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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第52話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:48:38

第五十二話「運命の翼」

(デュランダル議長は結局は邪魔となるオーブを倒す事が目的だったのか……?けど、あの時話した事にどれだけの正当性があったのか、確認する必要はある)
 
カミーユは完全に消耗戦の様相を呈している戦場で、どうにかして戦いを止めようかと考えを廻らせていた。先程から頭痛が続いている。
 
(デュランダル議長はメサイヤ……!)
《カミーユ》
「ハイネ?」
 
頭の中に聞こえてきたのは再びハイネの声。カミーユの力は、広がりを見せていた。
 
《デュランダル議長はアイツに任せろ。それよりも、もう一人……》
「居るんだな、ハイネ?」
 
戦争をするからには相手がいる。デュランダル一人だけの意思だけでここまで戦争が激化しない事をハイネは伝えたかった。
 
《この先に……!》
 
「は……!?」
 
エターナルはアークエンジェル援護のため、前線へと進撃してきた。
ボロボロになっているアークエンジェルを見つめ、ブリッジは息を呑む。ここまで深手を負ったアークエンジェルは記憶に無かった。
不沈艦の二つ名で呼ばれる大天使が、遂に最後の時を迎えるというのか、クルーの目には不吉ながらにそう映った。
ミネルバは既にその場には居ないが、どうやら相手は不敗神話を破るかも知れないほどの手練の戦艦だったらしい。
その中にあって、ラクスはカミーユがピンポイントで放ったプレッシャーを感じていた。
  
(どなたかがわたくしを監視している……?)
 
横目で周囲を見渡し、ラクスはそう思った。
 
「エターナルはアークエンジェルの楯になれ!」
「火線、当艦に集中しています!」
「敵も馬鹿じゃない、ラクス=クラインが乗っている事を知っているんだ!アークエンジェルの退避が終わったら、この宙域を抜けるぞ!この艦の足は速い!」
 
揺れるブリッジ。バルトフェルドの号令がかかる。
 
「よし、アークエンジェルは無事だな?エターナル、進路転進!一旦引くぞ!」
「はっ!…いえ、待ってください!後方から敵MSが追ってきます!」
「撃ち落せ!」
「識別……Ζガンダムです!」
「何!?」
 
Ζガンダムの出現にバルトフェルドは驚く。

「奴さんの方からお出でなすったか……やってもらえますか、ラクス=クライン?」
「……分かりました」
「了解です。ダコスタ君、チャンネルは…」
「合わせます……どうぞ」
「うむ…あー、聞こえるか、Ζガンダムのパイロット?」
 
Ζガンダムのコックピットの中で、突然の通信回線にカミーユは驚いた。
 
『こちらはエターナル艦長、アンドリュー=バルトフェルドだ。突然で申し訳ないが、君と話をしたい。どうだろう、この艦に来る気は無いか?』
「話……?」
『そうだ、君がステーション・ワンを破壊してくれたのだろう?ならば、こちらの言い分を聞く用意が君にあると我々は思っている。そちらとしても、納得がいく答えを知りたがっているのではないかね?』
「僕にそちらの言い分を聞けというのか……?何が目的だ?」
『それは君が直接彼女から聞くといい。どうする、少年?』
 
バルトフェルドの問い掛けにカミーユは少々考慮する。
 
(もう一人は中か…直接会えと言うんだな、ハイネ?)
「……分かった、着艦する」
『了解だ、誘導灯に従ってくれ』
 
バルトフェルドはインカムを外し、席を立つ。
 
「ダコスタ君、少しの間頼むぞ。僕はガイアで出る」
「はっ、お気をつけて」
「ラクス=クライン、後はあなた次第です」
「……」
「あと一息です。頑張りましょう!」
 
励ましているのか、尻を叩いているのか分からないが、バルトフェルドはそう言うとブリッジを後にする。ラクスはそれを無言で聞いていた。
 
「では、ラクス様、参りましょう」
「はい……」
 
数名のライフルを肩にかけた兵士がラクスの護衛に就く。そして、ブリッジを後にした。
 
格納庫にΖガンダムを入れ、出迎えの者がカミーユを案内する。
其処へ丁度バルトフェルドがパイロットスーツに着替えてやってきた。
 
「ん……?君がΖガンダムのパイロットか?」
「あなたは、艦長のバルトフェルドさん…ですね?」
「分かるかい?流石はその名を轟かせるザフトのエースパイロットだな」
「声が一緒なんですよ」
「何だ、そんな事か?僕はこれから一戦してくる。この艦は落とさせやしないから、君はゆっくり彼女の話を聞きたまえ」
 
