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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第39話(2)

Last-modified: 2007-11-25 (日) 14:17:08

 ラドル艦隊が劣勢に陥る中、紅海のモラシム艦隊も敵に対して優勢に立つことが出来ないでいた。艦隊戦においては互角の戦いをしている自信があるのだが、モビルスーツ戦闘に置いてザフトは敵に押されつつあった。
「最新鋭機のアッシュを大量に突入しながら、何と無様なことだ!」
 モラシムは激怒するが、彼の旗下の部隊が苦戦を強いられているのには分けがあった。ファントムペインは、この大戦のはじめ、第三次カサブランカ沖海戦においてザフトの新型モビルスーツアッシュの前に自軍のモビルスーツが敵わなかったことを知り、対応策を考えた。それまるで、ザフトが、ファントムペインのウィンダムなどに対抗するにはどうすればいいかと考えたように。
 結果、ザフトが優れた空戦能力を持つ機体の開発に着手したように、ファントムペインは既存のフォビドゥン・ブルーと、ディープ・フォビドゥンをさらに改良したフォビドゥンヴォーテクスを完成させたのだ。
 新型には更なる新型で、何とも安直な発想だが、こうして人類の技術は進歩していったのだとも言えるだろう。
「それにしても何と味方の不甲斐ないことか」
 だが、モラシムに言わせれば少し性能の上がった敵が現れたぐらいでこうも苦戦する味方にこそ問題があるように思えた。熟練兵ならジンでもザクに勝てる、つまり彼の部下は熟練兵ではないのだ。
「所詮、新兵の寄せ集めなどこの程度か」
 しかし、それでめげるわけにはいかなかった。モラシムは味方が苦戦に陥る都度、的確な指示を各所に飛ばし、戦線を支えた。だが、それはあくまで支えるだけに過ぎず、敵に勝つというものではなかった。
 認めたくない話だが、モラシムは敵に圧倒されつつあった。

 

 ミネルバは奮戦していた。といっても、それは各モビルスーツパイロットによる実績であり、ミネルバ自身は後方にあって敵の攻撃を回避し、迎撃するので手一杯だった。
「敵の中央部に火砲を集中して分断しろ! 敵に密集体型を取らせるな!」
 アーサーによる指示で敵艦隊の動きをある程度封じ込みはしたものの、いずれにせよ状況は不利だ。艦隊戦はもとより、モビルスーツ戦においてもミネルバは不利だった。空戦の方は、ハイネやアスランを初めとしたエースパイロットたちが奮戦を続けて何とか持ちこたえているが、海中においては敵の新型に押されており、防戦一方という状態になっている。
「新型? ただのマイナーチェンジじゃないの! まったく情けないわね」
 味方の不甲斐なさにここぞとばかりタリアは叫ぶが、叫んで戦況が変わるのなら苦労はしない。
「敵が優勢ならそれを逆手に取るまでよ。敵機が突出してきたところを複数で囲んで後方を遮断、ミネルバとオズゴロフ級の魚雷を叩き込め!」
 タリアにしては、といったら失礼であろうが、なかなかに的確な指示だった。ミネルバとオズゴロフ級の装備はほぼ対艦用が主立ったもので、威力こそ高いがモビルスーツのように小回りの利く相手には避けられてしまう。だが、味方モビルスーツの支援により確実に射程内に引きずり込めば、話は違う。ディープ・フォビドゥンの一機が、この戦法に嵌った。ミネルバの魚雷こそ回避した物の、絶妙な時間差を付けて発射されたオズゴロフ級の対艦魚雷をまともに食らったのだ。
「いいぞ、上手く敵の数を減らせてる」
 モニターを見ながら、思わずアーサーは握り拳を作る。敵も対応策は考えるだろうが、しばらくは時間が稼げるはずだ。
「空戦の方はどうだ?」
 これで空戦も圧倒できれば、流れを引き寄せることが出来るかも知れない。アーサーはオペレーターのメイリンに状況報告を求めるが、
「それが……少し変なんです」
「変? もっと具体的に報告してくれ」
「ジャスティスの動きが、不安定というか」
「なんだって?」
 空戦において各機が様々な活躍を見せるなかで、アスランのジャスティスのみ妙に動きが鈍かった。動作が不安定というか、バランス感覚が崩れているというか……
「アスランさん、どうしたんですか?」
 メイリンが通信を送って訪ねるが、返答がない。無論、状況が状況だけに送り返している余裕がないのだろうが、通信機器に異常があるという可能性もある。メイリンの心中に不安が募ってゆくが、突如としてアスランが一時帰投するとの通信を送ってきた。
「どういうことですか?」
 訪ねるメイリンに対して帰ってきたのは、酷く怒りに満ちた声、
『どうもこうもあるか! 駆動部分のケーブルが一つ損失してる。一度、ミネルバに戻る!』
 アスランはルナマリアの支援の元、ぐらつく機体を何とか制御しながらミネルバへと一時退却を余儀なくされた。戦闘で破損したとか、エネルギーが尽きたなどと言う話ならともかく、これは明らかに整備の不手際である。ミネルバへと帰還したアスランは、メカニックの、ジャスティスの整備を担当していたヨウランとヴィーノの二人の胸ぐらを掴み上げた。
「お前らぁっ! ここはアカデミーじゃないんだぞ。ケーブルの接続が出来てないとはどういうことだっ!」
 ジャスティスは駆動に重要なケーブルの一本が抜けており、接続事故を起こしていたのだ。アスランが帰投を決断しなければ、撃墜されていたこともあり得る。
「アスラン! やめてください!」
 慌ててルナマリアが止めにはいる。戦闘で興奮しているせいもあるのだろうが、ここまでアスランが感情を激するのも珍しいことだった。
「くそっ、再出撃するぞ! ケーブルを繋ぎ直せ」
「あ、私の方もエネルギーパックの交換を」
 戦力的にも、本来ならミネルバは真っ先にやられてもおかしくはない。それがここまで戦況を支えられている理由は、やはりアスランを初めとしたエースの存在が大きい。彼等が奮戦することである程度の優勢を確保し、反撃する。だが、既に戦局は局地的な勝利ではどうしようもない状況にまで陥っていた。

