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W-DESTINY_第28話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:05:29

「シン……アスカ?」
ステラは、目の前のMSのパイロットが名乗った名を口にする。すると自然に胸元に手が行っていた。
「え?……シン?」
パイロットスーツの下にあるペンダントから温もりが広がる。何かを思い出そうとしていると、マユの
声が入ってきた。
「このぉぉ! よくもノコノコと!」
そして、同時にデストロイの腕が飛んできて、目の前のMSは、それを避けるためにガイアの腕を放し、
距離を取った。
「あれがデストロイか……聞いてはいたけどホントにデカイな」
シンは腕を避けると、半端な覚悟では勝てないと気を引き締め、呼吸を整える。
「やってやる。制御してみせる!」
そう叫ぶと、あの時の感覚を引き出す。ルナやレイ、大切な者を失いたくない気持が起こす集中力。
リハビリと平行して、何時でも引き出せるように、同時に正気を保てるように訓練してきた。
そして、シンの中で何かが弾けた。その途端に熱と頭痛、そして狂気と呼べる感情が流れ込んでくる。
「くっ!……ふぅ〜……やはり、あの中に居るのか、マユ」
シンは、それが流れてくる方向、デストロイに再び視線を移す。だが、プラントでの訓練と違い、マユが
近くにいると感情の流れが強い。マユから流れてくる感情は相変わらず苦しみに満ちていて、シンを
狂気へと誘おうとしてくる。その激しい誘惑に耐えかねていると、傷付いたインパルスからルナの声が
聞こえてきた。
「シンなの?」
「ルナ?」
ルナの無事な声に安堵し、狂気が和らぐ。ステラがルナを殺すという最悪の事態を回避できた事に喜びを
感じ、ルナに離脱を促す。
「ルナ、その状態じゃ戦闘は無理だ。コアスプレンダーで戻れ」
「でも……」
「大丈夫。絶対に後ろから墜とされたりさせないから」
「えっと、そうじゃなくて……」
「急いで、ここは危険だ」
「……うん」
ルナは、助けてくれた事への感謝や再会の喜びを伝えたかったが、目の前にガイアが、ステラが居ると
思うと、何だか邪魔者のような気分になり、上手く言葉に表せなかった。
「気を付けてね」
「ああ、それと助かった。ありがとう」
「え?」
助けられたのは自分なのに、逆に感謝されて戸惑ってしまう。しかし、すでに離脱の準備を開始している
ため、聞き返すことも出来ずにその場を立ち去るしかなかった。
「さてと……これなら何とかなる」
シンはルナの声が聞こえた時から狂気が和らぎ、あの力を自在に使えそうだとルナに感謝していた。
そして戦況を分析する。すぐ側にはステラが居る。ガイアを戦闘不能にして中のステラを連れ出すのは
容易だったが、問題はマユのデストロイだ。ゼクスとレイの2人と対峙しながら、その意識をこちらに、
シンと、それ以上にステラの方に向けている。
「そんな事、黙って見逃してくれないよな」
シンはマユから流れてくる感情の中から、僅かに温もりも感じていた。
「そんなにステラが大事なんだな」
自分がルナの声で正気を保てたように、マユもステラ達との出会いで狂気から抜け出したのだろう。
そんな、マユのステラに対する想いを感じ取り、マユの目の前でステラの捕獲は困難だと知る。
「だったら……」
シンは一足飛びにガイアの懐に入ると、ガイアの右肘を掴む。
「ステラ、ゴメン! 戦場を離脱してくれ!」
そう言って、そのままパルマフィオキーナを発射すると、ガイアの右腕を破壊する。
「え?」
ステラは優しい声が聞こえたと思ったら、腕を破壊されて恐怖する。
「これで戦闘の続行は無理だ! 下がってくれ!」
だが、続けて下がれと言ってくる声は優しく温かかった。何処かで聞いたことのある声。
それに事実、片腕で無理に戦うべきでも無かった。
何処で聞いたかを懸命に思い出そうとしながら、何故か敵に返事をして撤退する。
「う、うん……」
撤退を始めるガイアを見ながら、これでステラが殺す事も殺される事も無くなったと安堵する。
