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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第25話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:08:30

「タンホイザーの射線軸に敵機……モビルアーマーです!」
 ミネルバオペレーター、メイリン・ホークの声が響いたのは、ミネルバから
発射された主砲、陽電子破砕砲タンホイザーと、敵ガルナハン基地から出撃し
たモビルアーマー、ゲルスゲーが接触した正にその瞬間だった。
 着弾、爆発、閃光、爆風……
 その圧倒的衝撃を目の当たりにしたミネルバクルーと、出撃していた三機の
モビルスーツパイロットの表情は、すぐに一変した。
「防いだというのか……こちらの陽電子砲を!」
 副官のアーサー・トラインが叫び声を上げた。
 爆風が晴れた後に姿を現したのは、無傷の基地と、その前に光りの壁を展開
させて浮かぶモビルアーマーだったのである。
「敵は、陽電子砲に耐える防御システムを完成させたというのか……そんな馬
鹿な!」
 アスランはモビルスーツの中で、驚愕に打ち震えるが、ハイネとオデルの反
応はそれぞれ違った。ハイネはすぐさま、次の敵の攻勢に対応するために、と
りあえず目の前で起こった「あり得ない光景」からは目を反らした。
 だが、オデルはミネルバや、他の二人の動揺振りが何故だかおかしかった。
確かにミネルバの主砲は防がれ、こちらの形成は一気に不利になった。それは
当然として、何故こんなにも動揺、いや、驚いているのか。
 別に陽電子砲を防いだこと自体は、そんなに驚くことではないはずだ。ザフ
トがモビルスーツを作ったとき、旧連合はそれに対抗するため自分たちのモビ
ルスーツを作り上げた。やがて、モビルスーツ戦闘が主流になった後は、その
兵器を如何に防ぐかという点が研究され、ラミネート装甲や対ビームコーティ
ングが双方の陣営で使われはじめた。
 要するに、どちらが先に実現させたかと言うだけの話だ。片方が作り出した
兵器は、やはり片方でも作ることが、理論上では可能なのだ。
「もっとも、ナチュラルにこんなことが出来るのか、という類の驚きなら別だ
が」
 コーディネイターのナチュラル軽視及び自分たちの優位意識は、オデルにと
ってはあまり心いい物ではない。彼は、整備士として働く中でPS装甲について
も研究したが、あれだって元は旧連合が開発した技術だ。それを考えれば、敵
に陽電子砲を防ぐ技術を開発されたからと言って、そう驚くこともないだろう。
「だが、窮地に陥ったのは事実か」
 こちらだけ必殺の攻撃が封じられたのは確かにきつい。敵の主砲を防ぐ手な
ど、こちらには存在しないのだ。
「シンが来るまでに、少なくとも3時間は掛かる。しかも、この時間は長くな
ることはあっても短くなることは決してない」
 シンが到着するのが先か、ミネルバが落ちるのが先か。
 それとも……
「私が、我慢できなくなるのが先か、か」

        第25話「少年の背負うもの」

「ミサイル発射管、パルジファル装填!」
 衝撃で時の止まったミネルバの艦橋で、はじめに声を出したのは副官のアー
サー・トラインだった。
「ミサイル攻撃で、敵モビルアーマーを叩きつぶせ!」
 この彼にしては珍しい、怒声に近い叫びは、動揺の最中にあったクルーを動
かすのにそれなりの効果を発揮した。砲手は混乱する頭を必死で振り切り、ミ
サイルの標準を固定し、発射する。幾本もの地上用ミサイルがミネルバから飛
び出していく。
 しかし、ミサイルの爆発力程度では、陽電子砲を弾く敵のモビルアーマーを
破壊することなど不可能だった。ミサイルはいずれも直撃こそしていたが、む
なしく爆散するばかり。
 ミネルバの艦橋は、再び重い沈黙に支配されそうになるが、今度は艦長のタ
リアが命令を飛ばす。
「ミネルバ急速後退、敵の主砲が来るわ!」
 このままで敵主砲の第二射でミネルバは確実に落とされる。今は、主砲の射
程圏外に下がるしかない。タリアは後退の歯がゆさを噛みしめたが、他に方法
は……
「艦長、ここは艦を急速前進させるべきではありませんか」
「なんですって?」
「敵主砲の第二射発射と同時に正面に加速を掛け、前に抜けるんです。そうす
れば、敵が第三射をチャージするまで、敵は主砲を使えない。そこを急速前進
して、一気に基地に迫るんです」
 そして、モビルスーツ隊でモビルアーマーを押さえ込み、ミサイルを主砲発
射口に叩き込む。これならば……
「ダメよ、今前進したところで、固定砲台の餌食になるわ。ミネルバの装甲が
いくら厚くても、ビームとリニアカノンを乱射されたら一溜まりもないわ」
「しかし……」
 アーサーとしても反論しようのない事実だった。彼なりに事態を打開しよう
と考えたが、今回ばかりは空振りに終わった。

