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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第22話(1)

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:07:24

 ザフト軍マハムール基地は、ペルシャ湾に面した沿岸に建設されている。カ
ーペンタリアや、ジブラルタルの巨大さには及ばないが、陸上・海上戦力の両
方を保有しており、戦闘以外にも通信、補給、整備、医療など一軍を駐留させ
るには申し分ない機能を持っていた。
 戦略上、あまり意味があるとは思えないこの位置に、ザフト軍が基地を建設
したのは、他でもない旧連合のスエズ基地への睨みを利かせるためだった。そ
れは連合がファントムペインに変わってからも同じであり、基地は来るべきス
エズ攻略戦に向けての準備を始める、そのはずだった。
「それがどうしてか、ガルナハン攻略ということになっている」
 軍港に入るミネルバを、管制室から見つめる男がいる。このマハムール基地
の司令官である、ヨアヒム・ラドルだった。彼は基地指令官と駐留部隊司令官
を兼任する、ザフト軍では稀な人物であったが、その堅実的な用兵手腕と、冷
静な判断力を高く評価されている。
「司令官閣下、ミネルバの入港が完了いたしました。港にて、出迎えるべきか
と存じますが」
 副官が、窓の外を見つめたまま動こうとしない司令官を諭す。
「心中お察ししますが、彼らは国防委員会の決定を受け、派遣されてきた増援
部隊です。無碍にも出来ますまい」
「貴官はそう言うがな。あれは、本来なら軍法会議なり、軍事法廷で裁かれて
いるはずの部隊だ。それが開戦だなんだと起こっているうちに、いつの間にか
有耶無耶になっている」
 ラドルは部下に公平で、良識派な人物としても知られている。だからこそ、
あの民間人殺しと揶揄されるミネルバを許容しがたいのだ。
「カーペンタリアや、インドで勝ったからといって、ここでも同じようにいく
かな」
「閣下、滅多なことを仰いますな。仮にも友軍ですぞ?」
「あぁ、『仮にも』友軍だ」
 だから、負けろとか、戦死しろなどという言葉は使わない。ラドルなりの節
度ではあるが、面白くないという気持ちは変えることが出来ない。
「精々、役に立って欲しいものだ。どういう形であっても」

            第22話「炎の瞳をした少女」

 マハムール基地への入港を果たしたミネルバは、とりあえず艦長であるタリ
ア、副官のアーサー、フェイスのアスランが代表として基地指令と対面し、今
後の協議を行うこととなった。この人選は当然といえば当然であったが、
「きっと立場の強いアスランを連れてくことで、立場を対等以上にしたいのよ」
 という、ルナマリアの意見は正鵠を射ていた。この地域のザフト軍がミネル
バに対して、必ずしも好意的ではないということは、ミネルバ側でも十分に承
知していたことだった。カーペンタリアであっても、数々の奮戦と、それに伴
う武勲があって、はじめて蟠りが消えたのである。この基地もまた、行動によ
って示す以外、それが消えることはないのであろう。
「基地司令官兼駐留部隊司令官、ヨアヒム・ラドルです」
 タリアたちの前に姿を見せたラドルは、極めて形式的な対応と、反応をした。
好感触を持たれていないのは判っていたが、あからさまでもないためにとりあ
えずは安心したが、
「特務隊フェイス所属、アスラン・ザラです」
 アスランが名乗ったとき、僅かながらラドルの背後にいる幕僚たちの間でざ
わめきが起こったことから、アスランが同行した事による効果はあったようだ
った。
「まあ、こんなところで立ち話も何ですから、指令室のほうへ」
 しかし、さすがにラドルは落ち着きを見せており、ざわめく幕僚を手で制す
と、基地内を歩き出した。
「こんな場所でも、コーヒーの豆だけは良いのが手にはいる。美味いコーヒー
をご馳走できると思いますよ」
 砂漠の虎もそうであったが、ザフト軍の将校にはコーヒーの味に拘りを持つ
のが多いらしい。
「なに、例え戦死するようなことがあっても、コーヒーの味に妥協していたと
後悔するような人生は嫌ですからな。最後に飲んだコーヒーが、美味くなかっ
たら死んでも死にきれない」
 もっとも、これはラドルなりの余裕の見せ方、現れでもあった。コーヒーの
味に拘れる、そんな些細なことを気にできるほどには、マハムール基地という
のは安定しているのだ。

