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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第26話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:38:55

第二十六話「吹き荒れる衝撃」

シンと対するキラはしつこく仕掛けてくるインパルスに対して徐々に攻撃の手数を増やしていっていた。
 
「インパルス…動きが良くなってきている!?」
 
シンはビームライフルを左手に持たせ、右手のビームサーベルで仕留めようとしている。
ビームライフルは近付く為の牽制用である。ただ突っ込むだけでは中々接近を許してもらえない事が分かったからだ。
フリーダムの攻撃をシールドで防ぎながら先程よりも効率良く接近していく。
 
「アイツの攻撃に慣れてきた!俺は"ヤキンのフリーダム"と互角に戦える!」
 
今まで隠れていたシンの才能が、キラを相手にする事で急速に開花していた。
元々完成されていたキラとは違い、テンションによってその力の発揮が左右されるシンは、かつて無い興奮に操縦の腕もどんどん鋭さを増していっていた。
自信漲るシンはついに自分の力でフリーダムに接近する事に成功する。
 
『へっ!この勝負、俺が貰ったな!』
 
インパルスのビームサーベルの刃をシールドで受け止め、接触回線からシンの声が聞こえてくる。
 
「調子に乗ってぇ!そう簡単に行くものか!」
 
手加減していたわけではないが、キラはいよいよ本気になる。キラの思惟が弾け、瞳から光が失われる。目の前のインパルスだけに集中しだした証拠である。
 
フリーダムはバラエーナでインパルスの上半身に狙いを定める。それに感づいたインパルスは慌てて前かがみになってビームをやり過ごそうとする。
しかしそれはキラのフェイクで、前かがみになったインパルスの腹を膝で蹴り上げる。
 
「なっ!?てめぇ!」
 
虚を突かれたシンは急いで姿勢をコントロールするが、直後、フリーダムがビームサーベルを構えて眼前に現れたのだ。
 
「君とずっと戦っているわけにはいかない、僕も負けるわけには行かないんだ……! だから、これまでにさせてもらう!」
 
フリーダムが二本のビームサーベルを平行に構えてインパルスの肩口にかけて同時に振り下ろす。

「何勝手に終わらせようとしてんだ、あんたはあぁぁぁぁ!」
 
絶体絶命の状況に、シンも思惟が弾ける。キラと同じく瞳から光が消え、その眼差しは振り下ろされる二本の刃に集中していた。
完全に決まるかと思われたフリーダムの一撃は、インパルスの限界を超えた動きでシールドとビームサーベルによって防がれた。
 
「何それ!?そんなのアリなの!?」
 
自信たっぷりに仕掛けたキラはその事実に落胆する。
アークエンジェルを逃がす為の時間稼ぎのつもりであったが、時間が掛かりすぎていた。
ミネルバが想像以上に健闘している結果でもあった。
 
「腕が動かせない!?無理したからか!?」
 
無茶な動きを強いられたインパルスの肩関節は悲鳴を上げ、駆動系がショートしていた。
それと同時にキラはインパルスに対してビームサーベルに更に負荷を掛ける。
 
「こ…このままじゃ……!」
 
シンの危惧が現実になる。インパルスの両腕は、その負荷に耐え切れずに根元からぽっきりともげ落ちてしまったのである。
 
「し…しまった!」
『これで終わりだ!』
 
続けてフリーダムはビームサーベルを左右から交差させるようにインパルスの両足を切り落としに掛かる。
 
「くぉっ!根性見せろ、インパルス!」
 
しかしシンはインパルスの脚部を折りたたませてバーニアを蒸かし、それすらもキラの想像を凌駕する動きでかわしてみせる。
 
『何!?』
「デッキ、上出せ!」
 
通信でシンはミネルバに要請を出した。緊急を要する為、指示も適当になってしまう。
そのままシンはミネルバへと進路を取る。
 
「まだスペアがあるの!?…でも、これ以上は!」
 
しかし、それに追撃を掛ける形でキラが猛スピードで追いすがる。
 
「何だアイツ!?今度は追い掛けて来やがった!?」

早く換装しようとミネルバ付近まで何とかやってきたシンであったが、すぐ其処に迫るフリーダムをいなしながらの換装は不都合であった。腕を失っている分AMBACが不十分な為、満足いく回避運動が出来ない。
 
