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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第47話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:44:42

第四十七話「裏切りの代償」

ミネルバのブリッジでは相変わらずに激しいアークエンジェルの攻撃から、怒声と無機質な機械の操作音が纏まりの無い音楽を形成していた。
そんな時、通信担当のメイリンの耳に通信回線が聞こえてきた。
 
『……に居るミネルバ!こちらハイネ=ヴェステンフルス!ミネルバ、どこに居る!?』
「ハイネさん!?」
『やっと繋がったか!何のつもりで現場を離れた!?』
「いえ…その……レイ隊長から要請を受けまして……」
『レイだと……!』
 
回線の向こうからでもハイネの憤りが伝わってくる。普段のハイネからは考えられないほど低音の効いた声だった。その様子にメイリンは冷や汗が滲むのを感じた。
 
『…現在位置をこちらに送れ!それとデッキにセイバーの補給の準備をさせておけ!』
「は…はいっ!」
 
ハイネの凄まじい剣幕にメイリンは返事する声が震えてしまった。あんな剣幕で怒鳴るハイネは初めてであった。
ふと振り返ると、他のクルーの表情もいつもとは違う。皆一様に眉間に皺を寄せ、口は大きく開き、その眼は研いだナイフの様に鋭く光っていた。
 
(何、この雰囲気?これ、普通じゃ無い……!?)
 
メイリンの目に見えるのはいつもと同じミネルバのブリッジの風景とそのスタッフである。
しかし、そこでメイリンが目にした風景は彼女が全く知らない風景だった。
何かに囚われる様に戦いに引き込まれていくブリッジ。そしてそれは戦場で戦っているMSパイロット達も同様だろう。
どんな眠気も一発で吹き飛んでしまいそうな身を切り裂かれそうな雰囲気の中、ある意味で普通の女の子の感覚をもった、違う意味では軍属としては未熟なメイリンの感性はその異常性を鋭敏に捉える。
 
「セイバーが入るぞ!準備急げぇ!」
 
MSデッキに拡声器も使ってないのにマッドの声が空間全体にはっきりと響き渡る。
荒々しくセイバーが雪崩込んで来ると、コックピットが開いてハイネが滑り降りてくる。
 
「補給急げ!…おい、それ寄越せ!」
 
飲み物片手にヴィーノがせわしなく作業している所に、ハイネはその飲み物を奪い取る。ハイネの態度は横柄であったが、ヴィーノも状況に自分の感情を抑えられていたため、機械の如く何事も無かったかのように作業を続ける。
ピンと張った糸のような空気が全てを支配していた。
無駄口を叩く者は誰も居ない。

「マッド、どのくらいで出来る?」
「簡単な補給だけなら二十分…いや、十五分ってとこですかね。ライフルの予備はありますけどビーム砲は駄目ですぜ」
「無いのか?なら、半分の時間で終わらせろ」
 
そう言ってハイネは飲み物のカップを置く。
 
「半分?そりゃ無茶です!十五分だってかなり無理した時間ですぜ」
「そういう心構えでやれって事だよ」
「……了解です」
 
ハイネはかつて無いほど苛立っていた。三機のドムを相手に全く歯が立たなかったばかりか、友軍を犠牲にして逃げ帰ってきたのだ。
これまで隊長としてやってきた彼のプライドはズタズタに切り裂かれてしまった。
しかし、それでめげるハイネではない。
心の内で燃え上がる怒りの炎はそんな出来事も燃やし尽し、ドム三機に対する敵対心ばかりが膨れ上がっていった。今のハイネは開戦前にカミーユと話した議長の阻止など考えられる状態ではなかった。
 
 
その頃、ハイネのセイバーに振り切られたヒルダのドム隊であったが、障害が逃げた事で最優先事項であるレクイエムの破壊に向かっていた。
順調に三機のコンビネーションで進撃を続けていた三人だったが、そこへハイネの気配を辿っていたカミーユのΖガンダムと遭遇する。
 
「あいつは!金色の大佐は仕留められなかったようだね!」
『姐さんの仰るとおり、上手いのは世辞だけだったってことでしょう?俺達が奴の尻拭いをして恩を売っておきましょうぜ!』
『姑息な考えは感心しませんが、私には彼に借りがありますからね、ヘルベルトの意見に賛成です』
「よし…さっきのオレンジショルダーみたいに遊んでやんな!」
『了解です、姐さん!』
『掛ります!』
 
