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W-Seed_運命の歌姫◆1gwURfmbQU_第68話

Last-modified: 2008-06-02 (月) 19:33:45

「地球はすぐそこだ! 後少し、後少しで我々の悲願は達成される!」

 

 ジャスティスのビームサーベルが、ウィンダムの一機を斬り裂いた。従来の
ものを強化されたシュペールラケルタビームサーベルは、相手の装甲を紙切れ
のように斬り裂き、破壊した。
 続けざまに放たれる高エネルギービームライフルが、接近する敵機を撃ち落
とす。

 

「たかが一機に!」

 

 果敢にもビームサーベルを構え斬り込んできたダガーLは、鋭い斬撃をジャス
ティスへと放つ。

 

「遅いなぁっ!」

 

 しかし、ジャスティスの爪先に発生したグリフォンビームブレイドが、ダガ
ーの斬撃を弾き飛ばすと共にその腕を切り落とした。隠し武器ともいえる攻撃
に敵が動揺していられたのは、僅か数秒。ジャスティスのビームサーベルは、
正確にダガーのコクピットを貫いていた。
 ジャスティスの周囲にある敵機全てが、その光景を前に恐れ戦っている。目
の前にいる機体は大将機、これを討ち取ると言うことは、大将首を手に入れる
と言うことだ。

 

「なんて、強さだ……」

 

 パイロットの一人がごくりと生唾を飲む。
 大将首を取るどころではない、迂闊に近づけばこちらの首が斬り飛ばされる。
そう思わせるだけの強さを、ジャスティスは見せつけていた。
 既に戦闘開始から12時間を超える中、遂にインフィニットジャスティス総大
将アスラン・ザラが出撃をしてきた。オーブの参戦、ダイダロス基地の陥落と
いう問題に直面した彼は、自らビルゴ部隊を率いて戦場に躍り出たのだ。ウル
カヌス周辺には余剰兵力など存在しないので、彼が率いているのはウルカヌス
の防衛用に残していた機体である。これを動員することには少なからぬ異論も
あったが、アスランは一蹴した。

 

「ウルカヌスの防御はスコーピオに固めさせる。あのMAはビルゴ20体分ぐらい
の働きはするさ」

 

 20体はさすがに過剰評価や誇張であると思うが、実際性能面ではそれぐらい
はあるだろう。ただ、参謀肌の士官に言わせれば戦いとは数であり、その数を
如何に効率よく運用するかだ。機体性能に頼ったような戦略や戦術では、足下
をすくわれる可能性がある。
 とは言ったものの、現在の戦闘自体、ビルゴ兇琉掬歸な性能で敵軍との間
にある数の差という劣勢を跳ね飛ばそうとしているのだから、今更このような
ことを言う事がおかしいというものだ。第一、アスランの参戦によって押され
始めていた戦局が、再びインフィニットジャスティス側に傾いた。その意味で
は、彼の選択と決断は成功であったろう。
 だが、これは同時にアスランの限界を示していると指摘する後世の戦史家も
いる。

 

「アスラン・ザラは、正面の物事や戦闘に対処する能力に長けていた。これは
彼が優秀な戦術家である証拠であるが、彼は逆に戦局全体を見通す戦略家とし
ての資質が欠けていた。しかし、それを批難することは出来まい。彼の英雄資
質とは、戦闘における強さ、戦場の勇者としてなのだから」

 
 

         第68話「運命対不滅の正義」

 
 
 
 

 ミネルバがゴンドワナ率いるザフト艦隊と合流して、世界統一国家軍とイン
フィニットジャスティスの戦闘が行われている宙域に急ぐ中、頼みの綱であっ
たはずのガンダムチームは、意外な苦戦の中にいた。
 彼らはダイダロス基地の陥落を訊くと共にすぐに出撃の準備を始めたのだが、
そこに敵が奇襲を仕掛けてきたのだ。アスランは彼らを封じ込めるために、レ
クイエムに続く手を打ってきたのだ。

 

「トーラスが十五機に、ヴァイエイトのカスタム機か」

 

 当初、敵の戦力とその陣容から、ヒイロを始めとした誰もが敵は雑魚である
という認識をしていた。確かにトーラスは機動力に優れ、ヴァイエイトは火力
に富んだモビルドールではあるが、メリクリウスやビルゴのように高い防御力
を有しているわけでもない。普通に戦えば、まず負けるはずのない敵であった。
 そう、普通に戦えば……

 

「こいつら、何て戦い方しやがる!」

 

 デュオの叫びは、他の機体に乗るパイロットたちの心情を一言で表したよう
に思える。
 敵の戦術は、なんのことはない、いたってシンプルだ。ヴァイエイト・シュ
イヴァンはダブルビームキャノンを、トーラスはトーラスカノンを構えて、一
斉に砲撃を開始する。如何にガンダムタイプといえども高出力のビーム砲撃を
食らえば無事では済まず、確かに驚異といえる。だが、威力ほどの驚異を与え
るのは、なかなかに難しい。何せガンダムチームは超一流のパイロットであり、
敵機の砲撃に撃ち落とされるようなヘマはまずやらない。
 しかし、それはあくまでガンダムチームに限ってのことである。

 

「機体で敵の射線軸を塞げ! 突破されるぞ」

 

 敵機は集中的に、プリベンター巡洋艦に対して砲撃を繰り返してきたのだ。
恐らく、最終的な攻撃目標としてインプットされているのだろう。プリベンタ
ー巡洋艦は速度も武装もそれなりではあるが、それはあくまで艦船としてであ
る。防御力は決して高くはなかったし、モビルスーツと比較した際の機動力は
低いと言い切れるほどのものだ。

 