 この陽電子砲の激しい応酬が、ミネルバのガルナハン攻略の始まりだった。
ミネルバが左可変翼を損傷する被害を被ったのに対し、ガルナハン基地は全く
の無傷。この事実はミネルバに甚大な心理的打撃を与え、積極的な攻勢を行う
ことを躊躇わせた。要するに、怯んでしまったのだ。
 ミネルバの目的が、あくまでシンの到着を待ち、それをサポートすることで
ある以上、無理に戦い、落とされるわけにはいかなかった。
「さて、敵はどうでるかな」
 ハイネは、モビルスーツ同士の回線を繋いで、アスラン、オデルの二人と通
信を交わしていた。
「敵は予想通り、積極的には仕掛けてこない。となると、俺達が攻めるしかな
いわけだが……」
『難しいだろうな。俺達はともかく、一度陽電子砲を防がれたんだ。ミネルバ
は前に出にくいだろう』
 アスランの言っていることは、心理的状況であるが、意外とそういう部分が
露呈されるのが戦場であり、それは見事に的中していた。
「防がれるのを承知でぶっ放す……いや、その前に向こうが撃ってくるか」

『モビルスーツが出てくれば、楽なんだけどな』
「空戦か……その可能性は低いな。なまじ、モビルスーツを出撃させれば、主
砲の餌食になるだけだ」
『待っているだけでも、敵はミネルバを撤退させることが出来るからな』
 現にミネルバは攻め倦ねている。シンの到着を待つと言っても、シンが地中
を掘り進んでいることを知られれば、敵はいくらでも対処の仕様がある。それ
故に、ミネルバは敵の注意を引かねばならないのだが……
『ここは敵の出撃に期待するしかなさそうだな』
 ここまで何も発言しなかったオデルが、そう呟いた。
「というと?」
 ハイネが興味を示し、聞き返す。
『敵としては、ミネルバの存在はただ追い返せばいいと言う物ではないはずだ。
落としてこその戦果、と考えても不思議じゃない』
 ミネルバは、これまでにファントムペイン相手に連戦連勝を重ねている。敵
も当然それを知っているはずだし、出来ることならミネルバを落としたいと思
っているはずだ。
『そこに付けいる隙があれば、あるいは……』
「なるほど、一理あるな」
 多少の危険を冒してでも倒しておきたい相手。敵にとって、ミネルバとはそ
ういう存在なのだ。
『だが、敵が痺れを切らして出てくるのを待つ、というわけにも行かないだろ
う? 時間の経過は、ミネルバにとって不利だ』
 こちらが何らかの手を打たねばやられる。アスランの意見にハイネとオデル
も同意したが、何か打開策を練らねばならなかった。
「ちょっと危険だが……仕掛けてみるか」
 ハイネは一計を思いつくと、すぐにミネルバへと回線を繋いだ。

「敵はさすがに攻勢を諦めたようだな」
 ガルナハン基地では、基地司令官が勝ち誇った顔で幕僚たちを見回した。
「このまま前進しても、我が方の主砲に撃ち落とされるだけですからな。敵も
陽電子砲の餌食にはなりたくないのでしょう」
「では、このまま撤退するかな?」
「敵の司令官が愚か者ではなければ……ですが、敵も負けっ放しで引き下がる
とは思えません。何せ、コーディネイターは負けず嫌いですからな」
「なるほどな」
 すると、別の幕僚の一人が、こう意見してきた。
「どうです、モビルスーツ隊を使って奴らを挑発し、再び主砲の射程内に引き
ずり込んでみるというのは。あれだけの獲物を、ただ撤退させるのは勿体ない
と思いませんか?」
 この幕僚の言葉に、司令官は魅力を感じざるを得なかった。宇宙ではロアノ
ーク隊と激闘を繰り広げ、カーペンタリアではホアキン艦隊相手に善戦し、イ
ンド洋ではエースパイロット率いる集団を全滅させているミネルバ。それを自
分が落とすことが出来れば、武勲の大きさは比類無いものだ。
「だが、ミネルバはエースパイロット揃いだ。我が方のモビルスーツ隊で勝て
るだろうか?」
 むしろ、出撃したところに猛撃をかけられ、壊滅的被害を被ることもあり得
る。ミネルバは、敵のモビルスーツ隊を全滅させたという確固たる戦果を武勲
として、悠々と撤退できるだろう。

