Top > X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第27話
HTML convert time to 0.005 sec.


X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第27話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:56:16

第27話「お前と一緒にいられて楽しかったよ」

「ん…ここは…」

アスランが目を覚まして最初に見えたのはカガリの姿であった。
アロンダイトの攻撃のコックピット直撃を何とか回避したものの、グフを落とされて負った傷のせいで、今まで意識不明だったのである。

「よかった、心配したぞ。ここはエターナルのお前の部屋だよ、ダコスタが助けてくれたんだ」
「エターナル?この感じ…宇宙なのか?そうだ、ルナマリアは?」
「お前、少し落ち着け。お前と同じで大した傷じゃない。少し寝てれば治るってさ。
 ダコスタから聞いたよ、アークエンジェルで孤立してたお前をたった1人で信じてくれてたらしいな。きっとお前のこと好きだったんだろ」
「い、いやそんなことを考えたことはなかったが…それよりキラは無事なのか、あいつが落とされるなんて…」
「大丈夫、今はバルトフェルド達と今後のことを話してるよ。お前が寝ている間も色々あったんだぞ」

カガリはアスランが眠っている間に起こった出来事を話した。
ロゴスの面々の末路、融和を始めたナチュラルとコーディネーター、そしてネオ・ジェネシスの発射…

「そうかそんなことが…いや、でもよかったよ、またカガリに会えて」
「…どうせ会うんならオーブで会いたかったよ」
「…そうだな、議長を倒してオーブをセイランから取り戻して世界は平和になる」

(やっぱり…)
カガリの中に諦めに似た感情が生まれた瞬間であった。
今まではきっとアスランも自分の話を信じてくれると思っていた。
しかし、今の彼の言葉はカガリの希望を粉々に打ち砕いた。

「なあアスラン、きっとユウナはオーブをよくしてくれるよ。今のあいつにはガロードがついてる」
「君までガロードか!一体どうしてあんな奴の言うことを信じるんだ!?」
「そっか、お前は知らないんだな、信じられないかもしれないが、あいつらは異世界から来たらしい。
 それであいつらのいた世界ってのは戦争をし続けて一度滅んでしまったらしいんだ。
 私も初めに聞いたときは正直言って信じられなかったよ。
 でも作り話にしちゃあ出来すぎだし、ダブルエックスを調べた専門家も、
 この世界とは違う世界の機体と考えるのが妥当だ、って言ってたよ。構造やら技術系統やらが違うらしい」

アスランの中にはだんだんと苛立ちが生まれてきていた。
得体の知れない、しかも強大な力を持っている連中の言っていることにカガリがまるめこまれている、と彼には思えてならないのである。
挙句に、異世界から来た、と言われたらどう反応すればいいかもわからなかった。

「そんな御伽噺みたいなことを信じられるはずないじゃないか!君はセイランに騙されてるんだ!
 あいつは議長と手を組んで君もオーブも好きなようにしたいだけだ!」
「私はそれは違うと思うよ」
「違うものか!あいつが俺がプラントに戻る前に言った台詞を知ってるか!?
 俺が君といたいなら代表をやめさせろ、君に代表をさせたいなら結婚させろだぞ!どちらにしたってあいつが結局はオーブを手にする算段だ」
「確かにそう聞こえなくもないけど、あいつは私達に選択肢をくれた、とも言えるんじゃないか?
 私だってもちろん、お前と一緒にいたいよ。でも、あいつはお父様が決めた婚約者だ。国民もそれを知ってる。
 ユウナにしてみれば、お前は横から私をさらっていって、さらに国まで自分の手から奪っていく風にも見えるんだと思うんだ」
「どうしたんだカガリ!どうしてそんなにセイランの肩を持つんだ!?
 俺とセイランの言うことのどっちを信じてくれてるんだ!?」
「私だってアスランの言うことを信じたいよ。でもお前も私とキラとどっちを信じるんだよ!?
 確かに私の言ってることは突飛かもしれないけど、お前は一切私の言うことを信じてくれようとしてくれないじゃないか」

カガリには、アスランが彼女の言い分をまったく耳に入れず、
キラの言葉ばかりを鵜呑みにして判断していることが腹立たしくもあり、悔しくもあり、そして悲しくもあった。

「キラは俺達の仲間じゃないか!仲間の言うことを信じて何が悪い!?」
「じゃあ私は仲間じゃないのか!私の言葉はお前に届かないのか!?」
「目を覚ましてくれカガリ!君はガロード達のペテンと口車に乗せられてるだけだ!」

カガリの中で何かが音を立てて崩れていった。
彼女にとっては結局、自分の言い分をアスランは何一つ聞いてくれなかったに等しい。
それが彼女にとっては最も辛かった。
カガリはアスランに、自分が愛する男に自分を信じて欲しかったのである。
それが敵わなかったことが全てを決定したと言っても過言ではない。
とはいえ、怒りや悲しみといった感情はない。ただ虚しさだけがカガリを支配していた。
そして、その虚しさを知ったとき、カガリの右腕はその左手薬指へと吸い寄せられていった。

