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X-Seed_Cross ASTRAY_第04話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 22:53:52

第4話 回りだす歯車

昼間の暑さがやや薄れ、海が夕日を映す。夕日が沈むのを惜しむかのようにさざなみが音を立て、
境目が曖昧になった海と空は境目など無いと思ってしまいそうなほどだ。
やや暗くなり始めたとある島の砂浜に二つの人影が歩いている。影だけを見ればまるで親子のように見えた。
しかし、その二人は親子というには似ているとは言いがたい。
親のように見える人物は、黒い−光に照らされ若干濃い茶色に見える−髪をオールバックにした男性だ。
やや長身の彼のその手には茶色い杖が握られていた。杖を持って歩くにはまだまだ若いくらいの年齢に見えるが、
杖の先端で何かを探るように歩くところを見ると、どうやら目が見えないらしい。
もう一人は金色のふわふわとしたクセっ毛の少年。10代前半程度だろうか。
やや垂れ、昼間の青空のような色の瞳をしている。
砂浜に二組の足跡をある程度残した後、二人は立ち止まり、男性が口を開く。
「では頼みましたよ、プレア」
しかしプレアと呼ばれた少年はやや俯き、きゅっとまだ小さめのこぶしを握り締めて黙った。
「どうしました?・・・また苦しいのですか」
男性は暫くたっても答えが帰ってこないことを不審に思い。少年の体の中に根付く、
病魔にも宿命にも似たものが原因なのではないかと疑って、少し表情をしかめて聞いた。
「いいえ。それは大丈夫です」
彼は少し、苦笑いを浮かべながらはっきりと否定した。
「その・・・導師さま。こんな僕でも、本当に誰かの役に立てるんでしょうか」
プレアはそっと胸中の不安をこぼした。
そんな不安に、導師と呼ばれた男性はゆっくりと彼の肩に手をかけ、やわらかく微笑みかける。
「これはあなたにしかできない事です。あなたがあれを持ち帰る事によって、
エネルギー不足に苦しむ沢山の人々が救われる事になります。自信を持ちなさい」
はい、と静かに頷くも、まだ不安げな彼に対して、導師はさらに続けた。
「大丈夫ですよ。宇宙であなたを待っているジャンク屋の皆さんは優しい人たちです、きっとあなたの力になってくれるでしょう」
その言葉にようやく不安が拭えたのか、彼は俯いたままの顔を上げ、青い瞳を細めて微笑んだ。
「はい!では、行って来ます」

夕日ももはや後数分で沈むだろう。延々と続く砂浜に足跡、その先にある水平線。
少年の背をその見えない瞳で導師は見送りながら、願うように呟く。
「プレア・レヴェリー。運命の子よ…」
空は夕日のオレンジ色から深い青色のグラデーションで彩られ、白い月と星々が輝き始めていた。