「ここで止めを!」
 
まともに動けないインパルスにキラが襲い掛かる。
フリーダムの凶刃がインパルスに襲い掛かろうとしたその瞬間……
 
「うわっ!?」
 
ミネルバの方向から機関銃がフリーダムに放たれ、命中した。
 
『あ、当っちまった……シ、シン!今だ、早くしろぉ!』
「チェン!」
 
耳に聞こえてきたのは火器管制のチェンの声。フリーダムに当ててしまった事に驚いているのか、少し声が震えていた。
 
『ミネルバも…黙らせなきゃアークエンジェルが行けない……』
「!?」
 
キラの声がシンの耳に届いた。インパルスはまだ換装の途中である。
 
「な、何をするつもりだ、フリーダム!?」
『先にミネルバを……』
 
それだけは許せなかった。ステラや大切な仲間のいるミネルバに仕掛けようとするフリーダムが許せなかった。
 
「止めろ!あんたは、俺だけを相手にしていればいいだろ!皆には手を出すな!」
『それは君の都合だろ!』
 
フリーダムがミネルバにビームライフルを向ける。
 
「間に合わな……」
 
インパルスはやっと換装を終えてシールドを構え、ビームライフルを引き抜いた所だった。
しかし、位置関係はフリーダムの方がミネルバに近い位置に存在し、インパルスはそこからフリーダムを狙おうにも、下手すれば外したビームがミネルバに誤射してしまうだろう。
絶望がシンを支配する。

「……あれは?」
 
瞬間、ふと気付くとモニターの端っこに誤って射出されたシールドが見えた。MSデッキに居る
ステラが、必死の余り間違ってシールドも出してしまったのだ。
それを見たとき、シンの頭の中で一瞬にして対処法が見つかる。
 
(このプログラムは無い!マニュアルでやるしか……)
 
迷っている時間など無かった。どの道これが失敗しようがやらなければ同じ結果なのだ。
成功させるしか道は残されていない。
 
「いけぇ!」
 
気合と共に発した言葉。それと同時にインパルスは飛んでくるシールドに向かってビームを放つ。そして、シールドに放たれたビームは弾かれ、兆弾となってフリーダムを真下から狙う。
 
「何だって!?」
 
キラがそれに気付いて驚いた時には既に遅かった。インパルスから放たれてシールドに弾かれたビームの兆弾は、フリーダムのビームライフルを破壊したのだ。
 
「何て奴……!」
 
キラはフリーダムをミネルバから撤退させるしかない。視線は既に強敵インパルスを見つめていた。既に換装を終え、再び戦闘態勢が整っている。
 
「そうだ!あんたの相手はこの俺…シン=アスカだろ!」
 
本当はフリーダムに直撃させるはずだった。しかし、初めて繰り出す攻撃を、シンは完璧にすることが出来なかった。
そして、シンは見ていた。兆弾がフリーダムを全く意識していなかったであろう方向から襲ったとき、微かにフリーダムは動いたのだ。
絶対に反応できない位置から僅かにフリーダムは回避運動を見せ、兆弾の直撃を避けていたのだ。
結果として、一番の武器であるビームライフルを破壊されたが、その動きは常識を遥かに超越したものである事は間違いなかった。
地味な動きであったが、それがシンに与えたインパクトは巨大であった。

一方、MSデッキでは喝采が起こっていた。シンのインパルスが繰り出した攻撃が、明らかにフリーダムを慌てさせているのが分かったからだ。
 
「やるなぁ、シンの奴!まさかあんな針の穴に糸を通すような神業をやってのけるなんてな!」
 
ハイネは興奮して大声を上げる。
 
「カミーユ、シン、大丈夫?」
「ん…?あぁ、大丈夫さ。シンは勝つさ」
「そうだよね、シン、きっと勝ってステラの所に戻ってくるよね?」
「ああ、大丈夫さ…きっと……」
 
本当は勝手な事をしたステラを叱咤するべきなのだろうが、結果的に良い方向に向かったので咎めるのは止した。ここでステラを叱咤しても、彼女を不安にさせるだけでマイナスの要素の方が大きいだろうとも思った。
その一方で、カミーユはシンが少しずつ疲れ始めている事を感じていた。ミネルバの近くにまで寄ってきたことでその感覚を少しだけ感じる事が出来たのだ。
そして、対するキラの疲労度も感じていた。
それ故、カミーユは一抹の不安を残しつつも、ステラに大丈夫だと声を掛けた。
 
