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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第34話(1)

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:11:02

 ヨップ・フォン・アラファスは、とてもプライドの高い男だった。
彼はコーディネイターとしての自分が特に優れた存在であると、常日頃から
『自覚』しており、それに見合う結果を数多く打ち立ててきた。
そんな彼にとって、アスラン・ザラとはどのような存在だろうか? 
 ヨップには、その高いプライドと同等に強い野心がある。
「俺はいずれ宇宙を手に入れる男だ」
大言であるが、彼はそれを不可能だと思っていなかった。ウルカヌスに出会ったとき、彼の運命は変わった。
あの未知のテクノロジーに触れたとき、彼は自分の野望を現実の物に出来ると確信したのだ。
そもそも、武闘派の多いサトーらザフト脱走兵で構成された組織をここまで作り上げてきたのはヨップだ。
様々なテロ計画を練り、情報を集め、資材を揃え……。
そういった雑務を全て引き受けていたのが彼であり、謂わば組織の影の支配者であった。
いずれ組織がプラントへのクーデターないし、テロを成功させた暁には、
自分こそ組織の頂点に立つのだとヨップは思っていた。
サトーは所詮武人であり、彼の部下もモビルスーツパイロット以上の存在ではない。ヨップに言わせれば、
彼らには組織を運営する知能と知性が足りないのだ。
ウルカヌスにフレアモーターを取り付け、移動させる計画を立て、実行したのもヨップだ。
これをしなければ、今頃ウルカヌスはザフトによって確保されていたに違いない。
こうした努力を重ねつつ、着々と将来への地盤を固めるヨップだったが、破局は突然訪れた。
 
 そう、サトーがアスラン・ザラを自分たちのリーダーとして迎え入れたのである。
 
 アスラン・ザラのことは当然知っていた。
前大戦、ザフト軍のモビルスーツパイロットとして前線に赴き、数々の武勲打ち立て、
ネビュラ勲章の授与、特務隊への昇進まで上り詰めた男だ。
父親は国防委員長から最高評議会議長になったパトリック・ザラで、その典型的タカ派思想は
サトーたちの中で英雄として神聖化されている。
そうした事情を考えれば、アスラン・ザラをリーダーに据えたことはある程度の理解は出来る。
 ヨップとしても、当初は納得していた。
アスラン・ザラという存在でザフト過激派をより多く引き込み、組織力を増大化できる、
つまり宣伝材料の一つと考えていた。もちろん、リーダーなど仮初めに過ぎない。
 だが、ヨップの予想は大きく外れ、その野望は狂いはじめた。組織へと参加したアスランは
思っていた以上に精力的に活動をはじめ、一緒に参加したイザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマンらと共に
あっという間に組織の実権を握ってしまったのだ。今では、サトーでさえ彼らの意思を第一に考えているほどだ。

 この状況、面白いわけがない。
 
 それは、一種の歪みだった。
 やがては無限の権力と権威を手中に収めんと考えていたヨップの中に、狂気が生まれようとしていた。

       第34話「守りたいもの、守りたい人」

 その出会いは偶然だった。

 シンは、ステラとの出会いについて、それを知る数少ない人物から尋ねられると、必ずこう答えたという。
 シンがあの時、あの高台にいたこと、ステラがあの時、あの高台にきたこと、
それらは全て偶然であり、二人の出会いに、必然性などなかった。
特に運命を感じたわけでもない、自然な感覚。
 ただ、悩むこともある。
 人と人の出会いに、必然性や運命があるのだとすれば、自分とステラの出会いにはどういった意味があったのだろうか?
 出会わなければいけない理由が、あったのだろうか。

