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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第21話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:07:09

「オデルさんは、どうして俺を助けてくれたんですか?」
 オデル・バーネットがミネルバ所属となる前、軟禁状態の彼と、シンはよく
会話をしていた。謎めいた存在であるオデルに、シンは興味と好奇心をそそら
れたのだ。
「正直いうと、どちらを攻撃しようか、あの時は迷った」
「え?」
「私には、どちらの機体があの基地の所属なのか判らなかったし、片方の味方
になったつもりもないんだ」
 オデルはただ、民間人を守りたかっただけである。別にザフトに味方したか
ったわけでもないし、ファントムペインと敵対したいわけでもない。
「じゃあ、どうして、どうして俺を?」
「それは……あの時、君が、攻撃を躊躇っていたからだ」
「攻撃を?」
「ああ。君はあのモビルスーツと対峙していたとき、民間人を巻き込むことを
承知で戦っていれば、勝てていたはずだ」
 だが、シンはそれをしなかった。民間人に危害が加わることを避け、自らや
られる道を選んだのだ。
「形や相手のモビルスーツは民間人に銃口を向けていた。私は民間人を守ろう
と戦いに介入し、その結果、君を助け、君の敵を倒しただけだ」
「でも、そのことだって……あなたにはあそこの民間人を助ける理由はなかっ
たはずです」
 むしろ、それをすべきなのはあのファントムペインのはずだ。彼らはあろう
ことか、守るべき民間人に銃を向けたのだ。シンにはそれが許せなかった。
「それこそ愚問だよ。人を助けるのに、理由がいるのか?」
「あ……」
「私には、軍や国という柵がなかった。だから助けた。それだけのことさ」
 ある意味で、それは過去への贖罪なのかも知れない。
 仮面で素顔を隠し、心を偽っていたときの自分への。
「俺も……俺も同じです」
 シンは、オデルを見つめる。青みがかった黒髪をした美青年は、シンの心に
どこか安心感を与えてくれる。
「俺は、戦争で家族を亡くしました。軍隊に入ったのは、その悲しみや怒りを
忘れるためで……軍人が、民間人を守るものだと信じていたからです」
 建前上、共和制の軍隊は民間人を守るために存在しているとされる。シンは、
一人でも多くの民間人を守りたかった。力のない人の代わりに自分が戦うこと
で、多くの人を救いたかった。
「そう思ってたのに……実際は全然違くて」
 守るどころか、幾人も手に掛けてしまった。
「そりゃ、ザフトの俺が敵国の市民のことを気にしてたらキリがないのかも知
れないけど……」
 ある程度で割り切ったほうが良い。きっと、レイ辺りならそう言うだろう。
だが、それを諭すようにオデルが口を開いた。
「シン……と言ったね」
「はい」
「私なんかが言えることじゃないが、戦争を行っているからといって、その敵
国の市民がどうなっていもいいなんて思わないことだ。軍人だからと視野を狭
くしていたら、君にとっては良くないだろう」
「は、はい!」

         第21話「アスランの蠢動」

ミネルバがマハムールへと向かう前、アスランはイザークやディアッカたちと
の連絡を頻繁に行っていた。宇宙の状況や、ウルカヌスとモビルドール稼働状
況などの問い合わせが主だったが、ミネルバが軍事行動に移ったため、連絡の
取り合いも中断されることとなった。
 如何にフェイスといえど、軍事行動中の艦において私的な通信のやりとりな
ど出来るはずがない。故にアスランは、単身で今後の計画や策略、所謂陰謀を
練らねばならなかった。
「イザークや、ディアッカたちに軍事面を総括させるのはともかくとして、議
長に近づくだけではプラントの内部情報は引き出せそうもない。情報面での工
作員が必要となる……」
 アスランは暗い私室で、一人独白する。イザークたちした最後の通信では、
予定よりもモビルドールの起動に手間取っており、先に有人機での実験が行わ
れるとのことだった。
「あいつ等、あの機体に乗りたいだけじゃないだろうな」
 苦笑するが、アスランにだって未知の機体への好奇心はある。イザークと、
ディアッカがパイロトとして関心を示し、乗ってみたいと思うのも無理はない
だろう。
「プラントだけじゃなく、ファントムペインの情報も得る必要がある。出来れ
ば純度と精度の高い……」
 となると、敵の内部に工作員を送り込むしかないだろう。だが一体誰を? 
情報戦の重要性をザフトに訴えて、スパイを送り込むという手もある。しかし、
それではザフト全体が敵の動きを知りうることとなり、戦いはザフト有利に進
んでしまう。情報を得るのは自分だけで良い。その為には……
「通信を送る必要があるな」
 アスランは考えること数秒、一計を思いついた。恐らくこれで、ファントム
ペイン側の情報収集は上手く行くはずだ。問題は、どうやって連絡を取るかで
あるが、アスランは情報の専門ではないため何か工作を施して通信を送るなど
といった芸当は出来ない。それが出来るとすれば……

