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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第32話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:57:45

第32話

シンとアスランの戦いが終わる少し前に、ミネルバから脱出したクルー達はオーブから、遅れて戦場に到達したアークエンジェルへと移っていた。

なぜアークエンジェルが、メサイア周辺の宙域に来ていたかと言うと、ラクス・クラインの武装蜂起の報を受けたデュランダルが、オーブでの修理を終えたアークエンジェルを
メサイア防衛戦に加えるべく、オーブ政府へ輸送を依頼していたからである。

だが、それにしては奇妙な点がいくつかあり、タリア・グラディスはアークエンジェルのブリッジで待っていた人物を見て訝しげな表情を浮かべていた。

「どうしてあなたがいらっしゃるのですか、セイラン代表代行?」

アークエンジェルのブリッジにはタリアも見覚えのある、ブリッジの景色に見事なまでに溶け込んでいるクルー2名の他、ゲスト席には、その長い足を組んで座っているユウナ・ロマ・セイランの姿があったのである。

「どうして、って言われても、僕も色々、議長とのお約束条項がありまして」
「…まったく、ワカメ狸に青狸…もういいわ。それでこの後、どうなさるんですか?」
「そうですねえ、今、この場でグラディス艦長にお会いできましたので、この艦はどうぞご自由にお使いください。
 ここまで来るための自衛用の戦力として持ってきたMSはこの艦が、今現在はザフトのものである以上お貸しできませんがね」

軍人としては堅物な部類に入るタリアには、ユウナとデュランダルの企みが何かはわからなかったし、興味が湧くこともなかったが、ラクス軍がメサイアへ迫りつつある中では、この際、手段を選んでいる余裕はなかった。

「…わかりました。クルーの収容が完了し次第、本艦はメサイアへと向かいます。アーサー、作業急がせて」

今のタリアの心境は、もうなるようになれ、というものであった。
ミーティア2機を引き連れたラクス軍の勢いは徐々に増しており、寝返る部隊も続々と増えていたため、今は1隻でも、MS1機でも戦力が欲しい状況にあったからである。

「ではグラディス艦長、僕はガロードに挨拶をしてきますのでひとまず失礼しますよ」

ユウナはそう言って席を立ち、ブリッジから出て行った。
だが、ユウナがブリッジから出た先には、ちょうど彼が探しに行った人物の姿があった。

「やあガロード、ミネルバでは災難だったね」
「あ!ユウナさん、やっぱ来てたのか。アークエンジェルが来てるって聞いたからもしかして、って思ったんだけど」
「いやぁ議長に色々頼まれてね。…こんなこと頼まれてるんだよ」
ユウナは懐から2枚の書類を取り出すと、そのままガロードに見せた。
それは、ディオキアでユウナとデュランダルが取り交わしたプラント・オーブ間における、アークエンジェルの扱いに関しての2国間での取り決めを記した書面であり、ユウナとデュランダルのサインがある。

不思議そうな表情を浮かべたままガロードはその書類に目を通していたが、やがてその表情は強張っていった。

「おい、デュランダルのオッサンは何考えてるんだよ!これじゃぁまるで…」
「ガロード、声が大きいよ…」
「これじゃあデュランダルのオッサンは…」
「そうだね…もしかしたら、僕は議長にとんでもない仕事を押し付けられたのかもしれない」

ガロードの表情の強張り具合に比例するように、ユウナの表情も真剣なものへと変わっていく。
その顔は、普段から飄々としている彼が、政治の場においても滅多に見せることのないものであった。
ユウナは、これから起こる事態を必死に推測しようとしていたのである。

「ガロード、シン達を急いで援護に行った方がいい。この紙に書いてあることが議長の描いている未来予想図だったとしたら、今、君がやるべきことは信頼できる仲間を1人でも多く確保しておくことだからね。
 もっとも、一番いいのはここで彼女を消すことなんだけど、そうだとするとカガリがどうなるか…」
「ああ、わかってる。エターナルってのは沈めちまったらまずいってことだよな。じゃあ行ってくるぜ」
「頼んだよ、ガロード…」

