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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第24話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:08:15

 当初予定されていた、プラントからの本国からの物資補給は軌道上での争い
が一時激化したことを理由に取りやめとなり、変わりにジブラルタル基地の予
備物資をマハムールに回すこととなった。
 幸い、ジブラルタル基地には旧型だがミネルバに取り付けることが可能な、
大気圏離脱用ブースターがあり、またシンの所望していたグーン地中機動試験
評価タイプに代わる機体があるとのことだった。
「本国の奴ら、補給も届けられないとはどういうことだ」
 物資をジブラルタルから回すと言っても、それは一時しのぎに過ぎない。ザ
フト宇宙軍は一体何をしているのか。
 ラドルは本国に対しての悪態を付くが、それで物資が増えるのなら苦労はし
ない。今のところ、マハムール基地の倉庫は物資を豊富に蓄えてはいるのだが、
それは彼らが物資を確実に消費する軍事行動を行っていなかったからであり、
これからはどんどん減っていくことになるだろう。
「満足に補給線も確保できないようでは、軍隊として成り立たなくなる。それ
を本国の政治家どもは理解してないんだ」
 しかし、それでも送られてこないよりはマシである。欠損した物資はないわ
けだし、とりあえずは届くのを待つしかない。
 そうして、ファントムペインの勢力圏を迂回してきたジブラルタルからの物
資輸送機が到着するまで、三日を要した。その間にマハムール基地では細かい
作戦の詰めが行われ、レジスタンスの少女、コニールも、シンの計らいでミネ
ルバに同乗、ガルナハンへ向かうことになった。
「まさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ」
 コニールは嬉しさを隠せないと言った風に、シンに語った。彼女は、シンが
ここまでしてくれるとは思っていなかったのである。
「少しは格好良くなったかよ?」
「いや、まだだな。それは作戦が成功するかどうかで決めるよ」
 そうして三日が過ぎ、ジブラルタルから物資輸送機が到着した。予定通り到
着であり、問題は何も発生しなかったが、輸送機の護衛をしてきたのが、あの
ハイネ・ヴェステンフルスというのがマハムール基地と、ミネルバクルーを驚
かせた。
「国防委員会より通達がありましてね。今度の作戦、俺もご一緒させて貰いま
すよ」
 たかが一機の増援……と斬り捨てることな出来ない、ハイネという存在はそ
れほどの価値があった。アスランと同じく特務隊フェイスに所属するこの男は、
大局を見通す戦略家として、戦場を見渡す戦術家として、そして何よりモビル
スーツパイロットとして無類の強さを誇る、ザフト軍の英雄の一人であり、そ
の人望と名声はかなりのものだ。
 軍人としては、アスランの先輩に辺り、そういった意味でも、立場的にはア
スランより上になる。そんなハイネがミネルバに同乗するというのだ。
 ハイネは特に地位や権威を誇示するような男ではないが、同じ特権を持つ特
務隊、反目し合わないかとの不安が、クルーの間に広がっていた。

         第24話「ガルナハン攻略」

 ファントムペインガルナハン基地。
 それは、旧連合が有し今はファントムペインの物となてっいる基地の総称で
ある。元々、旧連合の勢力下だったこの地域に、わざわざ基地を建設したのは、
そこにある資源の重要性からだった。
 ガルナハンにはエネルギープラントの一つである、巨大な火力プラントを持
っており、ニュートロンジャマーによるエネルギー不足に悩む地球にとって、
その存在はなくてはならないものだった。
 そして、ここを守るために旧連合が建設したのが、ガルナハン基地である。
火力プラントへと続く唯一の道、細く、そして狭い谷間の中心部を要塞化し、
敵の侵攻を阻むというのがその役割であった。
 岩を削り、地面を掘り返して作られた要塞基地は、旧連合も驚くほど堅牢で
あり、難攻であった。まず、攻める側に自由な戦略と戦術を許さない地形。正
面から向かい来る敵を、ひたすら叩けば良いだけの味方。このようさ生き血が
ある限り、ザフトは火力プラントを抑えることが出来ず、過去数度にわたって
攻略作戦が立案された。
 そのほとんどは山越えが困難などの理由で却下されたが、ただの一度だけ、
実行された作戦がある。
 それはモビルスーツ輸送機によって大部隊を送り込み、物量によって基地を
陥落させようとする力業であったが、細かい戦術や、戦法が活かせる地形でも
なかったという事情がそうさせていた。
「いかなる犠牲を払っても、ガルナハン基地を落とすのだ!」
 こうしてはじめられた作戦は、後に惨劇となって後悔されることとなる。

