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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第21話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:37:53

第二十一話「命、懸けて」

「ステラ、止めてくれ!君はこんな事しちゃいけないんだ!」
 
デストロイを相手にしているシンとカミーユ。シンは必死の思いでステラに呼び掛けていた。
 
「くそっ…どうすればいい……!?」
《カミーユ……》
「フォウ……?」
 
一方のカミーユもデストロイの火線に手を拱いている状態であった。そんなカミーユの頭の中にフォウの声が響いた。
 
「フォウ…僕はどうしたらいい……これではまた!」
《彼が動くわ……》 
「彼…シン!?」
 
その時、インパルスがデストロイの正面に位置取り、シンはコックピットハッチを開ける。
顔をハッキリと見せるためだろうか、ヘルメットを脱いでコックピットから放り投げた。
 
「見えるかステラ!シンだ!」
 
「なっ…何をしてんだシン!?無茶だ、そんなの!」
 
シンの仰天の行動にカミーユは慌てる。もし一発でもコックピット周辺にダメージを受けたら、シンは即死ものである。
 
「思い出すんだ、シン=アスカを!」
 
インパルスはそのままデストロイに近づいて行く。インパルスがしつこく近づいてくる事を煩わしく感じたステラは今度こそ撃ち落してやろうと照準を合わせようとする。
 
「うるさい奴!落ち…きゃっ!」
 
ステラがデストロイビーム発射ボタンを押そうとした瞬間、Ζガンダムから放たれたグレネードランチャーの衝撃がステラを襲う。
 
「こんのぉ…何でいつもステラの事いじめるの!?」
 
仕掛けてくる様子のないインパルスを狙いから外し、ステラはΖガンダムにターゲットを移す。
 
「何で邪魔するんだ、カミーユ!」
『お前が死んだら終わりだ!ステラを止める奴が居なくなっちゃうんだぞ!』
「俺は死なない!それが運命だろっ!」
『分かるもんか、そんな事決まっちゃいない!けど……!』

カミーユはΖガンダムをウェイブライダーに変形させて進路をデストロイに向ける。
 
「俺が突破口を作るからお前はその隙にステラを助け出せ!」
《あたしがカミーユを死なせないから!》
 
フォウの魂が淡い光となってΖガンダムを包む。
小細工は無し、カミーユは一直線にデストロイへウェイブライダーを加速させる。
ばら撒かれた迎撃のミサイルが所々に被弾してもカミーユはウェイブライダーを止めなかった。少しは貰って見せなければ直ぐに飽きられてしまうからだ。
シンがデストロイに接触しない限り囮は成立しない。
 
「まだだろっ!」
《Ζガンダムはこんな物じゃ落ちないんだから!》
 
フォウとは違う女性の声が聞こえてくる。フォウと同様にカミーユの中に息づくロザミィも同じ想いだったのだろう。
 
「ロザミィも!」
 
「死ぬつもりか、カミーユっ!?」
《お兄ちゃんは死なないわ!》 
「誰だ!?」
 
シンの頭にもロザミィが語りかける。未だ尚、肥大化を続けるカミーユのニュータイプ能力が引き起こす超常現象、それがシンにも作用する。
一瞬気を取られたが、すぐに気を取り直してシンはデストロイの方を見た。
ステラがカミーユに気を取られている間、インパルスに向けた攻撃は止んでいる。
しかも、デストロイから放たれる砲撃の何発かは不思議なフィールドに弾かれる様にΖガンダムをすり抜けていった。
しかし、それでも防ぎきれなかった砲撃は少しずつΖガンダムを破壊していく。早くしなければステラを救い出すどころかカミーユさえ危ない。
シンは歯を食いしばる。カミーユが作り出した好機、これを逃すわけには行かなかった。
 
「くっ…無駄にはしないからな!」
《そう…君はそれでいい……あの子はあなたに助けられたがっている》 
「分かってる!」
 
最早チャンスはこれっきり、シンにはそれが分かっていた。謎の声が頭に響こうとも、既にそれはシンにとって問題ではなかった。
ステラを救い出す事、それが今のシンにとって唯一無二の目的だった。
フォウやロザミィの声を気にせずにシンは最大加速でデストロイに取り付く。
シンが取り付いた所…そこは偶然にもデストロイのコックピットの側であった。

「後は…お前次第だぞ、シン……」
 
それを確認したカミーユはボロボロになった機体を反転させてデストロイから離脱する。最早、自力で飛行できるのがやっとの状態だった。
 
「何……?」
 
インパルスが取り付いた衝撃に気付いたステラはモニターで何が起こったのか確認する。
すると、そこにはモニターに大きなインパルスの画像が映し出された。
余計な物が取り付いたと思ったステラは自らダメージを受ける事を覚悟してインパルスを排除しようとする。
しかし、映し出された画面にふと目をとめる。何処かで見た事がある様な人間が映っていた。
 
