HTML convert time to 0.006 sec.


Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第11話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:23:08

新たに積まれるオレンジカラーの一つ目……グフ・イグナイテッドはハイネのMSである。
整備の仕方が、同じ一つ目のザクとは若干異なるようで整備士連中にそのマニュアルが
配られる。

 

「よーし、全員に行き渡ったな!各自直ぐに中身を確認しておけよ!」

 

マッドは配られたデータチップを手前に掲げ、他の整備士達に言い聞かせた。

 

「うへぇ、ただでさえ厄介なMSがあるのに又増えるのかよ……」
「ホントだよな、こりゃ時間喰うぞ?」
「給料あがんねーかなぁ……」

 

愚痴を零しているのはヨウランとヴィーノだ。インパルスやセイバーの整備だけでも大変
だが、更に厄介なのはカミーユのΖガンダムだった。
同じ人型とはいえ、変形機構を有している上に、装甲と基本フレームが独立したムーバブル
フレーム機構である。ムーバブルフレームは、単にMSの可動域を増やす為のモノではなく、
整備効率の向上をも目的としていた。
最初はカミーユの説明と実演も兼ねた共同作業だったが、最近は一通りマスターしたので
彼らのみで整備する事になっている。
しかし、いくら手順を覚えたと言っても如何せん勝手が違うので整備には時間が掛かる。
そこへ追い討ちと言わんばかりに新型機の搬入である。彼らの落胆は必然的であった。

 

そんな風にして整備士達がショックを受けていた頃、当のハイネはラウンジでパイロット
同士のレクリエーションに興じていた。

 

「お前、カミーユ=ビダン?」
「そ、そうですけど……」

 

ハイネがカミーユの名を呼ぶ。

 

「シン=アスカ、ルナマリア=ホーク、んでレイ=ザ=バレル?」

 

順に指差し、名前を呼んでいく。それに応えて三人も頷く。

 

「そして、アスラン=ザラ……か」
「はぁ……」

 

一同を見回してハイネは満足そうに深く頷く。

 

「あの、用事と言うのは俺達の名前の確認だけでしょうか……?」
「何言ってんの、お前?せっかくこれから共に戦って行こうって事になったんだからさ、
仲良くしておきたいじゃない?」
「……」
アスランと全く印象の異なるハイネの言葉にシンの口が開きっぱなしになる。
自分の想像していた軍人像とは余りにもかけ離れていたからだ。

 

「ははっ!何か間抜けな顔してるぜ、シン!」

 

言われて気付いたシンは慌てて顔を引き締める。

 

「す、すみません隊長!」
「あー、その"隊長"って言うの、無しな。俺の事は名前で呼べよ」
「え、でも……」
「俺、そういう堅苦しいの駄目なんだよね。話しかける時ももっと気楽にしてくれよ」

 

冗談ぽくはにかんだハイネであったが、アスランが一歩前へ進み出る。

 

「ですが、それでは軍としての示しがつきません」
「流石は英雄、真面目君だね」
「茶化さないで下さい!」
「怒るなって」

 

怒るアスランにハイネは顔をしかめて低い声で唸る。そして何か思いついたのか、急に顔が
明るくなる。

 

「よし、こうしよう。これはフェイス命令だ。フェイス命令だからお前達にはちゃんと従って
もらうぞ」

 

これでどうだ、と言わんばかりにハイネは一同に提案を投げかける。
しかし、それを聞いたらアスランも黙ってはいない。

 

「私もフェイスです。その命令は聞けません」
「あのな、アスラン。俺はお前の上司な訳、わかる?じょーうーし!
上司の言うことはきっちり聞いてもらうよー?」
「ミネルバでは私の方が先輩です」
「お、お前な……」
「別にいいじゃないですか、その位。俺は構いませんよ。
あんた一人だけ意地張ってればいいんじゃないですか?」
「!?」

 

ハイネが困った表情を見せたとき、シンの言葉がやり取りを遮った。
それを聞いたアスランの表情に険しさが増す。

 

「私も構いません。ハイネがその方がやり易いと言うのであれば、私はそうします」
「僕もいいですよ」
「おっ?いいね、君たち!そうしてくれると俺も気が楽になるんだよな。で、彼女は?」
レイとカミーユが続けて同意したのを聞いて、今まで発言を控えていたルナマリアにハイネが
尋ねる。

 

「あ、あの……私は……」

 