「シンは、この町の人?」
 昼下がり、水遊びに興じるステラが、シンに尋ねた。
「いや、違うよ。ここへは、仕事できてるんだ」
 言ってから、シンはその質問の仕方に違和感を感じた。この言い回しだと、
どうやらステラも、この町の住民というわけではなさそうだ。
「ステラも、ここへはお仕事できてるの」
「へぇ、そうなんだ……」
 年下か、良くて自分と同年代であろう少女の口から『仕事』という単語が出てくるのを聞いて、
シンは意外さを禁じ得なかった。
「シンは、何のお仕事をしている人?」
 訊かれて、シンは返答に詰まった。彼の職業は軍人であるが、口に出すのは憚られた。
威圧感や、人によっては嫌悪感を与えかねないからだ。
軍人の中には、自分の職業に誇りを持ち、殊更軍人であることを誇示する者もいるというが、
今のシンはそれをしようと思わなかった。
 シンは、軍人という存在の意味に、疑問を持ち始めていた。
「そうだな……困ってる人を助ける、そんな仕事かな」
「助ける?」
 ステラが不思議そうな顔をする。
「助けるというか……守る、そう、守るんだ。困ってる人や、力のない人を」
 守りたかった。それがシンの本音だ。
「ステラはどんな――」
 仕事をしているの? そう訊こうと思ったシンだったが、ステラの呆然としたような表情に驚いて言葉を止めた。
「守る……どうして、守るの?」
「どうしてって、困ってる人を守りたいって思うのは普通だろう?」
 シンは何故ステラが驚いているのか不思議でならなかったが、ステラの表情は変わらない。
「違う。そんなことはない。自分の身は、自分で守る。それが普通」
「ステラ……?」
「人は手なんて貸してくれない。守ってなんかくれない」
 それはステラがここまで生きてきた中で掴みえた、ある種の真理だった。
彼女にとって、生きることは戦いであり、生き延びるためには、自分で自分を守るしかなかった。
 
 出来ない奴は死んでいく。それがステラの生きてきた世界。
 シンの知らない世界だった。

「そんなことはないと思うけど……」
 最終的には、本人がどうにかすることだというのは、シンにだって理解できる。
だが、自分がこれまで信じてきた信条を、こうもあっさり否定されるのは気持ちの良いものじゃない。
「ステラが、そうだった」
「えっ?」
「ステラは今まで、誰にも手を差し伸べられたことをなかった。守られたことなんて、なかった」
 理解が出来ない。
 ステラ・ルーシェにとって、シン・アスカの考えは、理解することが出来ないことだ。
 どちらが悪いわけでもない、住んできた世界が違うのだ。
 シンが弱い人を守りたいと思って軍人になったのは、シンの理想の結果であり、
ステラが自らを守るために強くなったのは、ステラが生き残るためである。
ステラは戦いを望まない。しかし、周囲は自分に戦いを強いる。
自分や、みんなに良くしてくれるネオも、それだけは他と変わらない。
 守っては、くれない。
「弱い奴は生きていけない。生きるためには強くなる。それしかない」
 シンには、目の前にいる少女が、とても儚げに見えた。
 誰からも守られたことがないという少女、誰からも手を差し伸べられなかったという少女、
彼女はどんな想いで、今日まで生きてきたのだろう?
 自分とは違う、戦争の被害者なのだろうか?
 シンの場合は、戦災にあった場所が中立国のオーブだったから、まだ救いがあった。
プラントへ移民し、そこで生活することで、一時でも戦争とは無縁の場所に行くことが出来た。
 だが、ステラはきっと違ったのだ。
彼女は戦争で何もかも失い、生きてゆくには全て自分で何とかするしかなかった。
「だけど、それでも」
 何かを言いたかった。このままステラ言うことに、納得してはいけないと思った。
「……俺は、人を守りたい」
 ゆっくりと、シンはその言葉を口から出した。
 それは幾度となく、彼の口から発せられた、彼の理想であり、希望。
「俺の力なんて、ホントに大したことない。ちっぽけなものだ。
 でも、俺には力がある。困ってる人や、力のない人、弱い人を守ってあげられる力が」
「全員は救えない」
「それも判ってる。自分の手の届く範囲内、いや、時にはその範囲ですら守れないことだってある」
 偽善だろうといわれても、中途半端だといわれても、守らないよりは、守るほうが良いじゃないか。
「……そうか」
 シンは、自分の中に何かが見えてきたような感じがした。
 
 守ることに、意味などいらないのだ。自分は弱者を守るという行為の中に、
無意識のうちに意味を求め、見返りを求めていた。
 自分が強者であることに溺れ、弱者を見下していた。
 自分は弱者を守る強者であるのだから、弱者は弱者らしくしていてくれないと困ると。
「俺って、最低だな……」
 自分がどれだけのことをしたから、相手にそれだけのことをしてくれと強要する。
 そんな無理の押しつけを自分はしていたのだ。
 ヒーローになりたいと思ったことはない? 何を馬鹿な、
自分は自分をヒーローになるために、弱い者を守る自分に、酔っていただけじゃないか。
 
