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X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第18話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:07:24

「除隊許可証 ? 」
そう書かれた紙を見つめながらトールはきょとんとした後思う。
軍に入ってないのに何でこんな物を渡されなきゃならないのだろうか。
ナタルは他の者達にも無表情で同じ書類を配りながら質問する。
「キラ・ヤマトはどこにいった ? 」
イライラとした調子の質問に答えられる者はいない。
揃いも揃って首を傾げたり、顔を見合わせてから「分かりません」と言うだけである。
「まあ良い……後で渡してやれ。」
その後直ぐにキラの分の除隊許可証がトールに渡された。
そしてナタルの側に居るハルバートンの副官であるホフマンから説明がされる。
例え非常事態でも民間人が戦闘行為を行えば犯罪になるので、回避する処置として日付を遡りトール達がそれ以前に志願兵として入隊した事にしたのだそうだ。
ややこしいなと、トールは思う。
が、このまま乗っているよりは地球に降りて、安全な所でまたいつもの平穏な日常を送れるなら良い。
ほんの数日間とはいえ軍人であった事は、危ないと思った瞬間こそあれ、ある意味結構面白かったし。
その時、トールはある事に気づく。
皆が集まっているこの場にキラ以外に来ていない人間がいる事に。
他のメンバーもそれに気づいたらしく目で「どうしたのだろう ? 」とだけ会話する。
小太りの副官が尚も説明を続けていたが、彼らの耳には全く入って来ていなかった。

ガロードとマードックはある一点をじっと見ていた。
キャットウォークでイージスに乗せてくれと言ってきたのは信じられない事にフレイである。
―フレイがこういった決意をしたのには理由があった。
自分はヘリオポリスの一件があるまではずっと守られたり、誰かから可愛がられてばかりの存在で、自分自身もそういった存在である事を自覚していた。
だから大幅に状況が変わったとはいえ、友人達もいるのだしそれは変わらないだろうと踏んでいた。
だが、自分の見知っている人間が次々と死と隣り合わせの現場に就かざるを得なくなった時、艦の隅には何も出来ずに野鼠の如く震えているしかない自分。
それは高貴な育ちをした彼女に僅かばかりの屈辱感を与えた。
しかし、途中から無理矢理乗って来たガロードという少年が連れていた少女が彼女の意識を徐々に変えていった。
芯の強さといった物は感じられるものの、自分以上にちょっと小突いてしまえば倒れてしまいそうな華奢な体躯で、懸命に少年の助けをしている姿は確かに彼女に訴えかける何かがあったからだ。
自分はこんな所で戦いになったら小さく縮こまって、平時に戻ったらのうのうと生きているだけの存在で良いのか ?
命が奪われそうになる段になって、自分には何も出来ませんと言って誰かに自分の割り当てられた役目を丸投げにするのか ?
少なくとも父は自分がそんな姿になるのは望んではいない。
自分は常に父の理想とする娘に向かって進み続けていた。
それは常に、小奇麗な身だしなみや可憐な振る舞いや万人への甘え方に気を配っていれば良いという訳ではない。
あの少女のように守りたい物を懸命に守らなくては……守れなくては……
そして彼女が守りたい存在、そしてその存在がいるという場所とは……
紛れも無く戦場だった。
事が一段楽したら艦長さん達にかけ合わなければ。―
ガロードとマードックの二人は黙って顔を見合わせ、溜め息一つ吐く。
軍にも所属していないこのお嬢様は一体どういうつもりでそんな事を言っているのか。
「あー、駄目駄目、絶ッ対に駄目 ! フレイにあれが扱えるかよ ! シミュレーターで訓練してる訳でも、やってた訳でもねえのに……」
「嬢ちゃん、困るぜ ! あれは玩具じゃねえんだから ! 乗るって言って簡単に乗れるんだったらとっくに他にごまんといるパイロットの誰かに任せてるさ !! さ、話は終わったから帰った、帰った !! 」
二人は向きを変えて足りない武装の事について話し出した。
完全に邪険に扱われた事にフレイは怒り、キャットウォークから飛び降りる。
尚も話そうとする彼女を、二人は無視を決め込んで自分達だけで話を続けた。
それが不味かった。
ガロードはいきなり彼女に掴みかかられたのだ。
「あなたはあなたが連れてきた子を乗せてるじゃない !! 自分と一緒に ! あれはどうしてなのよ ?! あの子……乗ってる間何してるの ?!! 」
フレイが物凄い剣幕で問い詰める。
ガロードにとってそれは痛い質問だった。
ジンへの射撃、デュエルへの攻撃は自分の力だけでやった。
自分がやれる所までやって、どうしようもない時にだけティファ自身が力を発揮している。
例えば先の戦闘の対ブリッツに於いてがいい例だ。
ティファが突然操縦レバーを握ってきて微妙に動かしていなければ、自分は後ろから飛んできた何かにやられていただろうし、艦は全て沈められていたかもしれない。
しかし当然の事ながらそんな事をぺらぺらと喋る訳にはいかない。
