬか?」
「くそっ!」

わざわざ接触回線で通信を入れてくるあたり、最悪な性格だとアウルは思う。

「そんな奴だったとは……」

アウルは自分の思っていたイメージと大きく異なる事に不快感を抑えきれない。
そして、その声に聞き覚えがある事が余計に苛立ちを大きくする。

「うぇぇい!」

そして、インド洋の戦いと似ているのが、もう1つ。倒れた者を庇うガイアの姿。
しかし、あの時とは違う。インパルスとアビスの立場が正反対なのだ。インパルスにガイアを攻撃しない理由は無かった。既にインパルスの攻撃によりビームライフルは失い、至る所に損傷を受けている。
それでもステラはアウルを守るためにビームサーベルでインパルスに斬りかかった。

「死に急ぐなよ……いや」

シンはガイアの攻撃を、簡単にかわすと対艦刀を一閃させ、ガイアの首を跳ね飛ばす。

「え?」

ステラはメインモニターのある頭部を無くし、一瞬で真っ暗になったコクピットで驚愕する。

「うっ!」

身体が中を舞うような感覚が襲い、続いて襲った強い衝撃に声を漏らす。
ステラには周りが闇に包まれているため理解出来なかったが、シンはガイアをアビスに重なる様に投げ飛ばしたのだ。

「まとめて死ね♪」

シンは彼を知るものが見たら言葉を無くすような凄惨な笑みを浮かべていた。
エクスカリバーを連結させアンビデクストラスフォームにすると頭上で振り回す。

「命乞いなら聞いてやるぜ」

アビスの足を踏み接触回線で伝える。その間も回転を上げ続ける。

「ふざけろよ。ボケェ!」
「ハハッ♪良い返事だ。どうせ聞きはしても聞き届ける気は無かったしな!」

シンは一歩下がるとエクスカリバーを振りかぶった。

ステラは暗闇の恐怖と、先程まで聞こえていたアウルとインパルスの会話に怯えていた。
そして救いを求める。自分を守ってくれる存在に。心の奥に閉じ込められた紅い瞳の少年が、封じられた殻を破りステラの記憶に蘇る。

「シン、助けて!」

ステラは胸のペンダントの位置を抑えながら叫ぶ。
だが、その言葉は届かない。それどころか自分を今、殺そうとしているのが、その少年なのだ。

「シン?」

だが、シンに届かなかった言葉が聞こえた人物がいた。接触回線で届いた悲鳴にアウルが反応する。

「それだけはさせない!」

アビスの腕を大きく振り、ガイアを自分の上からどかすと、そのガイアに向け、シールドのM68連装砲を放つ。炸裂式の砲弾はガイアを傷つけずに吹き飛ばした。

「落ちろぉぉ!」

アウルは、その刹那の間にガイアを海中に沈めて逃がそうとする。だが。

「ぐぅぅ!」

無情にもエクスカリバーは振り下ろされ、アビスの肩から胴体まで刃が埋まる。

「ふん。仲間を庇うか……健気だな」

シンの目の前でアビスが各所から火花を撒き散らす。そしてPS装甲がシフトダウンして灰色の無機質な物体になった。

「さてと」

破壊したアビスに背を向け、あと少しで海に落下するという位置に止まったガイアに足を向ける。

「頑張って仲間を庇った褒美だ。ククッ……その仲間をアンタの所へ送ってやるよ。地獄にな。これで寂しくないだろ」

エクスカリバーの連結を解き、両手に構え、ゆっくりと歩を進める。

「―っ!」

だが、インパルス目掛けて閃光が奔り、シンは回避せざるをえなかった。

「アイツ!」

シンの目に海上を疾走するカラミティが映る。そしてガルナハンでの屈辱を思い出した。

「そう言えば借りがあったよな!」

マユはJPジョーンズの甲板に上がると、ガイアを庇う位置に立ち傷付いたアビスに通信を入れる。

「アウル! 大丈夫!?」

ほとんどの通信機能を無くしているカラミティにとって、わずかに残る通信可能な相手がファントムペインのメンバーのMSだった。その仲間に懸命に呼びかけるが通信機は沈黙を保っている。

