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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第29話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:09:39

 傭兵部隊サーペントテール。
 超一流の実力者たちで構成されたこの部隊は、連合、ザフト共に一目置く存
在であり、C.E世界にその名を轟かせている。
 リーダー兼戦闘要員の叢雲劾は、旧連合によって作られた戦闘用コーディネ
イターの試作型である。彼に施された戦闘能力強化は完成度が非常に高く、さ
らに傭兵として培った経験がそこにプラスされたとき、劾は自他共に認める最
強戦士となっていた。
 並のエースパイロットでは太刀打ちできない彼の強さを頼り、数々の人間が
サーペントテールに依頼を申し込んできた。サーペントテールは、自身らが定
めた基準に見合い、依頼料さえ払う相手ならば、連合、ザフトを選ばずに仕事
をした。
 そんな、偏りのない一面もまた彼らの評価を上げる一因となっていたが、現
在行われている戦争に突入してからというもの、事情が少し変わってきた。戦
争といえば、傭兵の稼ぎ時であり、傭兵たちはそれぞれの陣営に自分たちを売
り込むために努力をする。トップクラスの実力と実績を持つサーペントテール
にはその必要こそ無かったが、逆に以前にも増して慎重に依頼を選ぶようにな
ったのだ。
 もっと極端に言えば、クーデターによって旧連合に取って代わったファント
ムペインからの依頼を受けることに対し、リーダーである劾が渋るようになっ
たのだ。
「どうして俺が、ファントムペインのような跳ね上がり共に協力しなくてはい
けないんだ!」
 普段、沈着冷静な劾がこのように声を荒げるのには深い理由がある。という
のも、先の記述通り彼は旧連合によって作られた戦闘用コーディネイターであ
るが、彼を作り出した研究所の母体となっていたのが、ナチュラル原理主義者
の集まりであるブルーコスモスなのだ。ナチュラル原理主義である彼らが戦闘
用コーディネイターを研究してたというのは不可解な話だが、本来ならば劾は
彼らによって強力な心理コントロールを施され、彼らの意のままに動く戦闘人
形となるはずだったのだ。それが傭兵をやっている理由は、彼に施された心理
コントロールが不完全なものであったからだが、そんな経緯がある故に、劾は
ブルーコスモスを嫌い、敵視していた。
 そして、今現在地球圏を支配するファントムペインの母体もまた、ブルーコ
スモスだった。ファントムペインはブルーコスモスが旧連合軍内部に持ってい
た私兵ともいえる集団であり、劾にしてみれば、このような連中からの依頼な
ど受けられるわけがない。むしろ、可能ならばザフト側についてファントムペ
イントその背後にいるブルーコスモスを根絶やしにしてやりたいぐらいなのだ。
 だが、それでは彼が心に決めた精神に反してしまう。劾は日々を悶々と過ご
していたが、遂にファントムペインからサーペントテールに依頼の申し込みが
行われてきた。

