Top > W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第09話
HTML convert time to 0.006 sec.


W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第09話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:03:33

第9話「志を継ぐもの 中編」

 デュランダルとの会見を終え、その日泊まるホテルへと向かったアスランは思わぬ事態
に遭遇していた。
「交通規制?」
 何でもアプリリウス市内の交通管制システムに異常が出たため、回復まであらゆる交通
機関を全面的にストップする、とのことだった。戦後のプラントではこうしたことが良く
あった。戦争によって失われた人的資源、出生率が必ずしも高くないプラントにおいて、
ザフトを除いてほとんどの公的機関が慢性的に人手不足だった。
 しかも、先の事件の責任を取り、最高評議会の情報交通を担当する委員長が辞任してい
たため、組織的にも衰弱しきっているのだ。
「仕方ない……歩くか」
 アスランは、そこまでの代金をタクシーの運転手に払うと、夜のアプリリウス市内を歩
き出した。周囲では同じように交通機関のストップを受け、警察に文句を言っている者も
いれば、アスランのように諦めて歩いている者もいる。
「また戦争になれば、今よりもっと酷くなるな……」
 ただでさえ人が少ないのに、これで戦争が活発化すれば、人的資源はイヤでもザフトに
流れる。不思議なもので、軍隊組織というのはいくら人がいても溢れることは決してない。
しかし、その内の幾分かを外部に放出すると、たちまち組織が成り立たなくなるのだ。こ
れでは、プラントは遅かれ早かれ、社会管理の面で破綻を来す。
「命が消えるのは簡単だが、命を育つのには多くの時間が掛かる。プラントは、俺達コー
ディネイターは――!?」
 前方に、男が一人立っている。その無骨な佇まいと、顔にある傷から、男が一般人では
ないことをアスランに告げていた。
「アスラン・ザラですな?」
「――っ!?」
 その名を呼ばれ、アスランは身構えるが、男はそれを手で制止、
「話がある。出来ればご一緒願いたい」
「断る、と言ったら?」
「時間は取らせません。ただ、我々は貴方の意思が知りたい」
「意思? どういうことだ?」
「貴方の、パトリック・ザラの息子としての、意思です」
「!?」
 まさか、こいつは……。
 アスランは目の前にいる男、否、目の前にいる戦士を凝視する。
「お前は……ユニウスセブンの!」
「……それ以上は場所を変えましょう」
 アスランに、拒絶することは出来なかった。

