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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第22話(2)

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:07:41

 翌る日、マハムール基地でマハムール駐留部隊及びミネルバ隊の合同戦略会
議が行われていた。主に、進行した先のガルナハンでどのような作戦の元に動
くかということであるが、ミネルバクルーの大半は、ガルナハン基地がどのよ
うなものなのかということを、この場で知ったために、積極的な意見など出来
ようもなかった。
 唯一、アスラン・ザラを除いては。
「これより、私が立案した作戦を発表します」
 アスランは、昨晩の内にガルナハン攻略に向けての作戦を立て、それを会議
で発表し、押し通すつもりだった。作戦を立案し、また、それを成功に導くこ
とが出来れば、武勲の大きさは比類無いものになるだろう。
「まず、ガルナハン基地の特徴は狭い谷間の中にあるというのもそうですが、
正面から来る敵に対して、圧倒的有利な点があります」
 戦略上布もインターを操作し、ガルナハン基地を拡大する。
「この基地は例えモビルスーツを出撃させなくても、要塞表面の固定砲台や、
主砲である陽電子砲を持ってして、十分に敵を迎撃、殲滅するだけの能力があ
る。しかし、逆にいえば、それらを上手く封じることが出来れば、要塞基地を
無力化できるのです」
 その為には……と、アスランは続ける。
「谷間の入り口にモビルスーツを配置して、敵に挑発ないし、陽動を仕掛け、
モビルスーツ隊を出撃させます。これを殲滅すること自体は可能と思われます
が、今回はそれをせず、半壊程度の損害を与えるにとどめます」
 すると、敵モビルスーツは我先にと基地へ逃げ込むだろう。
「そこを狙って、逃げる敵との速度を相対に保ち、基地が目前というところで
急加速、一気に距離を詰めるんです。そうすれば、敵味方の機体が入り交じっ
て乱戦状態になる。これなら敵は、主砲はおろか、固定砲台も使えないでしょ
う」
 そうして要塞基地に肉薄していき、主砲を破壊してしまえば後はこちらのも
のだ。表面の固定砲台を薙ぎ払い、残ったモビルスーツ隊を殲滅し、歩兵と公
平を送り込んで基地を制圧する。
 アスランが立案したこの作戦は、当初驚きを持って迎えられたものの、実現
性の高さと、モビルスーツ戦力だけでも十分に実行しうるという点がかなりの
好評を得た。ミネルバに良い感情を持っていないラドルでさえも、
「なるほど、これならば確かに……」
 と唸るものであった。
「ん……?」
 見ると、ただ一人、シンが手を挙げていた。アスランにとっては、まったく
の予想外ともいうべき人物が、手を挙げている。
「シン、なにかあるのか?」
 アスランだけではない。シンの両脇に座っているレイとルナマリア、上座か
らそれを見るタリアやアーサーまで驚いていた。ただ一人、オデルだけはいつ
もと変わらない、穏やかな目でシンを見ていたが、アスランがそれに気付くこ
とはなかった。
「はい、俺はアスランさんの作戦には納得できません。というか、むしろ反対
です」
「反対? どういうことだ」
「アスランさんの作戦には無理があります」
 いきなり作戦を否定され、アスランは憮然とした表情を作った。纏まり掛け
ていたのに、何を言い出すのかという苛立ちの表れかも知れない。
「ほう、なら何が無理なのか話を聞こうじゃないか」
 しかし、それでもアスランは余裕だった。多少の不備、どうせシンがいうの
は揚げ足取りか何かだろうが、そんなものはすぐに論破し、逆にそれを利用し
て作戦承認まで持って行こうとまで考えていた。
 だが……