三機はΖガンダムを囲うように散開して三方向からの射撃をする。
 
「ハイネの気配を追って来たが、こいつ等まさか……!」
 
セイバーと交戦していた筈のヒルダ達が単独で行動している事にカミーユは不安を覚える。しかし、ハイネが撃沈されればカミーユにその事を感じる事が出来るはずである。
それが無かった事からハイネはまだ生きているのだろうと確信したが、だとすればハイネが何処に行ったのかが分からなかった。
カミーユは三機のドムの内のヒルダ機に的を絞り、接近を仕掛ける。
 
「こいつ……!ヘルベルト、マーズ!蜂の巣にしてやんな!」
 
ヒルダが命令すると、ヘルベルトとマーズのドムはビームを放つが、それは完全に見切られた動きで回避されてしまう。
 
『何だアイツは!?この前と全然動きが違うじゃないか!』
『大気圏内と空間では性能が違うとでも言うのですか!?』
「ちぃ……!」
 
耳に聞こえてくるヘルベルトとマーズの焦った声にヒルダは舌打ちをする。
正面から見てはっきりと分かった。Ζガンダムの動きはヒルダ達の常識を遥かに超越した動きをする。それはまるで相手の考えが分かっているかのような不気味さを放っていた。

「あたしに楯突くなんて、十年早いんだよ!」
 
威勢の良い叫びとは裏腹にヒルダはカミーユの危険さを分かってしまった。
それでも何とか虚勢を張って気持ちを誤魔化そうとΖガンダムに攻撃を仕掛けたが、それも当たり前のようにかわされて組み付かれ、ビームライフルを突きつけられる。
 
『気安く触るんじゃないよ!』
「……!女!?」
『女で悪いかい!』
 
聞こえてきた声にカミーユは一瞬戸惑ってしまった。だが、直ぐに気持ちを落ち着かせてヒルダのドムを他の二人に対して楯にするように向き直る。
 
『ヘルベルト、マーズ!あたしに構わずにこいつをやっちまいな!』
「待て!お前に聞きたい事がある!」
『子供の言う事は聞いてやれないね!』
「何だと!?それが捕われている側の言う事か!」
『あんた…ここに何しに来たんだい?あたし達は戦争をやってんだよ!』
「勝つ為なら死んでもいいって言うのか!」
『あんたを倒せるならね!危険なあんたを放置しておけるほど、あたしは耄碌しちゃ居ないよ!』
「大人が言う事かよ!」
『あんたが子供なのさ!』
 
『ど…どうすんだマーズ!姐さんの命令は……』
『く…卑怯な真似を……!』
 
ヘルベルトとマーズは捕えわれのヒルダを前に何も出来ずに居た。いくらヒルダの命令でも、彼女を慕う彼等は簡単にその命令に従うことは出来ない。
 
「ハイネを…セイバーをどうした!?」
『セイバー……さっきのオレンジショルダーの事かい?奴ならあたし達が遊んでやったら尻尾巻いて逃げてったよ、仲間を犠牲にしてね!』
「犠牲……ハイネが……!?」
『可哀相にね、あのグフのパイロットは……けど、もっと可哀相なのはここで朽ち果てるあんたさ!』
「!?」
 