所詮は問題の先送りだが、物事には優先順位があった。ここで無理にステラを救出しようとしても、
マユに阻まれるだろうし、放ってくのは彼女自身も、また味方のザフト兵も危険だった。
そしてデストロイに集中する。まずはマユから抑えるために。その時、ガイアを傷つけた事に激怒
したマユが攻撃を開始してきた。
「よくも! よくもぉ!」
「隊長、レイ、ここは俺が引き受ける!」
デスティニーの翼を広げ上昇すると、デストロイから砲撃が飛んできた。
「シン、1人では」
「大丈夫だ!」
レイが援護を申し出るが、ここは1人でやるべきところだ。個人的な行為のためにも、デスティニーの
存在理由、象徴としての戦闘力を知らしめるためにも。
「マユ、悪いけど……そいつを破壊する!」
「ふざけたこと言ってぇぇ!」
マユが怒りの声を上げながら、スーパースキュラを放つ。その太い光線がデスティニーを貫いた。
「―っ!……え?」
直撃したと思った瞬間、喜びと悲しみが入り混じった複雑な気持に支配される。だが、貫かれたはずの
デスティニーが消えると、すぐ隣に無傷のデスティニーが現れていた。
慌てて攻撃を再開するが、再び同じ現象が繰り返される。
「な、なんなの? そんな……残像!?」
残像を残しながら高速移動をする機体に戸惑うが、両腕をデスティニーの周りで旋回させ、ツォーンを
発射させる。
「これなら!」
デストロイの口部から放たれたビームは、旋回する腕に装備された陽電子リフレクターで反射され、
正面からの攻撃から、四方からの攻撃へと変化する。
「くっ!」
回避が間に合わないと判断したシンがビームシールドを展開させて攻撃を防ぐと、今度は掴みかからんと
指を広げ接近してくる。
「握り潰してやる!」
「させるか!」
シンは背中から細身の反りの無い片刃の長刀、アロンダイトを引き抜くと、両手に持って構える。
マユはその剣を見て嘲笑した。
「そんな細い剣で……まずは弾き飛ばしてやる!」
PS装甲の腕に陽電子リフレクターを展開させたまま、デスティニーにぶつけようとする。
この加速と重量なら、あんな細い剣は簡単に折れ、機体にもダメージを与えられると確信を持っていた。
「うぉぉぉぉぉ!」
だが、シンが気合と共に振り下ろした一閃でデストロイの腕が叩き潰されるように斬られる。
「え?」
破壊されるはずの無いものを壊され、マユは呆然とした声を上げた。
それは、すぐ側で見ていたゼクスとレイも同じだった。
「あれは……まさか?」
ゼクスは、その強度に心当たりがあった。そして、何故デストロイの対策が大丈夫なのか、誰があれを
デスティニーに取り付けたかを察した。
「04と同質の武器か?……それにしては」
加熱した様子は無いから、単純に強度で勝るガンダニュウム合金で叩き切ったのだろう。
「強引な武器だな。カトルらしくない」
ゼクスは反りの無い日本刀のような剣を見ながら率直な感想を呟いた。

「隊長。アレは?」
「ビルゴの装甲で作った剣だろう。この世界の材質より遥かに丈夫な武器だ」
「あれか……PS装甲でも無理なのか」
レイの脳裏に、カオスとカラミティの攻撃に全く動じなかったビルゴの恐怖が蘇る。
「だが、あれでは……」
デストロイの巨体に目を移す。いくら強度があってもサイズから斬撃では効果的なダメージは与え辛い。
よって、コクピットか動力への刺突が望ましいが。
「それではパイロットが……シン、どうする気だ?」
もう1本の腕を破壊すると、シンはデストロイへと接近する。
「この! 消えろっ! 消えろぉぉ!」
マユは近づけさせまいと、ツォーンとスキュラを乱射するが、シンはビームシールドを展開させると、
真っ直ぐに突っ込んでくる。
「正面からだけならっ!」
デスティニーの正面にビームシールドを翳し、ビームの雨を防ぐとデストロイの懐に飛び込む。
「シン! お前、まさか!」
レイの目にはシンがデストロイを刺突するかに見えて、妹を殺す気かと慌てて止めようと考える。
だが、デスティニーはデストロイの足元に着地し、剣を振りかぶった。
「斬撃?」