バルトフェルドはそう言うと流れに身を任せてガイアのコックピットに向かう。
 
「ガイア、出すぞ!」

流れながらバルトフェルドは考える。噂どおりとすれば、普通のナチュラルであるカミーユが何故あれほどの力を出せたのか、気になっていた。
 
(彼もキラのような特別なコーディネイターか?…いや、単なる僕の嫉妬か……)
 
若い世代に、自分以上の力を持った者たちが次々と台頭してきている。そんな時代の流れに、さほど年を取ったつもりのないバルトフェルドは、既に自分が過ぎたる時代の人間なのではないのかと考えていた。
それ故、キラたちに全てを任せるという形で身を引こうとしていた。しかし、そこに力を持った若者に対する皮肉が混じってないとは言い切れない。
 
(この戦いが終わった時、どんな罰が僕に待っているのかねぇ……)
 
自嘲してコックピットシートに座る。
 
 
「こちらです」
 
出迎えの者に率いられ、カミーユは奥へ向かう。
 
(ここの連中は、一見普通だが何かに引っ張られている……いや、しがみ付いているのか……?)
 
連れて来られたのは会談用の少し大きな部屋。中にはまだ誰も居ない。
 
「誰が来るんです?」
「ラクス=クライン様です。到着までもう少しお待ち下さい」
「呼びつけておいて待たせるなんて、よっぽど我侭なんですね?」
「お止め下さい。ラクス様はその様な俗な方ではありません」
「どうだか……」
 
カミーユが愚痴を零していると、扉が開いた。二人の護衛に守られ、ラクスがカミーユの目の前に姿を現す。
 
「遅れて申し訳ありません……」
 
カミーユを一目見て、ラクスは先程感じたプレッシャーが彼のものだと直感した。
その顔はどこか神経質そうで、それでいて繊細さを併せ持っているような、複雑な印象を受ける。
キラとは違った優しさを感じたが、それはキラとは正反対に感じられた。睨みつける瞳は、カミーユがラクスを信用してない証拠だった。
 
「僕に何の用があって呼んだんです?」
「その前に、初めまして、わたくしはラクス=クラインと申します」
「知ってますよ、有名人なんだから」
「そうですか……あの、あなたの御名前を教えて頂けないでしょうか?」
「……カミーユ=ビダン」
 
カミーユはラクスに余り良い印象を持っていなかった。
それというのも、ここまで戦争が大きくなったのは単にデュランダルやジブリールだけのせいではなく、このラクスやオーブに残ったカガリのせいでもあると思っていたからだ。
しかし、初めて素のままのラクスと出会い、彼女に対する印象が変わった。

普通の人はラクスの事をカリスマ性の高い、例えるならば中世フランスの英雄、ジャンヌ=ダルクを髣髴とさせるような、皆の先頭に立つ指導者的なイメージを持つだろう。しかし、カミーユの感じた彼女の印象は、その周囲の期待に押し潰されそうな彼女の姿だった。
いくら周囲が認め、担ぎ上げた所でラクスはまだ少女である。表向きは達観したような素振りを見せるが、その内には普通の少女の一面を持っている。
それはキラにしか見せない、彼女の本音の部分だった。
 
「カミーユ様…ですか?とても優しいお名前なのですね?女性のような…」
「女の名前でも、僕が優しいとは限りませんよ」
「いえ、そういうわけではないのです。わたくしのあなたの印象がそう感じただけで、決してお名前の事を言っていたのではありません」
 
急に鋭くなるカミーユの目を警戒したのか、ラクスは内心慌ててフォローする。
カミーユは名前にコンプレックスを持っていた。グリプス戦役に巻き込まれるきっかけになったのも、その名前を馬鹿にされた事がそもそもの発端であった。
今ではそれ程気にする事は無くなったが、それでも初対面の相手にそういう事を言われると流石にちょっとはイラっと来る。
 
