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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第29話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:39:32

第二十九話「ヘブンズベースは燃えて その1」

この戦争を影から煽ってきたロゴスの拠点、ヘブンズベースにはデストロイが五機も配備されている。巨体故に局地戦での運用は難しいが、拠点制圧、防衛には効果的な兵器だ。
かつてカミーユとシン、キラがステラの乗ったデストロイを相手に戦ったが、圧倒的な防御力と凶暴な物量攻撃に手を焼いたのは記憶に新しい。
戦線に復帰するハイネ、そして新たなMSを得たとは言え、苦戦は必至であった。
 
ザフトの軍隊がヘブンズベースの前に艦隊を展開する。
施設内に立て篭もるロゴスのメンバーに最後通告を言い渡していた。
 
そして、ミネルバのMSデッキでは出撃の準備が整えられていく。ロゴスのメンバーは降伏しないだろうというのが大方の見解だったからだ。
 
「あたしも今回からはインパルス!いつまでもミネルバの砲台の代わりなんてしてられないわ!」
 
ルナマリアが意気込む。メイリンとシンに諭されてようやくショックから立ち直っていた。
己を見つめ、周りの存在に気付いた彼女は一先ず落ち着きを取り戻す。
 
「レイ、あたしはミネルバを降りないわよ、いいわね?」
「好きにすればいい。今回の作戦、猫の手も借りたいほどだからな」
「あんたもあたしを猫扱いするの?冗談じゃないわよ!」
 
厭味を込めて言い放つレイにルナマリアが憤慨する。
 
「ふ…悔しかったら実績を残してみるんだな」
 
挑発するかのように言い捨てて去っていくレイに、ルナマリアは小癪に思っていた。
レイも自分と同じくクレタ島沖の戦闘以来の実戦のはずである。
 
「何よ!レイだって久しぶりのクセにさ」
 
思い出したように愚痴を零すルナマリア。それをステラと一緒に見ていたシンが繕うように話しかけてきた。
 
「気にするなよルナ、あいつなりの励まし方なんだろうぜ?」
「…まさか、あんたじゃないでしょうね?レイがあんな冗談言うわけ無いわ!」
「ち、違うって!」
「どうかしらねぇ?」

訝しげに見上げるようにシンに迫るルナマリア。シンはその表情に慄いて後ずさりする。
ジブラルタル基地での出来事が頭の中に残っていた。
 
「あんた、ステラの前だからってちょっと調子に乗ってんじゃないの?」
「関係あるかよ!」
「フン!何さ、スケベ!」
「うるさい、アホ毛!」
 
額に青筋を浮かべる二人。肩が震え、いつもの調子で口喧嘩を始める。
 
「シンとルナ…喧嘩ばっか…?」
「ん?」
 
脇で眺めていたステラが呆然と呟く。その様子にハイネが気付いた。
 
「それは違うな。あれはな、"喧嘩するほど仲が良い"ってやつだ。ああ見えて二人は仲が良いんだよ」
「そうなの?」
「嫌いな奴とは話もしたくなかったりするだろ?つまり、そういう事!」
「……良く分かんない」
「ま、つまりは喧嘩してるうちはまだ仲が良いって事さ」
「う…ん、ステラ、シンと仲良し…シン、ルナと仲良し…じゃあ、ルナもステラと仲良し?」
 
ステラが掌を広げて指を折り曲げて呟く。その台詞の内容にその行為は意味があるのか、とハイネは思ったが、ステラの口から出た言葉にハッとする。
 
「それそれ、そういうのいいね!じゃ、俺は?」
「ハイネ、シンと仲良し?」
「勿論!」
「じゃ、ステラとも仲良し!」
 
ステラの感性は、幼いながらも年を取る毎に自分達が忘れていっている感情なんだとハイネは思う。軍隊という殺伐とした中に、このような感性を持った少女が居るという事は異常なことではあるが、前向きに捉えればそんな中に癒しをもたらしてくれていると考えることもできる。
そんな考えを、ハイネはステラを利用しているような気がして少し申し訳ない気持ちになったが、細かい事だと切り捨てる事にした。
こういう事は気にしだしたらキリがない事をハイネは知っている。
 