「司令、敵のモビルスーツ隊に動きが」
 しかし、司令官の考えは、通信士官の声で中断を余儀なくされた。
「一機が変形して上昇。残りの二機が正面、我が基地に向かって突っ込んでき
ます」
 司令官は、思わず幕僚たちの方を向く。
「恐らく、正面と空から同時攻撃を仕掛けるつもりでしょう。モビルアーマー
を狙っているに違いない」
「対応策は?」
「ローエングリンを一旦収納し、ゲルスゲーも下がらせるのです。固定砲台を
正面と空に乱射して、弾幕を張りましょう」
 ゲルスゲーはいつでも再出撃可能にする。そうすれば、敵の戦艦が接近して
きても、対抗は出来るはずだ。
「よし、固定砲台で迎撃せよ!」

 その頃、ガルナハン基地へと続く坑道の地下を、一機のモビルスーツが掘り
進んでいた。シン・アスカが搭乗するジオグーンである。
 ジオグーンは、前大戦で作られたグーン地中機動試験評価タイプの制式仕様
であり、ベース機にはなかった潜水能力を持っている。周囲の土壌、岩盤を粉
砕し、液状化させて掘り進むスケイルモーターは、着実に坑道の地下に道を造
っている。
「機体の安定度が思ったより悪いな……それに、岩盤を砕く力にムラがある」
 シンはマニュアルを片手に、必死でジオグーンの調整に追われていた。ジオ
グーンは確かに地中潜行能力を持った優れた機体だ。しかし、それは予想以上
に手間と時間の掛かる物であり、パイロットは各種微調整に細心の注意を払わ
ねばならなかった。
「潜行を開始して一時間が過ぎた。ミネルバは大丈夫だろうな?」
 地中を掘り進む音のみが連続的に聞こえるコクピットの中で、シンはミネル
バのことを案じていた。ジオグーンが、目標地点、即ちガルナハン基地へと到
達するには少なくとも後2時間は掛かる。それまで、何とか持ってくれればい
いのだが……
「大丈夫だ。ハイネさんや、アスランさん、ザフトの英雄が二人もいるんだ」
 それにオデルさん――年上の凛々しい青年の顔を、シンは思い出す――あの
人なら、どんな窮地だろうと打ち破るような、凄い力を持っているような気が
する。彼と、彼のモビルスーツにはそれが出来そうな気がするのだ。
「もしかしたら、オデルさんはどっか遠くの宇宙から来たスーパーヒーローか
もしれないな」
 割と事実に近い洞察を、シンは鼻で笑うと、再び操縦桿と各種スイッチ、計
器との緻密な作業に没頭し始めた。

 敵が予想したとおり、ハイネが立てた作戦は、モビルスーツによる空と正面
からの同時攻撃だった。アスランのジャスティスと、オデルのジェミナスで固
定砲台の注意を引き、加速力のあるセイバーで空から突っ込む。ハイネにして
は大雑把な作戦だったが、このガルナハン基地周辺は細かい作戦を立てるには
空間が狭すぎるのだ。