「……?」
『ステラ!ハッチを開けてくれ、話したいんだ!』
 
接触回線からこれまた聞き覚えのあるような声が聞こえてくる。ステラの記憶の奥底に引っかかる物があった。
 
「あんた…誰……?何でステラの事知ってるの……?」
『ステラ!?シンだよ、君を守るって言ったじゃないか!?』
「シン……ステラ守る……?」
 
閉ざされたステラの記憶の扉が少しずつ開かれていく。それは暗闇に包まれていたステラの記憶を眩い光で照らす。
 
 
たった一つ思い出せた海岸の記憶……シンとの思い出。
あの日、溺れていた自分をシンが救ってくれた。
それはステラが一番怖がっている死の恐怖から救ってくれたという事。
その後シンはステラと約束してくれた。
ステラを守るという事は、ステラを死の恐怖から遠ざけてくれるという事。
 
シンはステラにとって無くてはならない人……?
 
 
「シン…?」
 
「ステラ!」
 
ステラはデストロイのハッチを開いて直にシンの姿を確認する。
シンはインパルスのコックピットから出て、やっと姿を確認できたステラの下へ急ぐ。

「ステラ、一緒に行こう!」
 
シンはスーツの手袋を外してコックピットの入り口でステラに手を差し伸べる。
しかし、ステラは戸惑っていた。
 
「駄目…ステラ行けない……ネオが居るもの……」
「そんなの……」
 
シンはハッとしてネオのウインダムがいないか後ろを振り返る。
しかし、其処にはのしかかる様な重い雲とつらつらと舞い落ちる雪が見えるだけだった。
ステラにとってネオがどの様な存在かは知らないが、その大きさだけは分かっていた。
だが、カミーユが作ってくれたこの機会を逃さない為にも、シンはここで退くわけにはいかなかった。
 
「ネオはそんなに大事?」
「うん…ネオはステラにとても優しくしてくれるし大事にしてくれるの……」
 
ステラは俯き、申し訳なさそうにシンに告げる。しかし、シンはそんなステラの言葉に首を横に振り、優しく微笑んで語り掛ける。
 
「違うよステラ、ネオは優しくなんか無い。本当にステラの事を大事にしてくれているのなら、
ステラをこんなのに乗せて戦わせるものか」
「そうなの……?」
「そうだよ」
 
ステラにとってシンの言葉は心地よかった。スティングやネオのものとも違う、ステラを一番理解してくれる人…ステラにはそう思えた。
ステラはゆっくりとシンの手に震える手を伸ばす……

(どうしたんだ…インパルスとあいつは?さっきから微動だにしない……)
 
ムウをアークエンジェルに任せ、デストロイの下へ戻ってきていたキラは先程からピタリと動きを止めた二機を見て不思議に思っていた。
 
(でも、今なら……)
 
この状況を好機と踏んだキラはフリーダムにビームサーベルを握らせる。一気にケリを付けるために勝負を仕掛けようとしていた。
 
「再び暴れだしてからでは遅いんだ……仕方が無いんだ……!」
 
自らに言い訳するように独り言を呟き、スロットルのレバーを固く握り締めた。
 
「っ!?」
 
しかし、キラが加速を掛けようとしたその瞬間、背後からの大きな衝撃が彼を襲う。
 
「な、何だ!?後ろに何か居る!?」
 
取り付いたのは最後の力を振り絞ったΖガンダムだった。
 
『待ってくれ!もう少しだけ時間を…!』
「あなた…そんな損傷で無茶すると……!」
《カミーユの言う事を聞けっ!》
「女性の声…!?」
 
カミーユが聞かせるフォウの声にキラは得体の知れない恐怖を覚える。
しかし、そんな事を気にしてられないキラはΖガンダムを振りほどこうとフリーダムをよじらせた。
 
「クッ……!ここで放してたまるかよ……!」
 
それでも激しく抵抗するフリーダムに対して、カミーユがそれを許さない。
 
『あと少しなんだ…あと少しで……』
「待ってたらまた破壊が始まるでしょう!」
《そんなこと無い!お兄ちゃん達に任せればいいのよ!》
「さっきから何なんだ!?」

二人の女性の声が聞こえた。
その声がやけに女性的で、それがキラを余計に苛立たせる。
二年前、キラに初めて女性を教えてくれたフレイが何かを言いたそうに目の前から消えていった場面がフラッシュバックする。
そのフレイを思い出させる謎の声がキラを責めているようで、罪の意識と共にキラに苦しみを与えている様に感じていた。
その感じ方がキラを意固地にさせる。
 
「時間がないんだ!」
 
カミーユのΖガンダムは四肢こそ残っているものの、フライング・アーマーは片方外れて装甲も所々に穴が開いていた。生き残っているカメラもごく僅かであった。
それでも執念を見せるΖガンダムに対し、キラは強攻策に出る。ビームライフルを空いている左手に持たせ、思いっきり後ろに回してΖガンダムの左腕を撃ち壊した。
 
「なっ……!」
「もう…これ以上待てないんだ……」
 
《何故破滅に向かおうとするの!?》
《どうしてお兄ちゃんの言う事を聞かないの!?》
 
しがみ付いていた左腕をもぎ取られ、右肘で腹を殴られたΖガンダムはフリーダムから剥がされる。
 
(フォウ……ロザミィ……また、繰り返されるのか……?)
 