「俺達の弱点を完全に見透かしてやがるぜ……敵の総大将は、ホントかわいげ
のない奴だな!」

 

 ビームサイズでトーラスの一機を斬り裂きながら、デュオが毒づく。

 

「利口な奴だ。実力で敵わないと悟っているからこそ、別の方向から攻める。
月基地といい巡洋艦といい、大した戦術だ」

 

 トロワは素直にアスランの戦術を褒めるが、だからといって何時までもこの
状況のままではいられない。敵を撃破するのは簡単だがプリベンター巡洋艦を
防御しつつ、戦い続けるのは容易なことではない。それに、早く戦場に向かわ
なければ行けない状況でもある。

 

「ここは俺達で何とかする。プリベンター巡洋艦は先行しろ」

 

 五飛の提案は、ガンダムチームで敵を引き留め、その隙に別働隊戦場へ向う
というものであった。敵機が立ち塞がる最短ルートを大きく迂回するために時
間が掛かってしまうが、このままではザフト艦隊よりも到着が遅れてしまう可
能性がある。

 

「敵機を撃破次第、俺達も最短ルートで戦場に向かう。現状ではこれがベスト
だ」

 

 ヒイロの一言で、作戦は決定された。巡洋艦と共にプリベンター所属の三機、
ガンダムアクスレプオス、ガンダムアクエリアス、カスタムリーオーレオンが
先行する。戦力的には大きく落ち込むが、ここで足止めされているよりはマシ
というものだろう

 

「状況打開にはそれしかないか……よし、良いだろう」

 

 プリベンター巡洋艦が進路を変え、戦闘宙域からの離脱を計る。敵機がそれ
を追撃しようとするが、ガンダムチームの猛攻が阻んだ。
 トーラス隊は四方八方に分散し、ガンダムチームを包囲するとトーラスカノ
ンによる砲撃を行った。ガンダム各機はこれを避け続けるが、巧みに狙い撃た
れる砲火は何時しか彼らを一箇所へと集めてしまう。

 

「まずい……!」

 

 ヒイロが敵機の意図を察したときには、もう遅かった。ダブルビームキャノ
ンの出力を最大限に上げ、フルチャージを完了させたヴァイエイト・シュイ
ヴァンの砲撃が、ガンダムチームに向かって放たれた。

 
 

 その頃、最終決戦が行われている戦場では、世界統一国家軍がそれまでの陣
形と戦術を放棄し、一転して全兵力を密集させた分厚い防御陣形を敷いていた。
インフィニットジャスティスの正面に展開された兵力は世界統一国家軍の全軍、
全力、全兵力であり、彼らは一枚の銅貨もそのポケットに残してはいない。
 総司令官であるムウ・ラ・フラガさえも、今や直属の機動部隊を率いて最前
線にいるのだ。彼の乗る機体は量産機であるウィンダムを、出力面で強化した
カスタム機であるが、基本的には量産機と大差ない。ストライカーパックには
ガンバレルストライカーを使用し、ガンバレルもエグザスの物と強化されてい
るが、ビルゴには通用しなかった。ムウほどの実力者であってもだ。
 ここにきてムウが消耗戦を主体とした戦術を放棄したのにはいくつかの理由
がある。一つは分散させた部隊の戦力比が均等ではなくなったこと。さらに、
アスランの参戦で勢いづいた敵軍の猛撃に各部隊の戦力では対応しきれなくな
ったこと、戦闘の流れが速く、部隊の再編が追いつかなくなったこと、などで
ある。いずれも正当な理由だが、これは彼らが窮地に立たされたことを意味す
る。オーブ艦隊の来援によっていくらか持ち直したとはいえ、既に世界統一国
家軍側の機動兵力は3000機弱まで落ち込んでしまっている。これはアスランが
オーブの参戦という予期せぬ要素を排除し、新たな戦術を持って完璧に対応し
たからであった。
 そのアスランに自らの作戦を打ち破られたムウとしては、正直彼の計算が甘
かったとしか言いようがない。彼に余裕はなく、油断などしてはいなかった。
常識外の力を持つ敵に対し、常識外の16倍という兵力をぶつけた。

 

「16倍ではまだ足りなかった、というわけか」

 

 この兵力差すら跳ね返されるというのは、考えても見なかった。16倍という
豊富な兵力を使って敵を疲労、消耗させるムウの作戦は、逆にこちらの限界が
近づくことで崩れ去ろうとしている。敵が動けなくなる前に、こちらが壊滅さ
せられてしまう。

 

「大軍を少数で破るほど華麗で壮大なことはない。アスランが俺達の勝利すれ
ば、世界は奴の派遣を認めざるを得ないだろう……だが」

 

 それではいけない。例えアスランにそれだけの才能や才覚があるのだとして
も、覇者によって支配される世界など、あっていいはずがない。

 

「けど、俺にはもうこの状況を覆すだけの手が無い」

 

 ムウ自ら出撃して奮戦しているが、敵の勢いを止めることは未だに出来ない。
それどころか、全体として徐々にではあるが後退している始末だ。地球に到達
されるわけにはいかないというのに、防ぐことも出来ないでいる。

 

「乱雑な攻撃を止めろ! 隊列を組み直すんだ」

 

 とりあえず密集して敵に集中砲火を与えていた自軍に対し、ムウは新たな陣
形を組ませた。それはモビルスーツによる三十の横列陣であり、時間差を付け
て敵機に砲撃を行うというものであった。これによって砲撃に間隔に隙が生じ
ず、敵を釘付けに出来るのだ。

 

「我ながら情けない戦法だが……こちらの目的が敵の消耗である限りは、なん
としても踏みとどまり、時間を稼がなくてはいけないのだ」

 

