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W-DESTINY_第27話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:05:13

「デストロイ、まだ出せないの!?」
マユがデストロイのコクピットから大声を出すが、メカニックからは否定的な意見しか出ない。
ようやく完成したばかりで、テストさえしていない機体だ。不備が無いかの確認には細心の注意が払われていた。
『焦るなよ。慌てて出た後で、トラブル停止なんぞ、お前だって嫌だろ?』
「ネオは暢気すぎる!」
『ネオ、俺は先に出るぞ。ステラは…』
『ステラも行く。マユは後から来て』
当初の予定ではカオスとガイアはデストロイと共に出るはずだったが、すでに戦況は不利で、このまま黙って見ていられる状況では無くなっていた。
「そんなの!」
それが嫌だから焦っているのだ。しかし2人は、発進準備を始めてしまう。
『お前が出る前に片付けてやるさ』
「無理に決まってるでしょうが! どれだけ数がいると思ってんの!」
『気持の問題。まあ、お前が来るまでの時間稼ぎはするからよ』
「そんなこと言って、どうせ例のパイロット目当てじゃない」
『正解だ。今回は、まともなMSに乗ってるのを期待してるんだがな』
「バカ……一回やられてこい」
『やられねえよ。それじゃあ、スティング・オークレー、カオス出るぞ!』
『ステラ、先に行くね。マユ、待ってる』
「うん……気をつけて」
『うん。ステラ・ルーシェ、ガイア、出る』
1人で取り残されると、マユは焦燥感に襲われる。
(やっぱり、弱くなってる……)
すでに捨てたつもりだった人間らしい感情に振り回され、自分らしく無くなってる事に苛立ちを募らせる。
だが、今更スティングとステラから距離を置く気にはなれない。
「だったら……」
デストロイの操縦桿に手を沿え、その目覚めを待つ。仲間との距離を置けないのなら、その分、敵を倒す事で、戦う事で気を紛らわせるしか無かった。
「……ザフトを、アイツの仲間を破壊してやる!」

タリアは、戦場の様子を確認しながら、前に出るかの判断を迷っていた。
ミネルバは旗艦であるし、これまでは連合の最優先の標的であったが、今回の戦闘では、今のところ連合軍は防衛に専念している様子でミネルバに襲ってくる気配は無かった。
「どう思う?」
それだけの問いで、アーサーは察した。タリアの懸念はアーサーにとっての懸念でもあったから。
「今のところは待機すべきかと思います。問題のデストロイの姿は見えませんが、アレは完成していない可能性もあります。ですが…」
「カオスね」
「はい。奴の姿が見えてから、随分と被害が出ています。ゼクスだけは出すべきかと」
ザフト全軍でも、カオスを倒すのは大きな犠牲をもたらすであろう。それほどの強さを誇っている。
無論、数で押す方法もあるが、それよりもカオスに匹敵する。いや、新型を手に入れそれ以上の戦力になったことを期待されているゼクスをぶつけたほうが良いと判断していた。
「でも、カオスを囮にしてる可能性もあるわよ?」
タリアはMS部隊を発進させた後に、別働隊からの攻撃を警戒していた。
「それでも、奴がいなければミネルバは持ちます。それにレイとルナがいます」
「そうね。メイリン、ゼクスに繋いで」
「はい……どうぞ」
『何でしょう?』
モニターに映るゼクスを見て、以前と違う感覚を覚える。異世界の人間と知ったからかと思ったが、
それよりも精彩に欠ける方を気にしたのだと感じた。
このまま出撃させる事に不安を感じたが、カオスを放って置く訳にはいかなかった。
「カオスが随分とザフトのMSを落してるのよ。貴方が行って抑えてほしいのだけど」
『……承知しました。私は出ますので、後の事はレイに任せます』
カオスの名が出た途端にゼクスから闘気が立ち上ってくる気がした。
「……お願いするわね」
