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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第38話(2)

Last-modified: 2007-11-23 (金) 10:28:06

 アスランの予想通り、タリアは本当にそのように各艦隊に連絡を送った。これまでも先鋒を務める者として状況報告は欠かしていなかったわけだが、各艦隊司令官たちはさすがに驚きを隠せなかった。
「なるほど、つまり敵は恐れを成して逃げ出したわけか」
 いち早くそう結論づけたのはディオキア艦隊主力を指揮するモラシムだった。その口調は何処か忌々しげだった。まさか、こんなあっさりと攻略作戦が終了するとは思っても見なかった。一戦もせずに逃げ出すとは、敵も何と不甲斐ないことか。これでは武勲の立てようもないではないか。
 だがまあ、攻略したなどと言ってはいるが、ミネルバだって空き屋を占拠しただけに過ぎない。そんなことは誰にだって出来るし、武勲や功績と言うほどのものではないだろう。
「仕方ない。ここまで来た以上、引き返すわけにもいかん。このままスエズ基地まで進んで、ミネルバ分艦隊と合流する」
 あくまで本隊はこちらなのだから、合流次第指揮権を奪ってしまえばいい。いや、奪うなどと聞こえが悪い、正当な権利どころかか何一つ問題のない行動だ。
 一方、続いて報告を受けたヨアヒム・ラドル指揮するマハムール陸上艦隊は、あと一日も走ればスエズ運河という場所まで進軍をしていた。
「そうか……敵は基地を放棄したのか」
 同じ基地司令官として、何とも言えない気分だったのは確かだ。恐らく、上層部から放棄命令が出たのであろうが、戦わずして逃げるという行為ほど兵士の士気を低下させるものはない。
「隊長、如何なさいますか?」
 副官が遠慮がちに尋ねてくる。進軍を続けるか、帰投するかと聞いているのだ。
「一応、作戦が中止になったわけではない。他の艦隊だけに任せるわけにもいかんし、このまま進軍を続けよう」
 ラドルの心中は、モラシムの悔しさとは違い残念だという気分が占めていた。彼もまた軍人であれば大会戦になると思われたこの戦いで、武勲の一つでも立てたかったのだ。

 

