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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第55話

Last-modified: 2008-03-03 (月) 01:43:07

 それは巨大な光の円柱だった。月の裏側から放たれた閃光を超えた爆光が、
月とプラントの間にある長大な距離をものの数秒で征服し、プラントの壁面に
突き刺さった。
 プラントは宇宙空間にあって、常に外敵の危険に晒されている。その為、プ
ラントを形作るにあたって細心の注意が払われたのは、その外壁であると言っ
ても過言ではない。事件、事故、あらゆること不測の事態を想定され設計され
たプラントの外壁は、超硬度装甲材にラミネートコーティングを施したもので
あり、戦艦の艦砲射撃やミサイル程度の威力では傷一つ付けることが出来ない。
故にこれを破壊するには、かつて旧連合軍が行ったように強力無比の一撃、核
攻撃を行うか、ファントムペインがやったように内部から集中攻撃をするしか
ない。

 

 その事実は、一瞬にして過去のものとなった。

 

 ビームを熱エネルギーに変換し、拡散させることが出来るはずのラミネート
装甲、だが拡散できなければ、装甲全体に広がったダメージによって装甲全体
が崩壊するだけである。
 プラントに突き刺さった光の円柱は、ラミネート装甲の限界を軽々と突破し
ていた。ビームはプラント内部に達し、一瞬にして周辺の空間を消し飛ばした。
 爆発が起こった。
 轟音とそれに伴う衝撃波がプラントを揺るがした。ナチュラルが砂時計に見
立てているプラントの下半分に、大きな亀裂が走っていた。亀裂はみるみる広
がっていき、遂にプラントを崩壊させた。
 それだけでは終わらなかった。プラントの一基に放たれたビームは、プラン
トを貫き、貫通していた。威力は軽減されたが、未だ勢いを失わないビームは
その光の鞭を周囲のプラントにまで振るった。掠っただけで、皮が抉られるか
のように傷を負わされていく。
 僅か一瞬の攻撃で、ヤヌアリウス・ワンからヤヌアリウス・フォーが破壊さ
れ、壊滅した。実に四基ものプラントが、一辺に失われたのだ。

 

 これこそがレクイエム、ジブリールが考案し作り上げた、軌道間全方位戦略
砲。月面のダイダロス基地に設置された巨大なビーム砲を、月周辺に配置され
た廃棄コロニー内部に施されたビーム偏向装置「ゲシュマイディッヒ・パンツ
ァー」で屈折させ、あらゆる軌道上の対象物を砲撃する戦略兵器だった。
 その威力、核ミサイルの比ではない。ジブリールですら、地球に向けて撃つ
ことを躊躇ったほどだ。

 

「美しい……なんと美しい! これぞ究極の花火だ。こんなに素晴らしいもの
を、私は初めて見る」

 

 ダイダロスにてヤヌアリウスが崩れ去る様を見ながら、ジブリールは手を叩
いて笑っていた。拍手喝采、ジブリールは心の底から、目の前に映る最悪の光
景を見て、喜んでいた。

 
 

        第55話「プラントを撃つ巨光」

 
 
 
 

 緊急事態を告げるブザーが鳴り響いていた。最高評議会本部ビルにおいて閣
議続けていたデュランダルら、最高評議会議員は総立ちとなった。国防委員長
のヘルマンがすぐに円卓のスイッチを押し、ザフト軍統合本部へと繋いだ。

 

「何事だ、何があった!」

 

 叫ぶ彼に対し、応対した士官はややうわずった声で、それでも現状知りうる
限りの事実を国防委員長に告げた。

 

『ヤヌアリウス・ワンからヤヌアリウス・フォーに攻撃が、敵のビーム砲撃が
行われた模様です!』

 

 士官の言葉は、一陣の吹雪となって閣議室を凍り付かせた。評議員たちの顔
色が一変し、皆が皆、顔面蒼白となっていた。

 

「被害状況を調査しろ! それと負傷者の救出を急げ!」

 

 ヘルマンは的確で正確な指示を出した。本人はそのつもりだった。
 だが、画面越しの士官は首を振って叫んだ。

 

『プラント内……生命反応無し、生命反応ありません』
「馬鹿な、プラント一基に約25万人の市民が居住しているのだぞ!?」
『ぜ、全滅です!』

 

