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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第10話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:19:43

ローエングリンゲートを突破し、この地方での優位性を確保したミネルバはディオキアのザフト
軍基地に寄航していた。そして、そこにはデュランダルとラクス=クラインが兵士達の慰問の
為にやってきていた。
プラントのアイドルのラクス=クラインがライブをやる事を聞き付けたミネルバのクルーは、
殆どがそこへ観に行ってしまった。
ライブへやって来た観客は盛り上がり、皆楽しそうにしている。
しかし、そんな中、ルナマリアに連れ出された形でライブにやって来ていたアスランは一人複
雑な表情で歌うアイドルを見つめる。
前回プラントへ戻ったアスランはそのラクス=クラインに会い、そして、その彼女が偽者であ
る事を知っていたのだ。
本物の彼女はオーブに居る。その事はオーブでカガリの護衛に就いていた時分より知ってい
た事実である。

 

やがてライブも終わり、観客達はまた其々の場所へと戻っていった。
そして、ミネルバのパイロットとタリアはデュランダルの元へ招待された。

 

「やぁ、諸君。色々大変だった様だが、よくやってくれた。ささやかなものだが、日頃の疲れを
癒してくれたまえ」
「ありがとうございます」
「カミーユ=ビダン君、こうして直に会うのは二度目だな?尤も、最初の事は覚えてないと
思うが」
「僕をミネルバに乗せて頂き、ありがとうございます」
「そう硬くならなくていい。皆も楽にしてくれ」

 

バルコニーに設けられた会談の場。そこには細長いテーブルの上にもてなしのお茶が用意
されていた。

 

「で、何か私達に用でも?」

 

疑り深く訊ねるタリアにもデュランダルは柔らかな物腰を崩さない。

 

「そうだな……君たちは本当に良くやってくれている。先ずはその感謝の意を述べたい。
……シン=アスカと言うのは君か?」
「は、はい!」

 

名前を呼ばれたシンは少し照れたように返事をする。

 

「中でも君の活躍は凄いみたいじゃないか。これからも期待しているよ」
「はい、期待に応えられるよう、頑張ります!」

 

デュランダルに褒められたシンは、年相応の笑顔を浮かべて喜んだ。
そこで少し神妙な顔つきをしていたアスランが口を開く。

 

「デュランダル議長、宜しいでしょうか……?」
「何だい?」
「議長は、何故あんな事をされたのですか?」
「何の事を言っているのかね?」

 

急な話の展開にその場の空気が変わる。

 

「あの……ライブの事です」
「楽しんでもらえたかな?」
「そういう事ではなくて……」
「あれは前線に出て疲れ切っている兵士の慰労の為にやったことだ。
何がおかしいのかね?」
「ですが彼女は!」
「あぁ、そうだったな。うむ、君の婚約者を勝手にあのように連れてきてしまった事は済まない
と思っている。しかし、彼女はプラントの歌姫だ。ラクス=クラインと言う名前の持つ意味は大
きいし、彼女も何か役に立てるなら、と思ってやってくれている事だ。
君も婚約者として彼女の決意を汲んでやってはくれまいか?」
「……彼女は……」

 

今のアスランにはこれ以上の言葉が出てこない。
精神的に不安定な彼は、この場であのラクスが偽者である事を公表しようかどうしようかの
判断がつかないのだ。
しかし、後にこの時のアスランの判断は微妙に間違っていなかった事になる。真実を口にす
ることがいつでも正しいとは言えないのだ。

 

「デュランダル議長、僕も一つよろしいですか?」

 

カミーユが唐突に話し掛ける。

 

「ん、なんだい?」
「デュランダル議長はこの戦争をどのようにお考えでしょうか?」
「どのように……?」
「僕の世界ではアースノイドとスペースノイド……つまり、地球に住む人と宇宙に住む人との
衝突がそのまま戦争になりました。そして、僕の見たこの世界にはナチュラルとコーディネイ
ターという隔たりがある様に感じられます。この隔たりがこの戦争の根底にあるような気が
するのですが」
「フム……」

 

カミーユの説明にデュランダルは少し考える。
確かにナチュラルとコーディネイターの間の溝は深い。それはカミーユの言うような言葉で
人間を区別する上で生じた遺恨なのかもしれない。しかし、デュランダルはその遺恨を取り
払いたいと考えていた。その為の方策も、ある程度考えてある。
デュランダルが口を開く。

