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X-Seed_Cross ASTRAY_第05話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 22:54:21

「ハイペリオン、出す!」
ブースターを吹かし、一気に広大な宇宙へと飛び出した。
目指す目的地は遺伝子実験コロニー・メンデル。生まれ故郷だ。
正直まったく覚えていないためか、その姿かたちには嫌悪は持たなかった。
だがそこは紛れもなく己の生まれ故郷であり、元をたどればすべてがここへとたどり着く。
そう考えればただひたすら憎たらしい代物に見えてくるから不思議だ。
だが今は、覚えてもいない生まれ故郷を憎むより大事な目的がある。それは、キラ・ヤマトを見つけ出し、殺すことだ。

ずいぶんとメンデルに近づいてきた。そのときレーダーが一体のMSの反応を警告する。
どうやら先にこちらに気づいて出てきたようだ。
やがて姿かたちを確認できるまでの距離になる。
相手は左肩にジャンク屋ギルドのマークをつけ、赤い素体に所々を白い装甲で保護したツインアイのツノつきMS。
機動性重視して作られた代物らしい。キラ・ヤマトの乗る機体の特徴とは違っている。コイツははずれか?
「こちらはジャンク屋ギルドのもんだ。そっちの用件は何だ!」
あちら側から通信が入り、はっきりとした口調で問いかけられる。
用件など唯一つだけ。
「キラ・ヤマトを知っているか?」
その問いに相手は言葉を失い黙る。それは肯定と同じ意味に他ならない。自然と唇の端が釣りあがった。
心臓の音がだんだんと大きく聞こえて来る。
「知っているんだな?答えろ。奴は今どこにいる」
ビームサブマシンガンの銃口を相手に突きつけ、高揚する気持ちを抑えつけ冷静さを装い言った。
「…ここにはいない」
期待が大きかっただけに若干曖昧な答えについ舌打ちをしてしまう。
知っていたとしても、おそらくこのままではこれ以上の情報を引き出せないだろう。
「まともに答える気はなしか、ならば…消えろ!」
ハイペリオンのビームマシンガンの光が3つ4つ相手の肩の装甲の端を打ち抜く。
やはりそれほど硬いものではないようだ。もう少し内側を狙ったつもりだが相手の反応はそれほど悪くないらしい。
しかしそうでなくては面白くない。
相手もそのままみすみすやられるわけにはいかないと、反りのついた片刃の実剣を腰の鞘から抜き放ち、向かってくる。
狙いを定め、引き金を引いた。しかし赤い機体の持つ実剣はソレをやすやすと防いでしまう。
「対ビームコーティングでもしているのか」
ぐんぐんと距離を近づけてくる赤い機体に舌を打ちながらつぶやく。思った以上にすばやい。
予想外の強敵との遭遇に、心なしか先ほど削がれた高揚が戻ってきていた。
赤い機体が実剣を振りかぶる。
そのモーションを一瞬だけ早く読み、左手でビームナイフを引き抜き高熱の刃を出現させ実剣を受け止めるように振るった。
二つの刃がバチバチとつばぜり合う。
一瞬でも判断が遅れていれば今頃ハイペリオンの右腕は切り落とされていただろう。
しかし相手がコックピットを狙っていなかったあたりが癪に障る。なんて甘い。
「薄い装甲があだになったな!」
左手はそのままに右手のビームサブマシンガンを相手に向け容赦なく引き金を引いた。
「おい、答えろ」
赤い機体は至近距離からビームサブマシンガンを打ち込まれたために、
装甲はところどころ削がれパチパチと電気の花を散らしていた。
パイロットに応答を求めるが、答えはない。
「…死んだか?」
やりすぎたか、と舌を打つ。もともと生かして返すつもりは毛頭なかったが、情報を聞き出せなかったのは痛い。
気を失っているだけなのかもしれないが捕獲したりするにしても手間がかかるだろう。
正直この区域に留まり続けるのはまずい。
銃口を向けたままカートリッジを腰の後ろの予備と交換し、コックピットに向け引き金に手をかける。
たとえ相手が死んでいようが、その機体にこのハイペリオンの姿が記録されていれば機密が漏れるきっかけになりかねない。
それを防ぐもっとも簡単な手段。それは完膚無きまで粉々にしてしまえばいいだけのことだ。
動かない的相手だ、手間もほとんどかからない。
しかしその引き金が引かれることは無かった。
「パルス特務兵。司令からの帰還命令です」
オルテュギアからの通信。声の主はメリオル・ピスティス。
「こんな時にか!…仕方が無い、帰還する」
たとえジャンク屋の様な非合法に近いような組織と言えど、そのネットーワークは侮れない。
特に技術関連等の話題は一時間後にはほとんど出回ってしまうだろう。こうなれば機密も何も無い。
しかし帰還が遅れれば"奴ら"はここぞとばかりに罵倒するだろう。
命令したのはあちらの方であり、命令に従ったに過ぎない。そう自分に言い訳をする。
「俺はどうなっても知らんぞ!」
幸いハイペリオンの特異な装備を見せたわけではない。
姿かたち程度であればまだ、何処かの新型の一言程度で済む。
何よりパイロットが生きているのであれば、次の機会という可能性もあるだろう。
墓場までもってかれちまったら再現しようがない
アルコフはそんなことを考えながら、厳重に封をした袋を開く。やや細く挽いたコーヒー粉が顔を覗かせた。
人の手ではやはり密封することはできないためか、持ち出したときよりずいぶんと香りが飛んでしまっている。
最も、密封に近い状態であっても挽いてからかなり時間がたってしまっているのだが。
本当は挽きたてが一番いいのだ。二週間以上たってしまえば美味しくなくなってしまう。
だけれど、この味を再現できる人はこの世にはもういない。だからこうやって一年以上たっても使い切れないでいる。
再現しようにも墓場までブレンドのレシピを持っていかれてしまえばどうにもできない。
おまけに言えば最近の地球は豆を手に入れることすら難しい状況だ。
もっともレシピを持っていたとしても、焙煎時間が少し違うだけで味も香りも変わってしまうため実はそれほど役には立たないのだが。
その味を出せる人がいなくなってしまえば、事実上永遠に失われてしまう。悲しい話だ。
そんなこのコーヒー粉もあと僅か。
フィルタをセットしたドリッパーに残り少ない粉を入れ、湯で全体を湿らせると、ほのかにコーヒー独特の香りがしてくる。
新鮮なものならば膨らんで目にも楽しいのだが。
「すぐに抽出しないのか?」
その様子を見つめるガロードが口を挟む。
「60秒くらい蒸らすのさ、古いものでもしないよりは美味い。
最もできれば湯ももうちょっと高い温度のほうがいいんだがね。宇宙ではそうもいかない」
無重力状態で湯は冷めにくい。
今現在彼のこの部屋は人工的に作られた重力下にはあるが、湯を沸かすにしても80度までしか暖める機能がないのだ。
文句を言っても仕方が無い。宇宙でこうやって本格的なコーヒーを飲めること自体が贅沢なものだ。
「へぇ〜。そういえばテクスも言ってたっけな」
「仲間かい?」
「うん。一度だけ教えてもらったことあってさ」
雑談を交わしながら細口のポットで、真ん中から外へ円を描くように湯を静かに注いでいく、
やはり香りがずいぶんとなくなってしまっているのが少し悲しい。
「コーヒーを飲んだことは?」
「あんまりねぇかな」
たわいのない会話の合間にもサーバーに抽出されたコーヒーが落ちていく。
サーバーの形に添って光に透け、コーヒーの暗い黄赤が若干薄く見えた。

