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X-Seed◆EDNw4MHoHg氏 第34話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 13:58:19

第34話「戦う覚悟はある」

メサイア宙域から脱出したアークエンジェルは、そのままオーブに戻ってきていた。
そしてそのままモルゲンレーテのドッグに入港すると、すぐさまユウナが行政府に飛んで戻っていった。

ギルバート・デュランダルの死亡は全世界に知れ渡っており、オーブ国内だけでも何らかの対処をしなければならないのだが、
しなければならないことはそれだけでなく、この後プラントを掌握するであろうことが確実なラクス・クラインに対する対応策を
検討するためにユウナの帰国を待つ形で集まっていた各国首脳との会議がユウナを待っていたのである。

ごく一部の例外を除く地球上の国家の市民にとって、デュランダルはロゴスから世界を解放してくれたヒーローであった。
そして、そのヒーローは地球を解放した後に、最後までナチュラルとコーディネーターの融和を唱えながらも、
ラクス・クライン率いるテロリスト達に殺害されてしまった、と地球では受け止められることになっため、
まさにデュランダルは本物の「英雄」になってしまったのである。

その結果、地球上の国家では一気に反ラクス・クラインの感情が高まったのだが、
付随的効果として、下火になっていた地球上の市民の反コーディネーターの感情が少しずつ勢いを取り戻しつつあったことも確かであった。

ではオーブ国内ではどうかというと、反コーディネーターの感情が元々少なかったため、
他の国ほどナチュラルとコーディネーターとの間に亀裂が入った、ということはなかった。
とはいえ、多くの市民の中ではデュランダル殺害によるラクス・クラインへの反発が、
カガリ・ユラ・アスハ代表の拉致監禁の継続と相まって爆発的に高まっていたのだが、
ナチュラルとコーディネーターが元々共存していたオーブならではの問題も起こっていた。

それは、オーブ国内に存在するクライン派と、それ以外の対立が深刻化していた、ということである。
街中で反ラクス・クラインの市民達のデモや集会が行なわれているところにクライン過激派、別名ラクス信者の集団が乱入、
またはその逆の事態が発生するなどして、オーブ当局を治安維持の点から悩ませることになっていたのである。

ユウナが会議場に到着したときには、既にプラントを除く他の国の首脳達が顔をそろえており、
大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランドはユウナの到着を確認して緊急の首脳会談を始めた。

この首脳会談がなぜオーブで開かれたかというと、オノゴロで締結された地球・プラント間の停戦条約の内容たる、
各国におけるナチュラル・コーディネーターの融和措置等の実施を監視する役割がオーブのものとされており、
オーブの動向を見てからスタンスを決めるという暗黙の了解が出来上がっていたからである。
なお附言すれば、なぜ経済大国でこそあれ、島国の小国に過ぎないオーブに、各国が配慮をしていたかというと、
停戦まで戦い続けた連合各国も少なからず疲弊しており、対象的に戦争に関与することなく
国力をまるごと温存することに成功し、復興金の融資等を行って経済力をなお増していて、かつ、
ダブルエックスという切り札を持つオーブをないがしろにするのは妥当でないという判断が働いていたからである。
とはいえ、オーブ以外の各国の対応は基本的には足並みが揃っていた。

主なものとして具体的には、ラクス・クラインはテロリストかつクーデターの首謀者であり、プラント議長としての就任を認めないこと、
コーディネーターを殲滅するなどという政策は取らず、あくまでデュランダルが提唱した範囲での融和策の実施を継続すること、
ラクス・クラインがプラント議長になった場合には、プラントはテロリストに占拠された状態にあると看做して
自国・プラント間の輸出入の停止措置を講ずること、
プラントの反ラクス・クライン派コーディネーター市民の亡命の受け入れ等があった。

各国の対応がここまで親プラント的であった理由は幾つかある。
最も大きい2つの理由は、ジブラルタル基地を始めとした
ヨーロッパを中心に存在するザフトの基地の存在と、デュランダルの最後の演説がある。

