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Z-Seed_カミーユ In C.E. 73 ◆x/lz6TqR1w氏_第54話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 12:49:13

第五十四話「シンとカミーユ」

メサイアを脱出を急ぐキラとアスラン。キラはアスランの横顔に言い知れぬ不安を覚えていた。
 
「俺のジャスティスはこっちだ、ここで別れよう」
「待って!…アスラン、君は……」
「…話は後だ。今は二人で無事に脱出する事が先決だ」
 
キラの話を振り切るようにアスランは走り去った。
 
「アスラン……」
 
その後姿を見つめ、直ぐにまた走り出す。ストライクフリーダムの下に辿り着き、素早く乗り込んだ。
 
 
言う事を聞かない体を何とか動かし、デスティニーの下へと辿り着けたシンはそれに乗り込む。
メサイアを脱出した時、今までデスティニーを放置していた格納庫から火が吹き出る。
 
「危なかった……!でも……」
 
シンはデュランダルとタリアを置いて来てしまった事に懸念を抱く。本当にあれで良かったのかと自問する。
 
「でも、キラ=ヤマト…アイツはこのままにして置いちゃいけないって事は分かる……!」
 
キラは一度徹底的に負けなければならないとシンは思っていた。デュランダルが言っていた争いを呼ぶ存在、彼自身にその自覚が無いにしても、やっている事は正にその通りである。
しかも、無邪気な分余計に質が悪い。このまま勝たせたままで居れば、きっとまた同じ事を繰り返すだろうと思った。
だから自分はキラを倒す。それを自らの運命と受け止め、使命感を燃え上がらせる。そして、それが自分の最後の仕事となるであろうと覚悟していた。
 
「…ん?あれ!」
 
その時、一筋のバーニアの光が凄まじいスピードで猛進するのが見えた。シンはそれが自分の獲物であると確信する。
 
「あれだな!」
 
最早殆どの戦力が活動を停止している今、あれだけの動きが出来るMSは一機しかいないと思った。
 
「ここから…狙えるか……!」
 
ミーティア装備のストライクフリーダム相手では、見つけられたら今のデスティニーではお終いである。
故に、シンは肉眼で確認できる位置から、バーニアの光を頼りに射程距離ギリギリのところからのマニュアル狙撃を敢行する。
残されたのはデスティニーの砲撃武器の中で最強の高エネルギー砲。シンの集中力が高まっていく。光の尾が動く度に、細かい位置の修正を行いながら、コンマ数ミリの照準の修正をする。
 
「……く!」
 
しかし、容易ではない。震える腕では中々照準が定まらなかった。
このままでは逃げられてしまう。

《よく狙え》
「……?」
 
シンが根気を絞って照準を合わせていると、誰かの手が自分の手に添えられているような感じがした。そして、不思議な事にその感覚がした途端に震えが止まり、いい所に照準が合う。
 
《今だ、シン》
「行けぇっ!」
 
デスティニーの高エネルギー砲が火を噴き、光の尾の先端に向かって一直線にとんでいく。
光の尾は高エネルギー砲の狙った地点で止まり、やがて爆発の閃光らしき光の中から新たな光の尾が出てきた。
 
「あれは…やったのか!?」
 
それを確認する為、デスティニーはストライクフリーダムの下へ向かう。
 
 
「くぅ!」
 
ストライクフリーダムはビームシールドを構え、ミーティアの爆発から身を守っていた。
完全にレーダーの効果範囲外からの攻撃だった。その攻撃を、キラは避けられなかった。
 
「こんな距離で…誰かがまだ僕を狙っている……!アスランは!?」
 
こんな攻撃を何度もされたら堪ったものではない。いくらキラと言えども、何処から来るか分からない攻撃をいつまでも避け続けることは出来ない。
その上、先程のバルトフェルドの言葉を考えるとアスランの方も気になる。
 
