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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第30話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:09:59

 ガルナハン基地を陥落、攻略の任務を果たしたミネルバは、マハムール基地
の部隊に別れを告げ、一路、ディオキアへと移動していた。
 黒海に面したディオキアの町にはザフト軍の基地があり、ミネルバは別名あ
るまでそこで待機と言うことになるだろう。
「作戦は成功したんだし、休暇ぐらいは貰えるでしょうね」
 クルーにそう説明したタリアの声に、一同は歓声を上げる。連日連戦とは言
わないまでも、このところは戦いばかりだったのだ。海辺の町で休暇が貰える
ともなれば、否が応でも期待は高まる。
 説明後、タリアはアスランとハイネ、そしてレイを呼び、その場に残るよう
に言った。
「実は国防委員会からある伝達があってね。あなた達だけには伝えておいたほ
うが良いと思って」
 タリアの話では、丁度ミネルバがディオキアに着くか、着かないかという頃
に、ラクス・クラインが慰問のためにザフト軍ディオキア基地に訪れるという
のだ。
「ラクス、ですか……」
 アスランはプラントで出会った少女の顔を思い出す。どこからどう見てもラ
クス、しかし、その中身はミーア・キャンベルというごく普通の少女だった。
「良かったな、アスラン。久しぶりに婚約者に会えるじゃないか」
「まあ、な」
 ハイネに肩を叩かれるが、アスランとしては複雑だった。本物のラクスにし
てみても、既にアスランとの婚約は解消され、関係は切れている。それを思う
と、アスランとミーアの関係など、細く千切れやすいものなのではないか。
「それと、これはまだ極秘時効なのだけど、フェイスの二人と、そしてレイに
は伝えるべきと判断して、伝えるわ」
 その言葉に、レイが眉を顰めた。ラクス・クラインのことは、婚約者のアス
ランならともかく、自分やハイネには大して関係あることとは思えない。とな
ると、これから話すことが関係してくるのか……?
「ラクス・クラインと一緒に、デュランダル議長も地球に来られるそうよ。地
上視察でね」
「ギルが?」
 レイは思いがけないことに、自分でも意識せずに顔をほころばせた。プラン
ト最高評議会議長であるギルバート・デュランダルは、レイの後見人であり、
養父のようなものだった。レイは、彼の親友の被保護者で、その親友亡き後、
デュランダルが引き取ったのだと言われている。もっとも、この件は非公式で
あり、あまり公にはされていない。レイもデュランダルも、この話題に言及す
ることを避けていた。
「ラクス・クラインも、もちろんだけど、議長も来ることを忘れないで。何か
あったときは、あなた達にも色々頼むことになると思うから」
「まさか、テロの危険性が?」
 ハイネが、自分がこの場に残された理由を考え、緊張の面持ちを作る。ファ
ントムペインが負け続きである状況を、テロリズムによって解消しようと行動
を起こす可能性は大いにある。
 だが、タリアは静かに首を振る。
「そういうわけじゃないけど、ファントムペインの母体であるブルーコスモス
はその手のことが得意でしょう? 警戒するに越したことはないわ」

 それは確かに事実だったので、三人が納得して同意し、解散となった。
 アスランは士官室に戻る途中、今日知り得た情報をどう扱うか、考えはじめ
ていた。
「ミーアはともかくとして、議長か……」
 これを上手く利用しない手はない。だが、どうする? 極秘に来るというこ
とは、そもそも会う機会があるとも限らない。彼の被保護者であるレイならば、
それもあるだろうが……
「後は、イザークたちと連絡を取る機会が得られればいいが」
 宇宙のことも気になるところだ。彼らに任せきりだが、ウルカヌスの方はど
うなっているのか。
 いずれにせよ、全てはディオキアに着いてからだろう。休暇を貰えると言う
し、ある程度、行動の自由は約束されているはずだ。
「よぅ、アスラン!」
 その時、士官室へと戻るアスランにハイネが声を掛けてきた。
「ハ、ハイネか」
 少なからず驚き、アスランは応える。
 今の、聞かれただろうか? だが、口に出していたとは言え、それほど深い
意味がある言葉ではなかったはずだ。
「アスラン、お前ディオキアに着いたらどうするんだ?」
 しかし、ハイネは聞いていたのか、聞いていなかったのか、アスランにこう
質問してきた。
「どうするって、何が?」
「休暇だよ、折角の休暇、お前は何をするのかってことさ」
「……そう言うハイネは?」
「まだ決めてないから、お前はどうするのか聞いてるじゃないか」
 気さくに話しかけてくるハイネに、アスランは心の中で安堵しながら、苦笑
しつつ答える。
「俺だってまだ決めてないさ。ラクスが来るっていうし、彼女とも会うことに
なるんだろうが……」
 その時、俺は軍人として彼女に会うのか? それもと、私人としてだろうか。
「まあ、着いてから考えるさ」
 アスランはそう言って、ハイネと別れた。イザークたちと連絡を取るにも、
手段も方法もまだ考えていない。全てはこれからだ。
 ハイネは、そんなアスランの背をジッと見つめている。先ほどアスランに話
しかけた時に浮かべていた気さくな笑顔は消え、彼には珍しい鋭い視線だった。
「決めてない、か。上手い言葉だな」
 胡散臭げにハイネは呟き、遠くに見えるアスランの背中に背を向け、その場
を後にした。