 突撃、後退、また突撃……
 ガルナハン基地へと続く谷間へと進行したザフト軍は、五回にわたる突撃を
繰り返し、そのこと如くを撃退された。要塞基地に近づいても、その壁面にあ
る固定砲台に砲撃され、取り付くことすら出来ない。正面に進むしかないザフ
ト軍モビルスーツ、しかし、その正面から避けようのない砲撃が放たれるのだ。
 五回にわたる突撃が撃退され、さすがの指揮官も顔色を変えた。敵の要塞基
地は難攻不落なのか、そして自分は、その証明をしているのではないか?
 部下から撤退案が出された。元々無茶な侵攻作戦だったのだ。これ以上、犠
牲を増やさないためにも早々に撤退するべきだ。
 しかし、指揮官は、ラドルという名の幕僚の意見を却下した。何の戦果も上
げられず、一方的に敗れ去ったというのでは上に対して示しが付かない。何か
一つでも、この作戦に結果を残すことが出来なければ、撤退などあり得ないこ
とだ。
「全軍を持って突撃する。絶対に敵基地を落とすぞ!」
 残存兵力を糾合し、ザフト軍はガルナハン基地へと向かって駆けた。迫り来
る、怒濤とも言うべき勢いの敵に対し、ガルナハン基地が取った選択は、ある
意味非情だった。
 要塞基地最大の武装にして主砲。陽電子砲ローエングリンが、敵軍に向かっ
て発射された。主砲の直撃を受けたザフト軍モビルスーツは、一瞬にして破壊
された。その破壊力は、悪魔のように命を消し飛ばしていった。
 ザフト軍が撤退したのは、それからすぐ後であった。作戦開始時には、数十
機いたはずのモビルスーツは、撤退時に残り数機へと、減っていた。

「そして、我々はそんなガルナハンの地へ、再び来たわけだ」
 しかも、前回よりもずっと少ない兵力で。
 ラドルは硬い表情で、ガルナハン基地へと続く谷間の入り口を見つめる。あ
れか、自分も出世し、基地司令官にまでなった。しかし、その地位も今日まで
かもしれない。地位に固執するわけではないが、一度経験した敗北の記憶は、
何とも拭いがたいものがある。
「今回は戦艦がある……だが、それだけで勝てるのか」
 長期戦は不利だ。マハムールからガルナハンまでの補給線は、千キロ以上あ
る。空輸であっても、それなりに時間は掛かるし敵に籠城策を取られれば、攻
め倦ねるということもあり得る。
 その為にも、シンという少年が立てた作戦を成功させなくてはならない。そ
れ以外、自分たちが勝つ術はないのだから。
「閣下、困ったことになりましたぞ」
 物思いに耽るラドルの元に、副官が現れ耳打ちをしてきた。
 それを聞いたラドルの表情が、みるみる変わっていく。
「なんだと? それは本当か?」

