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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第41話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:42:46

第四十一話「終末の始まり」

全世界に混乱が広がっていた。本物のラクスの出現はそれだけインパクトが大きく、そしてそれがオーブに与する事に世界はどよめいていた。
そして、それを月のダイダロス基地に逃げ込んで眺めていたジブリールは自身の居場所がばれている事を匂わされ、焦って最終作戦を決行に移そうとしていた。このままでは折角ここまで逃げ延びた苦労が水泡に帰してしまう。
 
最終決戦兵器"レクイエム"……ジブリールが月で密かに用意していた反射衛星砲である。
それは幾つかのビーム偏向中継基地"ステーション"を介して、どの様な角度でも狙い撃ちが出来るという恐るべき兵器であった。
ジブリールはそれを利用し、月の裏側にあるレクイエムで正反対に位置するプラントの首都コロニー"アプリリウス"を狙撃しようと企んでいた。
 
「後悔するのだな、ギルバート=デュランダル。この私を怒らせた事をあの世で後悔するがいい」
 
ジブリールはレクイエムの発射準備に取り掛かった。
 
一方、ザフトの部隊が月に集結している中で、プラントのザフト守備隊の間では不審な動きをするコロニーの動きを察知していた。
 
「イザーク!」
「分かってる。出るぞ、ディアッカ!」
 
白服のイザーク=ジュールが佇む艦橋に緑服のディアッカ=エルスマンが飛び込んでくる。
昔からの腐れ縁の彼等には多くの言葉は必要としない。ディアッカの声色だけでそれが何を伝えようとしているのかを察知し、それに素早く反応してイザークは艦を出す。
 
「あれか……!」
 
報告のあった地点を目指し、MSの中で送られてきた映像を眺めるイザークは不思議な円筒形の物体を発見する。それが正しくレクイエムの第一中継基地"フォーレ"であった。
 
「各隊、発進を急げ!イザーク=ジュール、出るぞ!」
 
専用のグフに乗り、イザークは中継基地破壊の為に宇宙に躍り出る。
それを追いかける形でディアッカも彼専用のザクを駆って宇宙に飛び出した。

そして、ザフト侵攻前に準備を済ませたレクイエムは遂にその牙をプラントに向けて放つ。
レクイエムの一撃は鮮やかな光とは対照的な暗い宇宙を穿つ。ジブリールの悪意を乗せ、それは見る者全てに神々しさを勘違いさせるほどの輝きを持っていた。
幾つものステーションを経て凄まじい勢いでデュランダルの鎮座するアプリリウスへ向かう。
しかし、イザーク達の活躍によりフォーレの角度に誤差の生じたレクイエムの一撃はアプリリウスには直撃しなかった。しかし、惨事は他のプラントコロニー六基を宇宙の藻屑に変えた。
一瞬にして奪われた約150万もの人々の命。これを重く受け止めるデュランダルはザフトの部隊を緊急招集する。
ダイダロス基地をを制圧し、ジブリールの暴走を食い止める為にミネルバもその中に組み込まれる。

そして、その月へ向かう途中のミネルバの中、MSデッキへ向かおうとしていたカミーユは突然の吐き気をもよおしていた。
 
「ぐ…何だこれ……!あ…頭が……!」
 
吐き気だけではない、激しい頭痛も伴う。通路にうずくまり、必死に呼吸を整えようとする。
その額には大量の冷や汗が浮かび、顔色は青ざめていた。
 
「この…感覚……コロニーレーザーがサイド2を撃った時の……!」
 
似た感覚をカミーユは体験していた。それはグリプス戦役時代、ティターンズがコロニーを改造して造った巨大レーザー砲"グリプス2"によってサイド2の18バンチが沈んだ時に感じたものだった。
そして、その感覚は毒ガス作戦の時に感じたものとも似ている。
苦しみながら絶望に包まれ、無力なまま死んでいく人々の悲痛な叫びが、ニュータイプとして過剰に発達したカミーユの精神を直撃するのだ。
それは生身の体を持った人間が決して感じてはならない地獄の断末魔。カミーユは、そんな死の悲鳴を聞き続け、精神は汚染され続けていた。
 
「…は…はぁっ……!」
 
何とか顔を上げ、水分を補給しようと体を動かすが、思うように動かない。
 
「う……!」
 
嘔吐間をもよおし、慌てて口を手で押さえた。
何とか我慢できたが、何処かで体を落ち着かせなければどうにも出来ない。
 
「くぅ……」
「カミーユ?」
 
そこへ丁度通りかかったのはルナマリアだった。オーブでアスランと再開して落ち込んでいた彼女であったが、そこはもう以前の悩むだけの彼女ではない。自分で気を取り直し、整備士と次の作戦の為の打ち合わせをしようとMSデッキに向かう途中だった。
そこに、苦しむカミーユに遭遇したのだ。
 