 最後に連絡を受けたのはジブラルタル艦隊であった。実のところジブラルタル艦隊は他の艦隊にかなり後れを取る形で出撃していた。というのも、基地司令官と艦隊司令官のウィラードの間で動員兵力に関する問題で食い違いが起きたのだ。ウィラードは艦隊を指揮する立場から、全体の七割以上を今回の作戦に動員すると決めていたのだが、司令官がそれに文句を付けてきたのだ。
「全体の七割も持って行かれたら、この基地の防衛機能が著しく低下してしまうではないか」
 まあ、確かにその通りではあるのだが、ウィーラドはこう反論した。
「では基地司令官殿は少ない艦隊で出撃して、我々に負けてこいと仰るのか?」
「そんなことは言ってない! 第一、艦隊の数が少なくとも、それを何とかして勝つのが艦隊司令官の役目だろう」
 自分よりも遥に年長であるウィラードにこうして反発できる辺り、基地司令官はある意味では凄いのかも知れなかったが言っていることは無茶苦茶だった。
 二人の協議が続き、結局ウィラードは不本意にも半個艦隊で出撃する羽目となった。いくらジブラルタル艦隊が通常の艦隊よりも数多い艦艇数で構成されているとはいえ、これはあり得ないことだった。
「どうやらあの青二才、我々に死んでこいと言いたいらしいな。はて、そこまで嫌われるようなことをしただろうか」
 旗艦に乗り込み出撃を指示する前、ウィラードはそう呟いたという。
「しかし、閣下ならば少数の艦隊でも大丈夫だと信じてます。少数なら少数なりの、戦い方もあるでしょう」
 彼を尊敬する若い副官が熱っぽく言うが、ウィラードは首を振ると、
「さて、それはどうかな。敵軍が我が艦隊に殺到してきたら、さすがにワシも支えきれるかどうか……」
 本音である。スエズ基地の艦隊が全力上げてジブラルタル艦隊に挑んでくるのなら、半個艦隊程度の自分たちなどものの数時間で壊滅させられるだろう。
「どうするかな……」
 敵艦隊と遭遇した際の戦術を練るウィラードだったが、出撃して間もなくその心配がなくなった。ジブラルタル艦隊はウィラードの指揮の下、敵に待ち伏せされる可能性が高いボン岬からマルタへと続く航路を避け、ボニファチオ海峡からティレニア海に進み、メッシナ海峡へと差し掛かったところであったという。ここから、イオニア海に出て、クレタを経由しスエズを目指す予定だったのだが、他艦隊に遅れながらミネルバから連絡が入った。
「なに? すると敵は夜逃げをしたのか?」
 どうもこの老人、毒を吐く感性がハイネと似ているらしい。
「はぁ、夜に逃げたかどうかはともかく、スエズ基地には一切の敵及び、物資が存在しないそうです」
 副官はウィラードの毒づきに珍妙な掛け合いをしたが、ミネルバからの報告に訝しがっているようだ。無理もない、こんな経験、戦歴の長いウィラードであっても早々経験することではないのだ。
「すると我々は物資と金の無駄遣いをさせられたわけか。はん、結構なことだて」
「どうないさいますか? 基地の攻略は終了しましたし、他の艦隊に任せて我々は撤退しますか?」
 航路からすればまだ半分進んだほどであるし引き返すこともできる。ウィラードは海図を見ながら唸るように考え込む。本当に敵は基地を放棄したのだろうか? 放棄したのが事実として、本当に何の意図もなく逃げ出したのか。スエズほどの基地を戦わずして放棄する、戦力を拠点に集中させるつもりといえば聞こえは良いが……
「だが、心理的にはどうだろうか?」
「はっ?」
「いや、敵のスエズ基地を放棄が戦略の一つだったとして、それが与える心理的効果を考えてな。ただでさえ憎いザフトに追われ、ファントムペインが基地を放棄したと合ってはファントムペインを支持する者が受ける衝撃は大きいだろう。兵士の士気にだって関わることだ」
 だからこそ、何かあるはずなのだ。平気で基地を放棄してのけるほどの何かが。
「考えすぎではありませんか? 小官には、敵が基地を放棄して得することがあるようには思えませんが」
「そうだといいがな……よし、とりあえずクレタまで艦隊を進めよう。作戦は終了したも同然だが、国防委員会が何か言ってくるかもしれんし、勝手に撤退するのはまずかろう」
 こうしてスエズ基地は攻略したものの、全ての艦隊は進軍を続けることとなった。

 

 やがて、ミネルバに遅れること一日、ディオキア主力艦隊とマハムール陸上艦隊がスエズ基地へと到着した。これで全軍の三分の二が揃ったわけであり、スエズ基地はもはやザフト軍基地と言っても良いぐらいザフト軍艦で溢れかえっていた。
「こうも容易く攻略が終了してしまうと、かえって味気ないものだな」
 モラシムは不満そうにザフト兵士によって復旧が急がれる基地を眺め回した。基地自体は全てのデータを消去されはしたが、そんなものプラント製のものと入れ替えてしまえば良いだけだ。修理・復旧もそう長くは掛かるまい。
「私など、ガルナハン方面の安定が終わったばかりの出兵だったというのに、得るもの何もなしでは腹立たしいばかりですよ」
 出番がなかった者同士、共感するところがあるのか、ラドルもまたモラシムと同意見のようだ。
「我らは敵に勝ったわけではない。確かに基地こそ手に入れたが、それは単に敵が放棄したものを拾っただけだ……これは戦果とは言えないだろうな」
「戦果も何も、一発の砲火も交えていませんからね」
 軍人であれば戦場に戦いを、戦果に武勲を求めるのは当然なのかも知れない。故にこの時の二人は、先日の反目が嘘のように互いに無念がり、悔しがっては張り合いのない敵に対して文句を言っていた。
 そんな会話がしばらく続いたとき、
「いっそのこと、スエズ基地を前線基地とし撤退した敵に追撃をかけたいものですな」
 ラドルとしては、何気ない一言のつもりだったのだろう。言った後も、その言葉に深い意味などありはしなかったし、モラシムが異様なまでに食いついてきたことに、むしろ驚きを感じたはずだ。
「周辺に住む民間人の話では、ミネルバが到着する正に前日、敵は基地を引き払ったらしい。これなら、十分に追撃は可能と思わないか?」
「ふむ……しかし、敵とて逃げ出すからには全力、全速でしょう。そう簡単にいきますかな」
「敵が慌てて逃げたというのなら、付けいる隙は十分にあるはずだ」
 モラシムは不敵に笑うと、ラドルにある提案を持ちかけた。初めは訝しげにその内容を聞いていたラドルであったが、思うところ合ったのか、すぐに賛同した。彼らは、戦いを欲していた。