「ハイネ君!君はまだこんな所にいて!」
 
突然怒鳴ってMSデッキにやって来たのは医者だった。
 
「げっ、センセ!?」
「出撃の見送りを終えたら医務室に戻る約束だっただろう!散々探し回って来てみれば……よりによって一番ハードなところで無茶をして!」
「は?どういうことです、隊長さん?」
「君かね、マッド君?ハイネ君を無理やりこんな所で労働させて、まだこんな事出来る状態じゃないんだよ!?」
「ちょっと待ってくれよ、マッドは関係ないんだ。俺が勝手にアイツのためになるかと思って手伝ったんだ。だから、怒るなら俺だけでいい」
「やっぱり……どうせそんな事じゃないかと思ったよ。直ぐに戻りなさい、早く怪我を治したいならね」
 
医者はそれだけ言うとMSデッキから出て行った。
 
「へ……?」
 
ハイネはその様子にポカンとする。余りにもあっさりと引き下がった医者の行動が意外だったからだ。
 
「どういう事だ、センセは?」
「別にここに居てもいいって仰ってくれてんですよ、あの人は。その代わりどうなっても知らないぞ、っていう警告付ですがね」
「判断は俺に任せるって事か……素直じゃないね、センセも」
「隊長さんの熱意が伝わったんでしょう。後で謝っといてくださいよ?」
「分かってるよ……」

ハイネは困ったように、しかし何故か少しだけ嬉しそうに医者が出て行った出口を見つめていた。
 
本当はハイネの熱意が伝わっただけではなかった。
ハイネがシンの為になると思っていた事が一番の理由だったのだろう。医者はシンに何故か
頑張って欲しかった。
 
(彼は人を惹き付ける何かがあるのかもな……)
 
医務室へ戻る傍ら、医者はシンに人の気持ちが集まっている事に気付いていた。
それは自分とて例外ではない事を本人は知っている。
しかし、それがカミーユと出会ってからという事はまだ誰も知らない事だった。

インパルスはフリーダムに的を絞らせないように不規則にフェイントを混ぜながら接近していく。
フリーダムにビームライフルが無い今、先程までよりも接近が容易になったことは明らかであった。
フリーダムに射撃武器はまだ四門残ってはいるが、そのどれも固定兵装なため、角度の自由が利かない。その為、シンは接近する際にフリーダムの正面にさえ気をつけていれば良かった。
更にはこれでシンが得意な接近レンジでの戦闘を強いられる事をフリーダムが余儀なくされていた。兆弾に拠る奇襲は失敗に終わったが、成果は十分に出ていた事は確かだった。
 
『あんたもこれまでだな!今までの屈辱、まとめて返してやるッ!』
「何だって!?」
 
接近戦を強いられるキラにシンの声が聞こえて来る。
 
『忘れたとは言わせないぞ!アスラン=ザラの無念、思い知れ!』
「アスラン……!?」
 
シンの勢いは増すばかりである。キラはその勢いを殺すだけの気合は持っていなかった。
それでも乗機のパワーに勝るフリーダムは何とかインパルスのビームサ−ベルを受け止める。
 
「勘違いだ!アスランは生きている!」
『嘘をつくな!カミーユがハッキリ見たといっているんだ!』
「誤解だ、僕はアスランを殺してなんか居ない!アークエンジェルに居るんだ!」
『テロリストの言う事を聞けるかぁ!』

「アスラン…お前、何でこんな所に居る?」
「カガリか……」
 
アークエンジェルの或る一室、そこでアスランは一人で椅子に腰掛けていた。
 
「キラが戦ってんだぞ!?アークエンジェルを逃がす為に!それを見もしないでお前はこんな所で何をしているんだ!?」
「……」
 
怒れるカガリに対し、アスランは冷静な表情で何も応えなかった。
 
「お前等友達だろう!?それなのに命懸けて戦ってるキラに対して何にも思わないのか!?」
「……」
「何とか言えよ!」
 
詰め寄るカガリからアスランは目を逸らす。今のカガリをアスランは相手にしたくなかった。
しかし、今のこの状況なら、カガリを利用してミネルバへ戻る事も可能だろう。
 
(だが…俺は長くここに居すぎたのか……?)
 