モニターからゼクスの姿が消えると溜息を吐く。隣のアーサーも同感だった様で首を振っていた。
「純粋戦士とでも言うのでしょうか?」
「全くね。本当に完全平和主義の王子様?」
「ええ〜と……私としては異世界というのに、まだ納得出来てないので気にしない様にしています」
「それも良い手ね。私もそうしようかしら」
「お勧めですよ」

「ゼクス・マーキス、インフィニットジャスティス、出るぞ!」
ゼクスはミネルバを飛び立つと、指示されたポイント、カオスがいる場所へと向かった。
もっとも指示を受けなくても、ザフト軍が押されてる場所を見ればカオスはいると思って、間違い無かった。予想通りザフト軍のMSを蹂躙する見慣れた機体が目に入った。
「いたな……さて、行くぞ!」
バーニアを全開にし、ビームライフルを構える。それで、完全に頭の中から雑念が消え、戦いの衝動に心が躍る。
「気付いたな……まずは挨拶だ」
こちらが近付いてくるのに反応したカオスにビームライフルを放つ。正確な射撃は、余裕でかわされ反撃の射撃が向かってくる。ゼクスもそれを簡単にかわし、続いてシールドのビームソードを展開させ接近戦に持ち込む。
カオスはゼクスの斬撃を横にかわして、ビームライフルを放とうとするが、ゼクスはビームライフルの発射より早くカオスの懐に飛び込んだ。
「こ、こいつぅっ!」
スティングは咄嗟にシールドで防御していたが、見慣れぬ新型のパワーに押されそうになって苦悶の表情を浮かべる。
これまで、圧倒的な戦闘力を見せ付けてきたスティングにとって、今回の戦闘で初めての苦戦は、彼にある期待をもたせていた。この新型のパイロットは……
「さて、望み通り互角のMSと思ったのだが……」
「その声、やはりゼクスか!?」
接触回線から期待通りの声が聞こえてくる。その声にスティングの心が踊りだす。
「久しぶりだなスティング! こちらが強くなりすぎていても恨むなよ!」
「ぬかせぇぇっ!」
スティングは会いたかった敵が、期待通りに新型に乗ってきた事に心を躍らせると、ビームクロウを展開させた蹴りで牽制して距離を取る。そしてカオスの兵装ポッドを展開し、縦横に動き始めた。
「その新型、どれ程のものか試させてもらう!」
「言われずとも見せてやるさ!」
ゼクスは左腕を大きく振ると、シールドの先端でビームを展開させていたシャイニングエッジを切り離しビームブーメランとして迂回させながら、カオスに襲わせる。そのまま右腕はビームサーベルに持ち代え、背部ビーム砲を放ちながら接近を仕掛けてきた。
「クッ!……」
スティングは正面から迫るビーム砲を避けながら、右から襲い掛かるビームブーメランを弾いた時には再び接近を許してしまった。
「……しまった!」
スティングが咄嗟に前に出したカオスのシールドにインフィニットジャスティスのビームサーベルが食い込む。両断は避けたもののパワーに押され始め、スティングは歯を喰いしばった。
「何てパワーだ……だが!」
スティングは正面からの力勝負を避け、横に機体を流す。
「まだだ!」
「―っ!」
だが、ゼクスは擦れ違い様に、翼のビームブレード、グリフォン2を展開させるとカオスの兵装ポッドを繋ぐワイヤーを斬り、カオスの命とも言える機動力を殺す事に成功した。
「しまった!」
「これで!」
ゼクスは更に脚部のビームブレード、グリフォンを展開させた蹴りを放つと、シールドで受け止めたカオスを大地へと叩き落した。
カオスは氷の大地へと叩きつけられ、氷を水蒸気へと変えながら滑り、大きく突き出た岩に当たってようやく止まる事が出来た。
「クソッ!……PS装甲じゃ無かったらお陀仏だったぜ……ん?」
PS装甲であっても、中のパイロットが生きてるのが不思議なほどの衝撃を受けながら、スティングは平然とカオスを立たせる。するとゼクスのMSがゆっくりと降りてくるのが見えた。
「スティング、貴様の言ったとおりだ」
「あ? 何がだ?」
「私は貴様と互角のMSで戦いたい……この機体は少しな」