ルナマリアは目でアスランを気にしつつ、曖昧な返事をする。それに気付いているのかいない
のか、アスランは目を余所に背けている。

 

「ルナの好きにすればいいだろ?その人の事なんか気にするなよ」
「シ、シン……!」

 

シンの声が聞こえたアスランは目を見開いてシンを睨み付ける。しかし、すぐに顔を伏せ、
肩を震わせたかと思うと早足にその場を出て行ってしまった。

 

「ア、アスランさん……」

 

それを見たルナマリアも後を追ってラウンジを出る。
その様子にハイネはポカンとした表情でシンに訊ねた。

 

「……何?お前とアスラン仲悪いの?」
「別に……」

 

そう一言だけ呟くとシンもラウンジを出て行ってしまった。

 

「では、私も失礼します」

 

続けてレイも一言口にして出て行く。

 

「……なぁ、何か大変じゃね?」
「色々あるみたいですよ?僕は知りませんけどね」
「お前も何かドライな奴だな……」
「こういう事、余り深く関わると碌な目に遭わないんです。特に女がらみは……」
「経験ある様な言い方じゃないか?」
「ありますよ。あるから言えるんです」
「ふーん……にしても、よくも今までやってこれたもんだ」

 

呆れたようにハイネは誰に言うわけでもなくそう言い捨てた。
同じ年齢同士のパイロットが配属されていると聞いていたハイネは、もっと彼らの関係がいい
物だと思い込んでいた。そこに年齢では少し上の自分が配属になるという事で、早いうちに
打ち解けようと彼等を呼んだのだ。
しかし、蓋を開けてみれば自分が思っていた以上にややこしい状況に、怒れるよりも呆れて
しまったのだ。
戦闘に於いてチームワークは重要である。にも拘らずこの有様に、ハイネにとってこれから
先の事を考えると頭の痛い問題であった。

 

「きっと大変ですよ、この先」
「?」

 

今しがた自分が考えていた事が聞こえていたかのようなカミーユの言葉に、ハイネはハッと
する。

 

「どうしたんです?」

 

カミーユには当然ハイネの考えていた事など分かるはずもなかったが、カミーユの声には
偶然では片付けられない何かがある事をハイネは直感した。

 

「い……いや、何でもない……。
…ところで、カミーユは別世界からやって来たんだろ?お前の世界の話を聞かせてくれよ」
「いいですけど……この世界と比べれば特に珍しい事も無いですよ。
僕の世界じゃ、遺伝子工学なんかは一般的ではないし……」
「いいから聞かせろよ。違いを捜すのも楽しみの一つだろ?まずはなぁ……」

 

取り残されたような形になった二人のやり取りがラウンジに響く。
カミーユの世界にも興味はあるが、他の連中がラウンジから去っていってしまった今、
カミーユとだけでも親睦を深めておこうとハイネは思っていた。

 
 

同じ日の夕刻、アスランは海が見える甲板で一人物思いにふけていた。やんわりと撫でる
様に吹く潮風が心地よかった。
ミネルバへ配属されて来てからというもの、どうも自分の調子がおかしい事をアスランは
痛感していた。その最たる例が前回の独断先行である。
作戦の立案が自分であるのにも関わらず、それを台無しにしたのが他ならぬ自分自身で
あった。そのせいで艦を危険に晒した事をアスランは深く後悔していた。
何故こんな事になってしまったのか、考えるアスランの頭の中にシンの顔が浮かび上がる。
あの生意気な部下のせいで苛ついているのか、そもそもシンが自分に突っかかってくるの
がおかしいのではないか……考えを巡らせている内に不調の原因を他人のせいにしよう
としている自分に気付く。
そんな自分に嫌気がさしたのか、アスランはそんな自らの小ささに対し自嘲気味に鼻で
笑った。
アスランは手すりに両腕を置き、前のめりに体を預け、そのまま目を閉じる。
吹き付ける潮風がアスランの髪を揺らし頬を撫でた。

 

《コーディネイターにとって、パトリック=ザラが取った道が唯一正しい物であった事が、
何故分からん!》

 

無意識から呼び覚まされたその言葉にアスランは目を開く。
自分は父に加担はしなかったが、身内の暴走に囚われていたあのテロリストの言葉は
アスランにとって重い物であった。
そして、その言葉こそがアスランに再びザフトの制服を着ようと思わせたきっかけでも
あった。