 緊急の伝達事項があると呼び出されたのは、ミネルバ艦長のタリア、副官の
アーサー、そしてフェイスの二人だった。
「困ったことになりました……折角連れてきた地上戦力の大半が使えなくなっ
た」
「どういうことです? 何か故障でも?」
 突然の申し出にタリアは目を丸くするが、ラドルは諦めきったように首を振
る。
「地雷です。谷間の入り口付近に数百個、耐モビルスーツ用の強力なのが埋め
られているそうです」
 敵も前回からさらに進歩したということか。地雷を埋めて、敵の侵入に備え
る。単純で、簡単に思われるこの手段、たったこれだけでザフト軍の地上部隊
を封じ込んでしまったのだ。
「つまり、バクゥや、ザウートは谷間に進入することすら出来ないと?」
 アーサーが焦ったような声を出す。無理もない。地上部隊は、今回連れてき
た戦力の七割といっていいのだ。それが使えないとなると、ほぼミネルバの戦
力のみで敵と戦うことになってしまう。
「工作隊を使って、地雷を撤去することは出来ないのですか?」
 アスランが冷静に意見する。手間は掛かるが、それが一番堅実的な手段だろ
う。だが、それにハイネが反論を出した。
「それは無理だろ。入り口付近のが撤去できたとして、中にまだあるに決まっ
てる。いくつも配置してこそ有効な、地雷原だからな」
 ハイネの切り返しは的を射ていたため、アスランとしてはそれ以上何も言え
なかった。仮にその都度、地雷を撤去して進むとして、そこを襲撃されたら堪
ったもんじゃない。
「航空戦力のみを保有する基地の強みか……」
 ガルナハン基地には、一切の地上戦力が存在しない。リニア戦車の一台も、
地上戦装備のモビルスーツもありはしない。だからこそ、谷間に地雷を配置し、
足の踏み場をなくすなどといった芸当が出来るのだ。
 そして、その効果は凄まじい勢いで現れた。
「ディン部隊の大半は、補給隊の護衛に回してしまったから、地上戦力が使え
ないというのは致命的ですな」
 ラドルの声には、ある種の諦めが含まれている。攻めたくても攻められない、
そんな状況に追い込まれてしまったのだ。
 このままでは撤退、ということもあり得る。そのほうが良いかもしれない。
このまま無闇に戦端を開いて、犠牲を出すよりは……
「まあ、作戦の根本自体を修正する必要はないでしょうね」
 そんな悲観的な考えにラドルが思い至ったとき、ハイネがこのように発言し
た。
「ジオグーンによる地中潜行に障害が出来たわけでもないですし、後は限られ
た戦力でいかに敵要塞の注意を引くかってことです」
「まさか、作戦を実行するつもりなのか?」
「当たり前じゃないですか。何のためにここまで来たんですか」
「しかし、使える戦力はそれこそミネルバにある航空戦力だけだぞ。モビルス
ーツにしてたった三機、君のセイバーを合わせても四機だ」
 正確には、シン・アスカが搭乗できないため、インパルスを除いて三機であ
る。それにミネルバが加わることになるが、戦力的劣勢は覆しようもない。
「基地を攻め落とせ、というのならともかく、ジオグーン突入までの時間稼ぎ
ですからね。主砲の危険性はさすがに排除できないが、モビルスーツを相手に
するだけなら、何とかなるでしょう」
「ならいっそ、敵モビルスーツを基地から引き離して、主砲の射程から離れた
場所で戦ったら良いんじゃないか?」
 主砲の脅威にさらされるよりは、そのほうがずっと良いはずだ。しかし、そ
んなアーサーに意見にハイネは首を横に振った。
「敵は守勢に徹して、遠くまで出撃はしないでしょう。むしろ、如何にこちら
を主砲の射程何引き込み、殲滅するかを考えるはずだ。その方が確実性が高い
ですからね」
「つまり、敵と戦うには最低でも主砲射程ギリギリでなければ行けないのか」
「幸い陽電子砲は連射に出来る兵器じゃあありません。敵の主砲をどうにか避
ければ、今度はミネルバの陽電子砲が火を噴く。敵もそれを知ってるから、そ
れを止めるためにモビルスーツ隊を発進せざるを得ない」
「乱戦に持ち込めば双方主砲が使えない、か」
 アスランが以前提示した作戦を、敵が使ってくるというわけだ。
「まあ、出撃したとしても、積極的に攻撃してくるかどうかは何とも言えませ
んがね。基地の固定砲台と連動して、弾幕を張ってくるかもしれない」
 厄介なことに、固定砲台の一部は射程の長いリニアカノンなのだ。これは、
ラミネート装甲が普及したことにより、ビームが絶対的な武器でなくなり、物
理兵器の需要が増えたのが原因である。
 比べて物理兵器を防ぐPS装甲は、コストの問題もありまだまだ普及していな
い。それを考えれば、リニアカノンは十分に強力な兵器だった。
「後は、戦場についてから臨機応変に対応していきましょう。とりあえず、敵
の最初の一撃を避ける、それだけを考えてください」
 ハイネの要求は当然のものであったが、要求される方、タリアとアーサーは
顔を見合わせ肩をすくめる。避けろだの、かわせだのというのは、言う方は簡
単かもしれないが、やる方は難しいものだ。