 人を守るという行為に、見返りや打算があってはならないのだ。

「シン?」
 どこか吹っ切れたような表情のシンに、ステラは困惑顔を作る。
「ステラ、俺は君を守る」
「守る?」
「そう、俺は君を守りたい」
 シンは、ステラというこの少女を、守ってあげたいと感じていた。
誰からも守られたことがないというステラを、せめて自分だけは守りたいと、そう思っていた。
「嘘。そんなこと出来るわけがない」
「確かに、俺はいつまでもこの町にいるわけじゃない。それでも、俺は君を守りたいんだ」
「できっこない」
「出来るさ! やってやれないことはない!」
 根拠など何処にもない。勝手な言い草なのだが、シンは誰か一人でも自分を
守ってくれる人間がいるというのを、ステラに教えたかった。
「……本当に? 本当にステラを守ってくれるの?」
「あぁ、もちろん」
「ずっと遠く、例えば宇宙で、ステラが怖い目にあっても?」
 宇宙という単語が出たとき、シンはステラの仕事に興味を覚えた。一体、どんな仕事をしているのだろう、と。
「そんな時は、何故だか俺も宇宙にいるもんなのさ」
 シンは笑い、釣られるようにステラも笑った。二人とも、この会話に現実味がないことを知っていた。
 しかし、ステラは嬉しかった。ステラに対して、彼女を守るといったのはシンがはじめてなのだ。
ネオ・ロアノークもそうだが、ステラは自分を庇護してくれる人間に弱い。
ネオは優しい上司であり、シンは……

「ステラッ!」
 その声は背後からした。シンと向き合うステラの背後から、駆け足で近づいてくる人物がいた。
「アウル……?」
 聞き覚えのある声に、ステラが振り向いた。それは確かにアウル・ニーダで、まっすぐこちらに駆けてくる。
「知り合い?」
 シンが尋ねる。
「うん、友達」
 少なくとも、ステラはそう思っている。アウルはスティングと同じく同僚だが、
ステラは彼らのことを仲間とも友達とも思っている。
スティングはステラの知らないことを一杯教えてくれるし、アウルにはいじめられることも多いけど、
仲が悪いと感じたことはない。
「ステラ、こんなところにいて! 探したんだぞ」
 嘘ではなかった。アウルはステラの行きそうな場所をしらみつぶしに辺り、
数時間掛けてやっと見つけたのだ。
 それも、高台から、男と仲良く会話する彼女を見下ろす形で。

「早く戻らねーと。スティングの奴も心配してるし……」
 ここでアウルは、『今気付いたかのように』、この事態を黙ってみているシンに話しかけた。
「ごめんねぇ、こいつに絡まれるなんて、アンタも災難だったね。ウザかったでしょ?」
「いや、俺は……」
「すぐ連れて帰るからさ。俺らのことは、さっさと忘れちゃっていーよ」
 そういって、アウルは半ば強引にステラの手首を掴んで引きずっていく。
面倒なことになる前に、この場から退散するつもりなのだ。
「ちょ、ちょっと」
 突然といえば突然のことに、シンは声を上げるが、アウルは無視して階段の方へステラを連れて行く。
 そんなステラが、シンへ振り返った。
「シン、さっきの、さっきのこと、あれ本当?」
 守る、シンは確かにそういった。
 ステラのことを、守ると。
「あぁ、本当だよ。約束だ!」
 シンは言った。言い切った。守れるかどうかも判らない、そんな約束だった。
でも、シンはそれを守ろうと思った。どうやってとか、どうすればとか、
そんなことは関係なしに、その約束を、守ろうと、そう思った。