        第29話「潜入、移動要塞メサイア」

「断ってくれ」
 ファントムペインから、サーペントテールに申し込まれた依頼の内容を聞く
前に、劾はそう斬り捨てた。元より引き受ける気がないのだ。
「俺はファントムペインからの依頼は受けない。奴らのために働く気はない」
 明らかに劾の我が儘なのだが、事情が事情だけにどう説得したものか、劾の
物言いにサーペントテールの一同は困ったように顔を見合わせる。
 まず、劾と同じく戦闘要員であるイライジャ・キールが常識論を持って説得
を開始した。
「劾、気持ちはわかるけど、現在ファントムペインがザフトに相対する勢力で
あることは事実なんだ。ファントムペインの依頼を突っぱねて、ザフトの依頼
だけ受けるって分けにはいかないだろう?」
「俺は今まで幾つもの依頼をこなしてきた。連合、ザフトと問わず。たまには
好き嫌いで依頼を選んだって良いはずだ」
 これまでだって、依頼内容の良し悪しで吟味したことはいくらでもあったが、
内容も聞かず依頼者が嫌いだから、という理由は恐らく初めてである。頑固な
劾を前に、イライジャはやれやれと首を振る。
「劾、今回の仕事は誰かを殺せとか、どこかの基地を壊せとか、そういうもん
じゃないんだ。にもかかわらずギャラははずんでるときた。割が良いとは思わ
ないか?」
 情報収集と依頼交渉を専門とするリード・ウェラーが、このように切り出す。
彼の言葉に嘘はなく、ファントムペインは通常より遥に多い依頼料を提示して
きたのだ。
「依頼料の問題じゃない」
「劾、あんまり我が儘いってると、お前がカレーにソースを掛けて食べてるこ
とを他の傭兵にばらすぞ」
「何の話だ!」
 そんなやり取りを呆れたように見守っていた、サーペントテールの紅一点、
ロレッタ・アジャーが劾を諭そうとする。
「ねぇ、劾。イライジャの言うとおり、あなたの気持ちはわかるわ。でも、考
えてみて? もし、このまま戦争が続いて……ファントムペインが勝ってしま
ったらあなたどうするの?」
「それは……」
「そうなれば、当然依頼者もファントムペイン、ファントムペイン寄りの人間
が多くなるわ。それでも、嫌いだからって理由で依頼を突っぱねるの?」
 諭され、ふてくされたように劾は黙ってしまった。ロレッタの言っているこ
とは事実であり、可能性としては十分ある。現状を見るに地上ではザフト有利
にことが運んでいるようだが、先のことは判らない。ファントムペインが反撃
を開始して、ザフトを打ち破ると言うことも十分に考えられる。
 ロレッタは、黙りこくったままの劾をみて、溜息を付く。
「判ったわ……今回の仕事は私がメインでやるわ」
「えぇ! お母さんが?」
 これまで黙って成り行きを見物していたロレッタの娘、風花・アジャーが声
を上げた。
「が、劾。我が儘言ってないで、引き受けてよ! お母さんだけじゃ危険だよ!」
「なに言ってるの。依頼内容からすれば、私に適任よ」

「で、でも……」
 そんな、母娘のやり取りに若干心を動かされたのか、今度は劾が溜息を付い
た。大きく長い、疲れ切った溜息を。
「依頼内容を教えろ。聞くだけ聞いてやる」

 依頼内容は次のようなものだった。
 ザフト宇宙軍が、前大戦時に失ったヤキン、ボアズに代わる拠点として建造
中の移動要塞メサイアの内部資料と、内部にて極秘裏に製作されているという
新型モビルスーツの情報を入手せよ。
 確かに、誰を殺すわけでもなく、何を壊すこともない依頼であった。だが、
それとは別にこの依頼には少々大きめのリスクが存在する。
「メサイアは建造中ということもあって人の出入りは多いようだが、ザフトは
先のアーモリーワンの事件から外部侵入者には警戒を強めている。そこに潜入
して情報収集を行うのか……」
 潜入などの内部工作は、サーペントテールではロッレタが得意とする分野で
ある。爆発物のプロフェッショナルにして、格闘技の達人でもある彼女はこの
手の依頼に向いている。
 だが……
「ザフトだって、そう何度も進入されるほど馬鹿じゃない。見つかったら即射
殺だろうな」
 何処が割のいい仕事なんだ。劾はリードを睨むが、彼は素知らぬ顔で目を背
ける。
「ね、だからお母さんだけじゃ危険なんだよ!」
 風花が劾にすがりつくように言う。
「…………」
 劾は依頼内容を見ながら、思案する。報酬のでかさはリスクの大きさに比例
している。だが、この依頼はメサイアを爆破ないし破壊しろというわけでも、
新型機を奪取せよというわけでもない。単なる情報収集だ。如何に警備が厳重
といえど、ロレッタをサポートに、劾が行動すれば上手くいくのではないか?
「だが……」
 劾にはまだ迷いがあった。ファントムペインの依頼を受けるというのは、や
はり気が進まない。しかし、ここで自分が拒否すれば、ロレッタが単独でこの
仕事を受けるだろう。彼女にもしものことがあったら、取り返しがつかない。
「ロレッタ、お前にはサポートを頼む。イライジャ、お前は万が一の時の脱出
の支援だ。リードと風花は、艦で待機」
「劾……」
 風花がビックリしたような声を出す。言ってはみたものの、劾が引き受ける
とは思っていなかったのだ。
「調べることを調べて、さっさとケリを付けるぞ。それなら、文句はないんだ
ろう?」
 劾はサングラス越しに一同を見回した。誰もがこの展開に唖然とする中、リ
ードだけが笑いながら口を開いた。
「あぁ、上等だ」