正面から取り付いたカミーユの視界にドムの胸部の穴にエネルギーが集中するのが分かる。スクリーミングニンバスに気付き、慌ててカミーユはドムから離れ、距離を置く。
 
『流石は姐さん!』
「ちっ、勘のいい坊やだね!ヘルベルト、マーズ!ジェットストリームアタックを仕掛けるよ!」
『はっ!』
 
囃し立てるヘルベルトを無視し、舌打ちをするヒルダの言葉にマーズが応える。
 
「マーズ、あんたがトップを張んな!止めはあたしがやるよ!」
『了解です、ヘルベルトは無茶をしないように!』
『余計なお世話だ!』
 
三機のドムが一直線に並び、先頭がスクリーミングニンバスを放ってΖガンダムに突進してくる。

「またあの光か……!」
 
Ζガンダムはビームライフルを三発放つが、案の定それは遮られ、仕方なしにウェイブライダーに変形して逃げる。
 
『逃げる…どうしますか、隊長?』
「あたしに恥を掻かせたんだ、追うよ!」
 
頭に来ていたヒルダはΖガンダムに固執して追撃を掛ける。
 
「追って来るのか?…メガランチャーは……あれか!」
 
アカツキとの交戦中に投棄したハイパーメガランチャーがまだ破壊されずに残っていた。それを再び回収し、一直線に並ぶ三機のドムに向けて構える。
 
「はん!でかけりゃいいってもんじゃないよ、何でもね!マーズ、そのまま突っ込みな!」
『はっ!』
 
「これなら!」
 
Ζガンダムからハイパーメガランチャーの強烈な一撃が放たれる。出力を最大にしたハイパーメガランチャーは普段よりも太い軌跡を残して真っ直ぐにドムに向かった。
 
『!?』
 
マーズは瞬時にそれがやばい事だと悟った。しかし、悟った時には既に手遅れで、ハイパーメガランチャーのビームがスクリーミングニンバスの"膜"を突き破ってマーズのドムの頭部を吹き飛ばす。
 
「マーズ!」
『姐さん、もう一撃だ!』
「!?」
 
マーズに気を取られ、ヒルダは回避行動をとるのが遅れる。ヘルベルトは二射目のビームをかわしたが、ヒルダはドムの左足の膝から先を吹き飛ばされてしまう。
 
『姐さん!』
「くぅ……!」
 
カミーユはすかさず三射目を狙う。
 
『やらせん!』
「なっ…こいつ!?」
 
そこへマーズのドムが突進してくる。カミーユはそれを回避できずに捕まり、ハイパーメガランチャーの照準を狂わされる。
 
「止めろ!死ぬぞ!」
『この程度!』

マーズはΖガンダムの目の前にバズーカを突きつける。
しかし、マーズがバズーカのトリガーを引く前に銃剣になったハイパーメガランチャーがドムの腕を切り離す。
 
『うおおぉぉぉぉっ!?』
「忠告を無視するからこうなっちゃうんだろ!」
 
そのままΖガンダムはハイパーメガランチャーを振り上げ、マーズのドムを真っ二つに切り裂く。
 
「マーズゥゥゥゥゥ!?」
『こ、このクソ野郎!』
 
悲鳴を上げるヒルダは所詮は女でしかない。目の前で戦友を失い、現実を受け止められずに居た。
そんなヒルダとは対照的にヘルベルトがΖガンダムに感情の赴くままに突撃を敢行する。
 