 

 マハムール艦隊の戦闘力は、ほとんど尽きかけていた。艦隊の半数が破壊ないし破損し、モビルスーツの消耗も激しく、戦闘不能状態に陥っていたのだ。
「破損したモビルスーツは即時収容し、傷ついた味方艦は内側に避けろ! もう少しだけ踏ん張れ」
 もはや戦局は決したかに見えたものの、ラドルにはまだ起死回生の手段があった。
「隊長、これ以上戦闘を続けるのは不可能とは言いませんが困難です。この先に待つのは死か、それとも降伏か、いずれにせよ決断するべきかと思われますが」
「まだだ! まだ負けたわけではない!」
 ラドルは決して大言壮語を吐くような男ではない。副官も、彼が何かを待っているとはわかったものの、それが何であるかが判らなかった。
「こ、これは!」
 その時、デズモンドのオペレーターが声を上げた。
「何事か!」
「味方です。各地に分散した味方の一部が、来援してきました!」
 ラドルは指揮座から身を乗り出した。その顔は、勝利を確信しないまでも、形勢逆転の駒を得た将官の顔だった。
「来たか!」
 ラドルは即座に指示を飛ばし、ザウートを中心とした火力に富んだ部隊に包囲網の一角に集中砲火を浴びせかけるように命じた。
「あの部隊との挟撃が成功すれば、包囲網は崩れる。これで逆転だ」
 来援してきた部隊は、バクゥを中心とした機動力に富んだ部隊である。これが包囲網の内側にいるザウート隊が包囲網の一角に集中砲火を開始したことを知り、外側からも攻撃を仕掛けるべく殺到してきた。
 これが成功していれば、ファントムペインが敷いた包囲網は一挙に崩れ去ることとなっただろう。いや、現に一度は崩れようとしていたのだ。
「無理に敵を止める必要はない。包囲網の中に入れてやれ」
 モーガンはこの戦闘に置いてもっとも的確な指示を飛ばした。挟撃を受けた包囲網の一角にいたリニアガン・タンク部隊は、敵の攻撃の前に怯んだかのように体勢を崩し、左右へと壊走した。少なくとも、バクゥやザウートのパイロットにはそう見えた。
「今だ! 一気に突破できるぞ!」
 包囲網が崩れ去ったと思い込んだ外と中のモビルスーツ双方が、進入と突破を試みて前後入り乱れる形となり、一時的だが大きな混乱が巻き起こった。そして、モーガンはそれを見逃さなかった。
「よし、砲身回頭! 砲撃しろ!」
 前後から挟撃していたはずのザフト軍モビルスーツが、今度は左右から敵のリニアガン・タンク部隊に挟撃される形となったのだ。味方同士入り乱れ、混乱したところに電磁砲が吹き荒れる。五分もたたぬうちに、その場にいたザフト軍モビルスーツは壊滅状態となった。
「これが用兵と言うものだよ。コーディの諸君」
 モーガンはファントムペインの期待に見事応え、月下の狂犬という異名に恥じぬ功績を十分に打ち立てていた。現にラドルがこのまま攻勢を継続していれば、マハムール艦隊は全滅を余儀なくされただろう。しかし、そこまでヨアヒム・ラドルという男は愚かではなかった。
「死ぬのも降伏するのも真っ平だ。この上は逃げるしかあるまい」
 ラドルはすぐさま決断すると、脱出のための血路を作るために動き出した。残り少ない戦力を結集して紡錘陣形を取らせ、さきほどと同じポイントに全戦力を叩き込んだのである。敵は左右挟撃の体制から完全に立ち直ってはおらず、正にその隙をついた絶妙な一撃だった。
「ぬぅっ!」
 モーガンもまた、この反撃には予想外だったようで対応に後れを取った。そして遂に包囲網は崩れた。
「デズモンドはこの場に踏みとどまれ! 旗艦のダメージは少ない、他の味方艦を逃がすのが先だ!」
 ラドルの指示でデズモンドは最後まで奮戦を続けた。主砲である40cm連装砲は敵のリニアガン・タンク部隊を吹き飛ばし、味方の脱出を支援した。だが、それも長くは続かなかった。モーガンはデズモンドが旗艦として奮闘していることを見抜くと、この最終局面において空戦部隊を出撃させたのだ。
「敵の旗艦に爆撃を加えろ! それでこの戦いは終わりだ」
 スカイグラスパーやスピアヘッドを中心とした戦闘機が陸上空母から次々に発進され、デズモンドに対して対艦ミサイルを発射した。デズモンドもまたミサイル攻撃で反撃を試みるが、スカイグラスパーの一機が大胆な急接近を図り、砲塔式大型キャノン砲をミサイル発射管に撃ちはなった。
 致命傷だった。
 デズモンドは発車寸前だったミサイルの爆発で艦体を大きく損傷させ、そこに容赦ない敵戦闘機の攻撃が降り注いだのである。
「これまでか……!」
 ラドルは爆発、炎上する艦橋に立ちつくし、未だ起動し続けるモニターに目を向けた。味方は、どうやら半数以上離脱に成功したようだ。
「生き残れよ。残念だが、こっから先、私は何の責任も持て――」
 デズモンドの艦橋に一発のミサイルが着弾した。
 ザフト軍マハムール基地司令官にして、駐留艦隊指揮官ヨアヒム・ラドルが、ここに戦死した。

