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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第03話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 08:50:16

地球へと降下したミネルバは、カガリを送り届ける為オーブへと上陸した。
そして、ミネルバのクルーにも束の間の休息が与えられた。
カガリとアスランが降ろされた後、各々がそれぞれの息抜きに入る中、シンは病室にいた。

 

(この人、あの戦闘の中部屋を抜け出したって聞いたけど、どういうんだ……?)
「シン、街には出ないの?せっかくの故郷なんでしょ?」

 

大して気にもしてない事を考えているところへルナマリアが病室へ入ってくる。

 

「別に……」

 

シンはルナマリアにそっぽを向く。

 

「何よ、その態度は!?せっかく一緒に行ってやろうと思ってたのに!」
「そんなこと別に頼んでないだろ?俺はオーブには来たくなかったんだ」
「なんでさ?」
「ルナに話すことじゃないだろ?」
「あっそぉ、勝手にすればいいわ!この引きこもり!」

 

シンに一言罵声を浴びせ、ルナマリアは怒った様子で病室を出て行った。

 

「なっ……引きこ……!?」

 

いきなりの思いがけない発言に、シンは何も言い返せなかった。
そこへ、入れ違いになるようにミネルバの艦医が荷物を抱えて入ってきた。

 

「おや、シン?どうした、上陸許可がでたってのに?街には行かないのか?」
「あ、いや……ちょっとそんな気分になれなくて……」

 

医師が困ったような顔をして荷物を机の上に置く。
中には薬が入っているのだろうか、袋が大きくかさばって膨らんでいた。

 

「そうか……医者としてはリフレッシュの為にも外に出て欲しいのだがね。
ルナマリアが誘ってくれたんだろ?」
「えぇ、まぁ……」

 

表情を落とすシンに気付き、医師は優しく問い掛ける。
シンの身の上の話は彼も知っていた。

 

「……やはり辛いかね、オーブは……?」
「……はい……」
「だが、いつまでも現実から目を背けていてもしょうがない……
どうだろう、彼を連れて出てみないか?彼も外出すれば少しは変化があるかもしれないし……
任務の一つとでも思ってさ?」

 

そう言って艦医はカミーユを起こし、車椅子に乗せる。
カミーユは車椅子の上で頭を横に傾けた。しっかりと頭部を固定する事も出来ないのだろう。

 

「えぇっ!?だ、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫さ。身体的には異常は無いからね。……頼めるかい?」

 

そう聞かれたシンは少し考える。

 

オーブ……シンはこの国に対して憎しみを抱いている。
彼にはかつて共に暮らしていた家族が居た。両親とまだ年端のいかない妹だ。
幸せに続いていた暮らしを一瞬にして奪ったのは一筋の光だった。
目の前に広がる信じられない光景を前に彼はふと光の射した空を見上げる。
そこには青き翼を広げた白いMSが居た。それはさながら白い死神のようにシンには思えた。
シンは生涯その光景を忘れまいと誓った。

 

回想を終え、シンは医師に顔を向ける。

 

「……正直、気は進まないけど取りあえず行きます。こうしてても仕方ないし……」
「そうか、行ってくれるか!
……そうさ、辛くてもたまには家族に会いに行ってやらなくちゃな!」
「!……そうですね!」

 

言われてみてシンは家族のもとにほとんど会いに行って無かった事を思い出した。
前大戦後、シンはプラントへ渡ったのでそれからオーブに戻ってくるのは今回が初めて
だった。

 

(そっか…そういえばあれから会いに行ってなかったんだっけ……)

 

そう考えると、シンはカミーユの乗った車椅子を押して病室を出て行った。
外へ出ると、皮肉な位オーブの空気は澄んでいた。
青い空と戦争の傷痕を感じさせない綺麗な町並み、そして美しい海。
シンが悔しい位オーブは平和だった……
カミーユの意識の奥底で、彼は一つの決意を胸に抱いていた。
あの時見たユニウス・セブンの落下、それが呼ぶ悲劇の始まりを予感したカミーユは再び
それを止めるために表に出ようとしていた。