余計厄介な事になるだけだ。
ガロードは両手でフレイを引き離し、理由を考えながら答える。
「それは……あー、ほら ! 敵機を探したり機体に異常が無いかとか調べたりしてんだよ。俺が操縦してる間にな。OSはキラにちっとばかし書き換えて貰ったけど、俺キラみたいに全部出来る訳じゃねえし。お、俺でもそんな風なんだぜ。あんた一人でどうこう出来るのかよ ?! 」
フレイは一瞬押し黙るが、それでも言う事を聞かない子供の様に喚く。
「や、やってみなきゃ分からないじゃないっ ! それに、私だって……私だって……護りたい人がいるのよっ !! 」
これまでの一連の戦闘で戦果をメインで上げていたのはガロードだった。
が、キラだって出撃しているのだから頑張っていない訳が無い。
自分は少しでもその助けになれないかと思っている故の発言だった。
「だったらさぁ……自分が出来る事から先ず始めてみれば良いじゃん。何もそんなシミュレーター一回もやらないでMS乗って戦うなんて、無茶苦茶やらなくたって良いじゃねえか。」
「シミュレーターでも何でもやるわ ! だからお願い ! イージスに乗せて !! 」
フレイは大きな目を潤ませて懇願してくる。
だがこれは訓練云々の問題ではない。
ナチュラルでも何とか扱える代物に、という事でOSの書き換えが再三に渡って行われていたイージスの機体スペックは、相当なまでに低下している。
ムウ並みの兵が操縦するのならともかく、フレイが乗ったところで何分持つ持たない以前に発進も出来ないだろう。
それは最早大型で鈍重な動く的以外の何物でもないからだ。
一撃も当てられずに撃破される、と賭けてもいいとガロードは思ってしまう。
マードックもフレイが単なる安易な虚栄心か、子供っぽい自己顕示欲に突き動かされてそんな荒唐無稽な事を喋ったと思った。
ガロードとマードックは「参ったなあ」という顔をして顔を見合わせた。

キラは展望デッキで外を眺めていた。
青々とした地球が帰っておいでと言わんばかりに目の前に浮かんでいる。
帰る事は正しいのか、そうでないのか……
その答えはもう出ている。自分でも信じられないほど残酷な形で。
そう思っていると後ろからここ数日聞きなれた声が聞こえてきた。
「道は見つかったか ? 」
ドリンクパックを持ったテクスがキラの元に近づいていた。
「はい……」
「そうか。それなら良いんだが。」
少しの間だけ静寂が訪れる。
耐えかねて先に口を開いたのはキラの方だった。
「ストライク……これからも乗る事にしました。」
その言葉にテクスは、ほう ? という感じでキラの方を見やる。
「もう……戻れない所まで来たんだって、部屋にいた時に思ったんです。それに……アスランはもう僕の……友達じゃ……ないんです。」
「敵になったから……か ? 」
そこでキラは前に医務室に行った際に何があったのか淡々と話し始める。
一言々々を語るキラの口調は苦しげな物だった。
小さい頃から付き合いがあって、二人が写った写真も少なくはない程だ。
かつて友だった者に刃を向けるという決断は、誰だってそうしろと言われて直ぐ出来るものでない。
こんな状況があまりにも特殊だと言ってしまえば、そこでこんな葛藤は終わってしまうが、戦争とはそういう代物だ。
かつてアスランはキラに対しこう言った。
お前は直ぐに誰とでも打ち解ける事が出来るんだな……と。
それがこんな時に仇になってしまうなんてキラ自身全く見当がつかなかった。
全てを聞き終わったテクスは暫く黙っていたが、静かに口を開く。
「彼は突き放したんだろうな。君の事を。」
「えっ ? 」
「今捕虜になっている彼も、その内身柄が引き渡される時が来る。また君と戦場で出会って引き金を引くのを躊躇わない為にそんな態度をとったのだろう。……君があの機体に乗る事に関して私はとやかく言わんし、また言えん。君が自分で考えて自分で選んだ道なのだからね。但し……」
テクスはそこで言葉を切り、キラの方を見やる。
視線を向けられた本人は呆けた様に相手を見ていた。
「そう決めたからには実行する心を強く持った方が良い。何があっても誰の責任にも出来ないからな。それと、私は体の傷だけを治すのが能の医者ではないとも一応伝えておこう。また何か思い悩む事があったら遠慮なく来たまえ。就寝時間以外なら何時でも相談に乗ろう。」
「はい……有り難う御座います。」
そう言ってキラは展望デッキを後にした。
彼の両肩にとてつもなく重い物が乗っているのが後姿で分かるテクスは、パックのコーヒーを啜りながら思う。
あの繊細そうな精神が、果たして終戦まで持つのか、と。

「フレイがイージスに乗るって言って聞かないだってえ ?!! 」
ガロードが持ってきた話に、除隊許可証を貰った場所から移動した後見つめっ放しだったヘリオポリス組は一様に驚いていた。
彼女はついさっき、マリューやナタルに仲間達と同じ様な働きが出来る様にかけあっていた。
まあ、イージスの操縦許可に関しては降りる訳が無いだろうが。
それにしてもと皆は思う。
父親が無事でいて、月の中立都市で平穏無事に暮らす選択肢があるにも拘らず、彼女にとってそんな物騒極まりない方を選ぼうとしたのは一体どうしてなのだろうか ?