「だから、限られた戦術を、如何に効率よく行うかしかない」
 ハイネ自身、この作戦が敵に見破られることは承知していた。だが、彼は敵
に気付かせることにこそ、この作戦の意味があると思っている。
「敵は恐らく、固定砲台のみで対応をしてくるはずだ。そこに勝機がある」
 後は、味方が息のあった動きをしてくれるかどうかである。ミネルバについ
ては、まあ心配はない。艦長のタリアは少々気が強く、自己主張の強い人間で
はあるが、物のわかった人間だ。副官のアーサーも、優秀な男だ。問題はモビ
ルスーツパイロットである。
 アスラン・ザラは、実力の上では問題はない。だが、ハイネはどうもアスラ
ンにきな臭い物を感じていた。腹の内を探ろうと飲みに誘っても、やんわりと
断られた。
 オデル・バーネット、この男に関してハイネはほとんど知らない。議長がま
た特権だの特例だのを駆使して、ミネルバ所属と言うことにしたらしいが、そ
の素性は全く持って不明である。機体にしてみても、どうやらザフト製でもな
ければ連合製でもないらしい。
「まあ、シンが懐いているところを見ると、悪い人間じゃなさそうだが」
 アスランとオデル、共に戦場を駆けるには、まだまだ信頼に足りない二人だ。
本人たちには悪いが、ハイネはそう思ってしまう。
 これがもし……
「もし、あの男だったら」
 ハイネの脳裏に、美しい金髪と、華麗なる美貌を持つ男の姿が浮かぶ。これ
がもし、あの男との共同であったのなら、自分は彼に絶対の信頼を寄せるだろ
う。
「我ながら、おかしな話をしているな」
 彼、ロッシェ・ナトゥーノと、ハイネが戦場を共にしたことは一度しかない。
しかも、その時ハイネは彼の活躍を見ておらず、人づてに活躍を聞き、戦闘記
録を見ただけに過ぎない。ロッシェと会ったのも、ただの一回。ホテルのバー
で酒を酌み交わしたときだけだ。
 だが、そんな短い関係でも、ハイネはロッシェに信頼を寄せていた。それだ
けの価値がある男だと、彼の本能が告げているのだ。
「シンも、同じなのか?」
 彼もまた、オデルに信頼を寄せている。それは尊敬と畏敬の念に近い物であ
ったが、本質的には同じように思える。
 強さへの憧れ、そして……感服。ハイネ都心は、同質の思いを異世界の男た
ちに向けていた。

「敵戦艦が陽電子砲の発射態勢にあります!」
 固定砲台による攻撃が始まる中、ガルナハン基地の通信士官が驚きの叫びを
上げた。
「陽電子砲? 馬鹿な、敵の艦首砲は射程外のはずだ」
 司令官は、幕僚たちに意見を求める。
「モビルスーツ隊は陽動で、真の狙いは陽電子砲に合ったのかも知れません。
ゲルスゲーを下がらせたことで、こちらの防御は確かに薄くなりました」
「なるほど、モビルスーツ隊で攪乱し、その隙に接近か……その手に乗るか!」
 司令官は叫ぶと、モビルスーツ隊の出撃を命じた。敵のモビルスーツを牽制
し、ゲルスゲーを守るためである。
「固定砲台と呼応した攻撃をさせろ。無理に敵を落とす必要はない」

 ガルナハン基地のハッチから、続々とモビルスーツが踊り出した。その数二
十機。地形の狭いこの基地では、少数の方が機動力が上がるのだ。そして、二
手に分かれて、固定砲台の攻撃を上手く避け、時に防ぎながら突き進むモビル
スーツに攻撃を仕掛けると思いきや……そうではなかった。
 何と、出撃した二十機全てが、空中から基地に迫らんとするハイネ・ヴェス
テンフルスのセイバーに攻勢を仕掛けたのである。
 二十機のモビルスーツから発射されるビームライフルとミサイルを前に、さ
すがのハイネも転進を余儀なくされた。如何に最新鋭機のセイバーといえど、
あの攻撃を喰らっては一溜まりもない。敵のダガーLは連射を続け、ハイネ
のセイバーを十分な距離まで追い返すと、一機に急降下して、アスランのジャ
スティスとオデルのジェミナスに迫った。
 この時、ハイネを追い返したことにより固定砲台のほぼ全てが正面のアスラ
ンとオデルに攻撃できることとなり、膨大なエネルギーが二機に叩き付けられ
た。
「くそ、上空に」
 咄嗟に、天井方向へと逃げようとする二機だったが、その正に真上から敵モ
ビルスーツ隊の攻撃に襲われたのだ。
 上下左右、全てを封じられた二機は、一旦後退するしかない。
 するしかないのだが……
「こんなことで!」
 アスランは、ジャスティスのスラスターを全開にすると一気に正面突破を図
った。端から見ても、それは無謀な行為であった。
『よせ、アスラン。死ぬつもりか!』
 ハイネから怒声に近い通信が送られてきたが、アスランはそれを無視した。
彼にも彼なりの意地があり、プライドがある。
 そして何より、アスランは自分の実力にそれなりの自信を持っていた、固定
砲台の砲撃は苛烈だが、突破できないものではない。むしろ、ここで一気に突
破してあのモビルアーマーを破壊すれば、勝負は決まる。
「そうすれば、俺の勝ちだ!」
 アスランがここまで勝利に拘るのは珍しいことなのかもしれなかった。もし
かしたら、それはシンへの対抗心だったのかもしれない。年下の少年に対抗心
を燃やすのもおかしな話だが、先日の作戦会議でのことが尾を引いていたこと
もある。アスランは、出来ることならシンが来る前に戦いを終わらせてやろう
と思ったのだ。
「ここで、抜ければ!」
 やるだけあって、アスランの操縦技術、回避能力は大した物だった。口うる
さくアスランに後退しろと叫んでいたハイネも、アスランが固定砲台の砲撃の
間を縫って基地に迫るのを見ると、さすがに何も言えなくなった。そして、自
分にはあんな芸当出来るのかと、つい考えてしまう。
 一旦後退したオデルもまた、アスランの芸術的な動きに眼を奪われていた。
見事だ、そう呟いたかもしれない。
 だが、アスランの芸術的な動きに、敵は真っ白なキャンバスを用意して待っ
てはいなかった。
 アスランが、ミネルバの陽電子砲を警戒して浮遊するゲルスゲーを、固定砲
台の攻撃から抜けきって射程に捕らえたとき、彼の機体に衝撃が起こった。