「返事しろ! ガキ面!」

マユはアウルの悪態を聞きたいと願った。こんなことで死ぬほど柔な奴では無いと信じていた。
しかし、マユがいくら叫んでもアウルの返事は返ってこなかった。

「そんな……ステラっ!」
「マユ?」

ステラからの返事を聞き少しだけ安堵する。

「大丈夫?」
「うん……でも動けない」
「待ってて、守るから」

マユは自分らしく無い衝動に任せて、インパルスを睨みつける。

「アウルの仇、アンタを殺す!」

バズーカーを捨て去り、対艦刀を構える。
シンも対艦刀を構える。共に対艦刀の二刀流。カラミティにはスキュラとシュラークが固定砲台として付いているが、この距離の斬り合いでは使用しずらい。ゆえに剣での勝負となった。

「逝けぇ!」

マユが気合を入れて振り下ろすとシンは真っ向から剣をぶつけて払う。巨大な金属の鳴り響く音をたてながら、共に剣をぶつけ合った。

「死ねよ!」

シンも対艦刀を振り回す。マユも剣で受け止め、お互いの対艦刀から軋むような音が鳴る。斬る。払う。突く。受ける。弾く。横薙ぎ。袈裟斬り。ありとあらゆる斬撃の応酬。
その繰り返しは、しだいに加速していき、2機の戦闘は竜巻の中心の様な有様だった。

「コイツ……何で強くなってる!?」

マユが顔を顰める。戦闘前は楽勝な相手だと高をくくっていた。現に、前回ガルナハンで戦った時は一蹴しているのだ。前回とは色が違うし別の機体かとも思ったが、インパルスの特性の装備によって色が変わることを聞いていたので、それは違うと判断する。

「それに何なの?……アンタが側に居るとイライラするのよ!」

先程から暖かい気持が流れてくるが、この機体の前だと余計に強くなる。その暖かさに身を委ねたくなるが、コイツはアウルを殺した相手だ。そう思うと許せない気持が余計に強くなる。

「くっ……調子に乗って、絶対に後悔させてやる」

相手から流れてくる感覚と、見下していた相手の奮戦に苛立ちながらマユは、その時を待っていた。

「そんな戦い方じゃ、絶対に持たないんだから」

その時を、インパルスの対艦刀が砕ける瞬間を心待ちにして、今は耐える。インパルスはアビスとの戦闘から、ずっと剣を酷使している。それに比べカラミティは今回の戦闘は温存していたのだ。

「その時こそ!」

マユは武器を失った相手が、アウルを殺めた事を後悔しながら自分に斬られるのを想像して、耐え忍んでいた。

「そろそろか?」

シンはコクピット内で怒りを込めて呟く。先程から頭痛と熱が酷くなっている。原因は分からないが、目の前のカラミティが側に来てからピークに達していた。
その苛立ちをぶつけるため、カラミティのパイロットには絶望を与えて殺してやろうと、今の戦法を取ったのだ。

「メイリン、ソードシルエット射出!」

モニターがシルエットが近付いてきている事を知らせる。そして現在使っている対艦刀を更に激しくぶつけた。

「そぉら!」

そしてインパルスの対艦刀、エクスカリバーが砕けた。だが左にも持っている。それも砕けろと言わんばかりにカラミティの対艦刀に当てて砕けさせた。

「やった……これで」

マユがコクピット内で笑みを漏らす。今頃インパルスのパイロットは武器を失い狼狽しているだろうと。
自分の狙い通りに事が運んだと信じた。

「え?」

だが次の瞬間、マユの表情が愕然としたものに変わる。気付かない内に飛来した物がインパルスの側を通り過ぎると、その手には新たな対艦刀が握られていたのだ。
シンはソードシルエットのフライヤーから対艦刀だけを取り外し、真新しい対艦刀を見せ付ける様に構えた。

「クククッ……どんな気分だ!?」

逆にシンはコクピット内で高笑いを上げた。シンはマユの作戦を読んだ上で、その上を行ったのだ。
これでカラミティの対艦刀は先程からのぶつけ合いでダメージを受けてるのに対し、インパルスの対艦刀は新品の状態。