「なあアスラン…今までありがとな。お前と一緒にいられて楽しかったよ」
「え…お、おい待ってくれカガリ!カガリ!!」

カガリの指から外された指輪がアスランの手に移され、カガリはその部屋を後にした。
それは全てが終わりを告げた証であったといえよう。そして彼女の瞳に不思議と涙が溢れることはなかった。
その代わり、大きな、とてつもなく大きな空虚感があった。

カガリがアスランの部屋を出てエターナルの通路を歩いていると、見覚えのある顔の女性とすれ違った。
アーモリーワンで自分に銃口を向け、地球降下後にアスランから射撃の訓練をしてもらっていたルナマリアである。

「ルナマリア、だったよな、どこに行くんだ?」
「ア、アスハ代表…アスランさんが目を覚ましたってダコスタさんが教えてくれたから様子を見に行こうと思って」

味方を裏切ってまでアスランを助ける手伝いをしてくれたというルナマリアの行動を思うと、1つのことが浮かんでくる。

(こいつ、やっぱり好きだったんだな、アスランのこと)

「あいつのこと、頼むよ、根は悪い奴じゃないんだ、ちょっと頼りないけどさ」
「へ?」

この言葉は今のカガリに言える唯一のものであり、これによりルナマリアはキョトンとなるが、
不器用だけど優しく時折優柔不断でケガばっかりする、かつて愛した男へのせめて最後の思いやりであった。

他方のアスランもカガリのただならぬ態度、特に渡した指輪を突っ返されたことに呆然としていた。
確かにカガリの言うことにも一理あるかも知れないが、それだけでなく指輪を返されたのではやはり思考が追いつかなかったのである。
そしてそれと同時にたまらない不快感がアスランを襲った。
自分は議長やセイランを倒してカガリがオーブを取り戻すために戦っていたのに
どうして別れを告げられなくてはならないのかがわからなかった。

「クソっ!」

投げつけられた指輪が壁にぶつかって床に落ちた。そのときルナマリアがアスランの部屋に入ってくる。
頬に絆創膏をつけてはいるが、それ以外は普段とほとんど変わっていない。どうやら軽症で済んだらしい。

「どうしたんですかアスラン?」

ルナマリアは、まるで何かに取り付かれたかのようなアスランの姿に少し驚いた。
そして自分の足元に落ちている指輪に気付いて拾い上げる。

「これ…」
「何か用かルナマリア?」

アスランの声が明らかに震えているのがわかった。

「アスランが目を覚ましたって聞いたから…」
「ああ、最悪の寝覚めだがな」
「ど、どうしたんですか、少しおかしいですよ?」

一瞬であるがアスランの時が止まった。
おかしい、その言葉はカガリから別れを告げられたことでギリギリの心理状態であったアスランの心という
ダムの壁に小さな穴を作ってしまった。

「おかしい!そうだ、おかしいじゃないか!議長はきっと何かを企んでる!ユウナ・ロマも裏で繋がってる!
 カガリは騙されてるんだ!なのにどうして俺が責められなくちゃならないんだ、俺が責められるなんておかしいじゃないか!
 俺はカガリのためを思ってやってきたんだぞ!復帰したザフトを裏切って拘束されて…
 それなのに…ガロードなんていう訳のわからない奴が来て全てがおかしくなった!」
「お、落ち着いてください、アスランらしくないですよ」

ルナマリアはここまで興奮したアスランを見たのは初めてであった。
だが、カガリと何かよくないことがあったこと、そして落ちていた指輪を合わせて考えると、何があったのかは大体想像が付く。

「あいつが、ガロードが現れてユウナ・ロマが、金持ちのボンボンみたいな嫌味な奴がいきなり変わった!
 シンは隊長だった俺の言うことなんて何一つ聞かないくせに傭兵扱いのガロードの言うことはひょいひょい聞いて、
 そんなことはどうでもいいとしたって、今度はカガリが俺の言葉を聞いてくれなくなった!
 みんなあいつのせいだ!あいつはいるだけで俺を苦しめる!あいつが…」
「アスラン!」
「うるさい!」
「キャアっ!」

アスランが心配そうに近付いてきたルナマリアを突き飛ばし、ルナマリアが床に倒れ込んだ。
カガリから別れを告げられたことでアスランは完全に我をなくしていた。
別の言い方をすれば、今まで自分が意識していた目的というものを失っていた。

「…私はアスランが優しい人だって知ってますしアスランの言葉を聞いてます
 …今までだってアスランについていってたじゃないですか…」
「それでもカガリは俺から離れていったんだぞ!」
「私はこれからもアスランの言うことをちゃんと聞きます…お願いです信じてください…」