 何もない、壁面からの攻撃によって。

「な、に!?」
 アスランは攻撃のあった方にセンサーを向ける。しかし、そこには何の姿も
見ることは出来ない。
「一体何が……」
 すると、再びその壁面からビーム攻撃が行われた。凹凸のある壁面に、砲台
の類は見受けられない……まさか。
 アスランは、その攻撃を避けると、壁面にビームを乱射した。着弾した壁面
が次々に爆発し、その空間の一部が、揺らいだ。
「ミラージュコロイドか!」
 そう、アスランのジャスティスに攻撃を仕掛けたのは、敵が配置していたモ
ビルスーツ、NダガーNだった。この機体は、前大戦でザフト軍に奪取された連
合軍モビルスーツブリッツのデータを基に開発された機体であり、他のダガー
系統とは一線を画するガンダムヘッドが印象的である。
 名の由来、Nジャマーキャンセラーを搭載したことで、安定した動力を確保し、
大量の電力を消費するミラージュコロイドの使用を可能としたのだ。
「敵の通信と索敵を妨害するために出した、電磁波と妨害電波が裏目に出たか」
 これらの影響で、通信は元より索敵は光学的なものに頼らざるを得ない。つ
まり、ミラージュコロイドにとって、これ以上の可動場所はなかったのである。
「うぁっ!?」
 今度は別の方向から攻撃が炸裂した。彼が仕留め損なったゲルスゲーが攻撃
を仕掛けてきたのだ。ゲルスゲー自体の機動力は高いものではないが、攻撃力
は決して低くない。ジャスティスはたちまち、地面へと叩き付けられてしまっ
た。
「くそ、動け、動いてくれ!」
 幸い距離の関係で、固定砲台の射程からは外れている。だが、このままでは
NダガーNと、ゲルスゲーの攻撃にやられてしまう。
 ここまでか……アスランは自分の運命の終わりを感じ取った。

 ジャスティスに向かって、NダガーNとゲルスゲーの砲撃が行われた。

「――っ!」
 死をも覚悟したアスラン。せめて、ジャスティスの核爆発だけは食い止めな
くてはならない。仮に爆発すれば、ガルナハン基地は吹き飛ぶかもしれないが、
ミネルバだってただでは済まない。そして、ガルナハンの町も。そんなことに
なっては……
「んっ?」
 おかしい。砲撃による爆撃音はする、だが、ジャスティスは爆散するどころ
か、揺れの一つも感じていない。これは一体……?
 アスランは、カメラを操作し、外で何が起きているのかを確認しようとした。
「なっ……なんだって」
 そして、彼の眼に飛び込んできたのは、彼のジャスティスを守るように、シ
ールドを掲げて攻撃を防ぐ、オデルのジェミナスの姿だった。

