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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第31話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:57:30

第31話「アスラン…」

ガロードのGXにミネルバを任せて、メサイア防衛部隊との戦闘を再開したストライクフリーダム、インフィニットジャスティスをシンとレイは追っていた。
2人ともキラ・ヤマトに浅からぬ因縁があり、自分がキラを仕留めたいと思っている。
そして、デスティニーにレジェンドから通信が入る。
だがシンは、その用件が、シンとレイのどちらがキラの相手をするか、という話なのだと察していた。

「シン、頼みがある。俺にフリーダムをやらせてくれないか」
「やっぱそのことか…なら条件がある」
「…聞こうか」
「絶対に倒せよ、あの野郎を」

シンにはレイに対して1つ負い目があった。
ベルリンで、ガロード、レイの助けを借りることにより、フリーダムを撃墜こそできたが、その中身、キラ・ヤマトを倒すことは出来なかったことである。
それは、レイが己の持っている因縁を置いてでも、ステラや家族の仇を討つためにシンに協力した、ということを意味している。
この借りを返すときが来たのだ、シンにはそう思えていた。

「フッ、当然だ」

一言だけ答えてレジェンドはストライクフリーダムの方へと向かって行った。
シンは、それを見送って、自分もインフィニットジャスティスが向かった方向へとデスティニーを向かわせた。

シンの戦いはキラ・ヤマトにより家族を失ったことで始まったといえる。
そして、プラントへ渡ったシンはアカデミーでレイやヨウラン、ヴィーノ、ルナマリアらと出会い、アーモリーワンでインパルスに乗ることになり、ユニウスセブンでサテライトキャノンを目の当たりにして、オーブで、ダブルエックス、ガロード・ランと出会い、キラ・ヤマトと再びオーブで出会った。
さらに、インド洋沖の戦いの後、ガロードから異世界の話を聞き、ディオキアでステラを守ると約束した。

だが、結局ステラを守りきることはできず、ステラを奪っていった者はシンから家族を奪ったキラ・ヤマトであった。
シンが、キラ・ヤマトをこのまま生かしておくことはできない、と考えるようになったのは、フリーダムを撃墜した後に、キラの生存を聞いたときからであった。
憎しみが消えたわけでは断じてない、だが、家族やステラを奪われた憎しみと同時に、己の都合のみでその力を無秩序に振り撒き、悲しみを拡げていくキラ・ヤマトという人間を戦場で生かしておくべきではないと思うようになっていたのである。

シンがインフィニットジャスティスを追っていると、デスティニーの目の前に見覚えのある1機のMSが現れた。
そのMSはインフィニットジャスティスのバックからフォローするように追随して、追手のザフト軍のMS部隊を撃退している。

シンはその機体をよく知っていた。
彼が守りきれなかったエクステンデットの少女ステラ・ルーシェが搭乗することを強いられてきた、当時のザフトの新型MS、ガイアである。
そしてガイアを見ると同時に怒りと悲しみが彼の中に湧き上がって来た。

「あいつら…よくも…!」

デスティニーはビームライフルを手に取り、ガイアへと向かって行く。

「どうしてお前らがそれを使ってるんだ!」

デスティニーに気付いたガイアは、シールドでビームを防ぐが、デスティニーはそのままガイアの顔面を殴りつける。

「きゃあっ!」
「その声!?ルナマリア!」

殴られて体勢を崩していたガイアにシンが呼びかける。

「どうしてお前がガイアに乗ってるんだ!いや、よくもこれで俺達の前に姿を現せたな!?」
「そ、それは…」

ルナマリアには到底答えられない。
アスランから接近戦の適性があるからガイアに乗るようにいわれたからだということを、ガイアはシンが守ろうとしたステラの乗っていた機体であることを知っていたルナマリアに答えることはできなかったのである。