「元を断たなきゃ……」
 
射線の方向に向かおうと機体を動かそうとした時、レーダーの反応に一機のMSの反応が表示される。
 
「こ、これは……デスティニー……」
 
キラは言い知れぬ恐怖を感じた。何度突き放しても必ず追いすがってくるシンの執念は、確実にキラの精神を追い詰めていっていた。
 
「見つけた……!これが…最後だ、フリーダム!」
『君は何だってそんな……!』
 
右腕と左足を失ったデスティニーが向かって来る。その動きに最早切れはない。
 
『君は、まだ戦うつもりなのか!?』
「あんたは負けるんだ…この俺に、シン=アスカに!」
 
キラの目にはデスティニーにはもうまともな戦闘能力は無いように見えた。
しかし、最後の力を一滴まで振り絞るシンのデスティニーは、まだ死んだわけではなかった。僅かに残された力を遠慮なく解放し、勢い良く展開された光の翼は、デスティニーがまだ飛べる証拠だった。
デスティニーのデュアルアイが光り、いつもの機動性が復活する。
そして、既にデッドウェイトでしかない高エネルギー砲をパージし、デスティニーが突っ込んでくる。

「行くぞ、フリーダム!」
『まだこんな動きが出来るなんて……!』
 
シンが高エネルギー砲を外したのは、接近戦こそがシンの真骨頂だったからだ。
その為、遠距離砲撃用の高エネルギー砲は不必要なものだった。
シンは、攻撃はパルマフィオキーナ、防御も同じ左腕のビームシールドでストライクフリーダムと戦う事になる。
対するストライクフリーダムには未だ豊富な武装が残されている。
この勝負は、デスティニーがストライクフリーダムに接近できるか否かがポイントだった。
 
「ぐっ…ううぅぅぅ!」
 
シンの体が痛みを通り越して感覚を失いつつある。それは即ち神経が麻痺し始めているという事だった。操縦桿を握る手にも力が抜けていくのが分かる。
しかし、それでも止める訳にはいかないシンは意識だけはしっかり保ってストライクフリーダムに接近する。
 
『止めないと!』
「しゃらくさい!」
 
ストライクフリーダムのビームライフルがデスティニーに向かって放たれる。
しかし、デスティニーは残像を残してかわし、側まで接近するとストライクフリーダムのビームライフルを握り締めてパルマフィオキーナで破壊する。
 
『チッ!?』
 
直ぐにキラはもう一丁のビームライフルでデスティニーを狙ったが、其処に既にデスティニーの姿は無く、反対からデスティニーがストライクフリーダムの左腕ごとビームライフルを破壊する。
 
『なっ……!?デスティニーの動き…こんな事も出来るのか!?』
「くっ…はぁっ!」
 
苦しむシンは一旦ストライクフリーダムから距離を開ける。
一番怖いビームライフルを壊してしまえば、後はレールガンと正面にしか撃てないカリドゥスだけである。
 
『なら、これで!』
 
ストライクフリーダムが残った腕にビームサーベルを握らせて突撃してくる。
デスティニーを牽制する為か、レールガンを連射してデスティニーの方から近寄ってこれないようにする。
デスティニーとしてはレールガンなら当っても大した事は無いのだが、パイロットのシンの体は既に限界を超えている。デスティニーは無事でも、シンは無事では済まないのだ。
 
《当るなよ》
「分かってる!」
 
レールガンをかわすだけでデスティニーは態勢を整える事は出来ない。
そうこうしている内に、ストライクフリーダムがビームサーベルを振り上げて襲ってくる。

『これで…終わりだぁ!』
「まだ終わるかぁ!」
 
デスティニーはビームシールドでストライクフリーダムのビームサーベルを受け止める。
しかし、キラの目的はビームサーベルでの攻撃ではなかった。ビームシールドでデスティニーが防いでいる今、デスティニーはカリドゥスの恰好の的なのだ。
レイを葬ったビームが、今度はシンに牙を剥く。
 
《フリーダムの腹に気をつけろ》
「は……!」
 
しかし、それに間一髪で気付けたシンはデスティニーを後方回転させるように蹴りをストライクフリーダムの股間に放つ。
 
『なッ!?』
 
蹴り上げられたストライクフリーダムはデスティニーに対して垂直に上向きになり、カリドゥスが虚空に空しく光の筋を伸ばす。
一方のデスティニーはバランスを崩し、そのまま後ろに回転しながらもがいていた。片脚だけでは態勢を整えるのもままならない。
 