心の中で呟く。
脱走しようと思えば出来る状況に今はある。クルーはミネルバを相手にしなければならないし、キラはフリーダムで出撃中である。
しかし、それをする気になれないのは、昔馴染みの顔ぶれの中に長居しすぎたせいであろう。
アスランはすっかり牙を折られていた。
ミネルバに戻りたいと思いながらも、カガリのことも心配だったアスランは口も利きたくなかったくせに語り掛けてしまう。
 
「悪いけどカガリ、俺は自由にしてていいという条件でこの艦に残ったんだ。ここで何していようが俺の勝手なんだ」
「お前…それ本気なのか!?」
「……ああ」
「見損なったぞ…そんな冷たい奴だとは思わなかった……あの時泣いてたのは嘘だったのかよ!」
 
二年前、アスランとキラは本気で殺し合いをした事があった。
その時、お互いの安否を知る事無く、キラはラクスに、アスランはカガリにそれぞれ助けられた。
キラを殺してしまったと思い込んでいたアスランはそこで後悔の念に駆られ、カガリの前で涙を見せていた。

「こうやってアークエンジェルが存在しているのも、今戦っているキラのおかげなんだぞ!そうでなければ、もっとたくさんの人が死んでいたかもしれない!」
「……逆じゃないのか、カガリ」
「なっ……!?どういうことだ!」
「お前達が色々な戦闘に介入して来てくれたおかげで、余計な混乱を引き起こしている。言うなれば、お前達が行動を起こさなければ今頃こんな事にはなってなかった筈だ」
「だが、それではオーブは利用されるだけだ!それで良いのか!?」
「カガリ…二言目には"オーブ"だな……何も変わっていない」
「話を逸らすな!」
「ならカガリ、もしオーブが大西洋連合と同盟を結ばなかったらどうしていたんだ? それでもお前は今のように行動を起こしていたと言えるか?」
「そ、それは……私はオーブの国家元首だ、国を守ることを第一に考える!」
「と、言う事はアークエンジェルは行動を起こさなかったという事だな?」
「そうだ、他国の争いに中立国が介入するなんて筋違いだろ!何よりオーブの理念から外れる」
「そう…これは俺達プラントと連合の戦争なんだ。そこに中立を装って介入してくるお前達は俺達ザフトにしてみれば筋違いなんだ。はっきり言ってしまえば迷惑でしかない」
「迷惑……私達が……?」
「そもそもお前達がやっていることは既にオーブの理念から外れているじゃないか? アークエンジェルも、よりによってフリーダムなんか持ち出して…矛盾だらけじゃないか……」
「……!?」
 
カガリは言葉を失う。アスランの言葉は、これまで自分たちがやって来た事を否定されたようなものだったからだ。
オーブの為にと思ってやってきた事が結果として他に迷惑を掛けていた事にアークエンジェルの面々は気付いていなかった。自分たちが正義であると、言葉には出さないまでも心の中で思っていたからだ。
だから誰かに恨まれてるとは思わなかったし、アスランはきっと自分達に賛同してくれるだろうと勝手に思い込んでいた。
しかし現実はまるで逆で、アスランの口からその事を思い知らされる事になる。
 
「私達が…間違っているというのか……!?」
「オーブの事を気に掛けての行動だということは分かっている。だから間違っているとまでは言わないが、やり方が利口ではない」
 
ショックを受けるカガリが気になったのか、アスランは思わず優しい口調で話してしまう。
本当はもっと厳しく言ってやるつもりだった。
しかし、それでもカガリはアスランの言葉の重さを感じ取ったのか、手を薙いで怒鳴る。
 
「じゃあどうしろと!」
「前にキラにも言ったが、カガリは政治家だろう?戦いだけが能じゃない筈だ。戦い以外の方法を見つければいい。それなら俺だって言われるまでも無く協力する」
「……」

カガリは再び黙り込んでしまう。
艦内に居ても外から激しい戦闘の騒音が聞こえてくる。こうしている間にもキラとシンは激しい戦いを繰り広げていた。
 
(やっぱりカガリには俺がついていないと駄目なのか……?)
 