オルテュギア内の格納庫。今ここはあと数時間で目的地の近くに到着するため、忙しく動き始めていた。
「メンデル?」
慌しく、轟音が反響し他人の言葉が聞き取りにくい状況下で、
ふいに耳に飛び込んできた言葉をガロードはそのまま聞き返した。
「遺伝子実験コロニーのことさ。まあ、今は放棄されているが。次の目的地だ」
興味を持ち、そばに寄ってきたガロードに最年長のクルー―アルコフと呼ばれている―は答えた。
「目的地なのは分かったけど。どうしてまた放棄なんてされたんだ?」
この世界の歴史を知らないガロードは、せめて少しでも自分が今いる世界の情報を得ようと色々な事をこんな風に質問するようになった。
これからこの世界で生きていくために出来うる限り知識を幅広く持つ必要があったからだ。
勿論自分達の世界に帰ることをあきらめたわけではないが、方法が検討も付かない以上今の流れの中でどうにか生きてゆくしかないのだ。
「バイオハザードが起こったのさ。何年前だったか…3年くらい前だな。だから今は無人だ」
アルコフのそんな答えに、「げっ」といった表情を彼はする。
「そんなに前じゃないじゃん。・・・大丈夫なのか?」
自然災害の起こり無いコロニーにおいて、考える限り最悪の災害であるといえる。
発生したら最後、危険度の高い汚染地帯と化す。ガロードがそんな反応を示すのも無理は無かった。
「何、一応X線照射で消毒されてはいるからな。無害だろうよ」
「なんだよ、はっきりしないな」
あまり心強い答えとはいえない。ガロードはわざと子供のように少しすねた様に言った。
そんな様子が何かおかしかったのか、アルコフは笑いながら大きな手で彼の頭をわしわし撫でる。
「俺たちは近くまで行くだけさ。後はパルス特務兵の仕事だ。それに艦にいるか、パイロットスーツ着てりゃ問題無い」
まぁ、そうだけど、と納得したような納得しないようなそんな事を呟きながらガロードはそれに続けて言う。
「カナード一人で行くのか。いくら廃棄されたコロニーったって、戦時中だろ?一人じゃ危険なんじゃ・・・あ、そうか。一人ったってこの艦があるから大丈夫か」
自問自答し、納得する。
「まぁ、そういうことだ。どうせ他の奴らがついていこうとしても拒否されるだけだしな。キラ・ヤマト関連は特に」
「そういえば、キラ・ヤマトってなんなんだ?人の名前だよな」
その名前を誰かが口にすると、カナードの表情が変わる。憎しみと殺意が滲み出し、
まるで別人になったかの様に激しい狂気にも似た感情を表に出す。その理由が気になるのだ。
「ああ、人名だな。・・・なんて説明すりゃいいんだか・・・、まぁなんだ。仇みたいなもんだ。」
決まりが悪そうにカリカリとこめかみを引っかき、言葉を濁しながらもアルコフは答え、
突っ込んでくれるなよといわんばかりに苦笑いを作る。
「そういうことにしておくよ」
突っ込みたいことは山ほどあるのだが。食い下がってもこれ以上教えてはくれないだろう。
本人から聞き出そうとも考えたが、やめておけよとアルコフに先に突っ込まれてしまった。
そのうち分かるとだけ付け足される。

「皆さんお疲れ様です。食事を持ってきました」
アルコフの手伝いをしながら2時間程度たったころ、ティファが食事を運んできた。その声を合図に機械が擦れ動く音達も消えて行く。
彼女は今、少しでもガロードの手助けになりたいと幾つかの仕事をこなしていた。
普段は全員交代しながら食堂で食事を取るのだが、出撃準備に入ると整備クルー達は忙しくなりそれも難しくなる。
そんな時彼らに食事を運ぶ、彼女の今の仕事の一つだ。
彼女は近くで作業しているクルー達から順に銀色のパックとチューブ入り飲料水を渡していく。
「もう少しマトモな物をたまには食べたいもんだ」
パックのふちの切り込みを横に引っ張り、栄養面だけを重点に置いた娯楽性のカケラも無い薄茶のブロックを取り出して言う。
素材の性質上だろうか、上手くまっすぐに開かず、ビニールを指で伸ばした時の様に波打った切り口となった。
「戦争中なんだ、贅沢言うなよ。こうやって食い物にありつけるだけでもありがたいと思ったほうがいい」
もう一人のクルーも、そうとは言いつつもやはりつまらなそうにブロックの端を噛み砕く。
少しでも満腹感を得ようと彼は何度も何度も噛んだ。
ブロック特有のもさもさとした食感は毎食食べていると拷問に近い。強引に飲料水で飲み込む。
「地球はもっと酷いからな。・・・お袋、大丈夫かなぁ」
すわり込んでパックを見つめたまま食べようとせず、故郷の母を思う者もいる。
本来ならば少しでもストレスを軽減させるための娯楽要素を持った食べ物もあったほうが良いのだが、
戦時中であることと、地球の現状はそれをよしとはしなかった。
「ティファ、お疲れ様。ありがと」
ティファの手からガロードは食事を受け取る。
彼女がこうやって働き始めてから、一緒にいる時間は必然的に少なくなってしまった、
だけれど自分が頑張っている間に彼女も頑張っていると思えばほとんど寂しさを感じることもない。
「ううん。私こういう事やったこと無いから、楽しい」
戦争中なのに不謹慎かもしれないけど、と付け足してふわりとした微笑みを少しだけ苦笑いに変える。
今までの様な関係だけではなく少しでも愛する人の力になりたい。
それだけで疲れても辛さなど微塵も感じない、むしろ新しい体験に楽しさを覚えるのだ。
「大変だったら言ってくれよ?手伝うからさ」
そんな風に二人で言葉を交わしているうちに、ガロードは周りからやけに視線を感じ、
あたりを見回してからぱちぱちと二、三回瞬きをした。
ある者はニヤニヤと笑みを浮かべ、ある者は羨ましそうに見つめ、ある者はしみじみと、
若いってのはいいねぇなどと好き勝手な感想を述べていた。
なぜ今まで気づかなかったのだろうか、答えは非常に簡単なものである。
つまるところ、先ほどまで二人きりの世界を作っていたために周りの会話が聞こえなかっただけの話である。
「〜〜そ、その。まだカナードの分、渡してないだろ?俺が渡してくるから!」
からかわれていることに気づいてその場から逃げ出したくなったガロードは、
適当な理由をつけて視線達から脱兎のごとく逃げだす。頬が熱い気がした。
残されたティファもまた、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてうつむいている。
からかいの声はやがて自然な笑い声に発展する。
戦時中であるということすら忘れさせてしまう様なそんな明るい笑い声。
それは艦内の新たな日常になりつつあった。