「くっ…デスティニー、もう少し頑張ってくれ!」
 
背中のバーニアスラスターの光の翼が四輪者のスピン中のトランクションを稼ぐ時のアクセルの開け方と同じ様に一回小さくなって直ぐにもとの大きさに戻る。
そうしてやっとデスティニーは態勢を整える事が出来た。
しかし、直ぐ前にストライクフリーダムが接近してきていた。
 
《来ているぞ!》
「うわっ!?」
『もらったぁ!』
 
横から薙ぐストライクフリーダムのビームサーベルのモーション。デスティニーはバックステップでそれを辛うじてかわす。
ストライクフリーダムは更に追い討ちでビームサーベルを振りかぶって襲い掛かってくる。
しかし、デスティニーは振りかぶるストライクフリーダムの腕を下から突き上げる形で掴み、パルマフィオキーナで握りつぶす。
 
『くそぅ!』
 
ストライクフリーダムはデスティニーを正面から外さないようにバックで離脱し、追いかけてこないようにレールガンを二連射してカリドゥスを放つ。
ストライクフリーダムは両腕を失い、状況は最早五分五分である。後はどちらの気力が勝るかで勝負が決まる。
 
「今度こそ、本当に最後だ…ステラ…レイ……!」
『ラクス……!』

睨み合う両者。先に動いたのはデスティニーだった。
 
『来た!』
 
レールガンで牽制の砲撃を繰り返すが、デスティニーは突進しながら残像を繰り出して全てかわす。そのままストライクフリーダムに手が届く距離まで間合いを詰め、パルマフィオキーナを伸ばす。
対して、一気に正面まで詰められたストライクフリーダムはカリドゥスにエネルギーが集中する。
 
「これでぇ…ラストォォォォォォっ!」
『ラクスっ……!』
 
同時に放たれる両者の最後の力……
 
 
シンとキラが激突している頃、メサイアを脱出したアスランは脚部を失ったインフィニットジャスティスでミネルバを発見していた。
ミネルバは殆ど半壊状態で、戦艦としての機能をほぼ停止している。味方の援護を待っているのだろうか。
 
「……見つけてしまった以上、見逃す気は無いな……」
 
冷たく言い捨てるアスラン。
 
 
そして、ミネルバのブリッジではアーサーがランチでの退艦をクルーに伝達していた。最早ミネルバはその機能を殆ど失い、モニターの画像も大半が映らなくなっていた。無念であるアーサーだが、艦長の務めとしてクルーを無事に脱出させようとする。
しかし、その時ミネルバを大きな振動が襲った。
 
「な…何事だ!?…バート!」
「駄目です、レーダーは既に死んでいます!」
「船体状況は!?」
「辛うじて生きています!……ブースターのノズルをやられたみたいです!」
「な、何だって!?それじゃあ……」
「下手すれば船体が爆発します!」
「い…急げ!クルーの避難を急がせろ!」
 
後方から爆炎を上げるミネルバの影に、脚の無いインフィニットジャスティスの姿が浮かび上がる。ミネルバを攻撃したのはアスランだった。
最後に残されたファトゥム01を飛ばし、ミネルバのブースターノズルを破壊した。
 
「くっそぉ……!ルナマリア、ランチの発進は出来そうか!?」
「出来るわ!早くみんなを乗せて!」
「やっているがな…アーサー艦長、早く!」
「まだ医務室の連中が来ていない!」
「何やってんだ、医者の先生方は……!」
 