             第30話「初陣」

 ラクス・クラインこと、ミーア・キャンベルが、ロッシェ・ナトゥーノと共
に地球へと出発したのは、移動要塞メサイアで起こった小規模すぎる戦闘から
二日後のことだった。本来なら、デュランダルも彼らと同じシャトルに同情す
る予定だったのだが、メサイアの一件を処理するために、出発が遅れ遅れるこ
ととなった。
 二人の乗るシャトルはザフト軍の護衛艦六隻によって守られている。地球ま
での航路はザフト軍が確保したものを使用しているが、それでも危険がないと
は言い切れない。護衛艦からはモビルスーツも出撃しており、もしもの事態に
備えている。これは、プラントにとってラクス・クラインがどれほど重要な人
物が如実に示しているものだが、重要とされている人物は複雑な心境を抱えて
いた。
「ラクス様は大切なお方ですから、か」
 出発前、物々しい護衛の規模に驚いていたミーアに、護衛艦隊の指揮官を務
めるという男が言った台詞である。当然のことであるが、指揮官の男はラクス
が偽物であることは知らない。
「私はラクス……ラクス・クライン」
「どうした、ミーア?」
「ん、なんでもない。なんでもないの」
 隣に座るロッシェが、不意に呟いたミーアを訝しげ見てきたが、ミーアは笑
って答えた。
 ロッシェには、その笑顔が作り物のように思えた。
「ねぇ、ロッシェはこうして私のために一緒に来てくれるわけだけど、本当に
それで良かったの?」
 不必要に、『私のため』という部分を強調したかもしれない。
「何を言ってるんだ。君の身にもしものことがあったら……」
「でも、ロッシェは元いた世界に帰る方法を探したり、忙しいんじゃないの?」
「それは別の人間に任せてあるから大丈夫さ」
 本当のところは、人手が足りているわけではない。元の世界に帰る方法もそ
うだが、この世界に来ているであろうウルカヌスの所在も探せねばならない。
(アイツがどちらを優先的に探すかだが……)
 別次元の世界に帰る方法と、宇宙のどこかにあるであろう衛星の捜索。一人
ではとても手が足りない。
「まあ、仮に元の世界に帰る方法が見つかったとしても、しばらくはこの世界
にいるだろうな」
「どうして?」
「最期まで見届けたい。この世界の行く末という奴を……」
 自分は、関わってしまったから。この世界と、そしてミーア・キャンベルと
いう少女に。
 深く、深く……

 だが、ロッシェが地球へ向けて旅立つとほぼ同時期に、この宇宙で小さいな
がらも、後の歴史に大きな影響を与える事件が発生した。
 それはロッシェのあずかり知らぬ場所で、確実に起こっていた。

 ウルカヌスではある協議が為されていた。これまでの経過をアスラン・ザラ
にどう報告するべきか? というものである。予定では、ラクス・クラインの
地球慰問と共に地上に降りるイザークが連絡を取るはずだったのだが、彼が地
球に行かなくなったという事実が事態を複雑化させていた。
「誰かしら地球に送り込まねばなるまい」
 サトーはそう判断したが、この一件に関してイザークが特に話題に上げるこ
とを嫌っていたこともあり、人選は彼が決めなくてはならなかった。隠密行動
を必要とされる重要な任務であり、多人数ではなく少人数が望ましい。
 メンバーのリストから、サトーが慎重に人選をしているときに、その事件が
起こった。