一方でシンの中では、ガイアを見た時に生まれた悲しみがさらに広がっていた。
裏切られた、そんな思いがしていたのである。
ルナマリアがアスランとともにザフトを抜けた時が裏切りであることに違いはないのである。
しかし、ガイアというMSがシンにとってどんな存在であるということを知っているはずのルナマリアが、ガイアに乗って自分の前に現れたことに、心の中の大事なものを裏切られたのだと感じていた。
そしてシンは、自分の前にガイアを引きずり出したラクス・クラインやキラ・ヤマト達への怒りの炎がさらに激しく燃え上がっていくのを感じていた。

「誰が乗れって言った?キラ・ヤマトか?ラクス・クラインか?それともアスランか?」
「そ、それは・・・」
「…アスランなんだな?」
「・・・・・・」

ラクス・クライン一派がどこでガイアを手に入れたかシンは知らないが、
量産機とは性能が異なるガイアに、それまで何らクライン派と関わりのなかったルナマリアを乗せることを決定できるのはアスランだと推測することは簡単である。

「ルナマリア…前に言ったよな、俺の前に現れたらもう容赦しないって」
「・・・・・・」
「動くなよ」
「え!?」

デスティニーはアロンダイトを構え、背部の翼を広げ、ガイアに向かって斬りかかった。
次の瞬間、連続して、ガイアのコックピットに衝撃が伝わってくる。
アロンダイトがまず頭部と右腕を切り落とし、ルナマリアが対応しようとしたときには両足、続いて左腕が斬り飛ばされていた。

「コックピットから出ろ!」
「ち、ちょっと…」
「早くしろ!」

シンの怒号に気圧されてルナマリアがコックピットを開くと、デスティニーはコックピットに手を突っ込み、ルナマリアを掴んで放り投げると、無人になったコックピットにアロンダイトを突き刺し、斬り上げると、高エネルギービーム砲を撃ち込んだ。
そしてデスティニーは爆発するガイアに目もくれずに、改めてインフィニットジャスティスのいる宙域へと向かっていった。

ミーティアを装着したインフィニットジャスティスでメサイア防衛部隊と交戦していたアスランは、デスティニーの付近にいたガイアの反応が消えたのを確認していた。

(…足止めにはなったか)

インフィニットジャスティスはエターナルの付近でミーティアを切り離すと、
接近してくるデスティニーへと向かっていった。

アスランには、デュランダルやガロードに騙されていると同時に、シンがただ憎しみにその身を駆り立てられているのだと思っていた。
彼にしてみれば、キラがシンの家族を殺したなどということは何かの間違いかもしれないと思えてならないし、仮にキラに何らかの原因があったとしても、それはわざとやったわけではなく、それもまた「仕方ない」のだと考えていたのである。

彼の意識の有無は別として、アスランの中には動かしようのない価値観の序列がある。
アスランにはキラ・ヤマトという存在が最も重要なものとなっている。
そうでなければ、連合のパイロットとして戦っていたキラ・ヤマトを執拗に説得し、自分の戦友を殺したキラ・ヤマトを、知らなかった、という理由で許すことは到底できなかったであろう。

アスランは基本的には善人の部類に入る人間である。だが、彼には自分というものがなさ過ぎた。
自分という軸があるべきところをキラ・ヤマトという人物で代替していたのである。
彼に不幸な点があるとすれば、キラ・ヤマト以外を受け入れることができなかった、というものであろう。

インフィニットジャスティスは自分に向けて発射されたビームをシールドで受け止めると、アスランは、その方向から迫ってくるデスティニーを見定めていた。

「アスラン、あんたよく俺の前でルナマリアをガイアに乗せようだなんて思いついたな」
「シン!もうやめろ!議長はやがて世界を滅ぼす!お前は議長やガロードに騙されてるんだ!」
「俺の質問は無視か!それにあんたがガロードの何を知ってるんだ、この裏切り者があ!」