「メリオルから聞いたが、一体何の用なんだ」
暖めた二つのカップにコーヒーを入れているうちに、イライラしているといった表現が合うような様子でカナードが入ってきた。
大体いつものことだが、今日はそれ以上だ。おそらく帰還命令と関係があるのだろう。
「いやなに、久々にコーヒーを淹れたくなりましてね。どうせだからご馳走でもしようかと」
そんな風にいいながら、にかっと笑う。
「砂糖とクリーム無いのか?」
一口飲んだ後、ガロードがあたりを見回して言う。
「一応あるが。なんだ、ブラック飲めないのか。」
カナードに適当なところに腰をかけるように勧め、
もう一つのコーヒーを渡しながらアルコフは言う。お子様だな、と笑いながら。
「飲めないわけじゃねぇけどさぁ…。苦いのより甘い方が好きだし、少し贅沢したいし」
少しふてくされた様子で主張が帰ってくる。
「贅沢ねえ。甘いのが良いのはともかく、水と油の産物が贅沢か。苦いのが苦手なだけなんだろう?」
笑いながらグラニュー糖の入った紙のスティックと、クリームポーションを手渡す。
太陽のない世界で生きた経験のあるガロードにとってささやかな贅沢の一種であることは間違いなかったが、
今のはどうやら苦いのが苦手という主張のほうが強いようだ。
そんな二人のやり取りの横で、じいっとコーヒーを飲まずに見つめていたカナードが一口コーヒーを飲んだ。
「…う」
うめき声のような、くぐもった声が自然と出た。その声にガロードもアルコフも彼のほうを向く。
ガロードが彼の目の前で手をふってみる。
反応は返ってこない、こういった場合固まっているといった表現がしっくり来るのではないだろうか。
当の本人は、こんなものが本当に飲み物なのか?と初めて口にしたこの飲料を理解することに四苦八苦していたのだが。
「まあ、仕方が無いか」
固まっているカナードを見ながら一人納得したようにアルコフは笑う。
細く挽けば挽くほどコーヒーというものは濃い味となる。
パウダー状まで挽いた物ではないが、飲みなれていない人間にしてみればかなり濃い方だろう。
ましてや初めてでは飲み物だと思えないかもしれない。
結局カナードはそのままでは飲み干せず、悪態をつきながらも砂糖とミルクのお世話になったのだが。