 

「君の言う事もある意味で真理だ。元々人と言う種族は争って生きてきた。お互いに違う物を
否定し、それを排除する事でより優良な者達が歴史を築いてきたのだ。
だが、私はもう人がそのような蛮行を繰り返す段階ではないと思っている。分かり合えないか
ら排除する、そのような考え方は最早時代遅れなのだ」
「……」
「無論、その事に気付いている人も既に居よう。前大戦で示されたとおり、コーディネイターと
ナチュラルは最終的に話し合いで戦争を終わらせたのだ。それなのに今こうして戦争が再び
起こったのは一部の心無い者達による愚行が生んだ産物であると私は認識している」

 

その席に居合わせた者は一様にデュランダルの語りを聞いている。
其々が其々の立場に立ってデュランダルの言葉を噛み締める。

 

「では、デュランダル議長はこの戦争はどの様にすれば終わるとお思いですか?」

 

皆が聞きたいであろう質問をタリアが投げかける。

 

「先程も述べたように世界は確実に変わり始めている。多くの人々はこのような愚行は望ん
ではいまい。そう……この戦争を裏で煽っている連中が居るのだ。彼等は戦争をビジネスと
しか考えておらず、人の不幸を私腹を肥やすための手段にしているのだ」
「と、言う事は……」
「その連中を止める事が出来ればこの戦争は終わらせる事が出来ると私は確信している」

 

デュランダルの言葉には重みがあった。
それは今述べた内容が素晴らしかったという意味ではなく、その信念の篭った真っ直ぐな
口調が、その場に居る全員にそう感じさせたのだ。

 

(世界の変革……この人もクワトロ大尉と同じなのか……?)

 

かつてカミーユに人類の変革こそがより良い未来を築けると語ったクワトロに似た考えを
示すデュランダルにカミーユは何となく心を許す。
それはカミーユの心の隙であったのかもしれない。
真っ直ぐ過ぎるが故に危険であるかもしれないという事を、かつて女である事に正直すぎた
レコア=ロンドを知っていながらもカミーユは忘れていた。
その事は後々になってカミーユに大きなツケとなって返ってくる事になる。

 

「さて、君たちを呼んだのは唯こうして君たちの苦労を労う為ではないのだよ。酷な言い方か
もしれないが、これからは更に過酷な任務を君たちに課す事になるだろう。
そこで、ミネルバに新たに補充人員を加えることになった。紹介しよう、ハイネ、こちらへ」

 

ハイネと呼ばれた人物がバルコニーに姿を現す。
オレンジのセミロングの髪を横で分け、その表情は親しみのある表情をしていた。
軍人然とした姿勢の中にも、どこか柔らかな印象を受ける感覚をハイネは持っていた。
彼の赤服の襟にはフェイスの称号が光っている。

 

「ハイネ=ヴェステンフルスです。今回ミネルバへの配属が決まりました。以後よろしく」

 

ややハスキーな声で自己紹介を行ったハイネはそのまま軽く一礼をする。話し方にも独特な
柔らかさを持ち合わせた人物である事が、ミネルバのパイロット達に伝わった。

 

「そういうことだ。彼のMSも後でミネルバに搬送させるから、以後のことは他の者に任せる。
…私からは以上だ」

 

デュランダルが語ったこの戦争の終わらせ方…それが正しい事であるかは誰も分からない。
ミネルバはその言葉を信じて己の使命をまっとうさせるだけであった。

 
 

デュランダルとの会談のあった翌日、気分転換のつもりで休暇を貰ったシンは外に出ていた。
海岸沿いの海が良く見える岬にバイクを止め、彼なりにリフレッシュを図っていた。

 

「ん……?」

 

シンが背伸びをして深呼吸をしていると、ふと左手に見える岬に人がいるのが目に入った。

 

「何だ、あれ……?踊っている……?」

 

何故そこに人がいて、訳も無く踊っているのかは分からない。傍から見れば唯の不思議な
光景である。しかし、シンはその様子を見ていると、不思議と心が落ち着いてくるのを感じた。
その少女の余りにも楽しそうに踊っている姿が、シンにとって戦いを忘れさせてくれる映像
のように映ったからだ。

 

