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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第37話(2)

Last-modified: 2007-11-23 (金) 10:17:52

 一方、来る侵攻に備えているのがファントムペインである。
スエズ基地からの報告で、敵がスエズ攻略を企てていることを悟ったファントムペインだったが、
その足並みは容易に揃わなかった。
 ネオ・ロアノーク大佐と、盟主ロード・ジブリールの間で激しい対立が生じていたのだ。

「でしゃばりが勝手なことをしたばかりに、敵の侵攻作戦が早まってしまったではないか!」
 事の理由は先日のテロ事件であり、ネオが独自に部隊を編成し、行わせたことが内部調査により発覚したのだ。
ジブリールは案の定激怒し、ネオに制裁を加えてやるつもりだった。
「殺せたのならまだしも、デュランダルもラクス・クラインも無事で、我らには何一つ良いことがない。
 それもこれも、奴が余計なことをしたからだ」
 結果としてその通りであり、ネオは何も反論が出来なかった。一応、言い分があるにはあるが、
まさか別のテロリストが現れて作戦を邪魔したために出来ませんでしたなどと言えるわけもなかった。
 このままネオが処刑されて終わりだろうかとも思われた事件だったが、彼の功績と人望を考慮し、
またザフトの侵攻に対処するには彼の能力が必要であるという訴えにより、譴責で済まされることとなった。
普通、この程度の処罰で済むのはあり得ないことであり、ネオとしてはザフトに救われた形となった。

「来るなら来るで、返り討ちにすれば良いだけのことだ。皆、何か意見はあるか?」
 あくまで戦う姿勢を崩さないジブリールに、半ば諦めたようにネオが意見を出した。
「敵が三方向から攻めてくる、それが既定事実だというのなら、 何もこちらは黙ってそれを見ている必要はありません。
 スエズ艦隊を結集し、各個撃破を狙うべきでしょう」
 それはザフトが危惧した戦法そのものであったが、ネオとしてはこれ以外に敵の侵攻を阻む手段はないと思っている。
スエズの周囲にはおよそ有利となる地形など存在せず、戦力が敵より少ないスエズ艦隊では迎え撃つなどというこ
とは不可能だ。
ならば、積極的に攻めていくしかない。
「例えば、距離的にも真っ先に地中海へと現れるディオキア艦隊に艦隊の全てを叩き付け、これを壊滅。
 そして、後に現れるジブラルタル艦隊を何処かで待ち伏せ、奇襲を狙うのです」

 ネオが予想外だったのは、ザフトが陸上戦力も投入してきたことである。
海上艦隊だけなら、今言ったような時間差攻撃で対処が可能だが、あまり海上だけに気を取られていると、
陸地から攻め込む敵に基地を落とされてしまう。
「スエズの陸上部隊は基地の堅守を絶対とし、防戦に努めます。敵の攻撃を防ぎつつ、味方艦隊の帰還を待てば…」
「ザフト軍は全滅する、というわけか」
 ネオの作戦を理解する辺り、ジブリールは決して用兵に無知ではない。
だが、その声はネオに対して甚だ非好意的だった。

「いえ、もっと有効な作戦がありますぞ」
 ネオの作戦案を聴き終わった直後、そう発言したものがいる。
 ホアキン隊隊長の、ホアキン中佐だった。近頃、この男はネオへの対立意識を剥き出しにしている。
「ほぅ、それはどういうものか」
 興味深そうにジブリールが尋ねる。彼もまた、ネオに良い感情を持っていないので、
ネオの作戦より良い作戦があるのなら、そっちを採用するつもりだった。
このままネオの作戦を採用したとして、失敗したときは今度こそネオを処罰すればいいが、
成功すれば評価し昇進させねばならないだろう。
「ロアノーク大佐の作戦よりも、簡単で、こちらがさしたる苦労を強いることなく、敵を倒すことが出来る作戦です」
 ホアキンの自信ありげな顔に、ネオは彼が何を言い出すのか、全く予想が付かなかった。
ネオはホアキンより確実に優れた戦略家で、戦術家であったが、この時は明確なまでに感性の違いが出たと言える。
「多少、時間は掛かるやもしれませんが……」
 そのように前置きをして、ホアキンは作戦内容を語りはじめた。
やがて、それを聞くファントムペインの幹部たちの間に驚愕が走り始める。

「馬鹿な、そんな作戦出来るわけがない!」
 説明後、真っ先に異を唱えたのはネオだった。彼に珍しい大声は、ホアキンの作戦への嫌悪感に染まっていた。
「こんなものは、まともな戦闘じゃない。どうかしている」
「おや、まともな戦闘を避け、テロ行為を実行なさったロアノーク大佐の物言いとは、とても思えませんな」
 怒声の混じった激しい口論が十分ほど続き、要領の得ないままに終わるのかと思われたとき、ジブリールが口を開いた。
「良いだろう。ここはホアキン中佐の作戦を採用する」
「盟主、お考え直し下さい! この作戦は、自分で自分の首を絞めるようなもの。
 よしんば敵を倒すことが出来たとしても、我々ファントムペインは……」
「ロアノーク大佐、名より実を取る、という言葉があるだろう? 今回は正にそれだ」
 それは、詭弁だ! ネオは叫びたかったが、今の自分にはどうしようもないことを悟っていた。元々、
ジブリールは、ブルーコスモスの一員であるホアキンを重用する傾向があるし、
テロ事件で彼の不興を被ったネオでは説得のしようもなかった。
 