 

「そろそろ潮時か……」
 同じ頃、紅海における攻防においてもモラシムが一つの決断をしたところであった。
「艦隊を四隻ずつの小集団に分ける。急げよ!」
 既にスエズ運河まで目前という位置まで後退していたモラシムだったが、敵の苛烈な攻撃を前になかなか撤退できずにいた。だが、海中でのモビルスーツ戦闘に思わぬ苦戦を強いられたこともあり、これ以上の戦闘継続は無意味と判断したのだろう。
「地中海に出て、ミネルバやジブラルタル艦隊と合流できれば戦況を五分に戻せるはずだ……」
 モラシムはここにきても希望を捨てずにいた。いや、果たしてそれが希望と呼べる物なのかは判らないが、彼は未だに戦意を失っていなかったのだ。彼は直属部隊による砲火の密集とモビルスーツによる有機的な連携を作り上げると、その隙に四隻ずつの小集団へと分かれた艦隊が、一組ずつスエズ運河を抜けて地球海へと離脱を開始した。この素早い動きはモラシムと対するダーレスも驚く、めざましいものだった。
「やるな……しかし、そう簡単に逃がしはしない」
 モラシムが直属艦隊と共に離脱を始めたのを知ったダーレスは、全軍に追撃を命じた。モビルスーツ部隊が殺到し、あわやモラシムは後背を突かれたかに見えた。
「後ろから群がってくる小魚の集団に、餌を置いてってやれ」
 瞬間、モラシムの旗艦目指してスエズ運河へと突入しモビルスーツが爆発を起こして吹き飛んだ。モラシムは逃げる際に大量の機雷を敷設していたのだ。これにより、ダーレスは機雷を撤去せねば先に進むことが出来ず、モラシムが逃げ出す時間を与えることとなった。
「さすが紅海の鯱と言われるだけのことはある。単なる戦闘屋というわけではなさそうだ」
 ダーレスは機雷撤去作業に手間取りながらも、スエズ運河へと突入し、スエズ基地の再奪取に成功した。だが、いつまでも留まっているわけではない。僅かな部隊を基地に残すと、決戦場となる地中海へと乗り出した。