『マーズの仇ぃぃぃぃ!』
「来るのか!?」
 
ヒートサーベルで飛び掛ってきたドムをΖガンダムは銃剣で受け止める。そこまでは良かったが、重すぎるハイパーメガランチャーの銃剣では思うようにドムの攻撃を捌けない。
 
『手前ぇもあの世へいけぇ!』
 
気迫でハイパーメガランチャーを切り伏せる。間髪入れずに襲い掛かるが、すぐさまビームサーベルを引き抜いたΖガンダムに攻撃を防がれてしまう。
 
『姐さん、今です!今、こいつを!』
「あ…あぁ……う……」
『姐さん!?早く、今、俺が止めている今!』
 
必死にヒルダに呼びかけるヘルベルトだが、ヒルダには聞こえていない。マーズのドムが散った場所を見つめ、吸い込まれそうな感覚にギリギリで抵抗している状態だった。
 
『姐さん!』
「目の前に立つから!」
 
ヒルダを呼び続け、Ζガンダムから意識が離れていたヘルベルトは、Ζガンダムが二本目のビームサーベルを引き抜いたことに気付いていなかった。
 
『姐さん、早く!』
「……!」
 
悲痛な叫びを上げるヘルベルトにカミーユは気付いていた。しかし、それでも彼はドムの残された右腕も切り飛ばす。
 
『ぐおぉぉ!まだだ!まだマーズの仇は討っちゃいない!まだだ、姐さん!早く!』
「む、向かってくるのなら……落とす!」
 
Ζガンダムはビームライフルを構え、腕を失いながらも突撃してくるヘルベルトのドムに照準を定める。
 
『姐さん、今だ!今しか……!』
 
ビームライフルからビームが放たれる。
直撃。Ζガンダムから放たれたビームは綺麗にドムのコックピットを貫き、ヘルベルトは痛みも恐怖も感じる間も無く消失した。

「へ…ヘル…ベルト……」
 
ヒルダに最早戦う気力は残されていない。一瞬のうちに二人を失い、耳に残る彼等の声がやけに鮮明に残っていた。実感が沸かない。
 
「どうする?アイツはもう戦わないのか……」
 
その場で制止したまま動こうとしないヒルダのドムを眺め、祈るようにカミーユは呟く。
そんな時、彼方の方向からのビームがヒルダのドムを襲った。
 
「な…何処から!?やめろ、彼女はもう戦う意思は持っていない!」
 
誰とも知れぬ相手にカミーユは呼び掛けるが、戦意を喪失していたヒルダはその攻撃を避けられずにあっさりとビームに撃ち貫かれ、彼女のドムは爆散した。
 
『仇は…仇は討ったぞ……!』
「ハイ…ネ……」
 
ミネルバで補給を終えたハイネが急行してきたのだ。カミーユが他の二人を撃墜した事は知らないが、隙を見せていたヒルダに容赦なくビームライフルを浴びせた。
少しづつ戦争が人の心を狂わせていく。
 
『カミーユ、良くやってくれた!』
「ハイネ……」
 
カミーユはハイネに言葉を返せない。ハイネの内に渦巻く憎悪の炎が彼に戦意喪失のヒルダを討たせたのだと思うと、複雑な気持ちになる。
 
『どうしたカミーユ?喜べ、敵を倒したんだぞ?』
「落ち着けハイネ!俺たちの目的は敵を倒す事じゃないだろ!それなのに無抵抗の相手を…」
『何言っている!?奴らだって何人もの同胞を殺した!それを討って何が悪い!』
 
ハイネは叫ぶ。まさかカミーユに自分の行動を窘められるとは思っていなかった。
 
『それともお前…ここに来てオーブの味方をするつもりか!?やっぱりお前は所詮はナチュラルか!?』
「そうじゃなくて…今のお前は怒りで本当に大事な事を見失っている!」
『何だと!?』
「憎しみに引っ張られたら、それこそ誰も救えやしないだろ!」
『オーブも止めるのが俺達の目的だろう!俺はブレていない!』
「それはそうだが、憎しみで戦っていたのでは…」
『こんな戦場で冷静になれるかよ!戦う力が沸いて来るのなら、憎しみも利用するべきだ!』
「そんなんでは…」
『超越してみせるよ!』
 
その時、彼方から二機のMSが接近してくる。インフィニットジャスティスとそれを追いかけるインパルスだ。
インフィニットジャスティスはインパルスにビームライフルを連射する。しかし、それをルナマリアは見切っているのか、彼女らしからぬキレた動きで回避し、その距離を一気に縮める。
 
「アスランとルナマリア!」
『話しは又後だ!俺はルナマリアを援護する、お前はミネルバへ戻れ!』
「ハイネ……」
 
それだけ言い残してハイネは二人を追いかける。

「憎しみは自らも滅ぼす諸刃の剣にもなるんだぞ……!」
 
カミーユは片手を頭に添える。頭の内側からひりつく様な痺れに似た感覚がした。
 
 
何度となく攻防を繰り返し、インパルスとインフィニットジャスティスは終わりらない鬼ごっこを続ける。
そんな折、逃げる事に飽きたのか、インフィニットジャスティスが廃棄された艦船の中に逃げ込む。罠の可能性を考慮しなければならないが、爆発した感情を抑えられないルナマリアはこれを逆にチャンスと思い、続いて艦船の中に飛び込む。
 
辿り着いてみると、インフィニットジャスティスのコックピットハッチは開き、アスランの姿は何処にもなかった。
インパルスから降りたルナマリアは念のためインフィニットジャスティスのコックピットを覗いてみたが、案の定アスランの姿はなく、彼女はアスラン捜索の為に拳銃を片手に残骸が浮かぶ廃艦の中を進む事にした。
暫く通路を進んでラウンジの近くに来ると、その中から人の気配がした。きっとアスランに違いない、ルナマリアはそう思った。
入り口の側で拳銃を構え、そっと中の様子を窺う。
アスランが居た……女の勘が怖いほど的中していた。
 
「ルナマリア!」
 
しかし、女の勘もアスランの感覚を鈍らせるまでには至らなかった。
ラウンジの中からアスランがルナマリアに気付き、呼び掛ける。
だが、ルナマリアはアスランの言う事を聞くのも癪だと思い、試しに拳銃だけドアの隙間から差し入れて一発放つ。
 