確かにパワーは上だし、トリッキーな武器を持っている。明らかにカオスより上の性能だろう。だが、少なくともグフとカオスの差ほどは無いとスティングには思えた。
「贅沢言ってん……おいおい」
それを言おうとしたスティングの目の前で、インフィニットジャスティスが急降下を始める。
いや、急降下では無く落下だ。何故なら背中のパーツ、ファトゥムを外したためだ。
さらにシールドを捨てるとビームサーベルのみで大地に降り立つ。
「テメエ、結構バカだろ?」
「救いようの無い人間だとは理解している」
「全く……好きだぜ。そういうの」
スティングもビームライフルと傷付いたシールドを捨てると、サーベルを抜いて構える。
「そうだ。それで良い。私達の戦いはこうでなくては」
「それじゃあ……行くぜ!」
「来い!」

氷の大地を2機のMSがビームサーベルを片手に切り結ぶ。
ゼクスは、かつて南極でヒイロと戦った事を思い出す。余計な雑念が消え、OZでの立場も関係無く、ただ戦士でありえた自分に喜びを見出し、戦う事で自分を表現できた。
「貴様もそうだろ!」
「訳の分かんねぇ事、叫んでんじゃねぇ!」
パワーはインフィニットジャスティスが上だが、足場が悪く踏ん張りが利かない。更に多くの武器を捨てていた。
カオスの方も、最大の武器である機動力を失い、両者の持ち味は全く生かされていない、傍から見れば愚かな戦いだった。
しかし、それでも頼れるのは己の腕という状態はゼクスとスティングの心を高揚させ、両者は譲るまいと全力を傾ける。
「どうした! 腕が鈍ったんじゃ無えか!?」
スティングは罵りながら、そうで無い事を知っていた。ただ、ゼクスの口から言って欲しいから……
「貴様が腕を上げただけだ! 最初に戦り合った時とは別人だ!」
「そうかよ!」
内心では喜びながらも悪態を付く。心の何処かで好きな相手に素直になれない子供の様だと笑う自分がいる。
足が滑るが、すぐにバランスを取り戻す。無理な時は流れに逆らわずに攻撃を、または大きく回避する事で体勢を立て直す。
氷の大地で戦うなど初めての経験だったが、スティングは無理なくこなした。これまでのカオスに強いた強引な挙動は、スティングのバランス感覚を養い、どのような戦場でも戦えるようにしていた。
「だが、まだ……いや、これからも私の方が上だ!」
「だったら証明してみろ!」
「言われずとも!」
ゼクスは一歩下がると、大きく振りかぶり突進する。その動作は止めをささんとする迫力に溢れているがスティングの目からは動作が大きく隙が見えた。
「甘いんだよ!」
右腕を振りかぶったため脇が開いている。そこにサーベルを振るった瞬間、予想より速い斬撃が降ってきて、カオスの右腕を斬り飛ばしていた。
「あ…やられた!」
スティングは、それが誘いだったと今更ながら気付いた。ゼクスはワザと隙を作り、最初から、そこに向かってくるはずの右腕が狙いだったのだ。
胴体を狙ったスティングと、右腕を狙ったゼクス。どちらが早いかは明白だった。

モニターから戦況を見ていたネオはスティングが不利になったのを見ていた。ステラは奮迅の働きをしているが、周りに敵は多く、援護に向かう余裕は無い。
「スティング!……ええい俺が出るぞ!」
「お待ちください、大佐! まだお身体が」
「黙れ! 俺が出なければ、遅かれ早かれ基地は落ちる!」
ネオの身体は完治はしていたが、作戦の準備等で多忙を極め、充分なリハビリは無論、MSに長い間、乗っていなかった。そんな状態で行き成りの戦闘は危険だったが、このまま黙って見ていれば基地は間も無く陥落するだろう。また、スティング達を置いて、自分だけが脱出する気はネオは毛頭無かった。
その様な考えは指揮官としては失格だが、ネオは自分の矜持を曲げる気にはなれない。
『落ち着け変態! あと少しだから!』
だが、その時、自分を罵倒する声が入る。ネオは自分に対して、堂々と罵倒する人間は3人知っている。
1人は故人で残りは2人だが、ここまでキツイ言い方をするのは1人だった。
「マユか! 行けるか!?」
『今準備中……システム、オールグリーン! 行ける!』