 

「モラシム隊長の艦隊が地中海まで後退してきたようね……」
 報告書を読むタリアの顔は険しい。彼はミネルバ、そしてジブラルタル艦隊と合流して敵と正面決戦を挑むつもりなのが、送られてきた通信からもハッキリと判った。
「艦長、撤退するにしてもモラシム艦隊と合流できれば、かなりの戦力増加を期待できるのではありませんか?」
 あくまで一般論として、アーサーが言う。
「同時にモラシム艦隊を追ってきた敵を相手にすることにもなるわ。仮にジブラルタル艦隊も加えたところで、こちらは二個艦隊に満たない」
 それに引き替え、敵の総数は三個艦隊以上だ。しかも、それぞれの有能な指揮官とエースパイロット揃い。
 こちらが戦力を結集したところで、勝てるのか?
「でも、そうね、今更ながらの話だけど、戦力分散は一番やってはいけないことだった。今からでも遅くないのだとしたら、それに賭けてみましょう……タンホイザー起動! 敵中央を突破する」
 ミネルバの艦首砲、陽電子破砕砲タンホイザーが発射された。ホアキンはこれをある程度読んでいたので、素早く回避運動を取らせることに成功したが、ミネルバが突破するには十分な時間だった。
「今は行かせてやれ。敵は戦力の集結を図るはずだ。こちらも、ダーレス、ロアノーク両艦隊と合流するぞ」
 今追撃戦を行っても、足自慢のミネルバに翻弄され、ミネルバが別艦隊と合流したところで逆撃を喰らう可能性がある。それが判らないホアキンではなかったので、ここは敢えて譲ったのだ。
 一方、ミネルバでは激戦から帰投したパイロットたちが、息も絶え絶えにグッタリとしていた。本来ならこの間に食事を済ませたり、シャワーを浴びたりするのだが、誰も彼もが疲れ果ててた。唯一、女性のルナマリアだけは重い身体を引きずりながらシャワールームへと向かったが、男性陣はそれに習おうとしなかった。
「この局面で戦力を結集して、何が出来るのやら」
 ハイネはハイカロリービスケットを噛み砕き、プロテイン入り飲料で飲み込んだ。固形物を食べられるだけ、まだまだ余力はあった。シンやレイなどは胃が縮んでしまったのか、飲料水を飲むだけだった。
「戦場を限定して、戦力を上手く配置できれば、まだ十分に戦えるのではないですか?」
 レイが自分の戦略眼を持ってハイネに尋ねるが、彼は首を横に振った。
「そうするだけの余裕があれば、だな。俺達は精神的に追いつめられてる。食い物もなく、現れた敵相手に退却を繰り返し……肉体的以上に、そっちの疲労の方が人によっては強いはずだ」
 確かに、まだ勝敗が決したわけではない。艦隊を結集して再攻勢を掛けることが出来れば、あるいは勝機もあるかも知れない。
「ザフトにもう後がないことを考えれば、やはり戦うしかないだろう」
 栄養素のみを追求したビスケットの味気なさに顔を顰めながら、アスランが呟くように言った。
「ここで撤退したところで、ファントムペインは勢いに任せて逆攻勢をしかけてくるはずだ。ディオキアかジブラルタル、あるいはその両方の失落を、覚悟しなきゃいけなくなる」
 それを避けるためにも、もう一戦行うことで、敵のそうした意図を挫く必要がある。ジブラルタル艦体を指揮するウィラードが、戦意だけを高ぶらせるモラシムの考えに乗ったのも、そうした事情があった。
「決戦場は、どこになるのかな……」
 漏れた声はシン・アスカのものだったが、それは誰に対して問いかけたものではなかった。

 