デュランダルが立ち寄った基地では、対ロゴス戦争のために連合・ザフトの混成軍が配置されていただけでなく、
彼の職権濫用にも近い人事権発動により、デュランダル派、またはクライン派とは距離を置いているクライン派軍人が数多く配置されていた。
そのため、デュランダル死亡の前後のラクス・クラインの行動に呼応することはなく、
逆に連合に対して融和的態度を示していたことから、各国も、プラントに人質を取られているともいえる彼らを下手に刺激して敵を増やすよりは、
自分達と共生可能なコーディネーターは社会に受け入れた上で、その高い能力を自国の復興に用いることを選んだのである。

さらに、デュランダルの最後の演説のために、多くの市民の中には、コーディネーター自体が敵なのではない、という認識が強く存在している。
そして、デュランダル自身が地球上で死後もなお極めて高い支持を受けており、その遺志をないがしろにすることは、
各国が自国を統治していく上で妥当ではないと考えていた。
そのため、各国はコーディネーターを国の構成要素として受け入れる措置を取ることを選んだということもできよう。

これらのことは、異なる側面から言えば、やがて宇宙迫ってくるであろうラクス・クラインの脅威を乗り切るためには、
コーディネーターの存在を認めていかなければならないほど、各国が疲弊していたのだと言うことができる。

オーブも予定している対応策の中身としては各国と大きく異なるものはあまりないことから、
各国で足並みを合わせた対処をしていく形で各国の合意が形成されることになった。
だが、ユウナには、オーブのすぐ近くに存在するカーペンタリア基地の存在が気がかりであった。

ユウナ自身は気がかりというだけでその内実を知っている訳ではなかったのだが、オーブにとって運が悪かったのは、
カーペンタリア基地は地上のザフト軍基地で唯一、クライン派をデュランダルが排除できなかった基地であった。

そのため、ユウナは各国に、カーペンタリアの監視を提案したのであるが、当然ながら各国に多くの余裕はない。
結局、動きがあり次第、テロリストの鎮圧、という名義で、可能な範囲の援軍を送る、という抽象的なことを決めるにとどまった。
その頃、カガリはプラントにあるラクス・クライン邸の一室にいた。
アスランの死を聞いたときには悲しみを感じたものの、それと同等の哀れみを感じていた。
カガリにとってアスラン・ザラという人間は替えようのない大事な人間であったことは間違いない。
だからこそ、彼が自分を信じようとしてくれなかったことが悲しかったのだが、
カガリにはアスランがキラ達に心を囚われているように思えており、
その結果として命を落とした、ということが哀れに思えたのである。

そして、アスランを討ったのがシンであると聞かされたときには、シンへの憎しみが生まれなかった訳ではないが、
かつてのオーブ防衛戦で国を焼く決断をした人間の娘であり、そして軍の指揮を任されていたにも関わらず、
民間人の犠牲を出してしまった自分には自業自得の結果なのかもしれない、とふと思っていた。

そんなことを思っていると、部屋の扉をノックする音がして、キラが入ってきた。
その身にはザフトの指揮官服である白服が纏われている。

フリーダム、ストライクフリーダムを駆り、プラント最高評議会議長に就任したラクスを今まで守り、
戦ってきたことに対する功績として、異例中の異例ではあるが、
ラクスの強い要望によって、キラは白服に任じられたのであった。

「カガリ、もうラクスの議長就任式が始まるよ。早く準備して」

カガリは、ラクスの議長就任式典への出席を頼まれていたのである。
もちろん、ラクス本人は仲間だと思っているカガリに自分の議長就任を祝って欲しかったというのもあるだろうが、
カガリが式典に参加することには、極めて政治的な意味合いが含まれている。
つまり、カガリをオーブから「救出」したラクス・クラインの議長就任を、オーブの代表である
カガリ・ユラ・アスハが祝うことにより、国内的だけでなく、
国際的にもラクス・クラインがプラントの議長となったことを印象付けることが可能になるのである。
そして、その思惑が見えていたからこそ、カガリはそれを断っていた。

当然、カガリはラクス達の武装蜂起に反対していたが、それは今までどおり、聞き入れられることはなく、
もはやかつての仲間達への信頼というものはなくなっていたと言っても過言ではない。

「前にも言ったろ、今は誰にも会いたくないんだよ」
(嘘だけどな)