レイはシンの行動の意味が分からず呆然とした。斬撃では効果的なダメージは与えられないはずだ。
「くそっ! こんな奴に!」
マユが怒りに任せて、デスティニーを踏み潰そうと足を上げる。がだ、その瞬間、デスティニーの持つ
剣が縦に開き、刃先に隙間が生まれた。
「リミッター解除!」
シンはデストロイが足を上げるより速く、アロンダイトの封印を解除する。
すると、開いた隙間から薄い緑色のビームが発生し、巨大な刃と化した。
「あの光!」
ゼクスが驚きの声を上げる。アロンダイトから生まれたビームの刃は、この世界の対艦刀が放つものとは
違う。この世界の剣の刃のように真っ直ぐでは無い。どこか荒々しく無骨な感じの乱れた薄い緑の光。
それは、ゼクスの良く知るMSが放つビームの刃に似ていた。
「04では無く、エピオンの剣と同タイプなのか!」
ゼクスの言葉を肯定するように、アロンダイトから発生した光の刃は、その長さをデスティニーの2倍
以上の長さまで伸ばした。
「マユ! 怪我しないように気を付けろ!」
シンが、マユを気遣いながら横薙ぎに一閃させると、デストロイは両足の付け根から両断され、その巨体
が地面に仰向けに倒される。
「なっ?……」
地響きを立てて倒れたデストロイを見たザフト兵から、歓声が沸き起こる。
先程まで圧倒的な存在感を誇っていたデストロイの破壊はザフト軍の士気を上げ、同時に連合軍の士気を
激減させた。
元々、この戦闘はザフトが圧倒的に優勢だったのを、カオスとデストロイが何とか互角に持ち込んでいた
状態だった。しかし、両機が破壊された今、決着は付いたも同然だった。
そして士気の勢いが、すぐに戦闘に反映されると、各所で連合軍が押され始め戦線は崩壊し始めていた。
「終ったな……」
その様子を見ながらシンはデストロイに目を映す。四肢を破壊され身動きの出来なくなったデストロイは
先程までもがいていたが、すでに大人しくなっている。
戦局が決まった以上は、多少の我侭は許されている。以前のミネルバのパイロットの1人であれば、
ゼクスかタリアの許可が無い限りは、無理だったが、今はフェイスのため基本的に命令権があるのは
デュランダルだけだった。
「さてと、コクピットを降りるのは無謀だよな」
そして、マユをどうやって捕獲するかを考える。ステラだったらデスティニーから降りて、コクピットを
開ければ良いが、マユ相手だと自殺行為になる。
「元気だったのは良いけど……逞しくなりすぎだよな」
そうやって悩んでいると、突然デストロイが背中のパーツにある20門のビーム砲を発射した。
「な、何考えてる!?」
周りに敵がいない状態では無意味だと思われる行為だったが、そのビームの熱で周囲の氷が溶けて水蒸気
が発生すると、シンはマユの行動の意味を悟った。
「目暗ましか!?……だけど!」
シンは水蒸気で視界を奪われた中で、マユがコクピットを抜け出し、逃げ出している事がわかった。
今はデストロイの左肩部分……そこから飛び降り、地面に降り立った。
「そこだな!」
「え?」
マユは目の前をデスティニーが立ち塞がったのを見て驚愕する。水蒸気で見えないはずなのに、何故だと
悩んでいると、デスティニーから、その中のパイロットから流れ込んでくる感覚に気付き、理由を悟る。
「そうか、感覚を追って!」
「正解! マユ、一緒に来てもらう」
シンの言葉にマユは一瞬だけ呆気に取られるが、すぐに拒絶する。
「断る! 誰がアンタなんかと!」
かつて苦しんでる自分を見捨てた事は忘れない。そしてミネルバで拒絶した事も忘れない。
「その辺は、後々話し合うとしてだ。今は大人しく掴まれ。そうしないと死んでしまうぞ!」
「ハン! ここで殺すって事かい? 好きにしな!」
妹のヒネタ考え方と喋り方にシンは頭を抑える。あの懐かしい笑顔と、美味しい料理を作ってくれた
可愛い妹の面影が無くなっている。
「なんで、そんな娘に……前は俺のお嫁さんになるって」
その言葉にマユの記憶が珍しく簡単に呼び出される。兄から流れ込んでくる感覚の所為か、容易に昔の
事が思い出される。
「言ったけど! ……最初は、お兄ちゃんがマユは他所にはやらない、俺の嫁にするって言ってたの!
