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X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第21話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:08:03

その一報が飛び込んだのは二月十四日の朝方だった。
ジブラルタル基地の一室で食後のハーブティーを啜る一人の黒服の青年将校はその報せに驚く。
「ここから南西方向約50km地点に連合軍の新造艦ですか ? 」
「ええ、大方ヴェサリウスから連絡のあった奴でしょうけど、それと前後してMSジンが一機基地の近海に落着しています。」
彼より明らかに年上の士官は彼に報告内容を淡々と告げる。
「大気圏突入時の影響が大きかったようです。機体はかなり損傷していて、メインフレームも大分痛んでました。それとコクピットには少年と少女が二人確認されていて、それも、地球軍のパイロットスーツを着ていました。」
そこまで聞いた時、将校のカップを持ち上げる手が半瞬止まる。
それに気づかない士官は更に続ける。
「意識が無かったのでこちらで回収しましたが宜しかったでしょうか ? 」
「ええ、良いですよ。二人の意識が戻って暫くしたら、こちらから会いに行っても良いですか ? 」
「勿論構いませんが……」
士官は言いよどむが、青年将校は微笑を浮かべて応対する。
「大丈夫です。捕虜への接し方についての注意事項くらいは把握していますから。」
「そうですか。では、また後程。」
士官はそのまま回れ右をして、部屋を出て行く。
青年将校は外の様子を見てふうっと溜め息を吐いた。
彼はフェブラリウスというプラントで、白皙で端正な顔をした三十手前の男に拾われた。遺伝子解析の専門家だと自負する彼が適職だろうと薦めた事もあり、殆ど成り行きでザフトに入隊してから、あちこちの戦場を駆けた。
彼自身今の所それしか食べていく道を知らないからである。
カーペンタリア、カサブランカ沖、スエズ……その時の成績は今自分が纏っている服の色と胸元にある勲章が良い証言者だ。
そして先日やっと終結したビクトリアでの戦いでも活躍した彼は、その日の内にジブラルタル基地にとんぼ返りしていた。
だが事後処理などが急に皺寄せの様にやって来て、ロクに眠る時間も与えられないまま、気がつけば東の空が白みかけていた。
上官になると色々と厄介な事が押し付けられるものだと思う。
実際その事後処理においても、先程来た士官でも十分処理出来る物があったからだ。
取り敢えず今の所自分の生活に文句は無い。
上からかなりの額の給料はしっかり貰っているし、居・食・住に関しても普通の将校より遥かに待遇が上だ。
ザフトの人間にしてみれば羨望の眼差しを一手に受ける存在。
しかし自分には目的がある。
この世界でただ安穏と暮らす事の出来ない大きな目的が。
その時扉がトントンと軽く音を立てる。
「入っても宜しいでしょうか ? 」
「どうぞ。」
部屋の戸が開くと、入ってきたのはやはり自分より年上の女性兵だった。
制服がグリーンだからか姿勢がかなりしゃっちょこばっている。
「報告します。本日未明に報告のあったクルーゼ隊の二名のパイロットが間も無くこちらに到着するようです。それと……こちらが先程捕縛したジンのパイロットの写真が入ったファイルです。こちらに置いておきます。」
「分かりました。クルーゼ隊のお二人は大気圏降下を行って随分と疲れていることでしょう。数日はきちんと休ませてあげて下さい。」
そう言うと、相手は了解しましたと言い部屋を出て行く。
彼は無造作に目の前のファイルに手を伸ばす。
それが彼にどれだけの衝撃を与えるか彼自身露程も知らずに。

青年将校が二つの報告を受け取る数時間前の真夜中、アークエンジェルは満天の星空の下、その存在を秘匿せんとばかりに静かにたたずんでいた。
アスランはテクスのいない医務室の中で悪態を吐き続けている。
体の擦り傷等はほぼ治っていたし動くにも差し支えなかったが何となくここにいること自体が気に喰わない。