「アスラン!?まさか…」
「ジャスティスの反応が消えたな、アスランのためにも、一緒に世界から消えたらどうだ?」
「どうして君達はいつもいつも…」

インフィニットジャスティスが主を失ったとき、レジェンドとストライクフリーダムはサーベルで鍔迫り合いを続けていた。
2機が互いに力比べとばかりにサーベルを押し付けあっていると、ストライクフリーダムは、ドラグーンをその翼から切り離す。
宇宙空間に射出された青い羽はそのまま意思を持っているかのように動き回りレジェンドへと向かっていく。
だがその直前にドラグーンの射出を感じ取ったレイはレジェンドを後退させて距離を取り、自らもドラグーンを展開させる。

サーベルを使っての接近戦の次は、両機の最大の長所であるドラグーンによる撃ち合いであった。

キラは集中力を高めてSEEDを発動させた。
ストライクフリーダムは、取り囲むようにまとわり付いて来るドラグーンから放たれるビームを潜り抜け、ときにはビームシールドで受け止めながら、レジェンドへ攻撃を加える機会を探していた。
そしてその最中、キラはかつて感じたことのある男のプレッシャーのようなものを感じ取っていた。

「!?これは…どういうことなんだ?君は…」

キラの脳裏に、彼のトラウマともいうべき男の姿が、声が浮かんでくる。

ラウ・ル・クルーゼ

キラ・ヤマトという存在が生み出される過程の産物であり、ヤキンでの激しい戦いの末に辛うじて倒すことができたものの、その後においてまでキラを苦しめ続けた存在である。
もはや世界から姿を消した存在であるはずの男がこの場にいるはずがない。
しかし、今、感じている男は間違いなくクルーゼのものである。
「君は誰だ…誰なんだ?」

キラが絞り出したような声を出す。
するとそこにレジェンドから聞き覚えのある、彼にとっては悪魔ともいうべき人間の声が聞こえてきた。

「わかるだろ…あなたには…俺はラウ・ル・クルーゼだ」
「あ…ああ…」

レイにとって、クルーゼは兄であり、父であり、そしてもう呪われた宿命を背負わされた1人の自分である。
そしてもう1人の自分たるクルーゼは自らの呪われた宿命と道連れに世界を滅ぼそうとして、憎しみの末に力尽きた。
クルーゼの思いと末路を聞いたとき、レイは自らの存在理由について深い苦しみに陥った。

だが、レイが選んだ道はクルーゼとは異なるものとなっていた。
クルーゼの周りとは異なり、レイの周りには様々な人間が集まってきていたからである。
自分の面倒を見てくれたギルバート・デュランダルは言うまでもなく、
アカデミーで互いに力を欲したが故に高みを目指して切磋琢磨し、戦場に出てからも共に戦ってきたシン・アスカ、異世界からやって来たといい、ナチュラルの身でありながらキラ・ヤマトにも劣らぬ力を持ちつつも、世界滅亡を防ぐための力を振るうガロード・ラン…もちろんレイを周囲から支えたのは彼らだけでない。
アカデミーの同期であるヨウランやヴィーノ、同じ艦の仲間であるアーサー達がレイの周りにいたのである。
厳しく、冷たかったレイの世界には、仲間という暖かい光がいつの間にか差し込むようになっていた。

(今度こそ終わらせる…今度こそ!)