「あれ、アスランさんも今お昼ですか?」
 三十分後、アスランは食堂にいた。彼はそこで、同年代の同僚と食事をしに
きたメイリン・ホークにあった。相変わらず、彼女だけは屈託のない笑顔でア
スランに接していた。
「あぁ、まあ」
 離れた位置にいる、メイリンの同僚たちが複雑な視線をアスランに向けてい
るが、そもれ若干だが弱くなってきているようにも思えた。
「みんな、アスランさんのことより気になることがあるんですよ」
 微笑しながらメイリンが耳打ちする。
「それって、例の?」
「はい、例の謎のお客さんです」

 シン・アスカは、先日からこの艦の所属となったオデル・バーネットと親し
くしていた。命の恩人であるオデルに恩義を感じていたし、何よりその強さに
少年らしい憧れを持っていた。
「オデルさんは本当に凄いよ。あれだけ強いのに本職のパイロットじゃないん
だぜ?」
 口調は明るく、言葉には元気があった。この変わりように、レイやルナマリ
アは驚いたが、それほど衝撃的だったのだろう。まるで、正義のヒーローと出
会った子どものような感じだった。
 一方、そんな尊敬をもたれてしまっているオデル・バーネットは、ミネルバ
での地歩を固めつつあった。さすがに所属となった初日は彼の存在を忌諱した
り、不気味に思うクルーもいたのだが、オデル自身の人当たりの良さと、その
好青年っぷりが幸いして、早い段階でとけ込むことに成功したのだ。
「私は本来、技術畑の人間ですから」
 そういいながら整備班にも積極的に協力を申し出て、パイロット兼整備スタ
ッフとしての地位を確立していった。オデルは自分の立場を弁え、役割も認識
していた。そんなオデルの存在があって、おこぼれのような話だが、アスラン

ザラもまた、以前ほど艦内で孤立しなくなった。人間、注目すべき存在が新
たに現れれば、そちらに注目するものである。
 アスランとしてもこの事態は精神的には歓迎すべきことあり、その旨をメイ
リンに語っていた。
「しかし、あのオデルという人は凄いな。俺もあんな風に人付き合いが出来れ
ば良いんだが……」
 別に人付き合いが苦手というわけではない。だが、得意でもなかった。
「まあ、誰だって得意不得意がありますよ。アスランさんは、自分の得意なこ
とを磨けば良いんです」
 メイリンのフォローはありがたかったが、その得意な分野でもオデルに勝て
るかどうか…………
「味方である分はまだしも、今後敵になったら厄介かもな」
「え?」
「あ、ああ、いや、何でもない」
 敵。この先、アスランが進むべき道に、あの男は立ち塞がるのだろうか? 
だとしたらそれは驚異となる。早めに手を打っておくべきだろう。だが、その
前に……
「メイリン、君に折り入って頼みがある。悪いが、後で俺の部屋に来てくれ」
「え…………は、はい! わかりました」
 一瞬固まった後、メイリンは答えた。アスランの言葉をどう解釈したのかは
ともかく、言葉の真剣さは伝わった。

