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X-seed◆mGmRyCfjPw氏 第22話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:08:14

気を隠してアスランはここまで来た。
来るまでに自分でも考え付く限りへまはしていない。
見つかりそうになったら反射的に物陰に隠れ、荒い息を必死で押し殺してやり過ごす。
見つかっても、それが一人だったとしても簡単に撃ち殺す訳にはいかない。
そうなれば騒ぎになって蜂の巣になるのは間違いないし、死体を隠すスペースも、血を拭く余裕もありはしない。
なるべく人の通らないような所を通る。
そうやって何とか危機的状況は回避してきた。
ましてや夜明けが近いとはいえこの夜中だ。
元から通路の人通りが少ないというのが彼にとって幸いした。
だが、今しがた自分の事が艦内に知れ渡った。
テクスの仕掛けた警報機に気づかなかったため、何故そうなったかは彼自身知らない。
見張り二人と医者が気絶していたのを発見されたか、或いは自分が思っていたより三人が早めに気づいたか、もしくは自分と一緒にいた馬鹿が部屋に通りがかった敵に密告したかのどれかだと思っていた。
何れにせよ事態は急を要する事になった。
そして、今新たな逃げる足が自分の目の前に現れる。
それに乗って逃げようかとしていた矢先に、自分とほぼおない年位の人間に見つかった。
逃げようともせずぼうっと自分を見る地球軍の制服を着た連中を見て、彼の頭の中で一つの答えが出る。
討て、と。
彼は反射的に短機関銃を構え、相手を銃撃した。
彼等は咄嗟に身を翻し、何らかの機械の陰に転がり込もうとする。
遅いっ !!!
数発の銃弾が相手のどちらかを捉えた。
跳弾で散る火花がその周辺を数瞬だけ明るく照らし、直後に耳を劈く様な悲鳴が格納庫中に響き渡る。
だが、いちいち構ってやっている事は出来ない。
相手が隠れている以上無駄弾を撃てば、危機的状況が続いた時に上手く回避できなくなる。
両者共に一撃でしとめ切れなかったのは悔しいが。
彼は両足を必死に整備用ハンガーに引っかかっているイージスに向けて走らせる。
勝手を知っている機体でなければ動かす事は上手くいかない。
その時そのイージスに程近い所から、自分への銃撃が始まった。
それを見ると、とてもその方向に向かうのは無理だと判断して二機ある戦闘機の内の一つに向かう。

第八艦隊がこちらに送った大気圏用の流線型の戦闘機の名はスカイグラスパー。
アークエンジェルとストライクの支援用に製作されたこの戦闘機は、ストライクのパワーパックを搭載できるどころかそれを直に使う事も出来る。
実際には、電力消費の激しいストライクに新しいパワーバッテリーを付けるという役割があるのだが。
その戦闘機の動かし方をアスランは勿論知らない。
だが、知らないからと言って、ここまで来ておきながらおめおめと捕まるつもりも無い。
一瞬銃撃が止む。相手がこちらの弾が尽きたと判断したのだろうか。
アスランはタイミングを見計らい、その機体の方に駆け寄る。
当然だが銃撃は再会され、跳弾があちこちに向かって飛ぶ。
その跳弾や流れ弾が体のあちこちを掠めたために、来た時より血が流れ出した。
激痛がその度に走るが、気にしていれば次の瞬間には死んでいるだろう。
機体の陰に隠れながら、一発必中の覚悟で彼はSMGを撃つ。
兵士達が次々にばたばたと倒れていくのを確認しながら、ラダーを登り戦闘機のキャノピーを開け中に滑り込んだ。
説明書きは無い。マニュアルも誰かが持って行ったのだろうか存在しない。
目の前に広がるのは簡単な説明しか書かれていないボタンとレバーの付いた金属面だけである。
どれだ ? どれがエンジン始動ボタンなのだ ?!!