苛立ちを募らせるマッドは時計に目をやって愚痴を零す。
 
「この爆発の規模じゃ…もってあと五分だな……」
「来た!来ましたよ、親方!」
「何!?」
 
ヴィーノがMSデッキの入り口を指差して叫ぶ。マッドが視線を移すと、救急箱を抱えた医師達が慌てて無重力を流れてくる。

「何やってたんです、先生方!?」
「怪我人が居るといけないからな、最低限の道具は確保しておきたかった」
「ったく、早く乗り込んで下さい!」
「よし来た!」
 
乗り込もうとするが、最後尾の助手が言葉を挟む。
 
「待って下さい!あと一人来るんです!」
「なぁにぃ!?」
「ステラの薬を持っている…」
「何処にだ!?」
「直ぐ後ろに居たはずなんですが…途中ではぐれてしまって……」
「ちっ……!」
 
マッドはMSデッキの出口に向かう。
 
「あ…!親方、何処行くんですか!?」
「ちょっと捜してくる!四分経って帰って来なかったら俺に構わずに出せ!」
「え……ちょ、ちょっと待ってくださいよ!俺達も行きます!」
「馬鹿たれ!俺一人で十分だ!足手纏いなんか要るかよ!」
「け、けど親方!」
「いいな、四分だぞ!それ以上は絶対に待つな!」
「お、親方ぁ!?」
 
マッドはそう告げると残りの一人を捜しに戻っていく。
 
「くそったれ…これで逃げ損なったら化けて出てやる……!」
 
文句を言いながら通路を進む。
 
「ん……?あれか……?」
 
崩れた通路の真ん中で残骸に脚を挟まれているノーマルスーツが見える。
 
「おい、大丈夫か!」
「う…マッドさん……?お、お願いします、この薬を、あの子に届けてやって下さい!」
「馬鹿野郎!薬なんぞ後でいくらでも精製できるだろうが!」
「ち、違うんです!これが無いと、ステラの薬は二度と精製できないんです!」
「なっ……!?どういうこった!?」
「薬のデータはミネルバのコンピューターの中にしかないんです……!エクステンデットの薬だからザフトには要らないって研究所の連中が……」
「マッドサイエンティストめ……!研究資料にしか興味ないってのか!」
 
マッドは歯噛みして眉に皺を寄せる。
 
「だからお願いです!この薬だけでも!」
「俺がお前さんを見捨てると思うか?ほれ、引っ張ってやっからお前さんも力入れろ!」
「す…すみません……」

思ったより近くで発見できてマッドは胸を撫で下ろしていた。
しかし、意外ときつく挟まれているようで、中々引っ張り出せない。
 
「ふぐぐ……お前さん、それで精一杯か……?」
「は、はい……!」
「くぬおおぉぉぉ……!現場の底力……こんなもんじゃねええぇぇ!」
 
気合一発、マッドが叫んで力を込めると、助手の体がすっぽりと抜ける。助手はそのままマッドの上を流れ、天井に叩きつけられる。
体感時間では残り一分半も無いはずである。急ぎランチへ向かおうとしたその時……
 
「何だとぉ!?」
 
助手が抜けたことでバランスを崩した残骸がマッドを襲う。
 
「マッドさん!」
 
今度はマッドが残骸に押し潰されてしまった。助手の時とは違い、マッドに覆いかぶさった残骸は彼の下半身を完全に覆ってしまっている。
 
「い、今助けます!」
「待て、お前は行け!」
 
マッドは叫ぶ。
残り時間からすれば、ここまで来た時間を考えるとギリギリである。
 
「し、しかし、マッドさんを残して私だけ行くのは……」
「てめえのその手に持った袋は何だ!?それは人の命を救うものだろうが!」
「そんな事を言っても…私はここでマッドさんを見捨てるなんて……」
「俺より若い奴が苦しんでんだ!未来に繋がる若い奴が!そいつを助けんのがてめえの使命だろうが!俺みたいな老いぼれに構うな、行け!」
「で、ですが……」
「時間がねぇッつってんだよ!ここで行かなかったら、死んでもてめえを許さねぇぞ!」
「く…うわぁぁぁぁぁ!」
 