「まず第一に、アスランさんは谷間の入り口にモビルスーツを配置するといい
ましたけど、敵に打撃を与え、逃げる相対速度に合わせるには敵と同数程度の
兵力が必要なはずです」
「それがどうしたっていうんだ? ミネルバの艦載機だけならともかく、マハ
ムールには、バクゥもガザゥートも、ディンだってあるぞ?」
 何を言い出すのかと思えば……アスランは呆れたように言い返してやるが、
シンは言葉を続ける。
「そうです。確かに数だけなら同等以上でしょう。だけど、性能は違います」
「なに?」
「アスランさんは本気で思ってるんですか? 最大速度で逃げる敵に、バクゥ
やガザゥートで、相対速度保てるって」
 会議室にどよめきが走った。言われてみればそうだった。この作戦を実行す
る大前提として、ジェットストライカー装備の敵モビルスーツに、速度面で対
等でなければ行けないという点がある。
 痛手を受けた敵が要塞基地に逃げ込むとして、それは最大速度で逃げるはず
だ。ザフト主力の航空戦力はディンであるが、その加速力はジェットストライ
カーの足元にも及ばない。
「逃げる敵に急加速で追いつく、こんな芸当、ディンにだって出来はしません。
それが出来るのは、ミネルバの艦載機、俺のインパルスと、オデルさんのジェ
ミナス、そしてアスランさんのジャスティスだけです」
 ジェットストライカーに対抗でき、尚かつ最大速度で勝ることの出来る機体
など、この三機しかない。それに引き替え、相手は二十機の戦力を有している
のだ。
「最悪、三機でも実行は可能なはずだ。現に君はインド洋での戦いで、三十機
の敵相手に戦ったじゃないか」
 アスランとしては苦し紛れの言い訳だったかもしれない。その言葉にはが混
じっており、思わぬ事態に対処しきれていないようだった。
「あれは海上という広い空間だったからです。今回の戦場は狭い谷間です。横
幅にも限界があるし、どうしたって行動は制限される」
 恐らく敵の保有モビルスーツが二十機と少なめなのも、この谷間で行動でき
る限界の数なのだろう。
「仮に三機で挑んだとして、俺達がビームライフルを三発撃ったら、二十発の
ビームが正面から撃ち込まれますよ」
 その狭さ故に、避けるのも至難の業だろう。
「だったら、君には何か有効な代案でもあるというのか?」
 アスランの自尊心はズタズタに引き裂かれていた。自分が自信を持って立案
した作戦を、自分より年少の、格下のパイロットに論破されてしまったのだ。
だが、反論を唱えるだけなら誰にも出来る。シンに代案が出せるとも思えない
し、「ならば、作戦に一部修正を加えよう」といって、作戦自体を活かすこと
はまだ可能なはず……
「はい、俺にも考えてきた作戦があります」
「なに?」
 次々に繰り出される予想外の言葉に、アスランの頭は混乱寸前だった。

「坑道?」
 コニールがシンに伝えた情報は、ガルナハン基地への隠し通路とも言うべき
坑道の存在だった。
「あぁ、地元でもあまり知られてないんだが、ファントムペインのガルナハン
基地にすぐ近くまで伸びる、地下坑道があるんだ」
 小型の機器を操作し、その地図を出してみせるコニール。
「そんなに広くはないんだけど、ここを通り抜ければ、正面から攻めることな
く、敵基地を突ける」
「それは……確かに」
「これの詳細な地図を引き替えに交渉するつもりだったんだけど……いいんだ
よな? お前を信じても」
「やるだけやってみる。多分、大丈夫だと思うから」
 基地の近くにある町に宿を取ってあるというコニールと別れたシンは、艦に
引き返すと、オデルの部屋を尋ねた。整備による汚れをシャワーで洗い流し、
パソコンでモビルスーツのデータをチェックしていたオデルは、シンを快く向
かえ、彼の話を聞いた。
「この坑道を上手く利用すれば、こちらの損害を最低限にとどめて敵に勝つこ
とが出来ると思うんです」
