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X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第2話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:04:15

その男は嘆息していた。
6年程前にアカデミーのMS操縦教官に就いた時はまだ良かった。
あの時はまだ今ほどの苛烈な忙しさは無かったからだ。
生徒達と教練課程で出来るだけ一対一で向き合う事が出来、厳しく接しながらも割合暖かみのある日々を送れたからだ。
ところが一年前の2月14日に起こった血のバレンタイン事件が彼のそれまでの全てを激変させたと言っても良いだろう。
あの血のバレンタイン以降、彼は生徒達を機械的に教え、詰め込めるだけの知識を詰め込ませ、心太式にアカデミーを卒業させ、ザフトの正式兵にする事だけを上から言われ続けた。
しかも今期卒業した生徒の中には核ミサイルで破壊されたユニウスセブン出身の者もいた為、メンタルケアの面も含めて色々と厄介だった。
とはいえそんな情緒不安定な者も多少いるにも拘らず、職務だけをこなして彼等を戦場に続々と送り込むのは自分が幾らアカデミーの教官といえどもしっくり来ない事だった。
今日彼はまた新しくアカデミーにやって来た新入生の初宇宙空間MS操縦授業の為、普段あまり使わない練習用のジンを引っ張り出し教務に当たっている。
明日は久々の休みがあるが、虫の予感なのかどうもいい気がしない。
そんな中、彼の機体は自分の生徒達を教えている宙域より僅かに離れた所でのMSの接近を告げていた。
軍事教練エリアなのにと呆れた彼は、モニターの示す相手MSの情報を見て訝った。
「UNKNOWNだと ? 」
突如現れたといっても等しいそのMSに向けて彼は軍事教練エリアだからと警告を二回発した。
しかし、そのMSは全く動く事は無い。
まあモニターで見たところかなり損傷しているから動かすのは大方無理と分かったが。
しかし近づけば近づくほどそのMSの奇妙さに気が散っていった。
そのMSの形状はザフトで開発している如何なるMSとも符合しないからだった。
顔はジンのようなモノアイでなくデュアルアイであるし、コクピットの形状も上から下へスライド式で乗り込む辺りザフト製の物ではない。
極めつけは背面にある何がしかのパネルと両肩から突き出ている砲門の様な物だった。
太陽電池パネルと高射程砲の何かにしか見えなかったが、長年MSに関わってきた彼には勘で分かる。
こいつは何かとてつもなく物騒な代物だと。
その時だった。突然相手側からノイズ混じりの通信が入る。
『悪ィ ! ちょっとそこでドンパチやらかしちまって、ここまでやっと来れたんだけど動力系がイカレちまったんだ ! 悪ィけど修理出来そうな所まで引っ張ってもらえねえかな ?』
それを聞いた男は改めて周辺宙域を見渡す。
が、さっきまで何らかの戦闘があったとはとても思えなかった。
大体もしそうなら自分が真っ先に気付く筈であり、新入生の訓練もお開きにしているだろう。
やっと来れたという発言も十二分に疑わしかった。目の前のMSはほぼ唐突に自分のレーダー有効範囲内に現れたからだ。
が、相手はそんな事お構い無しに更に続ける。
『それで頼みっちゃあなんだけど、鍵つきのワイヤーかなんかで引っ掛けてくれない ?』
男は考えてみた。こちらには生徒が何らかの事故を引き起こした時の曳航用のフック付ワイヤーがある事にはあるが。
未だに名前も所属隊も言わない相手に業を煮やした男はこう続けた。
「分かった。そちらが名前と所属隊を言えばそうしよう。但し、言わんなら言わぬで連合軍と判断し然るべき処置をする。」
それは一種の駆け引きだった。
こちらの練習用のジンが持っているのは模擬戦用のペイント弾式機銃とやはり模擬戦用の重斬刀。
まともな戦闘なぞほとほと出来る物ではない。
あちらが味方ならそれはそれで良いが、連合軍なら大きい地雷を踏んだ事になる。
ある程度予測はしていたが返事は無い。
そう都合よく騙せると思ったか ! 連合軍のナチュラルめ !
内心でザフト兵共通の虚勢を張った彼は模擬戦用の重斬刀を構える。
模擬戦用と言っても、ある程度相手機の装甲にダメージは与えられる。
ましてや相手が目に見えて明らかに大破状態の機体なら何とかなるか ?