 会議を終え、ハイネはアスランに声を掛けた。
「アスラン、今日はやけに大人しかったじゃないか」
「え?」
 いきなりのことに、アスランは目を丸くする。
「聞いたぜ、この前は若いのと熱く論戦を繰り広げたそうじゃないか」
「あ、ああ、まあ……」
「俺、お前はクールな奴だと思ってたんだけど、やっぱ見た目と中身は違うか」
 笑いながらアスランの肩を叩くハイネ。それは悪意のない笑みであったが、
同時にハイネ・ヴェステンフルスという男の人間性の良さを示している。
 きっと、ハイネのような男なら、クルーとすぐにうち解けられるのだろう。
「どうだ、作戦前に一杯? 気分が高まるぜ」
「あー……いや、悪いんですが今度に……」
「ちょっと待った!」
 ハイネがアスランの言葉を止めた。
「飲む飲まないはともかく、アスラン、敬語は固いぜ。堅苦しすぎる。どーせ、
歳も離れてないんだから、気楽にいこうぜ?」
「でも、ハイネのほうがアカデミーの先輩じゃ」
「気にするなって。俺、敬語とか背中が痒くなるんだよ」
「はぁ……」
 人それぞれ、ということなのだろう。
「わかった。じゃあ……ハイネ、その、すまないがまた今度にしてくれないか。
作戦前は一人になりたいんだ。」
「そうか。ま、その方が気が引き締まるんなら、仕方ないな。じゃあ、明日は
お互い頑張ろうぜ」
 ハイネはそういうと、片手を上げて去っていった。
「ハイネ・ヴェステンフルスか……」
 現ザフトで英雄を捜すのならば、間違いなくハイネがそれに当てはまるだろ
う。大軍を指揮する将帥としても、モビルスーツパイロットしても超一流の男。
人望も厚く、部下や上司からも信頼されている。
 それだけに、アスランとしては放っておけない存在だった。
「まあ、今すぐどうこうというわけじゃないがな」
 仲間に引き込めるなら、引き込みたい相手ではある。その実力は得がたいも
のであるし、心強くもある。
 しかし、もし、この先彼と敵対するようなことになれば、
「戦うしかないだろうな」
 アスランはきっぱりと決断して、その場を後にした。