 事実を前に、評議員の一人が卒倒した。しかし、周囲の議員は助け起こそう
ともしない。無理もない、そんな余裕は誰にもなかった。デュランダルでさえ、
突然の事態に足が震えてしまっていたのだ。
 さらに報告が入った。崩壊したヤヌアリウスの残骸が、爆発で生じた衝撃に
よってディゼンベルに飛来、ディゼンベル・セブンとディゼンベル・エイトに
直撃したという。ディゼンベルを構成するのもまた超硬度装甲材であるが、飛
来した残骸もまた同じである。爆発による衝撃加速を受けた残骸は、砲弾のよ
うな勢いでディゼンベルの外壁に叩き込まれた。
 ディゼンベルの超硬度装甲材にもラミネートコーティングは当然施されてい
る。しかし、フェイズシフト装甲ではない。一定電圧の電流を流すことで相転
移し、強靱な更なる強靱な装甲を得ることが出来るフェイズシフト装甲ならば、
あるいは違った結果も見られたかも知れなかった。
 だが、それは何の価値もない夢物語に過ぎない。ディゼンベルにはフェイズ
シフト装甲は無かったし、直撃したヤヌアリウスの残骸は、ディゼンベルの外
壁を撃ち砕いた。
 ディゼンベル・セブン、ディゼンベル・エイト、二つのプラントが壊滅した
瞬間であった。

 

「ディゼンベルが……ディゼンベルまでもが!」

 

 さすがのヘルマンも、ガクリと脱力してへたり込んでしまった。
 壊滅し、完全崩壊したプラントは計六基、単純計算でも僅か一度の砲撃で、
150万人もの市民が犠牲になったのだ。

 

「これは、これは一体どういうことだ!」

 

 デュランダルが叫んだ。何故だ、何故こんなことになった。プラントが、私
の国が撃たれた。どうして誰も気づけなかった。どうしてこんなことになる前
に、防ぐことが出来なかったのだ。

 

「国防委員長! すぐに全ザフト宇宙軍に招集をかけろ。全艦出撃、私はメサ
イアへ移動する!」

 

 デュランダルの怒号は、動揺し狼狽していた同僚たちを律するのに幾分か役
だった。同僚たちはデュランダルを見るが、その表情を見て驚いた。見たこと
もない強い表情で、散々たるヤヌアリウスの惨状をデュランダルは見ていた。

 
 
 

 砲撃から丁度十五分たったとき、無駄だと分かりながらもヤヌアリウスの救
助作業に追われていたプラント及びザフト、さらには地球全土に対してロード
・ジブリールの「犯行声明」が行われた。

 

「私は先日、一つの夢を叶えた。長年の夢である世界統一、生まれや人種、宗
教や思想、主義主張などを取り払った新たなる秩序……世界統一国家を誕生さ
せた」

 

 全世界へ流されたその映像は、当然カガリの元にも届いていた。彼女はジブ
リールの行方を追って、たった今捜査範囲を広げるように部下に命令をしたば
かりであった。

 

「だが、私が信頼し、共に歩んでいこうと募った同志たちは皆、この私を裏切
った。代表にしても、私の過去の行いに対し難癖を付け、屁理屈を並べては断
罪した! そして、この私を逮捕し、処断しようとしたのだ」

 

 映し出されるのは、レクイエムの直撃を受け壊滅したプラントの映像。ジブ
リールの口から説明が為されるまで、それがなんであるか気づけたものはほと
んどいなかった。何故なら、ヤヌアリウスは既にその原形をとどめていなかっ
たのだ。

 

「私はこのダイダロスにあって、プラントであっても地球であっても自由自在
に攻撃できる兵器を有している」

 

 手の内を全て明かすつもりはないが、ジブリールは簡単にレクイエムの解説
をしてやった。それがどんな恐ろしい兵器であり、どれほどの威力があるのか
も。

 

「一声、私が命じるだけで、このシステムは奏でられる。この世のものとは思
えないほど美しい鎮魂歌が、愚劣なる者たちの耳に響き渡るであろう……」

 

 ジブリールはそこで映像を切った。何かを要求するわけでもなく、ただ威圧
のみを目的とした放送。しかし、人々に恐怖を植え付け、絶望させるには十分
すぎるものだった。

 

「名演説でした、閣下」

 

 ホアキンが拍手をしながら、ジブリールを褒め称える。

 