絶叫を上げて助手は背を向けて去っていく。
その背中を、マッドは親指を立てて笑顔で見送っていた。
 
 
「時間は!?」
「後十秒ほどです!」
「まだか…マッド主任は……!」
 
アーサーが時計に目を向けて呟く。
 
「あっ!来ました!」
「何?よし、ルナマリア、脱出を始めなさい!マリクはロープ!」
「はっ!」
 
ランチのドアからマリクがロープを投げ出す。助手はそれに捕まり、ランチに引きずり込まれる。

「……?マッド主任は?」
「……行って下さい、マッドさんの意思です……」
 
焦燥しきった表情で助手は呟く。バイザーの向こうでは水の球が飛び散っていた。
 
「まさか……」
「そんな、親方……!?」
「時間一杯です、どうするんですか、艦長!?」
 
バートからの問い掛けにアーサーは目を閉じて考える。
マッドのあの性格である、ここで行かなければ冗談抜きで祟るかも知れない。
そして、それがマッドが命を懸けた願いであるならば、アーサーはそれに応えるのが彼の意思に報いる行為であると思い、決心する。
 
「よし、脱出だ!」
「りょ、了解です!」
 
ミネルバのハッチからクルーを乗せたランチが飛び出す。
 
 
残骸に挟まれ、マッドは近くの穴からランチが出てきたのを確認する。
 
「ヨウラン、ヴィーノ…良い整備士になれよ……」
 
呟いてマッドは気付く。
 
「……もう五分、とっくに過ぎてんな……。へへっ…俺の腕もまだま…」
 
言いかけた所でマッドを爆風が襲い、その姿を隠した。
遂にミネルバが爆発を始めたのだ。ランチの窓からその様子を見つめるクルー一同は、沈み行くミネルバを沈痛な面持ちで見つめていた。
 