 しかし、アスランの戦術はムウのそれを上回った。彼はビルゴのプラネイト
ディファンサーによる壁を作って敵の砲火を阻むと、その隙間から砲戦仕様の
ビルゴで砲撃を開始したのだ。鉄壁が敵の攻撃を弾き返し、砲火が敵の陣列を
撃ち崩す。この極めて有機的な防御と攻撃の連携を前に、世界統一国家軍は一
時潰走寸前に陥った。

 

「敵に押されるな! 数で圧迫して、押し戻すんだ!」

 

 ムウの叫びも、今となっては虚しいものだった。その数が、十秒目を瞑るだ
けで激減していくのだ。今でこそアスランは防御を怠らない構えを見せるが、
こちらの攻撃が弱体化したと感じれば、一気に全部隊に攻撃を命じるだろう。
そうすれば、我々は完全に敗北する。

 

「打つ手、なしか……」

 

 撤退も、降伏も考えてなどいない。とはいえ、このまま全員が死兵となって
戦うというのは……せめて、撤退許可ぐらいは出すべきであろうか。残る者は
残り、去る者は去るだろう。去る場所があればの話だが。
 アスランは敵の動きが鈍り、潰走寸前であることを見抜いていた。一気に攻
め入り、敵将の首を落とす。彼は完全な勝利まで後一歩の位置まで来ていたの
だ。

 

「これでいい。これが俺の選んだ道なんだ。俺は覇道を突き進み、今、覇者に
なるんだ」

 

 ジャスティスのコクピットで、アスランは呟いた。彼自身も多くのモビルス
ーツを撃破し、その強さを敵軍に知らしめていた。
 そんなアスランのコクピットに、ウルカヌスから緊急通信が入った。ウルカ
ヌスが後背から奇襲を受けたというのだ。

 

「異世界の連中か?」
『違います、ザフトです。ザフト艦隊が総攻撃を駆けてきました!』

 

 戦闘開始から既に、20時間が過ぎようとしていた。

 
 

 宇宙空母ゴンドワナを旗艦としたザフト軍独立艦隊は、月面基地を破壊した
ミネルバと合流後、すぐに最終決戦場へと向かった。強行軍ともいえる部隊は
驚くべき速度で移動し、ウルカヌスをその正面に捕らえたのだ。

 

「護衛のモビルスーツも全て出払っているようだな。これは好都合だ、全艦砲
撃開始! 撃ち尽くしても構わん、敵が引き返してくる前に敵の根拠地を叩き
つぶせ!」

 

 ウィラードは全艦に砲撃を命じた。各艦艇の主砲が火を噴き、ウルカヌスへ
と浴びせかけられる。ウルカヌスには一応、スコーピオが護衛として残ってい
たのだが、機動兵器一つで全ての艦砲射撃を防ぐことなど出来ない。

 

「モビルスーツ隊発進! 敵衛星を制圧し、敵軍と切り離せ!」

 

 ザクやグフが次々に出撃し、ウルカヌスへと迫った。この神速ともいえる用
兵に、さすがのアスランも肝が冷えた。内部制圧が行われ、ビルゴの制御を奪
われればこちらが負ける。それだけは避けねばならない。

 

「くそ、何機か着いてこい!」

 

 アスランはジャスティスを旋回させると、数機のビルゴを率いてウルカヌス
へと引き返した。それは素早い反応であったが、間に合うだけの距離ではなか
った。

 

「こんなところで、負けてたまるかぁっ!」

 

 夢は、すぐそこなのだ。父の遺志と、仲間の想い、地球はすぐそこだ。負け
るわけには、諦めるわけにはいかないのだ。
 そんなアスランの気持ちが通じたのかは知らないが、ザフト軍のモビルスー
ツはウルカヌスに近づくことが出来なかった。スコーピオが起動し、近づくモ
ビルスーツの排除を始めたのだ。銃剣ビームベイオネットが敵機を撃墜し、巨
体故に体当たりですら艦艇を貫く武器となる。

 

「おのれ、化け物が!」

 

 グフがテンペストビームソードで斬りかかる。巨体のスコーピオには回避す
ることの出来ない速度と攻撃、だが、そもそも回避する必要など無かった。ス
コーピオは機体の尾ともいえる長さを持つヒートロッドを伸ばし、グフを貫い
た。

 

「うがぁっ!?」

 

 ヒートパワーがコクピットごと機体を瞬壊させる。直撃したところでグフの
攻撃が通じたかはわからないが、スコーピオの攻防一体とした強さにさすがの
ザフト軍もたじろいでいく。

 

「ミネルバ隊は何をしている!」

 
 

 主戦力であるはずのミネルバ隊であるが、機体の整備に時間を取られていた。
デスティニーはすぐに出撃できるのだが、レジェンドとインパルスがダメだっ
た。レジェンドは機動実験も間もない機体を無理に動かしたせいで各部に僅か
な異常をきたし、インパルスは先の戦闘でコアスプレンダーが損傷していた。変
形機構などに問題はないのだが、飛行システムが作動しないのだ。

 

「動かせないわけじゃないんだし、これで行くしかないわよ!」

 

 整備班の制止を振り切り、ルナマリアは出撃を強行した。レイもまた不休で
整備を手伝い、レジェンドに乗り込んだ。

 

「二人とも、俺は先に出る!」

 

 いち早く機体の整備を終えたシンのデスティニーが出撃する。続けて、レジ
ェンド、インパルスの順に出撃していく。インパルスは先の戦闘でブラストシ
ルエットを破損したため、フォースシルエットでの出撃となる。クルーはフル
回転で作業を続け、ミネルバ内部にも最終決戦ムードが漂っている。