「今頃地球ではあの小娘が泣き叫びながら後悔しているだろう。自分が誰に大
して牙を剥いたのかということを……飼い犬なら飼い犬らしく、黙って素直に
言うことを訊いていれば、タップリと可愛がってやったものを」

 

 例えカガリがどれほど後悔したところで、ジブリールは彼女を許す気などな
かった。彼女と、彼女をそそのかしたロゴス、そしてジブリールを裏切った者
たちもろともこの世から消滅させてくれる。
 少なくとも、この時点でジブリールはそのように考えていた。

 

「申し上げます、プラントから宇宙艦隊が出撃した模様です!」

 

 オペレーターが、やや急ぐような声で報告してくる。

 

「ほぅ、デュランダルめ……意外に対応が早いではないか」
「閣下、ここは小官が」
「任せる。ダイダロス基地の全艦隊を連れて行け」
「はっ。ですが、それでは基地の守りは?」
「問題ない。基地はデストロイに守らせる」

 

 ダイダロスにもまたデストロイが存在する。その数は三機と、地上のどの基
地よりも多い……というより、デストロイはまだ試験製造しかされていない機
体なのだ。コストパフォーマンスを徹底的に無視した機体であるため、量産ラ
インに乗せることが出来ず、五機しか製造されていない。その内、二機は地球
で破壊されているから、ダイダロスを守る三機が最後の機体と言うことになる。

 
 

「本来なら、アルザッヘルにやらせるのだがな……」

 

 アルザッヘル基地を管理する基地司令官イアン・リー少佐は、ジブリールへ
の協力を拒んでいる。見せしめにレクイエムで砲撃を行っても良いのだが、あ
そこにある設備や施設、兵力などは出来れば残しておいて、自分のものにした
い。

 

「まあいい。レクイエムが再度放たれれば、もはや誰も私に抵抗する意思など
見せはしまい」

 

 レクイエムに欠点があるとすれば、それは連続砲撃が行えない点にある。あ
まりに巨大すぎるビーム砲は、一発撃つごとに砲塔のどこかしらが破損する。
放出される莫大なエネルギーと、発射時の衝撃や反動を考えると無理もないこ
とであるが、破損箇所の修理を終えてからでないとエネルギーチャージが行え
ないのだ。さらに、ビームを屈折させる中継ポイントである廃棄コロニーは、
標準変更の都度、移動させる必要があるのだ。

 

「次の発射可能時刻まで何時間かかる?」

 

 ジブリールはオペレーターに尋ねる。

 

「整備班の予定では、八時間後になっておりますが」
「八時間か……いや、それでは遅い。六時間で終わらせろ」
「それは、ですが…」
「八時間といえば九時間になり、六時間といえば七時間だ。六時間で終わらせ
るように心がけ、六時間半で終われば上等だろう」

 

 懸念すべきはザフト宇宙艦隊の進軍速度である。どうやら、ザフトは事前に
中継ポイントの一基に部隊を派遣していたようで、廃棄コロニーがビームを屈
折させる決め手であることに気付いてしまっている。全軍を持って、これを叩
くつもりなのだろう。

 

「良いだろう……デュランダル、貴様の手並みを拝見しようではないか」

 

 ジブリールには余裕があった。絶対的な力を持つ余裕が、彼の身体からは滲
み出ていた。

 
 

 宇宙要塞にして移動要塞であるメサイアに設置された司令部において、デュ
ランダルは律動的であり行動的であった。彼は肩書きの上ではザフト軍最高司
令官であり、この場にいること自体はなんの問題もない。しかし、彼は所詮学
者出の議員であり、軍人ではない。故に、そういう人間が軍人たちと顔をつき
あわせあれこれ命令すると必ず亀裂が生じる、はずだった。

 

「今から我々が月の裏側にあるダイダロスを目指したところで、その前に次の
砲火が放たれるはずだ。だが、中継ポイントまでなら二時間かからずに到着す
ることが出来るとコンピューターの計算によって割り出されている」

#br
 国防委員長のヘルマンを除いた他の議員が放心状態となり、生ける屍となっ
た今、デュランダルは次々と政治上の措置を取ってプラント政府の自壊を防い
だ。そして、留守をヘルマンに任せると、自ら移動要塞メサイアに乗り込んで、
直接指揮を執り始めたのだ。
 それも、冷静沈着かつ、明晰な指示を執り行いながら。

 