「まだアスランのことが辛いのもわかるけど、でもラクスにとっても今日という日は大事な日なんだよ。
 僕だってアスランのことは悲しいよ、でもいつまでも過ぎたことを気にしたってしょうがないじゃない?
 だから早く支度してよ。あとは僕とラクスがセイランを討ってカガリがオーブに戻れるようにするからさ」

キラの言葉には当然悪意はない。キラの頭の中にあるのは、ラクス・クラインがプラントの議長となって
それをカガリが祝い、それが世界に伝われば、世界の国々は、ラクスを認めるだろうと信じているのである。
そして、オーブを我が物顔で治めているセイランを討ってカガリがオーブに戻れば世界は平和になる、と思っていたし、
自分たちがデュランダルを討ったことで戦いが起こるとしても、「ラクスが作る」平和のために戦う覚悟はできていた。
キラには、ラクスのすることが平和につながるもので、かつ、唯一正しいものだと信じて疑わない。
「お前に私の気持ちなんてわからないさ。早く行けよ、私は誰にも会いたくない」
(お前も何度言えば分かるんだ!?理由はどうあれ、私はお前達がオーブに攻め込む気があるうちには絶対に協力しないからな!)

カガリの中に芽生えたキラ達への不信感は日増しに高まっていた。
今思うと、自分がオーブにいたときには、ユウナ達から嫌が応にも、自分に反対する意見を聞かされていたが、
だからこそ、自分にない視点から物事を考える契機が与えられて、多角的に考えさせられていたといえる。
そこで学んだことは、人はそれぞれ多様な考えを持っており、様々な利益を主張するものであり、
それらの多様な意見を調整するためには対話や議論を行わなければならない、ということである。

そして、現在目の前で起きているのは、ラクスの意見が絶対視され、すべてが正しいものとされていくという、
単純で分かりやすいものの、それでいて同時に、あまりに奇妙な光景であった。

「もうやめておけ、キラ」

カガリの部屋に今度はバルトフェルドが現れた。

「でも今日の式典はラクスの…」
「お前さんだってヤキンのあと、立ち直るまでに時間がかかったのを忘れたのか?
 理屈じゃなく、時間が必要なこともあるんだ。ラミアス艦長の姿をお前も見ていたろ。
 それに、今のカガリじゃラクスの力にはなれないかもしれないぞ」
「…わかりました。カガリ、君には僕達がついてる。僕は戦う覚悟はある。
 だからカガリもいつまでもクヨクヨしてちゃだめだよ」

そう言ってキラはカガリの部屋を後にした。

「随分と気が利くんだな、バルトフェルド」
「これでもレディには優しいでね」
「お前、何考えてるんだ?」
「…僕が昔、君達に言った言葉を覚えているかい?」
「戦争の終わりに明確なルールなんてない、って奴か?」
「正解だ。敵である者を全て滅ぼして戦争を終わらせる、という考えを否定した上で、
 戦争をどう終わらせるかを考えるために僕達は戦ってたはずなのに、
 今の僕達は何をやっているんだろうかと思わないかね?」
「・・・・・・・」
「状況が変わったとはいえ、僕には、キラがやろうとしていることは、ラクスが望むものを全て敵とみなして
 それを全て滅ぼして戦争を終わらせようとしているようにしかみえないんだよ、特に最近はその傾向が強い」
「キラは変わったよ。昔は、心は弱くて泣き虫だったけど、こう…だから人間ぽかったんだけどさ。
 今のあいつって、まるでラクスの腹話術人形みたいだ」

カガリには、目の前にいる砂漠の虎といわれた男との戦いの中で、
ヘリオポリス以来の再会をキラと果たして以降のことを思い出していた。
気付いたらキラは今のようになっていたが、近くにいたはずの、そして姉である
自分はどうしてキラが今のように変化していく途中に気付かなかったのだろうかと自分を責めながら考えていた。

「ふう…」

会談を終え、足早に自国へ帰る各国の首脳を見送ってから行政府の執務室に戻ってきたユウナが大きな息をつく。

「お疲れさん、結局この後はどうなりそうなんだ?」

執務室でユウナの帰りをウィッツ、ロアビィ、ハイネ、ジャミルと待っていたガロードがユウナに尋ねた。

「どうするも何も、目新しいのはラクス・クラインの議長就任は認めないってことだけだよ。
 ナチュラルとコーディネーターの融和措置は継続していくことになったしさ」
「そっか、デュランダルのオッサンがやったことは無駄にはなってねーんだな」