 マハムール基地の指令室は、五十メートル四方と、なかなかの広さを持つ部
屋だった。メインスクリーン、サブスクリーン、そして大型の卓上デスクにも
戦略情報モニターが設置されており、機能性が高い。
 ラドル自慢のコーヒーに、一口、二口と口を付けてから、タリアたちは本題
を切り出すことにした。
「我がミネルバ隊は、マハムール基地における敵ファントムペインのガルナハ
ン基地攻略作戦を支援する目的で派遣されてきたわけですが……」
 既にラドルが何らかの作戦を立てているというのなら、それを聞き、納得が
いかなければ修正を要求する。または、何も作戦がないというのなら、それを
協議する必要があるだろう。
「実を言うとね、我々もマハムール攻略というのは寝耳に水といいますか……
あそこは旧連合の火力プラントがある地域なんですが、戦略上の価値はそう高
いものではないんですよ」
 強いて言えば、資源の確保といったメリットがあるのだが、それも大した意
味を成さないだろう。となると……

「恐らく政治的な意味合いがあるのでしょうが、そこまでは小官の知るところ
ではありません」
 プラントは、この地域に住む反連合・反ファントムペインの勢力を取り込も
うとしている。それはラドルやタリアも判る部分であり、今回のガルナハン攻
略も、その方面へのアピールが大きいのかも知れない。
「まあ、政治の話は政治家に任せればいいとして、我々はガルナハンを攻略せ
ねばならない。しかし、このガルナハン基地というのが曲者でしてな」
 勿体付けるように喋るラドルの口調は、タリアたちの感情を刺激するものが
あった。恐らくわざとあのであろうが、それを指摘しても無用な混乱が起こる
だけであろう。
「ファントムペインのガルナハン基地は、ガルナハンでも奥の方、丁度この山
々の間にあります」
 ラドルの副官が、戦略情報モニターに移ったガルナハンの地形と、基地につ
いて解説を始める。
「丁度この部分に、谷間といいますか、細い回廊がありまして。その奥に基地
があります」
 谷の壁面を要塞化し、地下に司令部を持つというこの基地は、戦艦や軍艦の
類を一切持たず、また保有するモビルスーツも二十機程度だという。これだけ
聞けば、大した基地のようなには思えない。
「ですが、この基地最大の特徴は、谷間の狭さ故に、正面から道なりに進むし
かないということにあります」
 場所が場所だけに、周囲を包囲するなどといった戦術が取れず、攻める側は
正面から直進的に進む以外の道が取れない。
「さらに、要塞化された基地は、多数の固定砲台を有しており、正面から来る
敵に対しての迎撃も完璧です」
 そして……と、ラドルが付け加える。
「基地には、要塞砲とも呼べる主砲が着いている。陽電子砲という巨砲がね」
 思わずタリアたちは息を呑んだ。陽電子砲、それはこの世界にある兵器の中
で、もっとも強いものの一つであり、その破壊力の前には戦艦でさえ一撃で吹
き飛んでしまう。ミネルバの艦首砲でもあるのだが、あまりの威力故に使われ
ることは滅多にない。
「正面から攻めるようなら、要塞砲に問答無用で粉砕されてしまう。それがこ
の基地の強さであり、ファントムペインによるクーデター以外では陥落したこ
とがない所以ですよ」
 難攻不落、とでも言うべきだろうか? 攻める側に選択肢を与えず、圧倒的
な破壊力で薙ぎ払う。ここまで極端な基地というのも他にはないだろう。
「戦略としては、カーペンタリアやジブラルタルの時と同じく、軌道上から部
隊を降下させて、空から制圧してしまうのが一番良い。しかし、私の進言は却
下されましてね……代わりに来たのが」
 ミネルバということである。