 こうしてサーペントテールによる、移動要塞メサイアへの進入作戦が開始さ
れた。劾は進入するに当たって、綿密な下調べを行い、メサイアへの外部から
の出入り状況、外部、内部の作業時間、警備状況などを事細かに調べ上げた。
 如何にザフトが警戒態勢を強めていると言っても、やはり人間のやること、
死角もあれば穴もある。劾は時間を見計らい、ロレッタと共にメサイアの内部
へと進入を果たした。
「建造中といっても、内装までほとんど出来てるのね……」
 ザフト軍の制服に身を包み、変装をした二人は監視カメラや警備兵などに注
意しながら、メサイアの情報・管制制御室へ入り、すぐに情報収集を開始した。
床にはこの部屋の担当であった兵士が倒れているが、殺してはいない。特殊な
薬品をかがせたため、目覚めたとき、本人は自分が居眠りをしてしまったもの
と勘違いするだろう。そういう薬品だった。
「管制室が複数に分散されてるわ。相互監視機能を使って監視して、全てを同
時制圧されない限り、機能掌握されない作りになってる」
「今も監視機能が動いているのか?」
 若干緊張しつつ劾が質問する。
「……動いてないわね。まだ要塞が正式稼働してないからじゃないかしら。そ
れに、動いてたら今頃この部屋に警備兵が押し寄せてくるわ」
「それもそうだな」
 調べていく中で、劾とロレッタはメサイアの様々な情報を入手することが出
来た。この巨大な要塞は、戦闘・補給両面でとても優れた性能を持ち、戦闘面
では外壁に無数配置されている固定砲台及び、ミサイル発射管が向かい来る敵
を排除し、格納庫は数多くのモビルスーツ、艦艇収容能力を誇っている。ミサ
イル製造システム、モビルスーツ・艦艇修理機能、傷ついた兵士のための病院
設備も充実しており、確かにヤキン、ボアズに代わるザフト宇宙軍の新たなる
拠点というだけのことはある。
「劾、これを見て!」
 外壁武装のチェックをしていたロレッタが、驚愕の声を上げた。
「どうした」
「外壁武装の一つに、ジェネシスがあるわ」
「なに!?」
 劾はロレッタを押しのけるようにモニターをのぞき込んだ。画面には、メサ
イアの外壁武装の要、つまり主砲としてジェネシスの新型が配備されることが
書かれていた。
「ザフトのやつら、前大戦から何も学ばなかったのか」
 現在ザフトを取り仕切る最高評議会議長ギルバート・デュランダルは学者出
の穏健派として知られている。いくつかの行動でそれは示されており、今回の
戦争は彼の本意ではないという。その為、劾も面識はないがデュランダルに対
し『運の悪い男』と多少なりとも同情していたが、どうやらそれは間違いだっ
たらしい。
「でも、無理もないじゃないかしら。ファントムペインはL5宙域会戦で核兵器
を使用したんでしょ? だったら、対抗策としてジェネシスを使うのも……」
「そんなことをやってるから、戦争は終わらないんだ」
 劾はそう断言すると、再びジェネシスの情報を見る。改良された新型ジェネ
シスは、旧来の元違いミラー交換為しに発射することが可能だという。この巨
砲がある限り、メサイアは外敵に対して無敵を誇るであろう。