「なっ!?」
 
流石は元ザフトのエリートである。ルナマリアのヘタクソな射撃ではまるで当らない。その身のこなしは少々オーバーであったが、とてもではないが当てられる気がしなかった。
 
「そんな卑怯な真似をせずに出て来い!」
「あんたにそんな事言われる筋合いは無いわよ」
 
ラウンジの外からルナマリアが銃を構えて姿を現した。その瞳にアスランは思わず唾を飲む。
 
「あんたがわざわざここに逃げ込んだのは、こうして話をする場を作ってくれたって事かしら?」
「そうだ、君の本心を聞きたい」
「本心……?」
 
ルナマリアは喉の奥で笑った。アスランはそんな邪悪な笑みを浮かべる彼女を見た事が無かった。
一頻り笑い終えると、ルナマリアは追い詰められた様な表情で唇を震わせてアスランを見つめる。
 
「今更そんな事聞いて何になるの!?この手に持っている銃があたしのあんたに対する本心よ!見て分からないの!?」
「その前にオーブでの返事を聞かせてくれ!君がザフトに居る理由は無い、寧ろ君は俺たちと共に来るべきだ!行こう、一緒に!」
「何を言っているの?これが答えだって言ってるじゃない……それともこうしなければ分からないの?」

そう言うとルナマリアは何の躊躇いも無く銃の引き金を引く。アスランは身構えたが、それはギリギリの所で外れていた。
アスランは彼女がワザと外したと思ったが、ルナマリアは何度も言うが射撃が下手である。本気でアスランを狙って天然で外したのだ。
 
「ル、ルナマリア……」
「あんた、自分を何様だと思っているの?皆を裏切って、傷つけて、嘲笑って……」
「嘲笑ってなんかは……」
「あたし達がザフトで戦っている事を笑っているんでしょ!何処で造られたかも分からない上にやたらと強いMSに乗って、それであたし達を馬鹿にしてるんでしょ!」
「誤解だ!俺はそんな安っぽい目的の為にザフトを離れたんじゃない!もっと大きな…議長の妄想から世界を守る為に!」
「それはオーブの元首の言葉?それとも、本物のラクス=クラインの言葉かしら?」
「なっ!?」
「あんた、自分の言葉を使いなさいよ……そうやっていつも他人の言葉を借りて言い訳するの、みっともないわ」
「彼女達の意思は俺と同じだ!」
「違うわ。あなたの目、嘘をついてる目をしているもの」
「……!」
 
見透かすような目で自分を見つめるルナマリアがやけに鬱陶しく感じた。それが哀れみを投げ掛けられている様で、屈辱だった。
だが、アスランもこのまま黙って言わせているわけにはいかない。ルナマリアの言葉通り嘘をついていようとも、彼女の言いなりになるわけには行かないのだ。
 
「そう言う君こそ、議長に従っている事に疑問を持たないのか?そうしている事で人類の未来が閉ざされてしまう事位、君にだって分かっているだろう?」
「分かっているわ」
「なら、君の方こそ自分に嘘をつくのを止めるんだ!それで、俺たちと一緒に議長を止めよう!」
「だから、それは出来ないわ」
「何故だ!?何故分かろうとしない!?そうまでしてザフトに付く意味は無いだろう!?」
「あんた、自分たちの事が見えていないのね?」
「……どういう意味だ?」
 
ルナマリアはやたらと聞き返してくるアスランに向かって溜息をついた。
それをアスランは眉を顰めて黙って見ていた。流石にルナマリアの態度に腹が立ったが、自分の方が正しい事をしていると思い込んでいる余裕からか、何とか感情を抑えていた。
 
「この戦い、止められるのはあんた達じゃないわ」
「俺たちじゃない?なら、誰だと言うんだ!」
「……シンとカミーユ」
「シンとカミーユ……?」
「そして彼等はあんた達も許しはしないわ……!」
「お…俺達も?…しかし……」
 
理由がアスランには分からなかった。
アスランの中でのシンのイメージはとにかく感情が第一に噴出し、物事を考えて行動するよりも直感的に行動する印象が強い。そんな彼に戦闘の仲裁など出切るとは全く思わないし、できるとすれば力に拠る解決だけだと思っていた。
それでは結局はロゴスがレクイエムを使ったのと大差は無い。
一方のカミーユに至っては最早論外である。
彼は異世界からの来訪者である。そんな彼がこの世界の戦争に介入する事自体御門違いなのに、それを言うに事欠いて終戦の為のキーパーソンに挙げるルナマリアの感性が理解できなかった。

「理由は?」
「自分で考えなさいよ」
 
お話にならない、とアスランは呆れるしかない。自分から言い出しておいて相手に答えを投げっぱなしにするのは、きっと確たる理由が無いからだと考える。
何となくで語るルナマリアをきつく睨んだ。
 