「ミネルバが加われば、勝てると?」
 タリアは問う。しかし、その問いにラドルは首を横に振った。
「上は出来ると思っているんじゃないですか。まあ、出来ないのなら、我々は
全滅するだけです」
「自信がないのですか?」
「ある、とは言えませんね」
 ラドルの弱気とも取れる発言に、タリアは顔をしかめた。自分たちなど大し
た戦力にはならない、といわれているようなものなのだから。
「でも、保有するモビルスーツの数はたった二十機ですし、数で攻めれば攻略
も可能なのではないですか?」
 今までジッと座っているだけだったアスランが、このように発言した。一般
論に近かったが、的はずれではない。だが、ラドルは苦笑しながらこういった。
「過去に二度、我々はガルナハンの攻略を試みたことがありました。前大戦か
らです。ですがそれは、実行に移されることなく頓挫してしまった。何故だか
判りますか?」
 ラドルの言葉に、三人は首を傾げるが、
「山が越えられないのですよ」
 その口から出た言葉は、三人に衝撃を与えるに、十分すぎるほどだった。
 マハムールとガルナハンの間には、ザグロス山脈と呼ばれる山々がある。標
高千メートルから二千メートル級の山が数多く存在する山脈を超えるには、当
然ながら航空機でなくては不可能である。とてもでじゃないが、陸上艦では山
に入ることも出来ないだろう。
「私が軌道上からの降下作戦を進言したのもこれが理由でね。マハムールから
出せる戦力が、それほど多くないからなのですよ」
 モビルスーツ輸送機を使えば、ある程度は運ぶことが出来るにしても、戦艦
が一切使えないというのは致命的である。
 さらにいえば、補給線の長くなる。マハムールからガルナハンは最短でも約
千キロの距離があり、空路であっても前線まで物資を届けるには時間が掛かっ
てしまう。
「ザフトの私が言うのもアレですがね、宇宙にいるお偉方は地上の地形という
ものを良く理解しないで命令を飛ばしてくる。彼らは地上を平面だとでも思っ
ているのですかね」
 感覚が違う、といってしまえばそれまでなのだろうが、感覚だけで語られて
も困るし、命令されて実行できるとも限らない。
「しかし……そいつは参ったな」
 アーサーが、モニターに映る地形を見ながら頭を掻いた。
「ミネルバだって大気圏内では、そう高度は取れませんよ。ましてや、山越え
なんて」
「ほほう、そいつは大した援軍ですな」
 ラドルの声には、皮肉と呆れが混じり合っていた。それはミネルバに対して
のものなのか、軍上層部や国防委員会に対してのものなのか、判断のしかねる
ことだった。
「大気圏離脱用のブースター。山を越えるには、少なくともこれが必要になり
ますね」
 アスランが複雑な表情をしながら、重い空気に包まれている面々を見る。
「物資の補給リストに加えておいて貰えますか?」
「それは構わないが、今は宇宙も騒がしいらしくてね。時間が掛かるぞ」
「ないと目的地にも行けないのなら、しょうがないでしょう」
 無論、ミネルバを置いていくという選択肢もある。モビルスーツ輸送機で、
モビルスーツだけを運び、基地の攻略を試みる。
 可能なのではないか――アスランの脳裏に、そんな現実的ではない考えが過
ぎる。ミネルバの艦載機は全部で五機、そのうち四機は自分を含めエースクラ
スのパイロットが操縦しており、さらに一機は問答無用の強さを持っている。
強引に押し切ることも可能ではないか?
(いや、そんなこと出来るわけがない)
 例えオデルのモビルスーツがどれほど強くても、陽電子砲をまともに浴びて
無事で済むわけがない。恐らく、今回の作戦の焦点は、如何に敵の陽電子砲を
封じながら戦うのか、ということになるだろう。
(いくつか考えはあるが……)
 アスランはこの時期、ザフトで自己の立場を強化するためにも、多くの武勲
を立てる必要があると考えていた。勝利とは、人を惹き付ける最大の魅力にな
る。戦って、勝ち続ければ、味方のみならず敵にもその名は轟くのだ。アスラ
ンはもう一度英雄になる必要があった。輝かしい武勲と、華麗なる強さ、人を
惹き付けるカリスマ、それら全てを手に入れれば……
「さて、作戦等の話は明日に持ち込むとして、まずは長旅の疲れを癒やすと良
い。クルーの皆さんにも、基地内及び、周辺での行動の自由を許可します」
 ラドルの言葉が、アスランの思考を遮った。アスランは、自分の中に生まれ
たくだらないが、必要である野心に嫌気を覚えながら、コーヒーを一気に飲み
干した。
 あまり、口には合わないと感じながら。