「ならば、我々は敢えてダイダロスを攻める長路は取らず、最終的な攻撃目標
をダイダロスに定めて進軍するべきであろう。途中に配置された中継ポイント
を一つずつ、確実に破壊していくことが先決だ」

 
 

 軍人たちは困惑を隠せなかった。先日まで失言とその後の醜態によって惨め
な姿をさらけ出していた議長が、今や完全に復活している。
 自己の正確極まる洞察力と認識力で事態を把握し、

 

「だが、ダイダロスを長く放置させていくわけにはいかない。そこで、地球か
ら撤退行動を取っているザフト地上軍をダイダロスへ送って牽制させるのだ。
地上軍とは言っても、ミネルバを始め、宇宙でも作戦行動が可能な艦艇や機体
はそれなりにいるはずだろう」

 

 鋭い判断力を持って、最善の作戦を司令部にいる軍人たちに提示して見せた
のだ。演説上手な彼らしい、格調高い弁舌で。
 平和であっても乱世であっても、ギルバート・デュランダルという男は、野
心に燃えるただの政治家に過ぎなかった。自己過信が強く、自分で言うほどの
実力も実績もない彼であったが、ユニウス・セブンに起きた「血のバレンタイ
ン」以来、初めてプラントが直接被害を被った惨劇に対し、彼は素直な怒りを
覚えていた。
 怒りと憎しみ、そして悲しみがデュランダルを変えたのだ。彼は自身の野望
や野心、ジブリールと同じくずっと胸に抱いていた悲願である夢、それらを全
て捨て去ってメサイアの指揮座に座っていた。
 ギルバート・デュランダルという政治家、一時の間プラント最高評議会議長
を務めた男の名は、それまでのどの経歴よりも、たった一度の会戦において後
世に記憶されることとなる。

 

 戦場へと到着したザフト軍であるが、その陣容は厚いものであった。主力と
して投入された内、前衛を務めるのはグラスゴー隊であり、この隊は主要パイ
ロットが皆、最新鋭機であるグフに搭乗する精鋭揃いである。他にも派手さは
ないが、堅実な作戦遂行能力を持つジャニス隊や、エースパイロットによって
構成されたジュール隊など、ザフト宇宙軍が誇る盤石の布陣であった。参加兵
力は、ザフト宇宙軍のおよそ八割に値し、プラントの防衛には大型宇宙空母ゴ
ンドワナを始めとした僅かな艦艇しか残っていない。
 ザフトが如何にこの一戦を重要視しているかの表れであったが、対するファ
ントムペインも中継ポイントを守るべく、防御を中心とした陣形を組んでいる。
特にザフト軍兵士を舌打ちさせたのが、陽電子リフレクターを装備する戦艦、
護衛艦の出現であり、艦砲射撃の応酬ではザフト艦隊の分が悪いと言うことで
あった。その為、戦闘はモビルスーツを主体としたものに切り替わった。

 

「進め進め! ここで奴らを倒さねば、プラントに明日はないぞ!」

 

 グフに乗り込み戦場を駆けるのはジュール隊隊長イザーク・ジュールであっ
たが、その操縦はどこか乱暴であった。彼は一機、また一機と敵モビルスーツ
を撃破していくのだが、その表情はどこか苛立ちが紛れていた。

 

「チッ、動きが鈍い。やはり、プラント製などこの程度か」

 

 イザークは、メリクリウスを操縦することに慣れすぎた余り、ザフトモビル
スーツの性能に満足できなくなっていたのだ。これはイザークがメリクリウス
を完全に乗りこなした証であるのだが、それを知る者は副官のディアッカだけ
であり、他者から見れば、例えば副官補佐であるシホ・ハーネンフースなどか
らみればイザークが乗り慣れぬ新型に戸惑っているように見えるのだった。

 

「隊長、単機で突っ込まれるのは危険です!」

 

 スラッシュウィザード装備の紫色のザクウォーリアに搭乗するシホは、周囲
の機体を斬り裂くと、隊長機であるイザークの支援に向かう。

 

「支援? そんなもの、必要ない!」

 

 グフの両腕部に収納されているスレイヤーウィップが飛び出し、発生する超
高周波パルスが敵機を叩き壊す。
 確かにシホが支援するまでもなく、イザークは無類の強さを見せつけていた。

 

「イザークの奴、張り切りやがって……」

 