「珍しいですね。あなたが他人にコーヒーを出すなんて」
一休みといった状態の格納庫の中で、メリオルはアルコフに言う。
「女房特製のブレンドなんだ。美味すぎて他のやつに飲ませるのはもったいなくてな」
普段誰にも飲ませることの無くコーヒーを一人で楽しんでいた理由を彼女はこのとき初めて知った。
だが彼等に御馳走した理由にはなっていない。
「…今日は息子の誕生日だったんでね。本人を祝ってやれないダメな親の身勝手な罪滅ぼしさ」
一部を残し落とされた照明は彼の表情を読ませない。
「罪滅ぼしだなんて、そんな大げさな…。もしかして、まだ小さいのですか?」
子供がまだ幼いのであれば、その罪悪感も頷けるというものだ。
親に祝ってもらえないという事は、幼い子供にとって大きな傷になりかねない。
「いや、二人と同じくらいさ」
確かに難しい年頃ではある。
「なら、戻ってからでも…」
言いかけて、初めて見えた彼の表情は、普段他人に絶対に見せる事の無いものであった。
「本人がいないんじゃどうしようもない」
彼はぽつりぽつりと語りだした。
「女房はあまり体が強くなくてね、よりによって四月一日が手術日だった。運が悪かったのさ。」
苦労して探しだした名医だった、設備だって整った場所であった。
失敗する要素など、ほとんど無かったはずなのだ。
すべてはエイプリル・フール・クライシスが引き起こした、不運。
四月一日のことだ。核兵器、核分裂エネルギーの供給を抑止してしまうニュートロンジャマーという代物が、
宇宙に住むコーディネイター達の手で無差別に地球の地中深くに埋め込まれたことから始まる。
当時地球は核分裂炉の原子力発電を主としていた。つまるところ極端なエネルギー不足が引き起こされたのだ。
地球では今、世界の人口の十分の一が餓死や凍死、そして二次、三次災害により死に絶えたといわれている。
確かにエネルギー不足により重病患者や丁度手術を受けていた者達は、その多数が死を迎えた。
妻もまたその被害者の一人なのだ。
だが腑に落ちないことが一つある。世界の人口が一割減ったという事。
ユーラシア大陸の北部に住んでいた彼からすれば、
屋根の下にいるかぎりエネルギー不足による凍死などほとんど有り得ない話である。
食料とて生産を完全に機械化しているわけではない。餓死した者がいないとは言い切れないが。
餓死や凍死、二、三次災害を含めたとしても、10分の1は有り得ない数字だった。
おそらく弱体化した情報伝達を利用した反コーディネイター感情をあおるプロパガンダなのだろう。彼はそう考えている。

「とにもかくにも、母親を殺したコーディネイターは絶対に許さないってな。
そういって俺の息子は軍人になっちまった。それが運のつきさ。結局味方に殺されちまった。いや…」
殺したのは止められなかった俺なんだろう。そう言おうとして口を閉ざした。
長い沈黙の中、メリオルは何も言えずただうつむいて彼の言葉を待った。
「俺たちは、どっちを恨めばいいんだろうな」
わからないから、戦争を恨んでそれ以上に自分を恨むことにしているのさ。
とだけ言い、格納庫の何処かを見つめながら、ただただ沈黙した。

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