『本日23時まで、ミネルバクルー全員に休息を与える。マハムール基地内、
及び周辺での行動を許可する。飲酒等に制限はないが、軍人としての節度を守
って行動するように』
 アーサーが流した放送は、ミネルバクルーに歓喜をもって迎えられはしたが、
「こんな岩と砂漠しかないような場所で何しろっていうのよ?」
「楽しくショッピング……ってわけにもいかないよねぇ」
 ホーク姉妹がいうように、場所が場所だけにすることもなく、クルーの大半
は誰にとがめられることもない惰眠を貪ることに専念していた。
 レイ・ザ・バレルは、自室で読書を楽しむことにしており、それの邪魔をす
るまいと、同室のシンは外に散歩に出ることにした。
「オデルさんも、どうですか?」
 格納庫に立ち寄り、オデルを誘ってみたが、
「あぁ、シン。すまないが、今日中に機体の整備を済ませておきたいんだ」
 と、断られてしまい、仕方なしに一人で外出することになった。
 確かに何もない基地ではあるが、久しぶりに地に足を着けているという感覚
が、シンにはあった。
「でも、本当に何もないな」
 カーペンタリア基地は、ザフト軍の地上における二大拠点ということも合っ
てか、娯楽施設を一とした各種施設が揃っていた。これは大部隊を養う基地に
とってはなくてはならない設備であったが、マハムールのような小規模な基地
にはそれもないらしい。
「ん……?」
 しばらく基地内を歩くと、運搬用ゲートの付近で、兵士がなにやら揉めてい
た。近づいてみると、門兵が民間人と思わしき少女と、言い争いをしている。
「軍施設は関係者以外立ち入り禁止だ」
 褐色の肌の色をした少女は、必死な形相で兵士と言い合っている。付近の住
民なのだろうか?
「だから、アタシはレジスタンスで! ガルナハンから来たんだ」
 ガルナハン? シンは、少女の口から出た地名に小首を傾げる。確かそこは、
今度ミネルバが赴く先である。
「レジスタンス? お前みたいなガキがか」
 兵士の口調には苦みというより、明らかな侮蔑があった。恐らく、ナチュラ
ルに対して良い感情を持っていないのであろう。コーディネイターには珍しく
ないことであるが、それでも少女は必死だった。
「情報がある。それで、この基地の司令官と取引がしたい!」
「ええい、帰れ、帰れ。この基地に卑しいナチュラルなどいれはしない」
「卑しいだと……」
 その言葉に、さすがに怒りと苛立ちを覚えた少女が兵士に掴みかかろうとし
たとき、
「どうしたんです」
 思い切ってシンは、二人の間に割って入った。
「あ、いや……この民間人が、その、勝手に基地内に入ろうと」
 突然割り込んできたシンに対し、兵士は困惑気味に答える。エリートの証で
ある赤服に萎縮したのだろう。少女に対する威勢はどこかに消えてしまったら
しい。
「俺……いや、自分が話を聞きたいんですが、よろしいですか?」
「は? は、はぁ……」
 シンは相手が自分より年長ということもあって、形だけの敬語を使った。本
来なら、このように口汚い男に敬語など使いたくなかったが、話がややこしく
なるといけない。
 兵士を体よく追い払うと、シンは呆然と成り行きを見守る少女を諭して、基
地内にあるベンチの一角に腰掛けた。
「お前……この基地の奴なんだよな」
 少女は、年若い――といっても自分よりは年上だが――シンを横目で見なが
ら、確認するように聞いてくる。
「いや、俺はこの基地の所属じゃないよ。ザフト軍ではあるけど」
「なんだ、違うのか」
 あからさまに肩を落とす少女。だが、違うものは違うので、訂正も否定も出
来ない。
「俺は、あの艦のクルーなんだ」
 シンは目を軍港のほうに向ける。少女も釣られて、軍港にあるミネルバのほ
うを見る。
「軍艦の乗組員か……」
「そういうお前は」
「お前?」
「い、いや、君は?」
 少女の鋭い目つきに一瞬圧倒されるシン。自分より年下であろう少女には、
なかなかの凄みがあった。