 会議が終わり、官舎へと戻る最中、ネオは苛立たしげに呟いた。

「俺も、そろそろ考えるべきかも知れないな」

 
場所を戻してプラントでは、議長よりも幾日か早くに帰国したロッシェ・ナトゥーノが官舎にて休養を貪っていた。
ミーアの護衛官としての任務を十分に果たしたロッシェは、国防委員会より勲章を授与された。
さして価値のあるものではないらしいが、騎士の誉れとして恭しくそれを受け取った。
半分以上、社交辞令であったが。

 ミーアとは、帰国後はほとんど会っていない。
2,3連絡を取ったぐらいで、彼女はマスコミ対策などに追われる毎日だった。
会見は既に何度も開かれ、彼女は始終犠牲になった人々への哀悼の念を語っていた。
ロッシェには、その気持ちが痛いほど伝わってきた。

「私は、武器を持つ全ての人に問いかけたいと思います。
 手にした武器で、一体何をするのかと。
 銃口の先にいるのは、同じ人間のはずなのに、何故引き金が引けるのかと」
 
会見でミーアが行った発言は、マスコミと視聴者、そして最高評議会を驚かせた。
特にデュランダルが受けた衝撃は大きく、すぐに政府広報に
「あの発言は何だ。誰があんなものを書いた」と問い合わせた。
やがて、あれがミーアのアドリブだったことを知ると、勝手なことを言ってくれると憤ったという。
 ナチュラルとコーディネイターは、どちらも互いに同じ人間だとは思っていない節がある。
一方は劣等感、もう一方は優越感に抱き続け、ここまで来た。
ミーアは武器を、しいては武力を否定した。確かに、平和論者としては正しい意見だろう。
テロに倒れた者を悼み、あのような発言をしたのかも知れない。
彼女は積極的に遺族の元を訪れ、謝罪を繰り返しているという。
大半は好意的で彼女に対して感謝しているという。
 
 デュランダルとしては、面白くない。
 
 彼にとってラクス・クラインとは、自分の政権においてある種の広告塔の役割をしている。
つまり、あまり彼女の方に人気が出すぎると、かえって困るのである。
デュランダルはすぐにミーアに対し積極的な行動を控えるようにと広報を通じて打診したが、彼女はそれを無視した。
遺族の元を周り、謝罪する行為を何故辞めねばならないのか? 
言い返されるとデュランダルも返答に詰まったが、明らかに両者の間に亀裂が発生しつつあった。
「小娘が……まあ、勝手にするが良いさ」
 目前にスエズ攻略戦が迫っていたこともあり、デュランダルはとりあえずミーアのことを頭から消した。
そして、彼女の友人である男のことは、一切思い出すことなく、政務に没頭していた。

 
 ロッシェは、ミーアとデュランダルが徐々に対立しはじめるだろうということを察知はしていたが、
特に積極的な行動を起こそうとはしなかった。
というのも、ロッシェはプラントでは限られた人間としか交流がないため、ミーアのために人脈を作るとか、
そういった行動が起こせなかったのだ。
 だからこそ、彼はハイネを頼ったわけだが、ハイネは現在地球におり、彼の協力を得るには今しばらくの時間が掛かる。
 
 することもなく、時間を無為に過ごすロッシェの元へ、ハワードが尋ねてきた。
ハワードはこの度、新型モビルスーツのグフとバビの両機を量産ラインに乗せることに成功し、一仕事終えてきたばかりだった。
「ロッシェ、折角良い知らせを持ってきたのに、何だそれは」
 彼にしては珍しく、着崩しでソファに寝そべるといった格好でいたため、ハワードはサングラス越しに眉を顰めた。
「お前に、服装について何か言われる筋合いはないが……何かあったのか?」
 起きあがり、ハワードに席を勧め、ロッシェはコーヒーを入れはじめる。
「実はな、お前さんが地球に降りてる間、入れ替わりで奴が補給に戻ってきた」
「元気だったか?」
「疲れていたとも言えるな。アイツには似合わん作業をさせているせいもある」
「確かに、奴は戦場で暴れ回ってこそだからな……それで? 収穫は何かあったのか」
 指したる期待はしていなかったが、ハワードは不敵に笑うと、聞いて驚けと言わんばかりに言い放った。