「ど、どうしたの、カミーユ?具合悪いの?」
「……」
 
目を閉じ、ぐったりとするカミーユを見て、ルナマリアは尋常ではない症状であると認識する。
 
「ちょ、ちょっと待っててカミーユ!直ぐに先生を呼んでくるから!」
「ま…待ってくれ……水を……」
「水……?」
 
何を言い出すのかと思ったら、カミーユは水を自分に要求する。そんな場合じゃないでしょ、と言いたかったが、カミーユの視線に何も言えなかった。

「大丈夫だ…少し落ち着けば良くなる……」
「大丈夫には見えないけど……持病持ちなの?」
「…そんなところかな……」
 
微笑むカミーユ。しかし、持病を患っているのなら、それこそ医者に診せなければならない。
 
「どっちにしろ心配だわ。先生に診てもらった方が良いわよ」
「いや、もう大丈夫だ……」
 
時間の経過のせいか、思ったよりも早く体調が回復しているのが分かる。後は水を飲んでフレッシュさを補給すれば何とかなりそうだった。
まだ多少の頭痛は残っているが、ルナマリアを心配させまいと背筋を伸ばして回復をアピールする。
 
「本当に大丈夫?」
「あぁ、済まない。心配かけた」
「でも、さっきのカミーユ、普通じゃなかったけど……」
「今は大丈夫だろ?そんな事より、ルナマリアの方は良いのか?」
「あ、あたし?良いのかって…何が?」
 
カミーユが言いたいのは、ルナマリアの精神状態のことだった。レコアの裏切りを知っているだけに、ルナマリアも相当堪えているのではないかと思ったのだ。
自分とて、レコアに憧れを抱いていたりもした。
 
「アスランの…」
「言わないで……」
「敵としてまた出て来たら、その時はどうするんだ?」
「…まだ分かんないわ。でも、あたしはミネルバを離れたくない……」
「そうか……それ、多分良い事じゃないかな」
「え?」
 
何気ないカミーユの一言。そして、大した事でもない言葉。
しかし、その声に含まれる何かが、妙な説得力を持っているような気がした。何故か自分の核心を突かれた様な不思議な感覚。
 
「何で、カミーユはそう思うの?」
「ん?別に疑問に思うことじゃないだろ。仲間なんだから、艦を離れたくないって言う事、嬉しい事じゃないか」
「……怪しい。カミーユって、きっと女たらしね」
「はぁ!?」
 
ここでも冴えるルナマリアの女の勘。ある意味ニュータイプ以上の勘の鋭さで、潜在的なカミーユの本質を見抜いた。確かにカミーユは色々な意味で恋多き少年だった。
エマ、レコアは年上の女性として、ファ、フォウは同年代のガールフレンドとして…それ以外にも細かな事を数えていけばそれこそ無数に存在している。
それは、他人の理解に優れるニュータイプとしての優しさが及ぼす影響のせいだろう。
ルナマリアがカミーユを"たらし"と言い放ったのは、そういうところに敏感に反応したからだった。

「はぁ…この艦、まともな男が居ないのねぇ……ハイネ位かしら、マシなの」
「何をいきなり納得してんだ?失礼なこと言って…俺は…」
「カミーユはスケベよ。シンと同じね」
「シンはスケベだけど!」
「似たもの同士、そっくりで良いじゃない?男はスケベな位で丁度いいって、マッドさんが言っていたわ」
「あの人は別だよ!」
「あ、そうだ。マッドさんで思い出したけど、あたしこれから打ち合わせに行くんだった。じゃ、カミーユ、お大事にね」
「ちょっと待てよ……」
 
引き止めようと声に出すが、思ったより大きな声は出せなかった。体調不良のせいではない、ルナマリアの何かがカミーユを本能的に制止したのだ。
ご機嫌そうにルナマリアはMSデッキへと向かっていく。
 
「…全く!」
 
居なくなってから急に強気になって不満を表に出すカミーユ。それは、ただ単に空しいだけだった……
 
 
 
レクイエム制圧の為、宇宙を航行するミネルバに司令が下る。
それはミネルバ単艦に拠る月にあるダイダロス基地の、ロゴスの最後の拠点の制圧であった。ミネルバが丁度月の近くに居た事で、それに目を付けたデュランダルが直接通信を送ってきたのだ。
先に動いていた他の主力部隊は中継基地の破壊に向かい、ダイダロス基地の戦力をある程度分散させる。その隙をミネルバに任せる事になった。
デュランダルはそれだけミネルバの戦力を大きく評価していた。
 
『君達も疲れていることは知っている。しかし、あのような物を放って置いてはいけない事は諸君らにも分かっている事と思う。もう一息、頑張ってもらいたい』
「……それが命令であるのなら我々はそれに従います」
『済まないな、タリア……』
「通信、切ります……」
 
