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X-Seed_Cross ASTRAY_第02話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 22:48:57

第02話 『狂気の断片』

見渡す限り広がる宇宙。空気も重力も音も、果てすらも無い虚空の空間をハイペリオンと名づけられたMSが駆ける。
ほんの1時間前まではここに正体不明のMSの残骸があり、少年と少女がいた。どちらも比較的彼と近い年齢だというのは偶然か、それとも必然か。
今ここで、カナードはハイペリオンのテストを兼ねた調査を始めようとしていた。
コックピットの機器には何本かのコードが伸び、彼の手元のコンピュータへとつながっている。
画面に表示された画像とグラフは、ハイペリオンの状態を表している。

ハイペリオンガンダム、それはユーラシア連邦におけるファーストガンダムとして、
民間企業アクタイオン・インダストリー社との共同開発により生まれた試作機だ。
ある理由により武装全てが本体バッテリーを必要としないパワーセル方式となっていて、これによりセルの供給が続く限り連射等を可能としている。
例外は両腕と両足、そして武装の一つビームサブマシンガンの上部に収納された、計5本のビームナイフがあり、
グリップの下部に専用のエネルギーカートリッジを使用していて、コレもまた本体バッテリーを必要としない。
これらの武装のテストはすでに終了していて、このままでも戦場に投入するのには十分なほどの能力を誇っているが、
この機体の真価はそこではない。ユーラシア・ファーストガンダムの名に相応しく、そして武装全てを本体バッテリーを必要としない物となった理由だ。

「アルミューレ・リュミエール稼動時間のテストを始める。周囲に反応は無いな?」
オルテュギアのブリッジへ向け、カナードは通信を入れた。
彼ら特務部隊XはMS開発部隊だ、ユーラシア連邦においてのMS開発は秘密裏に行われていることであり、あくまで隠密行動である必要がある。
周囲に反応はない、と返事が返ってきた。それを合図にハイペリオンのバックパックがおよそ270度回転する。
三角錐状の発生器がバックパックの所々から飛び出し、三角形へと展開した。
そしてその表面から青緑色をした光が走り、ハイペリオンの周囲を覆っていく、それは幾重ものカッティングを施された大きな宝石の様にも見えた。
装甲した光と言う名の装備、これこそがハイペリオンの真価である。
360度の光波防御体によるシールド、ビームも実弾も通さないまさに絶対の防御と言える代物。
ただしこの防御には弱点がある。バッテリーの消費量が著しく大きいことだ。
使い続ければ当然、機体のバッテリーを使い果たし、動くことはできなくなる。
今回のテストはそんな事態を防ぐための制限時間を確かめるためだ。

「バッテリー残量40%……35%…」
残量が表示されたコンピュータと睨みあい、機体全体の監視を彼は続ける。
それが10%を下回ったと同時に機体の稼動効率が一気に下がりはじめ、機器が警告音を鳴らす。
これ以上は不可能だと判断し、アルミューレ・リュミエールを停止した。
「6分弱、か」
コンピュータに表示されている時間を見て、ポツリとつぶやく。
「単独行動を考慮するとすれば、大体5分が限度です。それ以上となればやはり行動不能になる危険性がありま…す?」
結果から割り出された事柄を伝えようとするクルーの声が急に止まる。通信機から押し殺したような笑い声が聞こえたからだ。
「…クッ…ククッ…はっ、ハハハハハハ!」
耐え切れなかった狂気に満ちた笑い声がコックピットに響く。その目はまさに獲物を目の前にしたかのようにぎらぎらと輝いている。
「5分だと?…十分過ぎる!」
苦しみも怒りも何もかも、たとえ自由が無くとも、たとえ蔑まれようとも、ただひたすらにその時を待ち望み刃を研いで来た。
そしてその刃を振るうための力がここにある。それはカナードの悲願であり生きる理由に直結するものだった。
「待っていろ、キラ・ヤマト。貴様を殺して俺が…俺が本物になってやる!」
全ての感情をぶつけるかのように咆えた。この力さえあれば、と。

通信を担当していたクルーが軽いトラウマを持ってしまったのは言うまでもない。

アリュミューレ・リュミエールのテストを終えたカナードは艦に戻り、機体から降りてからすぐに正体不明のMSについての報告を受け取った。
機体に残されたデータから判明した形式番号は"GX-9901-DX"現在確認されているMS全ての形式番号を調べたが該当する物は無いという。
また動力もバッテリー式ではないことから新型の可能性があったが、今はこれ以上確かめる術は無い。
「新型か、それとも…」
ふと、このMSをレーダーが察知した時のことを思い出す。あまりに非現実的な状況から彼は"ワープ"という言葉を使った。
そして今、そんなことがあるならもしかしたら"別の世界の代物"なのではないか、と考え付いた。
しかし、短絡的にむすびついた考えを口に出すのもどうかと思い、カナードは言いかけた言葉を飲み込む。
「異世界の代物だったりするかも知れませんねぇ」
飲み込んだ言葉を、このMSの調査をしてい男がつなぐ。クルーの中で最年長の男だ。この艦においてMSの整備全般を担当している。
やや口調や行動などが軽い所があるが、機体の整備や調査においては非常に優秀である。
その男がそんなことを言い出したのだ、まだ何かあるのだろう。
「何故そうだと思う?」
「まだ完全に解析できてませんがね。何かとんでもねぇ物を持ってるように思うんですよ。このMSは。それにあの二人のこともありますし」
長年の勘がうずくのだと言わんばかりに言う。そしてそれだけではない、
ガロード・ランとティファ・アディールの事を考えれば答えがそう導き出されるのも当然の話だった。
「コーディネイターのことをまったく知らないんですよあの二人。今この世界でそのことを知らない人間なんて赤子くらいだ」
「一理あるな…分かった。俺も直接話を聞きに行くことにする。ハイペリオンの整備は任せたぞ」
「了解。あんまし部下を怖がらせねぇでくださいよ」
「何のことだ」
もちろん、あの通信を担当したクルーのことだろう。だがあの時、ある一種の狂気に支配されていたカナードは知る由も無かった。