 シンとステラが別れた頃、アスラン・ザラはミネルバから借り受けた地上車に乗っていた。
メイリンと街へ出た後、ミネルバに戻り、すぐに仕度を調えて出てきたのだが、
到着は夕暮れ丁度になりそうだった。
「あと三十分も走れば、目的の場所に着くか……」
 アスランは、今回どんな人間と会うことになるのかを知らない。
だが、それは別に対した問題じゃない。接触してくるのは相手であり、要は相手がこちらを知っていればいいのだ。
「宇宙は一体どうなっているのか」
 地球に下りてからというもの、宇宙のイザークたちとはほとんど連絡を取っていなかった。
彼らがどれほどまで計画を進めているのか、それによってアスランの地球での行動も変わってくる。
 過度な期待は禁物だが、アスランが地球に降りてから結構な日が過ぎた。
少しは事も動いているのではないかと、そう考えずにはいられなかった。
 ある意味で陽気な気分のアスランが運転する地上車を、一台の車両が追跡をしていた。距離感覚は1.2劼ら1.5辧
 ハイネ・ヴェステンフルスの運転する覆面車両である。
「やはり、アスランは昨日言っていた場所に向かおうとしている。
 走行状態を見る限り、俺の追跡には気付いてないか?」
 アスランの乗っている地上車も軍用のものであり、簡易レーダーやセンサーの類は付いているのだが、
ハイネが乗るのはそれらを一切遮断するステルス車だ。
車間もかなり開いているし、まず追跡に気付かれるはずがなかった。

 やがて、車を止めたアスランは、岩場ばかりの海岸へと降り立った。
足場の悪いそこには、壊れかけの神殿の石柱のようなものがあり、おそらくこれが史跡とやらだろう。
「誰もいないのか……?」
 アスランは、チラリと太陽の方を見た。見るまでもなく、既に太陽は美しい夕日に変わり、
空はあかね色に染まっていた。
「アスラン・ザラですな」
 アスランは声のした方向に振り向いた。いつの間にいたのか、そこに一人の男が立っていた。
「私の名はヨップ・フォン・アラファス。サトー隊長の命を受け、貴方との連絡要員として派遣されてきました」
「アスラン・ザラだ。よろしく」
 言いながら、アスランは辺りを見渡す。
「一人で来たのか?」
「いいえ、一人ではありません。ですが、この場に大勢いても仕方がないので、他の者には周囲の警戒をさせています」
「そうか」
「失礼ですが、よもや尾行などはなされていませんね?」
 アスランは眉を顰めた。ヨップの物言いが不快だったのではない。彼の声に、嫌な感じを覚えたのだ。
 ヨップの容姿は、コーディネイターにしてはそれほど良くはない。
年齢は二十代前半から中盤、茶髪の頭髪に、厚い唇、多少筋肉が付いているが全体的には中肉中背で、
容姿に拘るとされるコーディネイターには珍しいタイプだ。
無論、容姿に関して何か言うほどアスランは差別的ではなかったが、その厚い唇から発せられる声は、特徴的すぎた。
 このような男の口から出る声と言えば、少し低音、低めの声を想像するだろう。
しかし、ヨップの口から発せられるそれは、甲高いものであり、彼自身と合っていない浮いたものだった。
 先に声を掛けられたから、アスランは彼の容姿に対して驚きを憶えたが、これが逆だったら、
彼の浮いた声に衝撃を憶えたかも知れない。大げさな言い方だが、それほど彼の声には違和感があった。
「それで、君は俺にどんな話を?」
 尋ねるアスランに、ヨップは無言で小さな機器を取り出した。アスランは、それが何であるかを知っている。
「随分、慎重だな」
「念には念をです。こちらと違って、貴方は単独で行動されていますから」
 ヨップが取り出したのは盗聴器の検査機であり、盗聴器が発する微弱な電波を感知するのだが、
幸い、アスランからは発見されなかった。
「どうやら大丈夫のようですね。部下からも周囲の異常は連絡されませんし」
「やっと本題か……」
 ヨップは、アスランにウルカヌスの現状を伝え聞かせた。