マユはデストロイのコクピットで、計器の最終チェックを行う。外にいるメカニックにも聞こえる様に声に出してチェックし、問題が無いことを知らせる。
「よし、頼む!」
マユはネオの声に頷くと、頭上のハッチが開くのを眺めた。デストロイの巨体が出るだけあって、ハッチは大きく、開閉に時間が掛かる。いっそ破壊してしまいたい衝動を抑えながら、デストロイが出れるだけのスペースが開くと、指示が出る前に起動させた。
「マユ・アスカ、デストロイ、行くよ!」
「ま、待て! まだハッチが完全には…」
指示を出す管制官が慌てて静止に掛かる。このままではハッチに当たると判断していた。
「これだけあれば……」
マユは静止の声を聞かずにMA形態のデストロイを上昇させ、ハッチの直前でMSに変形すると、慣性を利用した勢いで隙間から機体を踊り出させた。
「……充分!」
「ウヒョォ―! かすりもせずに抜けやがった」
ネオは、それを見て笑みを漏らす。ギリギリのスペースを抜けた事から、マユが完全にデストロイのサイズの把握をやっていることを知った。
「あのサイズで上手くやるとはね……おい、気持は分かるがボーっとせずに急いでハッチを閉じろ」
「は、はい!」
ハッチが壊れるのを覚悟していた管制官に指示を出すと、ネオは再び戦場に目をやる。これで勝ったと確信しながら。

「ヘブンズベースからデーターに無いMSが出ました。全長約40m」
「来たわね……モニターに映せる?」
タリアは、メイリンの声に気を引き締め直し指示を出す。
「了解……どうぞ…―っ!」
「全く、事前に聞いていなかったら、混乱していたわね。ザフトの諜報部に感謝しなくちゃ」
「聞いてても充分驚きですよ」
モニターに映るデストロイを見て、ブリッジのクルーが息を詰まらせる。
デストロイの威容は、ただそこにあるだけで周りを圧倒するものがあった。
「ゼクスは?」
「現在、カオスと交戦中……え!」
「どうしたの?」
「デストロイ! ゼクス機に向かってます!」
確かにデストロイがMAに変形すると滑空しながら、ある方向に向かっているのがモニターに映し出されていた。
「そんな!……艦長、奴の狙いは?」
「仲間の救援でしょうよ」
タリアの脳裏には先日のマユの行動、危険を冒してまでステラを救い出し、敵地から救い出した事を思い浮かべていた。
「では、やはりパイロットは?」
「……今は考えるべきでは無いわ。メイリン、各艦の状況は?」
「デストロイに向け接近、ミサイルの発射体勢に入ろうとしています」
『艦長、俺が先行します』
「レイ?」
『ミネルバを襲う気配はありません。一応はルナマリアを残します』
「わかったわ。お願いする。メイリン、レイを発進させて」
「艦長、こちらも前へ出たい」
レジェンドの発進を確認すると、今度はアスランの申し出にタリアは顔をしかめた。
「大使、危険です」
「今回は、俺を狙う気配はありません。デストロイは殲滅兵器であって、突撃タイプでは無い」
タリアはアスランの判断が正しいと判断した。それにミネルバが前に出た方が部隊の指揮が上がるのは明白だった。デストロイの登場で全軍に動揺が感じられる今、多少の危険を冒す必要がある。
「分かりました……ミネルバも前へ出る。アーサー、攻撃官製を任せる。私は艦の動きに集中させて」
「了解です! CIWS、イゾルデ起動! ランチャー1から6、全門パルジファル用意!」

スティングは、右腕を奪われ完全に防戦一方に陥っていた。片腕になると、バランスが悪くなり、足元さえ覚束ない。
「これで、終わりだ!」
「く……」
これまでかと諦めが過ぎったとき、間一髪でビームが横切り、ゼクスが距離を取った。
「ステラ!」
その方向を見ると、ガイアがMA形態で突進してくる。
「貴様相手には使わないつもりだったが……邪魔者にまで容赦はせん!」
「避けろ! ステラ!」
「え?……うっ!」
ステラのガイアに突如飛来したファトゥムに襲ってくる。ファトゥムは生き物の様にガイアの周りを旋回しながら、フォルティスを放ち始める。