「ロレッタ、格納庫の情報と、建造中のモビルスーツの情報を出せるか?」
「やってみる」
 ロレッタはコンソールパネルを操作するが、数十秒後、困ったように声を出
した。
「ダメね、さすがに新型機の情報はないわ。何処で作ってるのかも判らない」
 格納庫にしてみても広大な要塞内、無数に存在している。いずれかで新型機
は作られているのだろうが、ここからでは調べようがなかった。
「……よし、各格納庫の地図を出してくれ。俺が直接調べる」
「大丈夫? 新型機を作ってるともなれば、警備も厳重じゃないかしら」
「なんとかなるさ。お前はここで、情報収集を続けてくれ」
 劾は制御室を出ると、慎重に基地内部へと進んでいった。格納庫は大小それ
ぞれ各種あるが、新型機を製作するとなればそれなりの広さと設備が必要とな
る。緊急時のことも考えれば、それは当然のことだ。
 劾は無数の格納庫の中から目星を付け、そこに向かった。途中、幾度か警備
兵や作業中の整備兵などに出会したが、上手くやり過ごした。どこもせわしな
く作業しており、一々他に構っていられないようだ。
 やがて劾は、一つの格納庫へとたどり着いた。彼の予想は的中し、そこには
二体の見たことがないモビルスーツが佇んでいる。恐らく、これが新型機なの
だろう。
「もう、ほとんど完成しているじゃないか」
 出払っているのか、この要塞内でも奥の奥、判りにくい場所にある格納庫に
は一人の人間も居なかった。劾はロレッタに連絡を送り、モビルスーツを発見
したことを伝えると、それを調べるために機体へと近づいた。
「ザフト軍のモビルスーツにしては、かなり両極端な機体だな……コンセプト
機か?」
 外見は、今までのザフト軍のそれと近しい部分もあったが、大体は大幅なア
レンジがされている。どうやら、ザクに似ている方が接近戦を重視した機体で、
もう一機の紫色の塗装をされている方が射撃戦を重視した機体のようだ。
「どちらもバランス良く設計されている。地上戦を想定しているようだが、こ
の機体が前線に投入されれば、かなりザフトが優位に立てるかもしれない」
 そう考えると、ファントムペインの為に仕事をしている自分が何故だか馬鹿
馬鹿しく思えてきた。ファントムペインは劾が入手した情報を元に対抗策を練
るのだろうが、果たしてそれが上手くいくかどうか。
 劾は、二機のモビルスーツを感慨深げに見上げていたが、その時ロレッタか
ら緊急の連絡が入った。何者かがこの格納庫に向かっているというのだ。劾は
耳を澄ませて音を確認する。確かにかなり遠くからではあるが、足音と話し声
のようなものが聞こえてくる。
「まずいな、この格納庫までは一本道だった」
 退路を確保せずに進入するのは、劾らしくないミスであったが、出入り口が
一つしかないのだ。これではどうしようもない。
「どうする……」
 一時、どこかに身を潜めてやり過ごすしかない。劾は、広い格納庫を見渡す
がここには隠れられるような場所がない。かなり離れた位置に、モビルスーツ
のパーツ類が山積みになっているが、距離がありすぎる。全力で駆けたとして
も、その前にここに向かっている人間が到着してしまう。となれば……
 劾は数秒思案したと、一つの決断を下した。

 ミーア・キャンベルの地球慰問が正式発表され、各所が準備に追われる中、
ロッシェはハワードの下を尋ねた。ロッシェもまたミーアの護衛官として地球
に赴くため、しばらくハワードと顔を合わせることもないからだ。
 ハワードは現在、デュランダルの要請でザフト軍の新型モビルスーツの製作
に着手しているため、もっぱらメサイアに寝泊まりしている。彼と、彼の仲間
であるA.C世界の技術者はデュランダルが厳選した口が固く、信用のおける人
材と共に作業をし、早くも新型モビルスーツを完成させつつあった。
 そこへロッシェが尋ねてきたため、ハワードは折角だからと彼を新型モビル
スーツの所へ案内した。
「ところでロッシェ、お前、地球にレオスを持って行くのか?」
「当たり前だろう。モビルスーツを使ったテロの危険性だってある。レオスな
らこの世界のモビルスーツに後れを取ることなどまず無い。そうだ、出発前に
レオスを地上用にチューニングして欲しいのだが」
「ふむ……」
 ハワードはなにやら思案顔を作る。何か問題でもあるのだろうか? ロッシ
ェは考えるが、思い当たる節がない。A.C世界のモビルスーツを目立たせたく
ない、というのなら既にオデルが地上で戦いに参加している今となっては無駄
な話である。
「ロッシェ、レオスは確かに強い。この世界のモビルスーツでは、恐らく太刀
打ちできないだろう。だが……」
「何か問題でもあるのか?」
「あぁ、ロッシェ、レオスは地上では宇宙のように戦えん。ワシはそこが気が
かりだ」
「そんな当たり前のことを、何を今更」
「よく考えてみろ、レオスは汎用性の高いリーオーのカスタム機だが、高機動
ユニットがなければ空も飛べんのだぞ? 敵が空戦モビルスーツで頭上から攻
撃をしてきたら、お前さんどうするつもりだ?」
 言われてロッシェはハッとした。確かにその通りだ。レオスが負けるなどと
いうことは考えられないが、空を飛べる相手との戦闘を考慮した場合、確かに
不利な点は否めない。リーオーはオプション装備で高機動ユニットを装着すれ
ば空も飛べるようになるのだが、そのユニットは現在オデルがジェミナスに装
着させているため、ここにはない。
「では、どうしろというんだ」
 かといって、ザフトの機体に頼るというのもどうだろうか。現在、ザフト軍
で主力となる空戦機はディンという機体らしいが、その機体とてファントムペ
インが使う空戦機に刃が立たないと言われている。だからこそ、ハワードがこ
うして新たな空戦用モビルスーツを作っているのではないか?
「まあ、ワシに少し考えがある」
「考え? それは一体……」
「さて、ついたぞ」
 長い一本道を歩き、ロッシェたちは格納庫に到着した。広い空間には、モビ
ルスーツが二体佇んでいる。これが例の新型だろう。
「あのモビルスーツの残骸は何だ?」
 ロッシェは隅にあるモビルスーツのパーツの山を見て尋ねた。ジンやザクの
ばらされ、武装などと共に積まれている。

