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W-Seed_380氏_第07話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 12:59:01

私が頼んだのはボンゴレ・ビアンコ。彼はパン包みハンバーグを頼んだ。
 料理が来るまでの暫しの間、会話を楽しむ。とは言え、殆んど彼の自慢話ばかりなのだか。
 ブルーコスモスと言う団体の盟主であること、そして地球連合においてかなりの地位をを有すること、財閥の跡取りであることなどを喜々として話す。
その横顔はさながら無邪気な子供。しかし決して不快なものではない。
 いつまでも大人になりきれない子供みたいでなんだか笑えてしまう。
しかし、それがあくまで私的なものであるならば良い。公的な事に影響を与えなければよいのだが。
そんな事を考えていると、料理が来た。
ボンゴレ・ビアンコはあっさりとした塩味が特徴。海産物の磯の香りが鼻孔を心地好くくすぐる。
一口に入れ、噛み締める様に味を楽しむ。あさりの旨味が塩により一層引き立っている。これほどの物を食べられるとは……感嘆の一言に尽きる。
ムルタを見れば……。
「な……なんだこの味は!!素材が口の中でハーモニーを奏でているっ!!肉の臭みを消しているのは……
そう!黒胡椒か!?しかも大粒!!パンが肉汁を吸い込み、旨味を逃がさずに離しはしない……
全てが持て余される事なく味を表現している。これは味の革新!まさにルネッサンス!!情熱!?うーまーいーぞぉぉぉぉっっ!!」
目と口から閃光を噴き出しそうな勢いで味の解説をしている。此方での流行りなのだろうか?
 味に無頓着な人と食事するよりは幾分マシなのだが、これは恥ずかしい。取り合えず私は彼を無視して食事を楽しもう。
料理を口に運ぶ。噛み締めれば噛み締める程に広がる味という名の小宇宙。食材達が絢爛豪華な舞踏曲をを奏でる。
銀河で優雅にワルツを踊っている様な気持ち。そう、それは人知を遥かに越えた奇跡という名の盛大な宴。
 気付くと周囲からの視線が痛い。私もムルタの様になっていたのかも知れない。少し自己嫌悪。
 見ればムルタが悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「すました顔も可愛いけれど、そんな顔も良いなぁ……。ところで、君の名前を聞いていなかったね。なんていう名前なのかな?」
 私はツルリと顔を撫でる。どんな顔をしていたのだろうか。変な百面相はしていないと思うのだけれど……。

「名乗るのがが遅れましたね。私の名はマリーメイア・クシュリナーダ」
妹蘭などと偽名を名乗っても面白いのだが、そんな事をしたら『彼』にナニをされるのか分からない。あえて偽名を使う必要は無いので私は本名を名乗る。
「クシュリナーダ?おや、僕はクシュリナーダという男を知っているんだけど、まさか関係者なのかな?」
 ムルタは私の名を聞くと大袈裟にお道化た仕草で私に問う。しかしよく見ると瞳は暗い光を帯びていて決して笑ってはおらず、気配も少し変わった様に思える。
私はゴクリと唾を飲み込む。彼はクシュリナーダという男を知っているらしい。まさか父では無いが、そのまさかが有ってもおかしくはない。私や張 五飛が世界を移動したように、父も世界を移動した可能性もある。
 心臓の鼓動が早く激しくなる。彼は私の些細な変化を見落とす事はないだろう。ならば、虎穴に入るのみだ。
「その男性の名前を教えて貰わなければなんとも言えませんね。もし、トレーズ・クシュリナーダと言うのであれば、それは私の父です」
 ムルタはテーブルをトントンと指で叩き、私を舐める様に見る。まるで値踏みをしているようだ。先程までの軽薄なムルタ・アズラエルではなく、若くして高い地位についているムルタ・アズラエルが顔を覗かせている。
「やっぱりね……。あの男に何処か似ていると思った。」
 そのまさかだ。父は此方に来ているのだ。嬉しさ半分、不安半分。父は私が何者なのか知っているはずだ。娘なのか、馬の骨なのか……。
「貴方の口調からすると、父とはあまり仲がよろしくないようですね」
「そりゃそうさ。あいつはいつだって先を見通した様な事しか言わない。そして、裏で動くだけだ。決して表には出ないけど、それが頭に来る。やりたい事があるんだったら、表に出れば良い。僕に文句があるなら、ハッキリと言えば良い」
 ムルタは苛立ちを隠し切れないように語気を荒げる。父には好印象を持ってはいないようだ。
「父には父の事情があるのでしょうね」
「事情って何だ!?」
「例えば、父はこの世界の人間ではないとか」

 私は何を言っているのだろう。こんな事を言うべきではないのに。熱に浮かされた様に口が勝手に言葉を紡ぎ始める。
「ハッキリと言いましょう。貴方が信じなければ戯言と聞き流してくれて構いません」
 私はそう言うと私が知る歴史を語り始める。過去の戦乱、父の死、私の名の元に起きた動乱、異世界からやって来たこと。
「へえ、とんだおとぎ話だ。それを聞かせて僕にどうしろと?」
 ムルタは私の話を鼻で笑う。そうだろう。私がムルタならば私も鼻で一笑する。
「貴方にどうしろとは言いません。ただ、父は貴方より圧倒的に『万能』に近く、父の手は貴方が思っている以上に長いのです。雌伏の時が過ぎれば父は前代未問の災厄となり世界の前に立ち塞がるでしょう」
「トレーズはコーディネーターなのか?」
「いいえ。父はただの人です。しかし、その才能は全てにおいて誰よりも優れています。奇跡みたいな存在ですよ、父は」
「僕にこんな話をして、何のつもりだ?気に入らないよ、お前」
「私は意外と貴方が好きですがね……。私は、父を越えたいだけですよ。父はかつて『敗者になりたい』といいました。父が世界の為に災厄となるのであれば、それを撃ち果たすのは娘であるはずの私の役目です。」
 ムルタは私の言葉に目を丸くする。
「君みたいな可愛い子が僕の事を好きって言ってくれるのは嬉しいけどね……。僕には君の考えが分からないな。娘である『はず』とか……君の言葉は良く分からないね」
「ええ。本当に私はトレーズ・クシュリナーダの娘かどうか解りませんありていに言えば、私は貴殿方の言うコーディネーターなのかも知れません。しかし、私は父を越える事で、この世界の戦乱を収める事で私が父の娘であると証明したいのです」
 ムルタはコーディネーターという言葉に激しく反応する。

「コーディネーターの可能性があるのにコーディネーターであることの可能性を否定する?何故なんだ?」
 今度は私がムルタを鼻で笑う。
「私に言わせればコーディネーターはエゴの産物なんです。押し付けられただけの物に過ぎません。故に、悲しい存在ですよ」
「しかし、実際のコーディネーターは僕達ナチュラルの驚異となる!」
「そうかも知れません。しかし、コーディネーターもナチュラルを驚異と思っているのかも知れません。……此処でこれ以上の議論をするべきでは無いでしょうね。店に迷惑がかかりますから」
 周囲を見回すと白い目で見られている。これはちょっと恥ずかしい。ムルタも同様のようだ。
「確かに。君がよければ僕と一緒にこないか?話の続きもしたいし、何より君に興味が湧いてきた」
「望む所です」
 ムルタは立ち上がり、私を誘う。私はその誘いに乗ろう。誰の為でもなく、私の為に。

 ……余談ではあるが、ムルタは自信満々でキャッシュカードを出したがこの店はキャッシュカードを使える店では無いので会計で少しゴタゴタした。やっぱりこの人は子供だ。

――to be continued――