 

 そんな中、これはパイロットやブリッジクルーが知るところではなかったが、
医務室においてメイリン・ホークの意識が回復していた。医療スタッフは気付
いてこそいたが、戦闘中とのこともあってブリッジへの報告をしなかった。

 

「ここは…………?」

 

 医務室のベッドで目覚めたメイリンは、そこがミネルバであることにすぐ気
付けなかった。朦朧とした意識の中、姉と会話をした記憶は朧気にあったが、
それは夢想のようにも思える。ふと、隣のベッドに顔を向けると、知らない男
がベッドに腰掛けている。

 

「あなたは?」
「俺はこの艦の捕虜だ」

 

 スウェン・カル・バヤンはメイリンに一瞬目を向けると、そう答えた。捕虜
といっても彼には大体における行動の自由が許されており、艦内の移動も好き
に出来る。ただ、居場所がないので元々居た医務室にいるのである。

 

「ここは、ミネルバなんですか……」
「そうだ。お前はこの艦の脱走兵らしいな」

 

 脱走兵。事実だが、その言葉はメイリンの心に深く突き刺さった。

 

「お姉ちゃん、ルナマリア・ホークがどこにいるか知りませんか?」
「あの女は出撃した。インフィニットジャスティスと、アスラン・ザラと最後
の戦いをするためにな」

 

 アスラン・ザラ。その名を聞いて、メイリンが大きく反応を示した。少女が
恋し、少女が愛し、少女を切り捨て、少女が裏切り逃げ出した、それがアスラ
ン・ザラ。

 

「アスランは、まだ生きてる……」
「ディアッカ・エルスマン、イザーク・ジュールといった奴の片腕ともいえる
存在は相次いで戦死しているが、本人は生きてるようだな」
「あの人たちが、死んだ――!」

 

 特に会話をしたわけでもなかった。仲が悪かったわけではないが、仲が良か
ったということもない。それどころか最終的には命を狙われた。
 だけど…………

 

「みんな、みんな死んでいく」

 

 戦争。アスランは、戦争を行っているのだ。プラントに平和をだとか、世界
に正義を示すとか、そんな言葉は全て建前に過ぎない。敵であろうと仲間であ
ろうと人は死ぬ。

 

「アスランが自身の敵を全て倒さない限り、奴には死以外の運命は待っていな
い。奴が死なない限り、この戦争は終わらない」
「そんなっ!」
「人は、革命のためには戦わない。革命家と、そいつが示す大義名分があるか
ら戦えるんだ。逆にそれがなければ、戦う意味も、理由も無くす」

 

 ロッシェなどがアスランさえ倒せば良いと主張しているのは、こうした事実
からである。無論、幾人かはアスランの弔い合戦と称した抵抗を続けるかも知
れないが、彼の存在会ってこそのインフィニットジャスティス。彼が死ねば、
組織は指導者を失って瓦解するだろう。既にイザークやディアッカといった有
力者も戦死している。アスランは孤独だった。仲間を失い、自らの手で友を殺
め、それでも勝者になりたくて、戦いを続けている。

 

「あの人は……馬鹿です。一人で何でも考えて、思い詰めて」
「それが、人というものだ」

 

 呟くと、スウェンはベッドから腰を上げて立ちあがった。

 

「どこへ?」
「俺にも出来ることはあるはずだ。戦いに行く」

 

 命の対価、命の貸しがこの艦にはある。一度や二度、何かしたぐらいでは返
せないだろう。それに、今のスウェンは不思議とコーディネイターへの嫌悪感
や不快感がない。ミネルバという艦と、クルーやパイロットたちが彼の考えを
変えたのだ。

 

「最後に何をしたいか、結局の所それを決めるのは他人じゃなくて自分だ。考
え、決断し、動く。お前も自分がどうしたいのか、考えておくことだ」

 

 お前に、未来があればの話だが。
 スウェンはそう言うと医務室を出て行った。後には、メイリンだけが残され
る。

 

「私の未来……」

 

 そんなもの、あるのだろうか? 自分は裏切り者で、脱走兵だ。一度裏切っ
たのに、ノコノコと戻ってきた最悪な女。最後までアスランの側にいることも
せずに、彼の下を逃げ出した。大体、この戦闘や戦争が一段落すれば自分に待
っているのは銃殺刑だろう。軍が、裏切り者の自分に恩情を掛ける理由など有
りはしないのだから。

 

「アスラン…………私は」

 

 メイリンは痛む身体を堪えながら、無理矢理起きあがった。身体は動く。彼
女にはまだしなければ行けないことが、残っていた。

 
 

 ザフト艦隊に遅れること三十分弱、ロッシェらを乗せたプリベンター巡洋艦
がウルカヌスと離れた、どちらかといえば統一国家軍に近い位置に現れた。

 

「まだ統一国家軍側は負けていないようだな」

 

 安堵のため息をオデルが付いた。見た感じでは潰走寸前であったが、いくら
でも持ち直させることは出来る。

 

「アスラン・ザラの機影を確認できるか?」

 

 ロッシェが尋ねるが、主戦場においてジャスティスの機体を確認することは
出来なかった。出撃自体はしているようだが、ウルカヌスへと後退しているの
か、それとも……

 

「出撃しよう。今なら、まだインフィニットジャスティスを食い止めることが
出来るかも知れない」

 

 オデルの言葉に、ロッシェとブルムも頷いた。敵のビルゴ兇篭呂ほどにも
減少していないのだが、彼らにしてみればこの世界のモビルスーツでよくここ
まで持ちこたえられたと褒めてやりたいぐらいだった。
 失礼極まりない話をすれば、どうしたって勝てるわけはないのだから、攻め
て生き残っていて欲しいというのが彼らの本音だったのである。
 そんな彼らの襲来を、アスランは早い段階で察知していた。しかし、一度主
戦場から引き返してしまった彼にこれを阻むことは出来ず、彼はサトーに迎撃
を命じた。