「言い訳すると、余計に本気に思えちゃいますよ」
 
容赦ないカミーユの一言が、場を凍りつかせる。
 
「お、落ち着いて下さい、ラクス様の御前です!」
「呼んだのはそちらでしょう?」
「止めてください」
 
御付がカミーユを窘めるのをラクスが制する。
 
「お気に触ったのでしたら謝ります。どうも、申し訳ありませんでした……」
「……」
 
ラクスは丁寧に頭を下げ、カミーユに謝罪する。
カミーユはそれを黙って見ていた。
 
「それで、僕に接触してきた理由を聞きたいですね」
「それは……」
 
応えてラクスは周囲を見渡す。何人かの護衛が一様にラクスに何かを迫っているように見えた。一つギュッと瞬きをし、本題に取り掛かる。
 
「あなたはこの戦争をどのようにお考えですか?」
「そんな事を聞くために、わざわざ僕をこの艦に呼び寄せたんですか?」
「いえ…そうではなく……わたくし達はデュランダル議長のデスティニープランを阻止する為に戦っています。その中で、あなたがステーション・ワンを破壊してくださったという報告をお聞きました。
それならば、わたくし達にあなたのお力をお貸し頂けるのではないかと思い、こうしてお話をする機会を設けさせて頂きました」
「僕を取り込もうって事ですか?それなら、始めからそう言えば良いじゃないですか。そうやって回りくどい言い回しをしなくても、今更僕達があなた方の目的を知らないわけではないでしょう」
「すみません、あなたにはわたくし達の目的を分かってもらおうと思っての事なのです……」

いつもと様子の違うラクスに、周囲の護衛達がコソコソと話している。その声を背に受け、ラクスは内心で辛かった。
また、あのような、何でも知っているかのような言い回しを要求されているのではないかと、追い詰められる。
しかし、ここで普段の自分を見せなければ、いままでやってきた事が無駄になってしまう。そう思って、ラクスは気を取り直してカミーユに語る。
 
「今、この世界はデュランダル議長の暴走の下、自由と夢を失いつつあります。それは、わたくし達の声があの方に届いていないという事……。運命というのは、自らの手で勝ち取るものです。デスティニープランは、それを放棄し、全てを機械に委ねる無機質な世界です。
……こうして戦ってしまった事、命を奪い合う事、それは、確かにわたくし達の罪なのかもしれません。ですが、戦わねば守れぬもの、救えぬものがあるからこそ、わたくし達は戦わねばならぬのです。
それは、果たして罪なのでしょうか、罰を受けねばならぬことなのでしょうか……その答えを、わたくし達と共に探して欲しいのです」
 
ラクスの言葉を聞いてカミーユは驚いていた。今までのラクスの言葉とはまるで違う、それどころか本当に彼女自身がしゃべった事なのかも疑ってしまう。
先程までの何かあれば謝っていた弱気な彼女の言葉ではないとカミーユは思った。
不思議に思いつつもカミーユも言葉を返す。
 
「命はこの宇宙を支える力です。確かにデュランダル議長のデスティニープランが人の心を大事にしない世界でも、あなた方の起こした戦いよりはマシです。あなた方は、主張が違うのを戦いで解決しようとしている。それは、命の力を悪戯に奪う行為以外の何物でもない!」
「確かにあなたの言う通りなのかもしれません。ですが、良く考えてみてください。デスティニープランに支配された世界に、人の人として生きる道は存在しません。それは、あなたの言う宇宙を支える力を奪う事と同じではないでしょうか?
わたくし達がやりたい事…それは人が自由に夢を見る為の未来を創る事です。人が人たらしめる未来の創造…これはあなたとわたくし達の目的が同じ、という事なのではないでしょうか?」
 
先程とは打って変って普段通りのラクスの言い回しに戻った事に、同室している護衛たちも安心の表情を浮かべている。その視線をひしひしと感じ、ラクスは内心で"違う"と呟き続けていた。
どうしてこんな事になってしまったのだろうか?
コーディネイターとして生まれてきた自身の出生を彼女は知らない。
父のシーゲルがどのようなコーディネイトを自分に施したのか分からないが、自分の言葉のはずなのに、まるで自分ではない言葉が次々と口から滝のように溢れてくる。止まらない。
 
「皆が手を取り合って笑顔で過ごせる世界…それは無理な事ではないはずです。わたくし達と共に戦って下さっている方々は、その事を分かってくださっています。ナチュラルもコーディネイターも関係有りません、志が同じであれば、こうして手を取り合えることが出来るのです。
……どうか、あなたのお力を、この世界の明日の為にお貸し頂けないでしょうか?」
「あなたは……」
 
その場に居た人々の中で、カミーユだけがラクスの本心に気付いていた。
目の前のラクスは穏やかな表情で語りかけてくる。しかし、それは上辺のもので、苦しんでいるラクスの顔が幻のようにカミーユの瞳に映る。
 