レイの心に強い決意が生まれていた。

「ラウ・ル・クルーゼ…」
呆然と呟くような声がキラから漏れた。
コロニー・メンデルで高笑いを上げながらキラの生い立ちを語った男の姿がよりはっきりとキラの記憶に蘇ってくる。
それはまさしくキラにとっては悪夢そのものである。
ドラグーンのビームを回避しながら、かつてのように心が折れないようキラは必死に自分を保とうとしていた。

「人の夢…人の未来…その素晴しき結果、キラ・ヤマト…ならばお前も、今度こそ消えなくてはならない!
 俺達と一緒に…生まれ変わるこの世界のために」

レイの言う、生まれ変わる世界とは、デュランダルが目指したナチュラルとコーディネーターが共生し、デスティニープランによって小さくなっていくことをデュランダルが画策した、両者の差異が小さくなり、妬みと蔑みがなくなった世界を意味している。
そしてその到達点には、ナチュラル、コーディネーターという概念の消えた世界があった。
そしてその世界では、最高のコーディネーター、そしてそれが生まれる過程で生み出された産物などは不要なのである。
何故なら、最高のコーディネーターの存在は、それだけでナチュラルとコーディネーターの区別の存在を前提にしており、存在し続けるだけでデュランダルが目指した世界の実現を妨げるものになるとレイは考えたからである。

「安心しろ、ラウがお前を待ってくれている。俺も仲間達に別れを告げてからだが、直にそっちへ行ってやる!」

レイの叫びに呼応するかのように、レジェンドがエネルギーのチャージのために装着したドラグーン、手にしたビームライフルから発射されたビームが、一斉にストライクフリーダムへ襲い掛かっていた。

一方、別の宙域では、エアマスターバースト、レオパルドデストロイが率いる部隊が、
ドム・トルーパー3機及び白いグフ、黒いザクの率いるラクス軍の大部隊に苦戦を強いられていた。

というのも、当初はウィッツ、ロアビィと共に戦っていたイザーク・ディアッカが、突如としてラクス軍に寝返ったからである。
その原因を知る由もない、ウィッツは、イザークのグフ・イグナイテッドに向けて、
バスターライフルを撃ち込みながら怒鳴りつけた。

「てめえら!一体なんで裏切りやがった!?デュランダルのオッサンはお前らの恩人じゃなかったのかよ!」
「わかっています…デュランダル議長には感謝してもし足りない…ですが…
 あいつはやられてしまった…俺達がもたもたしていたから…」
「てめえのダチはまたプラントを裏切った野郎だろうが!どうしてそんな奴を庇い立てしやがる!」
「それに…あの方はプラントになくてはならない方なのです!あの方をこのまま討たせる訳には…」
「ラクス・クラインがお前らに何をした!あいつは単なるテロリストじゃねえのか!」
「ナチュラルのあなた方には、我々コーディネーターにとってあの方がどれだけ大事か知らないのです!」
「そんなこと知るか!戦場では目の前の現実が全てなんだよ!」

そしてその付近では、レオパルドデストロイの放つ攻撃をなんとか回避しながらビームライフルを放つザクの姿があった。

「なあ、ディアッカ、考え直さない?俺が悪かったよ、お前が合コンで狙ってた女の子を取っちゃったり、合コンでハッスルしてる写真を彼女に送りつけたりして…また別のを開いてやるから馬鹿な真似はやめない?」
「すまねえ、ロアビィのアニキ…ダチが、同期のダチがやられちまったんでさあ」
「だ〜からって、俺達を裏切ることないんじゃないの?ここは戦場なんだよ?」
「俺は一回、イザークを裏切っちまった…だからもうイザークの奴を裏切りたくないんですよ」
「交渉決裂、って考えていいのか?」
「ええ、すんません」

ウィッツ、ロアビィはガロード達と異なり、この世界に来たとき、プラントのデュランダルに保護され、仲間の居場所をデュランダルが探すことを条件に、彼らはデュランダルに雇われることを承諾した。
まもなくしてユニウスセブン落下未遂事件により、仲間達の居場所を彼らは知ることができたが、すぐにフリーデンの下へと戻ることは選ばなかった。