ルナマリアの頬から涙が落ちていた。
彼女は自分なりに必死にアスラン・ザラという人間についていっているという自負がある。
だからこそ妹や両親がいるプラントを、ザフトを裏切ってアスランを助けたのである。
自分が信じてもらえないことの悲しさを、自分と同じ気持ちを現在味わっているアスランのことを思うと、彼女は涙が止めらなかった。

他方、倒れ込んで少しめくれたスカートから見えるルナマリアのスラリと伸びた脚がアスランの目には入っていた。
そして、愛する女が言った言葉が脳裏をよぎった。

きっとお前のこと好きだったんだろ

「ルナマリア、本当に俺の言うことをちゃんと聞くんだろうな…?」
「………はい」
アスランは、行き場をなくした愛情と悲しみとやるせなさの捌け口を求めていた。
言い換えれば、自暴自棄になっていた、と言うこともできるであろう。
心の隙間というにはあまりに大きな穴を埋めるために捌け口を求めた者と、捌け口となることを望んだ者、
あまりに悲しさと虚しさと人間の弱さによって構成された関係が生まれ、新たな悲劇の種が蒔かれたのであった。
3名の悲しいやりとりがなされているころ、エターナルのブリッジでは今後の作戦の確認がされていた。

「それじゃあ新しいフリーダムとジャスティスの完成とマーズのドムの修理が完了し次第、
デュランダルを討ち、
 それと同時に議会を制圧、掌握する、ということでいいな?」
「ええ、メンデルで発見されたノートに書いてあった、遺伝子で全てを決める世界、このようなことが
 実現されてしまうなど、許されるはずがありません。
 ジェネシスを躊躇いもなく撃ったデュランダル議長をこのままにしておいたら世界は滅んでしまいます」
「そうだね。議長を討ってプラントを平和にして、オーブをセイランから取り戻せば、きっと世界は平和になるよ」
「はい、私達の行く道は困難かもしれません。ですが、夢を見る、それは全ての人に与えられているもの、
 それをなくしたのでは人は人ではいられなくなります。そのためなら戦ってもいいのです」

ラクスの言葉にキラは、シンに撃墜されてから失いかけていた気力を取り戻していた。
だが、他方でバルトフェルドとしてはいきなりの武力行使に戸惑いがあった。
敵である者を全て滅ぼせばそれでいいのか、とキラに問いかけたのは他でもない、彼自身であるのだから。

「…だが、証拠がこのノートだけでは弱い。それに市民や議会が反対するかもしれん。議会の制圧はやりすぎじゃないか?」
「今、人々はデュランダル議長の言葉に踊らされ、何があるべき正しい判断なのかを見失っています。
 ですからそれをわかっている私達が議長を倒し、世界を守り治めていかなければならないのです。
 世界は議長のものではないのです」
「そうか…」

ラクス・クラインに迷いはない。
デュランダルは自分の命を狙い、影武者を使って自分の影響力を利用して、
デスティニープランという遺伝子が全てを決する社会を作って世界を滅ぼす人間なのだから、
世界のものである自分が、世界を滅ぼさないために、滅ぼそうとする者を討たなければならない、これが彼女の思考の出発点である。
だからこそ、ストライクフリーダムやインフィニットジャスティスを、ドムやエターナルを用意させたのである。

そして、そのためにはクルーゼとの戦いで傷ついたキラを戦わせなければならない。
これは自分も辛いことであるが、自分は世界を守らなければならないから仕方ない。
デュランダルのために自分に立ち塞がる者がいたら、命までは奪わなくとも、排除しなければない。
その者は世界を滅ぼさんとしている者に利用されて、世界を守ろうとしている自分がしていることを妨げてくるのであるから。
討つことを望みはしないが、討ってくるから、自分の言うことを聞いてくれないならば討たなければならない。
自分は世界を守らなければならないのだから。
この思考は、彼女の父親、シーゲル・クラインが健在のときから、自分は平和を望む人間として人々の前に立ち、
讃えられ、平和の歌姫として人々を導くことを望まれたことに端を発しているものであろう。
故に自分のいく道が平和へと続き、自分の作るものが平和だと考えているのであろう。
自分が行く道を歩き続けることを鉄の信念で貫き通すのが、ラクス・クラインが選んだ生き方であった。

かつて砂漠の虎と呼ばれた名将の姿は、砂漠を離れて以降、小さくなる一方であった。
アイシャを失ったことで、憎いから殺し合いを続ける、という構図をなんとかして除去し、平和な世界が作られることを願ったから
ダコスタの誘いに乗ってザフトを裏切ったが、
今の上役は、敵である者が自分の言うことに従わない場合には武力を行使して自分を押し通している。
一体、いつから自分はここにいるのが当たり前になってしまっていたのか、殺し合う世界を嫌っても結局、最後も力なのか。
だが、彼にはここで重ねてきたことが多すぎていた。