金髪ショートヘアのクセッ毛は少しタリアに似ていて、服装は薄くひらひらとした軽さを感じさ
せた。その姿にシンに幼くしてこの世から消えてしまった妹の姿が被る。
ステラ=ルーシェ。ファントムペインに所属するガイアのパイロットであった。
シンとステラ、この二人の接近は偶然か、はたまた運命であったのか。敵同士の二人が出会
うべきではない邂逅をみせる。

 

「あの子……」

 

シンが呟いた瞬間だった。ステラは急にバランスを崩し、岬から海に転落してしまったのだ。
慌ててシンはステラが転落した場所に近づいて崖から下の様子を覗いてみると、ステラが
もがいているのが見えた。

 

「あ、あの子泳げないのかよ!?」

 

言うが早いか、シンはすぐさま海へ飛び込む。そしてステラの元へ泳いで行き、気を失って
沈みかけたステラを海面に引っ張り出す。

 

「おい、大丈夫か……!?」

 

目を閉じたままのステラをゆすって水を吐かせる。それでもまだ目を覚まさないステラをシンは
背負って海岸へ向かう。背中から気を失っていても震えているのが伝わってくる。
余程怖かったんだろうな、とシンは思った。

 

やがてステラを背負ったシンは無事に海岸に辿り着く。そこは周囲を岸壁に囲まれた砂浜で、
そこから上へ昇るのは不可能だった。
シンはステラを浜辺に横たわらせてからポケットの中から救難信号を発する装置を取り出し、
救助が来るのを待つことにした。

 

「とんだ事になっちまったな……」

 

ステラの寝顔を見て呟く。全く似ていないのに、何故か妹を思わせるステラが気になって仕方
なかった。

 

「う…ぅうん……」

 

ステラがうめき声を上げて意識を取り戻す。

 

「君…大丈夫……?」

 

その様子に気付いたシンが心配そうにステラに語りかける。
ステラの方はまだ意識がハッキリとしないのか、ぼんやりとした瞳でシンを見つめた。

 

「誰……?」
「あ…俺はシン=アスカ」
「シン……?」
「そう。君は?」

 

偶然会っただけなのに直ぐに名前を尋ねる自分の軟弱さに軽い嫌悪感を覚える。
しかし、何だか無性に彼女の名前を知りたかった。

 

「ステラ……」
「ステラっていうのか。ステラは親は?」

 

何を聞いてるんだろうとまたもや思う。自分はこんなに軟派な人間だったのだろうか。
とにかくステラの事を何か聞きたかった。

 

「親…何それ……?」
「え……?」

 

瞬間シンは察する。きっとステラにも両親は居ないのだろう。
何となく自分と同じ身の上の人間なんだろうと勝手に解釈した。

 

「……」
「ご、ごめん!俺は…べ、別に怪しい者じゃないんだ、君が海で溺れてたもんだから……」

 

何を焦っているんだろう、とシンは思った。別段何をしたわけでもないのに、言い訳をする自分
が幾分か情けなく思える。
しかし、ステラの沈黙が何となく責められているようで居た堪れなかった。

 

「ほ、ホント、もう少しで危ない所だったんだ。俺が助けなきゃ君は"死"んでたかもしれない
って…いや、ホントに!」
「……!」

 

シンが発した"死"と言う言葉。それがステラの情緒を激しく揺さぶる。

 

「救難信号は出したから直に迎えが来ると思うけど……ん?」

 

取り繕うように話すシンはステラの異変に気付く。
急に体を震わせ、両腕で自分の肩を抱くようにして歯で音を立てる。
瞳孔は開き、シンの顔もまともに見えていない。

 

「ぃ…嫌……!」
「…嫌……?」
「死ぬのは嫌ぁぁぁぁ!」

 

唐突に発狂したように叫び声を上げ、大粒の涙を流して泣き始める。
その様子にぎょっとしたシンは何も言う事が出来なかった。
そして、そのままステラは泣き叫びながら海の方へと歩いて行ってしまう。

 

「あああぁぁぁ!いやぁぁ!死ぬのは嫌ぁぁぁぁ!」
「はっ……!」

 

少しの間呆然としてしまったが、ステラが泳げない事を思い出すと、急いで駆け寄って後ろか
ら羽交い絞めにして押さえつける。

 

「バカッ!泳げもしないのに海に入ったら今度こそ本当に死んじゃうぞ!」

 