自動ドアが開く音がする。散々尋問されたガロードは不機嫌な表情をし、入ってきたカナードの顔も見ずに言った。
「だからコーディネイターもナチュラルなんてもん知らないっていってんだろ。いい加減にしてくれよ」
「それは分かった」
先ほどまでとは違う声だったが、疲労感が強いガロードはやはり顔を上げて入ってきたカナードの顔をまだ見ようとはしない。
「この世界においてコーディネイターとナチュラルを知らないのは赤子くらいだ。だが、お前達の言う新連邦も宇宙革命軍もこの世界では使われていない言葉だ」
相手が異邦人であることを前提として切り出す。知っているか、知らないか、何故知らないか、などという質問は無意味なことは分かりきっていた。
非科学的でありながらも、ソレを前提として切り出す方が情報を聞き出す一番早い方法だろう、と思ってのことだ。
「この世界は、私達の住んでいる世界とは違う世界なのですか?」
もはやふてくされているガロードの代わりに、ティファが切り出す。
彼女もまた疲労感は隠せないが、ずっと言い合いをしていたガロードよりは、まだ元気があった。
「そう仮定したほうが話が早い、それだけだ。まずこちらの問いに答えろ、新連邦とは何だ」
新、と名の付く以上少なくともその前身となる連邦があったのだろう。
何故"新しい"を冠することになったのか。未知の世界を紐解く鍵として最初にそれを握り、手繰り寄せる。

最終的に集まった情報を整理する。
ガロードとティファ、二人のいた世界の地球は15年前の戦時中、コロニーの落下により壊滅的な打撃を受け荒廃していて。
15年という歳月をかけ、徐々に復興してきてはいたが、かつての"地球連邦"の残勢力が新連邦の樹立を宣言、それを皮切りに一部を除く地球全土を統一した。
そしてかつて地球を滅ぼした戦争の相手、宇宙革命軍の健在を公表し、全面戦争を再開したのだという。
その戦争を影で望んでいた者達の手により両軍のトップは戦死。
彼らから聞き出せた情報はそれだけであった。その戦いの最中に飛ばされてきたらしく、両軍がその後どうなったかは彼らは知らないようだった。

「新人類と旧人類か…ふっ、人間はどの世界でも変わらないということか」
コーディネイターとナチュラルにそっくりそのまま置き換えてしまえるような内容にカナードはあきれ返ったようにつぶやく。人類はどこへいっても愚かなのだ、と。
それはもちろんお互いを認めない者達だけに向けられたものだけではなく、己自身にも向けられていたのかもしれないが、その自覚はカナードにはまだ無い。
「さあ、俺達の方は教えたんだ。今度はお前等の方だ!」
ティファが話をしているうちに元気が回復したのかやけに力を込めガロードが言う。
ガロードはカナードがつぶやいた言葉が聞こえていた。言い方からすればおそらくこの世界も自分達の世界と似た状況なのだろう。
もちろんそんな人間ばかりじゃない。しかしその言葉に反論はできなかった。少なからずそういった人々がいたからこそ新連邦が樹立し、宇宙革命軍との戦争に突入したのだから。
それが悔しかったのだろう。それがガロードの声に力が込められていた理由だ。
「こっちの世界についてか?」
「ああ、そうだ。お前がさっき言った、"人間はどの世界でも変わらない"って。つまりそれって、こっちで地球と宇宙に別れて戦争してるってことなのか?」
「そういうことだ。…下手すればもっと酷いものかもしれないが」
「どういうことなんだ?」
「コーディネイターとナチュラルの差だ。前者は遺伝子操作によって先天的能力が高められているからな」
あくまでカナードは中立の立場に立つような言い方で話を進める。彼の口からもたらされた事実にガロードもティファも驚愕せざるを得なかった。
結果的にやっていることは似寄ってこそいるが、決定的な差がそこにある。
前者が後者に対して優越感を持つ者がいるのは必然であり、後者が前者に対して劣等感を持つ者がいるのも必然だ。
その両者の溝がこの世界の戦争の根底にあった。
その事実は、ガロードの決意をさらに硬くするに十分な理由となる。

【NEXT EPISODE:そして亡霊は眠る】