「こいつ……ジャマ!」
ステラはガイアをMS形態にするとビームライフルで迎撃するが、後方にインフィニットジャスティスの接近を許してしまった。
「ステラ! 後ろだ!」
「邪魔だ。下がっていろ!」
「え?」
ゼクスはガイアのビームライフルを破壊すると、拳で殴ってガイアを吹き飛ばす。
「させねえ!」
「最初からやる気は無い」
ゼクスはガイアには見向きもせずに、こちらに向かってきたカオスに神経を集中させる。
元より、ガイアを倒す気はなかった。ゼクスにとって重要なのはスティングとの決闘だけだった。
雑念を忘れさせる激しい戦いだけが、今のゼクスの望みなのだ。
「だが、そろそろ終わりだ」
「まだだ!」
スティングは気力を振り絞って立ち向かうが、すでに勝利は不可能との自覚があった。
ゼクスは、残念な気持もあるが、ここで見逃すわけにはいかい。
「これで、最後…なっ!」
カオスを仕留めようとしたゼクスに再び攻撃が来る。ガイアとは別の方向からの砲撃、そして飛んでくる巨大な腕。
「あれは?」
「マユ!」
「―っ!」

スティングを救った巨大な腕。それは単独でビームを放ち、自在に飛び回る。
だが、ゼクスにとっては、その動き以上にスティングが漏らした声に動揺していた。
「スティング、前にヘマしても助けてあげるって言ったよね」
「うるせえ……ゼクス?」
スティングがゼクスから闘気が消えてるのを感じた。
「こらスティング! 何してんのよ。さっさと下がれ!」
「ま、待て……」
「待てじゃ無い。そんな状態じゃ戦えないよ。邪魔だから下がってて」
ゼクスは身体が震えるのを止められなかった。先程までは氷上の戦闘が、かつてのヒイロとの戦闘を思い出させていたが、あの時も戦闘を止める者が現れた。今のスティングを庇った様に、あの時はヒイロを庇おうとした。
それでも戦おうとした自分に彼女は何と言ったか?
「リリーナ……私が憎いか?」
自分を見下ろすデストロイの巨体が、リリーナの憎しみの大きさと比例している気がした。
『隊長、下がってください!』
「レイ?」
その声に現実に引き戻される。そして、こちらに向かってくるミサイルの雨が目に入った。
「くっ!……私は何をやっている!」
咄嗟にファトゥムを呼び寄せ、それに掴まって上昇すると、下方から爆炎が立ち上る。
「ミサイル攻撃?……やったのか?」
ゼクスはインフィニットジャスティスの背中にファトゥムを合体さて様子を伺っていると、レイの乗るレジェンドが隣にやってきた。
「残念ながら健在のようです」
やがて爆煙の中からデストロイが傷1つ無い姿でその巨体を現した。しかも、背後にカオスとガイアを庇った状態で。
「スティングは下がって! ステラも離れていて……アレを潰すから」
マユの視線が再び向かってくるミサイルの雨と、周りを取り囲むMSに移る。
「すまねえ……修理したら直ぐに戻る!」
スティングが基地に戻り、ステラが距離を置くのを見ながらマユはデストロイをMA形態に変形すると、海岸、艦上から発射されたミサイルに4門の大型高エネルギー砲を、周囲を囲むMSに背部の大型円盤部の横に並ぶ左右10門ずつ並んだプラズマ複合砲ネフェルテムの照準を合わせる。
「照準合わせ……消えろ!」

「ミサイル群、第2波、全弾迎撃されました! さらに、周囲のMSの被害甚大!」
タリアは破壊出来ずとも、中のパイロットにはダメージを与えられるだろうと読んでいた。
だが、デストロイは防御力に頼っただけのMSで無い事を確認すると、艦を下げる決断を下す。
「下がらせて! 次はこっちを狙ってくるわ。それとルナマリアを発進させて」
「ですが艦の守りは?」
「あれを見たでしょ? 奇襲部隊なんか使わないわ」
「……たしかに」
タリアもアーサーも認めたくは無かったが、確かにデストロイの性能は、たった1機で戦局を変えてしまう程のものだった。
そして同時に変形による攻撃パターンの変化から、デストロイの弱点を割り出す。
「ルナマリア、聞こえる?」
『聞こえます』