 

「俺もザフト艦隊を壊滅させたらすぐ戻る! それまで持ちこたえろ!」

 

 アスランがウルカヌスへと戻ったことで、ザフト艦隊は奇襲における優勢を
完全に失いつつあった。たった数機のビルゴ兇鯲┐い討たに過ぎないアスラ
ンだが、スコーピオ共々凄まじい性能差を見せつけている。

 

「誰にも俺を止めることは出来ない。地球だろうとザフトだろうと、誰にもだ」

 

 突き崩されるザフト艦隊を見ながら、アスランは不敵な笑みを浮かべる。元
々数が少ないザフト艦隊など、すぐに壊滅できるだろう。そうすればもう後背
の心配をする必要はなく、スコーピオも前線に送り込める。勝利は、すぐそこ
にある。

 

「――ッ! 砲撃!?」

 

 ビーム砲の閃光がジャスティスの掠めた。ギリギリのところで回避したが、
直撃していれば一溜まりもなかっただろう。

 

「あれは……」

 

 赤い翼を広げ、ビーム砲を構えながら佇むモビルスーツ。その姿に、アスラ
ンは見覚えがあった。

 

「シン・アスカか……チッ、どこまでしつこい奴だなお前は!」

 

 ビーム砲を収納し、ビームライフルを構えるデスティニー。コクピットで、
シン・アスカが大きく息を吐いた。

 

「アスラン、あんたを倒すのは俺だ!」

 
 

 出撃したアクエリアスとアスクレプオスは、すぐにビルゴ部隊の直中へと攻
撃を仕掛けた。プラネイトディファンサーを装備するビルゴ兇枠爐蕕任△辰
も撃破するのは至難の業であるが、決して倒せないというわけではない。

 

「ロッシェ、射撃戦では不利だ。接近戦を心がけよう」

 

 パイソンクローでビルゴを砕きながら、オデルが叫ぶ。

 

「当たり前だ。生憎、この機体にはビーム兵器はないからな!」

 

 ヒートロッドでビルゴを貫き、斬り裂いていくアクエリアス。
 敵か味方かもわからない二機の出現に、統一国家軍は困惑したが、何せ相手
はビルゴのみを攻撃している。少なくとも、敵ではないはずだ。ムウはそう判
断すると、すぐにその場に向かおうと機体を動かすが、それを無数のビームが
遮った。

 

「なにっ!?」

 

 振り返ると、そこに一機のモビルスーツが居た。見たことのない機体だが、
見覚えがある機体。
 額が疼く。言い様のない感覚が、身体を支配していく。
 そう、これは――

 

「……地中海では、お互いまともに名乗らなかったな。折角だから、名前を聞
かせてくれないか」

 

 ビームライフルを構えながら、ネオは敵機に通信を送った。その通信を受諾
しながら、敵機であるモビルスーツ、レジェンドのパイロットは呟いた。

 

「レイ・ザ・バレル。それが俺の名だ」

 

聞いたことのない名前だった。当然だ、自分は知らないことが多すぎる。自分
の知らぬ間に、彼と、彼の一族は一体幾人の人を不幸にしてきたというのか。

 

「レイか……一つ問う、今の攻撃はザフトの指示か?」
『違う、あくまで俺個人の行いだ』
「個人?」
『お前は俺の兄弟たち、そして……我が分身、ラウ・ル・クルーゼの仇だ』
 ムウは言葉に詰まった。だが、それが何を意味するのかは、彼にもわかった。
「そうか、軍規を無視し、命がけで挑んできたか」

 

 そうするだけの理由が彼には、レイ・ザ・バレルという存在にはあるのだろ
う。そして、ムウにはそれを受けなければならない理由があった。

 

「俺の名はムウ・ラ・フラガ。フラガ家最後の生き残りにして、世界統一国家
代表。お前の挑戦、ここに受けるぞ!」

 

 紫色のウィンダムと、レジェンドが激突した。

 
 

 アクエリアスとアスクレプオスが戦場に出るのと入れ替わるように、サトー
の乗るブラックリーオーがプリベンター巡洋艦を沈めるために単機で突っ込ん
できた。インフィニットジャスティスはことに敵の司令塔、つまり頭を叩くこ
とに重点を置いている。これは少数戦力しか持たない彼らにとって当然の選択
であり、サトーもそれに習ったのだ。

 

「奴らの母艦を撃ち落とし、帰る家を無くしてくれる!」

 

 ドーバーガンを構え、巡洋艦へと標準を合わせるブラックリーオー。ビーム
タイプではないが、巡洋艦程度一撃で沈められる威力は持っているはずだ。

 

「これで!」

 

 ブラックリーオーからドーバーガンが発射された。砲弾は一直線にプリベン
ター巡洋艦へと飛び、これを捕らえたかに見えた。
 が、寸前のところでビームの閃光がこれを阻み、ブラックリーオーの攻撃を
防いだ。

 

「護衛のモビルスーツか!」

 

 ブラックリーオーからみて天頂に、一機のモビルスーツが佇んでいる。カス
タムリーオーレオン、ブルム・ブロックスの乗る機体であった。

 

「随分と懐かしい機体に乗ってるじゃないか……どうだい、丁度相手が居なく
て暇してたんだ。俺と勝負といかないか?」

 

 ハイパーランチャーを捨て、サーベルを抜き放つレオン。ブラックリーオー
がドーバーガンの標準を合わせる。

 