 

(あんなことがあったこの世界、もう後戻りは出来ないだろうな……)

 

意識の奥底でカミーユは呟く。

 

(だが、被害を小さくすることなら出来るはずだ。ニュータイプの力がその一端になれれば……)
《カミーユがそんなことする必要は無いわ……》

 

一人で居るはずのところに女性の声が響く。
ふと、カミーユが振り返るとそこには一人の女性が立っていた。
その顔立ちはどこか儚く、髪はショートの薄いエメラルドグリーンをし、カミーユを悲しげな瞳で
見つめていた。

 

(フォウ…どうして……)
《カミーユはあの戦争で十分に戦ったわ……これ以上辛い思いをすることなんてない……》

 

珍しい紫の口紅で彩られた口で、フォウと呼ばれたその女性は悲しそうに話す。

 

《あなたはその力と優しさであの戦争を戦い抜いた……実際あなたに救われた人もたくさん
居た……。でも、あなた自身はボロボロ…これ以上辛そうなカミーユは見たくないの……》

 

そう言い終えるとフォウはカミーユから視線を外し、うつむいた。
カミーユはそんな彼女を優しく見つめる。フォウに抗議されても怒る気にはなれなかった。
カミーユは穏やかに語りかける。

 

(フォウ……でも僕がこの世界に介入することで救われる人が出てくるかもしれないんだ……
行かせてくれ……)
《……カミーユ……でも、それじゃあ今度こそあなたの心が持たないかもしれない……。
今でさえギリギリの所で保っているだけなのに……》
(わかってるさ)
《わかってないわ…だからそんな風に言える……》
(そうかもしれないけど、僕にはそうすることがニュータイプの使命のように感じているんだ。
……でなきゃ、きっと後悔する事になる)
《そうなの?》

 

なだめる様なカミーユの言葉を受け、フォウは俯いていた顔を上げる。少し泣いていた。

 

(そうさ……それにニュータイプの可能性にも賭けてみたいんだ。
ニュータイプが本当に人の革新なら、この世界でもきっと……)

 

そこまで言ってフォウはカミーユの首に腕を回す。

 

《そう……どうしてこうなっちゃったんだろうね……?》
(君のこと、好きだからさ……)

 

カミーユの答えを受けてフォウは瞳を閉じて軽くカミーユに口付けをする。
カミーユも目を瞑ってそれを受けたが、感触は無かった。

 

《……わかった、カミーユ、気をつけて……また会いにくる……》
(あぁ……)

 

フォウの姿が薄くなってやがて消える。
それを見届けると、カミーユは決意のこもった表情で上を見上げた。

 
 

カミーユを連れてオーブの街へ出たシンは、岬にある慰霊碑にやって来た。
実際にそこに埋葬されているわけではないが、そこはシンの家族が眠る場所であった。
……シンはそこで一人の男と遭遇していた。

 

「……君は…花を供えに来てくれたんだ……?」
「ぇ……あ、はい……」

 

その男は黒髪だが、シンよりもやや茶色がかっていて少しうっとおしそうな感じをしていた。
整った顔立ちはどこか哀愁を漂わせ、全身黒ずくめの服装がそれを更に際立たせていた。
キラ=ヤマトだった。

 

「ありがとう、ここ潮風ですぐ花が枯れちゃうから……」
「いえ……別に……」
「……?その人は?」

 

キラはおもむろにシンに訊ねる。
ただの病人なのだろうが、何故か車椅子に乗せられているカミーユが気になった。
とても正気を保てている表情ではないが、どこかに強い意思を隠し持っているような気がした。

 

「あっ……いや、なんか病気みたいで……」
「そう……」

 

シンの言葉に納得したわけではないが、車椅子を押すシンに分からない事が自分に分かる
はずがないと思い、その場は軽く流すだけに留めた。

 

「そ、それじゃ俺はこれで、あまり外に居ても良くないみたいなんで……」
「あ、うん……」

 