「デストロイの死角、MA時の真上とMS時の背中、機動性を生かしてそこから牽制をかけて」
『りょ、了解!』
「ゼクス達に通達して協力しながらやりなさい。気をつけてね」
ルナマリアは、タリアの指示に正直、頭を抱えたい気分だった。あの変形スピードからいって距離を置けば上空から背後に回るより早く変形が完了するだろう。
「つまりは、あの化け物に思いっきり近付いて戦えって事よね……全く!」
一言だけ愚痴ると気を取り直して発進シークエンスに入る。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
ルナを乗せたコアスプレンダーが発進すると、続いてチェストフライヤー、レッグフライヤー、そしてフォースシルエットが続き、フォースインパルスに合体する。
「だ、大丈夫」
訓練では何度も繰り返した行為だったが、やはり実戦の銃弾が飛び交う中での合体は肝が冷えるのを感じた。
そのまま戦場を見渡しながら、タリアの指示を伝えるために、ゼクスとレイに合流を図る。
「いた……隊長、レイ、艦長からの指示を伝えます……」
合流後、眼下に存在するデストロイの威容に圧倒されながらもゼクスに伝達を終える。
「指示は分かった。だが、ルナマリアは外れろ」
「何故です! そんなに頼りないですか?」
「違う。私たちですら全てを回避するのは不可能だろう。それ程、奴の火力は凄まじい。貴様も見たのだろう?」
「それは……」
「奴の攻撃、私達のビームシールドなら耐えられるが、インパルスのでは無理だ」

「ルナ、こいつの足止めは俺と隊長でやる。お前は背後から俺達を狙う相手を頼む」
「わかった。気をつけて」
ルナはゼクスとレイの言葉に甘える形で下がる事にした。実際、遠くから見るのとは比べ物にならない程の威圧感をデストロイから感じてた。生半可な強がりは通用しない。
「来るぞ!」
ゼクスの声と共にデストロイがMSに変形する。これで、上空は死角にはならない。
「ルナ!」
「了解!」
ルナがバーニアを全開にし、距離を開くと、デストロイの砲撃がインフィニットジャスティスとレジェンドを襲う。2機は回避しながら後方に回ると両腕が飛来してきた。
「これがあるか!」
両腕は素早く動きながら、盾のようなパーツの先端にあるビーム砲と指先からのビーム砲を放ち、2機を追い詰める。
「速い!……チッ!」
レイが回避が間に合わずにビームシールドを展開させると、今度はビームでなく握り潰さんと指を広げて突っ込んできた。
「させるか!」
ゼクスはシャイニングエッジ・ビームブーメランを投げつけて腕を弾き飛ばすとレイを叱咤する。
「レイ、シールド防御に頼りすぎるな! 掴まるぞ!」
「はい!……しまった!」
「来るぞ!」
ゼクス達はデストロイの後方に回り込んで戦っていたつもりだったが、両腕に翻弄されている隙に、デストロイは正面を向き直っていた。
「これで……終わりだ鬱陶しい奴!」
口部のツォーンと胸部の3門のスーパースキュラを一斉に放つ。その光がゼクスとレイを包み込んだ。
「これで……まだ?」
マユの視界にビームシールドを展開させて砲撃を耐え切ったインフィニットジャスティスとレジェンドの姿が入った。
「かなりレベルの高い防御システム。でも正面に展開させるだけか……だったら!」
マユは再び口部のツォーンを放つ。しかし今度はインフィニットジャスティスとレジェンドを直接狙わず2機の周りを旋回する両腕の陽電子リフレクターを目掛けて。
「くっ! やってくれる!」
外れたと思ったビームが横合いから飛んできて、ゼクスが顔を顰める。こちらの攻撃が効かない以上は回避し続けるしか無いと考えていたが、これは回避するのも困難な相手だと認識を改めた。
ゼクスが、デストロイへの対応に悩んでいると、今度は下方からの砲撃が襲ってきた。
「―っ! 今度はガイアか!」
『ガイアはこっちで相手します!』
ゼクスとレイが2手に分かれるかを悩んだとき、ルナから通信が入る。
「任せる」
「……頼む。ルナ」