「補給艦がザフト軍に見つかった?」
 報告を受けたのは、偶然にもイザークとディアッカがウルカヌスに足を運ん
でいるときであった。
「あぁ、ローラシア級が一隻、追跡しているらしい」
 ウルカヌスはモビルドール製造工場としては、これでもかというぐらいに設
備が充実しており、優れていたが、それだけでは組織を動かすことなど出来は
しない。補給には食料品・衣料品・医薬品など生活には欠かせないものが数多
く含まれており、また、常にザフトの警戒網に気をつけねばならないため、一
度に運び込まれる数は少ない。ということは、備蓄量もまた少ないため、補給
が滞ることは彼らにとって死活問題なのだ。
「既に護衛のモビルスーツが2機ほど向かっているが……振り切れるかどうか」
 補給艦はそれなりに足の速いものを使っているが、それでもモビルスーツに
は敵わない。追跡しているローラシア級が、撃沈もやむなしと判断すれば、そ
れまでだ。
 しかし、だからといって多大な増援を派遣すれば激戦となり、それこそウル
カヌスの存在がザフトに露見してしまう。ウルカヌスの核融合炉は未だ修復で
きて居らず、移動することが出来ないのだ。
「だが、見殺しにも出来まい……」
 サトーは、自らモビルスーツに乗り込み補給艦を救援に向かうと宣言したが、
意外なことにイザークがそれを却下した。
「お前らのジンでは、モビルスーツには勝てても戦艦は落とせまい」
 この指摘は正しい。サトーらが使うジン・ハイマニューバ2型は格闘戦に優れ
たモビルスーツでり、火力が低い。特に、対艦武器が一切無いのは致命的で、
ローラシア級が持ちこたえる間に援軍を呼ばれる可能性は高かった。
「では、捨てておけと言うのか!?」
 仲間に大して、強い感情を持つサトーは、イザークを批難したが、イザーク
はそうではないと首を振った。
「敵はローラシア級一隻なんだな?」
「それと、艦載機のモビルスーツが何機かいると思うが」
「なるほどな……」
 イザークは、ニヤリと笑うとディアッカの方へ振り向いた。成り行きを見て
いたディアッカだったが、イザークの浮かべる笑みに嫌な予感を憶えた。
「ディアッカ、そろそろ俺達も初陣といかないか?」
「イザーク、お前まさか……」
「メリクリウスとヴァイエイトの出撃準備をさせる」

 ザフト軍所属のローラシア級戦艦が、その不審船を見つけたのは全くの偶然
であった。警戒任務中に、レーダーの端に映る艦影をキャッチしたのである。
 それは旧型の高速船で、通常航路からどんどん離れた位置を向かっていた。
 何か事故でも起こしたのか? それとも、宇宙海賊の類か?
 不審船に大して検問を行うことも、この警備任務の一環であり、艦長は部下
に追跡を命じた。不審船は余り速度を出していなかったが、通常航路か大きく
外れた宙域を進み、その進路は明らかに不自然だった。
 追跡をはじめて数十分が過ぎ、相手に通信が届く距離まで近づいたとき、艦
長は停戦命令を発信した。すると、どうしたことか、相手は追跡の存在やっと
気づき、急に速度を上げて逃亡を開始したのだ。
「やはり、海賊の類だったか」
 もしくは、密輸船ということもあり得る。どちらにしろ、何かしらの悪事に
加担していることは間違いない。艦長は、停戦しなければ攻撃もやむなしとの
命令を発信したが、それでも敵は止まらず、むしろ加速を続けていく。
「艦長、旧型とはいえ相手は高速艦です。このままですと、振り切られるおそ
れもあります」
 そう、航宙士が意見すると、艦長も決断を迫られた。現在、不審船とローラ
シア級戦艦には戦艦の武装射程外ほどの距離が開いており、艦砲射撃による破
壊は不可能である。となれば……
「よし、モビルスーツ隊各機、発進せよ」
 この艦に搭載されている艦載機はそれほど多くはない。リーダー機であるザ
クウォーリアーが一機と、その部下であるゲイツRが二機の、僅か三機だった。
しかし、パイロットの腕はそれほど悪くなく、リーダー機に乗る男はエースと
は言えないまでも、前大戦を生き抜いた歴戦の戦士であった。
 出来うる限り生け捕りが望ましい、不可能な場合は撃沈も可とする。
 そのように命令を受けて、ローラシア級からモビルスーツが出撃した。この
時、リーダー機であるザクウォーリアーは、装備として砲戦使用のガナーを選
択している。これは大口径の高出力ビーム砲による威嚇で、敵の逃亡しようと
する意思を喪失させようとした一種の心理的効果を狙った選択であった。
 出撃した三機は、可能な限りの速度で不審船へと迫ったが、そこへ補給艦の
救援へと駆けつけたジンと遭遇したのだ。
「モビルスーツが救援に駆けつけた?」
 艦長は、機体照合を急がせ、そのモビルスーツが先のユニウスセブン落下未
遂事件において、テロリストが使用していたものとイッチしたとの報告を受け
驚いた。
「そうか、あれはテロリスト共の船だったのか」
 この時、艦長はザフト軍本部への報告を、故意に怠った。彼は前線指揮官を
望ながらも、警備任務に回されたことに強い不満を持っており、功績の一つで
もたてて、昇進したいと考えていたのだ。ここでもし、彼の艦がテロリストを
捕縛ないし、アジトを突き止めるなどすれば、軍部もかなりの評価を付けるは
ずだ。そうすれば昇進は間違いない。
「なんとしても不審船を捕獲しろ!」
 こうした一個人の権力欲から、ザフト軍はウルカヌスに潜むテロリストを発
見する好機を逃していた。艦長のこうした行動は、無論批難されることだが、
後のことを考えれば、それだけでは済まないことでもあった。