こんな所で誰かと出くわすと思っていなかったシンは、場の空気に堪えられず嘘の理由を
言ってその場を離れた。そして、遠くなっていくシンの後姿をキラは無言で見つめていた。

 
 

慰霊碑にお参りを終え、ミネルバに帰る途中にシンは浜辺で沈みかけの夕日を眺めていた。
今は穏やかな海であるが、所々に割れた木や千切れた布等のゴミが散乱している。
ユニウスセブンが落ちた影響だろう。辺りはまるで人里離れた無人島の様に静まり返ってい
る。
シンはカミーユを乗せた車椅子を後ろの方に放置し、波打ち際で片膝を付いてしゃがみこみ、
片手に砂を握り込んでゆっくりとそれをこぼし始めた。

 

「やっぱり…出るんじゃなかったな……」
「何故そう思うんだ?」
「そりゃあ、あれを見たらあの時の悔しさが……?」

 

独り言の筈のシンの言葉に来た有り得ない返答に、シンは思わず途中まで答えてしまった。
シンが浜辺に着いた時、辺りに人影は見当らなかった。
少しの間夕日を眺めていたが、誰かが近づいてきた気配は無い。
シンもまだ若いとは言え、ザフトの軍人である。相手がプロでもない限り気付かない筈が無い。
では誰が……?
そんな考えが一瞬のうちにシンの脳裏を一通り駆け巡った後、一つの可能性に辿り着く。
にわかには信じられない事だが、その可能性を確かめるべくシンは車椅子のある後方に振り
返る。

 

「あの時の悔しさ……?」

 

そこには夕日を受けて立つカミーユ=ビダンの姿があった。
支える事の出来なかった首はしっかり据わっており、車椅子から立ち上がろうとしている。

 

「あ、あんた……どうして……!?」

 

先ほどまでは話すことはおろか、自分で体を動かす事すら出来なかった男が、しっかりした瞳
でシンを見つめている。その姿にシンは激しく動揺した。

 

「あの隕石落としの事か?」
「いや、違うけど……って、そうじゃなくて、あんた、ずっと意識があったのか!?」

 

カミーユの問い掛けに動揺を続けるシンは質問に答えそうになったが、即座に我に返って
怒鳴りつける。カミーユはそれを気にする事無くシンの質問に答える。

 

「いや、その事しか覚えてないし、なんとなく覚えてるだけだから、あれが本当にあったことなのかどうかもよく分からないんだ……で、何の事なんだ?」

 

若干しつこいカミーユの問い掛けにシンは辟易した顔で、しかし内心で激しく動揺しつつも切り
返す。

 

「そ、そんな事はどうでもいい!とにかく、あんたはもう大丈夫なんだな?なら、まだ素性が知
れないわけだからミネルバで取り調べを受けてもらう!
……俺はこう見えても軍人だからな!逃げようとしたって無駄だからな!」

 

聞きなれない言葉にカミーユは首を傾げて怪訝そうに聞き返す。

 

「みねるば……?」
「俺達ザフトの戦艦のことだ」
「ざふと……?」

 

次々と出てくる聞きなれない言葉にカミーユは間の抜けた声で鸚鵡返しをする。

 

「あんた…ザフトも知らないのか!?」
「…あぁ、何の事なんだ?」

 

眉を顰め、シンはカミーユを疑う。
一応自分は軍人である事を伝えてあるのだからよもや抵抗する事は無いだろうと思っていた。
カミーユに対する大方の見解はナチュラルであると聞かされていた。
ならば、コーディネイターである自分には逆らえない事を了解しているはずであるとシンは
考えていた。ただとぼけているだけなのか分からないが、シンは訝しげにしつつも説明する。

 

「まさか…記憶喪失とか言う落ちじゃないよな……?
まぁいい、ザフトは俺達コーディネイターの軍のことだ」
「コーディネイター?……また知らない単語だ」

 

シンはカミーユの言葉に驚いた。
いくら何でも世界の常識であるコーディネイターの存在を知らないとは思わなかった。
少し口を開いて硬直していたが、直ぐに呆れたように言葉を紡ぐ。