デスティニーはアロンダイトを構える。背部の翼から輝く光が発せられ、
そのままインフィニットジャスティスに向けて振り下ろす。
しかし、インフィニットジャスティスは連結サーベルを構えて真っ向から向かっていき、アロンダイトを、上半身を反らすことで回避し、サーベルで斬りつけ、斬り返したアロンダイトと鍔迫り合いになる。
そこをデスティニーは力任せにアロンダイトを振り切り、インフィニットジャスティスを吹き飛ばす。
だが、何度か切り結んだ後、アロンダイトは刀身の中央から切り落とされてしまう。

「くそ!それなら!」

デスティニーが距離を取り、インフィニットジャスティスに向けライフルを放つ。
他方のインフィニットジャスティスもライフルを取り、交差しながらライフルを放つが両者ともに命中はしない。

「くそ!やっぱりなんて強さだ!アークエンジェルでは手ぇ抜いてたな!」

「もうやめろ、過去に囚われたまま戦うなんてもうやめるんだ!」
アスランには、シンが憎しみと過去に囚われているのだと見えている。
だが、その憎しみの原因が何なのかを考えてはいない。知らないわけではないのだが、意識の全く外にあるのである。
そうでなければ、シンの過去と憎しみのほとんどの原因がキラ・ヤマトである以上、このような言葉を発することはできなかったであろう。

「そんなことをしても何も戻りはしない!なのに未来まで殺す気かお前は!お前が欲しかったのは本当にそんな力か!」

シンの中に最愛の妹マユと守ると約束した相手であるステラの姿が浮かんでくると同時に、彼女らをシンから永久に奪い去ったフリーダムの姿も浮かんできた。

「ははは…はははは……はーっはっはっは!ふははははは!あんた、俺によくそんなことが言えたな?」

このとき、何かがシンの中で壊れた。

「ど、どうしたんだ、シン!?何を言っている!」
「ふざけるなよ…俺が戻りたいと思った場所や一緒にいたかった人を奪ったのが誰だと思ってやがる!
 未来だと?俺が作っていきたいって思った未来を殺したのが一体誰だか知ってるのか!?」

シンが戻るものなら取り戻したいものは、家族、家族と暮らしていた平和な時、そしてステラであり、欲しかった未来は彼女らと築いていくはずであったもので、彼女らを殺したのは紛れもない、キラ・ヤマトである。
そしてシンは、自由の名の下にその強大な力を振りかざして好き勝手に暴れ回り、罪のない人達をも傷付けていくキラ・ヤマトこそが、人々の未来を殺すものだと思っている。

「俺が欲しかった力は…上手く言えないけど…キラ・ヤマトとかロゴス、ラクス・クラインみたいに自分の都合を押し付ける奴等から、守られるべき人達を守る力だ!」

シンが力を欲した理由、それは家族を奪ったフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトへの復讐だけではない。
キラ・ヤマトや連合のように、自分のやり方・力・都合を、それとは関係のない、自分の家族のように、罪のない、本来であれば守られるべきである人達を守りたかった、守れなかったことを後悔したくなかったという理由がある。

「だから俺は戦う!キラやあんた達からみんなの未来を守るために!」

このとき、シンのSEEDの力が発動した。
自分の言葉に迷いはない、戦わなければならない相手は最初から何一つ変わってはいないのである。
それ故、今のシンには、自分の中に秘められた力が溢れてきているように感じられていた。

「シン、お前!」

アスランはきっと自分の言葉でシンが動揺し、考え直すはずだと思っていたのである。
だが、彼の言葉は完全に逆効果になっていた。

守りたかったもの、取り戻したいものを奪った人間の側の者が、何を欲していたのかと聞かれれば、聞かれた相手の神経を逆撫でするだけであり、あまりに自分本位極まりない言葉だと驚くことがあったとしても、動揺したり、混乱したり、自分の考えを改めるなどということは普通に考えればありえないことである。

むしろ、奪った側の者が奪われた者に、もうやめろ、欲しかった力がそれか、と聞いた結果として、意見を改めさせ得る、説得できる、心を動かせるなどと考えてしまうこと自体が、常軌を極めて逸した著しく特異な思考、もしくは、あまりに非常識で人間を、人間の心を知らない者の独善的思考といえよう。