 

「よう、こんな所に居たのか」

 

甲板の入り口の方からハイネの声がした。

 

「……」

 

それを沈黙を以って返事にするアスラン。ハイネはそれでもお構いなしにアスランの方へ
寄ってくる。

 

「さっきは悪かったな、何か無理やり従わせようとしたみたいになっちまって」
「いえ、こちらこそ……」

 

何となくアスランは気まずい空気になっていた。
ハイネは気にせずに続ける。

 

「でもな、俺に対してだけは気楽にして欲しいわけよ。別に艦長の前でもそうしろって言って
るわけじゃないし、出来れば俺はそんな付き合いをお前達としたいんだよ。
…ま、強要するつもりは無いし、お前が凄く真面目な奴だって事も分かったからな、アスラン
の好きにすればいい」
「……」

 

ハイネの気遣いがアスランには痛かった。これからはハイネが隊長になるとは言え、
今まで指揮してきた自分の情けなさが辛かった。

 

「……アスラン、お前、戦う事を迷ってるだろ?」

 

投げかけられたハイネの言葉にアスランは、ハッとしてハイネの顔を見る。

 

「ビンゴ……か」
「あ……」

 

思わず見せた自分の表情にアスランは恥ずかしくなる。

 

「お前が戦後、オーブに居たのは知ってるよ。確かにあの国の理想は高いよな、お前が悩ん
でいるのも頷ける話だ。けど、お前が今その身に纏っているのはザフトの制服だ。
……それもエリートの…な。俺達が戦わなくちゃ、プラントは連合に支配されちまう。
何の為に自分がザフトに居るのか考えろよ」

 

ハイネの言葉はアスランの耳に痛かった。
ハイネは続ける。

 

「そりゃあさ、戦わなくて済むのなら俺だってそうしたい。けど、相手はテロリストのユニウス
落としを勝手にプラントのせいにして、問答無用で核を撃ってきたんだぜ?そんなのが仕掛
けてきてるんだからさ、こっちだって戦わなきゃならんだろ。
……戦争なんだからって事でもっと割り切れよ、でなきゃ、いつか死ぬぜ?」

 

"割り切れ"と言うハイネの言葉にアスランは少し考える。自分は今までどんな覚悟で戦って
きたのだろうか……その答えは分かりきっている事であった。
それは、戦争からプラントを、オーブを、カガリを守ることに他ならない事。
その為には自分が身を削って戦わなければならない。アスランにとってごく自然で当たり前
の事なのだ。人間関係で悩んでいたアスランはその事を忘れていた。
しかし、その事を思い出す……と言うより再確認したアスランの目に先程まで無かった決意
の光が灯る。

 

「その目だぜ、アスラン。決意が鈍れば動きも悪くなる。だが、もう大丈夫そうだな」
「あ、ありがとうございます、隊長。わざわざ俺なんかの為に……」
「ノンノン?」

 

他人行儀なアスランの言動にハイネは違う違う、と言った感じでアスランをたしなめる。
そしておもむろにアスランの顔面を殴りつけた。

 

「な、何を!?」

 

吹っ飛ばされて驚いたアスランは信じられない、と言った顔でハイネを凝視する。

 

「知ってる、これ?修正って言うんだぜ。言う事を聞かなかったり、気合が足りなかったりす
る奴を殴って引き締めるんだってさ」
「…カミーユから聞いたんですか……」
「お、アスランも知ってたのか」

 

自分を殴っておいても何にも悪びれる様子のないハイネに、カミーユめ、余計な事を吹き込
んでくれたな、とアスランはカミーユを恨んだ。

 

「でも、さっきは俺の好きにしていいって…」
「ん〜…あれは撤回だ。やっぱ俺には堅苦しい空気は耐えられん」

 

無邪気に笑うハイネにアスランは何故か心を許せる気持ちになった。ハイネの柔らかな雰囲
気がアスランをなだめている様な気がした。

 

「ほれ、もう一度」
「あ……ありがとう、ハイネ……」
「そうそう…どういたしまして、だな!」

 

アスランの態度に満足して微笑んだハイネは拳を突き出す。少し痛む頬を片手で押さえなが
ら、捉えようのないハイネの性格に口元を緩めるアスランもそれに拳を軽くぶつけた。
日も大分沈んできていて、海面に反射する鮮やかな夕焼けの光が目に優しかった……