ガロードがユウナからカガリ救出を依頼され、世界を回ることになったのと同じように、ウィッツやロアビィもデュランダルの依頼で世界の各地を飛び回ることを選んだ。
それは自分たちのいた世界とは、別の世界を見て回ることによって、あらためて自分たちが今後、どのように動くかを決めるためであり、その結果として彼らはデュランダルにつくことを選んだ。
地球と宇宙に別れて幾度も戦いを続けた末に滅んだ世界を生きてきた彼らは当然、
デュランダルを、最初は疑わしい人間だと思っていた。
だが、彼らは結局、デュランダルを選ぶことになる。
それは、デュランダルが、ナチュラルとコーディネーターの融和を実現するために、世界を回っており、ウィッツもロアビィも、フリーデンの仲間たちの下に戻るのは、デュランダルのなすことの行く末を見てからでも遅くはないと考えたからである。
それにウィッツは素性もよくわからない自分を保護してくれたことに恩義を感じていたし、
ロアビィも、従来こそ思想がかった戦いを好んではいなかったが、エスタルドで自らを戦場に戻してくれた女の影響もあってか、世界の行く末というものを少し考え始めるようになっていた。

他方のイザーク、ディアッカは機体の性能が違う中、必死にウィッツ、ロアビィの攻撃を防いでいた。
それはまさに命がけの足止めであったといえよう。

ラクス軍が蜂起する直前、クライン派が接触してきて、ラクス軍につくことを依頼してきたが、彼らはそれに承諾することはしなかった。
そして、インフィニットジャスティスの姿を見た時、アスランが再びラクス軍につくことを選んだことを知ったが、彼らは当初、恩あるデュランダルか、仲間であるアスラン達につくべきかを迷っていた。
しかし、インフィニットジャスティス撃墜を知り、彼らは再びラクス軍につくことを選んだ。
少なくともヤキンで戦った彼らは、ジェネシスを使ったデュランダルに懐疑的になりつつあっただけでなく、アスランが死んだことにも、根拠こそないが、責任を感じていた。
さらに、イザーク自身は元々、ラクス・クラインの信奉者に近いところがあり、ラクス・クラインの行動を肯定的にとらえる、プラントには夥しいほどいる人間の中の1人であった。

その頃、シンは、残った力を振り絞ってレジェンドとストライクフリーダムが交戦している宙域へと向かっていた。
デスティニーは頭部と右腕、右足を失っていたもの、まだ辛うじて戦闘能力は残っており、シンは、少しでも、最高のコーディネーターを相手にしている親友の助けをしたかったのである。
そして、しばらくするとドラグーンをすべて展開させている2機のMSの姿が遠方に見えてきた。

「そんな何故君が…なぜあなたがまた」

ストライクフリーダムは、レジェンドのドラグーンから放たれるビームを必死に掻い潜りながら反撃のチャンスを探していた。

「逃れられないもの、それが自分。そして取り戻せないもの…それが過去だ。だからもう終わらせる…
 これまでは全て!そしてあるべき正しき姿へ戻るんだ!人は…世界は!」

デュランダルの手により、ナチュラルとコーディネーターが手を結び、これまでの世界は生まれ変わっていく。
そして、自分やキラ・ヤマトのような忌まわしき存在を生み出してしまった過去をやり直すことはできないのである。
だからこそ、自分やキラ・ヤマトは消えなくてはならないのだとレイは考えている。
その先にあるのが、あるべき人と世界の正しき姿、つまり、自分たちのような存在を世界から消し去り、第3、第4のクルーゼやキラが作られることのない世界を作っていくことをレイは、デュランダルに託していたのである。

「でも違う、命は何にだって1つだ、だから…その命は君だ!彼じゃない!」
「当たり前だ!だからこそ俺はラウであり、ラウではない!
 俺は仲間たちとともに、ギルの望む世界のために戦っている!俺は…レイ・ザ・バレルだ!」
キラは、生まれ変わる、と言う言葉と、デュランダルは世界を滅亡させる、という判断をしていたため、レイ=第2のクルーゼとして、デュランダルが世界を滅亡させようとしているのを手助けしているのだと思い、レイはクルーゼとは違うのだと、彼の精一杯の善意でいったつもりであった。