アスランにしては珍しく思い上がった考えをする。
しかし、好きな相手に必要とされるのは嬉しい事で、現にアスランはカガリにとってそういう存在である事を自分の事ながら確信していた。
こうしてお互いの距離を離してみて改めて眺めてみるとよく分かる。カガリと離れていた時間は無駄ではなかったんだと思った。
 
少しの間二人は沈黙していたが、やがてカガリが話を切り出す。
 
「……お前の言いたい事は何となく分かった。けど、今はキラを応援してやってくれ……ここで負けてしまったらそれこそ全てが終わってしまう。私達はまだ死ねないんだ……」
「キラが負ける事は無いだろう?」
「いや、相当苦戦しているらしい……」
 
キラも自分にとって大切な友人である。今は少しすれ違ってしまっているが、その思いは変わることは無いと思っていた。
だからこそ、そんなカガリの言葉にアスランは驚愕の表情を浮かべる。
 
「何!?ミネルバにはインパルスしか残っていないはずだろう!?それでキラほどのパイロットが何故…」
「それは分からない……。けどこのままじゃ勝負の行方が分からないんだ。
だからお願いだアスラン…一人で見ていると不安なんだ…!」
 
懇願するカガリにアスランは眉間に皺を寄せて少しだけ考慮する。長いとも短いとも取れる時間の中でアスランは答えを出す。
 
「……俺はミネルバのパイロットだ。応援は出来ないけど見るだけなら……」
「ありがとう、アスラン…それだけでも十分だ……」
 
カガリに対して厳しい言い方をしたアスランであったが、心の内では揺れていた。
それはザフトとしての使命感と、旧知の仲間との絆の間にアスランが立たされているからである。今の所どっちつかずなアスランはその板ばさみにもがいていた。
優柔不断なアスランらしいと言えばそれまでであるが……

二人は外の戦闘が見られる場所までやってきた。其処からはフリーダムとインパルスの戦闘が見えた。
 
「シン……!」
 
アスランは信じられないといった表情でその成り行きを見つめた。
最初はまるで歯が立たなかったシンが、この短期間で自分ですら太刀打ち出来なかったキラのフリーダムと互角に戦えるようになっていた事に驚いていた。
そして、その事に少しだけシンに嫉妬する自分の気持ちがあることを知った。
そんなアスランの見つめる先で勢いに乗るシンはフリーダムを徐々に追い詰めていく。
 
 
戦闘が佳境に入る頃、シンとキラはお互いに一歩も引かずに戦っていた。
これまでキラは全力で相手を殺さないように戦っていた。全力には違いないが、相手を殺せない分手加減をして戦っていたと言ってもいいかもしれない。
しかし、状況は既にそんな事をしている余裕も無い展開になりつつある。
持てる力を100%解放し、強敵のインパルスを完膚なきまでに倒すしか道は残されていない。
 
「ここまで追い詰められるなんて…僕の驕りだって言うの……!?」
 
キラは苦虫を噛み潰したように唸りをあげる。ふと気が付けば、明らかに自分が押されている
事が分かったからだ。
 
「勝てる…俺はフリーダムに勝てるぞ……!」
 
一方のシンはフリーダムを攻め立てていてそう感じていた。
 
(父さん…母さん…マユ……けじめとしてフリーダムは落とすからな!)
 
シンは亡くした家族に思いを馳せつつビームサーベルでフリーダムに襲い掛かる。
しかし、自信が慢心に変わっていたシンは余りにも無防備な形でフリーダムに仕掛けてしまう。
それを見逃すほどキラの操るフリーダムは甘くない相手だった。
 
「隙だらけぇ!」
 
思いっきり振り上げられたビームサーベルを構えるインパルスに、がら空きとなった胴体のコックピット部分に、最小の動作でフリーダムは水平斬で切り掛かる。
初めて見せるフリーダムの動きに、シンは背筋が凍りつく感覚を味わう。
 
「え……!?」
 
瞬間、シンはやられたと悟った。この状況からでは回避は出来ない…完全にシンの敗北である。

そして自らの命もこれまでだと思った。
 
しかしその時、咄嗟であったのか無意識であったかのは分からないが、シンは上下の分離操作を行う。その結果、見事に上下に分かれたインパルスはフリーダムの必殺の一撃をまたしても回避する。振り抜かれたフリーダムのビームサーベルが空を切り、インパルスは直ぐにドッキングをした。
 
「何て奴!これもかわすなんて……!」
 
キラは思わぬインパルスの回避技に舌を巻く。本気を出し、完全に決まったと思った一撃をかわされた事にショックを受けていた。
 
「あ…危なかった……!少しでも油断したら一環の終わりって訳か!」
 
一方のシンにしてみればこの回避はマグレ同然である。本人が殆ど意識しないで行った事であるからだ。
気が緩みかけていたシンは大きく息を吐き出し、今の出来事をきっかけにもう一度気を引き締めなおす。
 
