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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第22話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:54:42

第22話「俺は不可能を可能にする男だ!」

「取引…」
「まあ立ち話もなんだし、ひとまず艦長室に来たまえ」

突然自分の目の前に現れたデュランダル。
そして彼は本来逮捕されるべきである自分が逮捕されず、「取引」を持ちかけてきている。
それにどういう訳かわからないが、レイやガロードまでデュランダルと出てきた。
この後、自分は一体どうなるのか、それがさっぱりわからないままシンは、周囲の兵士達に促されて艦長室へと入って行った。

デュランダルは、普段はタリアが座っている席に深々と腰掛けていた。
だが、長身の彼にとってその椅子は小さいのであろう。足を組み、肩の辺りを窮屈そうにしている。
自分は、本国への護送を命じられていたステラを命令に背いて連合へ返還し、後は処罰を受けるのみであったはずである。
今ここで自分を眺めている理由は何なのか、思考が堂々巡りでちっとも前に進まない。
一方、状況を理解できず、狼狽している自分を見透かしているのであろう、
少し邪悪な微笑みを浮かべながらデュランダルがこちらの方向を見ている。

「やあ元気そうだね、シン」
「…自分のしたことは自覚しております。覚悟はできて…」
「まあ落ち着きたまえ、言っただろう、取引をしに来た、とね」
「………はい」
「連合のエクステンデットの研究基地の話は私も聞いたよ。目を覆い、耳を塞ぎたくなるようなものだったみたいだね。
 私もその報告を受けて、その視察に来たんだ。前に言っただろう、私はロゴスと戦う、と。
 あの研究所もどうやらブルーコスモスやロゴスがバックについていたらしい。
 だからわざわざここまで足を運んだのだよ。どういうことかわかるかい?」
「いえ…それは…」
「率直に言えばパフォーマンスさ。私はいずれロゴスの存在を公表し、宣戦を布告する。
 そして、その時に世界に訴えかけるための素材が必要なのだよ。
 ロゴスの非道の行いを世間に知らしめて、人々の沸きあがる怒りを私が代弁するためには、
 私自身がここにある研究所跡地でその非道を直に目の当たりにした、という事実が必要なのさ」
「おっしゃることはわかります…」
「さてここからが本題な訳なんだが、率直に言おう、君に私の『共犯者』になってもらいたい」
「共犯者ですか…?」
「そう、共犯者だ。君が連合のエクステンデットとどのようにして出会い、彼女を連合に返したのかは聞いている。
 この話は軍人としては問題が大きい、いや軍人としては問題外だろう」
「も、問題外・・・」
デュランダルの容赦のない言葉にシンは少し凹んでしまうが、デュランダルはそれに構わず喋り続ける。

「だが、世界の人々には偶然知り合った敵兵、しかもロゴスの非道の行いの結果生み出された悲しき人間兵器を
 助けるために、軍規を破ってまでその命を救おうとした1人の兵士がいた…
 人々の心に訴えかける、ドラマティックな話じゃないか。世間に訴えかける材料としては申し分ない。
 しかも1人はナチュラル、1人はコーディネーター。ナチュラルとコーディネーターが手を結びロゴスを倒すために、
 これから力を合わせていこうとのメッセージを伝えるのにうってつけさ。
 だから、君には、私がロゴスに戦いを挑む時に手を貸して欲しい。
 どのようにして出会い、どんなことを話し、どんなことを思って彼女を連合に返したのかを。
 そして人々の希望、平和への想いを背負ってロゴスと戦うために先陣を切る戦士、という役割を担って欲しい」

この時シンはガロードの言っていた意味、腹黒く油断ならない人物だ、という意味がわかった。
つまりデュランダルは、シンのやったことを、ロゴスを倒すための道具の1つとして利用させろ、と言っているのである。
デュランダルは、ザフトにとって研究素材として価値がある生きたエクステンデットとしてのステラを失った代わりに
その損失を、ロゴスと戦うための宣伝材料…世界を巻き込んだ戦いで利用することにしたのだ。

ここで断っても、デュランダルはシンを殺し、ザフトにとって都合の言いように事実を改竄した上で宣伝に使うこともできる。
取引に応じれば応じたで、デュランダルは、上から語るような訴えかけ方と違った、
戦場で戦う1兵士のする、生の事実のように聞こえる話を世界に伝えることができるのだ。
形の上では取引という形式を取っているが、実質的には取引を断ることはできないし、
断ることによるデメリットの方が遥かに大きい。

確かシンは戦闘に関しては高い能力を持つ。しかし、彼は一兵士に過ぎない。
一国を治める上で清濁併せ呑んできた政治家のデュランダルの方が一枚も二枚も上手であった。
しかも、シンがこの話に応じれば、シンは助かるし、デュランダルは、シンの罪を問うことなく
インパルスという強力なMSのパイロットをザフトのために使い続けることができるのだ。
シンは腹を括った。