 それで仕方なくOKしたんでしょうが!」
「そ、そうだっけ?……って、そうじゃ無くて! お前だけじゃ無い。ステラとスティングも強化された
影響で長くは生きられないんだ!」
「ああ、それ……つーか、誤魔化したろ?」
「違う違う! って、知ってたのか?」
「ジブに聞いてる……ステラは知らないだろうけど、マユは知ってるよ。スティングは分かんない」
「だったら!」
「で? 投降したらどうなるの?」
「こっちで治療する」
「……じゃあ、ザフト側では治療法が見つかったんだ?」
「ああ……え?」
「情報アリガト♪ お陰で心置きなくザフトを叩きのめせる。その後で、ゆっくり治療法の研究成果を
 奪わせてもらうね♪」
「ちょっと待て!」
「待たない。じゃね」
するとマユはデスティニーの脇を抜け、脱兎の様に走り去る。
「に、逃がすか!」
その後ろをデスティニーが追いかけ始めた。
「来んな変態! シスコン!」
「お前だってブラコンだろうが!」
奇妙な兄妹の追いかけっこが起きている時、オーブの司令室となっている輸送機の中で、ユウナは憮然と
した表情で今後の事態を悩んでいた。
「まさか、アレがやられるなんて……オーブの科学力は何時の間にか、随分と取り残されたのかな?」
連合の切り札のはずのデストロイが、簡単に撃破されてしまった。破壊不可能と思われたデストロイを
倒すには、パイロットの疲弊を待つ戦法しか無いと思っていたのだが、どうやら認識が甘かったと認める
しか無かった。
「考えてみれば無敵の装甲なんて有史以来ありえないよな」
「だが、どうやって?」
キサカもデストロイを敵に回した場合の戦法はユウナと同じ方法しか思いつかなかった。
「そこまでは分かんないけどね。それよりも、これからさ」
ユウナの読みでは、連合は何かをオーブに要求してくるだろう。それを拒否するのは難しい。
しかし、当初の読み通り、この戦争はザフトの勝ちだと思っていた。
そのため、上手い負け方。どうやってザフトに降伏するかが重要になってくる。
「次に連合が要求してくるのは……カーペンタリアかな」
結局、その理由までは分からないが、連合は時間稼ぎをしたがっているのは明らかだ。
だが、アマギに声を掛けられ、その思考を中断させる。
「ユウナ様、連合が撤退を開始しました。我々にもです」
「撤退しろって?」
「は、はい……何か不信な点でも?」
「撤退を援護しろとは言ってこないの?」
「はい」
「不味いな……やはり、ここでは無く、別の場所で扱き使う気だな」
「ユウナ様?」
「ああ、ゴメン。撤退を開始しよう。大丈夫だね?」
「お任せください! 必ずや無事に…ん?」
「どうしたの?」
アマギが何事か話し込んでいると、驚いた表情でユウナに伝える。
「ユウナ様! アークエンジェルが現れました!」
「は?」
ユウナが愕然としながらモニターに目を移すと、そこにはアークエンジェルが映っていた。
そのオーブとは関りの深い戦艦の姿に呆然としながら呟く。
「何であれが……何しに来たの?」

「ああ〜〜! もう! チョロチョロと!」
シンはマユの素早い動きに歯噛みした。何とかデスティニーの手に掴まえようとするのだが、力を
入れすぎてはマユを潰しかねない。しかし優しく掴まえようとして、ゆっくりと動かすと指の隙間など
から逃げ出してしまうのだ。
「どうすれば……ん?」
その時、デスティニーのコクピットに警告音が鳴り響く。
「な! 何でこんな時に!」
その警告音はシンの最大の任務を果たすべき相手が現れた事を伝えるものだった。
デスティニーに設置された最優先のターゲット、フリーダム、エターナル、そしてアークエンジェル。
それらが出現した事を知らせる警告音は、シンにマユの捕獲を諦めさせる。
「はぁ〜〜……マユ! お兄ちゃん、用事が出来たから……って、聞いちゃいないし」
後ろを振り向かず、一心に逃げ去る妹の姿に一抹の寂しさを抱え、シンはアークエンジェルに視線を