「それにしてもアイツ、何の躊躇もなしにコックピットを狙ってきやがったな……! それだけ追い詰められてるって事か!」
 
シンの予想は当たっていた。
実際キラに余裕は無い。本気を出したキラがなりふり構わずインパルスのコックピットを狙ったのは、焦りが生じてきているせいでもあった。
 
シンにとってこのキラの攻撃をかわせたことは大きな意味があった。
一つはキラに精神的ダメージを与えられた事、そして二つ目に予備のパーツが既に尽きかけているという事である。これまで何度腕や脚を切られようともスペアがあったからここまで戦えたのだ。
言ってしまえば単身での戦闘ではフリーダムに勝つ事はおろか、今頃は既に戦闘不能になっていてもおかしくないのである。
キラとの戦いに対応してきているとは言え、総合的に見てみればまだキラとフリーダムの方が力は上である。
その意味で言えばこのシンのウルトラ回避は優位性を逆転させる意味でも大きかった。
 
「あと少し…あと少しでフリーダムに勝てる……踏ん張りどころ……!」
 
シンはかつて無いほど疲弊していた。
一体の敵を相手にこれ程長い時間戦っていた事は無いし、何より相手は最高のMSとパイロットである。 何度フリーダムの攻撃に肝を冷やされ、紙一重に戦ってきただろうか。
シンの体は熱気を放ち、パイロットスーツの下のじわりとした感触がハッキリと認識できる。
バイザー越しの顔には大粒の汗が滝のように流れていて、息遣いもやや荒い。
水分が徐々に失われて渇きが意識を浸食しようとも、追い詰められたフリーダムを目の前に据えているシンは大いなる達成感を目指し、邪気を振り払う。
もうシンには目の前のフリーダムしか見えていない、所謂"ハイ"の状態にになっていた。

対するキラも疲れていた。
かつてこれ程までに粘り強く、しつこく立ち向かってきた相手は居ただろうか。
軍人として本格的に鍛えた事の無いキラはシン以上に疲労感を感じていた。
シンはザフトで鍛えられただけあって疲労にある程度の耐性はあるが、キラにはそれが経験として十分には備わっていない。言うなればキラはシンよりも貧弱なのである。
二年間休んでいたキラと二年間鍛えていたシン、その差は顕著になるほど大きい。
そのキラの精神力が今正に切れようとしていた。
 
(目が霞む……頭が白くなる……!)
 
キラの集中力が落ちてくる。フリーダムをコントロールしているのも最早培われた技術が勝手に行っている物であった。
傍から見れば何でも無いような微妙なスキルの低下。普通の相手ならそれでも楽勝でいなせるレベルである。
しかし、形勢が不利である上、シンにモチベーションで劣るキラにとっては致命的であった。
シンはその微妙な変化に気付かずともついに動きでキラを凌駕する。
 
「今度こそ貰ったぞ、フリーダムゥッ!」
『なっ……!?』
 
シンの渾身の一撃がフリーダムの右腕を切り飛ばす。
思っても見なかった展開に、キラの顔から血の気が引いて行く。
反撃する気合を削がれたキラは一旦その場から退くしかなく、バーニアを最大限に蒸かして急いで海上の方に向かう。
 
「くっそぉ……!」
 
「ここまで来たんだ、今更逃がすかよ!」
 
しかし、シンがフリーダムに最後の力を振り絞って追撃を掛ける。今シンを突き動かしているのは気合だけだったが、それだけで十分だった。
 
「ミネルバァ!エクスカリバーをっ!」
 
「お前等聞こえたなぁ!?エクスカリバーを出せ!止めだぞ!」
 
デッキでマッドが大声で叫ぶ。整備士達も疲弊していたが、マッドの言葉にもう一度活力を取り戻し、最後の仕事に取り掛かる。
 
「ブリッジ、カウントを!」
 
即座にエクスカリバーをカタパルトに設置し終わり、ヨウランが叫ぶ。
 
「構うな、出せ!」
「はっ、はいっ!」
 
マッドの命令に大急ぎでエクスカリバーが射出される。

その様子はアークエンジェルの面々にも見えていた。
 
「あれは!?」
「インパルスの兵器です!」
「落とせないの!?」
「無理です!ミネルバの相手で手一杯であんな小さな移動する目標を撃ち落す事など不可能です!」
「そんな…キラ君……アークエンジェルをフリーダムに向けて!」
「間に合いませんよ!」
「でも…いいから行きなさい!」
 