短い会話を終え、タリアは通信を切った。
 
タリアはデュランダルの言葉には逆らえない。ステラの件で便宜を図ってもらった事もあるが、彼女はデュランダルに対して深い負い目を持っていた。
大人の彼女はそれを表に出すような事は決して無いが、それはタリアの心の中に深い釘が刺さる様に食い込んでいた。

かつてタリアとデュランダルは恋仲であり、将来を誓い合った仲でもあった。
タリアの頭の中に、今より少し若い自分とデュランダルの姿が浮かぶ。
思い出す場面はいつも別れの時ばかりであった。
そこでタリアはいつもデュランダルに貰った指輪を返す。それを寂しそうな表情で受け取るデュランダル。
やがてタリアは別の男に肩を抱かれて去っていき、残されたデュランダルだけが宵闇の支配する中で一人佇んでいた。タリアは振り返ってそれを見るが、何も言えない彼女はそのまま前を向き、男と共に歩いていった。
 
嫌いな訳ではなかった。寧ろデュランダルの事を一番愛していたのかもしれない。
しかし、そうであるが故にデュランダルとの間に子供を産めないと知った時、タリアの中でデュランダルに対する何かが終わった事を感じた。
いくらデュランダルを愛していようと、子供が産めなければ意味が無い…そう思ったタリアはデュランダルに別れを告げたのだ。
それを仕方ないとデュランダルは受け入れてくれたが、その事で彼を深く傷つけてしまった事をタリアは今でも申し訳なく思っている。
タリアには既に子供も居るが、それでも彼女が戦いに赴くのはデュランダルに対する贖罪の意味も含まれているのかもしれない。
 
「進路、月のダイダロス基地!続いてコンディションイエロー発令、各員は直ちに配置に就け!目標宙域に到達次第、レクイエム制圧作戦を展開する!」
 
今は過去を振り切るかのようにタリアが号令をかける。
 
 
MSデッキでは慌ただしくパイロット達やメカニック達が駆けずり回っている。
 
「タンホイザー着弾後、シン、レイ、カミーユは俺に続け!」
 
駆けながらハイネが叫ぶ。
 
「あたしは!?」
 
名前を呼ばれなかったルナマリアがハイネに訊ねた。
 
「ルナマリアはブラスト装備で俺からの合図があるまで待機!いいな、勝手な真似はするなよ?」
「え…そんな!あたしも戦えるわ!」
「ルナマリアにはダイダロスを直接叩いてもらいたい。それにはインパルスのブラスト装備が一番なんだ」
「だからって……」
「確実に叩く必要がある。俺達が梅雨払いをしておくからお前は完璧に仕事をこなす事を考えていろ」
「わ…分かったわ……」
 
ハイネはルナマリアにそう告げるとセイバーのコックピットに乗り込んだ。
 
『ハイネ、何でルナを……?砲撃なら俺のデスティニーだって…』
 
ルナマリアとの会話を聞いていたシンが通信でハイネに話しかける。わざわざ傷心のルナマリアに重要な役割を任せるハイネの思惑に疑問を持っていた。

「もう甘えさせてやれる時ではないという事さ」
『はぁ……?』
「この戦争はこれから佳境に入っていくだろう。だからな、ルナマリアに余計な事を考える余裕を無くさせたい」
『それは…分かるけど、でも、これでロゴスを叩き潰せば戦争は終わるじゃないか?』
「……まだオーブが残っている」
『オーブ……!?』
 
シンはハイネの言葉が信じられなかった。確かにザフトはオーブに侵攻したが、それはジブリールを引き渡さなかったからであって、まさか次の相手にはなるまいと考えていた。
ハイネは続ける。
 
「あのオーブ侵攻作戦、議長は本気だった。そして、あの放送を聴いている限り、次の矛先がオーブに向いてもおかしくは無い」
『け、けどハイネ!いくら何でもそれは考えすぎじゃないか!?それじゃあ議長が世界を征服したがっているみたいじゃないか!?』
「そうかも知れんな…あの放送の時、議長は人類の傲慢が争いを生んでいるって言ってたよな?それを踏まえた上で考えて見ろ、争いが起こらない世界ってどんな世界だと思う?」
『え……?』
 
シンはデュランダルの言葉を思い出す。確かにデュランダルは争いの無い世界の創造を目的としていた。
ディオキアでの会談の際にはわざわざナチュラルとコーディネイターの蟠りを用いたぐらいである、それを踏まえた上で本気で純粋な平和を望んでいた事は想像に難くない。
しかし、それが意味するものはシンが思い描いていた世界とは掛け離れたものだったのかもしれないと、今になって気付いた。
 