「なるほどな……でも、少し狭すぎないか? これでは、モビルスーツ一機通
過させるにも難しい。インパルスではとても」
「はい、問題はそこなんです。コアスプレンダーだけでいく、という手も考え
たんですが、あれの武装だけじゃ主砲を破壊できるかどうか」
 シンはコニールからガルナハン基地の主砲をはじめとした武装についても聞
かされていた。問題となるは、やはり陽電子砲だろう。
「主砲か……何も主砲を封じるだけが基地の無力化でもないだろう? 例えば、
要塞基地その物を制圧することによって、主砲の制御を奪うとか」
「でも、潜入しようにも敵基地は地か奥深くだって言うし……」
 まてよ、とシンは思った。自分は何か、重大なことを忘れているような気が
する。何か、別の方法がある、そんな気が……
「オデルさん、そのパソコンに映ってるのは?」
 シンは、オデルのパソコン画面に注目した。
「これかい? 参考までにザフト軍のモビルスーツの資料を見ていてね。これ
がどうかしたのか」
 シンは、パソコンに駆け寄ると、モビルスーツの一覧を出し、目的の機体を
探した。実際に見たことはないが、話だけなら聞いたことがある。あの機体が
あれば、あるいは主砲を破壊する以外にガルナハン基地を攻略する方法が見い
だせるかも知れない。
「……これだ!」
 そしてシンは、その機体を発見した。

「作戦だと? お前が作戦を立てたっていうのか?」
 アスランは呆然としながらシンを見つめる。シンもシンで、多少の緊張を表
情に出しながら、強い口調で発言を続ける。
「はい、俺の作戦を説明したいのですが、よろしいですか」
 シンは、ラドルやタリアが座る席に目を向けた。ラドルはこの大言を吐く少
年に興味を持ったのか、無言で頷き、タリアも唖然としながらではあるが頷い
た。
「俺は昨日、ガルナハンから来たレジスタンスと接触しました」
「レジスタンス?」
「マハムール基地に救援を求めに来たそうです」
 ラドルが幕僚に、そんな報告は聞いていないと囁いているが、シンはそれを
無視して続ける。
「その人物から得た情報によると、ガルナハン基地のある場所に、谷間の入口
より少し離れた場所から続く、坑道が存在します」
 シンは、戦略情報モニターを操作し、その位置を示す。
「この坑道を通れば、正面から主砲の射程内に突き進むような真似をしなくて
も、敵要塞に密着することが可能です」
「確かなのか、その坑道の存在は」
「俺は、信じます。信じるに値する情報だと思いました」
 会議室にざわめきが広がる。恐らく、誰一人として坑道の存在を知らなかっ
たのだろう。
「しかし、その坑道はどれほどの広さなんだ? モビルスーツが何機通れる?」
「いえ、恐らくモビルスーツの大きさでは通れないと思います。戦闘機がやっ
とです」
「馬鹿な、それじゃ話にならない。それとも君が、コアスプレンダーで突っ込
むとでもいうのか?」
「それも考えましたけど、成功する確率は低いと思います」
「だったら、こんな坑道に何の意味もない。奇襲したところで、撃ち落とされ
て終わりだろう」
 内心アスランは安堵していた。坑道の存在は予想外だったが、モビルスーツ
も満足に通れないようなものに、戦略的価値もないし、戦術的に活かせるわけ
もない。
 だが、シンはさらに言葉を続けた。
「俺は何も、坑道を利用した奇襲作戦を提案したなんて、一言も言ってません」
「なに? 奇襲以外にこんな坑道、何に使うって言うんだ?」
「つまりは、谷間を突き進む以外に、敵基地に近づける道はないのかって話で
すよ。俺は何も、主砲を破壊ないし、無力化するだけが要塞基地攻略の手段じ
ゃないと思ってます。むしろ、主砲なんて無視して、基地その物を制圧してし
まえばいい」
「何を言い出すかと思えば……お前がご執心の坑道には敵基地の入り口にでも
繋がってるというのか?」