ラミアスの激怒に慌ててノイマンはアークエンジェルの進路を洋上のフリーダムの下へ向かわせる。ラミアスの気持ちとしては、ただ黙って見ている事等出来なかった。
 
「あれは…インパルスのソード装備!」
「アスラン!」
「キラが……負ける……!?」
「そ…そんな事って……!?」
 
アークエンジェルではブリッジもアスラン達も目の前の光景が信じられなかった。
百戦錬磨のキラが追い詰められ、今正に落とされようとしている。
 
「キラァァァァァァ!」
 
アスランは声が裏返るほどの声量で叫ぶ。
 
アスランが叫ぶのも空しく、インパルスはエクスカリバーを構え、フリーダムに向けて突進する。
バーニアが焼き切れるほどの負荷を掛け、その身の全てを預けて加速する。
 
「これでぇ…とどめぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「くぅっ!?」
 
咆哮と共に突っ込んで来るインパルスにキラは最後の抵抗を試みる。
遺された四門の固定武器を全て放ったが、混乱気味のキラの射撃ではインパルスの飾りや片足を吹き飛ばす位しか効果が無かった。
 
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 
シンの全てを懸けた突撃がキラの眼前に迫る。
キラはアスランのイージスと死闘を繰り広げた時以来の体の芯が凍る感覚を久しぶりに味わう。
ここまで来てしまうと、流石のキラにも最早何をする事も出来ない。
そして――――

「…………」
 
インパルスの大型剣"エクスカリバー"がフリーダムの腹部を貫く。
その瞬間、全ての時が止まったかのような感覚が全体を包む。
 
「は…艦長、アークエンジェルが!」
「逃げるつもり……?タンホイザー!」
「起動完了しています、命令を!」
「良くやったわ、アーサー!目標アークエンジェル、撃ぇぇぇ!」

フリーダムに向かうアークエンジェルに気付いたタリアは、慌ててタンホイザーを発射させる。
そして、潜行しようとしていたアークエンジェルに着弾するかと思われた一撃は巨大な水飛沫と光を放ち、付近にいたインパルスとフリーダムをも包み込む。
  
「シーン!」
 
ステラがシンの名を呼ぶ。激しい爆炎と共におびただしいまでの煙が立ち昇り、彼がどうなったかは確認できない。
 
「メイリン、どうなって!?」
「やってますが確認取れません…!」
「アークエンジェルは!?」
「それも……」
「待つしかないでしょう!」
 
慌てるタリアにアーサーが珍しく冷静に対応する。
 
爆炎が立ち昇っている間、ミネルバは行動を起こせなかった。状況が確認できるまでは動けない。それぞれが重たい時間を過ごす。
 
「ねえカミーユ、シンは?シンは大丈夫?」
「ステラ…大丈夫さ、きっと……シンは君を置いてどこかに行ったりはしないはずだ」
 
不安げに語りかけてくるステラは精神的に不安定になりかけていた。それを感じ取ったカミーユが何とか安心させようと気遣って言葉を掛ける。
カミーユにもアークエンジェルとミネルバの人々の想いが錯綜する空間ではシン個人の安否は分からなかった。

インパルスとフリーダムが光に包まれて数十秒後、長く感じられたもどかしい時間が終わりに近付く。やっと二機の居た近辺の視界が晴れていき、その中から一機のシルエットが浮かび上がってくる。
 
「どっちなの……!?」
 
タリアが其処に残る勝者に関心を寄せる。
 
「……あ、艦長見てください、あれ!」
「アーサー?」
「ほら、丁度今煙が晴れた所!あれ…」
「インパルス!」
 
皆が固唾を呑んで見守る中、その中から出てきたのはフェイズシフトの切れたボロボロのインパルスだった。シンはステラの呼びかけに見事応えて見せたのだ。
 
「やった、シンが!カミーユ、シンが勝った!」
「ああ、シンは凄いな、ステラ!」
 
MSデッキで成り行きを見つめていたカミーユとステラはその現実に喜ぶ。
 
「やったぜマッド!シンの奴、ほんとに"ヤキンのフリーダム"を倒しやがったぜ!」
「た…隊長さん!あんた、怪我人なんだからそんなに暴れないで下さいよ!」
「これが落ち着いていられるかってんだ!新たなザフトの英雄誕生の瞬間をこの目で見てんだぜ?」
「ったく…気持ちは分かりますがね?」
 