その時通信機にはっきりと相手側からの通信が入った。
「俺の名前はガロード・ラン。所属隊なんていねぇけど……言うんならフリーデンだ。」
それを聞いた男はジンのメインコンピューターのメモリにアクセスする。
教師という職柄、そして軍に関わっている身として全ザフト兵の名簿と艦艇の登録簿位はメモリに突っ込んでいたからである。
そこにガロード・ラン、フリーデンの二つの名を打ち込む。
返って来た答えは「NO DATA FILE」
それを視認するや否や、男は操縦レバーを動かし、重斬刀を動かしていた。

ガロードは相手に自分の名前とフリーデンの事を言った後、コクピットにある物を取りに戻った。
それは自分がMSを奪う事を生業とし始めてきた時からずっと使ってきた、小さなもう1つの相棒。
「GXに乗っていた時の癖でシートの下にしまってたけど、まさかこんな所で役に立つなんてな。」
ガロードはすぐさまコクピットから身を出す。
そこにはMSが持つにはやや小振りな実剣を振り上げた相手MSの姿があった。
「くそっ ! 」
ガロードは実剣を振り下ろされる直前、相手の機体の胸元に向けワイヤーを放ち、巻き上げるスイッチを押す。
同時にメインカメラに向け閃光弾も撃った。
相手の機体に一瞬の隙が生まれ、動きも完全に止まる。
そしてガロードが相手機の胸元に着くのと、重斬刀が振り下ろされるのはほぼ同時だった。
上手く隙間に潜り込む事の出来たガロードは、銃に通常より破壊力のある実弾を装填し、メインカメラを始めとして、両肩の付け根と両足の付け根に見え隠れしていた回路を次々に打ち抜こうとする。
しかし、その諸動作が宇宙空間、しかもMSにしがみ付きながらというのが異常なまでの困難さをガロードに押し付けた。
唯でさえ重斬刀がダブルエックスに当たった時の反動が激しかったのに、さっきよりも相手機の動きが激しくなっている。
こっちが生身で機体に取り付いた事を感づかれたのか ?
ガロードは必死の思いで目標を狙い撃つ。
無駄弾なんか撃てない。この弾は確かにこういう事態を想定してガロードが以前用意していた物だが、数が多いとは言えない。
何度か宇宙空間に放り出されそうな程振り回されながれも、漸く全ての目標を撃ち抜いたガロードは相手方の反応を見た。
何も反応が無い。しかしコクピットに当たると思われる場所は撃ってないので、それはそれで妙である。
完全に動きが止まってから丸々一分は経っただろうか。
いきなり胸の所にあるコクピットのハッチが弾かれるように開き、中から一人の男が飛び出してきた。
その男にガロードは2〜3メートル程離れた所から銃を向け、いつもの口上を決める。
「おっとぉっ ! へへっ、これでホールドアップってやつだな ! 」
男は渋い顔をするが、観念した様にゆっくりと両手を上げた。
ガロードはプロトジンの腕を軽く蹴り、コクピットの方に向かう。
そしていざコクピットのシートに座ろうとした時に今度は男の方から声がかかった。
「貴様、生身でMSを強奪しようとするなど、正気の人間がやる事ではないな。本当に連合軍か ? 」
「へ ? 連合軍 ? 連邦軍の間違いだろ ? 」
「何を言っている ? 今時我々ザフトと連合が一年近く交戦している事なぞ赤ん坊でも知っている事だぞ。」
「ザフト ? 連合 ? 一年近く交戦 ? 訳わかんねーよ。何だよそれ ? 」
ほんの先程まで命のやり取りをしていた人間同士とは思えない間の抜けた会話だった。
そしてガロードは核心に触れる質問をする。
「ってか、一体今はいつなんだ ? ここ何処なんだよ ? 」
「本当に知らないのか…… ? 今はな、C.E71年1月25日だ。時間は……目の前のヘリオポリスコロニーの時間で言えば、朝の6時過ぎという所だ。」
敵にここまで教えてやる義理なんか何処にも無いが、銃を向けられているので素直に男は言うしかなかった。
だが、ガロードは頭を殴られた様な衝撃を覚える。男の言った時系列も場所も全く知らない物だったからだ。
「C.E ? A.Wじゃねえのかよ ? 嘘だろ ? それに目の前のコロニーはクラウド9の筈だろ ? おまけに今は昼過ぎじゃあ…… ? 」
ガロードはいまいち目の前の男が言った事が信じられない。だが、それは紛れも無い事実だった。
取り敢えず落ち着こうとしたガロードは男に向けて言う。
「おい、この機体のマニュアルとか、これには積んでねぇのか ? 」
「私はMSの教官だ。教官がそんな物を機体に搭乗する際にいちいち載せていては生徒に示しがつかん ! 」
男は不貞腐れて答える。
「結局は自力かよ。でもGXに初めて乗った時だって同じだった。何とかしてみせる ! 」
ガロードがあちこちのボタンを慎重に押し続けていると、いきなりコクピットハッチが閉まる。
もう一度そのボタンを押してハッチを空けた後、MSの教官だと言う男に、向かい叫ぶ。
「なあ、鉤つきのワイヤーが本当にあったら、あんたの後ろにあるMSにそれ繋げてくれよ。」
ガロードがやって来た世界。そこは彼の住んでいる世界とは似て非なる世界。
この世界でガロードはA.Wの様に多くの人と出会い、そして巨大な渦に巻き込まれる事となったのである。