 

「そんなことも……もういい、これ以上は後にしてくれ」
「あぁ、こちらとしても色々詳しく知りたい」
「詳しく知りたい……?あんた、一体何者だ?」
「それは……」
「まあいい。あんたの正体については取り調べのときにたっぷりと聞かせてもらうさ……!」

 

得体の知れないカミーユにシンは目をギラつかせ、口元を少し引き上げて若干の敵意を込めて
言い放つ。こうして多少なりとも脅しをかけておけば、本当に彼がナチュラルなら無駄な抵抗は
しないはずである。

 

「じゃあ、そのミネルバって所に案内してくれ」

 

しかし、カミーユは怯んだ様子は全く無かった。
純粋に情報を知りたいのか、努めて冷静な口調でシンに案内を求める。
そんな様子にシンは肩透かしを食らったのか、折角落ち着きを取り戻そうとしていたのに再び
焦ってしまう。

 

「くそ…何なんだよあんたは……?もういい、俺に付いて来い!
あ、後その車椅子も持って来るんだ!あんたが使ってたやつだからな!」

 

そう強くカミーユに言い放ったシンは、動揺しながらも精一杯平静を装ってカミーユをミネルバ
へと導いていった。

 

(どうやら思った以上にこの世界は違うらしい……)

 

ミネルバへ向かう道すがら、カミーユはあたりを見渡して新鮮な空気を大きく吸い込む。
潮の香りと綺麗に澄んだ空気がおいしかった。
カミーユは違う世界に来ている事は承知していた。断片的ではあるが、地球に落下していく
ユニウスセブンをカミーユは初めて目撃した。それに、先程のシンの話す知らない単語が
決め手となっていた。
不安を抱えつつも、カミーユはこの世界にある種の新鮮さを感じていた……

 
 

オーブへと戻ってきたカガリは国家元首としての仕事をこなしていた。
先のユニウスセブン落下事件を受け、すべき事は山ほどあった。

 

そんな中、一方のアスランは先のユニウスでの破砕作戦の時に出会ったテロリストの首謀者が、
亡くなった父・パトリック=ザラを信奉するコーディネーターであったことに悩んでいた。
二年前の戦争では、パトリックは大量破壊兵器である"ジェネシス"を使い、連合軍に多大な
被害を与えて何人ものナチュラルを殺していた。
勿論核を持ち出した連合側にも非はあったが、その核ミサイルは自分たちが全てプラントへ
届く前に破壊した。その上でパトリックはジェネシスを撃ったのである。
彼が最後に見たのは復讐に心を支配された哀れな父の姿だった。
独善が暴走し、部下の制止を振り切ろうとするパトリックは部下の銃弾に倒れて彼の目の前で
逝ってしまったのだ。
そんな父の姿をアスランは忘れようと努力していたが、"パトリック"の名を聞いたとき、
忘れかけていた記憶が蘇ってきたのだ。

 

《パトリック=ザラがとった道が唯一正しいものであった事が、何故分からん!?》

 

この言葉を思い出すたびにアスランの眉間に皺が寄る。
あのテロリスト達がただのゲリラなのか、それとも有り得ない事ではあるがプラントと関係があ
るのか……そんな事を難しい表情で考えていた折に更に衝撃的なニュースが飛び込んで来る。
連合がユニウスセブン落下の原因がコーディネイターであるとして、宣戦布告と同時に再び
プラントに核を撃ち込んだと言うのだ。
幸いプラント側が予め用意してあった強力な殲滅兵器によって事なきを得たが、この事件を
きっかけに連合とザフトは再び戦争状態へと入っていくことになった。
そしてアスランはユニウスセブン落下事件の真相調査を行う為、ディランダルに面会を求めに
プラントへ行く決意を固める。

 

「えっ……お前、プラントに行くのか?」

 

そんなアスランの言葉にカガリは驚きの声を上げる。
カガリのボディーガードをしていたアスランはその旨を伝える為に彼女の下を訪れていた。
アスランは答えて続ける。

 

