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X-Seed_Cross ASTRAY_第03話_2

Last-modified: 2007-11-11 (日) 22:52:46

第03話『そして亡霊は眠る:中編』

あれから二日がたった。

いまだにダブルエックスから思ったような収穫はない。
ハイペリオンの調整も完全に終了したと言える今、専門家にダブルエックスを任せ、カナードは自室で睡眠を取っていた。
ガロードもティファもこの二日の間程度の間に艦の人気者となっている。
この世界とは違う世界から来たということはあまりに衝撃的な事だ。
嘘、真実どちらであれ、リアリティのある別世界の話はクルーの興味を強くひいた。
それに加えて思春期真っ只中の恋人同士だ、からかいがいがあるらしい。
彼はクルー達のそんな行動をいまいち理解することができず、興味なさげに自室へと戻り、今に至る。

ふと目が覚めた、なんともいえない軽い全身のだるさを感じる。
ちっ、と舌を打つ。夢見が悪かったらしい。
心臓の音が、ノイズがかかったような誰かの声が頭の中にやけに煩く響く。
嫌というほど聞かされた言葉が、声付きで繰り返された。"失敗作"と。
過去がフラッシュバックし、どうしようもない苦しさを感じた。

それを強引に断ち切り、口の端を吊り上げ低く笑う。
(あと少しだ…あと少し…)
深い憎悪が少しずつ狂気へとすり替わっていく。ハイペリオン、そしてアルミューレ・リュミエールという力は手に入れた。
(力は…ある。待っていろ、キラ・ヤマト)
憎しみと狂気の矛先がある一人の人物へと向けられる。
それは恨みではない。存在自体に対する妬みの類。だがそんな事実など、どうでもよかった。
その憎しみがあったからこそ、今まで生きてこれたのだから。
(…―俺は失敗作なんかじゃない!)
気分を変えようと放り出したままの上着を着込んで、格納庫へと向かう。
機械は裏切らない。そんな悲しい安堵に身をゆだねることが、今の彼にとって唯一の安らぎなのかもしれない。

人工的に重力を発生させている部屋とは違い、無重力の廊下を最初につけた勢いを借りて渡る。
勢いにある程度任せれば気だるい体でも歩く辛さはない。
ふと、何かの影を見かけ止まる。すぐに正体は分かった。
「ガロード・ラン。何をしている」
気だるくて面倒だったが、声をかける。相手がガロードだったからだ。
「…!またあんたかよ」
げっ、と言ったような表情を見せる。昨日も彼は同じ様な行動をしてカナードに発見されていた。
(どうせまた格納庫に行こうとしたんだろう)
どう考えてもバレバレだ。部屋は反対方向、この時間格納庫への通路は割と人がいない確立が高い。
監視を続けさせているとはいえ、人間のしていることだ、穴はいくらでもある。
「格納庫には行くなといったはずだ」
「別に行こうとしたわけじゃねぇよ、ただ腹減っただけだ」
明らかに嘘。しかし今のカナードにとってそんな嘘程度どうでもいい事だ。
「そうか…」
そうとだけ言い、格納庫へと進んだ。
あえて招き入れてダブルエックスについて聞き出すこともできたかもしれないが、今はただ一人でいたかった。
ふと振り返ればガロードが釈然としない表情をし、部屋の方向へ戻っていくのが見えた。