ガロードの中にレイから託された遺言が響いていたのである。

「そういえば、シン君の容態はどうなったのかな?」
「ああ、なんとか意識は戻ったみたいだぜ。しばらくは絶対安静らしいけど…
 ところで、1つ教えてくれねーかな?」
「何をだい?」
「ラクス・クラインってのは一体何を考えてんだ?キラを連れてあっちこっちで暴れ回ってるけど何がしたいんだかさっぱりわからねえ」

「う〜ん、僕が言うことだから多少偏見が入るけど、彼女は彼女なりに世界を救いたい、守りたいって考えてるだと思うよ。
 デスティニープランも実施方法によってはかなり危険な代物なことは確かだしね。はっきり言ってやり方は論外だけど」

「確かに…カガリさんを拉致ったり、基地を襲ったり、挙句に反乱起こしちまったしなあ・・・」
「意思が強すぎるのさ。自分の行く道を決めて、それを通すことは決して悪いことじゃない。
 でも、人間は誰しも間違うことはあるから、他の人の意見とかも聞いた上で、色々と調整をするだろ?
 その調整というものが彼女には決定的に欠けているんだよ、だから自分の決めたことをどんな手段を使ってもやり通す。
 MSや戦艦を奪ったり、よその国の代表を拉致したり、反乱を起こしたりしてね」

当然ユウナは、カガリ拉致を指示したラクス・クラインのことをよく思っていない。
いや、むしろ地上の、一般的な政治家と言われる人間のほとんどはユウナ同様、よく思ってはいなかった。
なぜなら、彼女の行動はあまりに規格外であり、決められたルールを破ることを躊躇せず、
政治家の中の暗黙のルールだけではなく、社会一般の法秩序すら破ることを躊躇せずに行動に移るため、
何をするかわかったものではない、危険極まりない存在だと思えるからである。
コーディネーターの存在一般に対する考え方には政治家個々に微妙なスタンスの違いがあるものの、
ラクス・クラインという人物に対する考え方は上記の理由から、ほとんどの政治家は同じスタンスであった。

それだけでなくラクス・クラインは、ルールや秩序を蔑ろにする一方で、政治に介入したがること、
ヴィジョン・目的とそれを達成するための具体的な手段を何ら主張することなく武力で自分の意思を実現しようとすることも
政治家として、一人の人間としてユウナがラクスをよく思わない理由の中の1つであった。

特に今回ラクス・クラインが取ったデスティニープランへの対応は、
政治家の息子として、法・経済・政治を学んできたユウナにとっては最悪のものであったと言える。
そして、同時にそれは各国の政治家がラクス・クラインを否定する大きな理由の1つにもなっていた。
つまり、デスティニープランは、内容や影響はどうあれ、デュランダルという、
あくまで立法・行政主体という政治機関が示した「政策」の1つであることに変わりはない。

政策であれば、その是非は議論によって決せられなければならないし、
仮に問題があるとすれば、ある政策や法律のどのような部分が、どのような人権等の権利を、
どのように制約するのか、それが許されない限度なのか否かが論じられなければならない、というのが
人類の歴史が作り上げてきた通常の国家においては適用されなければならない絶対的ルールであり、最終的にそれを判断するのは司法機関である。
そうした最低限のルールすら完全に無視するラクス・クラインの行動は、そのようなルールの中で生きて来た人間には脅威以外の何物でもなかった。

「ガロード、プラントの兵力は、質はともかく、量はオーブとは比べ物にならない。
 以前、アスランがGXの通信記録にあったように、僕を信用できないから、ラクス軍に戻ったのだとしたら…
 きっとラクス率いるプラントは、僕を排除するために最初にオーブを狙ってくるはずだ…
 それもラクスの独善的で無茶な要求を、MSなどを使っての武力行使も辞さない形でね」
「…いきなりデュランダルのオッサンに宣戦布告するような連中だからな、そんくらいしても不思議はねえな」
「僕はオーブの理念である、オーブは他国の侵略を許さない、というものを守るために、
 デュランダル議長が目指した世界を実現することを託された人間の1人として、彼の想いを継ぐために、
 戦うことを選ぶことになる…もっとも、もう一度国を焼いてしまったら元も子もないから、
 君がダブルエックスに乗ってくれるなら、ってことになるけど…」
「・・・・・・」