そんな風にしてハイネとステラが話している間にもシンとルナマリアの口喧嘩はヒートアップしていた。そこへ堪らなくなったハイネが仲裁に入る。
 
「おい、お前等!出撃前に緊張をほぐすのも良いが、戦闘配備前だぞ!少しは落ち着け!」
「「それはこいつが!」」
 
二人同時に意見する。ハイネはいがみ合う二人に半ば呆れるしかなかった。

「…そうかそうか、二人ともそんなに俺の修正が受けたいか……?
入院中は余り体を動かせなかったからな、ストレスが溜まっていたんだ。それを発散させてくれるなんて二人は優しいなぁ?」
 
指を鳴らすハイネの顔は明らかに引きつっていた。長い前髪が片目を覆い隠す。その奥で、ハイネの本性が光ったように見えた。
それを見たシンとルナマリアは急におとなしくなる。二人は至らない自分を反省した。
 
「ルナもステラと仲良し。頑張ってね」
 
ハイネに叱咤され、整備士と打ち合わせに入ったルナマリアに、ステラが屈託の無い笑顔で激励の言葉を掛ける。
 
「ステラ……」
 
一度はステラの存在に憎しみを抱いたりもしたが、そんな蟠りも今のルナマリアには残っていない。
しかし、純粋にルナマリアを気遣ってくれるステラに対して申し訳ない気持ちはあった。
 
「ありがとうね、ステラ……あと、ゴメンね……?」
「うん?」
 
謝るルナマリアにステラはその意味を理解できずに首を傾げる。
しかし、ルナマリアの表情には不思議と晴れやかな感情が出ていて、ステラは気に留めない。
離れた場所でその様子を見ていたレイは少し口元を緩め、しかし直ぐに引き締めなおして
カミーユの元へ向かう。
 
「カミーユ、ハイネからの指示を伝えるぞ。今回カミーユはルナと共に俺たちの援護に廻ってくれ」
 
整備士と打ち合わせに入っていたカミーユはレイから伝えられる指令に目を丸くした。
 
「ハイネが前に出るのか?」
「そうらしい。前線での指揮を執る事になる」
「大丈夫か、復帰していきなりなんて……?」
「前を俺とシンで固めて隊長のハイネに指揮を任せる。ハイネが出過ぎなければ大丈夫だ。
カミーユはルナを見てやってくれ」
「レイも今回が復帰戦だろ?大丈夫か?」
「訓練はしていた。それに、ヘタクソだったレジェンドの扱いも、カミーユにしごかれてからは格段に上手くなったと自負している。今なら、カミーユにだって勝てるさ」
「お前が言うと怖いな…妙な説得力を感じるよ」

ジブラルタル基地での模擬戦、カミーユが圧倒したとはいえ、その時はシンもレイも新しい機体をまともに扱えていなかった。本来であるならば、どう考えてもデスティニーとレジェンドの二機を相手にΖガンダムで圧勝できるはずが無いのだ。
しかし、カミーユの方は扱いなれているΖガンダムであり、シンとレイは処女飛行もいいところの状態であった。
条件が違っていたならば、カミーユはやられていただろうな、と感慨深く思う。
二人は確実に強くなっている。
 
「頼むぞ、まだルナは万全とは言えない。カミーユが居れば安心だからな」
 
そうカミーユに告げると、レイはレジェンドのコックピットに戻って行った。
 
「聞く子ならな……」
 
レイにそうは言われても、基本的にカミーユ自身が感情的な為、ルナマリアを制する事が出来るかどうかの自信が無かった。グリプス戦役の時分にも、カツ=コバヤシやファ=ユイリィの暴走を食い止められなかった事が多々あった。
 
「上手く行くかどうかは……」
 
多少の不安を残してカミーユは呟く。カミーユ自身は誰かの面倒を見るという器では決して無い。それは、本人も承知している根本的な性格である。
彼は基本的に自分の事で精一杯だったからだ。故に、経験として面倒を見るということには慣れていない。
 
「分からないけど……」
 
気持ちを落ち着かせる。今回は戦場で感情的になり過ぎないように配慮しなければならない。それはルナマリアの生死に関わってくるからだ。
 
各々が時を過ごす中、ザフトに拠る降伏勧告は続けられていた。
しかし、状況は刻一刻と開戦へと向かっていた。 

ヘブンズベースに立て篭もるロゴスのメンバーは防衛態勢に自信を持ち、ザフトの勧告を無視し続けた。埒があかない展開に業を煮やすザフト側であったが、ロゴス側は問答無用で攻撃を仕掛けてきた。
これにより、奇襲を受ける形になったザフトであったが、これを機に一気に状況の打開を目指すザフトは遂に攻撃開始の合図を出す。開戦である。
 