「先にモビルスーツを排除するぞ」
 モビルスーツ隊の隊長を務める男は、接近戦使用にカスタマイズされたジン
を相手に、ゲイツRと共に長距離からの攻撃を開始した。わざわざ接近戦専用の
機体に乗るぐらいである。相手は接近戦によほどの自信があるのだろう。相手
の得意とするもので戦う必要など何処にもない。
 ザクのオルトロスや、ゲイツRのレールガンが発射され、テロリストのジンを
追いつめていく。ジンは不審船を守りながら、ビームガンで応戦を試みるが、
積極的に攻撃を行えないこともあって苦戦を強いられていた。なんとか、不審
船だけでも逃がそうと、努力はしているが思うようにいかないのである。
 だが、そうした戦闘を十数分続けたとき、突如、二機のジンがザクとゲイツR
に突進をかけてきた。いきなりのことに、ザクたちの行動が乱れ、その隙をつ
いて不審船が離脱を図ったのだ。攻撃を最大の防御とし、モビルスーツ戦闘に
釘付けにすることで、船を逃がそうと考えたのである。
 その意図を悟ったザクウォーリアーに乗る隊長は、敵モビルスーツを撃破し、
すぐにでも不審船の後を追おうとしたが、二機のジンはなかなかの強さを持っ
ており、容易に倒すことが出来ない。それでもなんとか、二機のゲイツRのう
ち一機を追撃に向かわせることに成功し、自らは残ったゲイツRとともに敵モビ
ルスーツの排除に専念することとした。
 激しい攻防が続いたが、接近戦を避け、射撃戦を展開するザクとゲイツRの連
携に、次第にジンは追いつめられていく。そして、ジンのビームガンのエネル
ギーが底を尽き、二機は岩塊群へと緊急退避をした。
「逃がすな、岩塊に釘付けにしろ!」
 ジンが機体を潜めた岩塊に、ゲイツRのレールガンが降り注ぐ。岩を削り、彫
り込むような攻撃にジンは身動きが取れないでいる。
「岩塊ごと吹き飛ばしてやる」
 ザクウォーリアーはオルトロスの標準を岩塊に合わせると、一発、高エネル
ギービーム砲を撃ちはなった。岩塊へと直撃したそれは、岩塊を粉々に打ち砕
きはしたが、ジンはまだ生きている。
 ザクは即座に二発目の、トドメとなる一撃を放とうとした。
 だが……
「ぐぁぁぁぁっ!?」
 瞬間、どこからともなく降り注いだ一条の閃光が、ゲイツRを貫いた。
「ビーム攻撃!? どこからだ」
 ザクに乗るパイロットは慌ててレーダーを確認するが、そこにはジン以外の
機体は映っていない。
「……そこか!」
 ザクから見て、前方斜め上の位置に反応があった。ザクは第二波を警戒して
いたこともあり、即座に攻撃を放とうとするが、
「なっ!」
 そこにいたのは、先ほど不審船を追うようにと先行させたはずのゲイツRのも
う一機であった。一撃でやられたのか、コクピットに空いた穴を除けば、目だ
った外部損傷は見受けられない。
 だが、コクピットを貫かれた以上、パイロットは……
「こ、これは……ハッ!」
 そのゲイツRの後ろから、二体のモビルスーツが現れた。現れた、という表現
になったのは、その二体がレーダーには映らず、光学モニターで、やっと認識
することが出来たからである。