ルナはレイの不安そうな声を聞きながら自嘲した。
「だよね……私だって、複雑な気分なんだから」
ガイアに向けてビームライフルを放ちながら、集中しきれない自分を愚痴る。
ルナにとって、ステラは敵だった。連合の兵であるし、更には恋敵でもある。だから、本心ではステラを殺したいほど憎んでいる。だが同時に、そんな考えを持つ自分を死にたいほど嫌っていた。
「何で、アンタなのよ!」
ルナは、そんな複雑な苛立ちをぶつけるようにガイアに対し、激しい攻撃しかけた。
しかし、ステラは冷静にかわしながら、奇妙な感覚を覚える。目の前の敵、インパルスを見てると激しい憎悪が沸き立つ。だが、同時に違うと感じていた。
「こいつ……弱い?」
ステラの記憶の中にあるインパルスは、もっと強かったはずだ。何故なら―――を殺したのだから。
「なに?……誰を?」
記憶の中に不自然なパーツがある。それを思い出そうとすると頭痛がして顔を顰めた。
「お前のせいか?……邪魔だぁ!」
不快感を消すためにステラはガイアをMA形態にすると、左右に動きながらインパルスとの距離を縮める。
「陸戦型の接近戦タイプじゃ!」
接近戦を避けたルナはインパルスの高度を上げて、ガイアとの距離を取ろうとするが、ステラは再びMSに変形すると、背部ビーム砲を放って、インパルスの翼を撃ち抜いた。
「しまった!」
バランスを崩して高度を下げたインパルスに再度MAに変形したガイアがビームブレードを展開しながら飛び掛って来た。
「うぇぇい!」
ステラの気合と共に飛び上がったガイアがインパルスの左足を切り裂いた。更に空中でMSに変形してビームサーベルを一閃してフォースシルエットを破壊すると地上へ叩き落す。
「そ、そんな!」
ルナの表情に焦りの色が浮かぶ。ガイアと地上戦など勝てる見込みは無かった。
「メイリン、フォースシルエット射出! お願い、急いで!」

ルナは慌てながら要請すると、すでに目の前にガイアが来ている事に気付いた。
「―!」
声にならない叫びを上げながら後方に下がるが右腕が斬り飛ばされる。続いて蹴りでシールドを奪われ、背中のビーム砲が前方に照準を向ける。
「そんな……え?」
怯えるルナの前で、ビームが放たれるが、閃光はインパルスの遥か上空を飛び去った。
一瞬だけ安堵したが、そのビームに飛来してきたフォースシルエットが破壊されたのを見て、再び絶望的気分に堕ちる。
「私より……上だって言うの?」
ルナは、自分よりステラの方がパイロットとしての技量が上だと思い知らされた気分だった。
いや、冷静に判断して、自分よりステラの方が上だろう。それなのに気分が乗らないなど、自分の愚かさが恨めしかった。
そして、パイロットとしだけでは無く、女としても……
「ふざけるな!」
先程破壊されたフォースシルエットの残骸に飛びつき、そこからビームサーベルを外す。
「使える!」
片足を失っているため、左手でサーベルを構えたまま待ちの体勢に入る。
「ただじゃ、殺られない……」
決死の覚悟で、カウンターの一閃を放とうと狙いをすます。
だが、冷静さを失ったルナに比べ、ステラはルナの狙いを察していた。
「……そんな手に」
あまりにも見え見えな戦法に呆れながら、ステラは背部ビーム砲の照準をインパルスに定める。
それも一撃で仕留めずに左肩に狙いを付けてビームを放った。
「仇を!」
気合と共に引き金を引き、狙い通り左肩を破壊するが、ステラは自分の言葉に再び首を傾げた。
「仇?……誰の?」
自分の言葉に悩んでいると、脳裏に封印された記憶が断片的に蘇る。
「な、なに?……アウル?……」
ステラの目から涙が溢れてきた。最近までは、ずっと一緒だった仲間。口は悪いが本当は優しい少年。
しかし死んでしまった。いや、殺されたのだ。目の前のインパルスの手にかかって。
「お前が……殺した」
「え?」
ステラがガイアの外部音声のスイッチを入れ、インパルスに聞こえるように喋ったため、ルナの耳にステラの悲痛な声が届いた。

「仇?……だって、あれは……」