「…俺でよければ議長の力にならせてください」
「頼りにしているよ、シン」

デュランダルのとてもにっこりとした顔がシンには印象的だった。
(悪い人ね…)
ちなみにこの時横にいるタリアは、この黒タヌキの手玉に取られた人間がまた1人増えたことを呆れながら見ていたという。

(やっぱ喰えないオッサンだな)
その光景を見ていたガロードが抱いた感想である。
ガロードがカタパルトを開いてシンを見送り、逮捕されて身柄を拘束された後、
しばらくしてからデュランダルは護衛機を数機連れてやって来た。

そしてデュランダルはガロード、レイ、ノイマンの身柄拘束を解かせてから、1人1人を呼び出した。
形の上ではザフトに雇われた傭兵という身分であるが、実質的にはユウナから借りた戦力であるガロードを
デュランダルも処罰することは避けたかったのである。
そして、デュランダルは、自分の目的を達成するための重要なコマとしてユウナを必要としていたため、
現状でユウナの力を殺ぐようなことはしたくなかった。
もっとも、ユウナ自身がそのことを今現在認識はしていなかったのであるが。
そこでガロードが提示されたのは自分の有事の際まではザフトに協力する、というものであった。
留保事項にユウナの不利益とならないよう配慮することが付け加えてあったことから、事実上の現状維持であるといえよう。

その頃、北方の連合軍基地にネオ・ロアノークはいた。
迎えの兵に渡されたコートを羽織ながら、奥へと運ばれていくステラに目をやると、
白衣を着た研究者と思しき連中が何やらデータを照合しながら措置を施していた。
端から見ても人間を治療しようとしている風に見ることはできない。
連合にとってステラ達エクステンデットは人間ではないのである。

「ロアノーク大佐、ジブリール卿がお呼びです。至急お越しください」
黒いスーツを身に纏った執事風の男がネオに伝言を伝えてきた。

また無茶な注文を付けられるのかと思うとネオは頭を抱えたくなったが、
彼も今はロゴスの盟主であるロード・ジブリールに言わなければならないことがあった。
シンと交わしたステラを戦いのない場所に返すという約束をどこまで実現できるかは定かではない。
だが、彼自身、まだ子供であるスティング、アウル、ステラを戦闘に駆り出すことを望ましいとは思っていなかったし、
出来ることなら人並みな人生を送らせてやりたかったのである。
執事風の男に案内されたのは、軍の基地内とは思えないほど広く、高級そうな椅子や机が並べられている部屋であった。
奥ではクリーム色の高級そうな服を纏い、膝上に黒い猫を乗っけている男がいる。
ブルーコスモスの母体、軍需産業複合体ロゴスの現盟主、ロード・ジブリールである。

「やぁネオ、損失扱いになってたエクステンデットが戻ってきたそうだね」
ジブリールは親友に語りかけるような口調で話しかけてきた。

(チッやっぱりモノ扱いか)
「はい、今は治療を受けております」
ネオはジブリールの言葉でやや気分を害したが、それを表面に出すわけにも行かないので、適当に話をあわせる。

「そうか、ところで君に見せたいものがあるんだが、見てくれるかね?」
「見せたいもの…デストロイが完成したのですか?」
「いや、デストロイは君も製作途中のものを見たことがあるだろう。私が見せたいのは別のものだよ」

ジブリールはワイングラスを手にしたまま立ち上がり、手元のスイッチを押す。
すると、部屋の壁が2つに開いて、部屋の中に寒気が入ってくる。
そしてその奥には緑色のMSと思しき物体が3体置いてあった。
ジブリールに促されてそのMSの下へとネオは歩いていくが、そのMSにはまったく見覚えがなかった。
最初はザフトのザクかとも思ったが頭部の形が明らかに違う。
強いて言うのならアビスやカオスなどのG系統に近い。

「…新型、ですか」
「んー、新型といえば新型だが、新型でないといえば新型ではないな」
「どういうことです?」
「この3機のMSは私にも出所がまったくわからないのだ。
 専門家に調べさせたが、技術系統もどこの国、組織のモノとも合致しないらしい。
 未知の組織のものであっても、まったく技術系統が異なるということは通常ありえないことからすると、
 可能性としては異世界から突然現れた、としか説明できないのだよ」
「盟主殿は以外とロマンチストなのですな」