「人は自由に夢を見ることが出来ます。デスティニープランがそれを許さない世界なら、わたくし達はそれに抗います。人の自由というものは、誰かの手によって邪魔をされてはならないのです。あなたには、ここでわたくし達に手を貸す道もあれば、袂を分かつ事も出来ます。
それは、人に与えられた選択する自由です。もし、あなたがわたくし達を拒んでも、わたくしは何も言いません。しかし、あなたが決める道に、もし、自由がないのなら、わたくしはあなたを止めます。それもまた、わたくし達に与えられた自由なのですから……」
 
話していて、どんどん自分の言葉が薄っぺらになっていくのが、ラクス自身にも分かっていた。口を開けば開くほど、それは余計に自分の本心とは掛け離れていく。
しかし、それとは裏腹に、聞いている者の心は反比例するようにラクスのカリスマに惹かれていく。中には涙を流して聞き入っている者も居る。
それが、ラクスを苦しめる。

「さあ、あなたの心を聞かせて下さい。あなたのその瞳は、とても自由です。どのような答えを出そうと、わたくしはあなたを支持しま」
「もう止めてくれ……!」
 
ラクスの言葉を遮って、カミーユが声を出す。同室している護衛たちも驚いていたが、何より最も驚いた顔をしているのはラクスだった。
 
「今の君の言葉、本当に君の言葉なのか?僕には無理に声を振り絞っているようにしか聞こえなかった……」
「な、何を仰っているのです!?ラクス様は…!」
「あなた達も、本当に彼女がそう思っていると思っているんですか?どうしてもっと彼女の言葉を疑ってあげなかったんです!これでは、彼女はただの傀儡だ!」
「無礼な!ここを何処だと思っている!」
 
護衛達がカミーユにライフルを向ける。カミーユは身構えたが、この状況では流石に逃げ出せない。
 
「そうやって彼女を妄信しているから、余計に彼女を苦しめるんですよ!」
「ラクス様は間違ってなどおられない!現に二年前はその御言葉で世界を救っておられるのだぞ!」
「そうか…あなた方が彼女を苦しめているんですね!気持ちのいい言葉に身を委ね、それがあなた達の絶対正義となり、傲慢となって戦いを引き起こす……」
「何を言っているのだ!我々はラクス様の為に戦っているのだ!こうして賛同してくれる者達が居る事が、ラクス様達が正しいという証拠だ!」
「やはりそうだ…正しいだの何だの決める前に、自分達の事をしっかり見ていないから!」
「偉そうに!自分の状況が分かっているのか!」
「あなた達は皆そうだ!彼女の言葉を隠れ蓑に自分だけの正義を押し付ける!それが傲慢となって他人を家畜にすることしか考えられないんだ!」
「調子に乗るな!」
 
一人の兵士がライフルの柄でカミーユに殴りかかってきた。
 
「くっ!」
 
しかし、カミーユはそれをかわし、得意の空手チョップで気絶させる。
それに慌てた他数人が、一斉にカミーユに対してライフルの引鉄に指を添える。
 
「こいつ!」
「こんな事になって…結局あなた達は最初から従わなかったらこうするつもりだったんですね!」
「黙れ!お前が我等に従わないからだろう!」
「や、止めて下さい!」
 
大声が部屋に響き渡る。驚いてその声の主に振り向く。
 
「違うのです…これは、違うのです……」
 
沈痛な面持ちでラクスが声を振り絞る。

「何が違うんです?この状況は……」
「本当に申し訳ありません……来て頂いて恐縮なのですが、お引取り頂いて結構です……」
「ラクス様!?」
「お願いします、彼を…行かせてあげて下さい……」
「しかし……」
「お願いします……」
「……分かりました」
 
護衛達はライフルを下ろし、ドアを塞いでいた者はその道を開ける。
 
「……君は、本当はもっと普通の女の子なんじゃないのか……?」
「……」
 
去り際、カミーユの問い掛けにラクスは応えなかった。その表情を見つめ、カミーユは部屋を後にする。
 
「ラクス様……」
「すみません、戻ります……」
 
戸惑う護衛たちの視線に心を痛めながらも、ブリッジへと戻って行った。
 
一方、ミネルバはメサイヤの防衛の為に後退を続けていた。
目的地のメサイアは直ぐ其処である。しかし、どうにもメサイヤの様子がおかしかった。
 
「バート、どうなっている!」
「状況確認中…メサイヤが攻撃を受けています!」
「何!?」
「機種は…これはミーティアです!ストライクフリーダムがミーティアでメサイヤを攻撃しています!」
「何だって……!あの化物を…オーブはまた使ったのか……!」
「メサイヤ、ほぼ沈黙しています……」
「……メイリン、議長と連絡は……?」
「やっていますが、繋がりません……」
「どうなったというのだ…これは……」
「艦長、どうしますか?」
 