「さあ、続けよう。何時まで持つ?」

シンは再び対艦刀をぶつけて来る。そしてマユにはそれを受け止めるしか術は無かった。
例え、自分の剣が砕けるまでの時間稼ぎにしかならないと知りながら。

シンとマユには死んだと思われていたアウルだったが、生き長らえてコクピット内で器機を弄っていた。

「これで良し」

アウルは息も絶え絶えに呟く。全ての機能が停止していたアビスから復旧可能な場所を探し出し、そしてカリドゥスが復旧可能だと見ると修復を開始したのだ。
エネルギーの残量が少ないため威力は低いが、一発だけ撃てるように修復が完了した。

「これもダメだな」

アウルは口の中からガラスの破片を取り出す。ヘルメットのバイザーの破片だった。それは血に染まり真っ赤になっている。
すでにアウルは満身創痍と言うのが温くなる程の状態だった。エクスカリバーの斬撃で起こった爆発はコクピット内部も襲い、通信機能やその他の設備と共にアウルを傷つけた。左足は押しつぶされ感覚が無くなっている。立つ事はおろか、誰かに引っ張り出された途端に左足とはお別れになるだろう。
その他にも、アウルの身体は無事な場所が無いほどの傷を負っていた。そのため出血多量で、今にも意識を失いそうだ。だが、意識を失うと2度と目覚めない事も、自分で理解していた。
それを避けるためアウルは衝撃でバイザーの割れたヘルメットを脱ぐと、バイザーの破片を口に入れ、痛みで気付けをする事で意識を保っていた。しかし、今や痛みの感覚すら無くなっていた。

「よいしょっと」

それでも、最後の一撃を放つために、ここまで耐えていた。アウルはモニターに映るインパルスとカラミティの戦闘を見詰める。

「ホントにダメだなぁ……戦わせないって決めたのに……つーか、何で思い出すんだよ」

目の前で戦う兄と妹を見ながら呟く、消されたはずの記憶が蘇った事を毒づきながら、カリドゥスを撃つトリガーに指を掛ける。方向は変えられないが、幸いガイアの前、インパルスがガイアを斬ろうとしたら、立つであろう位置に向いていた。そして、もう1つの幸いがマユが来て修復まで時間を稼いでくれたこと。
だが問題があった。マユが頑張りすぎて、インパルスが目標地点に到着する前にアウルの命が持ちそうに無くなっていた。

「もう良いぞ……つーかよ、何でそんなに頑張ってんだ?……らしく無えぞ」

マユが聞きたいと願った悪態を付くが、アビスの通信機能は壊されていて、連絡する事が出来なかった。
そして、重くなる目蓋が落ちないように耐えていると、カラミティの右手に持った対艦刀が砕ける。
続いて左腕は対艦刀では無く、肘から先が斬り飛ばされた。

「よし、逃げろマユ」

剣を失った今、マユはステラを見捨ててでも逃げるだろうとアウルは思った。またそう判断すべきだと。

「おいおい」

しかし、カラミティは、なおもガイアを庇って立ち塞がり続ける。
そのカラミティをいたぶるように、シンはまずシュラークを斬り飛ばした。

「まだっ!」

マユは最後の武器、スキュラを発射させる。

「当たるかよ。馬鹿!」

しかし、インパルスは身体を横に移動させると、先程までいた位置にビームが通り去る。

「そらあっ!」

そしてシンは左手に持った対艦刀を、発射中のスキュラの銃口に横から突き刺した。

「つっ!」

マユの悲鳴と共にスキュラの発射口が爆発し、シンが素早く手放した対艦刀を砕きながら胸部が大きく破損する。そして、後ろに下がりながらカラミティは膝を付いた。

「そろそろ終わりだ……もがき苦しんで死ね♪」

シンは笑顔を浮かべて、残った対艦刀を頭上に高く振り上げる。

「そこじゃダメだろ」

アウルは悲痛な声を上げる。カリドゥスの照準はインパルスとカラミティの中間に固定されていた。
だから、もう半歩下がれと念じるが、マユは下がろうとしない。

「役立たず……クソガキ……ボケェ」

震える手でトリガーに指を掛ける。ここで放っても、応急修理で出力の落ちたカリドゥスでは、2機の間を通り抜けるだけだった。
アウルが選べる最も良い手段は、シンがカラミティを斬り、続いてガイアを斬ろうと踏み込んだところで放つ事だ。これなら確実にインパルスを仕留められる。
この手段ではマユが犠牲になる。しかしアウルにとってはマユなど、どうでも良い存在、いや、嫌いな存在だから一向に構わない。しかし……