「セイラン代表代行、それではこのまま、地球と宇宙に分かれて戦う、ということになるのでしょうか?」
ガロードが黙っていると、そこにジャミルが口を挟んだ。

「…それは一面では正しくもあり、誤りでもあると僕は思っております」
「と、おっしゃいますと?」

「これからは確かに、オーブを含めて、宇宙にあるプラントを手にしたラクス・クラインと戦っていくことになるでしょう。
 ですが…今の我々の世界は、ジャミルキャプテンのおられた世界の置かれていた状況とも異なると考えております。
 我々は、デュランダル議長の活躍によって、ナチュラルとコーディネーターの共存する
 世界の実現まであと1歩というところまで到達できました。
 これからは、世界とラクス・クライン率いるテロリスト達との戦いになります。
 あくまで私達が目指すのは、ラクス・クラインという全宇宙を自分のエゴで埋め尽くそうとするテロリストの排除です。
 もはや時代はナチュラルとコーディネーターの共存の是非を論ずるのではなく、共存の形を論ずる段階に来ていますから
 プラントのコーディネーターを殲滅するなどということはありません。ですから、同じ結果になるとは考えておりません」

「確かに、今のこの世界は、宇宙と地球で互いの存在を認めず、憎みあって殺しあう、という状態ではないでしょう。
 ですが、プラントを乗っ取ったラクス・クラインの勢力は強大なものです。歯止めが効くのですか?」
地球連邦と宇宙革命軍とに分かれて戦い、自分が引鉄を引いて世界を滅ぼしてしまったジャミルには、
この世界でもラクス・クラインと反ラクス・クラインに分かれて戦い、それに自分達が介入することで
 自分達の世界と同じような結末になってしまうのではないだろうか、ということが心に引っ掛かっていた。
確かに、今までのユウナの行動は、デュランダルの背後で地球・プラントの和平実現に向けて
裏で動いていたというものであり、それはジャミルにとっても信用に値するものであったことに間違いはない。
だが、自分たちの世界の末路を見てしまったことが、ジャミルを慎重にさせており、
ユウナがラクス・クラインの排除をするとの決意に躊躇いが全く見えないことに一抹の不安を感じていたのであった。

「おっしゃる通りです。地球・プラントに分かれた戦いが始まってしまえば歯止めをかけるのは難しい。
 しかし、彼女の最初の狙いはほぼ間違いなくオーブでしょう。
 そうだとすると、まずオーブを守りきれば、議長を討って彼女が乗った勢いを止めることができます。
 そして、議長の最後の言葉によって彼女は世界にとって、かつてのロゴスと同じ存在になりました。
 つまり、世界の英雄を殺した、ロゴスと同じく人類の敵になったのですよ」

「ですが、ラクス・クラインはかつて世界を救った人間だという。
 少なからぬコーディネーターが彼女につくのは当然として、彼女につくナチュラルも出てきて
 ロゴスの時と同じようにいかなくなるのではないでしょうか?そうしたらさらに戦いはドロ沼状態になってしまう」

「…いえ、ナチュラルは決して彼女につくことはない。そこまでデュランダル議長は見越して、僕にラクス・クラインとの戦い…
 いえ、ナチュラルとコーディネーターの融和を磐石なものとするための最後の戦いを僕に託したのだと思います」

「それはどういうことですか?」

「彼女はラクス・クラインなんですよ、それが彼女をナチュラルが決して受け入れない理由になるんです。
 前大戦の発端となった、ブルーコスモスによるユニウスセブンへの核攻撃に対する報復として、
 当時のプラント議長で、彼女の父親であるシーゲル・クラインは、ニュートロンジャマーを地球上に打ち込みました。
 その結果として、世界各地で極めて深刻なエネルギー不足が生じて、地球の人口の1割が死亡するという、
 ユニウスセブン以上の悲劇が起きたのです。このエイプリルフールクライシスと呼ばれる悲劇は、
 今もなお多くの地球の人達の心に大きな傷を残しています。
 そんな悲劇を招いた人間の娘が、世界の英雄とも言えるデュランダル議長を殺害したのです。
 彼女の言葉を受け入れるナチュラルはいませんよ。
 …いや、地上にもコーディネーターはいますから、コーディネーターですら彼女を完全に否定する者は少なくないと思います。
 ですから、いくらラクス・クラインの力が強大であっても、ドロ沼になることはないでしょう。
 今考えてもギルバート・デュランダルという男はおそろしい人ですよ。こうなることを予想して
 ロゴスと戦いながらも着々と、準備を続けておられたのですからね。全てお見通しだったのかもしれません。
 今では、こうしてもがいている僕を見ている彼の高笑いが聞こえるようです」