マッドははしゃぐハイネに手を焼いているようだ。本当は一緒に叫びたい所だが、いい大人の自分は怪我を心配してハイネを諌めるのが役目であろう事を承知していた。
 
「うっははぁ!やったなぁ、レイ!シンの奴、フリーダムを狩りやがったぜ!」
「そうだな」
「何だよ、もっと喜べよ、作戦参謀!お前の知識が無かったら、頭の悪いシンじゃあ絶対に勝てなかったんだぜ?」
 
一方でヨウランとヴィーノはレイと一緒に盛り上がろうとしていた。
しかし、レイはいつもと変わらずに冷静な顔つきをしていた。その顔は、嬉しいのかどうかを窺い知る事ができない。何となく一人だけ浮いた印象を受ける表情だった。
 
「シン……!」
「ヤ…ヤキンのフリーダムを…やったのか……!?」
「ふぅ……」
 
ブリッジではメイリンは目に涙を浮かべ、アーサーは放心、タリアは椅子に深く腰を埋めた。
アークエンジェルも、仕留めたかどうかまでは分からないが、一先ず仕事を終えた安心感からか、ブリッジはやや気の抜けた空気になっていた。

少しして、タリアが口を開く。
 
「……進路転進、本艦はインパルス回収後、この空域を離脱します。マリク……」
「えぇっ…アークエンジェルは!?まだ撃沈の確認は……」
 
タリアの命令にブリッジクルーは驚く。
フリーダムはインパルスに貫かれる所を見ていたが、タンホイザーで狙撃したアークエンジェルの存在がどうなったのかが分からない。
それなのに撤収を掛けるタリアの意図がアーサーには分からなかった。
 
「シンを失うわけには行かないわ。インパルスは動けそうに無いもの」
「しかし……」
「後続は来ている筈よ。それに、フリーダムを落とした英雄を失って笑い者になりたくは無いわ。従いなさい」
「は…はっ……」
 
腑に落ちない顔をしていたが、アーサーはおとなしくタリアの命令を聞く。
 
「さようなら…マリュー=ラミアス艦長……」
 
脇のモニターに映る、海に浮かぶアークエンジェルの破片を見つめて、タリアは小さく呟いた。
 
 
海の上で佇むインパルスのコックピットの中、シンは目の前の現状を把握できずに呆然としていた。
 
「やった…のか……?」
 
ヘルメットを脱ぎ捨て、流れ落ちる汗を拭う。コンソールに目をやるとエネルギーが尽きかけていた。
 
「本当に…これで終わりなのか?……いや、終わるわけが無い!急いでデュートリオンビームを……!」
 
半信半疑のシンはフリーダムを落とした事が信じられず、次に備えて慌ててミネルバに戻ろうとするが、インパルスの自由が利かない。

「くそっ!動け、インパルス!早くしないと奴が……!」
 
焦るシン。しかし、その時ミネルバのメイリンから通信が入る。
 
『シン!』
「メイリン!艦長に頼んでミネルバを近くまでよこしてくれ!デュートリオンビームを!」
『その心配なら要らないのよ、今ミネルバが迎えに行くから!』
「何言ってんだ!そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ!
フリーダムがまだ出て来るかも知れないんだぞ!」
『シンこそ何言ってるのよ?フリーダムはあなたが落としたんじゃない?』
「えっ……?」
 
メイリンの言葉にシンは困惑する。
 
「どうしたのメイリン?シンに何かあったの?」
「いえ、それが…気が動転しているらしく……」
「全く…困った子ね、うちのエースは……」
 
タリアは呆れたような笑っているような顔をする。まるで自分の子供に対して言っているかのようであった。
 
『メイリン、どうしてフリーダムがもう出てこないと分かるんだ!?』
「レーダー見てみなさいよ。反応、消えてるでしょ?」
 
「レーダー……?」
 
シンはコンソールパネルを弄ってレーダーを呼び出す。熱源、質量など色々と試したが、そこに登録されていたフリーダムの反応は無かった。
 
「本当に…俺が……」
 
未だに信じられないといった表情でシンは固まってしまう。
実感が沸かない中、シンは動けなくなったインパルスのコックピットの中でミネルバが迎えに来るのをじっと待っていた……