しかし、今、この場所でアスランが、シンを説得できると考えたことはやむを得ないものであったといえよう。
なぜなら、今のアスランは、最も欲しかったものである、カガリとの未来が奪われた状態にあるに等しく、自分が2度もザフトを裏切ってまで求めていたものを失うことになった結果として、内心が激しい錯乱状態にあったということが可能であったからである。

他方で、シンも力が湧いて来るとはいえ、正攻法でアスランに勝つことはやはり難しいことはわかっていた。
仮にも相手は前の大戦を生き抜いてきた人間であり、戦場での経験値の「量」が圧倒的に自分は劣っているのである。
故に、チャンスは一度きりしかないのだとシンは心に決めた。
そしてデスティニーが輝く掌をインフィニットジャスティスに向けて迫っていく。

「この馬鹿野郎!!」

アスランもシン同様、SEEDの力を発動させた。
自分の言葉を全く聞き入れず、さらに自分にとっての重要人物キラ・ヤマトを罵ったシンをこのままにしておけないのだと思ったからである。

インフィニットジャスティスはビームシールドでデスティニーの掌を弾き飛ばす。
そして、インフィニットジャスティスはデスティニーの両肩めがけて、両手にサーベルを握って振り下ろす。
その速度はさすがにかなりのものがあり、デスティニーがシールドを展開するには間に合わないタイミングであった。

だが、シンは絶対にここで負けるわけにはいかないと覚悟を決めている。その覚悟が、まさに彼の運命を切り開くものとなる。

デスティニーはインフィニットジャスティスのサーベルを受け止めるのではなく、
さらに背部の翼から輝きを放って突っ込んで行く。
そしてデスティニーの掌は、ビームサーベルの刃ではなく、前進することで、それを握る拳を掴むことに成功したのである。

そのままデスティニーはパルマフィオキーナでインフィニットジャスティスの両腕を吹き飛ばした。
他方のインフィニットジャスティスもファトゥムのビーム砲を放ち、デスティニーの頭部と右腕を吹き飛ばす。
それによりデスティニーのコックピットでは小さな爆発が起こり、それにより飛び散った破片が容赦なくシンの肉体に突き刺さった。

「ぐ…だがまだ!」

シンは歯を食いしばって痛みをこらえ、デスティニーは右足でインフィニットジャスティスを蹴りつけようとする。
だが、その足はインフィニットジャスティスの右足に備わったビームブレードに切り裂かれ、さらに起こった爆発によってコックピット内の部品の欠片がシンに突き刺さる。

しかし、この痛みに耐えたことがシンにたった一度だけのチャンスを与えることになった。
次の瞬間、デスティニーの左脇から高エネルギービーム砲が伸びてきて、
その先端がインフィニットジャスティスのコックピットに突きつけられる。
だが、インフィニットジャスティスの右足は今の蹴りで振り切られており、ビーム砲の砲門を斬ることができない。

「じゃあな」

そう言って、シンはトリガーを引き、高エネルギービーム砲から紅蓮の光が放たれた。
同時に再びファトゥムからビームが放たれるが、肩の上に備わっているビーム砲では、
デスティニーの高エネルギービーム砲を狙うことはできず、攻撃を防ぐには至らない。

「カ、ガリ…」

まるで血の涙のような色をした紅蓮の光はコックピットを至近距離から綺麗に撃ち抜き、アスランを焼き尽くした。

「アスラン、あんたさすがだよ…」
遠のく意識の中でシンは、息を切らせながら、人格こそ尊敬できなかったものの、討ち取った相手の凄まじいまでの強さに1人のパイロットとして敬意を表していた。

ちょうどその頃、エターナルのカガリの部屋では持っていたコップが突然割れていた。

「「アスラン…」」

カガリの口から、初めて愛した男の名前がなぜか発せられる。
カガリには何か、嫌な予感がしていた。

そして、宇宙を漂う1人の女も、同じ言葉を呟いていた。