「アタシはコニール……ガルナハンから来たレジスタンスだ」
「レジスタンス?」
「悪いかよ」
 レジスタンスが悪いかどうかはともかく、自分よりも年若い少女がそれであ
るという事実がシンには衝撃的だった。こんな娘も戦っているというのか?
「その、何でガルナハンのレジスタンスがマハムールに?」
 シンは元々地球出身ということも合ってか、世界地理にはそれなりに明るい
方だ。マハムールとガルナハンの距離は知っていたし、まさか一人で来たとい
うのだろうか。
「ザフトに助けを……いや、協力を頼みに来たんだけど、あの通り相手にもし
てくれなかったよ」
「協力って、ガルナハンで何かあったのか?」
 コニールはシンを横目で見ながら、少し考えるような仕草をした。恐らく、
基地の人間でもないシンに対して、どこまで話べきかを迷っているのだろう。
「……一ヵ月と少し前、旧連合からファントムペインに取って代わったガルナ
ハン基地の連中が、アタシたち地域住民の弾圧をはじめた」
「弾圧?」
「食料の略奪、それに抵抗したら容赦ない暴行、そして無期限の労働」
「…………」
 シンは言葉も出なかった。内容の凄まじさもそうだが、コニールの平然とし
た口調にも驚かされた。
「従わない奴は殺され、嬲られ、さすがのアタシたちも我慢ならなかった」
「だから、レジスタンスを?」
「あぁ……アタシの父さんとか、大人が中心となって結成した。でも、ダメだ
った」
 ささやかな抵抗、だったのだろう。旧式の銃器で武装したレジスタンスは、
食料等を略奪しに来たファントムペインの兵士を撃退し、あるいは射殺した。
だが、それが悲劇の切欠だった。
「アタシは喜んだよ。父さんたちは強い。悪い連中を追い返したってな。でも、
次の日の朝……」
 久しぶりに市が開かれた広場の上空に、ガルナハン基地からモビルスーツが
飛来した。それはたった一機のダガーLであったが、住民たちが度肝を抜かれた
のはいうまでもない。
「そして、そのモビルスーツは一発のミサイルを撃っていった。市が開かれて
た広場にだ」
 市で賑わう広場は、惨劇の場所になった。いや、あるいは単なる悲劇の場だ
ったのかも知れない。何故なら、その広場にいた大半の住民は、自分のみに起
こったことを認識する間もなく、爆散したのだから。
「午後には武装した兵士が何十人、何百人と来て、父さんたちレジスタンのメ
ンバーを連れて行きやがった……あっという間だったよ、アタシたちの抵抗は、
あっという間に潰された」
 レジスタンスの活動が潰されて以来、ガルナハンの町は地獄絵図も良いとこ
ろだった。兵士による略奪、殺人、婦女暴行、そんなものは日常茶飯事であり、
怯えた住民は一歩も外に出ようとしない。しかし、そんな締め切った民家に押
し入り、殺戮を楽しむ兵士まで出てくる始末だった。
 残された道は、逃げるか、自殺をするか。それだけという状況になったとき、
コニールは意を決して、マハムールのザフトに助けを求めることを決めたのだ。
「このままじゃ、アタシたちは皆殺しだ。それよりはって思ったんだけど……」
 コニールの声には、明らかに落胆が混じっていた。相手にもされなかった、
それがショックなのだろう。
「なあ、アンタ……何とか出来ないのか?」
「え?」
「だって、さっきの兵士が敬語使ってたじゃないか。偉いんだろ?」
 縋るような目で、コニールはシンを見つめる。
 そんな目で見ないでくれ、とシンはいうことが出来ない。
「いや、俺は……ただのモビルスーツパイロットだし」
「モビルスーツ? なんだよ、戦場の花形じゃないか」
 コニールの目に、僅かながら期待が隠っていた。藁にも縋る重いで、ここま
で来たのだろう。だがシンは、それに応えてやることが出来ない。
「でも、弱いんだ。情けなるぐらい弱いんだよ、俺」
「弱いって……」
「負けたんだ。負けっ放しなんだ。だから、俺に力なんてない。期待されても
……」