「ハイネ=ヴェステンフルス、セイバー出るぞ!」
 
最初に勢い良く飛び出して行ったのは肩部のアーマーをオレンジに塗装したセイバー。
塗装した部分だけフェイズシフトが展開されないが、そこはハイネの拘りだった。
"ハイネと言えばオレンジ"が彼のポリシーだった。
 
「シン=アスカ、デスティニー行きます!」
「レイ=ザ=バレル、レジェンド行くぞ!」
 
続けてデスティニーとレジェンドが出撃し、セイバーと三機の編隊を組む。
これが前線で活躍するミネルバの主力となる。
 
「カミーユ=ビダン、Ζガンダム行きます!」
「ルナマリア=ホーク、コアスプレンダー行くわよ!」
 
その後に前線の三機の援護とミネルバの防衛を担当するΖガンダムとインパルスが射出される。
いつもは前線で戦っていたΖガンダムが今回後方に廻る事となったのは、ミネルバのMSの 中で唯一自力飛行が困難であるという理由からだ。加えてインパルスに乗り換えたとは言え、不安の拭いきれないルナマリアの面倒を見るという目的もある。
フォースシルエット装備で出撃したルナマリアにとっては、前線を抜けて来たウインダムやダガーLが復帰戦のリハビリ相手になる。
 
「凄い、インパルス…ザクとはパワーが違うわ!」
 
復帰戦とは言え、インパルスの性能に引っ張られるようにルナマリアの調子は上向きになる。新型のデスティニーやレジェンドに性能で劣るものの、一般量産機であるウインダムやダガーL相手には十分な性能を有する。
 
「あんた達はお呼びじゃ無いのよ!」
 
空戦に特化したフォースインパルスでちらほら現れるウインダムやダガーLにルナマリアが仕掛ける。
射撃が苦手なルナマリアはシンと同じく、接近戦を主軸に戦う。シンと違う所は射撃を接近戦の為のきっかけにしか使えない所だ。
ルナマリアと違って射撃が別段苦手という訳ではないシンは、接近戦が得意でも展開によっては射撃で切り抜ける事もある。
だが、ルナマリアは接近戦しか出来ないのだ。
全く当たらないというわけではないが、接近戦で片を付ける方が効率が良いのだ。

襲い来るウインダムは機動性を生かした高速接近で切り刻み、ミネルバに向かおうとする者にはビームライフルで足を止めて接近戦を仕掛ける。
これだけで殆どの敵は何とかなったが、近付いてこない敵にはルナマリアの弱点がモロに
浮き出る事になる。
 
「遠くから撃ってばっかで…卑怯者!こっち来なさいよ!」
 
焦れるルナマリアにはビームを避けながら逃げる相手に追い着けるほどの技量は持っていなかった。苛立ちの募るルナマリアは無謀な突撃を敢行してしまう。
 
「イライラするなぁ…もうっ!」
 
ウインダムが直線的に突っ込んで来るインパルスに対して格好のカモを見つけたように
ビームライフルを構える。しかし同時に、思いもしない横方向からの強力なビームに、横っ腹を撃ち貫かれてしまう。
 
「えっ!?」
 
突然撃墜されたウインダムにルナマリアは呆然とした。普通のビームライフルの射程外からの攻撃であった。
 
『何でもかんでも突っ込むな!隙が生まれてるぞ!』
「カ、カミーユ……!?」
 
通信からカミーユの叱咤が聞こえる。
モニター画面に微かに映った景色には、ハイパーメガランチャーを下に吊り下げるようにしてウェイブライダーが旋回していた。
 
(あんな遠くから狙撃したの…!?)
 
そうこうしている内にΖガンダムは次のターゲットに、明らかに相手の射程外と思われる場所からウインダムを狙い撃ちして撃墜した。
 
「あんな事が出来るなんて……!」
 
ルナマリアは驚いているが、別段不思議な事ではない。Ζガンダムのハイパーメガランチャーは長距離狙撃用の武器でもあるからだ。寧ろ接近されてしまってはその長さが仇になってうまく立ち回れない事もある。
カミーユが長距離から狙撃をするのは至極当たり前の事なのだ。
しかし、射撃の苦手なルナマリアにしてみればカミーユの業はこの世ならざるものに見えたのかもしれない。
 