「適当な事を言って誤魔化そうとしても無駄だ!」
「やっぱりね……」
「はぁ!?」
 
馬鹿にするようなルナマリアの声は、次第にアスランの感情の琴線を揺らしていった。冷静に努めようとする一方で、今すぐ怒鳴り散らしてやりたい気分もあったが、我慢した。
ここで感情任せになってしまっては、負けだと思ったからだ。
 
「あんたには分からないでしょうね?シンがこれまでどんだけ頑張ってきたかなんて……」
「シン……!」
「カミーユだってそうよ。大人しくしていればこんな戦争に巻き込まれずに済んだのに、それなのに一生懸命あたし達と戦ってくれた」
「それも全ては議長の!」
「あの二人が一人の女の子の命を救った事、知ってるかしら?」
「何の事だ?」
 
突然のルナマリアの言葉にアスランはやや頭の中が錯乱する。アスランの知っているルナマリアと違う雰囲気を醸し出している事が彼を惑わせる要因の一つとなっていた。
 
「なら、ベルリンのデストロイの事件は知っているでしょ?あの時、二人がデストロイのコックピットから彼女を救い出したのよ。二人ともボロボロになってね、死ぬ思いでステラを連合の兵器から守ったのよ」
「それは…」
「それでも全てが議長に仕組まれた事だって言えるの?あの二人の頑張りが全て偽りのモノだって、あんたはいちゃもんをつけるのね!」
「そういうわけじゃ…無い……」
「彼等みたいに人の命に一生懸命になれる人が、戦争を止めるべきなんじゃないの?それとも、あんた達みたいに無闇に敵を増やして、いちいち潰さなくちゃ平和を勝ち取れない人が戦争を止める権利を持っているの?
あたしにはあんた達に戦争を止める権利や使命があるとは思えない!」
「…しかし、ルナマリア、君自信はどうなんだ?ザフトで戦う事に疑問を持たないのか?」
 
言い返せないアスランが反撃といわんばかりにルナマリアに質問を投げ掛ける。
 
「あたし、デストロイと戦っていた時は塞ぎこんでて見てなかったわ。それで後になって救い出されたステラの事を知った。あたし、最初は彼女の事を憎んだの……何故だと思う?」
「俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて…」
「アスランが居ないのに何故この子は生きているのって、そう思ったのよ」
「俺……!?」
「デストロイで破壊の限りを尽くしたこの子が助かって、ミネルバの為に戦ってたアスランが居なくなるなんて間違ってる……そう思って自然とあの子を受け入れる皆を拒絶してたのよ!」
 
ルナマリアの声が少し大きくなる。
 
「でもね、そんなあたしを皆は見捨てずに助けてくれた!それがどれだけ有り難い事か、裏切り者のあんたには分からないでしょうね!」
「ぐ……!」
「あんた、さっきあたしにザフトに居る理由が無いって言ったわよね?大有りよ!あたしにはミネルバに残る理由がある!」

感情が高まってきたのか、ルナマリアは大げさに腕を振り回し、アスランを否定するように声を荒げる。
 
「あたしを支えてくれる仲間が居る!それだけで十分よ!一人で壁を作るあたしをメイリンが救ってくれた!可愛い妹を残してあんたみたいな恥知らずな事が出来るか!」
「なら、二人で来い!それなら…」
「何処までふざければ気が済むの!?仲間を見捨てて出て行けるわけ無いじゃない!そんな最低な事、あんた一人で十分よ!」
 
言いたい事を包み隠さずにアスランにぶつけるルナマリア。アスランを慕っていただけに失望による反動が誰よりも大きかった。
しかし、言われるアスランはもっと苛立っていた。
 
「なら、俺はどうすればいい!?こんな事になって、それでも俺はこうする事が正しい事だと思ってここまでやってきた!それを否定されたら、俺は…俺の気持ちはどうなる!?」
「知らないわよ、そんな事!自業自得でしょ!?」
 
アスランにはもう何も残っていない。
一生の付き合いになりそうな人物は見当たらないし、親友と思っていたキラは既に自分の生き方を確立させてしまっている。何よりも彼にはラクスの存在がある。
友人としてはやっていけるだろうが、それがアスランの生き甲斐になる事は無い。
そして、唯一心を通わせていたと思っていたカガリの心は既にアスランの下を離れていた。ザフトを離れる決意を固めた時、自分を何と愚かしい人間だろうと思っていたが、それもカガリの為と思えばこそ、何とか心のバランスを保っていられた。
しかし、それすらカガリに拒絶されてしまった今、アスランが頼りにするのはミネルバに残った仲間を引き込む事だった。
追い詰められたアスランは、彼等を説得する事が出来ればもう一度以前のような関係に戻れるのではないか、という愚かな幻想を抱いていた。
しかし、それも今この場でルナマリアに否定されてしまう。
 