「残骸ではない。研究用に、武装と一緒にばらしたパーツが必要だったのだ。
ディック、ロッシェにこの二体の説明をしてやってくれ」
 言われて、ディック・ヒガサキが進み出た。彼は元MO-構蠡阿竜蚕兌圓如現
在はプリベンターに所属している。技術屋の腕としてはなかなかのもので、今
ではハワードの右腕として活躍している。
「まずこっちの機体、こいつはグフイグナイテッドといって空戦における格闘
戦を想定して作られた接近戦重視の機体だ。武装は盾の内部に収納されたビー
ムソードと、両腕にマウントされたビームガン、そして両腕内部に収納された
スレイヤーウィップだ」
「スレイヤーウィップ?」
 聞き慣れぬ名前にロッシェが眉を顰める。
「まあ、俺達の世界で言うところのヒートロッドだな。で、防御面は対ビーム
コーティングを施したシールドだ」
「驚くほど接近戦専用なのだな。これでは長距離砲火に対応できないではない
か」
「だから、こっちの機体があるのさ」
 ディックは隣に佇む機体を指さす。
「こっちはバビといって、徹底的に火力を強化した機体だ。あの胸部にあるの
がバビの主砲ともいえるアルドール複相ビーム砲、高出力で威力が高い。片翼
の上部には機関砲とミサイルランチャーがある」
「翼に武装? まさか、あの機体、可変型か?」
「そう、バビは爆撃戦闘機としての戦うことも出来る機体なんだ」
 可変モビルスーツというのは、この世界においてもかつてアスラン・ザラが
愛機としたイージスや、現在ハイネ・ヴェステンフルスが乗っているセイバー
など先例はある。だが、量産機で可変型というのは、恐らくこのバビがはじめ
てだろう。
「この二体、もう動かせるのか?」
「グフもバビもほぼ完成してるが、エネルギーチャージが中途半端だから、戦
闘は出来な……」
 言いかけてディックは口を噤んだ。突然、ロッシェが手で制止をかけたから
だ。
「どうした、ロッシェ?」
 ハワードが不審そうに尋ねるが、ロッシェは小声で声を潜めるように言うと、
護身用に持っている拳銃を抜きはなった。
 バビの、コクピットに向かって。
「そこにいるのは誰だ」

 気付かれた。
 劾はバビのコクピットの中で、外にいるザフトの赤服を着た男に拳銃を向け
られ、自身の存在がばれたことを悟った。気配は消していたつもりだったが、
なかなかに敏感な男らしい。
「ザフトにも出来る奴はいるな」
 無論、赤服を着て居るぐらいだからエースパイロットなのだろうが、劾はま
だ焦っていなかった。ばれたとはいえ、この場を切り抜ける方法はいくらであ
る。拳銃程度ではモビルスーツのコクピットを撃ち抜くことなど不可能だ。
 だが、だからといってこのモビルスーツで下にいる赤服や、ザフトの技術者
を殺すわけにはいかなかった。無闇に血を流すのは、劾の好むところではない。
「仕方ない、一暴れして、その隙に逃げるか」
 劾は、そう呟くとバビを起動させた。