『近付いてこない敵はこちらに任せて貰っていい。ルナマリアはミネルバに取り付こうとしている敵を!』
「りょ、了解!」

通信を続けながらもカミーユはウインダムを狙撃していく。
MS形態で狙いを絞って狙撃し、撃った後はすぐさまMAに変形して高度を確保しつつ次の相手に向かって行く。
 
「あたしにあんな事は出来ないわね…やれる事をするしかない!」
 
若干の悔しさを押し殺してルナマリアは次のターゲットに仕掛ける。
接近戦が上手く行っている事が自信に繋がっていたが、同時に油断も徐々に生じていた。
 
 
一方、前線で活躍している三人は順調に敵の防衛線を破りつつあった。
デスティニーが機動性でかく乱し、レジェンドがその合間を縫って狙撃する。
セイバーはやや下がった位置で指示を出しつつ一撃離脱戦法を取っていた。
 
「敵はラインを引く様に陣取っている!何処か一点でもその壁に穴を開けるんだよ!」
 
ハイネがシンやレイ、他のザフトパイロット達に指示を出す。
 
『とは言っても…敵の数は尋常ではありません!』
「数ならこちらも負けていないだろう!気持ちで負けるな!」
 
一機のグフのパイロットがハイネに近付いて弱音を洩らす。
 
『ですが、自分はまだ死にたくありません!』
「まだ始まったばっかだろ!軍人が何ほざいてんだ!?攻撃しなきゃ終わらんだろうが、戦争は!この戦いに掛かってんだぞ!」
『家族が居るんですっ!こんな戦いに自分が駆り出されるなんて思わなかったんですよ!』
「グフは俺が乗ってた機体なんだぞ!俺の誇りを汚す気か!?」
 
愚図るグフのパイロットにハイネは苛立ちを募らせる。そのパイロットの気持ちも分からないでもないが、ハイネにしてみれば元は同じグフのパイロットであったばかりにその態度が許せなかった。
 
『そ、そんなの関係ないじゃないですか!?自分のは唯の量産機なんです、貴方の様な高性能機じゃないんですよ!腕にも自信があるわけじゃないんです!』
「逃げたいのか?だが、今逃げ出せば敵前逃亡だぞ!それで良いのか!」
『ひ、卑怯ですよそんなの!自分は死にたくないだけなんです、見逃してくださいよ!』
「フェイスの俺に違反犯せってのか?甘えてんじゃねぇ!」
『自分に死ねと仰る!』
「言ってないだろ!何だよそれ、死ぬと決まったわけでもあるまいし…気持ちが死んだら死ぬんだよ!だから自分は死なないと思い込んどけ!そうすれば生き延びられる!」
『あんな大軍を見てそんな気持ちになんかなれませんよ!』
「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」
 
煮え切らないグフのパイロットの言葉にハイネは痺れを切らす。いつまでも相手にしていられる状況ではない。

『保障が欲しいんです、死なない保障が!』
「保障ぉ……!?」
 
怪訝な顔でグフのパイロットの言葉に首を傾げたその時、一筋の巨大なビームが二機の間を掠める。それは、彼方からのビームで、減衰していても直撃していれば間違いなく消されていたであろう程の強力なものだった。
 
『ひ、ひぃっ!』
「あ…あれは……!」
 
敵の防衛ラインの裏側に巨大なシルエットが浮かび上がる。
 
「シン!」
『レイ、分かってる!』
 
最前線で戦いを続けるシンとレイにもその存在を確認していた。二人はその相手をするために機体を向かわせる。
 
「1、2、3……デストロイが三機……よくもまぁ!」
『あ…あぁ……!も、もう駄目だ、助からないんだ!』
「五月蝿い、黙ってろ!」
『どうしようも無いじゃないですか…あんなのが三機ですよ!?勝てっこ無いじゃないですか! あぁ…自分はここで死ぬんだ……』
「だから黙ってろって言っている!俺の修正を受けたいのか、お前は!?
…そんなに死にたく無いんなら俺の側を離れるな!」
『えっ……?』
「俺が保障してやる!お前はここでは死なないんだよ!」
『あ……有難うございます!』
「分かったら死ぬ気で動け!止まった時の安全性までは保障出来んからな!」
『は…!了解です!』
 
自分を根拠にして安心させる方法は余り好きではなかったが、それでもしつこいグフのパイロットに安心を与えるにはこうするしか方法が見つからなかった。
何とか気弱なグフのパイロットをその気にさせ、ハイネは再び戦場を駆ける。
随伴するようにグフが後につき、シンやレイの援護に向かって行った。
 