だが他方で、レイは、世界の破滅を望んだクルーゼと違い、デュランダルによって変わっていく世界を望んでいる。
デュランダルが言った、逃れられないものである自分とは、レイ・ザ・バレルと呼ばれた人間が、人と出会い、触れ合い、生きてきたことにより、自ら作った人格としてのレイ・ザ・バレルのことだと彼は考えている。
デュランダルにこれから生まれ変わりゆく世界を託した時点で、レイは決定的にクルーゼとは全く異なる存在になっていた。
それはレイ自身もわかっていることである。
その意味ではキラの指摘は善意に満ち溢れていたとしても、客観的には的外れであり、
附言すればキラの指摘によりレイが動揺したり、自分を見失うなどということは、
通常の因果が事象を支配しているのであればまず有り得ないことであろう。

キラの言葉は、ある意味で逆効果となって、レイに力を与えてしまっていた。
レイは一旦、ドラグーンを戻してエネルギーをチャージさせると、全神経を集中させて、ラスヴェートと戦ったときのようにストライクフリーダムのドラグーンの動きを感じ取ろうと目を瞑る。
そして自分に向かってくる敵意を感じ取り、手にしたライフルでドラグーンを撃ち落していく。

対するストライクフリーダムも、ドラグーンをこれ以上落とされる訳にもいかず、
自らサーベルを引き抜いて斬りかかり、レジェンドのライフルを切断する。

だがレイもそれしきで動ずることはなく、サーベルを手にして残りのドラグーンを次から次へと斬り落としていった。

ビットラスヴェートよりも小さいものの、ビットMSよりも単調な動きしかできないドラグーンを落とすは、シンはともかくとして、空間認識能力を備えているレイにとってもはや造作もないことであった。

「どうしてドラグーンが!?」
「貴様のドラグーンなど手に取るようにわかる!所詮、貴様の能力も俺の命と同じく紛い物にすぎん!」

レイは再びドラグーンを射出すると、ストライクフリーダムを囲むように展開させる。
そしてレイは、その包囲網に1点にだけ穴を開けていた。
キラもその1点を見逃さず、その方向へとストライクフリーダムを向ける。
もちろん、こと戦闘にかけては極めて優秀な能力を持っているキラなので、何かの企みがあるのであろうことはわかっていたが、おそらくそれは隠しておいたドラグーンによる奇襲攻撃であると考え、ビームシールドを展開しながら回避行動を行なっていた。
だが、それはレイの予想通りの行動である。
ストライクフリーダムの後方には、高エネルギービーム砲を構えたデスティニーが、ストライクフリーダムへの狙いを定めようとしていたのであった。
ドラグーンの回避とレジェンドの相手に神経を集中していたキラは、もう少し広い範囲へ注意を向けることが出来なくなっていたのである。

レイの攻撃方法がやや力押しになりつつあったことを遠巻きに見ていたシンは、レイが隙を作り、シンに止めの奇襲攻撃を放たせようと考えていることを察していた。
宇宙空間において展開されたビームシールドは、狙撃を行なうには絶好の的だったのである。

デスティニーに狙いを定めさせるべく、ストライクフリーダムに向けてドラグーンの集中砲火を浴びせていたレジェンドが、ドラグーンの全砲門を向けたときであった。
老化を抑止する薬の効果が切れてしまい、レイの体が突然の苦痛が襲われる。

「ぐ…こんなときに…」

普段の戦闘であれば、レイが薬の服用を忘れることなどありえない。しかし、最強のパイロットであるキラの相手をするためには、薬の服用を忘れさせるほどの集中力が必要だったのである。

「レイ!どうしたんだ、レイ!」

ストライクフリーダムの目前で動きを止めたのを見たシンは叫んでいた。
そして同時に、レイが普段から老化を抑制する薬を服用していたことを思い出し、彼が動けなくなっているのだということを察する。

一方、キラにとっては、レジェンドが目の前で動きを止めたことを絶好のチャンスであった。
ほとんどのドラグーンを失い、防戦を余儀無くされていたキラは連結ビームライフルを構えてレジェンドに狙いをつける。
だが、その瞬間、機体が高エネルギーの接近を知らせ、回避行動を取り終える直前に、ビームライフルが撃ち抜かれてしまった。
その方向へ目を向けると、そこには、高エネルギービーム砲を発射し終えたデスティニーの姿があった。