「そこをどけ!」

 

 放たれた砲弾を斬り裂き、レオンがブラックリーオーに迫る。サトーは舌打
ちしながら機体を動かし、敵機の斬撃を避けた。

 

「その機体、そいつだけは見逃すわけにはいかない。俺にはちょっとした因縁
があるのだ」

 

 古傷が痛む。機体は違うが、かつて彼に絶望的な『死』を与えた男が、かつ
て乗っていたとされる機体。それが、ブラックリーオーなのだ。

 

「ついでに、俺はロッシェから頼まれたことがあってな。この艦に乗る姫様を
守って欲しいと……守って欲しいか、あのプライドの高い男が、頼み事をする
だなんてな」

 

 ならば、答えねばならないだろう。騎士として、男として。

 

「星屑の騎士が一人ブルム・ブロックス。友との誓いを果たすために、いざ参
る!」

 

 力強い斬撃がブラックリーオーに迫る。サトーは左手に持つビームサーベル
でこれを受け止めるが、敵の一撃はかなりの重さを持っていた。

 

「何というパワーだ……だが、私とて!」

 

 出力差があろうと無かろうと、気迫においてサトーはブルムに一歩も引けを
取っていなかった。二機のリーオーが、サーベルのビーム粒子を撒き散らしな
がら斬り合いを続ける。
 イザークとディアッカが死んだ時点で、インフィニットジャスティスの力は
激減した。そして、敵にビルゴに匹敵するモビルスーツを持った戦士たちが現
れた時点で、あるいは彼らの勝敗は決まっていたのかも知れない。
 それでも、または、だからこそ、サトーは剣を振るっていた。負けるわけに
はいかない、退くわけにはいかない。

 

「死んでも、負けるわけにはいかんのだ!!」

 
 

「アスラン、あんたはさぞ満足してるだろうな。でも、それは裏切られた俺た
ちからすれば、屈辱なんだ!」

 

 デスティニーガンダムと、インフィニットジャスティスが激しいぶつかり合
いを繰り広げている。

 

「当然だな、戦いの始まりは怨恨や復讐心だ。俺が血のバレンタインで母親を
失い、お前がオーブ解放戦線で両親と妹を失ったように……だがな」

 

 急接近を掛けるジャスティスに対し、デスティニーはビームライフルを連射
することで牽制をかける。だが、その勢いは一向に衰えることを知らない。

 

「復讐心だけで戦い続ける奴に、この俺は倒せない!」

 

 蹴り上げられたジャスティスの爪先から、グリフォンビームブレード発生す
る。寸前のところでこれを避けるシンだが、デスティニーはビームライフルを
切断された。

 

「俺には志があり、大義がある。俺は義によって立っている!」

 

 ビームサーベルの斬撃を、ビームシールドで弾き返したデスティニーは、そ
のまま後方へと距離をとる。だが、アスランのジャスティスは逃がそうとしな
い。

 

「ザフトの一兵士としてしか戦うことのできないお前に、わかるわけがない」
「なんだと!?」

 

 左手にビームブーメランを構え、柄でジャスティスのビームサーベルを受け
止める。長近距離の接近戦においては、アロンダイトではやや不利なのだ。

 

「お前は兵士だ。だから戦っている。お前がその機体に乗っているのは所詮状
況に過ぎない」
「あんたは違うって言うのか!」
「そうだ、俺は違う。自ら父の遺志を引き継ぐことを決め、そのことに対して
の後悔はしていない! お前に俺のような心の底から湧き上がる衝動はある
か? 戦わねばならない理由があるのか? 復讐心に駆られて組織の歯車とな
って戦うことしかできないお前みたいなクズは、この俺の前から消え失せろ!」

 

 確かに、志や大義、もっといえば確固たる信念すらシンは持ち合わせてなど
いない。
 それを振りかざして戦い、戦う道を選んだアスランに取って、シンという存
在は邪魔以外の何者でもないのだ。

 

「アスラン、あんたは身勝手すぎる。あんたが振りかざしているのは単なる独
善だ!」
「独善だと?」
「そうさ、あんたは父親の遺志を継ぐとか、それが大儀だとか言ってるけど、
結局それはあんた一個人の問題だ! あんたは結局、後悔という名の欲望を満
たすために戦ってるんだ」

 

 砕けたビームブーメランを放り捨て、ジャスティスとの間に距離を作るデス
ティニー。

 

「あんたは志がどうだとか、大儀がどうしたとか言ってるけど、そんな信念、
それを持ってる人にしか価値がないものじゃないか! そんなごく一部の人間
しか共感できないようなものを理由に戦うこと自体が、間違ってるんだよ!」

 

 片手を突き出し、ビーム砲を放つデスティニー。ジャスティスはムー部シー
ルドでこれを弾き返すが、シンの叫びは尚も続く。

 

「前大戦でザフトを裏切ったとき、アスラン、あんたは後悔したんだ。結果が
どうであれ、あんたは父親を裏切り、見捨て、助けることが出来なかった。そ
れを後悔するからこそ、その失敗を補いたいからこそ、あんたは覇道に足を踏
み込んだんだ!」

 

 決めつけだと叫び返すことが、アスランには出来なかった。シンの言ってい
ることを否定するだけのものが、今のアスランにはなかった。

 

「古い考えを捨てられない地球はコーディネイターを差別し、認めてくれよう
としない。プラントだってナチュラルを見下して軽蔑し続けている。だけど、
それは少しずつだけど変わってきているはずなんだ」

 

 この戦争のなかで、シンは多くの人と出会い、そして別れた。それはナチュ
ラルであり、コーディネイターであり、一ついえることは彼らが皆同じ人間で
あるということだ。

 