 
「こんなの三機も揃えるなんて……俺を怒らせたい様だな!」
 
シンは薄くなった防衛線を抜け、そびえる山のように威圧するデストロイに向かって行く。
シンにとってステラが部品のように乗せられていたこのデストロイは不愉快な代物であった。
 
「ロゴスにこれ程の戦力が残っていたとはな……だが、これでは資源の無駄遣いだ」
 
一方のレイは三機のデストロイを見下す様に冷静に見ていた。
その余裕も以前のインパルスとデストロイの戦闘データから、この様な事態に備えて対策を用意してあったからだ。

「デストロイの弱点は機動性の無さと小回りの効かなさ、そして……」
 
レジェンドは独楽鼠の様な細かい動作でデストロイの砲撃をすり抜け、接近する。
レイのテクニックは、この短期間でシンをも上回るほどの成長を見せていた。カミーユとの模擬戦によって刺激されたレイの可能性が芽吹いたのだ。
 
「足元が極端に弱い事…つまり、接近されたら終わりだという事だ!」
 
レジェンドがデストロイの足元に潜り込み、ビームサーベルで左脚を薙ぎ切る。
バランスを崩されたデストロイは片脚で自重を支える事が出来ず、その場に仰向けに倒れる。
 
「貰った!」
 
そこに遅れて抜けて来たハイネのセイバーがデストロイのコックピットをビームサーベルで貫いて止めを刺した。グフもそれについて来ていた。
 
「先ずは一機だな、レイ!」
『ハイネ、セイバーではデストロイは無理だ。ここは俺とシンで切り抜けるからハイネは後ろで統率を執ってくれ』
「俺を足手まといにするつもりか?偉くなったもんだよ、お前も!」
 
気にせずにレイは次のデストロイに向けて飛び立って行く。
ハイネは不満そうにセイバーを移動させる。
 
『す…凄いんですね、ミネルバのパイロットって……あんな簡単にこんな大きなMSを倒してしまうなんて……』
「その隊長をやってる俺が一番凄いんだぜ、安心しただろ?」
『は、はい!』
 
調子に乗るハイネであったが、自分がシンやレイよりもパイロットとして優れているとは思って居なかった。
隊長であるとは言え、長きに渡って戦線を離脱していた間に彼等がどんどん実力をつけていった事は分かっている。
それでもこうして粋がっているのは、このグフのパイロットに、より大きな安心を与えてあげる為であった。
実力で劣ってはいても、隊を纏める力はハイネにしか無い事は自分の事ながらも承知している事である。ミネルバのMS隊の隊長はハイネでなくてはならないのだ。
 
「よし、俺の部下がここを突破するから俺達は戻るぞ。後方の部隊の指揮を執らねばならん!」
『了解です!』
 
グフのパイロットはハイネに対して、フェイスとしてだけでなく、人間としても信頼を寄せつつあった。
 
その頃、シンは二機のデストロイの集中砲火に遭っていた。ビームの鮮やかな光とミサイルの生物の様な煙が合わさって空間を隙間無く埋める。
 
「まだ近づけない……!」
 
二機のデストロイから距離を取ってシンは機を窺う。
 
「良くこれだけの量を無駄撃ち出来るな…まだ切れないのか?」
 
シンが狙うのは攻撃が止む一瞬…それも二機同時にである。
デストロイのパイロットがデスティニーを狙い撃ちしようとして照準を合わせる為に手を止めたその瞬間、デスティニーは鬼の首を取る勢いで突撃を敢行する事になる。
しかし、中々どうしてか一向に手数を緩める気配が見受けられない。シンは焦れる気持ちを抑えて辛抱強く二機のデストロイの攻撃を避け続ける。
 
「まさか読まれてる!?」
 
そう勘繰った瞬間であった。デストロイの攻撃の手数が明らかに少なくなり、狙いを絞ってきていた。
そして遂に、打ち合わせたように二機の視線がデスティニーに集中し、まるでスコールが突然止むかのごとく一瞬だけ攻撃が途切れる。
 