「ロッシェ、お前がグフに乗ってバビを止めろ!」
 突然の事態に、多少動揺しつつもハワードが叫んだ。
「私があの機体に?」
「そうだ、拳銃程度ではどうにもならんだろう」
 見ると、音を立ててバビが起動していく。まさか、バビを奪取するつもりな
のか? 以前、ロッシェがこの世界に来る前にもザフトの新型機が盗まれると
いう事件があったようだが……
「選んでいる余裕はなさそうだな!」
 ロッシェは覚悟を決めると、グフに向かって駆けだした。彼は普段こそレオ
スを愛機にしているが、この世界のモビルスーツに乗ったことはある。彼が暇
を持て余していたときに、暇つぶし程度でいくつか乗ってみたのだが、『あま
りに単純すぎて』飽きてしまったことがある。それほどまでに、ロッシェにと
ってこの世界のモビルスーツは弱い存在だった。
 だが、このグフは曲がりなりにもハワードが作った機体だ。
「それなりに強いことを期待しよう!」
 コクピットに乗り込み、機体を起動させる。コクピットこそこの世界のもの
と同一だが、ロッシェは自身の高い実力から相手に引けを取るとは思っていな
かった。

 起動したバビとグフ、二体のザフト軍新型モビルスーツが激突した。

 劾は相手がモビルスーツで対抗してくる可能性を十分に考慮していたが、不
用意に攻撃をすればパイロットを殺してしまう可能性があるため、慎重になっ
ていた。
「この機体、かなり動きが良い。空中戦用なのに、安定したバランスを持って
いる」
 劾はエネルギー残量を見て舌打ちする。少ないとは言わないが、満杯まで入
っていないのだ。胸部のビーム砲などは使わないほうが良いだろう。
「ならば、ガンランチャーで威嚇を」
 ミサイルランチャーなどの爆発物は使えない。あまり騒ぎを大きくするわけ
にはいかず、下の技術者たちも巻き込んでしまう。
「なにっ!?」
 グフが先手を取った。シールドを片手にバビへと突っ込んでくる。
「くそっ」
 劾は機体を急上昇させ、この突撃を避けた。人間には広いこの格納庫も、モ
ビルスーツにとってはそれほどでもない。限定空間での空中戦に、劾は神経を
集中させる。
「今のを避けたか。反応のいい奴だ」
 一方のロッシェは、先制攻撃が外れたことを意外に思いながらも、空中に飛
んだ敵に向かってビームガンを斉射した。狙うは胸部、最初の突撃もそうだが、
ロッシェは最大の驚異であるビーム砲を潰すことを第一に考えていた。あれを
使われては、ハワードたちを守らねばならない自分は不利だ。

「ビームを避けた。はじめて乗る機体であそこまで動けるものなのか」
 ロッシェは相手の適応能力の高さに感心しながらも、早期決着を付けるため、
ビームソードを抜き放ち、バビに迫った。
「多少、壊れても私のせいではない」
 ビームソードを振り上げ、グフはバビへと斬りかかった。しかし、バビは驚
異的な動きでこれを避けた。
「何っ!」
 ロッシェの顔色が変わった。彼は今までレオスを駆り、ほぼ一撃の下に敵を
倒してきた。彼はこの世界でまだ、『苦戦』したことがないのだ。いくら機体
が違うからとはいえ、これには彼のプライドが刺激された。
「面白い、少しは出来る奴のようだな」
 イザークほどではないにしろ、ロッシェも昔は気の強いほうであり、プライ
ドは高い。ロッシェは不敵に笑うと、目の前の敵を倒すために機体を飛ばした。
「私の前に現れたことを後悔させてやろう!」
 グフの激しい攻撃にバビはひたすら回避行動を取っていた。劾は相手が予想
外に強かったことに焦りを憶えていた。はじめて乗った機体ではあるが、並の
相手に後れを取る自分ではない。
「エースか……」
 武装に制約を付けたままで勝てるのか?
 いつの間にか、劾の思考もまたロッシェと同じく、勝ち負けへと変換されて
いた。ただでさえ、限定された空間では接近戦のグフが有利なのだ。ミサイル
類の使用を封印している自分では、分が悪い。
「何か接近専用の武器があれば……」
 バビにはそのような装備はないため、劾はモニター越しに辺りを見回した。
「あれだっ!」
 劾は、隅に積まれたモビルスーツのパーツ類に目を向け、そこに向かってバ
ビを動かした。
「逃げるのか?」
 バビのそうした動きに、ロッシェはグフで後を追う。しかし、加速力ならば
バビの方が上だった。
 やがてバビはモビルスーツのパーツが山積みとなった場所に着地した。
「そこだ!」
 すかさずロッシェはグフのビームソードで斬りかかった。
 しかし、バビはパーツ類の中からジンが使う重斬刀を右手に掴み取ると、向
かい来るグフに向かって、同じく斬りかかった。