 シン・アスカは、コニールの案内でガルナハンの町を見て回っていた。
 その惨状は予想以上であり、町の荒廃は酷いものだった。
 見かねたラドルが、軍需物資の一部、主に食料品と医薬品を分け与えたが、
一時しのぎにしかならないことは明白だった。
「ファントムペインの奴ら、アタシたちが抵抗できないと思って好き放題やり
やがった。まあ、実際に何も出来ないんだけどな」
 抵抗勢力は、あっさりと潰され、今この町は朽ちるのを静かに待っているか
のようだった。その証拠に、コニールがザフト軍と共に帰ってきたというのに、
町は歓迎どころか、挨拶すらしようとしない。
「気を悪くしたかもしれないけど、勘弁してやってくれ。みんな怖いんだ。も
しザフトが負けたら、自分たちが何をされるか判らないから……」
 コニールは良く覚えていないが、大人たちはかつてザフトが大敗したことを
覚えている。そのザフトが今更何のようだ。そう思えるのだろう。
「でも、今度はきっと大丈夫だよな。例のアレがあるし!」
 コニールは、辺りを見渡し人がいないことを確認しながらも、明るい声でシ
ンの方を向いた。彼女はここに帰ってくるまでに、シンから作戦の内容を聞い
ていた。部外者に作戦内容を話すのは厳禁であるが、コニールは情報提供者で
あり、さらにとびきり口が硬いこともあって、特別に許可されたのだ。
 そんな彼女が、このように辺りを見渡すのには、少々複雑な事情がある。町
の住民の中には、生きるためにファントムペインにすり寄っている愚か者もお
り、どこにスパイがいるか判らないのだ。
「まだ昼下がりだってのに……誰もいない。アタシは、こんな寂しい光景はも
う嫌なんだ」
「ああ、判ってる」
「絶対に勝てよ。勝ったら、お前のことをかっこ悪いって言ったのは、撤回す
るよ」
 微笑むコニールを見て、強い子だとシンは思った。自分はここまで強く離れ
ない。だが、今は亡き愛する妹と同じ年頃の少女が、ここまで強く、自分を引
き締めながら戦っている。そう考えれば、シンが頑張らないわけにはいかなか
った。
「勝つさ……絶対に勝ってやる」
 シンは、ガルナハンの空の下で、高らかに叫んだ。

 翌る日、ガルナハン基地の指令室において、基地指令以下幕僚たちによる会
議が行われた。ガルナハンの町へと降り立ったザフト軍が、遂に動き出したの
である。
「敵によって流されている妨害電波と、電磁波の影響で、通信は遮断され、索
敵は光学的なもの頼るしかありません」
 士官の報告は、幕僚たちにとってさしたる危機感を募らせはしなかった。
「小細工を労したところで、敵は正面から攻めてくるしかないというのに。ご
苦労なことだな」
「通信はともかく、索敵を妨害したところで、前から来る敵を倒す。それだけ
でこの基地は十分に守れるな」
 口々に笑う幕僚たちであり、基地司令官だった。
「気になるのは、このミネルバだな。目下、我々ファントムペイン相手に連勝
中だそうだが……」
「司令官、何でも本部のほうではこの艦を死神艦などと呼んでるそうですよ。
まったく、たかが戦艦一隻に何を怯えるやら」
「しかし、この艦は陽電子砲を持っている。我が基地の主砲と同様にな」
 陽電子砲には陽電子砲を、単純な考えだが、効果的なのは確かだ。
「陽電子砲同士の撃ち合いか……? 史上初の見世物になりますな」
 幕僚の一人が笑いながら発言したが、正確には陽電子砲同士の撃ち合いはこ
れが初めてではない。
 前大戦の最終決戦時、地球連合軍から脱走した戦艦アークエンジェルと、そ
れを倒すために建造されたアークエンジェル級二番艦ドミニオンが相見え、陽
電子砲の応酬という激しい戦闘を行い、結果、ドミニオンが敗れたという過去
がある。
 今度は、陽電子砲を持つ基地と、陽電子砲を持つ戦艦が戦うわけだが、同じ
陽電子砲同士、どのような戦いになるのか……
「手は打っておくべきだろうな……おい、整備班にいってゲルスゲーをいつで
も出撃できるようにさせておけ」
「アレを使うのですか?」
「当然だ。向こうは陽電子砲を避けることの出来る戦艦だが、こちらは避ける
ことも出来ない基地だ。手は打っておくべきだろう」
 不敵に笑う基地司令官には、勝利を信じて病まない笑みが浮かんでいた。