「見たこともない機体だ……ステルスなのか!」
 レーダーに全く映らない、ステルス機。まさか、テロリストにこれだけの機
体があろうとは。レーダーに映らないと言うことは、射撃・砲撃の標準すらま
まならないということなのだ。
「しかし、だからといって!」
 ザクは光学モニターを謎のモビルスーツに固定する。その二機は、黒と白の
対照的なカラーをしており、それぞれ特異な形の装備をしている。明らかにそ
れまでのザフト製とは違う機体だ。
 そして、ザクのパイロットは勇敢な、あるいは愚劣な行動を取った。謎のモ
ビルスーツ二機に対し、戦闘を仕掛けたのである。既に部下であるゲイツRを
二機失い、その怒りの矛先を、行った相手に大して向けたのだ。
 レーダー標準が使えないといっても、光学認識は可能なのだから、ロックオ
ン自体は出来る。そう判断したザクは、オルトロスを二機に向けると、その高
出力ビームを発射した。
「避けないのか!?」
 発射はしたが、恐らく何らかの回避行動を取ると思っていたザクのパイロッ
トだが、あろうことか二体のモビルスーツは避けようともせず、白い機体に至
ってはオルトロスの射線に自ら進み出たのだ。
 死ぬ気か? ザクのパイロットは相手の不可解な行動に困惑を憶えたが、す
ぐにそれを撤回した。なんと、白い機体の周囲に円盤のようなものが出現した
と思ったら、それがオルトロスを弾き飛ばしたのだ。
「馬鹿な、バリアーとでもいうのか」
 それは、連合が開発した防御システム、陽電子リフレクターをも超える装備
だった。メリクリウスのプラナイト・ディフェンサーは、完全にザクの砲撃を
遮断していた。
「くそぉぉぉぉぉっ!」
 ザクはオルトロスの連射を行うが、白い機体はそれを弾き飛ばしながらザク
に急接近してくる。
「ま、まずい」
 接近戦、ザクのパイロットは慌てて接近専用のトマホークを取り出そうとす
るが、相手の方が何倍も早かった。気がついたときには――、ザクは腰から真
っ二つに斬り裂かれていた。

「全機撃墜……フフ、フハハハッ!」
 メリクリウスのコクピット内で、イザークは歓喜の笑いを上げていた。
 強い、強すぎる。相手の砲撃を弾き飛ばしながら斬りかかるなど、早々でき
ることではない。ザフト軍に所属し、ザクの性能を知るからこそ、イザークは
自分がどれだけ凄いことをやってのけたのかを理解していた。理解した上で、
彼はメリクリウスの力に、自分の強さに酔っているのだ。
「この力だ! この力さえあれば!」

 ――今度は、お前の得意なモビルスーツで勝負したいものだ。

 いいさ、いつでも勝負してくれる。俺達が覇権を握った暁には、貴様を打ち
倒し、ラクスをお前の手から奪ってみせる。

 イザークは、歪んだ妄想と現実の間を行き来しながら、唯唯笑っていた。メ
リクリウスのゼロシステムが、彼の強烈な感情を増幅しているのだ。
 ディアッカは、そんな友人の変わりように戸惑いを憶えていたが、そのイザ
ークからの通信が彼をさらに驚愕させた。
『ディアッカ、次はお前の番だ。ヴァイエイトの砲撃で、ローラシア級を消し
飛ばしてしまえ』
「なっ……おい、イザーク!」
『何を躊躇う? お前のヴァイエイトの射程距離なら、ここからでもローラシ
ア級を撃つことは可能なはずだ』
「そう言う問題じゃ……」
 モビルスーツは全滅させたが、未だ母艦は健在である。これが増援を呼ぶな
り、事態をザフト軍本部に報告するなりされたら確かにディアッカたちとして
は都合が悪い。ここで叩いておく必要がある。
「だが、こいつらザフト軍なんだぞ」
 それでも、ディアッカにはザフト軍を、同胞を撃つと言うことに抵抗があっ
た。サトーらのようにザフト軍を見限って脱走した兵ならばいざしれず、ディ
アッカは未だに正規軍に所属しているのだ。そして、それは、イザークだって
同じのはずだ。
『馬鹿馬鹿しい、いずれ俺達が立ったとき、ザフトとも戦うことになるのだぞ?
 それが撃てないなどとは、とんだ腰抜けだな』
 ゼロシステムの影響なのか、イザークの口調は嫌に挑戦的で、高圧的だった。
『大体、貴様、前大戦の時にはザフトを裏切って戦っていたではないか。あの
時出来て、今はもう出来ないとでも言うつもりか?』
「くっ……」
 それを指摘されると、ディアッカとしては反論が出来ない。前大戦時、彼が
ザフトを裏切り、三隻同盟に加担していたのは事実だ。イザークと戦ったこと
さえある。
「ちくしょう……」
 ディアッカは歯を食いしばると、ビーム砲の標準を遠くに見えるローラシア
級に向けた。ローラシア級は前進こそ続けているが、目だった動きをしておら
ず、おそらくまだ事態が掴めていないのだろう。
「――っ!」
 脳裏に鮮明な映像が流れてくる。ゼロシステムが、如何にして敵を倒すかと
いう明確なる情報を叩き込んでくるのだ。ディアッカは激しく首を振るが、あ
らがえそうにない。
 それから逃れようと、ディアッカは遂にヴァイエイトのダブルビーム砲を発
射した。