マリクがアーサーに訊ねる。
 
「……命令は命令だ。メサイヤ防衛の為にフリーダムを落とす……!」
「無茶です!こちらの武器は殆ど残っていないんですよ!?それでいて、相手は前大戦の英雄と称されたフリーダムです!我々が死にます!」
「ザフトの使命は…この時の為にある!総員退艦!ミネルバを、目標にぶつける!」
「な……!?」
 
ブリッジにどよめきが起こる。
 
「しかし、それではミネルバは目標には当てられません!」
「操作は自分がやる!皆は直ぐにランチで脱出をしなさい!」
「出来ません!艦長を置いて逃げるなど……!」
「そうは言っても、奴を見逃せばザフトは敗北する!」
「待ってください!艦長、艦長は折角艦長になれたのに、もう死ぬ気なんですか!?」

メイリンが立ち上がって叫ぶ。
 
「皆で生きる方を選びましょうよ!この艦には思い出も一杯詰まっているんですよ!?」
「少女の趣味には付き合えない!軍の仕事というのは、国を守る事だ!」
 
メイリンの意見をアーサーは一蹴した。
 
「艦長、私は付き合いますよ!このまま黙ってみてたんじゃ、ザフトの名折れですから!」
「私もです!仕事はきちんとこなす、それがデキル男ってもんでしょう!」
「二人が行くのなら私も行きますよ!かっこいい真似は艦長たちだけにはさせませんってね!」
「お…お前達……!」
 
アーサーは俯き、肩を震わせて感激に浸っている。不甲斐無いと思っていた自分に付き合ってくれると言うマリク、バート、チェンの心遣いが胸に沁みる。
 
「ちょ、ちょっと待って下さい!皆で死ぬんですか!?」
 
ブリッジの異様な雰囲気に気付き、メイリンが声を張り上げる。
 
「メイリン、君は他のクルーと脱出しなさい。女性の君にはこの決断は辛いだろう?」
「そ、そうじゃなくて……なんで皆そんなに死に急ぐんですか!?こんなの、絶対間違ってるじゃないですか!」
「メイリン、男は勝負時ってモノがあるんだよ。そして、その時が今なんだ」
「そうそう。ミーティア付きを落とすって言うね!」
 
バートとマリクが応える。
 
「女の子にゃ分からん事かもしれないけど、決める時は決めないとね!このままかっこ悪いまま居たくないのさ」
 
チェンが付け足すように言う。
そんな四人を見つめて、メイリンは深い絶望のような奇妙さを感じていた。
 
(違う…そんなものじゃない……!絶対に無駄死にだって分かっているのに特攻するなんて……!)
 
具体的な原因は分からなかったが、四人の精神状態が異常であることは何となく分かった。
この四人は決戦という舞台で異様なテンションに包まり、冷静な判断を下せないで居たのだ。それは、言い換えれば戦争の持つ魔力に惹かれていることなのかも知れない。敵は倒さねばならないという強迫観念に似た追い込みが、彼等を死に向かわせているのだ。
 
(皆…死神に取り憑かれている……!?)
 
メイリンにはそう見えたのかも知れない。しかし、ここで彼等を諦めるわけには行かなかった。彼女は全員で生き残る方を選択する。

「それ、絶対におかしいですよ!何で皆で生き残る選択をしないんですか!?ここで死んじゃったら…戦争が終わったって皆で笑い合えなくなっちゃうんですよ!」
「それで生き残った人々が笑ってくれれば我々軍人は良いのだ。軍というものはその為にあると言っても過言ではない」
「ですけど!無駄死にだって分かるじゃないですか!?どうひっくり返ったってフリーダムに傷ついたミネルバで勝つことは出来ないんです!」
「……フリーダムが強いという事はとっくに分かっている。しかし、少しでも可能性が残されているのならば、それに賭けるのが我々のすべき事なのだよ……」
「そんな可能性に賭けたって、無駄死になら誰も笑ってくれません!寧ろ悲しむ人が増えるだけです!」
「……!」
「皆にも家族が、恋人が居るんです!それなのにこんな無謀な作戦で散っていったら…悲しいだけじゃないですか!?」
「メイリン……」
「そうなれば…艦長の笑ってくれる人の為の軍なんて成り立たないです!」
 