「シンより入電。ジオグーンは、予定ポイントに到着。潜行準備良しとのこと
です」
 メイリンが緊張しながら通信を読み上げる。彼女もまた、今回の作戦に不安
を抱く一人であった。
 地雷原の撤去は不可能として、結局作戦はミネルバとその保有戦力のみで行
うこととなった。これに不安を覚えない方がどうかしている。
 だが、いくら不安を覚えようと、やる以上は最善を尽くさねばならない。
「ミネルバ前進! 敵基地主砲の射程ギリギリまで進め」
 タリアのかけ声と共に、作戦が開始された。
 ミネルバの周囲には、既に出撃したモビルスーツ三機が取り囲んでいる。前
方にアスランのジャスティス、右翼にハイネのセイバー、左翼にオデルのジェ
ミナス。本当なら、シンのインパルスもレイかルナマリアを乗せて出撃させよ
うと考えたのだが、二人はそれを辞退した。ザクとは全く構造が違うため、乗
りこなす自信がなかったのだ。
 この事実を知ったとき、オデル・バーネットは意外さ覚えたという。
「ザクが動かせるのに、インパルスは動かせない……不思議な話だ」
 彼のいた世界では、モビルスーツ乗りは得意不得意はあれど、大抵どんな機
体も操縦できる。何故なら、基準となるモビルスーツ、リーオーがあるからだ。
 このリーオーは、全てのモビルスーツにとって基本となる存在で、扱いやす
い量産機だ。エアリーズも、トーラスも、この機体を基に作られたことは言う
までもなく、これが動かせれば大抵は動かせる、そういう機体なのだ。
 例えば、カスタムリーオーを愛機としていたロッシェは、ジェミナスの改修
機や、カスタマイズ機を初見で乗りこなした実績がある。
 彼の高い操縦技術を差し引いても、それはリーオーを操縦していたという事
実によるものが大きいだろう。
 そんな世界にいたオデルだからこそ、量産機であるザクには乗れて、インパ
ルスには乗れないというのがおかしかった。
 シンは、初見のジオグーンをなんとか乗りこなしているようだが、アレは才
能というものだろう。
「……そろそろか」
 ミネルバが敵の基地主砲の射程内に入ろうとしている。
 オデルは実は、今回の作戦を全面的に賛成し、賛同していたものの、シンに
は言えない複雑な事情があった。
(敵のモビルスーツを蹴散らし、一気に主砲を破壊する。それが出来るか?)
 自分になら、G-UNITならば多分出来る。
 オデルはこんな考えをしてしまう自分に嫌悪感を抱くが、実際G-UNITの性能
ならば、そんな無茶なことも可能なのだ。
 誘惑は感じる。犠牲が少なくて済むどころか、恐らく皆無だ。
 自分がこの世界の住人で、G-UNITがこの世界の兵器ならば、オデルは迷わず
そうしただろう。だが、彼は異世界の住人であり、G-UNITは異世界の兵器なの
だ。自分自身に枷を嵌め、制約を突けなければ力だけが突出して、暴走してし
まう。そうなれば、この世界のバランスは崩壊する。
 勝つことをだけを考えるのならば、間違っていない。だが、勝つだけではダ
メなのだ。それをオデルは弁えていた。
「だからシン、お前に私は期待してしまう……頑張れ」
 故郷にいる弟と同年代の少年は、オデルに何とも言えない優しさと、暖かさ
を抱かせていた。