ネオはジブリールの話を半信半疑で聞いていた。
いい歳をした大人が異世界からやってきたMSだなどと聞かされたら、普通はそれを言っている者の頭がおかしいと考える。
ネオは、ジブリールがまともな神経をしているとは全く思っていなかったが、
それでも妄想を垂れ流すような人間ではなかったので、大方何かの冗談であろうと考えていた。
だが、ジブリールの顔は真剣そのものである。
「私も、この機体が異世界のものだと聞かされたときは、
 そんな報告書を出してきた人間をクビか僻地に左遷してやろうとも思ったのだが、
 それがなかなかどうして報告書を読んでみると思っていた以上に面白くてな。
 装甲に使われている物質の硬度はこの世界の通常装甲とは比べ物にならないほど強固な上、
 他にも愉快なオプションが色々ついていたのだよ」
「オプション?」
「ああ、これら3機のMSのうち、人間が操縦するコックピットは1機だけにしか付いていなかった。
 これが一体どういうことなのか、わかるかいネオ?」
「!?まさか…ドラグーン」
「流石だな。このMSは我々の世界にあるドラグーンと似ている技術で、特殊な能力で動かしているらしい。
 コックピットが付いていた機体の損傷が激しかったため、
 3機あったコックピットなしの機体の中で損傷が大きかったものをばらして修復に使ってしまったが、
 ようやく修理完了の目処がついた」
「ですが、その技術は使えるのですか?」
「もちろんだ。ドラグーンやガンバレルの使用に必要な特殊な空間認識能力があれば機動できるらしい」

ドラグーンなどを使うためには特殊な空間認識能力が必要とされている。
その能力を持っている者は、確かに存在しているがその数は決して多くない。
そして、現在の技術ではMS型のドラグーンは、当然実用化はおろか実験機すら作られていないのだ。
にもかかわらず、目の前の機体がそれを実現しているのだ。
この技術を使ってMS型ドラグーンを作れば、1人のパイロットが複数の機体を操ることだできるし、
自分がコントロールするのであるから連携を取ることも困難ではない。
この機体は明らかに戦況を覆すための力足り得るものであった。

「ネオ、まだ驚いていてはいかんぞ、ドラグーンの方のMSには面白い映像が残っていてな。
 この機体の能力の高さがよくわかる」

ジブリールが懐から取り出したリモコンのスイッチを押すと、近くのモニターに電源が入る。
そしてそこに映し出されていたのは、GX、エアマスター、レオパルド、
ダブルエックスを一斉に相手にしてもなお優勢に戦うこの機体の姿であった。
「これは…オーブのダブルエックスに、ザフトが使ってるダブルエックスモドキ、
 それにプラント攻略戦で出てきたザフトの新型のG2機ではないですか!?」
「その通り。残念なことにサテライトキャノンとやらは付いていないようだが、
 このMSならば使いようによってはダブルエックスにも勝てる。当然、コーディネーターどものMSなど言うまでもない。
 この機体、ロシア語で夜明けを意味するらしい。
 今の苦しい状況をひっくり返す、まさに夜明けを導くためのMSに相応しい名だよ。
 次の作戦には間に合わんが、そう遠くないうちにこの機体は使えるようになる。
 頼むぞネオ、君なら使いこなせるはずだ」

今しかない!ネオは直感でそう思った。

「条件があります」
「珍しいな、言ってみろ」
「今現在残ってるエクステンデットを全て戦いと関係ない場所に戻してやっていただきたい」
「…何を言い出すかと思えばそんな…話にならんな」
「それならば私はこの機体には乗りません」
「馬鹿なことを言うな、気でも触れたか?そんな我侭が通るはずなかろう」
「いいや、通らないのなら無理やり通すだけです」

そういった途端、ネオはジブリールの首を掴むと、その後ろにあったコンテナにジブリールを叩きつけて銃口を突きつける。

「な、貴様こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
「知るか!今、この場でお前を殺して、お前の悪行の数々の証拠と承認と首と、
 そしてデストロイにこの機体を土産にしてザフトに寝返ることもできるんだぞ。
 お前が俺の要求を聞けばザフトだろうがコーディネーターだろうが皆殺しにしてやる!
 俺は不可能を可能にする男だ!
 お望みとあればドラグーンにしたデストロイでも核でも何でも使って宇宙の砂時計を全部叩き落してやる!」
「わ、わかった…言う通りにする。だが準備も必要だ、ヨーロッパの反抗地域殲滅作戦が終わるまで待ってくれ」
「…破ったらどうなるかわかってるだろうなあ!?」
「も、もちろんだ。私はコーディネーターどもさえ根絶やしに出来れば手段は問わん」

それを聞いてネオはジブリールから手を離した。
自分でも恐ろしいことを言ったことがわかる。彼はステラ達エクステンデットのために、
悪魔に魂を全て売り渡し、その手を全コーディネーターの血で染めることを決意したのだ。
自分が言ったことを実現すれば自分は人類史上に残る大虐殺を行なった人間となるであろう。
だが、ネオは、こうするより他にシンとの約束を果たすことはできなかった。
いや、もしかしたらシンとの約束をする以前からこうなることを自分は望んでいたのかもしれない。
彼自身が、ファントムペインという半ば非合法な軍隊の責任者でありながら、部下から大きな信頼を得ているのも、
部下達への配慮や優しさがあったからであり、根の部分ではネオは優しさを捨てきれなかったのである。

「どいつもこいつも狂ってやがるな…」
ネオは目の前にそびえ立つラスヴェートを見上げながらそう呟いた。
ヨーロッパ殲滅作戦が開始されたのはそれから間もなくのことである。