 ビームの刃と、実体剣の刃が激しくぶつかり合った。

「こいつ、なんて奴だ!」
 ロッシェは相手の機転の良さに驚愕の声を上げ、
「強い。ザフトにこんな奴がいたのか」
 劾は相手の強さに素直に驚いていた。自分と互角に戦うものなど、数えるほ
どしかいないのだ。
 グフとバビによる剣戟は、長続きしなかった。技量はほぼ互角に近かったが、
重斬刀がビームソードを受けきれなくなりつつあったのだ。
 やがてビームの熱量を前に、重斬刀が脆く崩れようとする。

「チッ!」
 劾は使い物にならなくなった重斬刀に固執せず、牽制のためにそれをグフに
向かって投げつけた。
 ロッシェはそれをグフのビームソードで払いの受けるが、
「しまっ――」
 バビの胸部からアルドール複相ビーム砲が発射された。劾は技術者たちから
も十分な距離があるこの場所ならばと、使用を踏み切ったのだ。
 咄嗟のことにロッシェは対ビームシールドを前面にかざすが、さすがのシー
ルドも高出力のビーム砲の前に吹き飛ばされた。
「やったか?」
 劾は今の一発で、バビのエネルギーをほとんど使い切ってしまったことに気
付いた。だが、今の一撃で倒せたなら、すぐに脱出を……
「――っ!!」
 違う、倒せていない。シールドを吹き飛ばされたグフは、両腕を振り上げた
格好で、まだ動いている。そして、その両腕から細長い鞭状のものが飛び出し
てきた。
「ぐぁっ!」
 鞭全体に発生する高電圧パルスがバビの機体を揺らす。
 これまでか? 劾はそう思ったが、次の攻撃が来ない。

「くそっ、エネルギー切れだと?」
 ロッシェはモニターを叩いて叫んだ。敵を後一歩まで追いつめながら、バビ
に遅れる形でグフもエネルギーを使い果たしつつあったのだ。これでは満足に
動くことすら出来ない。
「――! 逃げるか」
 見ればバビのコクピットから男が脱出していた。ロッシェも慌てて、グフの
コクピットを開け、外に飛び出す。
「逃がすものか!」
 地面に降り立ち、ロッシェは銃を斉射した。しかし、男は驚異的な反応速度
でこれを避け、振り向き様に何かを投げて寄こした。
 爆弾か!?
 ロッシェは思わず後ろに飛ぶが、地面に落下したそれは、目映い光りを放っ
て炸裂した。
「閃光弾か!」
 目を庇うロッシェだが、目が一瞬でも眩んだのは事実であり、それは劾が逃
げ出すに十分な時間だった。
 ロッシェが気付いたときには、劾は出口を抜け駆けだしていた。
「逃げられたか……くそっ」
 ロッシェは悔しそうに呟いた。そこに、ハワードとディックが駆けてきた。
「ロッシェ、大丈夫か?」
「あぁ……凄い奴だった。再三、私の攻撃を避けられた」
 ロッシェは男が駆け去った出口の方を見つめている。あの強さ、本当にファ
ントムペインの手の者なのだろうか。
「サーペントテール」
 以前、ミーアから聞いたことがある。この世界にはその名をした凄腕の傭兵
部隊が居るという。
「すぐにメサイアの全出入り口を封鎖しろ。機密が漏れるぞ」
 言いながら、ロッシェはあの男が見事逃げおおせるだろうと確信していた。

「劾、大丈夫?」
 ロレッタと合流し、劾は脱出するためメサイア内を駆けていた。まだ警報は
なっていない。
「俺としたことが、つい熱くなってしまった。さっさと帰って、頭を冷やさな
いとな」
「イライジャが外で待機してくれてるわ。すぐに脱出しましょう」

 この時、ロッシェにレオスが合ったのならば、彼はそれに乗り込んで追跡を
開始しただろう。そうすれば、劾たちは生涯で最大の敵と相見えることとなっ
たであろう。劾の愛機であるブルーフレームと、ロッシェのレオスとが、激し
い戦闘を繰り広げたはずだ。
 だが、ロッシェはメサイアに来る際にはシャトルを使っており、レオスはプ
ラントへと残してきた。結果として劾は、偶然に救われた形となり、ロッシェ
はこの世界で最も強い男と本気で戦う機会を逃したのであった。