 その頃、ファントムペインの本拠地であるアイスランドのヘブンズベースで
は、幹部たちによる緊急の会議が行われいた。議題は当然、インド洋での戦闘
と、敗北に終わった結果についてである。
「建設中の基地を失い、配備されていたウィンダムは三十機全てがパイロット
と共に消失。派遣されたエース機も戦死」
 読み上げられた散々たる結果に、さすがのファントムペイン幹部も息を呑ん
だ。怒声を上げて反撃、攻勢を訴えるものは一人も居らず、会議場は重い沈黙
に包まれている。
「過ぎたことは仕方がない……問題はこの先どうするかと言うことだ」
 その沈黙を打ち破ったのは、ロード・ジブリールであった。彼自身、自分の
発言がこのような結果を招いた事実を承知していたが、まさかこんなことにな
るとは考えても見なかった。
「我々には二つの選択肢がある。そうだな大佐?」
 ジブリールは、ネオ・ロアノークを見る。主戦派の勢いが落ちた以上、ネオ
のような慎重論を唱えるものの意見も尊重しなければならない。
「そうですね……一つは、ザフト軍艦ミネルバに対して、再度攻撃のための艦
隊を派遣し、何が何でも倒す。もう一つは、ミネルバへの拘りを捨て、勢力の
維持と拡大、軍備の増強と戦力の再編に努める。これしかないでしょう」
 ネオはことさら、ミネルバへの拘りという部分を強調した。確かにミネルバ
は驚異だ。既にザフトの精鋭となりつつあり、その存在が感化できないのも判
る。しかし、このまま部隊を送り続け、そのこと如く全滅などという事態にな
ったらどうするのか。
「今は一隻の戦艦を追い回している時期ではない、小官などはそう思いますが」
 明らかに皮肉の混じった意見ではあるが、失敗続きということもあって、誰
も異を唱えなかった。しかし、ただ放置しておく分けにもいかない。
「ミネルバはマハムール基地を目指しているようだが……狙いはなんだろう
か?」
「この時期に援軍となると、やはりスエズか? ガルナハンはまず有り得ない
だろう」
「だとしたら、スエズの防御を徹底させる必要があるな」
 ファントムペインが連合より奪取したスエズ基地は、中東地域の最大軍事拠
点として知られ、その戦略的価値は決して低くはない。だが、この基地は西を
ザフト軍のジブラルタル基地に、東を前述のマハムール基地に挟まれており、
その維持は容易なものではなかった。
「最悪、両方の基地から発進した艦隊に二正面作戦を取られ、スエズ基地は挟
撃される危険性もある、か」
 スエズを失うのは、ただ基地を失うのとわけが違う。中東地域をザフトに奪
われ、ファントムペインの勢力は一気に減退することとなる。
「先手を打って、マハムールを攻めましょうか?」
 ホアキンの提案は、好戦的であったが、悪いものではなかった。敵が二正面
作戦で来るのなら、先にこちらがマハムールを攻略し、返す刀でジブラルタル
艦隊を討つ。時間的余裕と、タイミングさえあれば可能ではないか?
「紅海から、アラビア海に出て、ペルシャ湾に入る。マハムールは海に面して
の基地ですし、ある程度の戦力さえ揃えば攻略も可能でしょう」
 この積極的意見は、なかなかの好評を得た。だが、そこまで上手くいくもの
か、という慎重論を唱えた者がいた。それは当然の如く、ネオだった。
「確かにホアキン中佐の作戦は万事が上手くいけば理想的でしょう。しかし、
マハムールを攻略するために全軍で出撃すれば、基地の防御が手薄になる。そ
の間に敵が殺到してきたら、どうするのか」
 カーペンタリアなどとは違って、ザフト軍ジブラルタル基地は未だに多くの
兵力を有しており、動きも活発である。スエズが手薄になったことを察知し、
素早く攻勢を仕掛けてこられては一溜まりもないだろう。
「それについてはこうです」
 ホアキンは、ジブラルタルを牽制するにヘブンズベースの戦力を使うことを
進言した。あくまで陽動であるが、ファントムペイン最大の兵力を有し、最高
戦力であるヘブンズベースの艦隊と部隊が動きを見せれば、ジブラルタルとし
てはそれを警戒せざるを得ず、スエズを構ってなどいられないはずだ。
 この戦略に慎重論に傾きつつあったファントムペインの幹部は、興味をそそ
られた。ネオであっても、確かにやってみる価値はあると思わせるほどである。
「だが、マハムールにはミネルバが向かっている。それに勝てるのか?」
 誰かが陰鬱そうに発した一言が、議場の空気を寒くした。そうだ、ミネルバ
がいた。既にファントムペインにとっては、女神どころか死神に近い戦艦が、
マハムールへと向かっている。この作戦を取れば、またあの艦を相手にしなけ
ればならないのだ。
「一時保留にしよう。焦ることもない、戦争はまだはじまったばかりだ」
 ジブリールはそう言って、会議を終了させたが、彼自身今後の行動に決断を
しそこねていた。ホアキンの積極的意見を取り入れなかったのも、彼のこうし
た迷いが表面に現れたためだった。
「…………嫌な空気だ」
 ネオはそんな盟主や、幹部たちの姿に不安を覚えていた。ファントムペイン
は武力集団としては確かに強い。個々の実力はコーディネイターにも引けを取
らず、何人を持ってしてもファントムペインを弱いなどとは呼べないだろう。
だが、それとこれとは次元が違う話だ。個人の強さだけで戦争が出来るのなら、
そもそも軍隊組織など必要としない。戦いに勝ち、争いを止めるには高度に統
一された意思と、鮮麗された組織があってこそだ。しかし、旧連合への反駁心
と、コーディネイターへの嫌悪から生まれたこの集団にはそれがない。
 これでザフトに勝てるのか?
 勝ったとして――その先に何があるというのか?