 ハイネは目の前で起こった出来事に、ただただ驚いていた。鮮やかな操縦技
術で敵に迫ったアスラン。しかし、敵の伏兵に進撃を阻まれ、彼は絶体絶命の
窮地に陥った。咄嗟にハイネは、セイバーで救援に向かおうとしたが、そこを
モビルスーツ隊の一部と、固定砲台の砲撃に阻まれた。
 間に合わない! ハイネがそう思ったときである。
 オデル・バーネットが動いた。彼は自身の機体を急加速させると、凄まじい
威力のビームライフルでモビルスーツ隊を蹴散し、ジャスティスと敵の間に割
り込んだのだ。
 常識破りの、正に神業だった。
「あんなの、アリかよ……」
 ハイネだけではなく、彼と戦っていたダガーLさえも、オデルの動きに驚き、
制止してしまっている。オデルは以前、敵の攻撃をシールドで受け続けている。
何という強度のシールドか。
「だが、今がチャンスだ」
 ハイネは、制止した敵に向かってアフォルタスプラズマ収束ビーム砲を撃ち
はなった。卑怯、いや、戦場で制止した方が悪い。ハイネ自身を、敵が撃ち落
とす機会でもあったはずだ。
 そのままビームライフルを連射して、着実に敵にダメージを与える。ここを
突破し、一気にゲルスゲーへと向かえば……
「この反応はっ!」
 ハイネは、センサーが感知した反応に眼をやった。
 それと同時に、『地響き』が辺りに起こり始めた。
「真打ちのお出ましか!!!」
 シン・アスカが、到着したのだ。

「な、何だこの揺れは!」
 ガルナハン基地の指令室も、地響きと揺れに包まれていた。
「じ、地震か?」
「いえ、違います。これは……まさか」
「さっさと報告しろ!」
 司令官の怒鳴り声に、通信士官が悲鳴に近い声を出した。
「何かが、基地の地下に出現しました。地面を掘り進んできた模様!」
 指令室に衝撃が走った。
「そんな馬鹿な、馬鹿な話があってたまるか」
「敵アンノーン、機関室付近に移動、このままでは機関部が……」
 通信士官が告げるより早く、第二の揺れがガルナハン基地を襲った。
 シンのジオグーンが、機関部に攻撃を行ったのだ。
 激しい爆発が機関部で巻き起こり、山を要塞化しただけという単純構造の基
地は次々に崩れようとしていた。
「し、指令室は耐えられるのか!?」
 幕僚の一人が叫ぶが、通信士官はもう応えない。彼は自分の向かっていた通
信システムが爆発したことで、死んでしまっていた。
 パニックが起こった。砲手の一人が悲鳴を上げて指令室を出ようとした。そ
れに釣られ、何人かの士官が一緒になって外に飛び出し、その瞬間死んだ。爆
発による振動で、天井が崩れ、それが直撃したのだ。
 幕僚たちが青ざめた眼で司令官を見る。司令官は、ギリギリの冷静さを保っ
て、こう叫んだ。
「総員、退去せよ!」

 シンの到着を悟ったとき、オデルは防御の姿勢で固まっていた機体を動かし、
一気に攻勢に転じた。シールドを突き出したまま、ゲルスゲーへと突撃したの
である。途方もないジェミナスの強度にムキになって攻撃を仕掛けていたゲル
スゲーは、反応に遅れた。スラスターを全開にして回避行動に出るが、とても
間に合いそうにない。
 オデルのジェミナスがビームライフルを撃ったのと、ゲルスゲーが陽電子リ
フレクターを展開したのはほぼ同時だった。
 激しい光りが、両機の間に巻き起こり、ゲルスゲーが吹き飛ばされた。あろ
うことか、肩のリフレクター発生装置がオーバーヒートを起こしている。たか
が、モビルスーツの攻撃を防御しただけで……
「ハァァァァァァァァァッ!!」
 オデルは距離を詰めると、ビームサーベルを抜きはなった。指針距離、ゲル
スゲーには避けようもなかった。
 一閃、ゲルスゲーはジェミナスのビームサーベルの一太刀に、両断された。
 その光景を見て、対応に遅れたのがNダガーNだった。パイロットはオデルに
攻撃を仕掛けるべきか悩み、ハイネのセイバーが接近していたことに気付かな
かった。
「よそ見すんなぁっ!」
 セイバーの二刀のビームサーベルに、NダガーNは斬り裂かれた。