フリーダムから振り落とされたΖガンダムはそのまま地面に叩きつけられ、カミーユの意識はそこで闇に閉ざされる……
 
 
「カミーユ……?」
 
ステラとシンが手を繋ごうとしたその瞬間、シンはカミーユの声が聞こえたような気がした。
 
「あっ!?」
 
同時にステラがシンの背後から猛スピードで迫るフリーダムに気付く。
 
「ダメェェェェっ!」
《もう私達のような存在は十分だ!》
《あっち行っちゃえぇ!》
 
ステラの意思に同調するようにカミーユという器を越え始めたフォウとロザミィも叫ぶ。
ステラにはフリーダムが自分とシンの命を刈り取る死神のように見えた。その余りにもの禍々しさにステラは絶叫を上げ、デストロイのビームの発射ボタンを押す為に慌ててコックピットに戻ろうとする。
フリーダムの刃がすぐ其処まで迫っていた。

しかし、フリーダムのビームサーベルがデストロイに届く事は無かった。
 
「お前のやりそうな事なんか、お見通しなんだよっ!」
 
ステラがフリーダムに気付くと同時に、フォウとロザミィの声が微かに聞こえたシンは素早くインパルスに戻り、その身をデストロイの盾にしていた。
インパルスはシールドと一緒に左腕をもぎ取られたが、頭から突っ込んできたフリーダムに胸部のチェーンガンを叩き込む。
 
「はあああぁぁあぁぁぁあぁ!」
 
無限のフェイズシフトを持つフリーダムの装甲を傷つける事は出来なかったが、シンの執念の篭った連射攻撃はフリーダムのメインカメラを破壊する。
 
「モ、モニターが!?」
 
コックピットの中で正面のモニターが音を立てて映らなくなる。
 
《不幸を呼ぶ奴、帰れ!》
「くっ……!」
 
キラは仕方なしにフリーダムを離脱させる。
そして、そのままアークエンジェルに戻って行った……
 
 
フリーダムの撤退を確認したシンは再びデストロイに向き直り、コックピットの入り口までステラを迎えに来た。
そこでは、座席に座ってボタンに手を添えたままステラは瞬き一つせずに固まっていた。
 
「ステラ、今度こそ一緒に行こう!」
「……」
「ステラ……?」
 
微動だにしないステラをシンは心配したが、ステラの目には涙が溜まっていた。
シンは優しく微笑んでステラに告げる。
 
「言ったろ?俺がステラの事守るって。……だからステラはもう怯える必要は無いんだよ」
 
瞬間、ステラの目から涙が溢れ出す。
シンこそ本当に自分を守ってくれる人、悪魔から救ってくれる人、ステラに本当の安らぎをもたらしてくれる人であると、その時初めて理解した。

降り続いていた雪はいつの間にか止み、雲の合間から光が漏れてくる。
手を伸ばすシンの背後からデストロイのコックピットに光が差し込み、逆光になったシンの表情がうまく見えない。
しかし、ステラにはシンが笑って待っていてくれる事が分かっていた。
それがシンの、優しさを自分にもたらしてくれる安らぎの人である事を理解していたからだ。
 
ステラは今度は手袋を外し、再びゆっくりと手を差し伸べる。
自然と先程までの震えは止まっていた。
理由はよく分からないが、その手を取ってしまったらもう二度とネオの下には戻れないと分かっていた。
しかし、不安は無かった。それが分かっていようとも、シンの下へ行くのを拒む理由が無い。
更に言えば、ステラはネオよりシンの方が心地よいという選択をしたのだ。
 
シンとステラの手が触れ、ゆっくりとお互いを掴む。
その瞬間、ステラは初めてシンの生の温もりを知った。それはステラの思っていた通りの感触で、記憶の闇が全て振り払われるかのようであった。
 
「シン……」
「ステラ……」
 
ポツリとお互いの名前を呼び、ステラはデストロイのコックピットから出る。それが今までのステラ=ルーシェとのお別れの瞬間だった。
 
二人はインパルスのコックピットへ移るが、一人用の機体に二人は狭すぎた。
 
「ステラ、二人じゃ狭いから、ミネルバに戻るまではこれで我慢してくれよ?」
「シン?」
 
キョトンとするステラを、シンが抱っこするようにインパルスに乗り込む。何とか乗り込む事が出来たものの、スペースが全く無い状態で二人は密着する形になる。
 
「ステラ、苦しくないか?」
「大丈夫…」
 
シンはハッチを閉め、ミネルバへインパルスを向かわせる。
正直、ステラは若干の息苦しさを感じていたが、シンと密着していられる安心の実感が息苦しさを上回っていた。
シンと一緒に居れる安心感と疲れからか、ミネルバへ戻るほんの数分の間にもステラは久しぶりに感じる深い眠りを味わっていた……