「世界は変わる。変わっていなくちゃ行けない。そんな時に、過去のことでウ
ジウジと悩んでるような奴の、どうしようもない自己満足に付き合ってる暇な
んてないんだよ! そんなことやりたいなら、どっか遠くの、地球圏とは全然
違う場所でやれってんだ!」

 

 乱暴な口調であるが、アスランの自尊心を傷つけるには十分だった。アスラ
ンはコクピットで怒りに身体を震わせていた。

 

「俺の大儀を、父の遺志を、単なる自己満足だというのか……お前は!」

 

 アスランは初めて、明確な殺意をシンに向けた。そして、シンもそれを感じ
取ってアロンダイトの切っ先をジャスティスへと向ける。

 

「アスラン、俺はあんたを倒す。あんたを倒して、未来を掴み取ってみせる!」

 
 

 レジェンドのドラグーンが、一基、また一基と撃ち落とされていく。ビーム
ライフルに、ガンバレルに、敵の反応速度にレジェンドの攻撃速度が追いつい
ていないのだ。

 

「馬鹿な、こんなはずは!」

 

 叫ぶレイであるが、現状としてレジェンドのドラグーンは敵を翻弄するどこ
ろか、逆にこちらが圧倒されている。大型のドラグーンが一基、ビームスパイ
クを形成し、貫通弾のように突撃をする。正確に敵のコクピットを狙う一撃を、
ガンバレルが展開したフィールドエッジのビーム刃が阻んだ。

 

「遅いな!」

 

 ガンバレルごと回転を始めたフィールドエッジが、ビーム刃でドラグーンを
弾き飛ばした。レイが思わず目を見張る、神技ともいえる芸当であった。

 

「直線的すぎる攻撃は読まれやすいし、対処もしやすい。憶えておくことだな」

 

 どうやら空間認識能力ではムウの方に一日の長があるらしい。ムウとしては、
それぐらいでも有利でなければ、そもそも勝負にすらなっていなかったと思う。
レジェンドの性能もさることながら、レイの鬼神の如き攻撃はムウを追い込む
に十分だった。

 

「人の執念か……それとも、怨念かな」

 

 レイはどうか知らないが、クルーゼなら死して尚、怨念による呪いぐらいは
送ってきそうな気がする。随分と嫌われたものだが、仕方ないともいえる。

 

「俺には多くの兄弟がいた」
「何?」

 

 その言葉に、ムウが顔を顰める。

 

「出来るという理由で俺達は作られた。お前の父親のご機嫌取りに、不遜な野
望と野心を抱いた男のために!」

 

 しかし、彼らが作りし夢の結晶、キラ・ヤマトはもうこの世にはいない。レ
イは、彼を作った人間たちの理想や夢など知らない。作られた自分は人間か? 
父も母もなく、勝手な都合で生み出されたこの命は欠陥を抱えている。作られ、
生み出された欠陥品の自分は、人間ですらない。

 

――今度は完璧だ。我らの科学が勝利したのだ!
――私たちの正しさが証明されたんだ。
――これならフラガ氏だって納得してくれる。研究が続けられる。
――メンデルは、科学技術発展の聖地として歴史に残るぞ!

 

 幼き日に残る僅かな記憶。身勝手な大人たちの、自己の野心と欲望に基づい
た会話。
 俺は誰だ。ここはどこだ。周りで喋る奴らは何なんだ。
俺は……何のために生まれたんだ!

 

――史上最強のコーディネイターを作る、私たちの夢はすぐそこだ!

 

 俺は人間によって作られた。だが、果たしてそれは人間といえるのか。レイ
と、そして彼の親であり、兄であり、分身であったラウ・ル・クルーゼは常に
その悩みを抱えていた。

 

「ナチュラルでもコーディネイターでもない、それが俺達だ。誰が作ってくれ
と頼んだ? 誰が生み出してくれと願った! 俺は、俺を生んだ全てを、ラウ
を始めとした多くの俺自身を作りだし、犠牲にしてきた者を恨み続ける! こ
れは俺の、俺達の復讐だ!」

 

 そして、その根源たるフラガ一族、こいつらだけは……

 

「お前たち一族は、俺とともにここで滅びるべきなんだ!」
「それが君の出した答えというわけか!」

 

 ビームライフルの閃光が、ガンバレルの一基を撃ち落とした。ムウもビーム
ライフルを斉射するが、ビームシールドの前に阻まれた。

 

「その為にも、俺はお前に負けられない!」
「ならば死ぬ気で掛かってこい!」

 

 フィールドエッジがレジェンドの片足を斬り飛ばすが、ドラグーンのビーム
がガンバレルを破壊する。

 

「俺はここで死んでもいい。俺が死んでも、その後の未来を守ってくれる仲間
が、頼るべき友が俺にはいる!」

 

 シンやルナマリア、彼らなら、もう自分のような子供が誕生しない未来を作
ってくれるに違いない。
 残る二機のガンバレルが二連装ビーム砲を放ちながらドラグーンを迎撃して
いく。ムウの技量は、レイのそれを確実に上回っている。

 

「確かに、俺達一族は愚かだった。親父の犯した罪を否定するつもりはないし、
親父の犯したことだとして逃げるつもりも、俺にはない」

 

 ムウは、ビームライフルを連射しながらドラグーンを牽制し、レジェンドに
迫る。

 

「俺はあの時、前大戦で死んでからずっと逃げてきた。顔を隠し、名を変え、
それでも生に縋り付いてきた」

 

 醜く無様に、生き抜いてきた。

 

「生き残った者の責任が俺にはあった。その為に、俺は立ちあがった。けど、
俺の命はもう……」

 