そうこうしている間に、あちこちから敵の兵士が出てくる。
その数はざっと50人程。
全員が戦闘機を目指して、威嚇射撃を一定のサイクルで行いながらじりじりと近づいて来た。
彼は半ば自棄を起こしたかのようにあらゆるスイッチとレバーを次々にオン状態にしていく。
その時願ってもいない事が起こる。エンジンの駆動音が聞こえてきたのだ。
あと少しでラダーを登ろうとしていた兵士の一人はびくっとして一旦2〜3m程離れるが、自分の勇気を誇示するかのようにまた登ろうとする。
アスランは落ち着いてもう一度現状把握に努める。
目の前のカタパルトハッチは閉まっている。
この戦闘機の武装でハッチを吹き飛ばさなければ、考えるまでも無く戦闘機ごと吹っ飛ばされる。
どれかが火器に繋がるボタンなんだろうがどれなんだ ?
隅にあるボタンを片っ端から押していくとあるボタンを押した時、機体下部にあるビームライフルが火を噴いた。
そしてその火線はそのままハッチに向かい、強力な爆発が起きる。
但し、爆発が起こっただけであまり目立った損傷は確認されない。
突然の事にスタッフ達は先程より更に後ずさりする。
その様子を見てアスランは図らずも含み笑いをしてしまう。
そうだ。もっと怖がって呆然とそこから見ているが良い。こんな所は早い内におさらばするに限る。
そしてビームライフルを撃つボタンを真正面に向けて何度か押してみる。
始めの内変化は見られなかったが、内部からの火線の発射は考慮されていなかったのか5〜6発撃った後、ハッチは耐えきれ無くなり大きな音と共に吹っ飛ぶ。
後はもう外に出るだけだ。
ふつふつと湧き上がる高揚感を抑えながら、アスランは操縦桿を思いっきり手前に引き機体を発進させる。
機体に取り付こうとしていた者達は皆一様に吹き飛ばされ、格納庫の床に叩きつけられた。
そしてそれっきり動かなくなる者も少なからずいる。
スカイグラスパーは猛スピードで朝日の輝くハッチから出て行った。
そしてあまりの出来事の連続に、濛々と煙のたちこめる格納庫の端にあるシミュレーターの陰にいたフレイは呆然自失状態になる。
何が起きたのだろう ? 自分は出来の悪いB級映画でも見せられているのだろうか ?
思考が元に戻ってきたフレイは自分の両手にぬるりと何かが付いているのに気づく。
真っ赤な……真っ赤な血。この血は誰の ?
そう思って、ふと隣を見ると右の脇腹に銃創を作ったサイが転がっている。
微かに息はあったが、そんな事も彼女の耳には聞こえて来はしない。
そして自分も膝から滲む様な血を流していた。
体は力を失い、操り手を失ったパペットの様にだらんとなる。
やがてそれは痺れた様にがくがくと震えだす。
「あ……ああっっ……イヤァァァッッ !!!! 」
フレイはただただ絶叫するしかなかった。
今自分の目の前で実際に『戦争』の片鱗が垣間見えた事を強く拒否するかのように……

「捕虜をいつまでも医務室に置いておいたのが間違いでした。」
ブリッジでナタルはいつもの様に事務的な言い方でマリューを婉曲的に糾弾する。
実のところ、大気圏降下以降の出来事は殆ど予想の範疇を超えていたが、捕虜の一件に関しては色々と迂闊だった。
まさか厳重な監視下で脱走などしないだろうと思われていた捕虜が、第八艦隊から送られた戦闘機を奪って脱走するなど。
もう一人の方は眠っていたために気づかなかったと主張しているが、この船に乗った時の銃創が癒えてきていた彼の方が寧ろ脱走しやすい状況だった。
自分の身一つしか頼れるものしかない脱走者が自分を助けようとさせる為に、そして脱走を教唆する為に彼を起こしもしなかったのは些か疑問に残るが。
その脱走の際にはクルーの数名が死亡し、負傷した者達の中にはあのヘリオポリスの学生達が二名いた。
いや、もう学生ではなくてサイ・アーガイル二等兵とフレイ・アルスター二等兵の両名といった方が良いだろう。
二人とも今はあの医師の処置を受けているとは思われるが。
因みに野戦任官の二人が二等兵扱いになっているのは、今は月基地にいるであろうハルバートン提督の計らいでもあった。