 男がアスランを連れてきたのは、なんのことはない、アプリリウスのどこにでもありそ
うな公園だった。アスランも知っている場所だったが、彼が最後に来たときと比べると、
幾分か寂れている。
「見なさい、この荒れようを。市民の憩いの場として、本来なら政府がキチンと管理しな
ければならい公園も、手が着かなくなって随分とたつ」
 ゴミ箱にはゴミで溢れかえり、噴水はもう何年も使用されていないのかのように汚れ、
花壇の花は枯れ、全体的にも酷い有様だった。
「戦後、我々があの戦争に『負けて』以来、プラントではこういう場所がいくつも出来た。
最高評議会はザフトやその他軍事施設に力を入れる一方で、こういった市民に必要な物に
対しての予算を可能な限り削った。知っていますか? あの軍事工廠アーモリーワンに一
体いくらの予算が注ぎ込まれたか?」
「いや……」
「そもそも戦争は終わったはずだ。それなのに何故あんな軍事工廠を新たに建設し、兵器
開発をザフトは続けるのか? 何故、市民の税金が戦う道具の為にまた使われるのか?」
「何が言いたいんだ、お前は!」
 アスランは思わず声を荒げた。厳格を思わせる男の声は、どこか亡き父に近い物があり、
アスランの耳を不快にさせた。
「私が言いたいのは、先の大戦は終わってなどいなかったと言うことです」
「何?」
「ユニウス条約が締結されてからも、ザフトは兵器開発を続け、市民はそれに税金を払い
続けた。何故でしょう? それは、まだ市民が先の敗戦に納得していないからですよ。ナ
チュラルどもめ、次こそは見ていろ、次こそは勝ってやる……プラントがこの一年に以上
もの間にしてきたのは、次の戦争の準備だ」
 アスランはそれを否定することが出来なかった。そもそも、かつてカガリと共にアーモ
リーワンを訪れたとき、彼らの訪問理由が正にそれだった。平和な時代に、プラントは何
故兵器を開発し、軍備拡張にはかるのか? また、争いを産むだろうと。
「クライン派と呼ばれるシーゲル・クライン、ラクス・クラインの意志を継ぐものたちは
口では和平だ反戦だと言いながら、準備だけはしっかりしている……矛盾だと思いません
か?」
「…………」
「彼らが真に平和を訴えるのなら、この公園がこんなに荒れていて良いはずがない。戦災
保障を削減してまで、ザフトに費やしている今の最高評議会を、誰が信じられますか?」
「だから、立ったというのか」
「我々の戦いは終わってなどいない。先の敗戦は、クライン派が自己の権力を取り戻し、
高めるために、双方の戦いを無理矢理止めたのですよ」
 止められた戦いに、決着は付いていない。後味は悪く、蟠りも残る。
「お前は、俺に何を望む?」
「我々の指導者になっていただきたい」
「な、に?」
 衝撃がアスランを襲った。この自分に、パトリック・ザラを裏切り見捨てた自分に、
指導者になれと言うのか。
「貴方が前大戦で何をしたのかは、私も知っています。しかし、貴方がパトリック・
ザラの息子であるのは事実。お父上の願いを叶えるには、今からでも遅くはないと思
いますが?」
「本気で、言ってるのか」
「少なくとも、危険を冒して貴方に会いに来たのです。冗談など言えません。我々は
貴方にも継いで貰いたい。パトリック・ザラの志を」
 父の……志。
 その言葉はアスランの胸を強く打つ。しかし、彼の理性はまだ理解は出来ても、納
得はしていない。
「……出来るわけがない! ナチュラルを全て滅ぼすなんて、そんなことは無理だ!」
「いいや、出来る! 何故なら我々は力を手に入れた!」
 アスランは叫び、男もまた叫んだ。
(力……だって?)
 男の自信に満ちた叫びに、アスランは疑問を憶えた。男の所属する組織がどれほどの
規模かは知らないが、ザフトより多いということはないだろう。それなのに、ここまで
自信を持てるというのは、何故だ。
「一晩、時間を差し上げます。もし我々の指導者として、共に起ち上がってくれるのな
らば、ここに連絡を」
 男は、アスランに紙切れを差し出す。
「一晩……」
 アスランは、無意識にそれを受け取ってしまった。
「こういう事は、もっと時間を差し上げたいのだが……私も長くアプリリウスにはいら
れないのですよ」
 男はそういうと、アスランに背を向け、歩き出した。
「ま、待ってくれ、貴方の名は――」
 思わず声をかけたアスランに、男は背を向けたまま答える。
「サトーです。良いお返事を期待しています、アスラン・ザラ」
 軽く手を挙げ、男はそのまま去っていった。
 残されたアスランは、手渡された紙切れを握りながら、呆然と、立ちつくすしかなか
った。

 やっと予約していたホテルへチェックインに出来たアスランは、最上階のレストランへ
と向かった。食欲があるとは言いづらかったが、食事込みでの予約だったため、用意され
ていたのだ。そして、用意されているものをキャンセルするほど、アスランは礼をかく男
ではなかった。
「ワインは、如何なさいましょうか?」
「あぁ……じゃあ、この68年物を頼む」
「かしこまりました」
 キチンと教育がなされたウェイターに注文をしながら、アスランはレストラン内を見回
していた。世間では戦争が始まろうとしているのに、こういった場所は、外界からは遮断
された、別世界に見える。
「まあ、レストランもないような世界ってほうが、おかしいか」
 ないよりは、あったほうがずっといい。それが、普通の世界というものだ。
「ん……あれは」
 アスランは、レストランに、「初対面だがよく知っている顔」を見つけた。