「待ってたぜ、この時を!」
 
シンの目が据わり、デスティニーが背部から光を散らしながら鬼のようなスピードで片方のデストロイに急接近する。背中のアロンダイトでデストロイを居合いで真ん中から縦に切り伏せ、もう片方にフラッシュエッジを投げつけて片脚を切離す。
アロンダイトで切られたデストロイはザクロの様にパックリと割れ、脚を切られた方はレイが相手したデストロイと同じように自重で倒れる。
シンはデスティニーを上昇させてデストロイの爆発をやり過ごし、こちらへ向かって来たウインダムやダガーLを左肩の背部にマウントされた高エネルギー長射程ビーム砲でまとめて叩き落す。
そして邪魔者を一掃した後、倒れて錯乱するままにミサイルを撃ち放つデストロイのコックピット部分にパルマフィオキーナを叩き込んだ。掌底からのビームがゼロ距離から放たれ、デストロイは爆音と共にコックピット部分から煙を上げる。
 
この時、シンはこれらのデストロイにステラと同じ様な境遇の者が乗っているとは考えなかった。
シンにとってはこの戦闘に出てくる敵は、戦争を長引かせようとしている敵以外の何者でもなかったのだ。
それ故、これらの敵にシンは容赦をしない。
この戦闘に勝利する事で世界が平和になる事を信じて疑わないシンは、目的を焦るあまりにデストロイのパイロットを務める人間の悲劇を忘れていた。
ステラに限らず、エクステンデッドは悲劇の存在なのだ。

「二機撃破!レイ!」
『こちらも一機仕留めた。これで厄介な奴は排除できたことになるな』
「よし、このまま行くぞ!」
 
合流して来たレジェンドと共に中枢への進路を確保する為、デスティニーは煙濃い戦場を切り裂いて飛ぶ。
 
 
ヘブンズベースの司令室ではジブリールをはじめとするロゴスのメンバーが集結していた。
戦場の状況が混乱の様相を呈してきた事がメンバーを不安にさせている。
 
「どうするのだジブリール、このままではいずれコーディネイター共に攻め込まれる事になるぞ」
「早くもデストロイが三機も潰されたそうじゃないか?ここへ奴等がやって来るのも時間の問題だぞ?」
 
口々に盟主であるジブリールにいちゃもんをつける。
耳が痛いであろうその言葉にも、ジブリールは呆れたような顔をして聞いていた。
 
「何を心配なさっているのです、皆様方?この基地は万全ですよ。コーディネイター共に敗れ る確率等1%も有りはしないんです、もっと堂々と構えていればいいんですよ」
「しかしな…これだけやられていれば不安にもなる。せめて何か打開策でもあれば安心できるのだが…」
「有りますよ?勿論、私も無策でこのような状況になりはしないなどと考える愚か者では有りませんからな」
「本当かね?して、どのような……」
 
訊ねられたジブリールは顎を少し引いて喉の奥でククッと笑ってみせる。
その余裕の表情でメンバーの期待感を煽る。
 
「何…至極単純な事ですよ。攻められる前に攻め落とせって…ね?こちらが先に敵の頭を潰してしまえば良いんですよ。それでこの戦いは我々の勝利です」
 
ジブリールの案に皆がざわつく。どの様な奇策を案じているかと思えば、子供でも思いつく程単純な事だったからだ。
 
「そ、その通りなんだがな?事はそれ程単純な事では無かろう?」
「そうじゃ、攻め落とす前に奴等がこちらに来てしまったらどうするつもりじゃ? 現に今、押されているではないか」
「お年寄りが心配性なのは昔からの常ですからな、これだけでは不安に思うのも無理は無い。ですが安心して頂きたい、その辺も抜かりなくちゃんと準備してありますよ」
「ほ、本当かね!?ならその準備とやらも聞かせてもらいたいものだ」
「それは出来ませんよ。自陣の真っ只中とは言え、何処から情報が洩れるか分かったものではありませんからな。相手は我々を遥かに凌ぐ化物共です。これは分かる時が来るまで秘密にさせてもらいますよ」
「し、信用して良いのだな?」
「勿論です。私が今までにあなた方を裏切った事などありますか?」
「ム……分かった、信用しよう……」

ロゴスメンバーが一応の納得を見せ、再び戦場の状況を映すモニターに目を移す横で、
ジブリールは眉間に皺を寄せて歯噛みしていた。
 
(デュランダルめ…この借りは高くついたぞ!すぐに倍の利子をつけてお前に返してやる…!)
 
今までの余裕の上辺は脱ぎ捨て、デュランダルへの敵対心を顕わにする。
ジブリールにとってこの戦闘の結果は分かりきったものであった。後はどの様にして脱出を図るか…それだけがジブリールの懸念する所であった。