「あぁ…俺達の家が……」
「ミネルバが…死んじゃう……」
「マッド主任…何で……」
「こんな事って……」
「全員、整列!」
 
それぞれが思い思いに悲しみを口にする中、震える声でアーサーが号令をかける。
 
「一同、ここまで我々と共に戦った戦艦ミネルバと、偉大な整備士、マッドに対して……敬礼……!」
 
皮肉にもミネルバの爆発は一番綺麗だった。ミネルバに搭載されたどんな武装よりも、撃沈の光が一番綺麗だった。
 
「…ん?これは……」
 
ヨウランがふとランチの通路に漂っている物体を見つけた。
 
「ヨウラン……?…それは!」

ヨウランに気付き、ヴィーノが目を丸くする。
 
「これ…親方の……」
「親方…置いてったんだ……」
 
それはマッドがいつも吸っていた煙草と携帯灰皿。
 
《お前等にゃあまだ早えが、いつか俺の煙草に似合うイカすメカニックマンになって見せろや……》
「親方……!」
「親方ぁ!」
 
一番親しかった整備士達にだけ聞こえた声。
ヨウランとヴィーノは崩れ行くミネルバを見つめ、涙が止まらなかった……
 
 
そして、ミネルバから離脱するランチをインフィニットジャスティスが見つめている。
 
《上だ、ルナマリア……》
「上…ハイネ!?……あれは、アスラン……!?」
 
ファトゥム01を失い、脚部も喪失しているインフィニットジャスティスだったが、体当たりをすれば貧弱なランチ位は破壊できるし、現にギリギリその力が残されていた。
 
『…れを操縦して……は…ルナ……アか……?』
「アスラン……!」
 
ノイズが多くて聞き取り辛いが、その声がはっきりアスランのものであるとルナマリアには分かった。
 
『そうか…つくづく縁があると……ないか、…たち……?』
「あんた…まさか……」
『俺と……に死んでくれないか、……マリア……?』
「くぅっ!」
 
インフィニットジャスティスがランチに突っ込んで来る。ルナマリアは急に荒く動かし、クルー達がランチの通路でごった返す。
 
「な、何事だ、ルナマリア!?」
「か、艦長、あれを!」
「んん!?あれはジャスティス!?」
 
接近してくるインフィニットジャスティスを確認できる。
 
「あんたなんかと…皆と一緒に心中させてたまるかぁ!」
《アイツが直ぐに来る、それまで頑張れるな?》
「当然!」
《それでこそミネルバの赤服だぜ!》
 
しかし、強がって見せたところで、機動性の無いランチではインフィニットジャスティスから逃げ切れない。その距離はどんどん迫ってきていた。

「まだなの、ハイネ!?」
《よくやった、来るぞ!》
 
眼前に迫る鶏冠のMS。ランチに乗っていた全員が覚悟した…その時だった。
 
《空しさを撒き散らすな、アスラン!》
「!?」
 
アスランの頭の中にカミーユの声が響く。
 
「ど…何処なんだ!?……後ろ!?」
 
アスランはΖガンダムの接近に気付き、後ろに振り返る。すると、ウェイブライダーから変形途中のΖガンダムが寸前まで迫っていた。
 
「カミーユ!」
『アスラン!』
 
Ζガンダムはそのままインフィニットジャスティスに組み付くと、頭部を掴んで引き千切る。アスランの正面のメインモニターがブツッと切れる。
 
『カミーユ!お前は……最後まで俺の前に立つのか!?』
「人の想いが渦巻く宇宙で…お前は!」
『お前なんかに何が分かる!?俺の…この空しさを埋める物は何も無い!』
「命が支える宇宙で何も感じられないのは、お前が人を拒絶しているからだ!それを…拒絶されたと勘違いしているお前だから、みんなお前から離れていくんだろ!?」
『うるさい!分かった振りして……!』
 
組み付くΖガンダムを振り解こうと腕を動かすインフィニットジャスティス。何とか引き剥がす事が出来たが、Ζガンダムはウェイブライダーに変形してインフィニットジャスティスに進路を取る。
 
『まだ来るか!』
「想い出に還れぇ!」
『うおぁ!?』
 
ウェイブライダーの先端がインフィニットジャスティスを突き飛ばす。それはパプティマス=シロッコ駆るジ・Oを貫いた一撃だったが、インフィニットジャスティスは突き破らなかった。
しかし、突き飛ばされたインフィニットジャスティスはそのまま爆発を続けるミネルバに向かっていく。
 
「ア…アスラン……」
《これでよかったんだよ、アイツは……そして、これからだ》
 
ハイネの慰めるような言葉に、ルナマリアは何とか納得しようとする。あんな事があったアスランだが、素直にこのような結果を喜べないのは、自分の言葉のせいで彼をあそこまで追い詰めたのではないかと思っていたからだった。

「くぅっ……!」
 
カミーユの体の中を何かが駆け抜けていく感じがし、思わず呻く。全てはカミーユを通して顕現する。

《アスラン……》
「……だ…れ……?」
《僕ですよ、アスラン》
「二コ…ル……」
 
目の前には淡いグリーンのクセッ毛の少年。そして、父が立っていた。
 
「父…上……?」
《お前はもう休め……》
《アスランはこのまま……》
「わ…私は、貴方と二コルの下へ逝ってもいいんですね……?」
 
涙を浮かべてアスランは微かに笑った。ずっと気にしていた二コルと、久しぶりに見た父の清々しい顔は、アスランが一番望んでいたものだったであろう。
しかし、そんなアスランの問い掛けに、二人はこぞって首を横に振った。
 
「何故……?」
《お前が母さんの下へ逝くのはまだ早い。お前はそっちで生きていかなければならぬ》
《それが、僕の願いでもあります、アスラン。僕は貴方が生きる為に……》
「そう…だったな、二コル……。ピアノ、楽しみにしているからな……」
《ええ、とびっきりの演奏をお聞かせしますよ》
《だから、お前はもう一度生き直し、それからこっちに来なさい》
「あぁ…優しさが見える……」
 
涙を流し、コックピットシートに体を預けるアスラン。その時に偶然に触れたボタンが、インフィニットジャスティスのビームシールドを展開させた。
 
ランチの操縦席からインフィニットジャスティスがミネルバの爆発に巻き込まれるのが見えた。その様子にルナマリアは何故か涙が止まらなかった。
 
ミネルバが一際大きく光り、その姿を残骸に変える。
吹き飛ぶ残骸の中に、インフィニットジャスティスの胴体部分がフェイズシフトの切れた灰銀の色をして何処かへと流されていく。