「こんな……奴に」

マユが苦悶の表情を浮かべる。不思議と自分が死ぬ事は思いつかない。どうでも良いとさえ思える。
だが、そんな事よりステラを守れず、またアウルの仇を取れなかった事が悔しかった。

「うおぉぉぉぉぉ!」

シンが雄叫びを上げながら、対艦刀を両手に持ち振り下ろした。

「「え?」」

そして、シンとマユが同時に声を上げる。振り下ろされた剣は両腕の肘から先と共に消失したいた。
アビスから放たれた巨大な閃光と共に。

「このバカ兄妹」

アウルは苦笑を浮かべながら毒づいた。

アビスの放った閃光は、放ったアウルが意図する事無く、この戦いの終焉の号砲となった。
それが放たれたのと同時に、スエズ基地がウィラードの手で陥落したのだ。
それと同時に連合軍にはマハムール基地への撤退命令が下された。
アスランは最初から連合が撤退しやすいように、カーペンタリアからも部隊を出撃させていたが、スエズの南からは攻撃をさせなかった。
もっとも慈善家では無いから、マハムール基地の抑えと共に、撤退する部隊への攻撃は命じていた。
だが、今のアスランには遠い事だった。その事を後悔するのは、もう少し後の事になる。

「基地が落ちた?」

スエズ陥落の報を聞き、ネオは力なく呟いた。すでに彼の乗るウィンダムはレイの手で大破していて、脱出を余儀無くされていた。
そのため、その報を聞いたのは収容された戦艦のベッドの上だった。

「奴等は無事なのか……」

そして4人の部下の身を案じたが、今のネオには調べようが無かった。

「貴様の勝ちだ」
カオスのコクピットにゼクスの声が入る。だが、それと同時にスエズ基地陥落の報告も入っていた。

「いや、テメエの勝ちだ」

左腕と頭部をカオスに奪われ、落下していくセイバーを見ながらスティングは呟く。
一騎討ちには勝ったが、ゼクスは時間まで守り抜いたのだ。ゼクスは認めないだろうが、スティングも認めなかった。

「だから、こんな所で死ぬんじゃ無えぞ!」

海に落ちたセイバーを一瞥すると、進路をJPジョーンズに向ける。
そこには傷付いたスティングの仲間が揃っていた。

「やっちまった」

アウルは自分の行動に苦笑した。今撃っても、インパルスを仕留められないと分かっていながら、マユを助けるのを優先した自分に呆れる思いだった。

「クソッ!……メイリン!チェストフライヤー射出!」
『シン!スエズ基地は陥落したの!もういいのよ!』
「黙れ!早くしないと殺すぞ!」
『え?』

メイリンが固まっているが、シンには目の前の敵に止めを刺すことの方が重要だった。

「早くしろ!ノロマ!」
『か、艦長』

通信機がしばらく沈黙を保つ。メイリンがタリアに助けを求めているのだろう。
だが、シンの周りにいる3機は降伏したわけでは無いから、タリアもインパルスを無防備なままで居させるわけにはいかず、チェストフライヤーの射出を許可する。

『りょ、了解』

シンは、チェストフライヤーの射出を確認すると、アビスを睨みつける。

「死んだフリなんてしやがって!」

言い掛かりだが、シンにとっては正解など、どうでも良いことだ。今のシンにとって大切なのは、身を焦がす狂気に任せて殺戮を行う事だけだった。

「これ、やばいって言うんじゃ無えの?」

自分の方を睨みつけるインパルスを見ながら、先の事を考える。戦闘が終結したことをアウルは知らない。
もっとも、知ったとしても、自分は良いが、現状ではステラもマユも撤退は不可能だった。

「あ?」

その時、モニターに映るインパルスの向うから、見慣れた機影が近付いて来るのが目に映った。
それはアウルにとって、最も信頼でき、そして頼れる男の機体。

「来るの遅えよ……」

その姿に安心して力を抜く。そして、脳裏に浮かぶのはディオキアでの休日の光景だ。

「楽しかったよな……メシも美味かったし……って、餌付けされてんじゃん」

自分がマユを助けた理由が、餌付けされていたかと思って、笑みを漏らす。
でも、違う事をアウルは知っていた。スティングとマユが作る料理は本当に美味しかったし、2人が料理している姿は楽しそうだった。
そして、シンに会いたくて、そわそわしてるステラを見てるのも楽しかった。
唯一の心残りは、シンとマユの関係に気付いて、自分らしくない変な気遣いをしてしまった事だ。