「敵はどうやら戦力を結集させるらしいな」
 ネオはホアキンやダーレスから届いた通信文を読み、状況を把握した。
 彼は先ほどまでジブラルタル艦隊相手に追撃戦を行っていた。さすがウィラードはザフトの宿将だけあって、ネオが望む正面からの戦闘には乗ってこず、ひたすら撤退することに専念し、付けいる隙を与えなかった。そこでネオは、艦隊運動とモビルスーツの巧みな連携を持って敵の退路を断つべく行動を起こした。多少時間は掛かるが成功すれば効果的この上ない戦法だった。しかし、その完成を目前に敵は突如として転進し、この海域を急速離脱したのだ。あまりの突然さと、唖然とする速度にネオは驚き、罠の存在を疑い深追いを避けた。
「なるほどな、これで敵の行動は読めたぞ」
 序盤において、ファントムペインはザフト軍を圧倒していた。地上戦では敵陸上艦隊を壊滅に追い込み、指揮官のヨアヒム・ラドルを戦死させた。海上戦でも不利に陥るということは一切無く、さほどの損害や被害も出さず、始終敵を圧倒していた。だが、ネオにはまだ不安要素があった。
「ホアキンの奴、デカイ口を叩いておきながらミネルバを撃ち漏らしたな」
 ミネルバの存在は、ネオにとっても無視できないものだった。他の幹部や士官のように、別にミネルバが死神だとか、そんなことは考えていない。ミネルバの驚異というのは、そんな迷信じみた言い回しや、幸運などの験担ぎではなく、単純に優れた戦術運用をしている戦闘艦という点だ。
 圧倒的な火力と最新鋭モビルスーツ、そして一流のパイロットも揃っている。
この総合的な戦闘力の高さが、ミネルバの力強さを表している。難局にあってもモビルスーツたちが奮闘し、ミネルバの攻撃力を持って戦局を打開する、だからこそあの艦は強いのだ。
「……獲物の一番うまい肉を、ホアキンに譲ってやることもないか」
 ネオは通信機を操作し、旗艦の整備班に回線を繋いだ。
「私だ。次の戦闘開始までに、ユークリッドを出撃できるようにしておいてくれ」
 それは、ネオ自らが出撃するという意味に他ならなかった。

 

 何とかジブラルタル艦隊及びモラシム艦隊に合流を果たしたミネルバは、そこで初めてヨアヒム・ラドル率いるマハムール艦隊が壊滅し、指揮官であるラドルが戦死したことを知らされた。一度は同じ戦場を共にした僚友の死に、タリアを初めとしたミネルバクルーは悲しんだが、いつまでもそうしているわけにも行かない。敵がこの海域に現れる前に艦隊を再編し、陣形を整えなくてはならないのだ。
「モラシム艦隊の被害が思ったよりも少ないわね……」
 イオニア諸島近くの海域へと艦隊を結集したザフト軍は、迫り来るファントムペイン艦隊に応戦するため、戦力の立て直しを行っていた。敗走してきた艦隊の割りに、それなりの数が残っていることがタリアには意外だった。
「艦長、ウィラード艦長より通信が入っています」
「繋いで頂戴」
 メインスクリーンに、いささか疲れた様子のウィラードが映し出された。歴戦の将をして、ここまでの道のりは一筋縄ではいかなかったらしい。
『どうも旗色が悪い。一応、陣形としてはモラシムの艦隊を中心とした凸型陣で行くことになりそうだが、貴官はどう思う?』
「随分、攻撃的な陣形ですわね」
『今更防御陣形を取ったところで、どうにもならんだろう。我々には後がない』
 基本方針としては、正面から来る敵に対し中央突破戦法を図り敵を分断、各個撃破するというものだった。ミネルバとウィラードの艦隊はこの両翼を務める。
『強引だがこちらの物資の量を考えると、短期決戦に持ち込む以外手はないのだ』
「その通りですわね……判りました。そのように準備を始めます」
 ウィラードとの通信を終えると、タリアは急いで指示事項を伝達した。だが、艦内の空気は慌ただしいがどこか重く、よどんでいた。マハムール艦隊が敗れ去ったことはザフトにとっては衝撃的すぎたのだ。
「既にマハムールが敗れたってのに、司令部はまだ戦うつもりなのか?」
「一矢報いるつもりなんだろ?」
「だが、敵の方が戦力が多いんだろう? 勝てるのか……」
「知るか、そうならないための司令部だろう」
 口々に話す兵士たちだったが、彼らはそれほど司令部を当てにしているわけでもなかった、信頼していなかったという方が正しいか、必ず勝てると言われて進軍を行い、その結果がこれなのだ。中にはスエズ基地を占拠した時点で進軍を停止すべきだったと信じて止まない兵士もおり、この惨状は一部出世欲に駈られた高官によるものだと憤慨していた。
 それでも彼らが叛乱等を起こさず、こうして任務に従事しているのはナチュラルの存在が憎いことに代わりはなく、また、敵に降伏したところで捕虜にすらなれにという現実があったからだ。ファントムペインなどに代表されるナチュラルの軍隊はコーディネイターを蔑視する余り、彼らを捕虜にすることを拒み、一人残らず虐殺するのだ。それが判っているからこそ、戦わねばならない。
全ては明日を生きるために……