 

 一方、距離的問題で最後に報告を受けたのはプラントにある統合作戦本部と国防委員会である。彼らに報告が言った時点で、既にモラシム艦隊及びラドル艦隊はスエズへと到着しており、それぞれの署名入りの報告書が届けられた。
「確かなのか? これは」
 ヘルマン・グルード国防委員長は、報告書に目を通しながらいささか驚いたように口を開いた。目を見張って動揺しない辺りはさすがであるが、それでもある種の驚愕があるようだ。
「軍人、いや武人であれば面目を保つために基地の死守をやってのけそうなものだが、あっさりと放棄するとはな……」
「委員長、報告書にも書いてあることですが、現地の指揮官は進軍の続行を求めています」
「ふむ……」
 報告書の最後には、『スエズ基地を橋頭堡とし、さらなる進路拡大、周辺地域の解放に努めたい』と言った趣旨の文が書かれており、特にモラシムとラドルが強く希望しているようだった。彼らにしてみれば、武勲も戦果も上げられなかった今回の出兵は骨折り損のくたびれもうけもいいところで、このまま得るものもなく撤退というわけにはいかないのだろう。
「どうなさいますか?」
「気持ちはわからんでもないが、基地は確保できたのだしとりあえずはそれで満足しておいたほうが良いと思うのだがな……まあ、何にせよ私の一存では決められん。最高評議会を招集せねば」
 こうしてヘルマンはスエズ基地攻略の報告とさらなる進軍案を片手に議会を招集したわけだが、余り良い気分ではなかった。彼は今回の戦いに反対した側の人間であるため、こうもあっさりとカタが付いたことで主戦派に対する影響力が弱まってしまったのだ。
 案の定議会では主戦派が殊更自分たちの判断の正しさを主張し、ギルバート・デュランダル最高評議会議長の不見識を非難し、さらに現地指揮官からの進軍続行を早々に可決してしまった。評決の際、意地があったのかは知らないがデュランダルもヘルマンもあくまで反対の票を入れていた。主戦派議員の失笑、冷笑は止まらなかった。既に彼らはデュランダルとヘルマン、二人の肩書きに『前』という文字を勝手に加えてしまっていた。

 

 この事態の速さに驚いたのはクレタにて艦隊を停泊させていたウィラードである。彼はモラシムらが自分に相談も為しに進軍案を国防委員会に提出したことを批難した。
「ザフト軍の指揮官は戦場というもの個人的な武勲を立てるだけの場所と勘違いしている節がある。実際に戦うのは下にいる兵士だというのに、そのことを一切考えようとせんのだ」
 軍人だからといって、兵が皆戦いを望むわけではない。中にはやむを得ぬ事情でこの道を選ばざるを得なかった者もいるだろうし、何より大半が戦場でなど死にたくないと考えているはずだ。ウィラード自身、叶わぬ事かも知れないが死ぬなら故郷に帰って家族のもとで死にたい。度重なる遠征や、遠路の進軍を続けた軍隊が、望郷の念を抑えきれなくなった兵士の叛乱にあってその夢見果てることなど歴史を紐解けばいくらでもあるではないか。
「我が艦隊に、進軍命令は来ているのか?」
「いえ、モラシム艦隊とラドル艦隊には命令が下りましたが、ミネルバ隊及びウィラード艦隊はスエズの確保に専念せよと」
「フン、主戦派の議員共、自分たちが武勲を取らせたい軍人を重用したという分けか」
 モラシムは極端なまでに、ラドルもどちらかといえば主戦論者である。ウィラードは戦うべき時は戦うといったタイプの軍人で、それ以前に性格面のきつさで政界人から嫌われている。タリア・グラディスに関しては、主戦派のはずだが恐らく議長との関係から外されたのだろう。
「きっと今頃あの女史はカンカンだろうな。何故自分だけ、と」