それだけに自分達をあれだけ目にかけてくれていた提督に対し恩を仇で返した気がしてならない。
それに二人の傭兵……ガロード・ラン、ティファ・アディール両名の行方も全く掴めていない。
大気圏降下の最初の内は位置、機体の状況共に把握は出来ていた。
しかし通信は途絶し、自分達も敵が持つ最大の基地の真正面にいるという事が判明してから異常なまでの慌しさに追われる事になり、彼らの存在が頭から消えかかっていた。
だがもしかすると……という淡い期待がマリューの頭に取り付いて離れない。
何しろ、ザフトでも旧型といわれる機体を駆り、敵にかなりの損害を戦闘に出る度に負わせ、更に奪われたXナンバー機の奪還も成し遂げたのだから。
正規兵であれば本部はそれらの活躍を鑑み、二人を揃って士官の位置につけられたキラ・ヤマト少尉よりも高階級に昇進させるだろう。
それも二階級どころの話ではなく。
今の所ジブラルタル基地が近い事もあってか、そこに捕虜として捕えられている可能性もあった。
そうだとすれば、彼らもやはり今回自分達の船から脱走した兵の様に、無茶苦茶をやってここに戻ってくるのだろうか。
そんな考えを吹き飛ばす様にナタルは更に淡々と事実を告げていく。
「ましてや警戒を厳にしていたとは言え……あのような事が起こり得ると認識しておくべきでした。」
その件に関してはファーゼンバーグ氏から直々に報告があった。
そしてその時ある事も言っていた。
捕虜は引き渡される事が条約でも定められているし、独房に移すにはあと2〜3日は安静が必要なのに、どうしてあんな事をしたのかと。
そしてナタルはナタルで自分がいちいち訊いているわけでもないのに、正論を口にし続ける。
「これではまるで捕虜に脱走してくれと言っている様なものです。……この件に関してはこちらから本部に報告しておきます。宜しいですね ? 」
「ええ……お願いするわ。」
最早感情抜きで自分の処理しきれる範囲を超えた事の連続に、つい投げやり気味な対応をしてしまう。
ナタルは怪訝な顔をしたものの、では、と言ってブリッジを出ようとする。
その時気になったことがあったのでマリューはもう一度声をかける。
「アーガイル、アルスター両二等兵の容態は ? 」
「アーガイル二等兵の手術は既に終了しました。アルスター二等兵は軽症でしたが精神的なショック症状が見られます。
両名は現在医務室にいますが、同室にいた捕虜は階下の独房に、同僚の脱走に関する尋問が終了したと同時に送りました。」
ナタルはあくまで事務的な態度を崩さない。
もう少し人間味のある言い方は無いものかと訊いた本人は思ってしまうが、彼女にそれを求めてもそれは詮無い事だと逆に思わされてしまった。
またストライクのパイロットことキラ・ヤマトは大気圏降下の際負った高熱はひいたものの未だに目を覚ましていない。
今回の一件が彼にとってどういった影響を及ぼすか、彼女にも正直な事をいえば想像がつきにくかった。
残酷な話ではあるが、今彼にパイロットを降りてもらっては困る。
頼るパイロットがムウしかいなくなってしまうからだ。
そんな事を気にも留めないかのように今度はナタルの方から質問が来た。
「アークエンジェルは何時発進するのでしょうか ? 」
敵の基地の直ぐ近くにいる事や、パイロットの事を複合してその事を考えようとしていたのに……
マリューは軽い頭痛さえ覚える様な感覚に襲われた。

ミリアリアはとてつもない寂寥感を感じていた。
トールが時折側に居てくれているとはいえ、心の中にぽっかりと開いた穴は早々簡単に埋まる物ではない。
先ず避難シャトルでカレッジの仲間であるカズイが地球に向けて先に降りた。
続いてキラが回収されたストライクから医務室が詰まっているという事で自室の方に運び込まれる。
そして今日は今日で捕虜が脱走し、その時サイが銃で撃たれ、連なる様にフレイがそのショックで寝込んでしまう。
宇宙にいた時に軍属に入るという事はどういう事かと覚悟はしていた。
が、まさかこうもたて続けにその覚悟を試すかのような出来事が起こるとは想像もつかなかった。
でも今更軍人をやめる訳にはいかない。
自分達は同じ道を歩む事を決めた仲間なのだから……