移す。
「アンタの所為で!」
シンは妹との時間を邪魔された怒りを込めて、アークエンジェルにデスティニーを向かわせた。

スティングは撤退を始める輸送機にカオスで入り込むと戦況を見つめる。そして、未だにステラとマユが
戻って来ないことに苛立ちを感じ始めていた。
「ネオ、援護に出るぞ!」
「待て、ガイアが戻ってきた」
ネオが言った通り、ガイアが輸送機の前まで来ていた。スティングは手を伸ばしてガイアの手を取り、
輸送機の中に収容する。
「ステラ、マユはどうなった!?……ステラ?」
デストロイの撃破は確認しているが、パイロットの安否は未だに不明だった。最後まで一緒にいたステラ
なら、何か知っているかと尋ねるが、ステラの様子がおかしい。
「あの声……思い出した……ディオキアの……シンの声……インパルスのパイロットの声」
震えながら何かに憑かれたかのように呟いている。そして、その単語を聞き取ったスティングの表情が
強張った。
「お前、知ってしまったのか?」
スティングは、ステラがアウルの仇と好きな相手が同一人物だと知ってしまった事に気付いた。
「状況は?」
ラクスは戦場を見渡しながら、状況を確認する。
「連合は撤退を開始しています」
「そうですか」
ラクスは呟きながら、遅かったかと溜息を吐く。これでラクスの危惧するコーディネーターの支配する
世界が、また一歩近付いてしまった。
「連合の撤退を援護します」
こうなっては少しでも連合の被害を抑えるしか無いと判断した。
「了解しました。ビルゴを発進させます」
アークエンジェルからビルゴが出撃するのを見ながら、キラは自分もストライクフリーダムで待機する
ために、ブリッジを後にしようとすると、ラクスに呼び止められる。
「キラ……まさか?」
「フリーダムで待機する」
「そんな!」
「ラクス、僕は何のためにここにいるの?」
キラの唐突な質問にラクスは首を傾げた。ラクスにとってキラは側に居て欲しい相手であって、その気持
に一々理由などは無いのだから、そんな質問には答えようがない。
「万が一って事もあるからね。僕はMSで待機する」
「あ……キラ」
ラクスは何も言えないまま、キラを黙って見送るしか無かった。
「アレは来るのかな?」
キラはブリッジを出ると先日のアルトロンの事を思い出していた。まともに戦り合っても勝ち目は無い
だろうが、接近戦の武装しか持っていないようだし、牽制しながらアークエンジェルの脱出を促す事は
可能だと考える。
「ラクスは僕が守る」
ラクスは答えなかったが、自分がラクスの元にいられる理由は、ラクスを守る事が出来る戦士だからと
考えていた。
だから、ラクスを守るのは自分の使命であり、ビルゴなどには負けるわけにはいかなかった。

シンがデスティニーをアークエンジェルに向けて進攻させると、4機のビルゴが発進していた。
かなりの強敵だが、あのMSを破壊出来るのはデスティニーしか無い。
「全機下がれ! そいつは俺がやる!」
シンはザフト全軍に向かって通信を入れる。先程特務隊と名乗っているので、ザフト軍は素直に従い道を
開けてくれる。
「な、何か恥ずかしいな……これじゃあ俺が偉い人みたいだ」
だが、その様子にシンは躊躇いを感じる。おそらくデュランダルが予定通り、自分を英雄として前面に
出し始めたら、さらに面映い気分になるだろう。
「ん? あれは……」
その時、上空からパラシュートを背負ったMSが降下しているのが目に入る。
「サンドロック! カトルが来たのか」
シンが降下前にデスティニーの最終チェックを受けた際に、カトルもアロンダイトのチェックをする為に
シンの乗ったデスティニーに搭乗していた。正確に言えば、カトルが搭乗するヴェステンフルス隊の
3番艦が、デスティニーの最終チェックのために近付いてきたのだ。
デスティニーが移動中に行った稼動、及び兵装チェックは、幾つかの不具合が見つかったため、カトルは