「ねえ、ロッシェ、ここのお料理美味しくないの?」
「ん? 別に、美味しいと思うが……」
「ウソ、だって全然食べてないじゃない」
 確かにロッシェの皿の上には、まだ料理が残っており、食が進んではいない。
「少し考え事をしていたんだ……」
「何か、昨日の出撃から帰ってきてから、ずっとそう。あたしが話しかけても上の空だし。
折角、ロッシェの活躍を祝ってのディナーなのにつまんな〜い!」
 ロッシェは、昨日の出撃において核攻撃隊及び敵補給部隊を全滅させるという大戦果を
挙げていた。デュランダルはロッシェのことを自分の秘蔵っ子だと紹介し、自身の宣伝に
最大限の利用をした。もっとも、レオスのことは出来る限り伏せてはいたが。
「もしかして、格好良く出撃したのに、帰りは道に迷ったの気にしてるの?」
 ロッシェは、プリベンター巡洋艦に寄った事実を今のところは伏せ、帰還が遅れた理由
を、道に迷ったと言うことにした。情けないことこの上ないが、異世界の住人である自分
には丁度良い言い訳だった。
「いや……そういうわけでもないさ」
 考えているのは、悩んでいるのはもっと別のこと。

「そういや、ロッシェ。お前さん、もうオデルとは会ったのか?」
 プリベンター巡洋艦から出るときに、ハワードが思いだしたように言ってきた。
「なっ! オデルの居場所を知ってるのか!?」
「知ってるも何も、つい数日前までここにいたぞ」
「そういう大事なことは早く言え!」
 やはりオデルも来ていたのだ。しかし、宇宙船の姿は近くになかったし、もういないと
言うことなのだろうか?
「奴は地球に行ったよ」
「地球に?」
「あぁ、異世界の地球を見ておきたいといってな」
 異世界に来て、割とすぐにハワードと会うことの出来たオデルは、しばらくはハワード
たちと行動をしていたが、数日前に地球を見に行くために旅だったらしい。
「地球か……一人でか?」
「一人と、一体でな」

「ロッシェ、ロッシェったら!」
 ミーアの声に、ロッシェは我に返った。
「なんだ?」
「なんだ、じゃないわよ。また、ボーッとしちゃって」
 オデルが地球にいるという事実は、ロッシェにとっては予想外だった。まあ、地球を見
ておきたいという気持ちはロッシェにもあるにはあるのだが……
「ミーアは地球に行ったことはあるか?」
「えっ、地球? ないけど……」
 ミーアは、生まれも育ちもプラントだ。彼女にとってナチュラルが住む地球は、怖い場
所、という認識だった。
「怖い? コーディネイターこそ、ナチュラルから恐れられてるのではないのか?」
 ロッシェはコーディネイターという存在をデュランダルから説明された際、それが如何
にナチュラル、つまりロッシェのような存在よりも優れているのかを説かれた。その為、
認識としてはコーディネイターのほうがナチュラルより何事においても勝っている種族で
あると思っていた。そしてそのことがナチュラルにある種の恐怖心理を与え、争いに発展
しているのだとも……
「大体はロッシェの言う通りよ……でも、この世に完璧な存在なんているわけない。あた
したちコーディネイターは常に何かしらの欠陥を持っているわ」
「欠陥……?」
「あたしなんてその典型的よ。何の取り柄もない、ただ声がちょっと『他人に似ていた』だ
け。それ以外は何が優れてるわけでもない……」
 必要とされていたのは、自分ではない。
「自分が何も出来ない落ちこぼれだって判ったとき、あたしは他人に、ラクス様になる道
を選んだ。だって、それ以外に道がなかったから」
 ロッシェは寂しげに語るミーアに、何も言わなかった。この世界の価値観をロッシェは
知らない。何か人より優れていなければ、落ちこぼれなのか? という疑問が頭を過ぎっ
てはいたが、コーディネイターがナチュラルより優れた存在として生まれる以上、特筆す
べきものがないというのは、確かに欠陥なのかも知れない。