「ミネルバ接近。一分後に、主砲射程圏内に入ります」
 オペレーターの報告に基地司令官は頷いた。
「来たか。のこのことやられるにくるとはな」
 この時点で、彼らはシンが基地の近くまで続く坑道へ入ったことを知らない。
索敵が妨害され、光学的なものに頼らざるを得ない状況では、察知することが
出来なかったのだ。
「基地主砲、エネルギー充填!」
 基地司令官が叫ぶ。
 ガルナハン基地の主砲は、陽電子破城砲ローエングリンである。その強力無
比な一発は、巨大戦艦だろうと一撃で沈めることの出来る威力を持っている。
しかし、大気圏内で使うと大気との干渉により、ガンマ線による放射能汚染が
問題視され、あまり多用される兵器ではなかった。
 近年になっては、環境への影響が少ないものが登場したが、それでも地上で
使われる機会はそう多くない。
「エネルギー充填完了!」
 主砲制御室からの通信を砲術士官、つまり砲手が司令官へと告げる。
 司令官は、手を高々と上げると、それを振り下ろして叫んだ。
「撃て!」
 命令と共にスイッチが押され、白熱する巨大な光りがミネルバへ向かって発
射された。その圧倒的なエネルギー量は、数十キロの距離をあっという間に進
み、ミネルバへと降り注いだ。

 ラミネート装甲は無意味だった。ラミネート処理を施されたミネルバの装甲
は一瞬の抵抗をする間もなく、敗北した。陽電子砲のエネルギーを、拡散しき
れず、排熱が間に合わなかったのだ。ミネルバは、何とか回避行動を取ったが、
左の可変翼をえぐり取られた。
 爆発と、衝撃が巻き起こった。
 激しい振動が、ミネルバの船体を揺らす。艦橋要員はその揺れに耐えきれず、
座りながら突っ伏すものもいた。艦橋でこれなのだから、艦内ではもっと酷い
ことになっているだろう。
「ひ、左可変翼破損!」
 メイリンが、顔を青くしながら叫んだ。
「なんて威力なの……至急、被害状況の調査を!」
 タリアが指示を飛ばす。
「可変翼の修復は、この状況じゃ不可能です。ですが、ミネルバの航行には支
障ありません」
「戦闘には支障大有りよ。可変翼の修理はしなくていいわ。みんな、持ち場を
離れず、処理にあたって」
 アーサーが、タリアのほうに椅子を動かす。
「艦長、反撃のほうを早く」
「反撃ですって?」
 顔の色を一気に悪くしたタリアが答える。
「でも、今のを見たでしょう。双方で陽電子砲を撃ち合えば、共倒れになって
しまうわ」
 敵の陽電子砲ローエングリンは、タリアの威勢をも吹き飛ばしてしまったの
か。
「だからですよ! 双方で陽電子砲を撃ち合えば、共倒れの可能性もある。そ
れを敵にも教えてやるんです。そうすれば、敵だって主砲を撃てなくなる。今
こちらが敵の陽電子砲に恐怖し、二の足を踏んではいけません。我々は、シン
が来るまで時間を稼がなくてはいけないんです!」
「その通りね。タンホイザー起動!」
 タリアが砲手へと指示を出す。
「エネルギー充填!」

「ミネルバ、陽電子砲の発射態勢にあります」
 ガルナハン基地で、オペレーターが叫ぶように報告する。しかし、司令官は
冷静に、そして悠然と指示を出す。
「ゲルスゲー発進。陽電子砲を防御せよ」
 陽電子砲を避けられたのは予想外だったが、次を当てればいいだけの話だ。
後は、向こうの陽電子砲を防ぐそれだけで良い。
 そして、それがこちらは可能なのだ。

「エネルギー充填完了! 狙点固定!」
 ミネルバの主砲もまた、陽電子破砕砲タンホイザーである。かつて幾度と撃
ち放たれたこの砲火は、戦艦、モビルスーツを薙ぎ払い、名実共にミネルバの
最強兵器として知られ、これを防ぎきったものは何もない。

 だが、それが遂に過去形で語られる日が来た。

「撃て!!!!」