 ローラシア級戦艦の艦橋は、突然の事態に状況が飲み込めていなかった。モ
ビルスーツを先行させ、不審船を追っていた彼らだが、そのモビルスーツが一
瞬にして全滅したのだ。
「何が、何が起こったのだ」
 艦長は反応の消えたモビルスーツに愕然としたが、モビルスーツが何にやら
れたのかまでは判らなかった。ジンにやられたとは思えない。では、誰に?
 ローラシア級のセンサーやレーダーを持ってしても、メリクリウスとヴァイ
エイトの存在を掴めなかった。索敵担当の士官は不審に思いながら、何も映ら
ないレーダーを見ている。

 「艦長、モビルスーツがやられたとあっては、これ以上追跡を続けるのは不可
能です。増援を呼ぶか、撤退を考える必要があります」
 副官の言葉は、あくまで控えめであった。呼ぶのは増援ではなく、救援だ。
こちらのモビルスーツ戦力を倒した時点で、テロリストたちは証拠隠滅のため
に母艦であるこの艦を狙ってくるはずだ。幸い、敵と本艦の間にはまだ距離が
ある。今から反転、急速離脱をすれば逃げ切ることも可能なのではないか?
 副官はそうした意図を込めて助言したのだが、艦長は決断を迷った。ここで
逃げ出せば、結局なんの手柄も立てぬ間々、パイロットに無駄な犠牲を強いた
ことになり、救援を呼べば、手柄は別の者に取られてしまう。
 こうした最後まで自己中心的な考えが、決定的な瞬間を作ってしまった。
「こ、高エネルギー体接近!?」
 索敵担当の士官が、突然大声を上げた。通信士官など他の士官、艦長もその
突拍子もない声に思わず目を向けた。
 レーダーに何も映っていない状況。モビルスーツの姿も、戦艦の艦影すら確
認できない中で、どこから攻撃が来るというのか? だが、索敵士官だけは知
っていた。何もない空間から、突然高エネルギーが発射されたことに。
「馬鹿な、一体どこから――」
 撃ってきた。その言葉を最後まで言う暇もなく、艦長はこの世を去った。正
に一瞬、ヴァイエイトのビーム砲は、ローラシア級を一撃の下に葬り去った。

 残ったのは、虚しさだけだった。
 意気揚々とジンを従え帰還するイザークに着いていきながら、ディアッカの
心持ちは重かった。仕方なかったとはいえ、本来ならば味方であるべき存在を
撃ったのだ。戦場で人を殺すことに慣れきっていたディアッカではあったが、
久々に自分は人を殺したんだという実感が沸いてきた。
(あの艦に何人の人間がいた? 乗員には家族もいたはずだし、もしかしたら
俺やイザークの知り合いがいた可能性だったある)
 考えれば考えるだけ、ディアッカは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
彼を愕然とさせたのは、撃った行為を平然と肯定しようとしている自分が居る
ことに気付いたからだ。それはゼロシステムが彼にもたらした影響の一つで、
敵と倒すことは当然であり、その為に邪魔なものは全て排除するという効率的
な考え故だった。
「この機体……本当に大丈夫なのか」
 自分が今乗っている機体は、恐ろしい兵器だ。単純な強さだけではない。乗
る者の人格を変革させ、マシーンのようにしてしまう。そこに、感情や良心な
どといったものは一切含まれない。
 ディアッカは、この機体に乗り続ける自信がなかった。
 例え、乗り続けたとして、この機体が自分に何をもたらしてくれるのか?

 一体、何を――?