 そんな友人の姿を見て、ディアッカは溜息を付いた。彼もまたザクファント
ムで出撃していたのだが、彼の方はイザークと違ってやや落ち着いたように確
実に敵機を撃ち落としている。ディアッカにしてみれば、この機体の方がヴァ
イエイトの何倍も落ち着くのだ。嫌な不快感に悩まされることもなく、いつも
通りの自分で戦うことが出来る。

 

「よし、グレイトゥッ!」

 

 艦艇を一隻撃沈させ、ディアッカは片手でガッツポーズを取る。実に活き活
きと、彼は戦うことが出来た。
 その時、突如ディアッカの機体に緊急通信が送られてきた。

 

「通信? 戦闘中だぞ」

 

 何事かと思って通信文を開き、ディアッカは驚愕した。すぐにイザークの機
体へと回線を繋げる。

 

「イザーク、お前にも届いたか!?」
『あぁ、そっちも届いたようだな』
「これって、まさか……」

 

 半信半疑で通信文を読みながら、ディアッカは尋ねる。イザークは狼狽する
彼を見て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「どうやら、時間が来たらしいな」

 

 どこか遠くを見るような目で、イザークは呟いた。モニターに表示される通
信文、それはイザークとディアッカの友人にして同志である、アスラン・ザラ
から送られてきたものだった。

 
 

 アスラン・ザラが地球から宇宙へ向けて飛び立ったのは、ジブリールがレク
イエムを奏でた直後のことであった。アスランは搭乗したモビルスーツ収容型
シャトルの中で、初めてそのニュースを知ったのだ。

 

「アスランさん、これって……」

 

 怯えたような声で、隣席に座るメイリンが呟いた。ちなみにこのシャトルは
操縦席以外は全てモビルスーツ収容スペースに当てられており、客席及び搭乗
席などは存在しない。アスランが座っているのは操縦席であり、シャトルの操
縦も彼がしているのだ。

 

「……行き先を変える。メイリン、君はこれから指示することを実行してくれ」
「い、行くってどこにですか?」

 

 まさか、このまま戦場に向かうつもりなのか。確かにアスランが呼び出され
たのは宇宙要塞メサイアであるが、メサイアは今戦場に向かっているはずだ。
メイリンは不安がるが、アスランはそれを払拭するかのように口を開いた。

 

「宇宙に帰ってきて早々だが、君を俺の城に案内しよう。まあ、城と言っても
女の子に見せるには少々無骨な形をしているけどな」

 

 アスランはニヤリと笑うと、メイリンに通信を送るように命じた。一つは戦
場に居るであろうイザークとディアッカへ。もう一つは彼の城であり、本拠地
であるウルカヌスへ。アスランはプラントにもザフトにも戻らず、直接ウルカ
ヌスへ向かうことにしたのだ。

 
 
 

 ところ戻って戦場では、ザフトとファントムペインによる激しい攻防が続い
ていた。双方には戦場と戦闘に置いて達成しなければ行けない目的が異なって
いる。ザフトは敵の戦略兵器の使用を回避するために中継ポイントである廃棄
コロニーを破壊するのが第一前提であるが、ファントムペインは単純に次の発
射可能時間まで戦線を維持すればいいのだ。むしろ、発射可能となった段階で
プラントを人質に取り、ザフトに降伏を迫ることだって出来る。プラントはレ
クイエムに対し、防ぐことも避けることも出来ないのだから……

 

「何としてでも敵陣を突破し、中継ポイントを破壊しろ!」

 

 デュランダルの叫びが飛び交う中、ジュール隊のシホ・ハーネンフースを始
めとした一団が、敵モビルスーツ隊を突き破り、中継ポイントへと迫りつつあ
った。

 

「これさえ破壊すれば!」

 

 シホは叫びながらも周囲に信頼する上官の姿を求めたが、彼の姿はなかった。
恐らく別の場所で戦っているのだろう。彼がかつて褒めてくれたことのある自
分の勇姿を見せられないのは残念だが、後で報告すれば褒めてくれるだろう
か?
 そんなことを頭の隅で考えていたシホだったが、彼女は決して油断はしてい
なかった。彼女の行く手、中継ポイントを守るようにモビルスーツの軍団が三
列横隊に並んでいる。あの特徴的な色合いと形、シホには覚えがあった。

 

「砲戦型モビルスーツ!?」

 