重力の無い空間を床に足をつけずフワフワと漂う。
目的は己の機体だ。白とチャコールグレーを基調とし、赤がアクセントとして彩られている機体。
コックピットを開きシートに座る、そして深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
そうすれば気分が少し良くなった。
コックピット身を乗り出してちらりとダブルエックスがある方を向けば、やはりあのクルーが作業を続けていた。
元々、技術力こそは無くともMSに関する知恵はある。
知識というデータだけでは測りきれない"熟練の腕"というものに興味を惹かれたのだろう。
声をかけるつもりはないが、その作業を見ているのは一種の楽しみでもあった。
ふとクルーが作業の手を止めカナードの方を向いく。
「パルス特務兵、居るんなら手伝ってくだせぇ」
「腕には自身があるんじゃなかったのか?」
「腕だけでどうにかなることなら手伝えなんて言いませんぜ?」
それもそうだ、と少しだけカナードは笑った。
ダブルエックスのコックピットは何台かのコンピュータと繋がれていた。
何本ものケーブルを伝い、情報が映しだされる。
コンピュータのデータがこの世界の組み方と違う部分が多いため、簡単なパスワードでさえ解くのに丸一日要した。
カナードの持つ情報処理能力の高さはコレをさらに完全に理解する上で必要不可欠であった。
一番重要であろう部分を今、紐解こうとしている。
この機体のもつ武装"ツイン・サテライトキャノン"についてだ。

ツイン・サテライトキャノンと名づけられた装備はほぼ跡形もないといって言いほど壊れきっていて、
辛うじてこれがそれなのだろう、と推測できる程度だった。
バックパックの表層の構造と、ツインとキャノンという装備の名の一部での判断だが、
おそらく砲身が両肩にかかるように作られているのだろう。
しかしサテライトの意味合いが分からない。直訳すれば衛星だ。
「衛星…か」
そうつぶやく。その手元では全てのプロテクトが外れたとコンピュータが告げていた。
作業を始めてからどれくらい時間がたったのかは実感がない、手に若干の痺れを感じるあたりけっこうな時間がたっているらしい。

こちらの世界のデータとして変換された別世界の兵器の情報。
月のマイクロウェーブ送信施設からマイクロウェーブを受信し、エネルギーを発射する物。
衛星を中継し、月のない場所でも撃つことができる装備だった。
マイクロウェーブ…マイクロ波を使った兵器は連合軍の持つ"サイクロプス"以外に聞いた事はない、
MSに使われたという話も聞かない。いまいちイメージをすることができなかった。

「せめて映像でも残ってりゃあ応用できたかもしれないんですがねぇ」
「ぼやいても仕方がないだろう。今のところこのMSを直す方法はない…ん?」
コンピュータがまた声を上げた。そこの映し出されたのは単体でやけに容量を食っているデータだった。
「やけに容量を食うデータだな。まさか…」
映像だろうか?。それにしてはやけにタイミングがいいものだった。
そもそも映像を記録するMSなど聞いたこともないが。
実験や試験に使われていたのならば可能性がないとは言えない。
ゆっくりと再生の準備に入るコンピュータ。その時間がやけにまだるっこしい。
未知の物と遭遇できる、そんな好奇心が心臓の鼓動を煩く感じさせる。

絶句、とはこういった状況のことを言うのだろう。
あまりに想像とかけ離れた破壊の光景。全身が凍りついたかのように冷たくなっていくのが分かる。
好奇心を打ち砕き、別の感情が心臓を激しく叩いた。
心臓の脈打つ音が頭の中に響いて、その光景を理解させようとしない。
それはまるで警告だった。
理解してはならない、存在してはならない。と
本能からの警告がぐるぐると頭の中を支配し、理解する事を止めさせようとする。
「…冗談じゃない」
止まっていく思考を無理矢理回転させ、先ほど起こった現実をどうにか直視する。

月からの一筋の光が受信機であろう胸部へと降りたかと思えば、映像は一瞬閃光で視界を失った。
その二つの砲身から放たれたであろう閃光は、島一つをやすやすと消し去ったのだ。
えぐったのではない、"消し去った"のだ。
この映像は事実に他ならない。加工されている可能性もない。意味が無いからだ。
それだけで終わりではない。一端映像は切れ、再開する。
宇宙に浮かぶコロニーのような物体がカメラの正面に写しだされた。
そして放たれる閃光。…少しの間をおいて、二度目の閃光が走る。
先ほどの月からの光がマイクロウェーブであるのなら、一度の受信で少なくとも2度は撃てるということとなる。
それだけの強力なエネルギーを放ちながら、若干の間をおいただけで放つことができる。
もしこの技術がこの世界で実現できるものだとしたらその先に待つものは…。最悪の状況の想定はあまりに容易い。
恐怖に逆らおうとして、この力を自分だけの物にしてしまえるのなら、と考えて見る。
しかし無理なのだ。一度本能が理解してしまった恐怖を拭うことなど容易ではない。