鼓膜が震えないよう手でふたをして、それでも貫通して中に刺さってくる笑い声。
聞きたくなくて、もっと強く圧迫する。それでもまだ刺さった。
自分に向けられているわけでもなければ、他人を嘲笑う声でもない。
それでも脳に伝えられる過程で捻じ曲げられて突き刺さる。
突き刺さって、記憶の奥底を引きずり出す。
被害妄想もいいところだ。そうだと理解はしていた。
そのうち笑い声が聞こえてこなくなった。いったいどれくらいの時間、機体の影でこうしていただろうか。
こういった場合、体内時計など微塵も役に立たない。
新しい日常はまだ受け入れられなかった。

周りの状況を確かめようと手のふたを開けようとする…なかなか離れてはくれず、今は心臓の音がうるさい。
何度か深く呼吸をすると少しずつおさまっていく。
そのとき初めて誰かが自分ことを呼んでいることに気づいた。
「…−ド!」
はっとして顔を上げた。その過程で自然とふたは開く。
「カナード!どうしたんだよ。大丈夫か?」
「いや…問題ない。お前こそどうしたんだ」
問題ない、わけではなかった。
だが彼はそれを知られることを望まない。そしてガロードもまた、それを理解したのか、
それ以上深く聞くことはしなかった。
「俺?ああ、お前の分の飯持ってきたんだ」
ガロードが銀色のパックと、他のクルーとは違うパッケージのチューブ入り飲料を渡す。
受け取ってすぐブロックを取り出して手ごろな大きさに割って口に入れた。
「あ〜大変だった。なんでこう大人ってのはヒトをからかうのが好きなんだか」
表情も変えずにただ食べては飲料で流し込んでいるカナードの近くで、
食事をあらかた終えてぼちぼち作業に戻るクルーたちを眺めてぼやく。そういえばフリーデンにいたときもそんなことあったなと思い出した。
「さすがに毎日じゃあこんな飯あきるよなぁ。たまにはもっと普通のものが食べたいぜ」
思い出がちょうど食事というタイムリーな場面までたどり着いた。ついつい当時と比べてつぶやく。
「贅沢か。もっと前に比べたらこれでもましだし」
フリーデンの仲間たちと行動するようになる前、時には今より酷いものしか食べられない時期すらあったことを思い出し、
自分はこんなにも贅沢になっていたんだなと少し自嘲する。
「カナード?」
ふとカナードを見れば、食事の手も止めて何か考えこんでいた。その間が何か怖くガロードには感じられた。
「…これ以外に普通の食べ物があるのか?」
思ってもいない質問にガロードは言葉を失う。カナードは皮肉ったわけでもなく、冗談をいったわけでもない。
この娯楽性のかけらも無い、栄養面だけしか考えていないようなこの食べ物が、
唯一の普通の食べ物だといわんばかりの表情で質問したのだ。
彼はガロードの表情と言葉が凍ったことで何か納得したらしく、軽く視線を落とした。

そして若干の間の後目的地点到達の報告が届く。その報告を聞くなりカナードは、口の中に残るものを残りの飲料で流し込んで機体に乗り込んだ。
それはガロードが、やっとのことで言葉を見つけた直前のことであった。

【NEXT EPISODE:珈琲の味】