「あぁ、どうしても気になるんだ、今回のこと……」
「いや、お前が気にすることじゃないだろう?お前とは関係ないじゃないか?」

 

カガリの言う事は尤もであるが、それでもアスランには行かざるを得ない理由があった。

 

「……あのとき、テロリストの一人が父の名を出したんだ」
「……!」

 

アスランの言葉にカガリは絶句する。
やっと二年前の戦争の傷が癒えようとしているこの時期に、何故そんな事を目論む人間が出
てきたのかが分からなかった。
しかし、アスランの言葉を聞いて何となくカガリにも分かった気がした。
二年前、アスランと共に会ったパトリックは、確かに極端な選民思想を持っていたように彼女
には見受けられた。
そんな人物の名前を持ち出す位である、そのテロリスト達が何を考えていたのか何となく
分かる気がした。

 

「そう…だったのか……」
「だから、俺が確かめなきゃいけない……。他にも同じ事を考えている人間が居るかも知れな
いし、もしそれにプラントが関与していたとすると…俺は……!」
「アスラン……」

 

アスランは辛そうに顔を歪ませ、視線を背けて俯いてしまう。
そんな彼に掛ける言葉が見つからないのか、カガリの方も俯いてしまった。
暫くの間沈黙が続いていたが、やがてアスランが何かに気付いたのか顔を上げてカガリを
見つめる。

 

「……そうだカガリ、……これ……」

 

そう言うとアスランはポケットから小さな箱を取り出す。
その箱を開けると、中には紅い宝石が埋め込まれた指輪が入っていた。
アスランはその指輪を箱から外し、カガリの左手をとって薬指にそっとはめる。

 

「えっ!?アスラン!?あの、これ……!?」
「あっ、いや…その……と、特に深い意味は無いんだ、安物だから……」
「……嬉しい……」

 

カガリは指輪に見惚れている。思わぬアスランからの贈り物に心が弾む。

 

「ありがとう、大事にする!」
「あ…あぁ……」

 

照れくさいのか、アスランは顔を赤らめて頭を掻く。そんな様子をカガリは可愛く思えた。

 

「…すぐ戻って来るから、心配しないで待っててくれ」
「……あぁ、わかった。けどあまり無茶はするなよ?お前、危なっかしいからな」

 

冗談っぽく鼻を擦りながら言うカガリにアスランの方も笑顔を見せた。

 

「キラじゃないんだ、大丈夫さ。カガリの方こそ気をつけろよ、お前の命はもうお前だけの物じゃ
ないんだからな?」
「わかってるさ」
「じゃあ、行って来る。キラとラクスによろしく言っといてくれ」
「あぁ、帰ってきたらあいつらの所にもいってやれよ?」
「命令か?」
「命令だ」
「フッ……了解」

 

悪戯っぽく言い放つカガリにアスランは少し微笑んで敬礼をし、部屋を出て行った。

 
 

一方、プラントに核が撃たれる数時間前のミネルバの艦長室では正常になったカミーユに対
して取調べを行っていた。
部屋の中には艦長であるタリア、副長のアーサー、機体を調査しているメカニック主任の
マッド、更には発見及び回復した場に居合わせた当事者のシンと万が一の事態に備えて
レイ、そして回線のモニターを通してデュランダルがそれぞれカミーユの周りを囲んでいた。
まずタリアが最初に口を開く。

 

「では、まず貴方の名前と年齢、それと所属を聞かせてもらえるかしら?」
「はい…僕の名前はカミーユ=ビダンです。年は18で所属は……」

 

ここまで話してカミーユは言葉に詰まる。
自分が別の世界からやって来たなんて話をまともに信じてもらえるだろうかという不安が
あったからだ。
しかし、他に自分にしようが無い事を認識すると、いっそのこと何もかも話してしまおうと
カミーユは思った。
そして、言葉に詰まったまま沈黙を続けるカミーユを見て不審に思ったタリアがもう一度
尋ねる。