「艦長、敵のモビルアーマーが落ちました!」
 陽電子砲をチャージし、そのまま待機していたミネルバが、やっと動くとき
が来たのだ。シンの到着、モビルスーツ隊の善戦、条件は全て揃った。
「ミネルバ前進、タンホイザーを敵基地に叩き込め!」
 タリアの命令で、ミネルバは急速前進を始めた。もはや、行く手を遮る物は
何も存在しない。
 陽電子破砕砲タンホイザーが発射され、ガルナハン基地の壁面に突き刺さっ
た。トドメの一撃であった。
 ガルナハン基地は、爆発を繰り返し、死神に捉えられていた。内部は崩壊し、
外面は砲撃で吹き飛ばされた。基地の安全装置は、兵士たちを守ることが出来
ず、限界を迎えていた。各所で、血に染まった兵士が倒れ込んでいる。生きて
いる者も、何らかの傷を負っており、倒れている者を構ってなどいられなかっ
た。
 指令室は既に崩れ去り、壊滅していた。中にいた司令官、幕僚は尽く死に絶
え、生存者などいるはずもなかった。
 中には脱出を図る者もいたが、格納庫は完全に潰れており、脱出路も脱出口
も無くなっていた。だが兵士は、途方に暮れる間もなく、力尽きた。

 そして、ガルナハン基地で最後の爆発が起こった。大爆発であった。

 超高熱が基地内を包み、爆風が基地を崩壊させてゆく。それまで生きていた
者も、その全てが死者と化した。
 そして爆発は、基地の天井方向へと突き進み、陽電子破城砲ローエングリン
発射口へと伸び、その砲身をも吹き飛ばし、爆発の噴火を空に突きだした。

 ガルナハン基地は、陥落した。

 基地の壊滅する様を、誰もがまじまじと見つめる中、ルナマリアが最初に声
を発した。
「シンは? シンは大丈夫なの?」
 あれだけの爆発が基地内部で起こったのだ。シンが退避に失敗していれば、
無事であるはずがない。そもそも、あの状況で満足な退避が出来たのだろうか。
 アーサーがすぐに確認を取らせたが、妨害電波と電磁波、何より爆発の影響
がそれを滞らせた。まさか、ここまで上手く、そして、ここまで凄いことにな
るとは思わなかった。シンの空けた穴から歩兵と工兵を送り込む? そんな必
要、どこにもなかったのだ。
「艦長、前方の地面に異変が。これは、これはきっと……」
 メイリンが叫ぶと同時に、全員がメインスクリーンを凝視した。
 モビルスーツパイロットたちも、機体のカメラをその位置に固定した。
「シン……」
 オデルがその名を呟いた。
 その時、地面の一部が膨れあがり、勢いよくジオグーンが飛び出してきた。
シンは機関部を攻撃して、致命傷を負わせた時点で退避をしていたのだ。ジオ
グーンは、地面へと出てきたところで動きを止め、すぐにコクピットが開いた。
 シンが、ゆっくりと機体から出てきた。
 ミネルバでは、クルーが次々に賞賛の言葉を叫んでいた。聞こえるわけもな
いのだが、叫ばずにはいられなかった。
「やったぜ、シン!」
 モビルスーツに乗るハイネも、シンを絶賛した。作戦は完全に成功したのだ。
「まったく、君は大した奴だな……」
 アスランもまた、シンの才能と実力を認めざるを得なかった。自分で考え、
自分で動き、シン・アスカ、凄い少年が現れたものである。
 こうした感嘆の思いが向けられる中、当のシン本人は何とも言えない、いた
たまれない表情で炎上するガルナハン基地を見つめていた。あの中で、一体何
人死んだのか、自分は、一体何人殺したのか?
 そんなことを、考えてしまう。
 命の重み。それは、若干十六才の少年には、重いものなのかもしれない。
 シンは首を振ると、ミネルバに帰投するべくコクピットに戻るが、そこに通
信が送られてきた。脱出、あるいは離脱した敵の一部が、ガルナハンの町へ向
かっているというのだ。モビルスーツ戦力はないようだが、町が危険なことに
変わりはない。
「コニール……!」
 シンは、一旦ミネルバに戻るため機体を再起動させた。コアスプレンダーで
飛んだ方が、ジオグーンよりずっと早い。
「今行くぞ、コニール」
 だが、シンは知らない。この先に待つ、悲しい運命を。