 意味なんて、ない。
 ウィンダムのビームサーベルが、ビームジャベリンを持ったレジェンドの左
腕を切断した。

 

「くそっ!」

 

 ムウが二撃目を放つのと、レイが機体からドラグーンの一基を引きちぎるの
はほぼ同時だった。斬り込まれたウィンダムの斬撃は、浅かった。レジェンド
が突き出したドラグーンのビームスパイクが、ウィンダムの胸部に深々と突き
刺さっていた。

 

「な、に――!?」

 

 驚いたのは、レイの方であった。彼は自分の反撃が間に合わないと思った。
彼は自分が敵に、ムウに敗北したと感じていたのだ。

 

「今の俺が、君に勝てるわけがないんだ。俺には、今の俺には、守るものがな
いんだから」

 

 大切にしてきたものは、全て失われてしまった。アウルやスティング、それ
にステラといった子供たち。彼を慕い、彼も愛した人々は、彼の手の届かない
場所に行ってしまった。

 

「ステラ……そこに居るのか?」

 

 ムウ・ラ・フラガか、それともネオ・ロアノークか、誰の者とも知れぬ声が
ウィンダムのコクピットに響いた。レイは、何も言うことが出来ない。ただ、
目の前の光景を唖然として見つめている。
 ウィンダムが爆発していく、レイの一撃は、致命傷だった。
 果たして死んだのは、レイが倒したのは誰だったのか。世界統一国家軍総司
令官ムウ・ラ・フラガ、かつてエンデミュオンの鷹と呼ばれた英雄なのか? 
それとも、ネオ・ロアノーク大佐、ファントムペインの士官として多くの兵士
に慕われていた軍人だったのか……
 どちらでも、構わなかった。

 

「ラウ……俺は、俺は」

 

 レイは泣いていた。ラウ・ル・クルーゼが果たせなかったことを、レイは果
たしたのだ。彼の代わりに、彼の想いを受け継いで、レイは戦い、そして勝っ
た。

 

「これで俺も、自分を捨てられる。ラウ、ギル……さよならだ」

 

 ムウの機体がロストしたことは、すぐに世界統一国家軍旗艦ガーティー・ル
ーの知るところとなった。報告を受けたイアン・リーは、動揺も狼狽もしなか
った。

 

「インフィニットジャスティスに通信を送れ。世界統一国家軍はここに降伏し、
敗北を宣言する。これ以上の戦闘は無用である、と」
「閣下!」
「我々は負けたのだ。あるいは、始めからこうなるために戦ったのかも知れな
い」

 

 イアンは立ちあがると、スクリーンに映る漆黒の宇宙に向かって敬礼をした。

 

「フラガ司令官、いや、ネオ・ロアノーク大佐……ご立派でしたぞ」

 

 訃報はすぐに全艦隊、全軍に向けて発表された。ムウの戦死、それは統一国
家軍、インフィニットジャスティス、ザフト軍全てに衝撃を与えた。

 
 

 しかし、それですぐに戦闘が終結したかと言えばそうではない。何せ、ビル
ゴは今だ可動を続けていたし、アスランも起動停止を命じなかった。その為、
統一国家軍は訃報に悲しむ間もなく、個々の戦闘を継続せざるを得なかったの
だ。

 

「統一国家軍の司令官は死んだか……」

 

 戦場にあって、ロッシェはアクエリアスのコクピットで呟いた。側にいたは
ずのアスクレプオスの姿はなく、彼もどこかで戦っているのだろう。二人は強
かったが、それでもビルゴの勢いを止めるには至らなかった。
 止めるには、もうアレを使うしかないのだろう。

 

「プリベンター巡洋艦、こちらロッシェ・ナトゥーノだ。ミーア・キャンベル
を出してくれ」

 

 ロッシェは、ミーアに回線を繋いだ。彼女に話さなければならないことがあ
った。

 

『ロッシェ、どうしたの……? 戦闘中でしょ?』

 

 彼の身を案じ、心配する声が聞こえてくる。ロッシェはその声に微笑むと、
言葉を続けた。

 

「ミーア、いよいよ君の出番だ」
『あたしの?』
「そうだ。この戦争を終わらせるのは、君だ」
『…………』

 

 何を言っているのか判らない、そんな沈黙が通信機越しに伝わってくる。ロ
ッシェはアクエリアスを操作し、その翼を広げ始める。

 

「歌ってくれ。君の歌を、この戦場に、世界に、響かせるんだ」
『ロッシェ……』
「君の歌を、聴かせてくれないか?」

 

 ミーアには、ロッシェの意図がわからなかった。自分はラクスではない、彼
女のように歌で人々の心に訴えかけることが出来るとは、とても思えない。
 だけど、今は――

 

「わかった。あたし、やってみる」

 

 悩んでいる暇なんてなかった。自分が一度選んだ道なら、後悔せずに突き進
んでいきたい。偽物でも、紛い物でも、あたしは歌いたい、歌ってみたい!

 

「ロッシェ、あなたのために、世界のためにあたしは歌う!」

 

 それでいい……とロッシェは笑った。
 アクエリアスには秘密兵器とも言うべきとっておきがある。アスランも誰も
知らないであろうこの兵器、ロッシェはこれをただ使うつもりはなかった。

 

「戦争を止めるのは、私の役目ではないからな」

 

 ミーアの歌声が、アクエリアスのコクピットに響き始める。プリベンター巡
洋艦から、全てのチャンネルに向かって送信され始めたのだ。
 戦争を終結させる、運命の歌声が、歌姫の口から紡ぎ出される。
 今、ミーア・キャンベルは、本当の歌姫になろうとしていた。

 

                                つづく