その修正をするのに労力を割いていた。
その間にシンが休憩をしているとデュオがやってきた。そこで彼から彼等の機体の説明とモビルドールの
ことを聞いた。カトルのMS、サンドロックは格納庫で見たし、さらに降下する際には、衛星軌道上で
待機するデュオ達の3機のガンダムも見ている。
「てっきり、3人の内の誰かだと思ってたけど」
彼等が衛星軌道上で待機していた目的は、戦場に現れたラクスが所有する残りのビルゴの破壊と、この機
に、ラクスへの増援を送るかもしれないクライン派の抑えのためだった。
普通なら、一仕事終えたばかりのカトルでなく、他の3人が降りてくるとは思っていた。
そこで、念のために確認をとろうと、サンドロックに通信を入れる。
「こちらシン、カトルなのか?」
「はい。そうですよ」
通信機から聞こえる温厚そうな人柄を思わせる声は、間違いなくカトルのものだった。
「何でお前が?」
「他の奴だと危ないからとハイネに頼まれまして……っと、こんな問答をしてる場合ではありませんよ」
「あ、悪い」
すでにアークエンジェルもサンドロックの存在に気付き、ビルゴを向かわせていた。もっとも、ビルゴが
サンドロックに向かうのはありがたいことではあった。
「それでは、いきます!」
カトルは一声気合を入れると、サンドロックのパラシュートを外し、眼下のビルゴに襲い掛かった。
カトルは降下しながらヒートショテールを抜くと、一番手前にいたビルゴを切り裂いた。
ラクスは、それを見ながら、予想とは違う姿に戸惑いを感じていた。
「龍では無い? あれは?」
今回もアルトロンが来るのは覚悟していたが、違う機体のシルエットに驚きを覚える。
「ラクス・クライン! これ以上モビルドールを使わないで下さい!」
そして、そのMSから通信が入ってくる。龍のパイロットの苛烈さとは逆の優しい女性のような声。
しかし、その優しげな声とは反対に、その動きは豪快で、大きな蛮刀を振るい2機目のビルゴを破壊した。
「離れながら迎撃だ! バリアント、イーゲルシュテルン撃て!」
ダゴスタの指揮で、アークエンジェルはサンドロックから距離を取りながら攻撃を開始する。
「くっ!……さすがにこれでは」
カトルはビルゴのビームキャノンを優先的に避けているため、アークエンジェルの集中砲火を全ては
かわしきれずに、着弾の衝撃で体勢を崩してしまう。
「よし、今だ! ゴッドフリート撃て!」
そして、サンドロックに向け、ローエングリンに次ぐ威力を持ったゴッドフリートが発射された。
ダゴスタは直撃を確認したが、彼はサンドロックの装甲をビルゴと同じものだと想定していたので、
あれで破壊できるとは思っていなかった。
「手を休めるな! 続けてスレッジハマーを発射しろ!」
そして、対艦用のミサイル、スレッジハマーをMSに向けて発射させた。
「これなら……ビルゴを向かわせろ!」
スレッジハマーの直撃で、サンドロックが爆煙に隠れてしまう。だが、これほどの攻撃を与え続けたのだ。
ビルゴでも無事ではすまない威力のダメージを与えたと確信していた。
だが、煙の中から飛来した蛮刀がビルゴを突き刺さった事で、その予想が覆る。
「くっ…ビルゴより丈夫なのか! 攻撃を再開しろ!」
「あと1機!」
カトルがサンドロックの体勢を大きく崩しながら、もう1本のヒートショテールを投げつける。
しかし、その直前でアークエンジェルの砲撃が襲い掛かり、ヒートショテールの投擲の軌道が狂って、
目標を外れる。
「しまった!」
「よし! 奴は素手になったぞ!」
如何にサンドロックの防御力が優れていると言っても、ビルゴとアークエンジェルの集中砲火を受けては
ただでは済まない。
カトルは、落下したヒートショテールを取りに行かなければならないが、そうなっては空中のビルゴと
アークエンジェルに攻撃をするのが難しくなるのは目に見えていた。