「でも一体どうして…… ? 」
「俺にもよくわかんねえよ。今までみんなが頑張ってたのに自分だけ何も出来なかった、つうかしてなかったのが理由なんじゃねえの ? 乗る理由聞いた時に護りたい人がいるからって答えてたけど。俺は流石に降りられねえなあ。傭兵って立場だからまだ代金貰ってねえし。」
皆はフレイの決意をへえ、という感じで聞いていた。
それと同時に非常に申し訳ない気がしてきてならない。
フレイがそんな無茶をしようとするほど覚悟しているのに……自分達は早く地球に降りられないだろうかと浮かれきっていた。
その時、サイが決意をしたように除隊許可証を思いっきり真っ二つに破り捨てた。
あまりに突然の出来事に皆は目を丸くする。
対してかなりスッキリとした表情でサイは言う。
「フレイがそんな風に考えて行動してんのに、仲間の俺達がさっさと地球に降りる訳にも行かないからな。」
その表情はトールにも一つの決断をもたらす。
「アークエンジェル人手不足だもんなぁ。俺が降りた後でおとされちゃったら嫌だし。」
そして彼もニッと笑って除隊許可証を破った。
「トールが残るんなら私も !! 」
と言ってミリアリアが破る。
最後に残ったカズイは周りの反応を見て必死に考えていた。
自分は軍という組織にはそぐわないかもしれない。
今みんなと同じ様に軍に入っても最後までやっていけるか正直言って自信が無かった。
戦いなんて非日常の連続で神経を磨り減らす日々でしかないのに……
しかし、今更おめおめとシャトルに乗って臆病者、卑怯者呼ばわりされるのも嫌だ。
そんな時、サイから声がかかる。
「カズイ、まさかシャトルに乗って臆病者とか卑怯者だなんて思われるんじゃって思ってないだろうな ? 」
自分の考えている事をピタリ言い当てられ、カズイはぎくりとする。
だがその彼にかけられた言葉は思いやりのある一言だった。
「誰も思ってないよ、そんな事。お前さ、優しいから。戦いが性に合わないだけだって。」
そしてトールがフォローする様に続く。
「俺達の事は気にせずにシャトルで降りろよ ! 平和になったらまた会おうぜ ! 」
最後にガロードが肩を叩いて言う。
「自分で決めたんなら誰も責めねえよ。それで良いじゃん ! 」
それが決定的な一言だった。
カズイはガロードと握手し、小声で「有り難う」と言い、自室へ向かっていった。
自室に戻っていく……自室に……
そこまで考えて、ガロードは「げっ !!! 」と言ってその場に固まってしまう。
ティファにあの後直ぐに部屋に行くといっておきながら、時計を見ればかれこれ一時間以上経っていた。
「悪ィ ! 俺ちょっと部屋に戻るわ !! 」
「ティファの事が気になるの〜 ? 」
後ろからミリアリアがからかう様な声を出すが気にしている暇は無い。
早く行かなければティファが機嫌を損ねてしまう。
或いは一時間も待たせていたらもう手遅れか ?
「ティファ……間違い無く怒ってるだろうなぁ……」
そう呟きながら廊下を走っていると、真正面から誰かにぶつかった。
「あ痛てて……って、ティファ ! あ〜、そのぉ、ゴメンッ !! 遅れちまって ! 」
しかし、その当のティファは怒りもせずに、息を荒げながら言った。
「敵が……来ます !! 」