思い返せば何もかもがみっともない戦果だった。
ディンやシグーが配備されているこのご時勢に、前時代のMSで、しかもナチュラルの手によって撃墜されるなぞ、究極的な屈辱だった。
こちらは戦艦を易々と葬り去ることの出来る武器を装備していたMSに乗っていただけに腹立たしさも収まらない。
何より気に入らないのは月面都市コペルニクスで幼年学校時代を共に過ごしたキラが自分達を攻撃してきた事だ。
手も無くナチュラル共に騙されて、連中の争いに加担させられてるのではないかと考える度に、腸が煮えくり返る思いがしてきてならない。
お人よしもあそこまでいけば付ける薬もほとほとないものだ。
何があの船には友達が乗っている、だ。誰とでも仲良くなんかなって……と、内心で毒づく。
その、あの船と言っていたのが、自分の今乗っているこの船なのだが。
一度自分の見舞いに来た時は殆ど断腸の思いでキラを突き放したが、今は彼の境遇に対して塵一つの憐憫さも無ければ友情を感じる事も無い。
そしてついさっきまで自分の隣で高熱を上げて唸っていた。
大気圏降下が余程応えていたのだろうとは思っていたが、その時彼のお友達とやらが語った所によるとザフトからの追撃が降下前にまたあったとの事で、自分を拿捕したパイロットと共にまたも出撃したとの事である。
その時もやはり自分の仲間を討ったのだろう。
こうなるともう突き放すどころの話ではない。
過去の事は何もかも忘れて、キラをメッタ刺しにしてやりたかった。
暫くして彼は自室へ移されたので、そんな衝動に駆られる事も無くなったが。
その次に頭を過ぎるのはこれからの自分の立場に関してだ。
もし本国に戻っても父親が嘆息するのは目に見えているし、レッドからの降格は免れないだろう。
それもこれもナチュラルが母のいるプラントに核を打ち込んだからだ。
あれさえなければ、自分はザフトに入る事があっても今よりマシな生活が送れていただろうに。
休暇になれば、ニコルの所の様に円満な家庭という帰る場所があったはずなのだから。
大体今自分達の少し前にいて何かを書類に書き込んでいる医者からも、大気圏に降下する時何の説明も無かったのも苛立たしかった。
加えて外では二人の兵士がSMGを構えて警護に当たっている。
「畜生ッ !! 」
苛々が最高潮に達し怒鳴ると、隣のベッドからクレームがついて来た。
「静かにしてくれよ、アスラン。2〜3日前からずっとその調子じゃねえか。」
眠たげなラスティの声だった。
この意外な再会を二人が果たしたのはちょうど3日前の事だった。
彼はラスティがMIAだと聞かされていたので、思いもかけない再会にアスランは嬉しさがこみ上げて来た。
しかし、そんな雰囲気も1日目で潰れる。
アスランが始終この船のクルーに悪態を吐き、現状を打開するにはどうすれば良いかあらゆる権謀術数について考え込んでしまったからだ。
「お前は悔しくないのか ?! ここからさっさと出たいと思わないのか ??! 」
憤怒の形相も凄まじいアスランに怯む事無く隣のベッドにいたラスティは軽く受け流す。
「そりゃー俺だってここから出たいぜ。けど何も今焦る事じゃねえだろ ? お前はそんな身だし、俺だって明日下の独房に移されるから警戒が厳しいってのに。
そもそも捕虜の身柄の引渡しぐらいあるはずだろ ? 」
アカデミーで習った事が正確なら、いかに戦時中とはいえ人道に基づいた捕虜の引渡しが行われるはずである。
ラスティはそれを待っているのだった。
「まさか、むきになって脱走する気か ? 」
半ば冗談でアスランに質問した。二人の間に暫くの間沈黙が漂う。
ややあって、相手が話し出した。
「そうだよ。こんな所でいつまでも腐る気は無い。足は走れないだけだから相当無理しなければ首尾良く行くさ。」
それを聞いてラスティは深い溜め息を吐いてしまう。
「お前なあ、仮にもここは敵軍の戦艦だぞ。格納庫に行きつく前に問答無用の射殺が待ってるぜ ? 」
「ラスティ !! 俺達はコーディネーターだ !! ここはな、俺達にとっちゃ檻から解き放たれた猿がうろついている様な場所に過ぎないんだぞ !! 何を怖がる必要がある !