"これは存在してはならないものだ"…そう、本能が理解した。

カナードは押し寄せる恐怖の波を押しやり、少しだけ開けたままになった口を強く閉じる。若干の間の後、口を開いた。
「今見た物は忘れるんだ。…これは完全に抹消する」

あれから数時間。ガロードはカナードに呼ばれ、格納庫まで来ていた。
最初はティファも連れて行くつもりだったのだが、拒否されたため仕方が無く一人で来ることとなった。
何故呼ばれたのか、何故ティファを同行させるのを拒否するのか。その答えはガロードにとって至極簡単なものだ。
「…ダブルエックスのことについてか?」
張り詰めた空気の中、ガロードが口を開く。その問いにカナードは静かにうなずいた。
極度の緊張感をもたらすこの状態の原因。
それはダブルエックスの持つ最凶の兵器の存在をカナード達が知ったからだなのかもしれないと、ガロードは思った。

「ガロード・ラン。お前はここに来て何をするつもりだった?」
先ほどの廊下での遭遇。
そして、この二日間何度も格納庫への侵入を試みては誰かとはちあい、ガロードが目的を達成できずに居たことを彼は知っていた。
目的の検討はついていた。このダブルエックスと呼ばれるMSについてだろう。
その詳細しだいではただで済ますわけにはいかないのだ。

「ダブルエックスを…サテライトキャノンを誰にも使わせないためだ!」
そう言いながら、正面のカナードに対して全身で体当たりを食らわせ、強行突破を仕掛けた。
隠しても無駄だろう。おそらくサテライトキャノンの存在はすでに知られている。そう思っての行動だった。
重力下の活動の方に慣れてる彼にとって、重力を発生させてる今の格納庫の状態は実に好都合だった、が。
全身の体当たりにカナードは倒れることはなく、体当たりをしかけたガロードの腹にカナードの拳が入り込んでいた。
痛みで動きが止まったところをそのまま床に叩きつけられ押さえ込まれた。
「ぐっ!」
「悪く思うな。正当防衛だ」
そういうとカナードはガロードから離れる
痛みですぐには起き上がれそうになかった。

「それに、アレは使うつもりは無い。お前の意思を知りたかっただけだ」
「へ?」
思っても居なかった言葉に、素っ頓狂な声をあげてしまう。
「もしお前がアレを抹消する事に反対するのなら、理由を聞こうと思ってな」
少しの間をおいて、理由しだいでは問答無用で抹消するつもりだったが、と付け加えた。
「抹消…」
固めた筈の決意が揺らぐ。使わせないようにするのではない、痕跡すら残さず消してしまわなくてはならない。
大切な相棒を無かったことにしなくてはならない。
覚悟はしていた、だが実際それを他人から突きつけられた今、まだ成長しきっていない少年の心は割り切れず困惑した。

「そうだ、アレはこの世界に存在してはならん。…理解できるな?」
彼の困惑を察し、カナードは確認するかのように言う。
「なぁ、どうしても消さなきゃなんないのか!?」
カナードに掴みかかり必死に訴える。先ほどの自分の行動と決意とは矛盾している。
そう理解しつつもどうしようもなくガロードは揺らいでいた。

そんな彼にかける言葉を、カナードは知らない。何も言うことはできなかった。

【NEXT EPISODE:そして亡霊は眠る:後編】