「ルナマリア、君が何故俺にそこまで言える?君は俺に惹かれていたじゃないか!?だったら、俺の気持ちだって…」
「あんた何言ってんの!?あんたがあたしの気持ちを無視したんじゃない!それなのに今更になって気付いていましたって言われても、そんなのただの卑怯者の言う事じゃない!」
 
こんな時になって初めてルナマリアの気持ちに応えようとするアスランにルナマリアは憤る。彼女にしてみればこんなアスランはただの都合の良い男にしか見えなかった。
ルナマリアの中のアスランに対するイメージが幻滅と共に崩れていく。最早アスランに魅力を微塵も感じなくなっていた。
 
「あんた、もしかしてもう何も残ってないんじゃないの?だから興味ないくせに気のある振りしてあたしと話をしようって思ったんじゃないでしょうね?」
「そんな事あるか!俺はただ君の気持ちに対する答えを……」
「本当かしら?」
 
言い訳くさく話すアスランを、ルナマリアは見下すように顎を少し上げる。
アスランはそれから逃れるように顔を正面から逸らしたが、ルナマリアの銃を気にして視線だけは外さなかった。
二人が沈黙したまま時が流れる。
廃艦の開いた穴からはビームの閃光や爆発の光が絶え間なく点いたり消えたりしている。こうしている間にも激闘は続いている。

「話したいことは終わりかしら?」
「……」
「肯定と見なすわ。なら、これでお別れね、アスラン……」
 
ルナマリアはゆっくりと無重力の中を泳ぎ、銃口をアスランの頭部へ突きつける。
これも戦争の魔力だろうか、彼女の目の下には隈が出来ており、見開かれた瞳は何かに取り憑かれているようだった。
視線を落とすアスランはそれに気付かないが、彼の目は死んでいなかった。
 
「……っ!」
 
確実に止めを刺すために近付いてきたルナマリアの肘をアッパーカットの様に下から突き上げる。
 
「つぅっ!?」
「迂闊だな、ルナマリア!」
 
突然の衝撃に痺れる腕に、思わず銃を手放してしまう。それをアスランが素早く拾い上げ、ルナマリアに銃口を向ける。
 
「あんた……!」
「形勢逆転だな、ルナマリア?こんな手荒な真似はしたくなかったが……最後の選択だ。このまま俺と来るか、それともここで死ぬか、全ては君次第だ」
「銃突きつけてあたしに自由があるような事言わないで!」
 
ルナマリアのヘルメットの脇を銃弾がすり抜ける。ヘルメットに銃弾が掠った痕が出来る。
 
「わざと外した。次に口応えをすれば今度は君の眉間に穴が空くことになる」
「……!」
「俺だって本当はこんな事したくないんだ……!」
 
ルナマリアは歯を食いしばり、鬼の形相でアスランを睨みつける。歯に力を入れすぎて、口の中で血の滲む味がした。
 
「そんな目で睨んでも無駄だ。……頼む、俺に引鉄を引かせないでくれ……もう、こうするしか俺が俺を保てないんだ……」
 
アスランの心は既に砕けそうになっていた。何も残されていないアスランにとって、今はルナマリアだけが彼の心の拠り所だった。
ここへ来てキラは本当に自分の親友であるかどうかを疑った。
カガリは離れていった。
最後の望みとしてアスランはルナマリアに賭けた。
しかし、それも不可能と分かると、アスランは力尽くで彼女を自分に従わせる方法しか思いつかなかった。
 
「さあ、どうするルナマリア!」
「考えるまでも無いわ。あんたに屈服するぐらいなら、ここで死んだ方がマシよ!」
「……残念だ……」
 
アスランはゆっくりと引鉄に指を掛ける。ルナマリアと違い、多少距離が離れていようとも狙った箇所に弾を命中させる事は容易であった。
 
銃口を見つめるルナマリアはメイリンに思いを馳せる。
彼女の見つめる先にメイリンの幻が見えた気がした。そのメイリンの顔が笑顔で、それを思い浮かべるだけでルナマリアは泣けてきた。
目から大粒の涙を流し、一言小声でメイリンの名前を呼ぶ。