 迫り来る敵モビルスーツを排除するための最終防衛ライン、それは大出力、
大口径の砲撃を得意とするバスターダガーによる砲火の壁であった。この部隊
の指揮を執るのは、自身も砲戦型モビルスーツ、ヴェルデバスターに搭乗する
シャムス・コーザだった。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 シャムスの叫びと共に、連続砲撃が開始された。強力な砲火を浴びせかけら
れ、さすがのシホたちも後退せざるを得なかった。

 

「強い……でも、だからって!」

 

 シホは体勢を立て直し再度の突撃を図るが、スラッシュウィザードは接近専
用の装備であり、敵の砲火に対し反撃することすら叶わなかった。
 こうしている間にも刻々と時間は過ぎ、早く中継ポイントを破壊せねば再び
レクイエムが奏でられる。そう思えばこそ焦り、シホは敵を攻め倦ねていた。
 その時だった。
 シホの後方から、新たな部隊が突出してきた。機体や装備こそ一般のガナー
ザクウォーリアーと何ら大差なかったが、それらの機体にはある特徴があった。

 

「オレンジショルダー……ハイネ隊!?」

 

 そう、今は亡きハイネ・ヴェステンフルス。彼が特務隊員として指揮した部
隊がハイネ隊であり、オレンジショルダーはそのシンボルマークにして、シン
ボルカラーであった。部隊解散後も自らがハイネ隊の隊員であったことに誇り
を持っていたモビルスーツパイロットたちは、ショルダー部分のカラーリング
を落とすことなく、今日まで愛機に搭乗していたのだ。

 

「亡きハイネ隊長の勇名を辱めるな!」

 

 パイロットの一人が叫びを上げる。

 

「オレンジショルダーの意地を見せてやれ!」

 

 彼らは、長距離砲であるオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を構えると、
敵に向かって突撃を始めた。

 

「無茶よ!」

 

 その無謀な行為を目の前にして、シホは制止の声を上げるが彼らは聞き入れ
ようとしなかった。シホにしてみても、無駄だということがわかった上での制
止であった。それに、もう敵突破するにはこれしか方法がないかもしれない。

 

「へぇ、砲戦を挑むつもりか?」

 

 長距離砲装備のザク隊が現れたことで、それまで弾幕による波状攻撃を続け
ていたシャムスも顔色を変えた。敵は決死の覚悟でバスターダガー隊を倒しに
掛かってきたのだ。

 

「なら、とことん応えてやろうじゃねぇか」

 

 シャムスはバスターダガー隊に命令を出し、両脇の砲身を連結させるように
言った。超高インパルス長射程狙撃ライフル、奇しくもザフト軍のエース機と
同じ名を持つ、バスターの誇る精密長距離射撃武器であった。

 

「撃って、撃って、撃ちまくれぇっ!!!」

 

 この戦いにおいてもっとも激しい砲撃戦が開始された。
 ザクのオルトロスと、バスターの長射程狙撃ライフルが火を噴き、互いに互
いを狙い撃った。ビームとビームの応酬は苛烈さを増し、双方に甚大な被害を
与えていく。
 シャムスがこの時、長射程狙撃ライフルではなく、一度に無数の敵に打撃を
与える対装甲散弾砲を選択していれば、あるいはザク隊はすぐに蹴散らせたか
も知れなかった。シャムスは威力と命中率の観点からライフルを選んだのだが、
ザクの砲火を前に撃ち崩されようとしていたのだ。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 オレンジショルダーが意地を突き通したのだ。彼らは敵の砲撃に数を減らし
ながらも懸命に攻撃を続け、遂にバスターダガー隊を壊走させることに成功し
ていた。

 

「くそっ、冗談じゃねぇぞ!」

 

 シャムス・コーザという男に美点があったとすれば、彼が迫り来る敵を前に
しても逃げなかったことだろう。彼はヴェルデバスターのミサイルランチャー
を放って敵を牽制すると、複合バヨネット装備型ビームライフルで砲撃を続け
ていた。この勇気ある行為は本来なら賞賛に値するものであったが、もしこの
場に彼の同僚であるスウェン・カル・バヤンがいれば違う反応を示しただろう。
スウェンは、シャムスが同僚であるミューディ・ホルクロフトの戦死後、精神
的に自暴自棄になっていたことを見抜いていたのだ。

 

「この俺がコーディなんぞにやられるものかぁっ!」

 