「そんなわけないですよ。でも、近いと言えば近いです」
 シンは視線を、少しだけオデルのほうに向けた。オデルは何も言わずに、穏
やかな顔でシンを見ながら、黙って頷いた。
「俺はこの地下坑道のさらに地下を通って、敵の基地そのものに攻撃を仕掛け
るつもりです」
「地下坑道の、さらに地下!?」
「敵要塞基地が地下にあるのだから、有効な手でしょう?」
 アスランは開いた口が塞がらないといった感じだった。確かに、敵の基地は
地下にある。地下を進み、基地を直接突くことが出来れば、主砲所か基地その
物を破壊できるであろう。
「馬鹿な、地下を進むなんて、そんなこと出来るわけが……!」
 アスランは叫くようにいうが、シンは冷静だった。冷静に、ただ自分の考え
を話す。

「グーン地中機動試験評価タイプ」

 会議室は遂に静まりかえった。
 シンの言葉には、それだけの効果あったと見える。
「グーン地中機動試験評価タイプ……って、なんだっけ?」
 アスランを論破し、自分の作戦案を提示するシンを好奇の目で見ながら、ル
ナマリアはレイに尋ねた。
「水中用モビルスーツのグーンを、地中移動用に改造した機体だ。岩盤を粉砕
し、液状化させるシステムを持っているそうだが」
 少数しか建造されなかったと聞くが、確かにそれを使えば坑道のさらに地下
を通り、敵要塞基地その物を突くことが可能なはずだ。
「グーンだけで基地を落とすことが無理でも、掘り進んだ道から基地に歩兵と
工兵を送り込むという手もあるから、この作戦はかなり有効なはずです!」
 言葉に熱を帯びていることを、シンは自分自身で実感していた。対照的にア
スランは、身体から血の気が引いている。
「だが、そんな機体、この基地にはない。機体がなければ」
「ミネルバは山越え用に大気圏離脱ブースターを必要としています。同じく、
本国に物資の一つとして要請すればいいじゃないですか」
「し、しかし、誰が乗るんだ。そんな試作機に乗ったことのある人間なんてい
ないし、上手く動かせなければ意味は」
「俺が乗ります」
 シンは断言した。これには作戦を立てたものだから、という理由もあったが、
そんな特殊機に乗る人間などいないだろうと考えたからである。立案者である
自分が責任を持って搭乗を宣言してこそ、納得もさせられるというものだった。
「俺が乗って、直接作戦を実行します。以上が俺の作戦ですが……何かありま
すか?」
 誰も口を開かない。否、開けなかった。こんな会議になるとは誰も思ってい
なかった。アスランの案が出たとき、それで決まりだろうと思っていた人間が
大半だった。それが、まさかこんな展開になるなんて……
「私は、シン・アスカの作戦はやってみる価値がある、と思いますよ」
 ラドルがはじめに口を開き、目でタリアを諭した。序列から言っても、発言
権はタリアにある。
「そうですね……本官としても、シンの作戦こそ採るべきだと思います」
 口々に賛同の声が上がった。
 客員としての遠慮もあって、オデルは口を開かなかったが、シンの味方であ
るのは明白だった。
 こうなってしまうと、アスランとしては反論することが出来ない。むしろ、
シンの作戦を了解し、度量の広い男であることを示さねばならなかった。
「では、本国に物資の補給を頼むとするか。大気圏離脱用ブースターと、グー
ン地中機動試験評価タイプを」
 ラドルは意外な方向に進んだ会議に、言い様のない満足感を覚えていた。シ
ン・アスカ、なかなか面白い少年がミネルバにはいるじゃあないかと。
 ミネルバクルーは、シンの変化に気付いていた。オデルと出会って表面的に
は元気になった彼が、新たに自信を取り戻しつつあるのだと、そう実感せざる
を得なかった。
 シン・アスカが変わった。そしてそれは、良い方向への変化だった。少なく
とも、アスラン・ザラ以外は、そう思っていた。