「完全な思想統一による支配された世界…これなら戦争なんて起こり得るわけ無いだろ?」
『確かにそうだけど……でもそれじゃあ人の意思は無視されることになる……俺はそんな世界を望んでは居ない!』
「お前がどう思おうが関係ないんだ。ただ、デュランダル議長はそれしか争いを無くす方法は無いと思っているとしたら……オーブは敵になるな」
『何でさ?』
「お前も分かっているだろ?オーブがそれを許さないからさ」
 
ハイネの言葉は推測の域を出ない事は分かっている。
しかし、わざわざ偽者のラクスを用意したり、ジブリールが逃亡したというのに戦闘を止めなかったりしたのが全てその為の布石であるとしたら、そう考えるとハイネの話にも妙なリアリティを感じる。
同じ"平和"という言葉でも、ハイネの言うデュランダルの考える世界とシンの考える世界は余りにも違いすぎる。
 
『なら…俺は……』
「済まない、迂闊だったな、こんな事を言うのは……。だが、これは単なる邪推に過ぎないし、デュランダル議長は俺達の想像だに出来ない構想があるのかもしれない」
『いや……』
「……忘れろ、シン。今はデュランダル議長を信じよう。まだ何も始まっちゃいないんだ……」
『本当にそれでいいのかな……?』
「いいんだ。いいな、忘れろよ?」
 
そう言ってハイネは通信を切った。シンもそうだが、ハイネもこれ以上この話を続けると余計な雑念が入り混じってしまう危険性を感じていた。
その時、音声のみで誰かの声が聞こえてきた。

『何故、今の話をシンにしたんだ?いつものハイネらしくないじゃないか』
「カミーユか……」
 
隣に立っているΖガンダムの腕がセイバーの腕に触れていた。接触回線による通信で音がすこぶる悪いが、それでもハイネは既に聞き慣れたその声がカミーユのものである事が分かっていた。
 
「盗み聞きとは恐れ入るが、俺らしくない…か……」
『済まない、聞かせてもらった』
「別にカミーユなら構わないがな……」
 
ハイネは一呼吸置いて続ける。
 
「お前にだけ白状するがな……俺はザフトに…いや、デュランダル議長に不信感を持っているのかも知れん」
『何を……!?』
「客観的に自己を見つめてみた結果だ。自分でも意外だったがな」
『でも、ハイネお前は……』
「確かに俺はザフトで、今まで軍の命令に従ってやってきた…何の疑問も持たないようにな。が、最近のザフトは何処かおかしい。まるで二年前の大戦末期の頃の様な狂気が渦巻いているような気がしてならないんだ」
 
ハイネはカミーユだけには隠し事が出来ないと感じていた。それはカミーユがニュータイプである事が原因としていたが、ハイネは知らず知らずの内にカミーユに対して警戒感に似た侮れなさを抱いていた。
カミーユは何もかもお見通し、その感性がハイネに心の内を吐露させていた。
 
『俺は二年前は知らないけど、いつも軍の命令にうるさいハイネがそう言うのだから、今という時がおかしいというのは分かる。だが、それをシンに言うなんて……』
「いや、お前も俺と同じ気持ちなんだろ?俺だって愚痴を零したい時はある。あとは……カミーユも感じていると思うが、この戦争の鍵を握っているのは多分アイツじゃないかって思ったんだ。アイツが最後の力になる…それがどちらの力になるかまでは分からんがな……」
『シンが裏切る可能性があると……?』
「否定はせんがな…お前なら分かるだろ?」
 
さも意味ありげな台詞をカミーユに投げつける。それに対してカミーユは苦笑いを浮かべたが、彼にもシンがどうなるかは判るはずもない。
ニュータイプは預言者では無いのだ。

「いいさ、それで……俺は俺が決めた役割を演じる事に決めた。それがどんな結末を迎えようと、俺は後悔しない事にする。まだどうするか決めてないけどな」
『そんなこと言っていいのか?』
「俺とお前だけの秘密だ。黙っててくれよ?」
『それはいいけど……』
 
会話の途中で艦内警報が鳴り響く。作戦宙域に到達したようだ。
 
「お前ならさ…何となく俺の気持ちを分かってくれると思ったのさ。……時間だ、掛かるぞ」
 
セイバーが出撃の為に移動を開始する。それと同時にセイバーとΖガンダムの接触部分が離れ、通信が切れる。
 
(疑いたくは無いが……)
 
遠巻きにレジェンドのコックピットの中で見つめるレイは、セイバーとΖガンダムが接触していたのを見ていた。
 
(何を話していたかは知らんが、報告だけはしておくべきか……?)
 
流石に会話までは聞こえていなかったが、それを咎める訳でもなく、レイは黙って疑いの目を向けるに留めていた……