お前それでもザフトレッドか ?!! 馬鹿野朗 !! 」
「馬鹿はどっちだ ?! レッドでも出来る事と出来ない事がある事ぐらい分からないお前じゃないだろう ?! 」
「お前ッ…… ! 」
そこで二人の口喧嘩は一時的に止まる。
医務室の外に人が近づいてくる気配を察知したからだ。
中の言い合いは聞こえてなかったらしく、気楽な感じで話していた。
「しっかしマジで大丈夫なのかよ ? ジブラルタルから50km位しか離れてねえんだろ ? 」
「艦長も日が出る前に移動を開始するって本気かよ ? ストライクは回収できたけど、あの改造ジンは地中海の方に落ちていったって言うし……」
「どっちにしろ、足止めは確実かあ……」
会話はその後も続いていたようだったが、兵士達の足音は段々遠ざかっていった。
アスランは神妙な面持ちでラスティに話しかける。
「聞いたか ?! ジブラルタルは真正面だ。チャンスは今しかなさそうだ。俺はもうこれ以上こんな所に居たくないし、お前だってそうだろ ?! ……ラスティ、気乗りしないだろうが手伝ってくれ。」
ラスティの方に手がすっと差し伸べられる。
だが、当の彼はそれを冷ややかな視線で見つめた後、きっぱりと言う。
「嫌だね。」
アスランはその場で動きを止めてしまう。
そんな彼を見つめながら、ラスティは続けた。
「どう考えたってリスクが大きすぎる。さっきも言ったけどよ、碌な抵抗も出来ずにバァンだぜ。それにアスラン……お前のその目、ここに来る前の俺より質悪ィぜ。
ナチュラルなんか根絶やしにしちまえって感じがギンギンでさ。」
「そう考えて何が悪いっ !! 母を殺して、父を政治事漬けにした連中をそんな風にして何が悪い ?!! そうしなきゃ、コーディネーターにとっての平和なんか訪れるものか !! 」
口泡を飛ばしてまでこちらを捻じ伏せようとするアスランに彼はもう呆れた視線を送るしかなかった。
こんな奴が本当に自分達の仲間だったのか ?
小さな声を聞こうとも知ろうともせず、自分こそが一陣営の代表意見だとばかりにのたまう奴が。
だとすれば、自分の人を見る目のなさをつくづく反省せざるを得ない。
彼は自分で真実が何なのか見ようとも考えようともしないのだから。
その後アスランは足の辺りをごそごそと動かす。
傍で見ていたラスティは、彼が本気で逃げようとしているのに気づいた。
「おい、冗談よせよ !! 死ぬぞ !! 」
「死ぬのが恐くて軍人をやれるかっ !! 」
アスランは両足をゆっくりと静かに地面に下ろす。
今のラスティと同じ位の軽症だが、かなりの痛みがアスランの体を電気の様に伝わった。
その時、テクスが書き物の筆を止めずに、アスランに話しかける。
「脱走しようとしているのなら無茶な話だと言っておこう。君が一人対何人を想定しているのか知らんが生きてここを出られる保障はゼロに近い。」
その言葉が不味かった。
怒りに駆られたアスランは痛みを押し切って、デスクに向かってダッシュした。
だがテクスとて何もしない訳ではない。
咄嗟にデスクの下に、工作班に取り付けさせたタバコの箱サイズの警報機の赤いボタンを押す。
これでこのコーディネーターの脱走が自分の手によって失敗に終わろうが、万が一成功しようが、発信元から事の次第はブリッジや艦長室に伝わるだろう。
それから頼れる物は己の拳で十分だと言わんばかりに、椅子から立ち上がって構える。
だが、アスランはナイフ戦や格闘戦の体の動かし方で相手の動きをかわす。
コーディネーターの身体能力はテクスも色々と聞かされており、自分もカルテや自身の目で見たりしていた。
だが、実際に生身の相手は初めてだった。
そして思う。その力を改めて再評価せざるを得ないと。自分の痛みをもってしてだが。
アスランが出す攻撃を防戦で避けていたテクスだったが、ローと見せかけたハイキックが喉元を襲ったのが決定打となった。
時間にして15秒程。その間一言の声も上がらなかったのがお互い不気味に感じられた。
テクスが昏倒しその場に崩れたのを確認したアスランは、デスクの引き出しを探ろうとするが、それは全てロックがかけられていて中に何があるのか探る事すら叶わない。
「全てお見通しだったという訳か……ッ !! 」
想像の範疇だったとはいえ、思わずデスクにけたぐりを入れそうになったが、外の状況を鑑みてそれを諦める。
尖った物で目に付くのは書き物に使われていたペンぐらいだがこれではどうしようも無さそうだ……
その時、アスランは少し考えてから、ペンを部屋の外に投げた。
案の定二人の兵士は銃を構えて中に入るも、彼は有無を言わさず二人を殴り倒す。
彼等も軍人で鍛えているとは言っても動きが鈍く、全くの脅威になりえなかった。
彼は兵士達だった物の持っていたSMGを奪い、外の様子を伺う。

どちらの通路からも誰も来ていない事を確認したアスランはもう一度だけラスティの方を振り向き、最後の説得をする。
「来い、ラスティ。これが最後だ。」
しかし、当の本人は終始冷ややかな視線を相手に向け答える。
「行きたいのならお前一人だけで行け。俺はこの船でちぃとばかし探し物があるんでな。」
その瞬間、ラスティの目の前には銃が突きつけられていた。
アスランのこの出方には相当驚かされたらしく、彼は目を見開く。
「減らず口を言うのも大概にしろ…… !! これでもか ? 」
「この状況で真っ当な判断した、同窓の人間に銃を突きつけるのがお前の正義かよ…… !! 」
ラスティはきっぱりと言った。
アスランは唾棄する様な目つきでラスティの方を見やり、彼に銃を向けるのは止めたが銃を構えたままそこを出て行く。
ラスティは再び横になり、眠りに落ちていった。

シミュレーターの操縦桿はじっとりと自分の汗で濡れていた。
ナチュラルのガロードに出来たのだからという自分でもという意識でやり始めた。
そして十回目の訓練が終わったが、一度も相手に一撃を喰らわせる事も出来ない。
それ以前に碌に機体を動かす事も出来なかった。
しかも難易度を最低にして、OSの反応を最適にしてもである。
背もたれに身を埋め、フレイはある一言を思い出す。
―戦場に一回も出た事のない自分が敵機を一機でも撃ち落せるって……あんたはホントにそう思ってるのかよ ?!!
