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Z-Seed_◆x/lz6TqR1w氏_第09話『向上心』

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:31:47

「なんでこの距離から射撃が当たるんだ!?
うわっ!!反応速度が速い!!

……なんか酔ってきた……」
「熱心ねー。どうしたの?」

下からルナマリアの声に反応し、シンはハッチを開けた

「研究だよ」
「参考になった?」
「……全然……」

ルナマリアの辛辣な指摘に、シンは肩をがっくりと落とした
――この日、シンは朝一番でMSデッキに走り込むと、Zの戦闘記録を眺めていた
何かヒントでも無いかとの行動だったが、あまりの技量差に驚愕するだけであり、収穫は無いに等しい
それどころか特殊な全方位モニターに酔いを感じてしまう有り様だった――

「大体、技量を盗もうとするのが間違ってるのよ」
「……じゃあ、どうしろっていうんだよ……」
「さぁ……?
……カミーユ隊長が健在だったら、
教えてもらえたのにね……」
「……」

重苦しい空気が流れる――
ミネルバではカミーユの話題は軽いタブーと化していた
戦いの中で精神を患うことは、ドラマなら美談になるかもしれないが、
現実はそうはいかない
戦場に身を置く自分たちも、いつあんな状態になってもおかしくないのだ

「……ミネルバは俺が守る……
それが、今の俺がやるべきことだ」

シンは強い意思を込めるように呟いた
カミーユから託された任務――その荷は重い
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機動戦士ZガンダムDESTINY
第09話『向上心』

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「OSの改良だって!?」

古参メカマンの一人が鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている

「改良というか、設定を変えて欲しいんです」
「どんな……?」
「今のOSは、パイロットにかかるGの負担を減らすために
リミッターがついてますよね?」

シンがたどり着いた結論は、技量を磨く前に機体性能を十二分に引き出すことだった

「って、おい!!
外せっていうんじゃないだろうな!!」
「……駄目ですか?」
「駄目駄目!!
機体の限界を上げる心がけはいい。だが、機体がピーキーになり過ぎちまって、
少しの操作ミスでも機体は言うこと聞かなくなる
おまけにG負担が大きくなって、内臓がもたないぞ!」

メカマンが話にならないという風に肩をすくめた
だが、それでもシンは引き下がらなかった

「そこをなんとか!」
「駄目だ駄目だ!
お前の生存率が上がる仕事ならいくらでもやってやる
だが、パイロットを殺すような仕事はやりたくないね!」

メカマンが苛立ちながら去って行く

「だったら……使いこなせりゃいいんだろ……!!」

しかし、シンは不屈だった

「本当にいいのか……?」
「やってくれ!」

ミネルバの簡易演習場にて、シンに向かって、銃口を向けるレイ

バァァン!

――唸る銃声――

「がはっ……」

シンは腹部を押さえながらその場に蹲った
嘔吐物が辺りを汚した

「止めよう、シン。こんなことをしても無意味だ」
「も、もう一回!」
「やれやれ」

再び引き金を引くレイ

「がっ……げほっ」

今度は血ヘドが飛ぶ

レイのアサルトライフルには、武力デモ鎮圧用のゴム弾が装填されていた
故に、死には至らぬが、その苦痛は想像を絶する
シンは、それを至近距離から腹部めがけて撃つという、なんとも過激な特訓をしていたのだ

バァァン!

……バタリ

「あっ、落ちた」

シンは三発目に気絶した
既に胃の中には何も残っていなかった

「何、馬鹿なことをやってるの!!」

艦長室で、大目玉を食らっているのはシンである
医務室に運ばれたシンを一目見て異変を感じ取った医師が
詳細をレイから聞き出し、このような次第になったのだった

「何が目的でこんなことを!?」
「内臓を……鍛えたかったんです……」

見るからに小さくなって行くシン
――説教を喰らえるほどすぐに回復できたのはコーディネイターのなせる技だろうか

「ああっ、ナンセンスもいいとこだわ!!
カミーユが倒れて大変なときに!」
「……すみません」
「いい!?もうその特訓は禁止!!わかった!!」
「……はい」

力無くその場を後にするシン――

「次は……ルナに協力してもらおう」

シンはとことん不屈だった

「本当にいいの?」
「ああ、頼む」

シュミレーターでの模擬戦――しかし、妙にシン機の動きが悪い

「のろいなぁ……」

ルナマリアが気だるそうに引き金を引く
――暴散する機体

「も、もう一回!」
「無駄だと思うけどね……」

――何度も敗戦を重ねて行くシン――

「くそぉ!!」

シンは悔しげにコンソールを叩く

「大体、射撃と移動がマニュアルで勝てるわけないでしょ?」
「……手足のように使えなきゃ駄目なんだ……」
「ま、暇だから付き合うけど……」

結局、50戦全敗という記録を作ってしまったシンであった

「もう勘弁して……寝かせて……」
「……ああ、ありがとう。付き合ってくれて……」

辺りを見渡すと既に朝日が顔を出していた
気だるそうに歩いて行くルナマリアを見送ったシンは
再びコンソールに向き合った

「無駄を無くすんだ……OS制御じゃ、
『ポージング』が消えないんだ……」

ポージングとは、OS制御時に現れる特徴で、
機体のブレを無くすために、攻撃時に一瞬ギクシャクする動作のことを指す
これが隙を生み出す要因の一つであった
カミーユの戦闘記録を見る限り、ポージング動作は皆無である
つまりカミーユはマニュアルで戦っていたことになる

「出来る……俺なら出来る……」

根拠のない暗示を自らにかけるシン――
彼はZのOSが根本から違うことを考えもしなかった

シンの奇妙な特訓の噂は、瞬く間に艦内を駆け巡った
噂というのは実に膨らみやすく、酷いものでは、

『実弾を防弾チョッキを来て喰らう特訓』

とか、

『MSで折り紙を折る特訓』

といった現実離れしたものもあった

「おい、坊主!」

噂を聞き付けた古参メカマンがシンのもとに訪れたのだ

「なんですか?」
「設定、変えておいたぞ……」
「……本当ですか!?」
「……ったく……お前の熱意には負けたよ……
訓練のベクトルがぶっ飛び具合が伊達じゃない」
「……あはは」

メカマンの呆れた口調に、シンは苦笑いを浮かべた

「……死ぬなよ……」

メカマンのその一言に、どれだけの想いが込められているのだろうか
シンはそれに応えるように、去って行くメカマンに敬礼を向けた

「……生き残って……みせます……!」

きっと、自分のしたことは無駄なことかもしれない
しかし、その無駄がいつか肥やしになるはずだと、シンは自分に言い聞かせた