追い討ちをかけるシンの言葉。
ステラは連合のエクステンデッドである。
ナチュラルでありながらコーディネイターと比肩し得る力を持たせるために、薬物投与などで
人工的に強化された生体兵器とも呼べる人間である。
しかし、その力を得る代償に彼等には"ブロックワード"と言うものが存在している。
条件は個々人によって違うが、その条件が発動すると精神に異常をきたし、情緒が限りなく
不安定になってしまう。ステラにとってその条件こそ、正に"死"という言葉だった。
無論そんな事を知らないシンに分かるはずも無く、自然と口から"死"という言葉が出てきて
しまう。

 

余計に混乱するステラ。押さえつけるシンを振り解こうと暴れる。
振り回された腕がシンの頬を掠め、爪による傷が赤い三本の線を引く。

 

「く……!」

 

何とか落ち着かせようとするが、華奢な体の何処にこんな力が隠されていたのか、
コーディネイターであるシンの力を以てしても難しい。
ステラの形相も、女の子がする顔ではなかった。

 

(この子…よっぽど怖い目に遭ったんだろうな……)

 

尋常ではない暴れっぷりから、シンはそう思った。そして、そんな戦争をしている自分を認識
すると、とてつもなく申し訳ない気持ちになった。

 

「俺が!…俺が君の事を絶対に守るから!だから大丈夫だ!」

 

そんな贖罪の気持ちの中でシンが選んだ言葉は"守る"という言葉だった。
そして、それを表現する行動は少しでも安心を与える為に抱きしめてあげる事だった。

 

「俺が…俺が守るから……だから、落ち着いて……」
「……」

 

シンに急に抱きしめられたステラは不意を突かれた様に固まっている。
しかし、シンの言葉と抱きしめていてくれている事で安心を覚える気がした。
そんなシンの行為に優しさを感じ、ステラは落ち着きを取り戻す。

 

「ん……?」

 

ふと、シンが何かに気付く。手に付いた感触が、海の塩水ではない別のものを感じた。
何となくべた付いた感がする。

 

「怪我…してるじゃないか!」
「え……?」

 

ステラの二の腕から出血している。恐らく暴れた時に岩の角で擦ったのだろう。
それを見るや否や、シンは自分の服を千切って応急処置を施す。

 

「これでよし……」
「……」

 

ステラはその様子を成されるがままに呆然と見つめているだけだった。

 

その後、二人は濡れてしまった服を乾かす為に、大きな岩を挟んで背中合わせに座ってい
た。服の乾燥と多少なりとも救助隊が見つけ易いように薪を焚く。
あたりはすっかり暗くなってしまっていた。

 

「シン…ステラ守るって…ホント?」
「えっ?」

 

岩の向こうからステラの声が聞こえてきた。急に話し掛けられたシンは驚く。

 

「さっき、シンはステラ守るって言った……」
「あ、あぁ…本当さ。絶対に君を守って見せるよ」

 

何となく照れくさい。ルナマリアなんかには絶対に言えない台詞だった。
そんなシンを余所に、ステラは何やら乾きかけの服から取り出す。そして岩陰からシンの方へ
ひょっこりと顔を見せる。

 

「これ……綺麗だから拾ったの」

 

そう言ってシンに差し出したのは淡いピンクの色をした貝殻だった。

 

「シン、これ持つ…ステラとの約束……」
「えっ!?これ、何か大事そうな物だけど……」
「これがステラとの約束…シン、覚えていて」

 

ステラはシンに強引にその貝殻を渡す。

 

「本当に俺が貰っていいの?」
「うん、シンがステラを守ってくれるって言ったから」
「……わかった、大事にするよ!」

 

貝殻を受け取ったシンはそれを服の中にしまう。

 
 

それから程なくしてミネルバからの救助がやってくる。
迎えに来たのはカミーユとその他数名。

 

「元気があるな、お前は。こんな所で女の子とデートか?」

 

シンに不満のあるカミーユはワザと皮肉に聞こえるように話しかける。

 

「別に遊んでたわけじゃない!この子が溺れているのを見かけたから助けただけだ!」
「ふーん」

 

妙にむきになるシンに違和感を感じながらもカミーユは何となく返事を返す。

 

「で、この子の身元は?」
「知るわけ無いだろ」

 

その時、道路の方から一台の車がやって来た。その車にはスティングとアウル、ステラの
同僚が乗っていた。

 