その時、別の入り口のドアが開き、一発の銃弾がアスランの銃を弾いた。
 
「何っ!?しまっ…!」
 
アスランは腕を押さえ、飛ばされた銃は慣性に流されて穴の空いた壁から外の宇宙空間へ出て行ってしまう。
 
「アスラン!」
「くっ!ハイネか……!」
「アスラン…修正してやるぜ……!」
 
銃を構えて飛び込んできたのはハイネだった。二人を追いかけ、ここまで乗り込んできたのだ。
 
「無事か、ルナマリア!」
「ハ…ハイネ……!」
 
涙でグショグショになった顔でルナマリアはハイネに抱きつく。
 
「おっとっと」
 
少し戸惑って慌ててしまったが、ハイネはそれを優しく抱きしめた。
 
「く……!」
「みっともないぜ、アスラン。丸腰の女に銃突きつけるなんて、英雄も堕ちるとこまで堕ちたな」
 
震えるルナマリアを片手で抱き、天井に当る部分に足をつけて銃を構える。丁度アスランの頭の位置とハイネの頭の位置は正反対になった。
 
「先に恫喝してきたのは彼女だ……!」
「嘘だな。それでこんなにルナマリアが怯えるかよ?」
「途中で乱入してきて嘘つき呼ばわりか……!」
「当然だろ?お前は俺たちの敵なんだ、信用しろってのがそもそも無理な話なんだよ」
 
アスランは手を押さえてハイネを睨む。自分とルナマリアの会話に割り込んできた事が許せなかった。
 
「言ったはずだ、今度出て来たら容赦しないってな」
「話せば分かり合えるかもしれないだろ……!」
「そうやって何人の人間を惑わせてきた?ルナマリアもその一人なんだぞ!」
「俺は惑わせるつもりは……」
「自覚が無いならハッキリさせてやる。お前のそういう曖昧で歯切れの悪い態度が全ての原因なんだよ!ルナマリアがあれだけ追い詰められたのも、お前がザフトに戻ってまた裏切ったのも、全ては中途半端な志で行動しているお前自身に問題があったからだ!それを分かれ!」
「ハイネ…もういい……」

ルナマリアが埋めていた顔を上げ、ハイネに話しかける。意外そうな顔をしてハイネも顔を向ける。
 
「しかしルナマリア、こいつは…」
「この人は結局こういう可哀相な人なのよ……これ以上は意味が無いわ……」
「……見逃していいんだな?」
 
問い掛けるハイネの言葉にルナマリアは黙って頷いた。彼女としても、もうこれ以上アスランに関わりたくなかった。
ここで彼を殺す事で余計に彼の事を忘れられなくなる恐れもある。そうなるのなら、いっその事見逃して自然と忘れ去る方が良いとルナマリアは考えた。
アスランは気力が失せたのか、呆然と宙を見つめている。彼なりに考えを巡らせているのだろう。
 
「行けるか、ルナマリア?」
「うん……」
 
二人は連れ立って廃艦のラウンジを出て行く。
残されたアスランはそれを焦点の定まらぬ瞳で見ていることしか出来なかった。
 
(…俺には……)
 
ハイネとルナマリアはMSの下へ辿り着き、乗り込んだ。ルナマリアはインフィニットジャスティスをチラッと見たが、アスランの顔も浮かんでくるようで直ぐに視線を逸らした。
 
『さて、こいつは壊しておくべきだな。あんな奴でも、放っておいたら厄介だ』
「待って、ハイネ」
『どうした?』
「これはこのままにしておいて」
『何言ってんだ?敵は減らしておくべきだろう』
「ここでジャスティスを壊したら、アイツはここで死ぬかもしれない……」
『そうだ。それでも構わんだろ』
「あの人は生きるべきよ。生きて苦しむべきなのよ…そして、自分の犯した罪を後悔するべきよ」
 
ルナマリアの低い声にハイネは気圧された。こんなルナマリアは見た事が無い。それだけ、アスランに対する失望が大きかった事だろう。
極力動揺を出さずに、ハイネは口を開く。
 
『…分かった。まだ戦闘は続いている、出るぞ』
「了解」
 
彼女らしからぬ無機質な声に不安になりながらも、ハイネはセイバーを起動させた。後ろからはルナマリアのインパルスがついて来ていた。