メイリンの怒涛の説得に四人は顔を落とす。心に染み入るものがあったのだろう。
アーサーは艦長になったばかりで、初めて背負った重荷に焦っていた。無謀と知りつつも、一種のトリップ状態に入っていたアーサーは冷静さを失っていたのだ。
 
「あの…私、やっぱりまだ死にたくないです……」
「チェン……」
「私も…このまま死にたくありません……」
「バート……」
「私もです……。でも、それでアーサー艦長を見捨てる事なんて出来ません……」
「マリク……」
 
メイリンの言葉に心を動かされた三人が次々に意見を覆していく。気持ちを落ち着け、冷静に考え直してみた結果だった。
 
「艦長…やっぱり皆で生き残る道を選びましょうよ……。タリア艦長だってきっとそっちの道を選んだんだと思うんです……」
「メイリン……」
 
アーサーはそんな皆からの言葉を聞いて考え込む。本来気弱な彼がここまで追い込まれた事は無かった。しかし、冷静になって考えてみれば、自分も死ぬ事が怖いことに気付く。
 
「……皆の意見は分かった。メイリン、繋がるまでメサイヤとのコンタクトはとり続けなさい」
「艦長……」
「ミネルバ目的変更だ。我々はこの戦場で生き残ることを最大の目標にするぞ!」
「ハイ!」
 
巨大な機動要塞が、たった一機の機動兵器に為すがままに破壊されていく。
大量のミサイル、数え切れないほどのビーム、そして、巨大なビームソードがメサイヤを取り巻いているバリアリングを切り裂く。
圧倒的な光景を前に、アーサーは、自分が何て無謀な事を口にしたのだろうと反省する。艦長たる者、最後まで自分の艦とクルーは守らねばならんと思った。

『マッド主任、出して頂戴』
「ですが…メサイヤには化け物が取り付いています。今出たら辿り着く前に落とされちまいますよ!」
『大丈夫よ、出して』
「知りませんよ!?」
『ごめんなさいね……』
 
ミネルバからタリアを乗せたランチが出てくる。キラはそれに気付いていたが、無抵抗な相手に向ける銃を彼は持っていない。
そのままメサイヤの機能が停止するまで攻撃を続ける。
 
 
「…ん?Ζガンダムが出てきた……こちらの味方になるのかな?」
 
バルトフェルドはエターナルから出てきたΖガンダムを見て、会談が終わった事を知る。
 
『少年、僕達の味方になってくれるのかな?』
「……」
『そうか、それは残念だ』
 
そういってビームライフルをΖガンダムに向ける。応えないカミーユに、バルトフェルドはラクスの説得が失敗に終わった事を暗に了解する。
 
『君がザフトに味方するのなら、ここで落とさせてもらうが、そうでないならば見逃してやる。君と僕達の目的は同じはずだからな』
「僕はどちらにも付きません。ただ、あの人にこれ以上負担を掛けない方が良いですよ、相当無理しているみたいだから」
『無理……?』
「こんなお飾りの戦艦に乗っているから……!」
 
そう言い捨てると、Ζガンダムはウェイブライダーに変形して飛び去っていった。
 
『……ガイア、戻るぞ!』
 
カミーユの言葉に引っかかるものを感じながら、バルトフェルドはエターナルに帰還する。
 
(彼女は苦しんでいた……それは、彼女を慕う人たちが彼女に過剰な期待を寄せていたからだ……。人は、あそこまで誰かに依存するものなのか?)
 
思いながらカミーユは戦場の気配を探る。
 
(……悪意が、拡がっていく……?これは、既に誰のものでもない、戦争が狂わせた人の心そのものだ……!)
 