「また行きたいよな……今度はネオも誘うか……だからさ、仲直りしろよ……バカ兄妹」

最後に、そう呟くと目蓋の重さに逆らわず、そっと閉じた。
そのまま、アウルの意識は2度と浮かび上がる事の無い、深淵へと沈んでいった。

シンはチェストフライヤーの到着を待っていた。

「―っ!」

だが、チェストフライヤーより早く近付いてくるMSがあった。

「カオス!?」
「どけっ!」

JPジョーンズの甲板に降り立ったスティングはビームサーベルを払い、インパルスを攻撃するが、シンは下がってかわすと、そのまま海中に潜って難を避ける。

「チッ!」

スティングは舌打を打ち、通信を開いて3人に呼びかける。

「アウル、ステラ、マユ、無事か?」
「うん」
「……生きてる」

ステラとマユからは返答があったが、アウルからは返答が無かった。嫌な予感がしたが、マユが答える。

「アビスの通信機は壊れてるみたい。マユが呼びかけても答えなかったのに、その後カリドゥスを撃ったから」

その言葉にスティングはホッと一息吐く。そして、アビスが修復不可能なダメージと判断すると、機体を放棄して、アウルだけ連れて帰ることに決めた。

「マユ、まずはアウルを助けるから、待ってろ」

スティングはアビスに近付くと、コクピットハッチを毟りとった。
そして、カオスのコクピットを開けて、直接に呼びかける。

「おい!生きてるか、アウ……ル?」

何時もの軽口を言ったつもりだった。そう言えば、アウルの悪態が聞けると信じて疑わなかった。

「冗談はよせよ」

スティングはアビスのコクピットに移り、そっとアウルの頬を撫でる。

「……なに笑ってんだよ?……このバカ」

笑みを浮かべたまま息を引き取っているアウルを見て、呆然としていると激しい水音が聞こえた。

「アイツは!」

上半身の無いMSが海中から浮かぶと、飛来してきたMSの上半身、チェストフライヤーと合体して、インパルスが傷の無い姿で再び姿を現す。
スティングは俊敏にカオスのコクピットに戻り、カオスを動かす。

「テメエは、よくもアウルを!」

ビームライフルを構えたインパルスに、ビームサーベルを振った。

「クソッ! コイツ!」

シンは咄嗟に下がったもののビームライフルを斬られ、素手になってしまった。

「テメエだけは!―っ!」

その時、カオスのコクピットでバッテリーの残量が少ない事を示す警告音が鳴った。

「クソォ!こんな時に!」

スティングは蹴りを放ち、インパルスを再び海中に蹴り飛ばすと、何時の日か仇を取る事を誓う。
そして海中のインパルスに宣言する。

「テメエは俺が倒す!絶対に殺してやる!……アウル……スマン!」

最後に一言アウルに詫びると、スティングは方向を変え、ガイアとカラミティの元へと向かう。
そして、2機を抱えると、そのまま撤退する自軍に合流すべく、JPジョーンズを飛び去った。