「あっ――」
 その時、ミーアは奥のテーブルで食事を取っている人物を見て、驚いた。
「どうした?」
「アスランだ……あそこにで食事してるの、アスラン・ザラよ」
「アスラン?」
 少し行儀が悪いかと思いつつも、ロッシェも椅子越しに振り返ってそのテーブルを見た。
一人の青年が黙々と食事を取っている。
「知り合いか?」
「知り合いも何も、婚約者よ」
 ミーアは、少々意地悪な笑みを浮かべながらロッシェに言った。ミーアの予想通り、ロッ
シェは面食らったように、ミーアを見ていた。
「フフッ、大丈夫、ラクス様の婚約者よ。確か戦後は、地球の中立国に亡命したとか聞いた
けど……なんでいるのかしら?」
「随分思い詰めた顔で食事を取っているな」
「ダイエット中なんじゃないの? あ、もしかしてメインに付いてくるアスパラが食べられ
ないとか」
 ミーアがアスランを観察していると、視線に気付いたのか、アスランもこちらに目を向け
た。
「わっ、目があった」
 慌ててロッシェの陰に隠れるミーア。
「別に隠れなくてもいいのではないか?」
 こちらを凝視しているアスランをチラ見しつつ、ロッシェが言う。
「そうなんだけど……なんか、アスランって――」

 まさかラクスがいるとは思っていなかった。しかし、アスランは声をかけるべきかどう
か迷っていた。
(あれはラクスであって、ラクスじゃない……)
 一緒にいる男は誰だろうか? ザフトの軍服、しかも赤服を着ているが、アスランの知
っている顔ではない。ラクスの護衛か、それとも……?
「まあ、知らなくて当然か。一年以上もプラントには帰ってなかったんだ……」
 ザフトも様変わりしたのだろうか? したのだろう。イザークはいつの間にか白服にな
ったと言うし、ディアッカは対照的に緑服だ。しばらくいなかった間に、大きく変わって
しまった。
(しばらくいなかった、だって?)
 それじゃあ、まるで自分がプラントをちょっと留守にしていたみたいじゃないか。
 アスランは自分の考えに首を振りたかったが、アスランにとってやはり故郷はここなの
だ。亡命したオーブではない。プラントこそが……
(そして今の俺は、プラントのために戦いたいという思いが強い)
 果たしてそれが、どちら側について戦うのか、アスランは迷ってこそいたが、このまま
オーブに戻るのは何か違うような気がしてならない。
「えっ?」
 食事を終えたのか、席を立ったラクスがこちらに歩いてきた。その足取りは軽く、上品
さと言うよりは、女の子らしさが合った。
「アスラン・ザラ、ですわよね?」
「あっ、ああ……」
 見れば見るほど、目の前にいる少女はラクスだった。口調がどこかわざとらしいが、声
までこうも似ているとは……

「お食事中ごめんなさい、どうしても挨拶をしてから帰りたくて」
「それは構わないが、えっと」
 彼女を何と呼ぶべきか焦ったアスランだったが、ミーアはそんな彼ににそっと耳打ちし、
「ミーアよ」
「ミーア?」
「そう、ミーア・キャンベル。それが私の本当の名前」
 ミーア・キャンベル……そう名乗った少女を、アスランは何とも言えな気持ちで見つめ
た。この子は自分の知っているラクスではない、ラクスではないのだが……
「本当に、そっくりだな……」
「声だけよ、似ているのは。後は全部、ラクス様のまがい物」
「まがい物?」
「作り物って言ったほうが、良いのかしら。まあ、それはいいとして」
 ミーアは口調をラクスに戻すとバックから一枚のチケットを取り出し、アスランに渡し
た。
「明日、このホテルの近くにあるホールでコンサートがあるんですのよ?」
「コンサート? 君の?」
「そうですわよ? それで、これがそのチケット。良かったら見に来て。アスランには本
物のラクス様のこととか、色々聞きたいし」
 そう言ってウインクすると、ミーアは連れの男のほうに戻っていった。連れの男は興味
深げにこちらを見ているが、その男もまたかなりの美形であり、正にコーディネイターと
いった感じであった。
「ミーア・キャンベル、か……」
 コンサートそれ自体に興味は無いが、アスランは一度ゆっくり彼女と話をしてみたいと
思った。明日は行きたい場所もあるし、少し顔を出すのもいいかもしれない。
「いや、それよりも俺にはすることがある」
 決断せねばならない。何を取って、何を捨てるのか、誰のために、何のために『アスラ
ン・ザラ』に戻るのかを。
 C.E73年11月……アスラン・ザラは自分の道を、まだ選んではない。