「その、なんだ、頼みっていうのは……」
 ところ戻ってミネルバでは、アスランの私室にメイリンが尋ねてきていた。
呼んでみてから気付いたのだが、士官が年頃の女性兵士を部屋に招き入れると
いうのは問題があるのではないか?
 しかし、気付いたのがメイリンが部屋に着てからでは遅いというものだ。ア
スランは、焦る心を落ち着けながら、メイリンを見る。その挙動に何を勘違い
したのか、
「え、えと、やっぱりこれってあれですか? そーいう話ですか?」
 メイリンのほうもドギマギしていた。
 他人が見たら、まず誤解されそうなシチュエーションである。
「いや、そういう話ではないというか……」
「ち、違うんですか?」
 アスランがいくら鈍い男であっても、メイリンの思考の傾き具合は判る。な
ので、さっさと用件を済ませることにした。
「これを、あるところに送って欲しいんだ」
 アスランは、デスクの引き出しから、小型の記録メディアを取り出した。
「記録チップ……通信ですか?」
 メイリンの表情が硬くなり、違う意味での緊張が走った。内容次第では、自
分はとんでもない頼まれ事をしていることになる。
「いや、何も軍事機密の横流しとか、そんな犯罪的なことじゃないよ」
 その反応を予期していたアスランは、慌てたように言いつくろいながら説明
する。
「私的なものなんだが……どうしても、オーブに送りたくて」
「オーブに?」
「あぁ。結局何も言えず仕舞いでザフトに戻ってきたから」
 それ自体は事実なので、アスランは遠い目でしていた。今頃、オーブはどう
しているのだろうか? ファントムペインとの同盟条約を締結したという話は
まだ聞かない。それにカガリ、ユウナ・ロマ・セイランとの婚約はどうなった
のだろうか……
「その……私が中を見せて貰っても構いませんか?」
 メイリンは不安そうに尋ねる。軍事行動中に私的目的で通信を行うことは固
く禁じられている。それは一般兵だろうと艦長だろうと、フェイスだろうと同
じことだ。バレたら軍規違反ということになってしまう。
「だから、君に頼んでるんだ」
「でも、そんなこといわれても私……」
 メイリンは艦の通信を担当する管制官、こと情報においてはエキスパートと
いっていい資質を持っていた。確かに、人にバレずに通信を送るといった芸当
も出来る。
「君に迷惑を掛けるつもりはない。いざとなったら、脅されたとでもいえばい
い」
「…………ちょっと考えさせてください」
 メイリンには自信と成算があった。アスランに小さくない借りを作るという
のも悪い話ではない。しかし、行為への不安からか即答は避け、一旦自室に戻
り、四十五分後に、引き受ける旨を伝えた。
「オデルさん、ここにいたんですか」
 ミネルバの甲板において、シンはオデルを見つけた。オデルは無言で海を眺
めている。
「ミネルバはそろそろペルシャ湾ってとこに入るみたいです。そうすれば、マ
ハムール基地はすぐですよ」
「そして、ガルナハン攻略へ向かうのか……」
「オデルさんも、早速活躍できますね」
 シンは笑って言うが、オデルとしては複雑なことこの上ない。ミネルバに所
属してみて、初めてザフト軍のモビルスーツを知ることとなった彼だが、最新
鋭機のインパルスでさえ、スペック上はジェミナスの足下にも及ばない。この
世界で自分が積極的に戦いに参加すれば、パワーバランスが崩れるどころでは
ないのではないか?
「シン、君がこの艦のエースなんだろう? だったら君が」
 言いかけて、オデルは思わず口を止めた。シンの表情が一変して、暗いもの
へと変わったからだ。
「俺は……エースなんかじゃないですよ。俺は、弱いですから」
 オデルは、シンが自分を慕う理由の一つに、自己の自信喪失から来る、強者
への憧れであると明確に見抜いていたが、こればかりは自分で立ち直らせるべ
きだと思っていた。彼の弟もそうだが、男というのは落ちるときはどん底まで
落ちたほうが良いこともある。その方が、這い上がってきたとき、少年は今ま
でよりずっと強くなれるはずだから……
 ザフト軍マハムール基地は、すぐそこまで迫っていた。