 叫ぶシャムスと、砲撃を続けるヴェルデバスターには言い知れぬ圧倒感があ
った。
 そんな彼に対し、一機のモビルスーツが突っ込んできた。シホ・ハーネンフ
ースの愛機、紫色のザクである。

 

「これ以上はやらせはしないわ!」

 

 バスタータイプのモビルスーツと交戦経験のあるシホは、機体の持つ特性や
弱点を正確に把握していた。砲戦仕様であるバスターは接近戦を不得意とし、
懐に入られることを一番嫌っているのだ。

 

「いつの間に――」

 

 シャムスは、ビームライフルに装備された複合バヨネットを振るうが、彼自
身接近戦はそこまで得意ではない。そしてシホは、接近戦に特化した機体に搭
乗していた。

 

「せいやっ!」

 

 紫色のザクがファルクスG7ビームアックスを振り上げ、高出力のビーム刃で、
ヴェルデバスターの持つビームライフルの砲身を叩き斬った。

 

「なっ、嘘だろ、おい!」

 

 シャムスは咄嗟に機体を後方に下げ、窮地を乗り切ろうとするが、シホは彼
を逃がさなかった。

 

「トドメよっ!」

 

 ビームアックスを回転させ、遠心力が付いた一撃が繰り出され、ヴェルデバ
スターのコクピットに直撃した。ヴェルデバスターの装甲は、ほんの数秒だけ
抵抗を見せたが、すぐに息絶えた。

 

「こんな……はずは」

 

 コクピットから機体が切断され、真っ二つになったヴェルデバスターが爆発
した。ファントムペイン所属のモビルスーツパイロット、シャムス・コーザが
ここに戦死した。彼にとっては予期せぬ場所、予期せぬ形での戦死となった。

 

「やった……やりました、隊長」

 

 肩で息をしながら、敵隊長機を倒した喜びに胸震えるシホ。シホは機体を後
退させ、その場にいた全モビルスーツ及び、艦艇に大して中継ポイントたる廃
棄コロニーへの砲撃を指示した。
 怒濤の砲火は、勢いよく廃棄コロニーに降り注いだ。内側はビームを屈折さ
せることも出来るが、外側はそうも行かないのだ。すぐに砲撃によって穴が開
き、穴を中心に亀裂が走る。中継ポイントの一つが、破壊された瞬間であった。
これでザフトは今しばらく、時間的猶予を得ることになった。

 戦場から遠く離れた宙域に、巨大な岩塊があった。遠目に見ればただの岩塊
にも見えるそれは、岩塊をくり抜いて作られた資源衛星であり、旧ザフト過激
派を始めとした「よからぬことを企む連中」の本拠地であった。
 ある日突然彼らの前に姿を現したこの衛星の名はウルカヌス、かつて異世界
においてモビルドール生産施設としてテロリストの秘密基地となっていたのだ
が、その事実を知る者は、現在ここを使用する者の中には一人もいない。彼ら
にとって重要なのは、ウルカヌスが何であったかでも、どのような使い方をさ
れてきたかでもない。三百機を超えるモビルドールと、十数機のモビルスーツ、
さらには自身も移動可能という高い戦略性を持った軍事基地としてのウルカヌ
スの存在が重要なのである。

 

「ここに来るのも、考えてみればまだ二度目か」

 

 そんなウルカヌスに今日、司令官たる男が帰還していた。
 アスラン・ザラ、旧ザフト過激派をまとめ上げ、彼らと志を同じく戦うこと
を決めた若き少年。

 

「お久しぶりです、アスラン・ザラ」

 

 サトーを始めとした幹部、そして兵士たちが揃ってアスランを出迎えた。ア
スランは軍人らしく彼らに敬礼することで挨拶を済ませた。どうせ尊大な口調
でもっともらしく喋ったところで格好など付かないのだから、形式通りにすれ
ばいいのだ。

 

「全て準備の方は整っております……ところで、そちらのご婦人は?」

 

 アスランに寄り添うにように付き従っているメイリンのことであるが、如何
にも質実剛健とした感じの軍人であるサトーに、少し怯えているようだ。大体、
少女と呼ばれる年齢の彼女は女の子であって、ご婦人などという形容詞で呼ば
れたことはない。

 

「俺の大事なパートナーさ」

 