カミーユの意識が解放されていく。それはサイコフレームに残された男の記憶だったのかもしれない。
カミーユの意識の中に、知った声が聞こえてきた……

《……カミーユ、君はこの戦場で希望を見出せるのか?》
(……!)
《この現状を見て、君はそれでも愚かな争いを続ける人類を信じられるのか?》
(……信じます!)
《何故そう信じられる?醜い争いをするだけの人類に、何の意味がある?互いを殺す事しか知らぬのだぞ?》
(それが、ニュータイプの力だからです!)
《そのニュータイプも、結局は戦いに利用されるだけだ。結果、君はその重さに耐えられずに押し潰されてしまったではないか?》
(けど、僕は戻ってこれました。あなたこそ、あれ程人類の革新を信じていたあなたが、何故そう言えるんです!?僕は、あなたを信じたからこそ、あの戦争を戦ったというのに!)
《……地球の重力に魂を引かれた人間どもは、その後全く変わることはなかった……そんな人類に、私は嫌気がさしたのだ》
(それがあなたの出した答えなら……!)
《どうすると言うのだ?》
(僕はあなたを否定して見せます!人間の力を…この宇宙を支えている力を!)
《……》
(それを、あなたが見た夢を、僕が実現させて見せます!)
 
ウェイブライダーが再び光を纏う。同時にカミーユの力を拡大、拡散するようにサイコフレームの光が粉のように飛び散っていく。
 
「僕に出来る事は…ステラ!?…そうか、シンのところに……!」
 
変形を解き、意識を集中させる。
 
「届けよ!」
 
Ζガンダムから解き放たれるサイコフレームの光の一部が、纏まって何処かへ流されていく。カミーユに届いた想いと共に……
 
 
「く…うぅ……く……!」
 
全身を駆け巡る痛みにシンは苦しむ。凶暴なまでのデスティニーの機動性はシンの体をズタズタにし、神経を汚染する。
そんな苦しみにシンは挫けそうになっていた。
キラにレイを殺され、ステラまでも彼の手にかかって目の前で散っていった。
そんな現実に、シンはこれ以上抗う気持ちを削がれてしまった。
 
「こ…こんな世界なら……こんな世界なら俺には……」
 
独り言を呟いても応えてくれる人は誰も居ない。
弱音を吐いても助けてくれる人は誰も居ない。
孤独の中でシンは行き場の無い不満を誰にもぶつける事が出来ずに愚痴を零すだけである。
戦争を終わらせ、世界に平和を取り戻すと言うシンの目標はそんな彼の心と共に砂山を崩すように打ち砕かれようとしていた。

「ステ…ラ……」
 
戦争の中で見つけられた大切な人の名を呟く。もう居ないと分かっていても、語りかけて欲しかった。
彼女の純粋な眼差しが、シンにとって最大の癒しだったのかもしれない。
 
苦痛がいつしかシンを夢でも現実でもない意識の狭間に放り込む。そこは苦痛が存在しない心地よい世界だった。周りに誰も居ないのに、孤独がシンの心の隙間を埋めるようだった。
そんな居心地のよさに、シンは居場所を見つけた気分になっていた。
 
《シン……》
 
誰も居ない事は誰にも気を遣わなくても良いと言う事。現実のように人と人との繋がりがない分、シンはそこで何もしても良いと言う安心をえられる。
何も無いのに、何もかもがシンの自由になる世界だった。
 
《シン……》
 
そこでシンは何もしないという選択をした。何もかもが自由なら、何もしないということもシンの自由だった。体を、と言っても意識だけだが、漂う中に委ね、目を閉じて後は何もしないように心に決める。
シンは現実から目を逸らし、都合の良い世界に逃げ込んだのだ。
 
《シン……》
 
気持ちがとても落ち着いていた。それで安心を覚えられる分、現実でがむしゃらにやっていた自分の行動がやけに馬鹿らしく思えた。
全ては無駄だったのだと認識する。
こうして何もしないことのどれだけ心地よい事か、シンは今までの自分の行動を反省した。そして、まどろむ意識を無意識の中に放り込む。
 
《シン……》
 
何も聞こえない、誰も呼んでいないと言い聞かせ、シンは表情を少しだけ安らげてみた。先程から小突くように何かが聞こえるが、何かをすることが無駄だと知っているシンは気のせいだと思い込んで無視を決め込む。
孤独を愛し、孤独と共に流れていようという意識がシンを更に深い闇の中へ引きずり込む。
 
《……》
 
何も聞こえなくなった。
そう思うと、シンは更なる安心を覚えた。これでもう心配は無い、そう思うと、急に眠くなってきた気がした。
 
しかし、そう思ったのも束の間、不意にシンの唇に誰かの唇が触れた感触がした。
夢でも現実でもない世界なのに、その感触が酷く現実を思わせる。
思わずシンは目を開いてしまった。
 
(……)
《シン…ステラを一人にしないで……》
 
誰も居ない筈なのに、全てがシンの思い通りになる世界なのに、目の前にはステラが居た。

《シン…ここで諦めないで……。ステラに明日を頂戴……》
(……)
 