 アスランのいない間に色々なことが起こっていたようだが、中でもイザークとディアッカが有人機の起動に成功し、
戦闘まで行ったというのがアスランには驚きだった。
「戦闘って、一体どういう事だ?」
「実は我々に物資を補給するために行動していた輸送船がザフトの監視網に引っかかりまして」
 あくまで、イザークの強い意志の下に出撃が敢行されたことを強調しておく。
アスランも、イザークが強く希望したと聞くと、彼らしいなと苦笑した。
「それで? この事が原因であれが発見されるようなことはないんだな?」
「一応、撃破された艦の捜索は行われていますが、痕跡は消しました。発見されることはまず無いでしょう」
「なら良いが……そうだ、あれ自体はどうなってるんだ? まだ、動けないのか?」
 ウルカヌスが動けるかどうかは、アスランにとって重要な問題である。
移動能力があるなら、使えるに越したことはない。
「現在、メリクリウスとヴァイエイトのデータを下に、ビルゴの起動を最優先にしています。
 ですが、あれの場合は最近発見された区画から設計資料が見つかったので、
 機関部の修理もじきできるようになると思います」
「発見された区画? まだ、そんなものがあったのか」
 ウルカヌスは広く、複雑となっている。サトーら少人数では回りきるのも一苦労であり、
中には開かずに放置された扉などもあり、つい最近は別の格納庫が見つかったぐらいだ。
「もっとも、この格納庫はパーツ類の資材置き場となっていて、モビルスーツの類はまだ発見されてません」
 パーツ類を調べれば、組み立ててモビルスーツの一つでも作れるかも知れないが、
研究班や整備班のほとんどはビルゴとウルカヌスの核融合炉復旧に当てており、そんな暇はなかった。
「報告は以上になります。何かご質問は?」
「いや、特にないが……」
「でしたら、こちらから2,3お伺いしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
 ヨップの目つきの変化を、アスランは見逃さなかった。

「我々は現在、あれの復旧作業を急いでいますが、復旧した後、何が行われるのか、それをお教え願いたい」
「それは復旧し終わったときに話す。復旧できてもいないのに、焦ることもないだろう」
「しかし、仲間内ではこの先に不安を覚えるものも多いのです。
 最終的に、アスラン・ザラの目指すところだけでも教えていただきたい」
 仲間内などという表現を使ったが、知りたがっているのはヨップ本人である。
アスランが打ち立てる計画に粗を探し、自分でもっと良い作戦を立ててやろうという魂胆がそこにあった。
「今は戦時下だ。状況というものは刻一刻と変化してるし、それによって俺達の行動も変わる。
 今どうこういえることじゃない」
 なかなか自身の計画の内容を話そうとしないアスランに、ヨップは内心で舌打ちをして、
話をすり替えることにした。
「現在、ディオキアにはラクス・クラインと、デュランダル議長が来ているそうですね」
「……よく知ってるな。前者はともかく、後者は軍のトップシークレットだぞ」
「専門は情報工作なものでしてね」
 ヨップの声に、僅かだが自尊めいたものがこもる。
「そこで考えたのですが、我々の計画をさらに完全なものとするために、人質を取ってはどうでしょうか?」

「人質?」
 アスランは言い慣れぬ単語を口にし、また、ヨップの真意を測り損ねていた。
「そうです。先ほども言いましたが、我々の組織がおった災難は、今後も起こりうることです。
 それに対し、一々武力で対処してはきりがない」
 つまりヨップは、プラントやザフトに対して武力制圧ではなく、人質を使った脅しで屈服させようというのだ。
 そして、ラクス・クラインや議長は、それにもっとも適した存在だった。
「ラクス・クラインは貴方の婚約者ですし、警備も厳重だ。だが、お忍びできている議長ならば……」
 拉致するのも容易いだろう。
 ヨップは自分の立てた計画に自信を持っていたが、対するアスランの視線は冷めていた。
「どうです、この計画は?」
 アスランはその視線を隠そうと目を伏せ、こう尋ねた。
「一つ訊くが、その計画は君が立てたのか? それとも、イザークやディアッカ、サトーが立てたのか?」
「勿論、私個人で立てました」
 とても心外そうにヨップは言った。あの武闘派共に、こんな応用の利いた策略など巡らせるわけがない。
奴らは武力こそ事を動かす唯一の手段と思っている節があるが、そんなことはない。
 テロリズムの基本は相手に有利な状況を作ることであり、人質はもっともポピュラーなものだ。
 しかも、政治家や政治屋といった連中は、戦争で軍人や民間人がどれほど死んでも気にしないのに、
政府関係者が死んだり捕虜になったりすると、顔色を変える。
「答えを、聞きたいか?」
「是非、聞かせていただきたい」
 ヨップは、アスランの変化に気付いていない。