ガロードが言った事は彼女にとってあまりにも屈辱的な物だったが、こんなに現実味を帯びて感じられるなど思いもしなかった。
あの格納庫での一件の後、彼女はナタルに呼び出され大目玉を喰らう事になった。
そして暫定的に生活班へ属する様に言われ、仕事も先程の事があってか他人より多めにされた。
それでも、空いた時間をこうやって訓練に当てているのに…… !
ガロードもあのティファという子も、はっきりと彼等自身が言った訳ではないがナチュラルだ。
自分達と同じ存在にあれだけ言われて、何も反論出来ないのが堪らなく悔しい。
そしてそれまでの彼等の戦果があれだけ言わせるのに十分な物だったから余計に悔しいし、果ては憎ったらしくさえ思えてくる。
ふと気がつくと、自分の頬に何かが伝う。
目から流れ出た涙だと分かるまでに暫くかかってしまった。
自分がこんなに取るに足らないちっぽけな存在だったなんて……
望む物も、世界も、自身の論拠も今は月にいる父が与えてくれた。
その父に気に入られようと、もっと高みを望んだ。
自分達の平穏を脅かすコーディネーターを追い払える事が出来るならやりたい。
追い払うなんてまだ生温い。
自分の世界から一人残らず消し去りたかった。
一人残らず……なら、キラはどうなる ?
自分達と道を共にし、同胞を撃ち続けるキラはどうなる ? どうなればいい ?
その結論が出る前に横から声がかかる。
「フレイ、もうそろそろ休んだらどう ? 」
はっと気がついて横を見ると、サイが気遣う様な視線で見ていた。
自分は心配されている……親同士が話だけとはいえ結婚を決めた仲だからか ?
呆けた調子で彼女はサイを見つめていたが、直ぐにシミュレーターに向かい直す。
それを見たサイはいきなりシミュレーターの電源を切った。
「もうやめろよ。君はMSに乗るわけじゃないだろ ? 何でそこまでむきになってこれをやろうとするんだ ? 」
彼なりに優しい言葉をかけたのだろう。
だが、フレイは凄まじい剣幕で言い返す。
「悔しいのよ !! あの子もナチュラルなのにMS動かせて私が動かせないのが !! 私だって守りたいものがあるのにッ !!! 」
その勢いの凄さにサイは一瞬たじろいでしまう。
どういった言葉をかけようかと逡巡していた時、それは唐突に告げられた。
「非常事態発生 ! 非常事態発生 ! 捕虜が逃亡した ! 各員白兵戦に備えよ ! 繰り返す ! 医務室より捕虜が逃亡した ! 各員白兵戦に備えよ !! 」
その言葉に二人はギョッとする。
この船に捕虜が二人いるとは聞いていたが、二人とも怪我をしていなかったか ?
そう考えると仮定とはいえ言い知れぬ恐怖に襲われる。
自分達はそういった連中を相手にしているのだ。
たちまちその場に足が接着剤で付いた様に二人は動けなくなる。
その時、居住区から格納庫への通路より誰かが走ってくる音が聞こえてくる。
そしてそれは段々自分達の方に近づいてくる。
やがてそこに現れたのは……顔を上気させ、汗に濡らせたアスランだった。