ルナは、その意味を悟った。ステラはアウルを殺したのはインパルスだとは知ってても、そのパイロットがシンだとは知らないのだと。
アウルを殺したのがシンだと知れば、ステラはシンを嫌うかもしれない。そうすればシンは自分に振り向いてくれるかもしれない誘惑に駆られた。だが……
「……それが、どうした! 間抜けが死んだからって騒ぐんじゃ無いわよ!」
その誘惑を拒絶し、ステラを挑発する。ステラに命乞いをするマネはしたく無かった。
それ以上に、シンを庇いたかった。
「……わかった。騒がない……もう殺す」
ステラにも、こんな問答が無意味だとは分かってる。確かにアウルは殺されたが、戦争とはそう言うものだと聞かされている。
自分だって多くの人間を殺してきた。――と同じ、ザフトの軍人を。
「くっ!……もう終らせる!」
ステラは再び浮かんできた記憶を振り払うように叫ぶと、ビームサーベルを構える。
その間も、優しい声が聞こえる。優しい瞳が自分を見つめる。
「……ゴメン」
その誰かに何故か謝った。そしてインパルスに止めをさすために前え出る。
「来る……」
ルナの目の前で、ガイアが殺気を漲らせ突進してくる。だが、すでに抵抗する術は無かった。
「仕方ないか……」
ルナは達観した様に呟く。言い訳のしようも無いほどの完敗だった。だが最後にシンの役にたてた。
ステラの憎悪は自分が引き受ける。シンには向かわせない。
「その方が良いよね。邪魔者はここで消えた方が……」
シンの罪を自分が代わりに背負って消える。残されたシンが時々自分の事を思い出しながらステラと幸せに暮らす。それで充分だと思った。シンが幸せなら……
「やっぱりイヤァ――!」
その想像をして、自分はそんな達観した人間では無いと認識を改める。
だが、逃れる術は無く、恐怖と未練の中で目を閉じると、目の前で何かが踏み込んだ様な強い衝撃を感じた。ガイアが目の前まで来たのだろう。もうすぐ刃が襲ってくると考えた。
「…………………え?」
だが、何時まで待っても死が訪れない。それともすでに死んだのであろうか。
恐る恐る視線を上げると、熱で気化した氷が霧となって、その中に赤い光が輝いていた。
「……オーロラ?……違う、何なのコレ?」
霧の中に見える光は、アイスランドを始めとする極点に近い地域で見られる現象であるオーロラに似ているが、それは見たことの無いMSの真紅の翼から溢れていた。
「何?」
ステラは何かが急に落下してきたのが目に入ったが、突然目の前が霧に覆われ、その後の対応に躊躇してしまった。
やがて、霧が風で飛ばされると、その中から1機のMSが姿を現す。
そして、霧の理由が目の前の急降下してきたMSが、静止のために使ったスラスターの熱量で地面の氷が溶けて気化したためだと気付いた時には、そのMSにサーベルを持った腕を押さえられていた。
そのMSはガイアの腕を押さえたまま何もしてこないが、ステラが拘束を解こうと動いても、ビクともしない途轍もないパワーを持っていた。
しかも、それだけでは無い。一瞬で目の前に降り立ったところから、スピードも並のMSでは太刀打ち出来ない事を証明している。
「コイツ……なんなの?」
「ふう、間に合った」
唐突な事態に戸惑っているステラは、そのMSから接触回線で声が聞こえると、何故か奇妙な安らぎを感じた。どこかで聞いた懐かしくて優しい声。
「さてと」
シンは大気圏を突破し、戦場が目に入ると、その中から今にもインパルスに止めをさそうとするガイアに気付き、慌てて間に身を割り込ませていた。
そして、自分を、新型のMSの登場に戸惑っている者がいるであろう事を察する。ザフトの識別信号は出しているが、該当機種は無いのだ。少なくとも後ろに庇ったルナに攻撃されては目も当てられない。
だから、共通チャンネルを開き、外部マイクを入れて、自分の立場を声に出す。
軍人としての責務としても、そして大切な者たちに自分が戻ってきた事を伝えるために。
「こちら、ザフト特務隊のシン・アスカ! これよりヘブンズベース攻略戦に参戦する!」