 

「所属は?」
「所属は……反地球連邦組織エゥーゴです。そこでMSのパイロットをしていました」

 

カミーユの言葉を聞き、アーサーは顎に手を当てる。眉間に皺を寄せて怪訝そうに口を開く。

 

「連邦…?連合じゃなくて?とするとユーラシアの…いやいや、それにエゥーゴですか……
聞いたことありませんねぇ?艦長は御存知ですか?」
「私も知らないわ。議長は何か御存知なのではありませんか?」

 

タリアが議長に少しわざとらしく尋ねる。
しかし、当の本人はそれに気付かずに難しい顔で答える。

 

『いや、私もそんな組織は聞いたことも無い。カミーユ君、それは確かに存在している組織
なのかね?』
「はい……。ですが知らなくても無理はないと思います。僕はこの世界の人間じゃありません
から」
「「え、えぇ!?」」
『なんと……』

 

カミーユの衝撃的な発言にシンとアーサーは驚きの声でハモる。そして、その他の全員も、
デュランダルでさえも驚きの表情を浮かべていた。
しかし、すぐに冷静さを取り戻したレイが疑いの言葉をカミーユに投げかける。

 

「ここに来る前に行った精密検査では、貴方がナチュラルであることが確認されています。
この艦がコーディネイターの艦であることを知って嘘をついているのではないですか?」
「さっきもそこの彼に聞いたけど、そのコーディネイターっての何なんです?」
「貴方、コーディネイターを知らないの!?」

 

タリアが驚く。
この世界にコーディネイターの存在を知らない者は居ない筈である。
ナチュラルとコーディネイターの区別は、世界の常識として通っているのだ。

 

「それにナチュラルなんて言葉も知りませんね」

 

続けて放たれるカミーユの言葉にその場の全員が首を傾げる。
その様子を超然として佇んでいるカミーユに対してレイが更に疑いの眼を向ける。

 

「それもただとぼけているのではないですか?」
「とぼけてなんかいませんよ。軍人相手にとぼけても、調べられればすぐ解ってしまう事を
言うわけないじゃないですか」

 

カミーユは渋い表情で答える。艦長室にざわめき声が響き渡る。
カミーユは当然だろうという顔で特にその様子を気にしていない表情をしている。
すると、シンが慌てた顔で一歩前に進んできた。

 

「じゃ、じゃあ…あんたは本気で別の世界から来たって言い張るつもりか!?」
『君の理屈にも一理あるが、そんな事を我々に信じろと言うのかね?』

 

デュランダルもシンの意見に続いて発言した事にカミーユは少し苛付いたように答える。
他に言い様が無いのだから、そう答えるしかないと言いたかった。

 

「軍人相手に嘘ついても仕方が無いんです。僕には他に言い様がありません」
「ふぅ……参ったわね……」

 

意見を曲げる気の無いカミーユに対してタリアは溜息をついた。
それでも納得できないのか、レイがまたも質問する。

 

「妄想なんじゃないですか?受け答えは出来ても精神が安定してるとは言えません」
「ちょっと待ってください。その彼の言うこと、自分にはあながち嘘とも思えませんぜ」

 

各々がカミーユ相手に押し問答のようなやり取りをしている中、マッドが流れを止めるように
口を挟む。
すると、カミーユ以外の全員がマッドに振り向いた。

 

「おぉっ、一気に……!……ま、まぁ取りあえずこれを見てください。これは彼が発見時に
乗っていた戦闘機の解析結果なんですがね?これを基にメカニック的見地からですが論拠
を述べさせてもらいます」

 

そう言うと、マッドはスクリーンに画面を映し出す。

 

(Ζもあるのか……!)