『スティング!何してるの!?アウルが!』

通信機からマユの叫びが聞こえる。アウルを心配するマユに驚いたが、すぐに感情を押し殺した声で、マユとステラに事実を告げる。

「アウルは死んでいた」
『え?……』
『ウソ……だよね?』

マユとステラの呆然とした声が通信機から流れる。それを重い気分で聞きながら、スティングは返す言葉が見つからずに、一言だけ搾り出すように呟いた。

「すまねえ」

その後は、通信機から聞こえるすすり泣く声を黙って聞いてるしか無かった。

「くそっ!」

シンはJPジョーンズの甲板に上がると毒づいた。すでに艦橋には白旗が上がっている。

「イライラする!」

ヘルメットをとり、収まらない頭痛に叫び声をあげる。

「何なんだよ!」

髪の毛を掻き毟りながら、不快感に耐え続ける。戦闘中はあまり気にならなかったが、戦えないと気になって仕方が無かった。

『シン、聞こえるか?』
『戦闘は終結した。貴様が居る連合の空母に、今から制圧部隊を送る。それまで、そこで待機だ』
「あん?」

レイとゼクスの声に、顔を顰める。今は誰にも声を掛けられたくなかったが、無視するわけにも行かず、セイバーとグフの姿を探した。

「あ?……」

それが目に入ったとき、急速に頭痛が消えるのを感じた。同時に苛立つほどに研ぎ澄まされた集中力が消え、普段の感覚が戻ってくる。

「隊長!」

頭部と両腕、それに片足を失ったセイバーがレイのグフに抱えられて、こちらに近付いてくる。
そして、傷付いたセイバーを見て、大事な事を忘れている事を思い出す。

「ルナは!ルナはどうなったんです!?」
『ルナマリアならミネルバに収容された。命に別状は無い」
「そ、そうか……よ、良かった」

シンは脱力して、コクピット内でシートにへたり込む。
すると、先程まで自分を襲っていた激しい感情を思い出し、震え始めた身体を押さえるように自分の両肩を抱きしめる。

「違うよな?」
『どうした?』

レイの優しい声が聞こえる。2年前の絶望から救ってくれた友人が近くにいる。
だが、先程まで感じていた負の感情は紛れも無く本物だった。いったい、どれだけの絶望を受ければ、あのような心境に至れるのかシンには想像も付かなかった。

「世界は……あんなに冷たくて……残酷じゃ無いよな」

「違う!こんなに優しくて暖かい世界なんてありえない!」
「マユ?」

突然のマユの叫びにスティングが声を掛ける。

「どうした?大丈夫か?」
「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!手を放せ!」
「マユ?……」
「無茶を言うな!」

ステラがマユの異変に呆然としてると、スティングが一喝する。今、カオスの手を放したらカラミティは海へ落下してしまうだけだ。帰還は出来なくなる。
マユは2人の優しさを感じるが、それを全力で否定しようとする。

「認めない……」

マユはヘルメットを脱ぎ、髪の毛を掻き毟る。先程まで流れていた感情がマユには許せなかった。
以前、ラクス・クラインの誘拐任務に就いた時、同じような感覚を覚えたが、今回はその時を上回る感情を受けた。誰かに遠くから見られているでは無く、誰かが側で抱きしめてくれる様な感覚だった。

「ありえない……」

優しく、暖かな感情。苦しんでいると誰かが手を差し伸べてくれる。そんな世界を感じていた。
しかし、それを認めたら、今までの……否、今も続く苦しみに耐えられなくなりそうだった。

「マユ、どうしたんだ?」

それなのに、優しくしようとする者が側に居る。

「お願い!お願いだからマユに優しくしないで!絶望したままでいさせて!」

それが、叶わぬ願いと知りながら叫ばずにはいられなかった。

そして、レイのグフがゼクスを伴って、JPジョーンズの甲板に降り立つ。それから間も無く、制圧のための部隊が乗艦してきた。

「シン、お手柄だったな」
「え?……何が?」

レイの声に、シンは訳が分からないという表情で聞き返す。

「アビスを倒した。良くやったな」
「あ……」

シンは、その言葉に敵を倒した喜びよりも、自分のした残酷な行為に後ろめたい気持を感じた。

「アイツは……頑張って仲間を庇ったんだ」

そして、アビスのパイロットが仲間を庇う姿を思い出し、カオスが剥がしたコクピットの内部を覗き込む。

「……え?」
「なっ!」

そして、中のパイロットの姿を映して絶句する。それはレイも同様だった。
シンはインパルスのハッチを開けると、飛び降りてアビスのコクピットに向かって走る。

「シン!」

突然のシンの行動にゼクスが困惑して呼びかけるが、レイが代わりに答える。

「アビスのパイロット……俺は知ってます」
「どう言うことだ?」
「それは……」

レイがゼクスに説明している間にも、シンは走っていた。モニターに映った姿を見間違いでいて欲しいと願いながら。
そして、シンはアビスのコクピットに入り込み、中のパイロットを自分の目で直接確認する。

「ウソだろ?」

先程まで、懸命に否定しようとした人間に間違い無かった。

「何で……何でお前がこんなものに乗ってるんだよ……アウル」