「デスティニー!?狙われてたの?」

目の前のレジェンドにばかり意識が行っていたキラは、思わぬ伏兵に肝を冷やしていた。

「くそ…仕留め切れなかった…」

他方でシンはビーム砲の反動による苦痛を、歯を食いしばってこらえながら、狙撃失敗を悔やんでいた。
だが、いつまでも悔やんでいることはできなかった。
半壊しているデスティニーを見つけたキラが、デスティニーの戦闘能力を奪うべく、斬りかかって来たのである。
「そうだ…こっちに来やがれ、フリーダム」

シンはデスティニーの翼を広げて、ビーム砲を放ちながらストライクフリーダムから逃げようとする。
既に大量の血を失い、体に走る激痛は、逃げ続けるほどに強くなってきており、今のシンにストライクフリーダムと正面から戦う力は残っておらず、こうして逃げ回ることで、レイが体制を立て直す時間を稼ぐ他なかったのである。
だが、間もなく距離が詰められてゆき、ビーム砲がストライクフリーダムのサーベルに斬りおとされ、デスティニーの目の前にサーベルを振りかぶったストライクフリーダムが現れた。

(…もう力が…入らねえ…)

シンが意識を失い、デスティニー目がけてストライクフリーダムの兇刃が振り下ろされようとした時であった。
レジェンドがシールドを構えたまま、ストライクフリーダムに突っ込んできたのである。

本来であれば、ドラグーンでストライクフリーダムを牽制することで足りるのであるが、ストライクフリーダムの猛攻は凄まじく、レイは薬に手を伸ばしていたのではデスティニーを助けるのに間に合わないと判断し、シンとは別の激痛に耐えながらレジェンドを操作していた。

レイがこのような行動は、何かを考えてのものではない。まさに咄嗟の行動であった。

そしてレジェンドはそのまま吹き飛ばしたストライクフリーダムに斬りかかり、
ストライクフリーダムも手にしたサーベルを振り下ろした。

次の瞬間、ストライクフリーダムの右の翼が斬りおとされていたが、サーベルを手にしたレジェンドの左腕は宙を漂い、
ストライクフリーダムの左手のサーベルが、レジェンドのコックピット付近に突き刺さっている。
そしてレジェンドのコックピットに大きな衝撃が走り、レイの体の至るところに鋭利なコックピットの破片が突き刺さった。

「俺の仲間をこれ以上、貴様などに傷つけさせてたまるものか!俺の前から消えうせろ!」

最後の力を振り絞り、残ったレジェンドの右腕でストライクフリーダムを殴り飛ばしたレイの意識は、その後、闇に落ちていった。

「あ…ああ…」
キラから、驚きの声が漏れ出した。

ストライクフリーダムのサーベルはコックピットそのものに突き刺さってこそいなかったものの、
その光景とレイの執念のこもった言葉が、
キラに2年前、フリーダムの刃がプロビデンスのコックピットに突き刺さったときのことを鮮明に思い出させていたのである。

次にキラが取った行動はエターナルの下へと一直線に戻るというものであった。
かつてラウ・ル・クルーゼによって心に深い傷を負ったキラは、当時も今回も精神の安定を何よりも求めた。
そしてキラ・ヤマトの精神の拠り所は、ラクス・クラインである。
そのため、一言でもいいからラクス・クラインの声を聞きたいと願い、エターナルの下へと、字の如く飛んでいったのであった。