 

「まずこの戦闘機で最初に目に付いたものがですね、コックピットが全天周モニターになって
いる事と、構造がフレームと装甲に分かれている事が大きく我々の技術と異なっています」
「新規に連合が開発したんじゃないのか、それ?」

 

シンが早々に口を挟む。すると、レイが注意を与えてきた。

 

「シン、まだ始まったばかりだ。おとなしくしていろ」
「けど……」
「シン、だまってて」
「……はい」

 

言い訳するシンにたしなめる様にタリアが睨みをきかせる。
その視線に身を強張らせ、シンは素直に返事をする。
そんな様子にマッドが窺うように口を開く。

 

「……続き、話していいですかい?」
「えぇ、ごめんなさい」

 

タリアがそれに平然と返す。

 

「で、次に問題なのは動力炉と使われている装甲です。
動力炉の方は、信じられないことですが、どうやら核融合炉のようなんです」
「核融合炉!?それって……何でしたっけ?」

 

驚いた声でアーサーが天然ボケをかます。
またも話を阻害されたマッドは溜息をつき、タリアはアーサーをきつく睨んだ。

 

「アーサー、こんな時に冗談は止めて頂戴」
「はっ、すみません……」
「核融合炉の実用化には我々は以前失敗している。だが、その出力はあのフリーダムに搭載
された核分裂炉より上だと言う話だ。ただし、その制御は相当に難しいらしいな」

 

レイが説明口調でアーサーの疑問に答える。

 

「まぁ、実際の所そんなにパワーが出てるとは思えないんですがね……」

 

マッドが怪訝そうに言う。詳しくは調べていないが、どうやら彼の思っていたよりも残念な結果
が出たらしい。

 

「ふぅん…詳しいんだな、レイ」
「常識だ。知らなかったのならお前ももう少し勉強したほうがいいぞ、シン」
「……ヘン、悪かったな」

 

レイの厭味な一言に不貞腐れた様子でシンが不平を口にする。

 

「一応これの解析も試みてみたんですがね、不明な点が多すぎて完全にお手上げなんです
わ。どうも我々の技術とは全く異なる物みたいで……」
「ニュージャマーキャンセラーは積んであったんですか?」

 

不貞腐れていたかと思うと、マッドの声を聞いたシンが急に明るい顔で発言する。
そして、"どうだ"と言わんばかりにレイの顔に視線を送る。

 

「核融合炉にニュージャマーは関係ない。あれは核分裂を抑止するものだ」
「へ……?」
「どうやらシンは本格的に勉強をしたほうが良さそうだな」
「あぁ、我ながらそう思う……」

 

冷静にシンの視線に対抗するようにレイが説明する。
その説明を受けて、シンの自信が粉々に砕け散る。自分の学の無さを情けなく思い、ガックリ
と頭を垂れる。
何処までも冷静で厭味なまでに完璧に見えるレイに一泡噴かせてやろうかと思っていたが、
逆に返り討ちにされてしまった。

 

「ちょっと待ってください、核融合炉の実用化に失敗したって……じゃあこちらのMSは全部
核分裂炉で動いてるんですか?」

 

ここで唐突に疑問を持ったカミーユがマッドに尋ねる。それにマッドが首を横に振って答える。

 

「いや、ユニウス条約と言う条約で核の使用はどんな形であれ原則的には禁止されてるから
な、俺達のMSは基本的にはバッテリーで動いているんだ」
「バッテリー……?電気で動かしてるんですか?」
「あぁ、そうさ」
「そんな無茶苦茶な……」

 

カミーユの中の常識ではとても考えられない事だった。
彼の世界のMSは核融合炉で動くというのが一般的なのだ。
それは、初めてのMS"MS-05"ですらそうだったのだ。

 

「こっちとしちゃあ、あんたの乗ってた戦闘機のほうが無茶苦茶なんだがなぁ……」

 

マッドが苦笑して先を続ける。

 

「んでもって動力炉以上に謎なのが装甲なんです」
「見たところ特に変わった所は見当たらないみたいだけど……」
「えぇ、詳しく調べるのはこのミネルバの設備では無理でしたが、その材質が全くの未知の物
なんです。フェイズシフトこそ使われておりませんが、その強度は我々の使っているMSの装甲
よりも遥かに上です。こればっかりは解析の糸口すら掴めませんでした」
「なるほどね…カミーユ君、これについて話してもらえないかしら?」