「どうもすみません、ザフトの方々。その子は僕らの知り合いでしてね?」
「ちょっと目を離した隙にはぐれてしまったんですよ」

 

ステラを発見したスティングとアウルは身分を隠してカミーユ達に話しかける。

 

「スティング、アウル!」

 

二人を確認したステラが駆け寄る。
そのステラの嬉しそうな様子を見てシンは少し複雑な気持ちになる。

 

「捜したぜステラ。ネオが心配してるぞ」
「全く、お前はすぐに一人で居なくなるなよな!迷惑すんのはこっちなんだぜ!」
「ま、見つかったし良しとするか。帰るぞ」

 

車へ向かう二人をステラが引き止める。

 

「んだよ?」
「シンも……」
「あ?」
「シンも一緒に……シン、ステラ守るって約束してくれた」
「えっ?」

 

余り聞くつもりは無かったが、ステラの言葉がシンの耳に入ってくる。
そしてステラは再びシンの元へ歩み寄る。

 

「シンもステラと一緒に行く」
「えっ……いや、あの…」
「シン、行けない?」
「あ、あぁ…俺は軍人だからステラとは行けないんだ…」
「シン、ステラに嘘ついた……?ステラ守るって言ったのに……」

 

ステラの表情が曇る。
その目には今にも零れてしまいそうなほどの涙が溜まっていた。

 

「いいいいや、嘘じゃない、嘘じゃないんだ!君を守るって言ったのは本当だよ!俺が絶対に
君の住んでいる所に危険が行かない様にするから!だから…その…君が安心して暮らして
行ける様にするから!」
「でも……」
「おい、ステラもう行くぞ!早くしねーと置いてくかんな!」

 

渋るステラを見かねてアウルが囃し立てる。
その言葉に流石にステラも車へ向かう。そして車に乗り込み、そのまま車は走り出す。

 

「ステラー!約束は絶対に守るからなー!」

 

走り行く車の背にシンは力一杯の声でステラに告げる。微かに聞こえたシンの声に内心複雑
ながらも、今はシンの言葉を信じようとステラは思った。
後部座席で塞ぎ込むステラの様子を見て、スティングとアウルは小声で話をする。

 

「こりゃあネオに報告だな」
「あぁ、大分余計なもんが入り混じったみたいだからな」

 

何やら不穏な雰囲気の会話をしつつスティングは車を走らせて行った。

 
 

その頃、残ったカミーユ達はシンのバイクを回収してトラックに乗り込んでいた。
カミーユは先程のシンとステラのやり取りを見ていてデジャヴュのような感覚を味わっていた。

 

「シン、彼女と何があった?」

 

いかにも何かあったんだろうと言いたげなカミーユの言葉に、シンは反発感を覚える。

 

「あんたに言う必要はないだろ」

 

そっけなく返されたシンの言葉にカミーユは益々疑念を持つ。

 

「お前、あの子に引っ張られてるぞ」
「そんなわけあるかよ!」

 

そのままの意味で捉えたシンは思春期の少年らしく咄嗟に否定をした。
実際シンはステラに惹かれていたのかもしれない。不安定なステラは、シンにとって死んでし
まった妹の思い出を連想させていた。
彼女は自分が守ってあげなければならない、今度こそ戦争と言う魔の手から自分が守るんだ
…シンにとってステラの存在は運命とでも言えるような存在になっていたのかもしれない。
そんな予感がしたからこそ、シンはその事を表に出さないように何でもないようなふりをした。

 

カミーユの思惑は的を射ていた。
かつて自らが体験したフォウやロザミィとの出会いと別れ。それを知っているカミーユにとって
シンとステラの出会いは辛かった。
先程のステラの不安定さからカミーユは彼女が連合のパイロットであるという事は分かってい
た。ファントムペインの奇襲を受けたとき、カミーユはステラと交戦し、その時感じたステラの
波動を覚えていたからだ。
その事をシンに告げることが果たしてどの様な結果に結びつくか判断しかねていた。
出来ればシンを同じ運命から逃がしてやりたい。自分の体験からシンをサポートする事が
自分に出来る事ではないだろうか、とカミーユは考える。
しかし、今はシンをいたずらに動揺させるわけにはいかなかった。

 

「…またあの子と出会う事があるかもな……」
「……?」

 

ぽつりと呟いたカミーユの言葉に、シンは不思議に思った。
そのときのカミーユの表情の意味をシンは後に知る事となる……