他方、ストライクフリーダムが一目散に飛んでいったのを見たガロードは、ストライクフリーダムが来た方向に力を失って宇宙を漂うデスティニーとレジェンドの姿を発見した。

「シン!レイ!しっかりしろ!おい、てめえらなんでもいいから返事しやがれ!」

力の限り2人にガロードは呼びかけるが、両機から声が聞こえることはない。

「チクショウ…どうしたらいいんだよ…」
「アークエンジェルに運べばいい、俺も手伝ってやる!」

突然、GXの下に聞き覚えのある声が聞こえてきて、オレンジショルダーのザクを何機か連れた、オレンジ色をしたセイバーがガロードの下にやって来た。
「ハイネか!」
「おお、久しぶりだな、って今は挨拶してる場合じゃねえ。こいつらを急いでアークエンジェルへ連れて行くぞ」
「あ、ああでもいいのかよ、このままフリーダムを放っておいて…」
「俺が議長から受けた命令は、アークエンジェルへ行って自分の部下を守れ、ってことだけだ。わかったら行くぞ…」

そう言ってハイネはレジェンドを掴み、アークエンジェルの方へと向かっていった。
ハイネの様子がおかしいのは明らかであった。

本来であれば一機でも多くの戦力をメサイア防衛に当てなければならないのに、
ハイネの行動はまるでデュランダルが倒れた後のことが前もって予定されているかのようであった。
そしてユウナから聞かされた話とあいまって、ガロードが持っている、デュランダルが企てていることに関する推測は徐々に確信に変わりつつあった。

ガロード達がシン達を連れてアークエンジェルに戻ったころ、精神の安定を辛うじて取り戻したキラは、ストライクフリーダムにミーティアを装着して、メサイアへの攻撃を開始していた。

ミーティアの両舷に備わった巨大なサーベルが、メサイアのリングを切り裂いて行き、
昨日を失ったリングはメサイアから離脱していく。

メサイアの司令室では、シールド消失とストライクフリーダムの背後から迫るエターナルの接近が、デュランダルに知らされていた。

(ふ、どうやらここまでのようだね…)

デュランダルは、部下にある命令を下すと、司令室の部下に退避を命じた。
やがて、全世界にデュランダルの姿が映し出され、彼は口を開いた。

「全世界の皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。
 今現在、私のいるザフト軍機動要塞メサイアはラクス・クライン率いるテロリスト達の攻撃を受けています。
 おそらく、このまま私はここで生涯を終えて、ラクス・クラインがプラントという国を乗っ取ることになるでしょう。
 そして、ラクス・クラインという人間は、自分の意見を決して曲げることなく、他人の意見を決して聞き入れることをしない人間です。
 まことに恥ずべきことながら、プラントの人間には無条件で彼女を肯定する傾向をもつ人間が多い…
 故に、今後、地球とプラントとの衝突が再び発生することになるやもしれません。
 ですが…みなさんに私の最初で最後の願いを聞いていただきたい!
 どうかお願いします、今後、ラクス・クライン率いる者どもがいかなる行動を取ろうとも、コーディネーターをどうか憎まないでいただきたいのです!
 我々、コーディネーターはナチュラルの敵であるなどということは断じて有り得ない!
 我々人類は、ロゴスを倒す、という形で手を取り合うことができたはずです。
 あの時、我々は、ナチュラル、コーディネーターの垣根を越えて、1つになることができました!
 何が悪いか、と考えるならば、それは対話や議論をすることを一切せず、自らのエゴを人々に押し付けんとする存在といえましょう。
 繰り返し申し上げます、どうかコーディネーターを憎まないで」

デュランダルがここまで喋ったとき、メサイア内に侵入したストライクフリーダムのミーティアのフルバースト攻撃により
通信施設が破壊され、デュランダルの声は途切れた。
「…ここまでか…」

崩れ落ちる司令室の中でデュランダルが呟いた。
だが、彼は自分の目的を達成するための手段を全て講じていた。
あとは、彼が講じた手段と、ラクス・クラインの力のどちらが勝っているか、というものであった。
デュランダルにとっての唯一の心残りは最後に、愛した女の声を聞くことができなかったことだけであろう。