 

マッドの後を受けてタリアがカミーユに訊ねる。
それに頷いてカミーユが口を開く。

 

「はい、これは月から採れる特殊な鉱石から精製されたものです。
もっとも、今Ζに使われている装甲の精製方は最近になって発見されたものですけど……」
「Ζ?あの戦闘機の名前かしら?」
「あれは戦闘機じゃありません。可変型のMSです」
「あぁ、なるほど!それでメインスラスターがあんな風になっていたのか!」

 

要領を得て納得した顔でマッドが声を上げる。その形状からスッキリしない点が多々あったの
だろう。

 

『で、他には何かあるのかね?』
「あ、いえ、以上であります!」

 

そう言うとマッドはスクリーンに映された画像を消した。
そして艦長室は一瞬、静寂に覆われる。

 

「……今ので少しは信じてくれますか?」

 

カミーユの問いかけに皆難しい表情を浮かべる。
とてもではないが、誰もカミーユの言葉を信じられる雰囲気ではなかった。
そんな中、モニター越しのデュランダルが口を開く。

 

『MSの仕組みだけでは決定力に欠けるが、今の所は君の事を信じることにしよう』
「ありがとうございます」

 

デュランダルの言葉に再び部屋の中がざわつく。いくら他に何も無いからといって、一国を
預かる責任者がこうも簡単に認めてしまう事に驚愕の心持になる。
そんな彼等の空気を気にしないかのようにデュランダルが言葉を続ける。

 

『で、君はこれからどうするのかね、カミーユ=ビダン君?』

 

デュランダルの問いかけにカミーユは少し戸惑いながらも応える。

 

「この艦に乗せてもらえませんか?何故この世界に来てしまったのか分からないし、帰り方も
分からない。頼るあてがないんです」
『そうか。では……、ん?』

 

言葉を言いかけたままデュランダルの口が急に止まってしまった。

 

「議長、どうされました?」
『……すまない、緊急の事態が発覚した。この件に関してはタリア、君に任せる。では……』

 

そう言うとデュランダルはすぐさまモニターを切った。
突然の事に部屋の中が不穏な空気に包まれる。

 

「どうしたのかしら議長……何かすごく慌ててたみたいだけど……」
「あの、艦長?カミーユ君の処遇は……?」

 

難しい顔をしていたタリアにアーサーが訊ねる。

 

「……身寄りが無いみたいだし、仕様が無いわ。貴方の乗艦を許可します。ただし、貴方にも
仕事をしてもらうし、監視は当然付けさせてもらいます。……それでいいわね?」
「はい、ありがとうございます」

 

(これで取りあえずは当面の目的を果たせた事になるかな……でも、こんなんで本当にいい
のか、俺?)

 

カミーユにとってこの世界に介入する事が本当に良いことなのかどうかはまだ分からない。
しかし、今はそれで良いんだと自分に納得させるしかないのも事実であった。
そして……

 

(あの人、カミーユ=ビダン……何かあるんだ……きっと……)

 

カミーユを見つめるシンは彼から伝わってきた不思議な感覚を忘れられなかった。
それが一体何なのか、確認が取れるまでカミーユを信頼する気にはなれなかった。

 
 

カミーユがミネルバのクルーに迎えられた頃、デュランダルは連合の核攻撃からのプラント
防衛に成功していた。
有事の際に備えていた兵器"ニュートロンスタンピーダー"が役に立ったのだ。
試作機であるが故に一度の使用で壊れてしまったが、連合側の後続が無かった事が幸いし
ていた。
しかし、手段を選ばなかった連合に対し、デュランダルは懸念を抱かざるを得なかった。

 

(よもや連合が再び我等に核を使うとはな……ブルーコスモスの影もあるだろうが、やはり人
は争いを捨てきれないか……)

 

宣戦布告と同時に核を撃ってきた連合に対し、デュランダルは徹底抗戦の決意を固める。
こうして人類は再び悲劇の幕を上げたのである。