「・・・やはり話し合うことはできない、ということですか、やはり」

「交渉で済めば一番ですよ、今は人の命も、お金もこれ以上失いたくはありません。
 ですが、決して彼女は妥協や話し合いをしない。自分だけが正しいのだと信じて前に進むだけなんですよ。
 それを放って置いたら、世界はいずれ全て彼女の好き勝手が罷り通るものになってしまいます。
 それこそ誰もが言いたいことをいえない、何が正しいのかを考えることすら許されない世界に!
 形はどうあれ、そのような世界こそ、ヒトが住まうものとしては滅んだにも等しい」
「バカな!そこまで自分のエゴを振り撒き続けることが出来る人間などそうはいるものではない!
 それはまともな人間の思考ではない!」
「ですが現にいるのです!ジャミルキャプテンもご覧になったでしょう、
 我が国の代表を拉致し、ザフト軍に戦いを挑み滅ぼした人間の姿を!」
「自分のしていることがわかっていないのですか、ラクス・クラインは!?」

「…ええ、だからこそ力が必要なのです。無理強いはしません、ですからお願いしたい。
 どうか今一度、僕を信じていただきたい…」

ユウナが絞り出したような声で言った。

「…私はあのような世界を見たくない、それだけです。セイラン代表代行がその心を忘れるまでは力をお貸しします」
「俺も力を貸すぜ、デュランダルのオッサンには俺もだいぶ世話になったし、その恩返しもまでできちゃいねえ。
 それに俺についてきた野郎どものためにも、あのピンクの女をのさばらせとく訳にゃいかねえからな」
「そうだね、思想じみた話は好きじゃないけど、今の俺、フリーだから衣食住と経費負担してくれれば手ぇ貸すよ。
 それに議長さんの用意してくれた戦闘機とのドッキングでレオパルドも飛べるようになったしね」

ジャミルにウィッツ、ロアビィが続いた。

「ガロード、お前も自分で決めろ、これからは今まで以上に我々の行動は大きな意味を持つ」
「僕に力を貸してくれ、ガロード…僕はこの国を…この国の…オーブの人達を守りたいんだ」
「オーブの…」

ガロードはユウナの言葉に、ガロードがこの世界でともに戦ってきた仲間、
かつての連合とキラ・ヤマトによって、オーブで家族を失い、
さらにキラによって、守ると約束した相手、親友を次々に奪われた男のことを、シン・アスカを思い出していた。

アークエンジェルに乗って、シンと共に戦ってきたからこそ、シンは少なからず攻撃的なところがあるものの、
本来的には優しく、仲間思いで、義理堅い人間であることをガロードは知っていた。
そしてシンの戦う理由の出発点は、家族を失った悲しみにあるのだということはガロードもわかっており、
ラクス・クラインの思ったようにさせていたのでは、
再びシンのような悲しみを味わう人間が生まれることになるのだと容易に想像できた。

(過ちは…繰り返させない!)

「…あいつらが何をしてくるかは俺にはまだはっきりとはわからねえ…
 だけど…シンみたいに悲しい想いをする奴を出しちゃいけないってことはわかる。俺はそんなことを繰り返したくねえ!
 それに…カガリさんを連れ戻せなかったのには俺にも責任あるしさ…」

ガロードがユウナに手を差し出した。
それを見てユウナは少し微笑んでから、ガロードの手を握り返した。

「もちろん、僕もギリギリまで粘るつもりではある。交渉でカガリを助け出せれば何よりだからね。
 でも、あてにさせてもらうよ?」
「ああ、あいつらの好きにはさせねえぜ!」