 アスランとヨップが会話をする場所から丁度700メートル離れた崖の上に、ハイネ・ヴェステンフルスがいた。
 彼は、パラボラに似た高性能集音マイクを使ってアスランとヨップの声を拾っているのだが、
距離がギリギリのためなかなか上手くいかない。
「くそっ、もう少し近づければ……」
 だが、それは出来なかった。ヨップの部下と思われる男たちが、半径500メートル周囲を警戒しており、
これ以上ハイネが近づけば発見される恐れもある。
ハイネは拾っている音声を録音機に録音しながら、望遠カメラで二人の写真を撮る。
ディオキア基地の備品管理職員にスパイごっこかと聞かれたが、まさにそれではないか。
「会話をぼかしてやがるな。どこまでも慎重だな」
 アスランとヨップの会話には、いくつかの単語は出てくるが、重要と思えるものは
「あれ」とか「それ」といった言い回しを使っており、ハイネには判断することが出来ない。
 ハイネは注意深く聞いていたが、彼には判らない単語がいくつか出るばかりで、なかなか実態が掴めない。
 しかし、話の方向性が少し変わりつつあった。

「議長を人質に……? こいつ、テロリストか」
 アスランはテロリストと内通していたのか? ハイネは自分の勘が当たっていたことに興奮を憶える。
相手は恐らく過激派の一員か何かだろうが、まさかアスランが裏でそのような男と繋がっていたとは
思いもしなかった。
 しかし、まだ決定的ではない。もう少し、アスランが直接テロに関与しているような発言が出せれば……。

「二度とそのようなことを考えるな!!」
 アスランの怒声が、ヨップの聴覚を直撃した。
その変わりようにヨップは怯むどころか、痺れたように硬直してしまった。
「俺達には大儀があり、志しがある。
 皆で力を合わせ、理想の実現に突き進む中、人質だと? 馬鹿も休み休みってくれ!」
「馬鹿、ですって」
 ワナワナとヨップの身体が震える。
「あぁ、馬鹿だな。そんな姑息で卑怯な手、そこらのテロリストと変わらないじゃないか。
 俺達はテロリストやレジスタンスじゃないんだ。間違ってもそんな手段は使わない!」
 断言するアスランに、ヨップは何か反論しようと口をパクパクとさせるが、上手い言葉が出てこない。
「ウルカヌスとそこに常駐するものはビルゴの起動と、機関部の復旧を最優先に。全てはそれからだ」
「あ、あまり大声を出されないように……どこで、誰が聞き耳を立てているか」
 ヨップの発言は、苦し紛れに持ちだしたものに過ぎなかったが、実は当たっている。
 だが、アスランはそんなヨップを侮蔑したように失笑すると、
「無駄な心配だな。盗聴器は発見されなかったし、周囲は君の部下が警戒してるんだろう?」
 アスランは周囲をさっと見回すと、言葉を続ける。
「それにだ、仮に盗聴されていたとしても、その記録は法的証拠能力を有さない。
 逆にこっちが盗聴した奴を訴えることが出来るぐらいだ」
 ヨップの言葉を斬り捨てると、アスランは話は終わったとばかりに踵を返した。
 
 後に残されたのは、茫然自失状態のヨップだけである。
 そんな彼の下に、部下たちが駆けつけてきた。
「隊長、周囲を警戒した結果、怪しい人物は見受けられませんでした……隊長?どうなれましたか?」
 答えないヨップに対し、部下が困惑気味に問うが、すぐに言葉を継ぐんだ。
 ヨップの顔がみるみる赤面していたからである。
 それも恥ずかしさに赤くなるといった具合ではなく、憤怒に燃えるといった感じだった。
「おい、確か地上協力員がモビルスーツを持っているといったな」
 ヨップたちが地上で行動する際に、色々と手引きしてくれた協力者がいる。
金で動く人間は、宇宙にも地上にも数多くいるのだ。
「持っているとは言っていましたが、それがなにか?」
 部下は不思議そうに尋ねる。優秀だが発想力がない部下たちには、ヨップの考えが判らなかった。