「覚えておくがいい、ラクス・クライン、キラ・ヤマト…
 これから戦争が再び起こったとしたら、それは平和を願う、といっている、君らが望んだ戦争だ…
 私は一足先にあの世に行って、君達の歓迎パーティーを開く準備をしておこう。
 タリア…私は君に出会えて幸せだったよ…」

デュランダルが言い終えると同時に、メサイアの司令室は崩れ落ちていったのだった。

その頃、メサイアの外ではラクス・クラインが残ったザフト軍へ投降を呼び掛けていた。
それにより多くのザフト軍が投降することになったが、全部隊が投降していたわけではない。

「おい、デュランダルのオッサンの無念を討つ気がある奴がいるならついて来い!俺が面倒見てやる!」

ウィッツの言葉に、レオパルドデストロイを含む何機かのMSがアークエンジェルへと向かいつつあった。

他方、そのアークエンジェルではタリアが沈痛な面持ちをしながら艦長席でうな垂れている。
だが、それをユウナが許さなかった。

「グラディス艦長…申し訳ありませんがこの書類をごらんいただけますか?」

ユウナが先ほどガロードに示した書類をタリアに見せる。

「議長のサインの入った正式なものです。ご理解いただけますね」
「……はい」

するとその時、アークエンジェルにエターナルから通信が入った。

「こちらはエターナル艦長、アンドリュー・バルトフェルド。アークエンジェル、応答せよ」

ユウナはチャンドラに目を向けると、通信を繋がせて、バルトフェルドに対応し始めた。

「こちらアークエンジェル、何か御用ですかな、砂漠の虎殿?」
「ユウナ・ロマ・セイラン!?なぜそこにいる?」

バルトフェルドの顔に驚きが生まれる。
それは目の前に起きている事態が信じられないといった表情であった。
「この艦は、デュランダル議長の死亡を持って、オーブの所有となった。
 よってこれからアークエンジェルはこの宙域から離脱する、今、我が軍には交戦の意志はない。
 無駄な戦闘が起きないことを願う」
「…どういうことかな?なぜそこに貴方がいるのかはわからないが、
 そんな言い分が通ると思っているのかい?」
「我がオーブは、ザフト所属の艦であるアークエンジェルを修理・修復をする契約を結んでいる。
 その中には、修理等の費用半分をオーブが負担する代わりに、ギルバート・デュランダル死亡もしくは失踪その他有事の際には、アークエンジェルの所有権はオーブに移る、という条項があるんですよ。ほらこれです」

そういうと、ユウナは画面に、先ほどタリアに見せた書類を映し出させる。
ユウナがディオキアでデュランダルと酌み交わした密約の1つに、アークエンジェルの所有権についての問題があった。
当時、ユウナは今起きている状況が現実のものになるとは考えていなかったが、
今思うと、やはりデュランダルは自分が志半ばで倒れることを予想していたのだと思えていた。

「疑うなら、プラントにも契約書があるから確認してください。それではごきげんよう」

それだけ言って、チャンドラに通信を切らせると、ユウナはアークエンジェルをオーブに帰還させるよう、ノイマンに指示を出した。

「バルトフェルド艦長!どういうことですか!?」
「バルトフェルドさん、このまま行かせていいんですか!セイランが乗ってるなら今ここで…」

エターナルでは、艦内からはラクスの、艦外からはキラの抗議がバルトフェルドに届いていた。

「今の僕達がやるべきことを見失うな!ラクス、君が今すべきなのはこの戦場全体の混乱を止めることだ!自分を見失うな!
 キラ!このままオーブ軍を相手に出来ると思っているのか?それに向こうにはダブルエックスがいるかもしれないんだ。
 軽はずみな行動は慎め!まだ全部隊の投降が終わっていない今、エターナルを守れる戦力は少ないんだぞ」

バルトフェルドの怒りが混ざった声が、ラクスとキラを一喝し、彼らの言葉を奪う。それは勢いのみに任せたものであったといえよう。
2人がこのような真剣な表情を浮かべた彼を見るのは実に久しぶりであった。

そして、ラクス・クラインがプラントの議長となったのはその数日後のことであった。