 一言、アスランは答えた。思わず振り向いたメイリンに、優しく微笑みかけ
る。メイリンは、天にも昇る気分であった。

 

「ところで、ウルカヌスの修理が完了したことと、ビルゴの起動が成功した以
外に何かあったか?」
「実は、倉庫として使われていたと思われる区画から発見されたパーツがあり
まして、大半はジャンク品だったのですが一部組み立てると使えるものが」
「ほぅ、そんなものがまだあったのか」

 

 格納庫に案内され、アスランはその機体を目の当たりにした。アスランが驚
いたのは、それが一般的なモビルスーツの形である所謂人型タイプではなかっ
たことだ。ビルゴを始めとしたモビルドールにしてみても、特異的ではあるに
せよ二足歩行の人型だった。

 

「これは、何か生き物を象っているのか?」

 

 アスランが興味深そうに機体を眺める。

 

「サソリ……?」

 

 小さく呟いたメイリンを、アスランとサトーが見た。メイリンは慌てて口を
噤んだが、アスランはフッと笑みを浮かべた。

 

「なるほど、サソリか……」

 

 説明によるとこれもモビルドールらしいが、モビルアーマー型のモビルドー
ルといったところだろう。

 

「差詰めスコーピオとでもいったところか」

 

 アスランはその赤い機体に興味を持った。偶然にも彼が口にした名前は、機
体名そのものであった。スコーピオ、かつてウルカヌスの番犬といわれたモビ
ルドールが今、ここに復活を果たしていた。
 しばらくアスランとメイリンは、サトーによってウルカヌス内を案内されて
いた。

 

「すると、あのコンテナはまだ中身がわからないのか」
「はっ、お恥ずかしながらどこをどう開ければいいのか、皆目検討も……」

 

 すると、士官の一人が小走りに現れ、イザーク・ジュール及びディアッカ・
エルスマンの両名が到着したことを報告した。

 

「さすがに行動が早いな」

 

 アスランはメイリンに言って二人に通信を送り、気付かれぬように戦場を離
脱してウルカヌスに来るよう命じたのだ。二人は戦況がザフト有利に傾いたと
ころで離脱をし、今ウルカヌスに到着をしたのだ。

 
 

「久しぶりだな、二人とも」

 

 ガッチリとした握手を、アスランはイザークとディアッカに行った。

 

「お前が戻ってくるのが遅すぎたのだ。こちらの準備はとっくに出来ていたの
だぞ?」
「色々あってな……実はもう少し様子を見るつもりだったんだが」

 

 既にザフトとファントムペインによる最終決戦の火蓋は切られ、ギルバート
・デュランダルとロード・ジブリールが、宇宙における覇権を巡って戦ってい
る。この戦いに勝利した者が宇宙の支配者だと、誰もが信じているはずだ。

 

「だが、彼らのいずれも勝利者にはならない。相応しくない」

 

 アスランはその場にいる全ての者を見渡した。イザークが居て、ディアッカ
が居て、サトーが居て、メイリンが居る。他にも多くの士官や兵士が、アスラ
ンのことを見つめている。
 いつの間にか、自分はこんなにも多くの仲間を持つようになっていた。同じ
志で結ばれた強い仲間たち。アスランは、そんな彼らの気持ちに応えてやらな
ければならない。そして、今は亡き父の、パトリック・ザラの志を継がねばな
らないのだ。子として、アスランにはその責任があるのだ。

 

「さて、みんな……」

 

 アスランは口を開き、ゆっくりとした口調で語り始めた。

 

「宇宙では今、月のジブリールとプラントのデュランダル議長による壮絶な覇
権争いが行われている。二人とも必死だ。勝てば宇宙の支配権を確立できるが、
負ければ待っているの破滅だ」

 

 より実質的な被害で言えば、プラントの方が危険といえなくもない。ジブリ
ールと彼の部下が破滅するのと、プラント全市民の命では重みが違うはずだ。

 

「既にプラントに放たれた砲火は取り返しの付かないもので、プラントに被害
が及んだのは俺のミスだ。そこは謝罪しよう……だが」

 

 強い瞳が、アスランを見つめる者たちを射抜いた。

 

「これ以上はやらせない。俺が、アスラン・ザラがプラントを守ってみせる」

 

 アスラン・ザラは拳を高々と振り上げた。

 

「さぁ、時は来た。俺達の時代の、始まりだ」

 

                                つづく