「喜べ、元の世界に帰ることが出来るかもしれんぞ」

 コーヒーカップを取り落とさなかったことを、褒めるべきだろう。
ロッシェは意外といえば意外、驚くべきと言えば驚くべき報告に、一瞬硬直してしまった。
「詳しく説明して貰おうか」
 コーヒーを手に、ソファに座り込んだロッシェに促され、ハワードは話し始める。
「奴に調査させていたのは、我々がこの世界に入り込んだ、謂わば入り口とも言える場所を探させていたのさ」
「入り口?」
「扉のない部屋にはいることなど、普通は出来ないだろう?」
「確かに……それが見つかったといわけか」
「そうだ。ワシも調べてみたが、強い空間の歪みも発見された。微小だが、まだ出入り口は塞がっていないようだ」
 つまり、その出入り口を何とかして広げることが出来れば、帰れるかも知れないと言うことらしい。
「なら広げればいいだろう」
「簡単に言うな。宇宙空間に出来た歪みを広げるには、それこそ、膨大なエネルギーが必要なんじゃ」
「エネルギー?」
「例えば、爆発力でも何でも良いが、それこそ、その空間を揺らすぐらいの勢いがないと出入り口は広がらん。
 しかも、一度失敗すれば二度と開かんだろうしな」
「なら、ザフトから爆薬の類をありったけ集めるか」
「無理だな。計算によると、必要なエネルギーはウィングゼロのツインバスターライフル並みだ。
 こちらの兵器では、あの出力は出せん」
 では、何の意味もないではないか。
 ロッシェがそう不満げな顔を向けると、ハワードはニヤリと笑った。
「こちらから開けられないのなら、向こうから開けて貰えばいいのさ」
「――! そうか、その手があったか」
「既にアイツにある種の信号を発生する装置を持たせて、宙域に送り込んだ。
 信号が届けば、まあ、プリベンターが動くだろう」
 元の世界に帰れる。その事実は、ロッシェに安堵感を憶えさせた。
 
 だが……

「そうか、帰るのか」
脳裏に、一人の少女の姿が過ぎった。

「ハワード、帰るのは良いが、あっちの捜査はどうする?」
「ウルカヌスか? アレに関しては、そろそろザフトの手を借りてもいいと思ってるんだがな」
「それはダメだ。デュランダルは信用できん」
 ロッシェは強い不満を声に込めながら、デュランダルを批判した。
 彼にウルカヌスの存在を教えようものなら、きっとよからぬことを企むに違いない。
「どうも、まだまだこの世界でやり残したことが多いらしい」
 この宇宙の何処かにあるウルカヌス、地球で未だ戦い続けるオデル、プラントでロッシェの助けを必要としているミーア……
元の世界に帰りたくないわけがない。だが、ロッシェは、全てにケジメをつけなくては、帰るに帰れないとそう思っていた。
 
 
 後々の話になるが、ロッシェはこの時の自分に対し猛烈な自己批判をすることとなる。

彼は、ハイネから預かったマイクロディスクをすぐにチェックしなかった。
いくら、元の世界へ帰れるかも知れないという情報が入ってきたからといって、これは軽率の譏りを免れなかっただろう。

もし、彼がディスクの中身を知れば、全てが変わっていたのだから。

 

 数日後、ディオキア基地からミネルバを旗艦とした、ディオキア基地分艦隊が先鋒として出撃した。
ボズゴロフ級戦艦で構成されるザフト海軍の中、ミネルバの姿は堂々としており、極めて目立つものであった。
「最終目標地点は敵軍スエズ基地! 全艦、最大船速!」
 ザフトによるスエズ侵攻作戦が開始された。
 実戦部隊として、ジブラルタル、ディオキア、マハムールの三基地から出撃する三個艦隊が動員されることとなった。
そして、遊撃艦としてミネルバが加わる。
 ザフトは海上、そして陸上から進撃を続け、スエズ基地を包囲圧迫、圧倒しながら攻略し、
ファントムペインの中東における影響力を一気に殺ぐつもりであった。

「だが……果たして、それが上手くいくかな?」
 一人、私室でアスラン・ザラが呟いた。
 デスクの上にあるコンピューターには、メイリン・ホークによって幾重にも偽装を施された暗号回線を通じ、
アスランの元へと一通の通信文が届いていた。
「…………」
 アスランは声を出すことなく、その文面を読んでいる。
彼にとって、その通信自体は予期していたものだったが、内容の方はさすがに意外さを禁じ得なかった。
(しかし、これは使えるかも知れないな)
 彼にとって、今回の会戦は個人的な武勲の立て所以上に重要なものとなっている。

 アスランには、ある一つの企みがあった。

 ミネルバの発進を前後として、ジブラルタル、マハムールからもそれぞれ艦隊が進発をはじめた。
それぞれの基地から出撃し、戦意高く戦いの途に着こうとする彼らのうち、一体何人が生きて基地に戻れるのか……

 
だが、ほとんどの者はそれを果たすことが、永遠に出来なかった。