驚きでシンは何も話すことが出来ない。ステラが何を言っているのか理解できなかった。
 
《シンはステラに昨日をくれた……》
(ステラ……)
 
やっとの事で口にすることが出来たのは意味の無い呼びかけだった。そんなシンの放心した言葉にも、ステラは微笑んでシンを見つめてくれている。
 
《シンはステラを明日に連れてってくれる……》
(駄目だよステラ…俺にはもう……)
 
段々と蘇ってくる意識の中、シンはステラに弱音を吐く。自分にはもう力は残っていないと思っていた。
 
《シン…シンがステラに昨日をくれた時、ステラとっても嬉しかったの…シンがステラに明日を与えてくれた時もステラは嬉しかったの……》
(ステラ…もう俺はステラに何もして上げられないんだよ……全部、無駄だったんだ……)
《ううん、違う。シンはまだ出来るよ》
(何言って……)
 
ステラが言う事をシンは理解できない。キラに負け、目の前で彼女を失ったのに、シンはこれ以上何が出来るのだと思った。シンにとって、ステラの言う事にどれだけの価値があるのかと疑ってしまった。
しかし、それでもステラは語りかけてくる。それが、シンにとって鬱陶しく感じてしまった。
 
(俺にはもう何も出来ない……!ステラだって守れなかったんだぞ……!)
《ううん、シンはまだ出来る……》
(何が!?)
 
思わず声を荒げてしまった。そんなシンの態度にもステラは優しく微笑んで言葉を紡ぐだけだった。
 
《シンにはまだ翼が残っているもの…空は飛べないけど、ステラを一緒に連れてってくれる翼があるもの……》
(翼……?)
《翼が残っている限りシンは飛べる……だから、飛んで。飛んで、ステラを迎えに来てまた明日を頂戴……》
 
ステラの姿が遠くなっていく。
 
(ま、待ってくれステラ!飛べるって…ステラ!?)
 
懸命に腕を伸ばしたが、ステラの姿を捕える事は出来なかった。
シンの意識はそこで切り替わる……
 
月面に放置されたデスティニーのコックピットの中、シンは静かに我を取り戻す。
モニターは死んでいない。機能も正常に作動している。
シンは、何処までが現実で、何処までが夢なのかが分からない。段々慣れてくる目をこすり、周囲を見渡す。

「夢じゃ…無かったのか……でも……」
 
モニターの端っこに映るインパルスのフォースシルエットのバックパック。それが、先程のインパルスの爆発が嘘で無かった事を証明している。
しかし、先程の幻覚がどうしても単なる幻覚に思えなかった。
 
「う……!」
 
ズキン、と頭に痛みが奔る。
ふと気付くと、右目が殆ど見えていない。メットのバイザーが割れ、額に傷を負って其処から流れた血が目の中に入ってしまったのだ。
シンはそれに気付くと、手で目を擦る。何とか視界は確保できるようだ。
しかし、負担を掛け続けた体は姿勢を変えるのも憚れる程痛んでいた。操縦桿を握ろうにも力が入らないし、腕も思うように伸ばせない。
 
「ぐ…くそ……!」
 
何とか操縦しようとするが、バランスの悪くなったデスティニーでは立ち上がる事もままならない。これではキラに挑んでも、返り討ちにされるだけだろう。それどころか、彼の下へ辿り着けるかも怪しい。
シンの気持ちは折れかけていた。苦しい表情で、上を見上げる。
 
《翼が残っている限りシンは飛べる……》
 
瞬間シンは目を見開き、デスティニーのメインスラスターから光の翼が伸びる。
 
「そうだ…俺にはまだ翼がある……!空は飛べなくても、アイツには追いつける!」
 
デスティニーのデュアルアイが煌き、デスティニーは何処へすっ飛んでいくか分からない乱暴な機動で月面を離れる。その動きにかつての残像を残すような鋭さは無いが、それでもシンはフリーダムが居るであろうメサイヤへ向かう。
後は、キラを倒すだけである。
 
「メサイヤ…ボロボロだ……!」
 
シンの見つめる先の機動要塞は、所々から火を噴き、滴る血の様に煙を垂れ流していた。
 
「あそこに…居るな……!」
 
暗いトリコロールカラーのデスティニーは宇宙の黒に吸い込まれ、遠めからではその姿を確認する事は難しい。特徴的な光の翼だけがその存在を主張するように、あたかも蝶のように舞って行った……