 パンッ

 言いかけて、シンは口を噤んだ。コニールの平手打ちが、それを遮ったから
だ。
「な、何するんだ!」
 怒鳴るシンだったが、先ほどまでとは違うコニールの瞳に宿された炎のよう
な光りに怯まずにはいられなかった。
「かっこ悪い奴だな、お前。話を聞いてくれるから、良い奴なのかと思ったけ
ど、こんなにかっこ悪い奴なら、話すだけ無駄だった」
 言葉には、明らかに軽蔑の色が混じっていた。
 コニールはそのままシンの胸ぐらを掴み上げると、一気に捲し立てる。
「モビルスーツに乗ってながら力がない? ふざけんなよ! アタシたちはな、
モビルスーツもなくて、ろくな武器もなくて戦ってきた、いや、戦ってるんだ
よ! それがちょっとやそっと負けたからって、なに言ってやがる」
「で、でも俺は……」
「お前まだ死んでないんだろ! 負けても、生きてるってのは、弱くない証拠
だろうが!」
 確かに、モビルスーツに乗りながら、今日まで行き続けて来られたのは、自
分の実力と、機体に恵まれたからだろう。
「自分は弱い、力がないと思って良いのは何も出来ずに死んだ奴だけだ」
 そういって、コニールは勢いよくベンチから起ち上がると、一人歩き出した。
「ま、待てよ。どこいくんだ」
「帰るんだよ!」
「帰るって……ガルナハンにか!?」
 先ほどの話が真実ならば、ガルナハンの町は地獄絵図といっていい状況のは
ずだ。そこにコニールは帰るというのか。
「当てが外れたからな。僅かな期待を持ってやって来たけど、基地司令官には
会えないし、いるのはウジウジしてるパイロットだけだった」
 その声は沈んでいた。落胆以上に、失望と絶望がその口から響いていた。
「帰ってどうするんだよ!」
「決まってる。戦うんだ。ただ、殺されるのを待つだけなんて、アタシはゴメ
ンだ」
「でも、力もないのに……弱いのに戦うっていうのか!?」
 シンの叫びは、少女の足を止めるには十分だった。シンは何故自分が叫んだ
のか判らなかった。
「そうさ、アタシは弱い。モビルスーツも持ってないし、持ってても乗れない
し、実をいうと拳銃だって上手く撃てない、下手くそだ」
 コニールの肩は、震えていた。
「でも、でもな……」

 振り返ったその姿、コニールは目に大粒の涙を溜めていた。

「弱いから、心だけは強く、強く生きていきたいんじゃないか!」

 涙混じりの叫びだった。嗚咽をはじめとした、様々なものが混じり合った叫
び。シンは、無意識に、本当に無意識に少女に駆け寄り、その小さな身体を抱
きしめていた。
「……ごめん」
「謝るなよ。お前、ホントにかっこ悪いな」
 シンは即座に決断していた。自分は、この少女の、コニールの力になって上
げるべきだと。それは迷いのない、決断だった。